ソードアート・オンライン ──月夜の黒猫──   作:夕凪楓

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ただ祈ろう、全てが、手遅れになってしまわぬように────






Ep.92 災いの紫水晶

 

 

 

 

 

 《アレバストの異界》

 

 

 アキトの放った()のダメージで限界が来たのか、女王虫は再びフィールドから離脱し、森の奥へと消え行った。再び森は静寂と化し、取り残されたのは心身共にダメージを受けたアキトとシノン、そしてフィリアのみ。

 互いに呼吸は荒く、声を発する事は無く、ただこの雰囲気に合わせているのか口を噤いで互いに視線を動かすだけ。

 シノンのすぐ近くに落ちた《ブレイブハート》は、この闇色の空間に照らされているせいか、その蒼さは失われ、何かに侵食されているように見えた。

 それは錯覚だと分かっている。けれど、シノンが見たアキトの身に起こった現象は決して夢幻などでは無かった。

 

 シノンの弓《アルテミス》を使って剣を射放ったアキトは、戦闘が終わった事実を認識すると脱力し、深く息を吐いた。覚束無い足取りでシノン、フィリアの元へと歩き出すも、戦闘が終わった事への安心感と頭の痛みが引いた事による脱力感からか、やがて震えていた足がアキトのバランスを崩した。

 

 

 「っ、アキト……!」

 

 「大丈夫……?」

 

 

 シノンとフィリアはすぐさま駆け寄り、アキトの元へ膝を付く。アキトは顔を上げ、何でもないよと小さく笑う。

 彼のその対応が、シノンの心をまた締め付ける。自分を蔑ろにするその行いに、気がどうにかなりそうだった。

 先程の光景は今も尚鮮明に、この目に焼き付いている。何かに蝕まれているかのように苦しむアキトの姿を見るのはこれで二度目。シノンが知らないだけで、その頭痛は以前から起こっていたのかもしれない。もし頭痛の感覚が短くなっているのだとしたら。そう思うと血の気が引いた。

 このまま《二刀流》を使い続けていたら、また────

 

 

 「ねえアキト、さっきのアレは何なの?頭、凄く痛がってたけど……」

 

 

 森と同じように静寂で包まれた空気の中、フィリアが不安そうにアキトに問う。

 それは当然だ、彼女は何も知らないのだから。アキトの状況も、キリトの事も。殆ど状況証拠のみで、何の説明もされていない彼女にとって、アキトが頭を抑えて苦しむ状況は未知のものだった。

 先程アキトが一瞬だけ、その姿をキリトのものへの変えた。その瞬間を見たのはシノンだけで、フィリアはボスの時間稼ぎをしていた為にその事実は知らないが、それでもフィリアはアキトの頭痛という事象だけで彼に詰め寄る事が出来た。

 仲間の状態、それがとても心配で。

 

 

 「何かの状態異常とか?けど頭痛なんて聞いた事……もしかして、現実世界で何かの病気、とか……だとしたら私──」

 

 「本当に大丈夫だから。心配しないで」

 

 

 半ば食い気味にそう答えたアキト。小さな笑みは未だ変わらず、そしてその笑顔こそ、こちらの心配を緩和させるように仕向けるそれだった。

 

 

 「っ……」

 

 

 シノンは、我慢していたものがどんどんと自身の心に溜まって来ているのを無意識に感じていた。

 アキトのその振る舞いが、その態度が、言動の一つ一つが癇に障る。怒りにも似た感情が身体を震わせた。

 

 

 彼のその言葉が誤魔化しのものだと、シノンだけでなくフィリアも理解していた。それでもアキトはその事を言及しても決して口を割ったりしないだろうという絶対の予感があった。

 

 

(私、アキトの事何も知らない……だからアキトがそう言うなら、きっとそうなんだなって納得するしか無い……けど……)

 

 

 ────本当に、大丈夫なの?

 

 

 「っ……」

 

 

 なんて、言えるわけが無くて。疑っていると、信頼していないと、そう思われたくなくて。フィリアは思わず口を噤んだ。

 そんな彼女に気付く事無く、アキトは立ち上がって森の奥へと視線を動かした。その方向は、先程まで自分達が相対していたボスが飛んで行った方角でもあった。

 

 

 「……そんな事より、また逃げられたな……」

 

 「え……あ、うん。ボスだけあって手強いね。あともう少しまで追い詰めたのに……」

 

 

 疲労が表情に現れる。だが、恐らく次が最後ではないかとアキトは考えていた。

 あのボスのHPバーは三本。最初出会った時に減らしたHPバーは一本、今回は二本だった。なら次で全部削り取れると考えるのが常。そう考えれば、この戦闘もあと一回だ。自ずとやる気が出て来る。

 だがその前に、アキトは今一度しゃがみ込み、短めの茶色がかった髪の少女に近付く。弓に触れるその指は細く、脆く見える。

 アキトは、目の前に座り込むシノンと目線を合わせ、その顔色を伺う。

 

 

 「シノン、大丈夫?」

 

 「……何が?」

 

 

 シノンの声は、心做しか小さい。けれどアキトは、構わず自分が心配していた事を告げた。

 

 

 「その……さっき俺を庇って、ボスに……」

 

