ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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自分は何処にいて、何をしているのだろう。

この胸の中にいる、君は誰?


Ep.71 歪んだ決意

 

 

 

 

 誰にどう思われても構わないと、そう思っていた。

 けれどいつしか、認めて欲しいと、そう願うようになっていた。

 

 ここに居て良い、お前はここに存在している、と。

 そう言ってくれる人が欲しかった。

 

 物心付いた時から、自分は独りだった。

 出来た友達は全て、自身の目の前から消えた。まるで、自身を取り巻く呪いのようにそれは続いた。

 科学が発展しているこのご時世で、呪いなんてオカルト染みたものを信じてしまいたくなるほどに、その不幸は続いた。

 いつしか、『アイツといると不幸になる』と、そう言われるようになった。

 

 まるで黒猫のようだと、そう思った。

 不幸の象徴として、忌み嫌われていた存在。猫に自覚はなくとも、人々はそう認識してしまう。

 

 いつしか、誰かに言われて好きになったその色を纏った自分の姿は。

 アスナ達からすればキリトのようで。

 アキトに言わせれば、不幸を告げる黒猫のようだった。

 

 

 「……」

 

 

 《ホロウ・エリア管理区》にある、システムコンソールにもたれかかる。

 数字の羅列で出来た波がエリアを覆い、殺伐とした電子音のみが鼓膜に響く。

 星にも似た景色を作る天井は、まるで限界を知らない。

 まるで、宇宙の一部として存在しているような、そんな気がした。

 

 

 「……」

 

 

 背中に収められた二振りの剣は、いつもより重く、冷たく感じた。それを鞘ごと背中から外し、手元へと持っていく。

 《エリュシデータ》と《リメインズハート》。

 キリトの形見と、キリトを想って作られた剣。

 どちらにも、自分はいなかった。

 

 

 「くっ……」

 

 

 《ホロウ・エリア》に逃げたって、何かが変わるわけじゃない。

 けどそれでも、あの世界と隔絶した場所にいたかった。

 帰る場所は、侵食していた『誰か』によって、消えてしまった。

 目が覚めたら、全くの別世界。誰もが自分ではなく『誰か』を見ていて、そこに自分はいない。

 彼らの中にいた『アキト』という存在が、消えていく。

 それが、途轍もなく怖かった。

 

 久しぶりに感じた、『独り』という感覚。

 いつからか、彼らと一緒にいる事が当たり前になってきていた。

 かつての仲間と遜色ない程に、大切なものへとなりつつあった。

 もしかしたらみんなも、そう思ってくれているのではないかと、そう感じていた。

 

 痛む瞳が、そうじゃない、とそう言っているようで。

 それは紛い物で、勘違いだと、そう示唆されているようで。

 アキトは、二本の剣を徐ろにストレージに収めた。

 

 《二刀流》

 

 かつて、《黒の剣士》キリトが保持していた唯一無二の(ユニーク)スキル。

 文字通り二本の剣を携え、光速の連撃を叩き込む、世界に仇なす者達の切り札。

『勇者』の役割を担う筈だった彼は、この世界から消え去り、そして、彼の意志を引き継いだ《二刀流》は。

 今、この手の中にあった。

 

 手にしたその時点で、《二刀流》スキルの全てがコンプリートされた状態だった。

 キリトから、そのままそっくり引き継いだ気がして、そして、それと共にキリトの意志を継いだように感じた。

 文字通り、自身の中にいるかもとは、思っていなかったが。

 

 

 「……」

 

 

 この瞳と頭の痛みも、たまに浮かぶ見た事の無い記憶も、全てキリトのものだったとしたら。

 自分ではない誰かに変わってしまう恐怖。その『誰か』が、キリトだったとしたら。

 

 そしたら、自分は。

 

 

 「……アスナ達からすれば、その方が良いのかもな……」

 

 

 なんて、そんな弱音すら吐けてしまう。

 かなりショックだったのかと、自覚して嘲笑する。

 他人の目なんて気にしなかった筈なのに、今では自分の事を認めてくれる人を望んで、縋って。

 ここにもまた、矛盾が生まれて。

 

 彼らが望んでいるのは、英雄。

 キリトの生存、キリトという存在。

 自分ではなくて。

 

 

 「……っ」

 

 

 そうして頭を下げていると、後ろから気配を感じる。

 咄嗟に後ろを振り向くと、そこには見知った少女がいた。

 

 

 「……アキト?」

 

 「……フィリアか」

 

 

