ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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感想こそが、我が生きる糧(白目)

お待たせしました!最近リアルが忙しかったですが、これを機にまた再開していきます!
そんな再開第1話目はこちら!

1万3000文字も書いてました……(´・ω・`)

ちなみにこちら、カットする予定だった話です……労力使いすぎか……0(:3 )〜 _('、3」 ∠ )_



Ep.87 虚ろなる刈り手

 

 

 

 

 

 《ジリオギア大空洞》

 

 

 その咆哮と共に、ホロウリーパーは動き出した。傀儡人形のようにカタカタと音を立てるその様は、自然と恐怖を掻き立てる。

 地を這うように姿勢を低くして迫る奴の眼光の先に、アキト達はいた。

 

 速い──分かっていたが、アキトとフィリアは改めて見て実感し、確信する。

 初めてこの《ホロウ・エリア》に来た時に戦ったホロウリーパーとは、明らかに強いであろう事実を。

 

 幾らこの世界のボスが数人足らずで倒せる程のレベルだとしても、気を抜ける理由になるわけがない。ここはデスゲーム、プレイヤーに用意された命はたった一つ。セーブポイントも無ければ、やり直しなど効かないのだ。

 人数は多いに越した事は無い。こんな巨大なモンスターを、《ホロウ・データ》であるPoHは一人で倒したというのか。

 

 

 「っ……離れるぞお前ぇら!」

 

 

 いち早く声を上げたクラインに従い、アキトとフィリアもそれぞれに散開する。先程まで三人が立っていた場所は既に、ホロウリーパーが走り抜け始めていた。やはり以前とは速さが違う。恐らく筋力値にも差があるはずだ。

 アキトの脳裏に75層の光景が蘇る。見た事も無いはずなのに、何故か分かる。75層のスカルリーパーは、あの両腕を一振りするだけで、ベテランのプレイヤーを埃の如く蹴散らす事を。

 

 

 ────ズキリ

 

 

 突如痛む右の目を抑え、ホロウリーパーが目指している先にいたプレイヤーに目を向けた。そのプレイヤー ──クラインは、ホロウリーパーの視線の先にいた。

 

 

 「クライン、なるべく正面での一対一は避けて!」

 

 「分かってらぁ!」

 

 

 アキトの指示にしっかりと答えたクラインは、自身にヘイトが集まっているのを瞬時に理解し、右腕の鎌の大振りの攻撃を、スライディングで躱す。

 懐に飛び込んだクラインの刀が、眩く光を纏い始める。強力なソードスキルであれば、それだけ硬直時間が出来る為、隙を作る可能性のあるその行為は、切れる選択肢の中では悪手。

 だから、打てるのは初期のスキル。ダメージは微々たるものでも、少しでも、前に進んで行く為に。

 

 

 「うおおぉぉおおおらあぁっ!」

 

 

 刀単発技《辻風》

 

 身体をスキルモーションに合わせて動かす。馴染んだ動き、高まる練度。位置取りに合わせて、その単発スキルは想像よりも高いダメージ数値を叩き出した。

 

 

 「フィリア!」

 

 「了解!」

 

 

 アキトの声でフィリアが駆け出す。クラインのソードスキルによって、ホロウリーパーの頭は向きを変える。自身の下に滑り込んだクラインに襲いかかろうと、その身体を柔軟に動かす。

 その側面、前脚の付け根に向かい、フィリアの短剣ソードスキル《アーマー・ピアス》が発動、深く身体に刺さる音、手応えを感じる。

 

 

 「速く離脱して!」

 

 「すまねぇ!」

 

 

 クラインはホロウリーパーの懐から飛び出す。奴の視線は既に眼前のフィリアに釘付けだった。

 だが、振り下ろした鎌は、フィリアが同時に放ったソードスキルにより相殺され、スイッチで入れ替わったアキトの攻撃の隙でしかない。

 フィリアは自身の横を通り過ぎるアキトに視線を動かし、自然とその口を開いた。

 

 

 「アキト、スイッチ!」

 

 「せあっ!」

 

 

 ホロウリーパーが上がった腕を弄ぶ中で、アキトの剣がその骨組みにぶつかる。気を抜けば弾かれてしまう感触を覚えながらも、その腕に力を込める。

 手応えを感じながらも、畳み掛ける事は出来ない。その骸の頭は既に立て直し、アキトを見下ろしていた。

 すぐさまアキトは懐を通り過ぎ、ホロウリーパーの後ろへと走る。何処までも続く背骨を頭上に、何十本とある脚を左右に走り抜ける。

 その間、左右の脚に幾度も剣を叩き付け、着実にダメージを与えていく。

 視界にいたはずのアキトを探すホロウリーパーの視界ギリギリをクラインとフィリアは辿っていき、その足元に近付いていく。クラインは刀をすれ違い様にぶつけた。

 

 だが次の瞬間、ホロウリーパーは眼光が一際強くなり、姿勢を低くすると一気に上空へと舞った。あの巨体が数十本もの脚を利用して飛ぶその姿は、アキト達を釘付けにする。

 ホロウリーパーは、宙に飛んだ事で景色が広がり、真下にいたアキト達を視界に捉えた。奇声を発すると、自身の重さと合わせて速く落下していき、刃状の長大な鎌を地面へと突き刺した。