 

 アキトは言いづらそうに口を開く。それは、先程の頭痛に襲われて動けなかったアキトを守るべく、シノンがボスの突進を受けた事についてだった。

 シノンが目の前でボスに吹き飛ばされたあの時は血の気が引いた。アキトは仲間を失うかもしれないという恐怖でどうにかなりそうな心を抑え、シノンの弓で剣を放つといった離れ業に出たのだ。上手くいって良かったが、もし失敗していれば、今頃シノンがどうなっていたか分からない。

 あの時自分が動けなくなった事に苛立ちもあったが、それよりもシノンの方が心配だった。

 だがシノンは俯くだけで、こちらを見はしなかった。前髪でその瞳の色は伺えないが、小さく開かれた口は言葉を音にし始めた。

 

 

 「ええ……平気だから」

 

 「……そ、そっか……良かった……」

 

 

 アキトは本当に安心したように脱力し息を吐く。肩の荷が下りた後の安心感にも似た気分が彼に押し寄せた。

 自分を庇って仲間が死ぬ、なんて事になったらどうなっていたか想像すら付かないし、想像だってしたくない。

 今回シノンがした事は、アキトにとっては許容し難いものでもあった。

 

 

 「……けど、もうあんな無茶はしないで欲しい。君が危険な目に遭ったら、俺は……」

 

 

 「……っ」

 

 

 シノンは、俯くその表情を強張らせた。自分の命が助かった事に対する感謝の言葉より先に、シノンの身を案じるその姿勢は美徳なのかもしれない。けど、今のシノンにとっては聞き逃せないものだった。

 弓を掴んでいた力が強くなり、その腕が震える。唇を噛む力もそれに合わせて強くなり、やがてその気持ちは抑え切れないものに変わりつつあった。

 

 

 「……貴方が、それを言うの……?」

 

 

 「ぇ……」

 

 

 そのか細い声は、アキトに届いていた。伸ばしかけていたその手が止まり、シノンへとその視線が固まる。

 フィリアには聞こえなかったようだが、シノンのその様子の急変には、少なからず違和感を覚えた。

 

 

 「シノ、ン……」

 

 

 アキトのその呼び掛けに、彼女が応える事は無かった。アキトの目線から態と外れるように立ち上がったシノンのその表情は、以前と変わらぬ冷静さを取り戻しているように見えた。

 

 

 「……何でも、ないわ。ごめんなさい。回復はもう済ませたし、早く追いかけましょう」

 

 「っ、あ、シノン、待って……!」

 

 

 アキトから、ゆっくりと弓を取り上げる。その背に担ぎ、短剣をしっかりと腰の鞘に収めた。いつもと変わらぬように平静を装うその姿は完璧で、パッと見ではシノンが怒ってるのか、悲しんでいるのか、呆れているのかさえ分からない。

 その場から離れたいがためなのか、歩く速度は少し早く、フィリアは慌ててその背を追いかけていた。

 何も言えず、アキトはそれにつられて立ち上がる。シノンの視界に、もう自分は映ってはいなかった。アキトは、そんな彼女を見つめながら、先程のシノンの言葉を頭の中で反芻させていた。

 

 

 

 

 ── ……貴方が、それを言うの……?──

 

 

 

 

 「っ……」

 

 

 その言葉は、尤も過ぎた。その自覚すら、アキトにはあった。なのに、その行いを正そうとしていなかった。自覚はあったのに、意識はしていなかったのだ。

 それは、つい先日クラインに言われた事を連想させる。

 アキトがみんなを想っているように、みんなもまたアキトを想っている。心配はお互い様なのだと。

 今、シノンからそれを思わせる言葉を告げられた。それは、アキトが全く反省していない事が顕著に現れていた。

 

 

(シノン……)

 

 

 既に自身の目の前を歩き、次のエリアへと視線を向けるシノンとフィリア。シノンに関して言えば、先日と今日、この身に起こる異変を目撃されてしまっている。

 優しい彼女なら、こちらの心配するのは当然だった。それを、誰よりもアキトが分かってなきゃいけない事だったのだ。

 それなのに、自身を助けてくれた彼女に対してアキトが放った言葉は感謝ではなく、仲間を失うもしれないとという恐怖から出た、無茶を制する言葉だった。

 彼女は自分を守ろうとその身を挺してくれたのに。彼女は自分と同じ事をしていただけなのに。

 なら、自分はシノンに無茶するな、なんて事は言えないはずなのに。

 

 

(……でも、俺は……)

 

 

 ────ずっと、自分を認めてくれる存在が欲しかった。

 自分がいる、居場所はここに、そうしてその場に立つ事を許される世界が欲しかった。

 ヒーローになりたい。そんな願いは、ただ誰かと関わり、笑顔を向けてもらう為の建前に過ぎなかった。

 そんな存在に出会ってしまったアキトがした事は、失いたくない、その為に出来る精一杯の努力。

 自分の居場所は、自分が守る。仲間の事は何よりも大事で。

 

 これまでたくさんのものを失って、手に入れて。その何もかもが初めてで、知らない事が多過ぎた。それを失わぬように、守る為にと強さを渇望した。

 自分が強くなれば、と。そればかりで。

 

