ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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願う。

誓う。

今度は俺が────







Ep.75 Re:黒の剣士

 

 

 

 戦う理由がある。

 

 

 目の前で、大切な親友が殺されかけた。

 

 

 殺してやると、そう思った。

 

 

 今まで、俺がずっと傷付けてきた癖に、謝る事もせず、逃げ続けて来た俺に怒る事もせず。

 

 

 アスナ達を助けようと、誰よりも頑張ってくれた。

 

 

 どうして、と。そう思わずにはいられなかった。

 

 

 何かをする度に何かを失う彼に、痛々しさを感じていた。

 

 

 何も返せていなかった自分が、途轍も無く腹立たしかった。

 

 

 俺は、絶対に許さない。

 

 

 アキトを殺そうとした彼らを。

 

 

 助けたい。大切な友達なんだ。

 

 

 誰でも良い。何でも良い。

 

 

 アキトを助けてくれ。俺に助けさせてくれ。

 

 

 そんな、なんて事無い平凡な人間である俺の願いを聞いてくれるものなんて。

 

 

 たった一つだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

 そこにいる誰もが困惑していた。

 殺人ギルド《嗤う棺桶(ラフィン・コフィン)》の五人が囲っていた奴は、先程まで死の恐怖で顔を歪めていた筈なのに。

 

 その剣士は何処にもいない。

 いたのは、別のプレイヤー。

 そして、彼らがよく知る《黒の剣士》だった。

 

 

 「黒の、剣士……!」

 

 

 髑髏のマスクを付けた男が、歯軋りをしながら睨み付ける。

 それ以外の四人も、怯えたり、驚いたりと、様々な感情を抱きながら、囲っている一人の黒の剣士を睨み付ける。

 

 暗黒が立ち込めるその空間に、その黒いコートはよく映える。

 白銀の剣を手に持ったその少年は、バチバチと電撃を身体に纏わせ、同じように周りの連中を睨み付けている。

 その瞳は青と黒の二色。左目から頬にかけては、電子回路のような道筋が埋め込まれていた。

 

 

 彼らは、何故か麻痺毒が解かれているという事実に困惑する中、その黒の剣士が手にしている剣を見つめる。

 

 

 「……何だ、その剣は」

 

 

 髑髏のマスクの男が、苛立ちを込めて、静かにそう呟く。

 目の前の黒の剣士は、自身の身に纏う色とは正反対の輝きを放つ、結晶の剣を手にしていた。

 

 だからこそ不可解だ。

 

 あの場に奴の剣は、紅い剣(リメインズハート)黒い剣(エリュシデータ)のみだった筈なのだ。

 麻痺毒で身体を封じていたからこそ、ストレージから取り出す事も出来ない。そもそも、《クイックチェンジ》などお話にならないくらいの一瞬で、この剣は彼の手元に現れた。

 何もかもが未知、故に彼らは怯えた。

 

 

 「オイオイオイ!どうなってんだよ!なんでテメェがここにいやがるんだ!」

 

 「……」

 

 

 その剣士は、頭陀袋のマスクを被った男、ジョニー・ブラックの声に僅かに反応するも、何も言わずに静かに彼らを見据えるばかり。

 その近くにある、《リメインズハート》を見つめ、そして────

 

 

 「っ────!」

 

 

 地面を駆ける。

 暗がりの中走るキリトの姿に、誰もが反応に遅れる。

 《リメインズハート》の近くにいたジョニー・ブラックは、一瞬怯んだように思えたが、そのナイフを腰から引き抜き、臨戦態勢を取る。

 そして同時に、キリトの両サイドから、二人のプレイヤーが武器を持って迫る。

 それを見たキリトの瞳が、一瞬見開いた。

 ジョニー・ブラックは完全に隙を突いたと確信し、その顔を歪める。

 

 

 だが────

 

 

 「ぐぁっ!」

 

 「がぁっ!」

 

 

 キリトは右のプレイヤーの顔を剣の柄で殴り付け、左のプレイヤーを素の拳で殴り付ける。

 筋力値に極振りである彼のステータスの恩恵により、二人はあさっての方向へと吹き飛んだ。

 