 ガタガタと地面を揺らし、足を取られたアキト達はたたらを踏む。瞬間、突然地面から血のように赤い牙にも似た刃が突き出て来た。為す術無くその赤い刃は、彼ら三人の身体を削る。

 

 

 「ぐぁっ……!」

 

 

 一気にHPが減少し、アキト達はホロウリーパーから距離を取る。アキトも抉られた箇所を腕で抑え、どうにか二人の元まで駆けた。しかし、三人が固まった瞬間を、ホロウリーパーは見逃さなかった。

 右腕を高々と掲げると、大きく横に薙ぐように振り抜いた。その起動が波を打ち、そのまま衝撃波となって彼らに迫る。

 所謂、ソニックブームだった。

 

 

 「なっ……!?」

 

 

 クラインが目を見開く。フィリアも慌てて武器を前に突き出す。あまりに粗末な防御姿勢だが、初めて見る攻撃の数々が僅かに心を乱していた。

 それも当然で、三人ともこのボスとの戦闘経験があるにも関わらず、このソニックブームは初見だったのだ。威力、射程、範囲などは未知数で、突然の事で身体が一瞬固まるのも無理は無かった。

 

 

 「────っ!」

 

 

 アキトは咄嗟にクライン、フィリアの前に出た。

 地面と平行に走る衝撃波を前に、アキトは剣を掲げると思い切り振り下ろした。それはソードスキルとなって、ソニックブームにぶつかる。

 予想よりも甲高い金属音が鳴り響き、刃が削れていくのを感じ取る。耐久値を気にしながらもその勢いと起動を逸らし、斜め後方へと受け流す。背中からソニックブームが遠くの何かにぶつかる音が聞こえ、ガラガラと崩れていく。

 

 

 「アキト、大丈夫!?」

 

 「うん、けど……」

 

 

 アキトはフィリアとクラインと顔を合わせ、再び視線の先にいるホロウリーパーに目を向けた。ギチギチと骨組みが締まり、カタカタと口元の骨が動く。

 嘲笑うように動かす口に、紅い眼光。その姿だけで75層の時の恐怖すら、クラインは思い出せていた。

 

 アキトやフィリアも、以前戦った時のボスとは違う動きに戸惑っていた。

 錯乱目的の位置取りに対して放った範囲攻撃に加え、距離を取って三人が固まったのを見て繰り出した遠距離攻撃のソニックブーム。その対応力に、三人は驚きを隠せない。奴は明らかに思考していた。

 

 

 「っ……野郎……!」

 

 「アキト、あのボス……」

 

 「……なんかちょっと技巧派になってる」

 

 「そんな事言ってる場合じゃねぇだろうが……」

 

 

 アキトの一見楽観的に聞こえる言葉に溜め息を吐くクライン。

 だがホロウリーパーの依然としてアキト達を見据えたまま様子を見るように佇むだけ。姿勢を低くしてこちらの出方を伺っているようだった。

 思考する敵──言ってしえば、以前と違うアルゴリズムで動くモンスターとの戦闘経験は誰もが浅い。この手のモンスターと出会い始めたのは50層、つまり半分を越えた辺りからだ。その頃とは攻略組のメンバーも変わってしまったし、上層へと上がろうものならいつかは戦わなきゃならない敵でもあった。だがそんなモンスターと出会ってからここまでの期間は短い。互いに、決して慣れてるとは言い難かった。

 

 そして何より。

 なんとなく、目の前のボスに違和感を覚える。何かが違う、そんな気がした。

 

 そんな彼らに追い討ちをかけるべく、ホロウリーパーは上体を起こし、空気を震わせた。途端に何本もの脚を一斉に動かして、固まる三人の元へと胴をくねらせながら向かって来る。

 

 

 「っ……来るぞ!」

 

 

 アキト達は再び散開し、距離をとってボスの出方を伺う。ホロウリーパーが最初に視界に収めたのは、フィリアだった。

 すぐさま身体を思い切り捻り、彼女の元へと駆け出す。両腕の鎌を寝かせて迫るその先にいたフィリアは、ダガーを逆手に持って距離を保ちながら走っていた。

 だが、ホロウリーパーのその細身ながらに巨大な身体が全力で移動する度に、走るその地が揺れ動く。段々とホロウリーパーに近付かれているフィリアにとっては尚更だった。

 大振りに横に薙ぐ鎌を、怯んだフィリアに変わってアキトが防ぐ。剣が削れる音は、時に恐怖の他に嫌悪感すら抱く。歯を食いしばって剣を振り上げ、その軌道を頭上へと逸らす。フィリアの手を引いてボスの眼下から外れると、アキト達へと頭が動いた瞬間に、ソードスキルを発動したクラインの刀が振り下ろされる。首辺りに強い衝撃波が流れ、ホロウリーパーのHPが削れる。だが、クラインの刀が挟まった首元を強引に揺さぶり、クラインを吹き飛ばした。