 いつだって、自分が、自分が、と。

 

 輪の中にいたはずなのに、そんな風に息巻いていたのは自分一人だけで。守る、背負う、それだけで。自分一人で決め付けて。

 誰かに頼る、力を合わせる、そんな考えは思い付きもしていなかった。

 仲間は守るものだと、何処か決め付けていたのかもしれない。そしてそれは、彼らの力を信用していない事と同義なのかもしれないと、そう悟った。

 

 

 だからこそアキトはまだ、誰かを頼る事に慣れていなかった。

 

 

 以前、アスナからも頼るよう言われたのを思い出す。クラインに言われた事も相まって、まるで成長していない自分を今にして突き付けられた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

 《女王の寝所》

 

 闇色の濃霧が立ち込め、先程よりも視界が曇る。が、奥へ奥へと進む内にそれは晴れていき、逆に現れたのは、蛍のような小さな光の数々。

 幻想的に見えるも、油断させるものだと己を律し感動は排他する。辺りを見渡すその警戒の用心さ深さには、油断の色は伺えない。

 そして何より、この場の雰囲気は他のエリアボスと対峙する前のフィールドの雰囲気に酷似していた。

 等間隔を保ち、一定の速度で、敵の出現に遅れを取らぬよう心掛ける。来るであろうその時に、油断は決してしないよう。

 

 

 「……」

 

 

 ────シノンはチラリ、とアキトに視線を走らせた。

 弓を構える姿勢は構えず、添える矢に意識は集中させている。しかし、やはり気になるのはアキトの様子だった。

 

 

 「っ……」

 

 

 そして、再び瞳が揺れる。

 アキトはその手に紅い剣(リメインズハート)蒼い剣(ブレイブハート)を躊躇いなく装備していた。それは《二刀流》、彼を蝕むであろう呪いのスキル。

 

 ────どうして、という問いかけは最早愚かだった。

 

 だが、《二刀流》による侵食の事だけじゃない。戦闘に置ける彼の行動もそうだ。シノンのこの思いは、以前から感じていた事だった。ずっとアキトの在り方に不安を抱いていた。

 彼の戦闘だって数回しか見ていないが、だからこそその全てを覚えている。

 ボスのヘイトを一人で請け負って耐え忍ぶ場面も、死の危険にあったプレイヤーを庇う場面も、ボロボロになりながらもフィリアの為に奮闘した姿も、アスナの為に強がっていたその姿さえも。

 そして、本当は心に何かを抱えていて、その在り方が自分に重なって。気が付けば、目で追うようになっていた。

 そんな中で何度も目の当たりにするのは、彼の異常なまでの優しさ。他人の為に自身を犠牲に出来る、歪んだ思想。誰かの為になるのならと、自分のステータスを道具として扱っているかのような危うささえも、このゲームではまだ初心者に近いシノンですら理解出来ていた。

 無償なまでの善意だった。いや、本当に自己満足でしかないのかもしれない。それでも必死になって強くあろうとするその姿勢が、自分を蔑ろにしているその姿勢が、シノンにとっては許容し難いものだった。

 だが本当に、アキトは見返りを何も求めず他人を助けようとしていた。そして、必ず救ってしまう。

 何も要らない。ただ、この空間を守りたかったと。誰かに認めて貰いたかったと、そんな思いを聞いて、シノンは。

 

 

 ────ずっと見て来たからこそ。

 

 

(どうして、こんなにも私は……)

 

 

 消えて欲しくない。いなくなって欲しくない。傷付いて欲しくない。そんな事ばかり考えて。そして、この想いは自分だけのものじゃない。アスナ達だって想っている事なのだ。

 そして、アキトだって。なら、この感情はお互い様なはずなのに。彼はこちらが同じ事をすると、やめてくれと口を開く。

 その矛盾は、とても許し難いものだった。彼は頼んでなくても守ってくれるのに、こちらに彼は守らせてくれないだなんて。

 彼は、その矛盾に気付いているだろうか。

 

 

 

 

 ────そして、そんな自己問答に思考が傾き始めた時に限って、ボスは突然現れる。

 

 

 

 

 「「「────っ!」」」

 

 

 

 

 ズシン、と地響きが起こる。それは、空からボスが落ちてきた事による衝撃波だった。三人は気を張っていたにも関わらずたたらを踏む。そして、ふらつきながらも落下してきた存在に目を向けていた。

 三度目だというのに薄れる事も無く、飽きる事も許されない圧倒的存在感。数多の虫の長所を融合させたかのような歪な形のそれは、その黄色い眼を光らせ、甲高い虫特有の奇声を放ち始めた。

 

 

 《Amedister The Queen(アメディスター・ザ・クイーン)

 

 

 この《アレバストの異界》エリアを統べるボスであり、この《ホロウ・エリア》で倒すべき最後のボス。奴を倒す事で、始めて管理区地下の中央コンソールのあるダンジョンへと足を付ける許可を手にするのだ。

 だが、戦う度にそのステータスを上げていく目の前の難敵の雰囲気は、先程とは打って変わって強者のものだった。この異界の森の最奥であるこの場所は、奴がもう逃げも隠れもしない事を三人に知らしめると同時に、ボスとしてのステータスを奴が取り戻したという事実を突き付ける。