 

 「なっ……チィ!」

 

 

 ナイフを一直線にキリトの頭目掛けて突き出した。

 だが、瞬時に反応したキリトは、手に持っていた結晶の剣で流し、懐に入り込む。

 ジョニー・ブラックが驚きの表情でそれを見下ろすも、もうキリトの攻撃を躱せる段階にはなかった。

 

 体術スキル《エンブレイザー》

 

 イエローエフェクトを拳に纏い、全力で目の前の男の鳩尾に突き刺した。

 その瞳は、怒りの感情を顕にしており、食らったジョニー・ブラックも、顔を歪ませながら跳ね飛ばされていく。

 

 

 「がっはぁ……!」

 

 

 壁に激突したジョニー・ブラックを目視する。

 が、その隙を突いたように、髑髏のマスクの男がエストックを抜き取り、キリトに向かって突き出す。

 キリトはその剣を煌めかせ、エストックの攻撃一つ一つをいなしていく。

 正確な太刀筋だが、全てキリトには見えていた。怒りを感じていても尚、冷静さだけは無くさない。

 

 

 「お前は、殺す……!」

 

 「やってみろよ……赤目のザザ!」

 

 

 その赤い瞳を見た瞬間、キリトのその瞳が本気を感じさせた。

 一瞬でザザとの距離を詰め、その剣を滑らせる。

 エストックを胸元に引き寄せ、防御姿勢を取るザザと鍔迫り合いに興じる。

 ジリジリと詰め寄り、その腕が震える。

 

 

 「っ……!?」

 

 「はあっ!」

 

 

 キリトは、ザザが見せた僅かな姿勢の崩れを見極め、一気に剣に力を入れる。

 そのまま全力で振り抜き、ザザを吹き飛ばす。

 その後ろには、最後の一人であるオレンジプレイヤーが構えており、ザザとぶつかって後方へと転がっていった。

 

 その異様な強さに、彼らは困惑を覚える。

 すぐに立ち上がろうと、その腕を地面に突き立てるジョニー・ブラック。

 だがすぐに、キリトがこちらを見ていない事に気が付いた。

 一瞬で五人を自身から退けたキリトは、そこに追い討ちをかける事はしなかったのだ。

 

 それどころか、五人のオレンジプレイヤーを差し置いて、キリトが向かった先は。

 

 

 地に転がった、《リメインズハート》だった。

 

 

 「……」

 

 

 それを片手で拾い上げ、悲しげに見つめる。

 リズベットが作ってくれた、最高傑作。アキトの為に、そして、自分の為を想って作ってくれた、背負う為の剣。

 口元を緩め、瞳を細め、その感触を懐かしむように振る舞う。

 一度たりとも、周りの五人を視界に入れていなかった。

 

 

 「っ……て、テメェ……」

 

 

 ジョニー・ブラックは歯軋りをしながら、その瞳は怒りを孕んでいた。

 倒れた相手に追い討ちをかける自分達と違って、キリトは攻撃をしなかった。

 俺はお前らなんかとは違う、と。そう言っているように思えて、屈辱を感じたのだろう。

 

 いや、それ以前に。

 キリトは彼らの事など、露ほども警戒していなかった。

 なんて事無い、彼はただ、《リメインズハート》を拾う為だけに走り出したのであって、ジョニー・ブラックを攻撃しようも動き出した訳ではなかった。

 ただ、迫り来る邪魔な障害を排他しただけだったのだ。

 それに気付いた彼らは、屈辱以上のものを感じた。相手にされていないという事実、武器の為に邪魔だったからと、そんな軽い態度を、許しはしなかった。

 

 

 今も尚背を向けるキリトに、ザザは怒りを抑えるように震え、ジョニー・ブラックは薄ら笑いを浮かべる。

 

 

 「良い気に、なるな」

 

 「……クッハ……随分と余裕じゃねぇか、黒の剣士ィ……ちょっと不意を突いたからって、この数を相手に出来るとでも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「────お前らさ」

 

 

 

 

 キリトは、そうして彼らに振り返った。

 その瞳はただただ冷めていて、静かに怒りを示し、それでいて軽蔑の視線だった。

 