 

 

 「っ……らあっ!」

 

 

 フィリアを安全な距離まで引っ張った瞬間にその身を翻し、クラインを狙うホロウリーパーの右腕の鎌に横側から剣をぶつけるが、ホロウリーパーはそのタイミングで身体を大きく半回転させ、アキトとクラインを弾き飛ばした。

 体勢が崩れたのを見逃すはずもなく、ホロウリーパーはアキトの頭上へとその腕を持ち上げる。アキトは剣を床に突き刺して勢い良く立ち上がり、振り下ろされる鎌を片手剣で受け止めた。

 

 

(くっ……前よりもかなり、重────)

 

 

 片膝が地面へと落とされる。ゆっくりと前傾姿勢になりつつあるアキトの脇腹を、ホロウリーパーは見逃さない。空いた片腕の鎌をアキトの脇腹へと滑り込ませていく。

 

 

 「しまっ────」

 

 「せぇい!」

 

 

 立て直したフィリアがすぐさまアキトと迫り来る鎌の間に割り込み、その短剣でどうにか防ぐ。が、火花を散らしながらジリジリと押されていく。

 以前よりも強い──そんな事は分かっている。けどそれだけじゃない、目の前のホロウリーパーがアキト達に向ける視線は、それだけじゃないように思えた。妄執にも似た概念を感じる。

 こちらを見下ろしながら、咆哮が轟く。耳を抑えたい衝動に駆られる。

 

 

 なんだ、コイツは────

 

 

 「おらあっ!」

 

 

 クラインが咄嗟に、アキトを潰そうとしている大鎌をソードスキルでかち上げる。身体が軽くなったアキトはすぐさま隣りで競り合っているフィリアの前にはだかる鎌を、フィリアの前に滑り込ませ、そのままいなした。

 そのまま身体が流れたホロウリーパーを他所に、アキト達はホロウリーパーから離れるべく駆け出した。

 

 

 だが────

 

 

 ホロウリーパーは次の瞬間、攻撃しようと上げていた腕の鎌を下ろし、すぐに周りを見渡し始めた。

 アキト達が目を見開く最中、こちらを見付けた骸百足は、ぐるりとその上体を反転させ、こちらに向かって一気に駆け出した。

 

 

 「っ!?」

 

 

 その対応の速さが、彼らを困惑させる。目を見開く暇もなく、ホロウリーパーは近付いて来る。

 そして、その鎌を思い切り横に薙いだ。

 

 

 「ぐあっ!」

 

 「きゃあっ!!」

 

 「がっ……!」

 

 

 吹き飛ばされ、転がって、地面を滑る。

 漸く止まったと思えば、その視線の先には骸骨の頭がこちらを見据えていて。決して、油断も隙もそこには無かった。

 アキト達は見上げ、歯軋りする。

 以前より圧倒的な雰囲気を纏う奴は、それに恥じない強さだった。

 

 

 

 

 

 

 

 この骸百足と戦うのは、誰もが二度目だった。だが、以前戦った時よりも確実に強いと、そう断言出来た。クラインに関しては、75層の時の方が手強く感じているのかもしれないが、このホロウリーパーとの戦闘ではこちらの人数が少ない分、その強さを余計に肌で感じた。

 ダメージは確実に当てられているとはいえ、奴の反応速度は明らかに異常だった。完璧に隙だったはずの懐への攻撃を一瞬でいなし、視界からプレイヤーが外れようものなら、すぐさま首を動かして近くのプレイヤー、もしくは攻撃してきたプレイヤーに焦点を当てた。

 ポーションを飲む時間すら中々にとらせてくれなかった。今までなら、誰かがヘイトを稼いでいる間にローテーションで回復するのがセオリーだったはずなのだが、このボスはそれを理解しているような動きに思えた。

 態々ヘイトを無視してまで体力を回復しようとしている者を強引に攻撃してくるのだ。それが無理なら、範囲攻撃が届く範囲まで近付き、すぐさまそれを実行する。明らかに他のモンスターとのアルゴリズムが違う。違い過ぎた。

 奴は理解している。長期戦のリズムを崩す、その方法を。

 

 

 「……オメーら、大丈夫か?」

 

 「うん。二人とも、今のうちにポーション飲んで」

 

 「分かった」

 

 

 ホロウリーパーが怯み、体勢を崩して倒れたその瞬間に距離をとり、すかさずポーションを取り出す各々。漸く出来た分かりやすい程のボスの隙。だが、追い討ちをかけられる程に、HPの余裕の無かった彼らは、追い討ちよりも自身の体力を優先するしかない。無論、それらを飲みながらも警戒は緩めない。

 見つめた先にいる骸の百足は、暫く動かなかったが、やがてその大量の脚で踏ん張りながら立ち上がり、ゆっくりと首を回してこちらを向く。開いた口からは白い吐息が煙のように吹き出ていた。