 

 

 そして不幸にも、警戒を緩めていたシノン付近に、奴は着地しており、油断していたシノンは、地響きで足元を崩して地に両手を付けていた。

 

 

 「っ────シノンッ!」

 

 

 フィリアが叫ぶと同時にアキトが地面を蹴る。《二刀流》スキルの中にある突進技の一つ、《ダブル・サーキュラー》で一気にボスの元へと移動した。

 シノンとボスの間に割り込み、シノンへと振り下ろされる片腕を二本の剣を交差させる事で受け止める。

 

 

 「早く下がって!」

 

 「っ……!」

 

 

 遠距離攻撃が強みのシノンがボスと距離を詰めるのは愚策。シノンは一瞬で理解し、すぐさま後方へと走り出した。入れ替わるようにフィリアが飛び出し、ボスの側面にソードスキルを叩き込む。だが、HPバーを一瞥して分かるのは、与えたダメージ量が二度目の戦闘よりも減っているという当然の事実だった。

 防御態勢から抜け出るべく、アキトは流す形でボスの腕を地面へ落とす。見下ろしてくるボスの眼光を浴びながら、アキトは流れるような動きでボスの側面を沿って動く。それに合わせてボスが方向を変え始め、常にアキトを視界に収めるようその細い脚を動かした。

 そうしてアキトを追い掛けるボスのその背がガラ空きとなり、瞬間、シノンは翻ってその矢を引き絞る。

 

 

 「いけっ────!」

 

 

 射撃単発技《エイムシュート》

 

 一撃、故に強力。《射撃》というユニークスキルで初期の内に覚える使い勝手の良いスキル。連撃数という概念が希薄な弓だが、その一撃に込められた攻撃力はユニークスキルだけあってやはり群を抜いていた。

 解き放った矢は白銀の光を纏い、軌道が逸れる事も無く、ボスの蠍のように反り立つ腹部に見事命中した。背後からの攻撃によるボーナスとクリティカルヒットダメージで、ボスのHPを目に見えて減らしていた。ボスがよろめくその姿に手応えを感じる間すら惜しく、すぐさま第二の矢を弓へとあてがう。

 ボスの怯みを見逃さず、アキトは一瞬でボスの視界から外れる。ボスを挟んだ向こうにいたフィリアは、それに合わせるよう移動し、すれ違いざまにボスの脚に刃を当てていく。

 減り行くHPをその都度確認し、互いに位置を把握する。一回目、二回目よりも研ぎ澄まされる連携は、共に居た時間の長さを顕著に示していた。

 

 

 「はぁっ!」

 

 

 フィリアの短剣技《インフィニット》がボスの脚元を崩す。途端、女王がこれまで以上に高音の奇声を上げた。同時に、自身の周りを駆け回るプレイヤーを虱潰すかの如く、毒の弾丸を撒き散らしていく。

 

 

 「っ!フィリア!」

 

 「くっ……!」

 

 

 慌てて叫ぶアキトの声に応えるように、フィリアがローリングで毒を躱す。そのまま離脱しようと身体を持ち上げ、地面を蹴り上げる。

 だが、安堵する間も与えてはくれない。奴が飛ばした毒の弾丸は一つではなかった。

 

 

 「シノン!」

 

 「っ……!」

 

 

 その弾丸の一つは、後方にいるシノンの元まで飛んでいく。飛来する毒の威力は落ちる事無く、彼女へ向かって一直線へ。

 シノンは目を見開き、瞬時に横へ飛んで躱す。一瞬でも遅れていれば、猛毒状態だったろう。

 そして、地面を転がりながら移動したのも束の間、シノンは体勢を完全に立て直す前に、既にその弓を構え、矢を女王虫へと向けていた。

 

 射撃技《ヴァレスティ・レクト》

 

 矢を次々と連続で発射する。流れるような手つき、それも、体勢を立て直すどころか、弾丸が飛んで来ても避けられるよう、そのまま移動しながら放っていた。

 にも関わらず、撃ち込んだ矢の全てが、吸い込まれるようにボスの身体へ。

 呻くボスの近くで、アキトが目を見開く。不完全な体勢でのソードスキル発動は勿論の事、走りながらの連続射撃。

 

 

(移動しながら、これほどの正確な射撃を……!?)

 

 

 シノン自身、弓を手にしてからまだそれほど時間も経ってないはずなのに、まるで身体の一部のように扱い、奴の攻撃を警戒しての移動。走っていては照準が定まるわけがない。だが、シノンが放つ全ての矢が、ボスの身体に着実にダメージを与えていた。

 

 

(いつの間に、こんな強く────っ!)