 彼女の姿を見た瞬間、アキトは表情を柔らかいものへと変える。安心しきったような顔で、フィリアを見つめた。

 何も知らない彼女が、何となく有難かった。勝手に押し付けるのは傲慢だと分かっているが、フィリアの存在が少しだけ救いだった。

 

 

 「……どうしたの?顔色、悪いように見えるけど……」

 

 「……別に。もう充分寝たしな。今から攻略でもしようって……思ってたから」

 

 

 アキトはそう言うと、慌てたように立ち上がる。

 それを見たフィリアは、儚げに笑う。申し訳無い感じに下を向き、チラリと、アキトを見上げた。

 

 

 「……ねぇ、アキト」

 

 「……何」

 

 「今日……一緒に行って良い?」

 

 「……」

 

 

 フィリアは寂しそうに笑うと、こちらを見つめて来た。

 アキトは彼女のその問いに戸惑い、つい聞き返した。

 

 

 「……なんだよ、急に」

 

 「……うん。今日は、アキトと一緒に探索したいなって、朝から思ってたんだ」

 

 

 そう答えるフィリアは、思い詰めたような顔をしていた。

 だが、今のアキトの精神状態では、彼女の悩みに向き合う自信が無かった。

 フィリアが自分と攻略する事で気持ちが和らぐなら、それだけでも聞き入れよう、そんな気持ちしかなくて。

 

 

 「……いつもの事だし、別に良いけど」

 

 「ありがとう……アキト」

 

 

 フィリアの感謝の言葉を受けて、アキトはストレージを開く。

 《リメインズハート》と《エリュシデータ》以外の武器なら何でも良い。

 短剣でも細剣でも、使えるならば。

 そうして指でストレージをスクロールしていき、刀武器《琥珀》を取り出す。

 フィリアと初めて会った時に使っていた武器。

 一応強化しており、今も尚使おうと思えば使える強さがあった。

 それを腰に収め、転移門へと近付く。

 

 その表情は、お互いに暗い。

 だけど、その事に対して、何かを言う気力は、お互いには無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

 《ホロウ・エリア》も、もう半分は攻略出来ているだろう。

 初めは、《セルベンティスの樹海》。その名の通り、巨大な木々と神殿に囲まれたエリア。

 次は、《バステアゲート浮遊遺跡》。天高く聳える塔を中心に、浮島が転々とした場所。

 そして、《グレスリーフの入り江》。水平線が見える程に広大な海、そしてその岸辺にあるのは遺跡や森。

 

 どれも高難易度エリアに恥じないレベルの高さを誇っていた。

 危うい場面は多々あったが、どれも切り抜ける事が出来た。それはフィリアやアスナ、クラインの助力があってこそだと、アキトはそう思っていた。

 

 このエリアのボスを倒した遺跡の先の洞穴まで歩く。

 その目の前に、システム的に封じられた光の壁があった。

 例によって、フィリアから預かった《虚光に燈る首飾り》が光を帯びる。

 かざすと、その壁はガラスのような破壊音を立てると散り散りに消えていった。

 その先にあった出口から差し込む光が、次のエリアへの入口でもあった。

 

 

 《ジリオギア大空洞》

 

 

 そこが、新たなエリアの名前。

 洞窟を抜ければ、《円環の森》と呼ばれるエリアが広がる。森はどのエリアでもあった為に、これだけじゃまだどんな舞台なのかは分からない。

 空気が澄み渡り、暗い雰囲気が無く、他の森よりは居心地は良かった。

 だが、初めてここへ来た時の樹海を彷彿とさせるそれは、静寂に包まれ、アキトとフィリアの雰囲気を一層気不味いものへと変えていた。

 

 

 「……」

 

 「……」

 

 

 ここまでほんの数十分の道のり。

 だが、何度か戦闘を繰り返し、アキトは思った事があった。

 自分も、フィリアも、戦闘に集中出来ていない事実。

 先程のアスナ達とのやり取りを引き摺っているのは明白だった。

 

 フィリアの方も、どこか攻撃に無駄が多かった。

 けれど、彼女を気遣う余裕さえ、今のアキトには無かった。

 

 

 「……休憩するか」

 

 「……うん。ゴメンね、迷惑かけちゃって」

 

 

 フィリアの言葉に、アキトは振り向く。

 アキトからすれば、集中できてない自身の為にとった休憩で、フィリアの事など何一つ考えていなかったからだ。

 フィリアが自身のせいだと思うのは少しだけいただけなかった。

 

 

 「……単純に俺が疲れただけだ」

 

 「……やっぱり優しいね、アキトは。私の方から行こうって誘ったのに……」

 