 

 

 

 「暗殺者(アサシン)向いてないよ」

 

 

 

 

 彼は今、彼ら以上にその殺気を顕にしていた。

 その場にいる誰もが、キリトという少年に恐怖心を覚えた。

 その暗闇を払う剣(ダークリパルサー)と、想いを背負う剣(リメインズハート)を携え、キリトは彼らに向けて、その構えをとった。

 

 

 「っ……!」

 

 「チィ……!」

 

 

 来る────誰もがそう思った。

 静寂の中、緊張が走る。心臓の鼓動が、聞こえてくるようだった。

 バチバチと散りばめられた電撃を纏い、風が覆う。その黒の剣士を、ここにいる者全てが恐れた。

 あの殺人を繰り返し、この世界で恐れられてきたレッドギルド、《嗤う棺桶(ラフィン・コフィン)》がだ。

 

 

 こちらは五人、あちらは一人。

 

 

 なのに。

 

 

 

 

 「……行くぞ」

 

 

 

 

 何を、恐れてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「っ────!」

 

 「しっ!」

 

 

 飛び出したザザのエストックを、《ダークリパルサー》で弾く。甲高い金属音が部屋に響き、各々の鼓膜に突き刺さる。

 変わる事無い速度で突きを繰り返すザザの死角から、《リメインズハート》を振るう。想いの乗ったその一撃は、先程よりも速い。

 それをギリギリで気付いたザザは、しゃがむ事で、間一髪躱す事に成功した。

 だが、次の瞬間、キリトが下に構えた二本の剣を、しゃがんだザザに目掛けて斬り上げる。

 

 

 「ぐぅっ……!」

 

 「らああぁぁああ!」

 

 

 STR極振り、その振り抜いた先まで、赤目のザザは吹き飛ばされる。入れ替わるように現れたジョニー・ブラックが、キリトのその喉元に向かってナイフを突き出した。

 キリトは斬り上げた剣を持つ肘で、ナイフを持つジョニー・ブラックの腕を叩き落とす。

 

 

 「なっ……!」

 

 

 バランスを崩して倒れそうになる背中に、キリトは片手剣ソードスキル《スラント》を繰り出した。

 

 

 「ぐあああぁぁあ!」

 

 

 転がっていくジョニー・ブラックを横目に、迫り来る残りの三人に警戒を始める。

 自分のギルドの幹部である二人がいとも容易く跳ね返された事実に、彼らはどうするのが正解なのか分からず、ただ剣を構えるのみ。

 だがやがて癇癪を起こし、各々が順番にキリトへと近付く。

 

 単調な動きに、その予測を合わせる。

 メイス、曲刀、片手剣、彼らが使うであろうソードスキルや戦術を読み取り、その剣を充てがうのみ。

 冷えた頭の中、煮え滾る怒りがキリトを動かす。その怒りが、この行動に移る速さへと変換されていく。

 

 片手剣範囲技《ホリゾンタル》

 

 白銀の剣に白銀の光を纏う。

 一瞬の隙を見て放つその一撃は全て、三人の持つ武器を一直線に抑える。

 各々の武器と共に、その身体がはね飛ばされていく。

 

 

 「っ!」

 

 

 瞬間、ザザは好機と見て飛び出した。

 そのエストックを滑らせ、身体を低くして駆け出し、キリトへと迫る。

 たとえ初級のソードスキルだとしても、この僅かなスキル硬直の隙を決して逃しはしないと、その血のように赤い瞳が、彼の首を捉える。

 

 だが、キリトは慌てる事無く、その瞳を見開いた。

 

 コネクト・《ソニック・リープ》

 

 

 「っ……!?」

 

 

 ザザが驚くのも束の間、そのエメラルドグリーンに輝いた《リメインズハート》は、ザザの身体を袈裟斬りする。

 ザザは苦しそうに呻きながら、咄嗟に後退した。マスクの下の表情は悔しそうで、悲痛に歪めていた。

 

 《剣技連携(スキルコネクト)》、アキトの持つシステム外スキル。体術と片手剣を織り交ぜて使用していたアキトだったが、今は剣が二本ある。

 ならば、片手剣技を交互に発動する事さえ、この身体なら造作もない。

 