 

 

 アキトは途端に大地を蹴る。二本の剣を後ろで寝かせ、そのままボスへと接近していく。シノンがボスの頭部に狙いを定めて矢を放っているおかげで、奴の視界からはこちらの動きを視認し難いだろう。

 今この時が好機────

 

 二刀流五連撃《デッド・インターセクション》

 

 比較的肉質の柔らかそうな胸元に、そのスキルをぶつける。シノンだけでなく、こちらもユニークスキルで応戦。使い手がかつての英雄に劣る勇者でも、この力は《魔王》を倒す、その為のスキル。

 

 

 「────はあっ!」

 

 

 短剣技九連撃《アクセル・レイド》

 

 アキトがスキルのフィニッシュモーションに入るタイミングで、フィリアがスイッチの要領でアキトとボスの間に割り込む。硬直を感じつつ、アキトは彼女と入れ替わるように後方へと半歩下がり、そのままシノンへと振り返る。

 そこには、再び矢を構え、ソードスキルを発動せんと立つ彼女がいた。その瞳はただ、強い意志を纏う。

 

 

 「っ────!」

 

 

 射撃技《ターゲット・ウィーク》

 

 ボスの視界は段々と晴れ、自身の真下にいるアキトとフィリアを視認する。鋭い奇声を放ったその瞬間、シノンの矢を持つその手が開く。

 同時に発射されたその矢は、白銀の光煌めかせ女王虫の所へ飛来する。

 だが、何度もくらえば流石に学習するのか、ボスはアキトとフィリアから視線を外し、その飛んで来る矢を受け止めるべく前脚を上げた。

 しかし────

 

 

 「っ!?」

 

 

 その矢はボスの構えた前脚を躱し(・・)、弱点である反り立つ腹部へと突き刺さり、そしてそこから爆風が起こした。

 ボスだけでなく、アキトとフィリアも顔を上げ、驚きの表情を作る。シノンは変わらず、ただ闘志を宿した瞳でボスを見ていた。

 射撃技《ターゲット・ウィーク》。その名の通り、ボスの弱点を狙う為のソードスキル。明らかに狙いと違う方向へと矢を放たない限り、僅かだがボスの弱点を軌道修正しながら向かっていく。

 その驚くべき性能のスキルに、アキトは苦笑した。遠距離攻撃系統のスキルは、どうしたって近接とは違う戦い方になってしまう。前例が無い以上、シノンは誰かにこのスキルの教えを乞う事さえ出来なかった。

 使い手がシノンであるだけで、ここまで化けるスキルなのか。

 

 

 「────アキト!」

 

 

 再びよろめくボスを見て、シノンが叫ぶ。アキトはそれに応えるように、その身を反転させる。

 

 二刀流重攻撃八連撃《クリムゾン・スプラッシュ》

 

 薄い赤色に剣が光る。そのまま突き刺すようにボスの胸元にその剣を交互に撃ち込んでいく。

 フィリアも合わせて短剣を逆手から通常の持ち方に戻し、ソードスキルを発動、エメラルドに輝くそれは、奥義技の《エターナル・サイクロン》。下へと腕を下げ、そのまま斬り上げるように、全力で腕を振り上げた。途端、小さな竜巻が起こり、その鎌鼬がボスの身体に傷を埋め込んだ。

 ボスのHPは、今の怒涛の攻撃で半分を削り取った。元々少人数で倒せるボスの為、強くなっているといっても倒せないほどではない。決して油断はしないけれど、この攻撃から生み出す勝利への渇望が、この動きに拍車をかける。

 

 

 ────しかし、いつまでもボスが倒れてくれている訳もなく、奴は突然起き上がる。寝かせたその前脚を、再び大地に突き立て、その左右に開く蟻のような顎をカチカチの鳴らす。

 アキトとフィリアは既にその場から後退し、女王たるその雰囲気を強く纏わせるボスの次の行動を予測し、待ち受ける。

 侮るなかれ。ここまで順調だったが、目の前の奴はこの《ホロウ・エリア》最後のボスなのだ。

 そして、ボスは今まで以上の高音で咆哮する。ピリピリと空気を振動させた後、奴はその反り返っていた腹部を地面へと突き刺した。

 

 

 「っ、見た事無い動き……!」

 

 「警戒して!」

 

 

 そのチューブのようになった腹部が地面へと何かを注入しているかの如く動く。そしてそこから数秒してすぐ、ボスの周りの地面から何かが三つ生えてきた。

 それは、まるで卵のような形をして、地面へと突き刺さっていたが、まるで何かを宿らせているような袋の部分が、段々と光り始める。

 

 

 「……蛹?」

 

 

 それは形こそ歪だが、卵や蛹といった類のものに見えた。

 そう口走るのも束の間、その三つの卵は内から突き破られた。バリバリと不似合いな音を立ててそこから生み出されたのは、およそ目の前の女王の子ども、良く似た姿の取り巻きだった。

 三体同時に卵から孵り、アキト達を見て鳴き声を上げる。

 

 

(このタイミングで取り巻き……!)