 アキト達を固まらせない、隙を作らせない、回復させない、見失わない。これらを徹底したような、それをルール付けされたような動きに、アキト達はすっかりやられていた。

 どうにか距離を置きながら連携してきたが、ここまでの長期戦になるとは思わなかった。精神的にも疲労が蓄積し始めており、もはや何十分、何時間経ったのかさえ良く分からなかった。

 

 現在、ホロウリーパーのHPバーが色付いているのは一本のみ。どうにかここまで減らす事に成功はしたものの、この長い戦闘と、思い通りにさせてもらえない事によるストレスで、思考が鈍り始めて来ていた。

 ホロウリーパーは、体力が減っても尚まるで衰えを知らない。

 アキト達に突き刺すその眼光は、未だに鋭かった。様子を見るかのように、固まって動かない。

 そんなホロウリーパーに、アキトはやはり違和感を覚えた。

 

 

 「……なんか、さ」

 

 

 そんな中ポツリと、フィリアは口を開いた。

 一瞬の静寂の後、アキトとクラインはフィリアへと視線を動かす。

 

 

 「あのボス、今までこの《ホロウ・エリア》で戦って来た他のボスと、雰囲気が違う気がするの」

 

 

 それは、アキトがたった今感じていた事そのままだった。

 目の前のホロウリーパーは、かなりの反応速度でアキト達に狙いを定める。先頭の中で何度か視界から外れようと変則的な動きを織り交ぜたが、すぐに攻撃を止めて頭を上げ、アキト達を探し始めていた。それほどまでにアキト達に執着したような動きを見せているのだ。

 まるで、こちらの戦術を理解しているような。

 

 

 そう。奴も、こちらも。

 出会うのは二度目。

 あの時は、アキト達が勝った。75層では、クラインやキリト達に敗れた。つまり、ホロウリーパーにとって、アキト達は自身を負かした相手なのだ。

 それを理解した時、アキトは感じていた違和感について、何処か納得した様子で呟いた。

 

 

 「……アイツにとって俺達は、リベンジの相手なのかもね」

 

 

 

 

 ────リベンジ。

 

 その言葉が、クラインの頭に響いた。思わず顔を上げ、視線の先真っ直ぐを見据える。

 満身創痍ながらもこちらを睨み付け、絶対に負けないと、そんな不変の意志を感じさせるモンスターがそこにはいた。

 ふと、75層の記憶が蘇る。クラインはその光景に、自ずと瞳が開かれた。

 絶望を感じるだけだったあの時の戦闘。友人を一人で行かせてしまった、後悔の念。

 あの日の事を、毎日のように悔やむ。偶に夢にだって見る。

 もうあんな想いはしたくないし、させたくない。そんな想いが、これまでずっとクラインを動かしていた。

 守られるだけじゃない。助けられるだけじゃない。この戦いで、自身が成長した姿を、キリトに見せてやるつもりだった。

 

 目の前の敵は、リベンジするべき相手だと思っていた。だが奴にとっても、自分はリベンジの対象だったのだ。

 

 

 「……」

 

 

 クラインは、拳を強く握る。そして、すぐ横で剣を構えるアキトを見下ろした。

 思い出す。ここに至るまで、自分はこの少年に何度も救われて来た事を。アスナを立ち上がらせ、シリカに道を示し、リズベットを守り、リーファに付き合い、シノンを育て、エギルを窮地から救い、フィリアを助け出し、ユイを笑顔にさせてくれた。

 自分達はここまで何度も、彼に甘えて来た。

 

 

 何度も何度も。

 

 

 「っ……!」

 

 

 ホロウリーパーの呻き声が聞こえる。

 体勢を立て直し、完全に調子を取り戻した骸百足は、軋る骨組みを操り、ガタガタと音を立てる。傀儡にも似たその音は、ホロウリーパーが茅場晶彦というゲームマスターに操られている事実を隠喩しているようだった。

 フィリアとアキトは剣を構え、ゆっくりと脚をこちらに向けて踏み出すホロウリーパーに視線を固めながら、互いに意見交換を始める。

 

 

 「……苦しいけど、さっきと同じでヘイト稼ぎを交互にやりながら、他の二人でダメージを与えていくしかないんじゃない……?」

 

 「けどそろそろ攻撃パターンが増える。あの攻撃力と速度じゃヘイト稼ぎは一人じゃ厳しいよ」

 

 

 ならば二人でヘイトを稼ぎ、残り一人がダメージを──と、口には出そうとして留まる。

 これまでだってかなりの時間がかかったのだ。ダメージを与えようにも、ホロウリーパーはいかにダメージを受けないか、それを徹底しているように思えたから。攻撃力だけでなく、防御力も以前より高いホロウリーパー相手に、これ以上の長期戦闘は命に関わる。

 けれど危険が少ない方を、死ぬ可能性が少ない方を選ぶしかない。ならば、危険なヘイトを一人に負わせるわけにはいかなかった。

 

 

 「……俺とクラインでヘイトを受け持つから、フィリアが────」

 

 

 

 

 

 「────ちょっと、良いか」

 

 

 アキトの言葉を遮ってすぐ隣りからそんな真っ直ぐな声が聞こえた。

 そこには、刀を下ろしたクラインが立っていて、ただ真っ直ぐにホロウリーパーを睨み付けていた。

 