 

 俯くフィリアは、いつもより明らかに元気が無かった。

 最近、彼女が集中していない時は何度かあったが、今日はいつもよりも少しおかしいと感じていた。

 アキトはその性格上、やはりどうしても放っておけなかった。自分の気分など忘れて、フィリアへと向き直る。

 

 

 「……何か、あったのか?」

 

 「え……う、ううん、何にも無いよ……何にも……」

 

 

 フィリアはアキトから目を逸らす。斜め下を俯く様は、それが嘘だと言っているようなものだった。

 何かを隠しているような彼女に、アキトのその口は自然と開く。

 

 

 「……何かあるなら────……っ!」

 

 

 そこまで言いかけた時、近くからドサリと、何かが崩れ落ちる音がした。

 アキトは咄嗟に振り返り、その音の原因を探す。

 

 

 「はあ、はあ、はあ……」

 

 

 そこには大きめの斧を背に収めた、男性プレイヤーが膝を付いて崩れていた。

 呼吸が荒く、酷く疲れているようで、その身体は震えていた。

 HPバーが黄色なのを見た瞬間に、アキトはフィリアから離れて、その斧使いへと駆け寄っていた。

 そのプレイヤーの瞳は、とても虚ろで、目的のものしか見ていないように思えた。

 

 

 「もう少し……もう少し先へ……」

 

 「おいアンタ、大丈夫か?」

 

 「ん……?ああ……大丈夫だとも……とにかく、先に進まなくては……」

 

 

 その目だけを一瞬だけアキトの方へと向けるも、すぐに進むつもりだった道の先へと顔を上げた。

 アキトは焦ったように男性の肩を掴み、ポーションを取り出した。

 

 

 「とにかくじゃねぇ、先にポーション飲めよ。攻略するなら体力の管理くらいしっかりしろ」

 

 「……」

 

 

 だが、アキトのその指示に対して、彼はもはやアキトを見てはいなかった。

 アキトの静止を押し退け、ヨロヨロと立ち上がると、そのまま回復もせずに歩いていってしまった。

 これには流石のアキトも、憎まれ口を叩いている場合では無く、珍しく動揺を顕にしていた。

 

 

 「あ……ち、ちょっと……待ってくれ!」

 

 「アキト!危ないよ一人で……!」

 

 

 彼を追うようにしゃがんだ身体を起こして追おうとすると、後ろからフィリアの声がかかる。

 だが、目の前に死の予感を感じさせるプレイヤーを前に、フィリアの相手はしてられなかった。

 取り繕う事も忘れ、フィリアへと向き直る。

 

 

 「悪い、話は後で。今は彼を追うのが先だ」

 

 「良いんだよ……どうせ、私達は……」

 

 「良いわけ無いだろ!待ってて、今の人連れて帰ってくるから!」

 

 「どうしてそこまで頑張れるの!?オレンジギルドの罠かもしれないじゃない!」

 

 「罠じゃないかもしれないだろ!無駄に死んで良い命なんて、この世に一つだってありはしないんだ!」

 

 「っ……」

 

 

 いつもより冷たく当たってしまったかもしれないと、フィリアの顔を見て思った。

 けれど、自分の信じた事だけには、嘘を吐きたくなかったから。目の前に消えそうになっている命を、見捨てる事など出来はしないから。

 

 

 「……ゴメン。ちょっと、行ってくる」

 

 

 アキトのそこに正義感も偽善も理屈もない。

 言うなれば本能。考えるより先に、行動してしまう。

 命を散らす事に、純粋に嫌悪感を抱く。だからこそ、アキトはどんどん先へと進む斧使いへと、足を踏み出した。

 

 

 

 

 暫くして、アキトはフィリアのいるであろう場所へと戻って来ていた。

 近くの木に膝を抱えて座るフィリアを見つけて、アキトは小走りで近付いた。アキトに気が付いたフィリアは、儚げに笑うと、その場からゆっくりと立ち上がった。

 アキトの様子を一目見た後、小さな声で問いかけた。

 

 

 「……あの人は、どうなったの?」

 

 「ポーションすら飲んでくれないから、回復結晶使った。休めって言ってんのに聞かねえんだよ」

 

 

 アキトは先程の斧使いとのやり取りを思い出しながら、そう答えた。

 ポーションを押し付けても、まるでアキトをいない者のように扱って先へと進もうとする。

 その目的に妄信的である姿に、底知れぬ恐怖感と焦燥感を覚えた。

 ダンジョンを出るように言っても、全く聞き入れて貰えず、結局回復だけさせた後、走っていってしまった。

 アキトは執拗く追いかけたが、最後の最後で撒かれてしまったのだった。

 