 

 

 フィリアとシノンも目を見開いていた。

 瞬間、女王とその子ども三体が同時に動き出す。ボスと違って速い足取りで、近くにいたアキトとフィリアに一体ずつ迫る。

 

 

 「なっ……!」

 

 「くっ……!」

 

 

 予想外の速度に、各々の反応が遅れる。アキトとフィリアは咄嗟に武器を胸元へと持っていき、繰り出された突進をどうにか受け止める。

 歯を食いしばりながらもここからの動き方を考えるアキト。だがそれよりも先に、気付くべき事があった。

 モンスターは合計四体、アキトとフィリアに子どもが一体ずつ付いた。つまり残りの二体、ボスと子どものもう一体は────

 

 

 「っ……シノン!」

 

 

 アキトが視線を向けた先に、シノンはいた。ボスと子どもが並行に並び、同時にシノンへと迫っていた。

 シノンは少なからず動揺を隠せないようだが、する事は変わらない。その弓に矢を寝かせ、一気に引き絞る。手に持つ奴は二本。

 優先すべきは子ども、先に倒す事で数の有利を取り戻す。ユニークスキルの恩恵もある為一撃で倒す事自体は難しくない。だがその隙にボスに攻撃されれば危うい。ならば最低でも使う矢は二体に一本ずつ、そしてボスに対しては弱点にぶつける事で怯ませ、自身が離脱する隙を作らなければならない。

 そこまで一瞬で思考し、シノンは目を見開く。迫り来るモンスターと自分との距離、そこから放たれた際のダメージ総量、弱点への狙い、その全てを考え────

 

 

 「っ!」

 

 

 射撃技《ヘルム・バレット》

 

 複数の矢が瞬時に放たれ、二体のモンスターへと飛んで行く。その矢の一本は、狙い通りボスの弱点の一つ、頭部へと迫る。

 

 

(よし……っ!?)

 

 

 だが次の瞬間、ボスの前脚が動き、隣りにいた子どもを鷲掴みにした。そしてあろう事か、それを自身の目の前、シノンへと思い切り放り投げたのだ。

 

 

 「なっ……!?」

 

 

 放たれた矢の全てが、こちらへと一直線に迫る子どもの身体へと突き刺さり、そのままシノンへとぶつかった。

 

 

 「きゃあっ!」

 

 「シノン!」

 

 

 アキトは目の前の取り巻きを四散させ、離れた場所にいるシノンへと走る。フィリアも同様だった。

 シノンも予想外だっただろう。アキトですらそうだった。まさか、シノンが放った矢を、自身の子どもを盾にして防ぎ、そのままそれをシノンへとぶつけるだなんて。

 防御と同時に攻撃まで。確かにこのエリアのモンスターは倒しやすいだけで、決して弱いわけじゃない。だが、そんな複雑な思考まで。

 そんな動揺を飲み込んで、足を踏み締める。しかし、既にボスは前脚を振り上げ、薙ぎ払いでシノンを巻き込んだ。

 彼女の軽い身体は、いとも容易く宙へ飛ぶ。アキトは今以上に足に力を込め、落ち行く彼女の真下まで走る。

 

 

(間に合え────!)

 

 

 咄嗟に身体を低くする。スライディングでシノンと地面の間に割って入り、しっかりとシノンを捕まえる。

 勢い余ってそのまま地面を二、三度転がるも、シノンの負担にならぬよう受け身を取る。漸く摩擦で止まった瞬間、腕の中のシノンを見下ろせば、その身に受けたダメージで表情を歪めていた。

 

 

 「ア、キ……」

 

 「っ……無茶して……!」

 

 

 途端、ボスが奇声を放つ。ユニークスキルはただでさえ他のスキルと桁違いの威力を誇る。その連続射撃から繰り出されたダメージ総量から見ても、シノンからヘイトを逸らさないのは納得だし、当然だった。

 悔しげに歯軋りし、シノンを見下ろす。だが、シノンは変わらず辛そうな表情のまま、小さく呟いた。

 

 

 「アンタも……、同じ、じゃない……無茶なのは、お互い様よ……」

 

 「……」

 

 

 ────やはり、シノンは。

 アキトはすぐにそう思った。彼女の今までの無茶振りは、自分と同じなんだと。彼女が投影していたのは、自分の後ろ姿。

 戦闘で幾つか見られた小さな、それでいて強引な戦い方。アキトの前に出てボスから守ろうとしてくれたその姿勢。その全てが、アキトが攻略組のメンバーにしていた行為そのものだった。

 彼女からは、こんな風に見えていたのか、と。アキトは、儚げに笑う。

 

 

 「……そう、だな。同じだ……」

 

 「……アキ、ト」

 

 

 迫り来る足音。瞬間、フィリアが彼らの間に割り込んだ。短剣がライトエフェクトを放ち、そのままボスへと斬り込みを入れる。煩わしそうにボスが足を振り下ろせば、すぐさま懐に飛び込み翻弄していく。

 ボスはやがて、シノンからフィリアへと、ターゲットを変え始め、その脚を巧みに何度も叩き落としていく。フィリアは身体にその攻撃を掠らせ顔を顰めながらも、どうにか体勢を保ち続けていた。

 彼女が時間を稼いでくれている間に、シノンはアキトのその腕から離れ、ゆっくりと立ち上がろうとする。

 その視線は、変わらずアキトへ。

 

 

 「俺、さ、シノン。“仲間”は絶対に守りたいって思うんだ。失いたくないから、何よりも大切だから……俺が、“俺が守らなきゃ”って、そう思うんだ」

 

 

 ずっと、そうだった。

 黒猫団のみんなは、慎重派で堅実で。ゆっくり自分達のペースを守れるギルドだった。元々、そんなに強かったわけじゃない。知らぬ間に、強くなったと勘違いしてしまっていただけ。