 

 「ヘイト稼ぐ役、俺一人にやらせてくれねぇか」

 

 「ぇ……」

 

 

 そのクラインの言葉に、アキトはそんな情けない声しか出せなかった。一瞬、何を言っているのか分からなくなるほどに、その一言は残酷だった。

 

 

 「なっ……だ、ダメだよそんなの!危険過ぎるよ!」

 

 「もう大分時間かかってんだ、これ以上時間かければジリ貧だろーが」

 

 

 フィリアの慌てての反対に正論をぶつける。アキトが今まさに考えていた事を、クラインも考えていたのだ。伊達にずっと攻略組だったわけではない。

 けれどアキトは、それでもクライン一人にそんな重荷は背負わせられなかった。

 

 

 「……確かにそうだけど、でも流石に一人でやらせる訳には……」

 

 「……悪ぃな、アキト」

 

 

 そのクラインの重苦しい声に、壊れてしまいそうな声に。

 アキトは、言葉を詰まらせた。

 クラインは変わらず、ホロウリーパーと睨み合っていて、それでいてその決意は固く見えて。

 

 

 「危ねぇ橋だってのは、分かってるけどよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────クラインは、悔しかった。

 自分よりも、年下の少年達が格好良く見えてしまったから。

 

 キリトとアキト。黒の剣士。

 そんな存在にいつだって守られて来た自分自身が情けなかった。

 本当なら大人である自分達が、子どもを守らねばならない立場のはずなのに。

 

 リベンジと銘打って、今この場にいるアキトとフィリアの負うリスク全てを、自分が受け持ちたいと。

 守ってやりたいと。

 これは我儘だろうか。強引だろうか。罪だろうか。

 

 自身で呟いた、これは危ない橋なのだと。

 けれど、その危ない橋を一人で渡れないようなら、きっといつまで経っても後悔だらけの人生になりそうで。

 向こうに辿り着かなければ。渡りきらなければ。そんな意識に苛まれそうで。何も出来なかった自分を呪うばかりになりそうで。

 

 ただ、キリトやアキトが自分を犠牲にしてまで守りたかったものを、自分も守ってあげたくて。

 守られるだけじゃない。そんな彼らを支え、一緒に戦っていきたくて。辛い時、自分が、自分達が傍にいる事を、理解して欲しくて。

 

 

 

 

 「……ねぇ、クライン」

 

 「っ……」

 

 そんな堂々巡りの中、クラインは自身の名を呼び掛けられるのを感じた。横を向けば、そこには自身がかつて失った親友に良く似た面影を持つ少年がいた。

 こちらを真っ直ぐに見据え、やがてその口を開く。

 

 

 「前に、“仲間が死ぬのを黙って見ているわけにはいかない”って……俺にそう言ってくれたの、覚えてる?」

 

 「あ、ああ……」

 

 

 忘れるわけが無い。キリトがいなくなってすぐに、死に急ぐような無理な攻略をしていたアキトの姿を。

 あの時のアキトが、キリトと嫌なくらいに重なって見えて。彼の胸ぐらを掴んで思った事を吐き出したあの日、キリトと同じギルドにいたという、彼の姿に、クラインは何とも言えない気持ちを抱いたのだから。

 

 

 「仲間を死なせたくないっていうのは誰もが思ってる事なんだって、クラインが教えてくれたんだ。俺も、フィリアも、クライン一人が危険な目に合う事をよく思ってないのは分かってるでしょ」

 

 「……おう」

 

 「……それでも、やるの?」

 

 

 アキトの言葉に合わせ、フィリアが震えるような声で呟く。本当に心配しているのだと、そう実感する。

 けれど。それでも。

 

 

 「やらせてくれ。さっさと倒して、勝って帰ろうぜ」

 

 

 クラインは強く、アキトとフィリアに告げた。

 その意志は不変なのだと。

 

 

 「……」

 

 

 アキトは、そのクラインの表情を見ると、クラインとフィリアの前に出た。

 そして、ホロウリーパーに向き直る。

 

 

 

 

 「────ったく、何奴も此奴もどうしてこう我儘なんだよ」

 

 

 

 

 その冷たい声が、空間に響く。

 何処か懐かしく、そして何より、自分達を引っ張ってくれた声の主が、そこにはいた。

 

 

 「っ……アキト……?」

 

 「お前ぇ……」

 

 

 フィリアとクラインは、アキトのその背を困惑しながら眺める。

 そんな事などお構い無しに、アキトは言葉を紡ぐ。その高圧的で、人を寄せ付けない言葉の数々で。

 

 

 「お前にそんな事が出来るのかよ、クライン。女相手に振り向いてすら貰えないそのツラで、ボスの事を釘付けだなんてよ」

 

 「なっ……テメッ……!」

 

 

 クラインはアキトのそのあんまりな発言に苛立ちを覚えた。

 そして同時に、その正論にぐうの音も出ない。だが、クラインはそうして発破をかけてくれているアキトに、不器用なりの優しさに、思わず───

 

 

 ────笑った。

 