 

 「……前々から思ってたんだけど、ここのプレイヤーって何かみんな変わってるよな。随分危ない橋を渡ってる気がする」

 

 「危ない、橋……」

 

 

 フィリアはアキトの言葉の一部を繰り返す。

 実際、アキトはここを攻略していく内に、何人かのプレイヤーに出会った。

 実は、先程のような斧使いの状態に会うのは初めてでは無いのだ。

 HPが半分程まで差し掛かっているにも関わらず、回復をしていないプレイヤーを、この《ホロウ・エリア》で見た事があった。その時、彼はパーティを組んでいた為に、仲間が注意してくれるだろうと、あまり強くは言わなかった。

 そして極めつけは、どこから来たのか拠点を聞くと、例によって『忘れた』と発言したという事だ。

 今回、それを思い出した事により、また改めてこの場所にいるプレイヤー達に疑問を持ち始める。

 

 

 「……妙、なんだよな」

 

 

 あまりにも、危険に対して鈍感過ぎやしないだろうか。

 高難易度ダンジョンだというのに一人で攻略したり、拠点の位置も曖昧など、無鉄砲にも程がある。

 フィリアはアキトの話を聞いて、少しだけ表情を曇らせる。それを見たアキトは、何となく焦りを感じた。

 

 

 「……まぁ、みんなお前くらい注意深ければ幾分かマシなんだけどな」

 

 「……そっか」

 

 「なんだよその反応。お前も気になるだろ?」

 

 

 彼女から目を離し、そばにある木に触れる。

 すると、フィリアを差し置いて、また空虚な脳に浮かぶ景色が頭を過ぎる。

 何かを思考している時は良い。だが、何も考えていないと、嫌でもアスナ達の事を思い出してしまう。

 

 逃げ道にしているようで悪いとは思っている。

 けれど、彼らと関係の無いフィリアと共に行動する事はとても心地好いものになっていた。

 余計な事を忘れられる。違う事に思考を使える。楽しい時間だと、自覚して過ごせる。

 そう、思ったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……気にならないよ。だって……」

 

 

 アキトに聞こえない声で、フィリアは告げる。

 彼の背中を眺め、寂しそうに俯く。

 自分達の、本当の正体を呟く。

 

 

 「ここにいるプレイヤーはみんな……ホロウ……影の存在だから」

 

 

 斧使いが立ち去った方向へと、その虚ろな瞳が視線を移す。

 彼もまたホロウ。そう、自分と同じ。

 

 

 「あの人も……ここからは出られない」

 

 

 そして、同じホロウである自分も、同じ穴の狢。

 データとしてあり続ける、アキトとは違う存在。

 

 

 「私も……ずっとこうして……ずっと……」

 

 

 その顔はどんどん悲痛に歪んでいく。

 どうしたら良いのかも分からないから、こうして辛い思いを続けるしかなくて。

 それを、アキトに悟られたくなくて。

 

 ずっと、一緒にいられると思っていた。

 でも、そうじゃ無かったんだ。

 

 私は、アキト達とは違う。

 ここに、この《ホロウ・エリア》に、ホロウとして。

 ずっと一人、ずっと……独りで。

 そうして、その思考は深くなっていく。あの殺人者の顔を、思い起こそうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 ──── お前ぇとアイツじゃ住む世界が違う

 

 

 

 

 

 

 「……フィリア?大丈夫かよ」

 

 

 気が付けば、アキトが振り向き、こちらの様子を伺っていた。

 フィリアはハッと気付くと、笑って取り繕う。

 

 

 「っ……う、うん、大丈夫……進もっか」

 

 「……別に急いでねえんだ、やめたいならそう言えよ」

 

 「うん、分かった……」

 

 

 フィリアは心配させまいと、必死に笑顔を振りまいた。

 アキトは不思議に思いつつも、こちらが大丈夫だと言った為か、一先ず納得してくれたようだった。

 先頭に立ち、《円環の森》を進んでいく。つられて追い掛けるフィリアは、そのアキトの細い身体、その背中を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 ────お前ぇは所詮、影の世界……《ホロウ・エリア》の住人なんだよ

 

 

 

 

 

 

(私は……ホロウ。この世界の、住人……)

 

 

 以前、PoHに言われた言葉しか、もはや自身の心を占拠していなかった。

 アキトといると楽しかったこの時間が、アキトではなく、PoHの方へと向いていた。

 