 

 「クソがァ!」

 

 

 ジョニー・ブラックは乱れ狂うように立ち上がり、キリトへとナイフを当てようと腕を伸ばす。

 一撃でも当たれば、再び麻痺に掛かる。だからこそ、キリトは目の前の敵の情報を漏らす事無く吸収する。

 その動き、洗練された技術に衰えは感じず、その歩法の一つにすら無駄が無い。

 

 

 「っ……くっ……!」

 

 

 重なる剣戟の中、ジョニー・ブラックが死角から別のナイフを突き出した。

 咄嗟の事で、キリトは目を見開くが、紙一重でそれを躱した。

 あと一息で殺人に手が届いた事実に、ジョニー・ブラックは口元を緩める。

 

 

 「あるよー、ナイフまだあるよぉー!」

 

 「……」

 

 「……クフフッ、アッハハァ!」

 

 「────しっ!」

 

 

 ジョニー・ブラックは楽しくなってきたのか、段々とその顔が綻んでいく。

 ニタニタと笑みを作り、顔を歪めていく。

 未だ当たらぬナイフに苛立つ事無く、いつかキリトが倒れ伏す姿を想像しながら。

 

 

 だが、そんな時は絶対に来ない。

 

 

 ジョニー・ブラックがナイフを突き出す瞬間に、キリトはバックステップで奴との距離を離し、振り上げていた《リメインズハート》をナイフ目掛けて叩き付けた。

 

 

 「っ!?このっ……!」

 

 

 その衝撃で手が痺れたのか、ふるふるとその掌を震わせる。

 それも一瞬、ジョニー・ブラックは再びどこからかナイフを取り出す。

 気が付けば、後ろにはザザが立ちはだかっていた。

 

 

 キリトが剣を構え直した瞬間、再び闘争が始まる。

 エストックが懐に飛び込み、ナイフが喉元に迫る。メイスが頭目掛けて飛んで来て、曲刀は卑怯にも足を狙う。

 そんな繰り返しの中、キリトの集中力は研ぎ澄まされていく。

 全ての攻撃に的確に、冷静に対処していくその判断力と技能は、間違いなくかつての黒の剣士、キリトそのもの。

 誰もがそれを理解し、焦りと怯えを綯い交ぜに攻撃を繰り返す。

 

 五対一という圧倒的アドバンテージにも関わらず、自分が殺す、殺したいという欲望が勝り、連携は取れていない。

 誰かが作った隙に乗じて、自身のエモノをキリトに向ける。

 《黒の剣士》を殺した名声を我が手に、そうした思いがあるのかもしれない。だが、それも届かない。

 

 どれだけ時間を掛けようと、どれだけ卑怯な手をこの場で施そうと、キリトの反応速度は、今まで以上だった。

 殺そうと、迷うこと無く斬りかかる彼らに向けるその瞳は、ずっと変わらず冷徹で、侮蔑を込めていた。

 敵意と殺意を感じ取り、ただそれを叩き潰す。自慢の技を、得意な技を無意味化し、その自信を喪失させる。

 奴らは殺しを諦めない、キリトは決して折れたりしない。その繰り返しが時間を掛け、彼らの精神を摩耗させていた。

 

 

 「五人もいてこの程度か」

 

 

 彼らを跳躍で躱し、開けた場所へと着地する。

 揃ってフードを被るプレイヤー達に、その冷たい言葉が突き刺さる。

 

 

 「ラフコフってのは」

 

 「チィ……嘗めやがって……!」

 

 

 態勢を整えた彼らは、再びその武器を構える。

 ザザはエストックを、ジョニー・ブラックは両手に一本ずつ毒塗りのナイフを携える。

 ジリジリと、少しずつだが距離が縮まる。静寂が身を包み、聞こえるのは荒い呼吸音と、キリトの身体にまとわりつく電撃のみ。

 その頬に回路のようなものが走る、キリトの瞳はジョニー・ブラックと赤目のザザを見据えていた。

 