 

(ありがてぇ……偽物じゃねぇ……)

 

 

 クラインはその笑みを抑えきれず、アキトの横に並んでみせた。

 アキトの────アキトとキリトの隣りに、二人のヒーローの隣りに、クラインは並んだのだ。

 

 

 「舐めんじゃねぇ!俺様は攻略組でも年齢でも、お前ぇの先輩だっつの!」

 

 

 刀を構え、胸を張り、そう宣言した。

 もうそこには自信しかない。そんなクラインの姿を見て、アキトも笑った。

 ウィンドウを開き、ストレージにある剣を取り出す。顕現したそれは、鞘と共にアキトの背中に現れた。

 蒼いその剣は、自身に勇気をくれる剣。

 

 《ブレイブハート》

 

 その蒼い剣を引き抜いたその立ち姿は二刀流、かつての黒の剣士。それに勝るとも劣らない。

 その左目はまた少し黒く染まり、それでもアキトは変わらない。

 

 

 「『────良いぜ、クライン。お前のリベンジに付き合ってやる』」

 

 

 ホロウリーパーは残りの力を振り絞るかのような、悲鳴のような咆哮を上げる。

 振動と吹き荒れる風が三人を襲う。砂塵が舞い、目を細めるが、それでも決して、この想いは止められない。止まらない。

 フィリアも、そんな二人に並んだ。その短剣を強く握り、その瞳は闘志に満ちていた。クラインのその想いに応える為に、全力で戦うと決めたのだ。

 

 骸百足は、その鎌を振り上げながら、こちらに迫り来る。その速度は段々と上がり、徐々にその差を縮めて来ている。

 

 

 「『二人とも』」

 

 

 アキトは二本の剣を構えて、左右の二人に呼び掛ける。

 言わなくても分かってるだろう。けれど、それでもアキトは口にする。

 

 

 「『勝って、生きて帰るぞ!』」

 

 「うん!」

 

 「当ったりめぇよ!」

 

 

 アキトとフィリアはクラインを中心にして左右に散る。ホロウリーパーがその動いた二人のうち、アキトに視線を向けた瞬間に、クラインが懐に飛び込む。

 

 モンスターのヘイトは基本的に、ダメージを多く稼いだプレイヤーに向くのが一般的だ。ホロウリーパーは変則的な動きは多いが、その定石に当て嵌っていた。

 単体の攻撃力ならアキトが一番だが、クリティカル補正の高い刀スキルを使うクラインなら、ヘイトを担うに申し分無い力を持っているのだ。

 

 

 「こっちを、向けぇ!」

 

 

 刀二連撃技《幻月》

 

 ライトエフェクトを纏った刃が、百足の胸元に思い切りヒットする。ヒットした場所を中心に火花が飛び散った。

 ホロウリーパーは自身に起きた事象を探るべく胸元へと視線を下ろし、クラインを見つける。

 途端に、その口を開き、怒りの眼でクラインを見下ろした。

 

 

 「よお……お互いにリベンジの相手なんだ、仲良くしようじゃねぇか」

 

 

 それに応えるように、ホロウリーパーはクラインに右腕の鎌を振り下ろす。クラインはそれをいなし、すぐに左腕の鎌を躱す。

 その間、アキトとフィリアはガラ空きの側面にソードスキルをぶつけた。

 

 

 「らぁっ!」

 

 「はあっ!」

 

 

 ホロウリーパーを挟むように、二人は同時にスキルを放った。与えたダメージ量は増大していき、ホロウリーパーは悲鳴を上げる。

 すぐさまダメージを与えた二人に仕返しをしようとその身を翻し────

 

 

 「クライン!」

 

 「おうよ!」

 

 

 その隙を、クラインが突く。再び刀がソードスキルの光を纏い、疎かな足場に叩き付けた。

 ホロウリーパーは咄嗟の事で対処が出来ず、その巨体が揺らめく。畳み掛けるべくクラインはその刀を返す形でぶつける。アキトとフィリアもそこに同調し、着実にHPを減らしていく。

 だがホロウリーパーもすぐさま立て直し、クラインからアキトに視線を向ける。しなるようにアキトに向けて鎌を振るう。

 

 

 「くそっ!」

 

 

 クラインの攻撃よるダメージがアキトが与えたそれを下回った事により、タゲがアキトへとチェンジしたのだ。

 早くも自身の宣言が無駄になる。そんな事はさせないと、クラインは思い切り刀をぶつけるが、ホロウリーパーはアキトに向かってその両腕を振り下ろした。

 アキトは目を見開き、片手剣のソードスキルを発動する。片腕を弾き飛ばした後に、もう片方の鎌を《剣技連携(スキルコネクト)》でいなす。それににより繰り出された剣が鈍い音が響かせ、ボスの左腕すらも弾き飛ばし、ボスを仰け反らせた。

 左右両方の鎌による攻撃を弾いたアキトの技量にクラインとフィリアは感嘆するも、彼が作り出してくれた僅かな隙を無駄にはしない。アキトが仰け反ったボスに肉迫すると同時に二人はボスの左右へと走る。