 宝物だからこそ、自分で守らなければと、そう思い続けていたのだ。ここに来て、アスナ達に出会って、仲間だと、大切だと思ってしまった。

 また、自分が守らなきゃいけないと、そう思っていた。自分が大事にしているものだから。欲しかった居場所だから。

 

 

 「────馬鹿にしないで」

 

 

 シノンはピシャリと、そう告げた。その瞳は変わらず闘志を宿らせている。その瞳に、思わず吸い込まれそうになる。

 

 

 「私はここに、アンタの足でまといに来たんじゃない。アンタは私の事、守ってくれるって言ってくれた。でも言っておくけど、私、ずっと守られてばかりのつもりは無いから」

 

 

 アキトと、同じなのだ。大切な仲間だから失いたくないと、そう思っているのはアキトだけじゃない。分かっていたつもりで、気付けていなかった。

 彼らは──アスナ達は、守られるだけじゃなく、こんなにも強いじゃないか。いつからか忘れていた。みんなその心に熱い想いを宿していて、強くて、まるでキリトみたいで。そんな彼らに嫉妬までしていたのに、すっかり忘れていた。

 

 けど、宝物だと感じる想いは偽り無い本物だから、ただ頼るだけなんて事はすぐには出来なくて。やはりどこかで、守らなきゃと思う自分がいて。

 でも。

 

 

 

 

 「────シノン」

 

 

 

 

 自身の前で立ち上がろうとする彼女に、音を放つ。

 二度目のボスとの戦闘の終わりに、言わなきゃいけなかった事を思い出したのだ。

 

 

 「……何?」

 

 

 不安そうに瞳を揺らすシノンを見て、ふっと頬が緩む。

 そう、アキトはシノンに説教などする立場になど初めから無かったのだ。けれど、この生き方を今すぐには変えられない。頼る事は大切なのかもしれないが、傷付けたくないと思うこの意志だって正しいものだと思うから。

 だけど、無茶を制するより先に、言わねばならない事がある。その点は、アキトが間違っていた。

 

 

 「さっき、助けてくれてありがとね」

 

 「っ……」

 

 

 シノンは、細めていた瞳を開く。固まった表情のまま、暫くアキトを見つめていた。やがて、ふっと息を軽く吐くと、彼女から笑みが僅かに溢れた。

 

 

 「……それも、お互い様でしょ」

 

 

 視線を逸らして呟いたそれは、決して怒気を孕んだものではなかった。アキトは、それが分かっただけで小さく笑みを零した。

 

 

 「何よ」

 

 「いや、何でもない。なんか、嬉しかった」

 

 「何それ」

 

 

 シノンの固い表情が、少しだけ和らいだような気がした。

 二人で立ち上がり、ボスへと視線を動かす。フィリアの全力の動きで、ボスを翻弄出来ていたようだが、丁度限界に期していたようだ。

 割り込むには丁度良い。

 

 

 「HPは残り半分。多いような少ないような……」

 

 「三人もいるのよ?ユニークスキルだって二つある。すぐに終わるわ」

 

 「油断してる?」

 

 「してないわよ」

 

 

 ────ニッと、アキトは歯を見せるように笑う。

 なら、俺も強がりでも何でもいい。頼れる自分に、誇れる自分になる為に。

 

 

 「────じゃあ、手並みを拝見してやるよ、シノン」

 

 「っ……」

 

 

 ────その口調。シノンは思わず目を見開く。

 そこには、ぶっきらぼうで不器用で、素朴で純粋な、誰かを放っておけない、強がりを見せるかつての彼が。

 

 

 「足でまといには、ならないんだろう?」

 

 「ええ……上等よっ!」

 

 

 ニヤリと笑うアキトの後ろ、何度目か分からない咆哮を上げたボスに向けて。

 

 

 ────シノンは、その矢を放った。

 

 

 起動は逸れず、変わらぬ真っ直ぐな意志のように、その矢はフィリアを叩き潰そうと持ち上げたボスの前脚を貫く。一瞬だけ動きが止まるその瞬間、フィリアと入れ替わるようにアキトが割って入る。

 

 

 「アキト!」

 

 「待たせたな、フィリア」

 

 

 大地を踏み締め、空中で静止したその前脚に向けてソードスキルを放つ。二連撃の《バーチカル・アーク》は青い閃光を放ちながら、その巨大な前脚をかち上げる。

 そしてすぐさま、空いた懐に向けて左手の剣をぶつける。

 

 コネクト・《バーチカル・スクエア》

 

 煌めく剣技は四方に散らばる。正確な四角形を描き、ボスのHPを削り取る。ボスは再び前脚を振り下ろし、アキトへとぶつけようと動かす。

 そこを、フィリアが割り込み短剣で静止する。歯を食いしばって尚、そこを退いたりしない。アキトの、邪魔はさせないと言わんばかり。

 アキトはそれを見て、小さく笑う。再び、その右の剣を光らせる。

 

 コネクト・《ホリゾンタル・スクエア》

 

 白銀に輝く剣が、続けてボスの胸元へ刻まれる。目を開き、歯を食いしばり、重くなる剣をしかと掴む。全力で、振り抜く。

 