 殺意、怒り、そんな在り来りで強い意志が、相対するだけで肌に感じる。

 上手く攻撃が噛み合わない、当たらない、そんな苛立ちを自分にぶつける彼らに、キリトは小さく笑った。

 

 

 「もどかしいか?」

 

 「あ……?」

 

 「何……?」

 

 

 彼らはひとえに同じ答えを告げる。

 この世界はシステムによって制御され、それ以上の事は行えない。

 故に彼らが自分にかなわないのはレベル差による戦闘力。

 抗えないこの世界の理が、彼らの目的を阻害していた。

 

 

 「思い通りにならない、この世界が」

 

 

 「……」

 

 

 「……俺もだよ」

 

 

 共に地面を蹴る。

 僅かな跳躍で一人と二人の剣がぶつかった。

 ジョニー・ブラックのナイフとザザのエストックを一本ずつの鍔で競り合う。互いに憎悪を孕ませた瞳で睨み合う。

 空いた手で繰り出されるナイフを回避し、エストックを弾く。

 蹴りで相手の足場を崩し、その剣を振り下ろす。

 その剣戟の応酬が暗闇の中響き渡り、そして確実に互いをすり減らしていく。

 

 

 「うらぁっ!」

 

 「シッ────!」

 

 「っ、ぜあああぁぁああ!」

 

 

 これはゲームじゃない、デュエルじゃない。

 そんなものとは無縁で、そんなものとは根本が違う、単純な殺し合い。

 悪意と暴力の嵐。

 親友を、そしてその親友の友達を傷付けた彼らに向けるのは、明確な殺意。

 

 軋るように嗤う頭陀袋のマスク目掛けて、その剣を光らせる。

 その想いを形にする剣を、闇色に。

 その剣に映る自分の顔は、よく知る自身の顔そのものだった。

 そこに、アキトの面影は一つも無い。

 

 

 ずっと、アキトに謝りたかった。感謝だけじゃ足りない想いがあった。

 出会った当初から、キリトはずっと、アキトに憧れていた。

 誰かの為に自分を変えようと努力出来る、その真っ直ぐな彼に。

 

 自分も、ああなれたらって。

 

 

二刀流OSS十三連撃《レティセンス・リベリオン》

 

 

 これは、世界に反逆する、意志を表明したスキル。

 殺意や敵意、あらゆる理不尽を押し退けると決めた、アキトのスキル。

 ならば、それに応えるのが、友達として自分が出来る事。

 

 

 「はあああぁぁあああ!」

 

 

 一撃一撃を、交互にザザとジョニー・ブラックにぶつける。

 その速度、まさに神速。

 剣を構えても弾かれる、咄嗟の防御じゃ生温い、その反逆の狼煙は、彼らの身体に深く、刻まれた。

 

 

 「がああぁぁああぁああ!」

 

 「ぐおおっ……!」

 

 

 二人は最後の一撃による衝撃波で地面を転がる。その一撃は、この痛みの無い筈の世界で、とても痛かった。

 アキトとキリトの想いが、その剣に込められた気がした。

 先程まで余裕のあった筈の彼らのHPは一気にレッド、危険域へと突入しており、死へとの道が明確に見えてきていた。

 

 

 「ぐっ、畜生が……!」

 

 「っ……!」

 

 

 自分のしたい攻撃をさせてもらえない、殺させてもらえない、その歯痒さと悔しさが瞳に滲み、キリトを見上げる。

 キリトはそんな彼らを変わらず冷たい瞳で捉え、そして、《ダークリパルサー》を構えた。

 

 

 「……まだ吼えるか。なら、電子の塵まで消し飛ばしてやる」

 

 

 片手剣OSS単発重攻撃《ワールド・エンド》

 

 

 雪のように冷たい白銀の剣が、漆黒に染まる。

 その空間と同化したその剣は、恐怖や焦燥をも呑み込まんと、その輝きを肥大させていく。

 あれをくらえば、間違いなく死ぬ。そう感じた彼らは、僅かに震えた。

 

 

 「っ……くっ……!」

 

 

 恐怖しているのだろうか、足が竦んでいるのだろうか。

 だが、どうでも良い。

 