 

 アキトはホロウリーパーの前脚に向かって片手剣三連撃技《シャープネイル》を繰り出す。斬る対象は骨である為に、手に襲う振動がアキトの顔を歪める。

 そうしている内に、回復したボスが真下にいたアキトを見下ろし、その眼が紅く光る。ギシギシと骨組みが動く音が響き、ボスは鎌をアキトのいる位置へと落とした。

 

 

 「うおらっ!」

 

 

 だがその前に、クラインがボスの側面からソードスキルを放つ。ごうっと凄まじい剣速による風圧が周りを覆った。アキトは瞬時にそこから離脱し、ホロウリーパーと距離を取る。

 HPバーが三本あったホロウリーパーの体力は、既に風前の灯火。だが、その動きに衰えは見られない。

 次の瞬間、ボスはその身を反転させてクライン目掛けて右腕を叩き付けた。クラインは目を見開き、咄嗟に刀を横にして迎え撃つ。

 

 

 「ぐうっ……!?」

 

 

 ────重い。

 その威力にクラインの顔が歪む。

 少しでも力を緩めてしまえば最後、押し切られてしまうと簡単に想像出来てしまう。どうにか地に足を付けて踏ん張るも、ボスのその筋力値にジリジリと床を滑るように後退していく。

 75層でこれよりも遥かに強かったスカルリーパーの攻撃を、キリトは一人で────そう思うと、まだまだ自分はキリトにかなわないのだと、クラインは歯を食いしばる。

 ボスの、ケタケタと軋る骨の音が不快感を助長する。悔しげに奴を見やるも、力を緩めてはくれない。

 それが75層の悲劇を連想させる。一撃でプレイヤーを殺す程のあの攻撃力を。このボスにそれほどの力は無い事は、今までの戦闘で感じ取れていた。

 けれど、この見た目から動きまでの何もかもが同じであるホロウリーパーの存在に、踏ん張っていたはずの足が竦んだ。

 

 

(くそっ……何思い出してんだ……!)

 

 

 キリトをあの時一人で行かせた後悔が、連想させられる。嘲笑うかのように首を動かすホロウリーパーに、恐怖と同時に憎悪を感じた。

 

 

 ────だけど。

 

 

 「クラインどうした!へばったか!?」

 

 

 止まれない。視界の端に、こちらを馬鹿にするような顔で、少年が発破をかけてくれているのだから。

 

 

 「──んなわきゃ無ぇだろうが!」

 

 

 ホロウリーパーの右腕の鎌と競り合いながら、その刀が輝く。それは、ここまで何度も放って来たSAOプレイヤーの御業。ソードスキル。

 クラインは両手で刀を掴み、一気に上へと押し上げた。

 

 

 「おらああぁぁっ!」

 

 

 刀範囲技《旋車》

 

 腰を起点に腕を振り上げ、ホロウリーパーの右腕を空中へとかち上げる。だがその視界の端に、左腕が落とされるのを目視する。

 

 

 「っ、クライン!」

 

 

 フィリアの叫びがクラインの鼓膜を震わせる。

 アキトとフィリアの焦りの表情が、その瞳に映る。

 

 ────なんて顔してんだよ。

 

 そう、苦笑いする。けれど、心配なんかいらない。

 両腕を上げているクラインの脇腹を、その大鎌が襲う。けれど、怖くはない。

 威張るだけじゃない。見栄を張るだけじゃない。

 

 

 今こそ、『強がり』を『強さ』に────

 

 

 

 

 コネクト・《緋扇》

 

 クラインは目を見開き、上段の構えになっていた刀が光を帯びる。迫り来る鎌を一瞬で叩き落とし、そのまま懐に滑り込む。

 

 

 「────っ!」

 

 

 奴にとっての完全な不意を、クラインは見逃さない。

 流れるように刀を横に振り抜き、反対側から切り返す三連撃が、ホロウリーパーの体勢を崩した。

 

 

 「嘘っ……!?」

 

 「クライン……!」

 

 

 フィリアとアキトは驚きのあまり顔が引き攣る。特にアキトは、クラインの今の動きに、確かに高揚した。

 あれは、間違い無く────

 

 

 「《剣技連携(スキルコネクト)》……!」

 

 

 しかも、刀スキルから刀スキルへの連携(コネクト)

 本来刀スキルは両手を使って放つものばかり。だから片手剣のように、剣と拳を交えた連携は行う事は難しい。

 ましてや、剣から剣へと繋げるだなんて、二刀流じゃなきゃ出来ないと思っていたし、アキトですら刀での《剣技連携(スキルコネクト)》は無理だと決め付けていたのに。

 

 

 「っ!」

 

 

 驚くのも束の間、ホロウリーパーは起き上がり、クラインを見て雄叫びを上げる。奴の目は、もうクラインしか見てなかった。

 アキトは、その足で大地を強く踏み締めて駆け出した。その黒いコートを翻し飛び上がり、奴の背中を捉える。

 

 ホロウリーパーが硬直で動けないクラインへとその鎌を掲げ、クラインの表情が焦燥に歪む。それを見たアキトは、咄嗟にその二刀を構えた。

 