 その頭は、以前アキト達と別れた後に邂逅した、PoHとの会話にまで遡っていた。

 

 

 

 

 

 

 ──── That's right! SAOをクリアされれば、データである俺達は消える。

 

 

 

 

 

 

『だからさぁ〜俺達はアイツに……殺されるって事だ』

 

 

 そう言った、《ホロウ・エリア管理区》でのPoHは、本当に楽しそうで。

 フードから見えるニヒルな笑みが、フィリアの心を揺さぶった。

 殺されるというのに、その余裕綽々と言った態度が、彼女を動揺させたのだ。

 

 

『違う!アキトはそんな……私達を殺すだなんて……』

 

 

 フィリアは必死になってそう言い放つ。

 PoHにではない。まるで、自分に言い聞かせるように。

 だが、そうなった時点で、きっと自分はPoHの思い通りだったのかもしれない。

 

 

『さっきも言ったろぉ〜に?理由や過程はどうでも良いんだ、結果!結果がどうなるかなんだよ!』

 

 

 イラついたように声を荒らげるPoHは、あの時、何か企みがあるように見えた。

 そして、それは現実となった。

 

 

『アイツがやった事で俺達は死ぬ、俺はそれを止める。だってよぉ……死にたくねぇしなぁ。だから……』

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前ぇの力を借りに来たんだぜ?』

 

 

 

 ────ドクン

 

 

 

『私に……アキトを裏切れって言うの?』

 

 

 そんな事……出来る、訳が……。

 PoHは、傾きつつあるフィリアに、嬉しそうに笑ってみせた。

 

 

『NON NON NON……なぁに、ちょっと誘い出してくれれば良いのさ。お前ぇは何もしない、何も知らない』

 

 

 管理区の静寂が、二人を包み、それぞれの視線が交錯する。

 瞳が揺れ、心臓が高鳴るフィリアを見て、PoHは言葉を続ける。

 

 

『まぁ〜ちょいっと事が終わるまで邪魔しないで貰うってだけだぜ?別に殺すわけじゃぁない。あとは勝手に物事が進むだけだ』

 

『そんな事……出来るわけないじゃない……』

 

 

 きっとそれが、フィリアの最後の抵抗だった。

 

 

『アイツの強さは知ってるんだろォ?大丈夫、アイツならきっと生き延びる。死なずに、俺達と(・・・)同じ世(・・・)界の住人になる(・・・・・・)だけなんだから』

 

『私達と……同じ世界……』

 

 

 反論しながらも、薄々は感じてた。

 自分の存在、その正体と、それが意味する事を。

 自分は、アキト達と一緒にはいけない。

 

 永遠に。

 

 だからこそ、あの時、彼の発言が悪魔の誘いなのだと思った。

 

 

『このままアイツと別々の世界で誰にも知られずに死ぬか、アイツと同じ世界の住人になって永遠に存在し続けるか……よぉーく考えてみろよ』

 

 

 PoHは、勝ちを確信したように、その口元を歪めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 未だ自身の前を歩く黒い剣士、その少年の背中を見て。

 フィリアは、涙が出そうになった。

 

 こんな近くにいるのに、一緒に居られることは、決してない。

 そう思うと、こんなにも苦しい。

 一人だった自分に、一人じゃない事を教えてくれたアキトやアスナ、クラインに。

 自分は、寄り添えない。

 

 

 「……アキト……私やっぱり……怖いよ……」

 

 

 その声すら、アキトには届かない。

 彼女の心は、その事実を迎え入れて事により、限界を迎えていた。

 有限であるこの世界で、共に居られるのはあと僅か。

 揺れ動き、乱されたその心は。

 

 

 

 

 

 

 

 彼女に、歪んだ決意をさせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……だから、ゴメンね。アキト」

 

 







小ネタ


『アキトの持っている武器全てを見せてもらった結果』



リズ 「アンタってさ、結構いろんな種類の武器持ってるわよね。曲刀、刀、細剣、短剣……槍に斧まで……アンタどれだけ使うのよ」

アキト 「まあ、使えるものだけ選んで溜め込んではいるけど」

リズ 「けど、どれもスペアがあるのよね。そんなにあっても嵩張るんじゃないの?」

アキト 「まあ、折れても大丈夫だって安心したいのかもな」

リズ 「……アンタ、もしかしてしょっちゅう武器折ってるの?」

アキト 「……」メソラシ

リズ 「……何回?」

アキト 「…………8回」


この後、メイスでめちゃくちゃにされた。


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