 散々人を殺して来て、自分だけは、なんて虫が良過ぎる。

 何より、親友を殺そうとした彼らをみすみす逃がすつもりもない。

 

 

 

 

 跡形も無く、消し飛ばしてやる────

 

 

 

 

 その剣を、一気に横に薙いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キリトやめろ!』

 

 

 

 

 「っ……!?」

 

 

 突然頭に声が響き、キリトのその腕が止まる。

 ソードスキルを発動していた筈のその剣は、中断した事により既に光を失っていた。

 キリトはそのまま身体が固まり、その声を反芻する。

 

 

 何度も聞いた、安心する、友達の声を。

 

 

 「……ア、キト……」

 

 

 目を見開き、目の前の奴らに突き出した剣を下ろし、その身体を起こす。

 二刀を下ろし、何もせずに目の前の殺人者達を見下ろすばかり。

 頭に響くアキトの声が、妙に堪えて、先程まで自分がしようとしていた事をする気には、もうなれなかった。

 

 

『……頼むから、やめてやってくれ……』

 

 

 「……くっ」

 

 

 

 弱々しく聞こえるアキトの声に、キリトは応えるしかなかった。

 何もせず、このまま見逃せば、また同じような事になるかもしれない。その時は、助けられないかもしれない。

 それなのにアキトは、彼らを逃がす選択をしたのだった。

 

 

 アキトが立ち尽くしていたその隙を見て、我に返った《嗤う棺桶(ラフィン・コフィン)》のメンバー、残りの三人は、致命傷を負ったザザとジョニー・ブラックに近付き、その身体を抱えた。

 徐ろに立ち上がらせて、キリトが追わないのを確認すると、早歩きで離れていく。

 何か捨て台詞を言うでも無く、ザザは静かに、憎悪を滾らせた瞳でこちらを睨み付けた後、やがて転移結晶で消えていった。

 

 

 それを、ただ黙って眺める事しか出来なかったキリトは、悔しそうに、その剣を強く握り締めた。

 

 

 そして────

 

 

 その身体がポリゴンを纏い、ギチギチと音を立てて決壊していく。

 段々と身体から何かが抜け落ちていく感覚も束の間、気が付けば、そこには先程とは別のプレイヤーが現れていた。

 黒い装備だが、何処と無く違う。顔立ちも変化し、その瞳は何も捉えておらず、やがて脱力したように膝をついた。

 

 

 そこには、先程までの勇者はおらず、弱々しい黒猫が存在していた。

 

 

 アキトは、頭をズキズキと抑え、その呼吸は荒かった。

 地面に付いた手を見つめ、心臓の鼓動を感じ取る。

 

 

 「……どんなに……憎くても、俺には……殺せないよ……」

 

 

『……すまない』

 

 

 「……ううん。ありがとう、キリト……」

 

 

 そう呟いたアキトは、フラフラとしながらも、その場から立ち上がった。《リメインズハート》を拾い上げ、鞘へと収める。《ダークリパルサー》は、無くなっていた。

 その道の先には、帰るべき場所へと続く道が存在していた。

 視界に入るその出口は光り輝き、外の空気を感じさせる。

 ゆっくりと、その足を踏み締めながら、アキトは先程の事を思い出す。

 

 

 今回は、明確に意志があり、全て覚えてた。

 だからこそ、キリトのしようとしていた事を止める事が出来た。

 

 

 どれだけ他人を恨んでも、殺したいと思っても。

 それを願ったり、実行したりしてはいけないと思ったから。

 

 

 あんな人達でも、現実では帰りを待ってる人達がいる。

 誰かを失う事の辛さを、アキトは一番よく知っていたから。

 

 

 何度失っても慣れる事の無い、悲しみと恐怖の想いを。

 

 

 

 

 何故か涙が溢れたその頬は、外の風に当たって冷たく感じた。

 

 

 

 








小ネタ (本編とは無関係です)


キリト 「何が《嗤う棺桶》だ!棺桶に嗤わせるくらいなら俺が笑ってやる!アーハッハッハ!」

ジョニー 「なにおう!」

ザザ 「やんのか!」

アキト 「……真面目にやってよ三人とも……」
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