 

 ────させるものか。

 

 ────お前が教えてくれたんだ、クライン。

 

 

 「届け……!」

 

 

 二刀流突進技《ダブル・サーキュラー》

 

 回転しながら加速し、ホロウリーパーの背中に衝撃が走る。骸の頭は跳ね飛び、前のめりになった。

 

 

 「っ……アキト!」

 

 

 クラインが驚く中、空中でアキトが叫ぶ。

 

 

 「フィリア!」

 

 「分かってる!」

 

 

 倒れんと上体を支える鎌に、フィリアが迫る。その短剣がエメラルドに煌めき、その身に風が纏われる。

 

 短剣奥義技四連撃《エターナル・サイクロン》

 

 その鎌鼬にも似た斬撃が、体力の限界を迎えていたボスのその鎌にヒビを入れる。やがてそれが硝子のように崩れ、潰れていく。

 奴が倒れたその前に立つのは、刀を持ったクライン。

 

 

 「フィリア……アキト……!」

 

 

 呼び掛けた彼らは、小さく笑い、頷いた。

 二人がホロウリーパーに向けて、勢い良く指を指し示す。二人は最後の一撃を、クラインに委ねていた。

 

 

 ────そこで止まるな。

 

 

 クラインは何故か泣きそうになるのを必死に堪え、目の前で崩れるホロウリーパーへ向かって駆け出す。

 その刀がライトエフェクトを纏う。クラインの意志を表すように。キリトの守りたかったもの、アキトの守りたいものを、自分も守れるように。

 決して消えない灯火を、繋げて歩いて行けるよう。

 

 キリトとアキトに約束しよう。

 ゲームをクリアする、その手助けに、頼られるような男に、そんなプレイヤーになる。

 

 

 だから────

 

 

 

 

 「『いっけえええぇぇえ!クライン!』」

 

 

 「うおおおぉぉぉぉぁあああ!!」

 

 

 刀奥義技五連撃《散華》

 

 アキトの声に重ねるように、クラインが高らかに叫ぶ。

 煌めく閃光が、吸い込まれるようにホロウリーパーの胴体に傷を入れる。想いが、意志が、その身に刻み込まれていく。

 

 

 そして、全てを受け切ったホロウリーパーは動きを止め、青白い光を放ちながら爆散していった。

 

 

 光の破片が空へと舞い上がり、辺りに静寂が広まる。

 誰もがその場から、足を動かす事が出来なかった。

 

 

 「終わった……のか……」

 

 

 そんな静寂を破ったのは、アキトの情けない声。手に持つ二本の剣を力無く地面へと落とし、そのまま床に崩れた。

 フィリアも脱力し、そのまま地面へとへたり込む。

 

 

 ────勝った。

 

 

 それを受け入れるのに、少しばかり時間がかかった。けれど事実として、あれほどの長期戦に打ち勝ったプレイヤー達が、そこには居た事に変わりはなかった。

 

 

 「……」

 

 

 最後の一撃を決めてから、刀を下ろすでも無く固まっていたクラインは、よろよろと震えたかと思うと、その場に腰を落とした。何もかも使い切って、電池切れを起こしたように、糸が切れたかのように、尻餅をついた。

 

 

 「……はは」

 

 

 自然と、その口から笑みが溢れた。小さく、けれど明確に。

 クラインのそんな様子にアキトとフィリアは困惑しだす。心配するような表情で、彼を見つめる。

 そんな彼らに目を合わせたクラインは、笑いを止められなかった。

 

 アキトとフィリア。自分と共に最後まで戦ってくれて、最後の一撃を任せてくれて。

 踏み出す一歩を、歩み出すきっかけを、何よりも二人が与えてくれた。

 

 

 「……やっぱスゲーな。俺の仲間はよ」

 

 「っ……」

 

 「クライン……」

 

 

 アキトもフィリアも、そんなクラインの笑った顔を黙って見つめていた。やがてフィリアはそんな彼を見て、呆れたように、それでも嬉しそうに笑った。

 アキトは汗で濡れた髪を頬に付けながら、クラインの言葉を聞いて、そして彼の笑った顔を見た。

 

 

 その瞳に僅かばかりの涙が見えたのは、きっと幻じゃない。

 

 

 ────俺は、クラインの手助けが出来たんだろうか。

 自分に自信が持てないアキトは俯き、そんな事を思う。だがすぐに、そんな考えは止めた。

 

 

 

 その問いの答えは、今この場にいる、彼の笑顔だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──Link 70%──

 








クライン 「せい!……ん? ふんっ……ありゃ?」

クライン 「おりゃっ!……ほっ!ぬぅっ!うりゃあ!」

フィリア 「……クラインは何してるの?」

アキト 「剣技連携(スキルコネクト)だってさ。あれ以来一回も成功してなくて……」

フィリア 「掛け声変えては首捻ってるけど……意味あるの?」

アキト 「無いと思う」

クライン 「あれぇ?……あれれぇ?(錯乱)」


※マグレでした(ニッコリ)

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