 

 「らぁっ!」

 

 「せぇい!」

 

 

 フィリアが攻撃を流し、返す形で短剣を押し当てる。身軽な身体を駆使し、ボスの視界ギリギリ外れるように走り、そのままソードスキルを発動する。攻略組同等の力を持つ彼女のソードスキルは、確実に敵の急所に打撃を与えていた。

 ボスは身体を震わせ、身体を低くする。顎が開かれた瞬間、各々が理解する。毒弾の発射を。

 その瞬間、連携が切れ、その動きが止まる。フィリアとアキト、共にソードスキルの硬直が始まり、その場から固まる。

 HPが少なくなるにつれ攻撃力を上げるのはボスの常。この至近距離からあれをくらったら────

 

 

 「────させっ……る、かっ!」

 

 「っ────!」

 

 

 瞬間、アキトの頭のすぐ隣りから、矢が通過する。ボスの開いた顎に直撃し、HPを減らす。

 顔を上げれば、シノンが更に矢を構えていた。そのまま一気に、それを解き放つ。

 

 射撃技《タイム・オブ・スナップ》

 

 相手の始動を僅かに遅らせ、瞬間アキトが身を屈める。瞬間、紙一重で先程までいた場所に、毒の吐瀉物が通過した。

 そのまま身を反転させ、その剣を突き出す。狙うは、その顎。

 

 片手剣単発技《レイジスパイク》

 

 その刃が、ボスの喉元を突き刺す。ガチガチと音が響き、顎がアキトの腕を突き刺す。不快感に瞳を細めれば、そこには死を与えんとするボスの瞳が輝く。

 だが、決して引かない。ここで全て終わらせて、みんなで笑って帰るためにも────

 

 

 「あ、アキト!」

 

 「フィリア、下がれ!」

 

 「で、でも……!」

 

 「早く!」

 

 

 真下にいたフィリアを後方へと下がらせる。後ろにいたシノンに視線を向ければ、彼女は全てを理解していた。その笑みが、そう告げている。

 今こそ、かつては出来なかった事をする時。仲間に頼る時なのだ。

 

 

 「っ……!」

 

 

 瞬間、ボスが喉の奥まで剣を突き刺したアキトをブンブンと頭を振り回す事で振り落とそうと藻掻く。アキトは歯を食いしばり、体勢を保つ。

 しかし、やがてボスが頭を上に振り上げ、アキトを宙へと投げ出した。アキトは真上へと舞い、最高到達点に達した瞬間、真っ直ぐボスへと落下していく。

 ボスは待ち受けんと構え、顎を開き、反り立った腹を突き上げていた。それを見て、アキトはシノンの名を全力で呼ぶ。

 

 

 「────シノン!」

 

 「いける!」

 

 

 その合図で、アキトは目を見開く。空中で身体を捻り、剣技の構えを取る。瞬間剣が紅く輝き、溢れんエフェクトが迸る。

 

 片手剣突進技《ヴォーパル・ストライク》

 

 空中をその突進力で移動し、その場から一瞬で離脱する。落下するはずだった身体はフィリア達の元まで移動し、待ち構えていたボスは、驚きからかその動きを止めていた。

 

 

 

 

 「────発射(ファイア)

 

 

 

 

 射撃奥義技《ミリオン・ハウリング》

 

 シノンが放った一本の矢は、女王の頭上へと舞い上がる。瞬間、キラリと煌めき、そこから無数の矢が雨となってボスの身体全てを突き刺していく。

 動きを止め、弱点である頭部と腹部を真上に突き出していたボスのHPは、信じられない程の速度で削り取られていく。

 黄色から赤へ、それは一瞬だった。

 

 

 「凄い……、やった……!」

 

 

 フィリアは目を開けて驚く。シノンも、小さく息を吐く。

 だが────

 

 

 「まだだ!」

 

 「っ……な、アキト!?」

 

 

 フィリアの呼び掛けに返事する事無くアキトは二刀を手に再びボスへと走る。矢が全て振り止んだにも関わらず、後一歩届かない。HPは、僅かに残っており、ボスは瞳を黄色く光らせた。

 怒りからか、痛みからか、その死の恐怖を忘れたかのようにボスは簡単に立ち上がる。

 絶対に死なない────そんな意志を感じる高音の咆哮が、鼓膜を突き刺す。目を細め、悲痛に顔を歪めるも、その足を止めない。

 そうだ、止めない。止めたくないのだ。

 

 前脚がアキトを迎え撃つ。アキトがボスの攻撃範囲に入った瞬間、その前脚が勢い良く振り下ろされる。

 

 体術スキル《飛脚》

 

 瞬間、その前脚が自身に落とされるより速く、地面を蹴り上げる。現実では不可能に近い高さまで飛び上がらんとする為のスキル。

 しかしそれを読んでいたのか、アキトのその真横から、もう片方の腕が薙ぎ払われる。

 

 

 「っ!」

 

 

 コネクト・《ヴォーパル・ストライク》

 

 アキトは再び空へと飛び上がり、その二本目の前脚を躱す。そうして、ボスの頭部付近に辿り着いた。これが最後だと、もう片方の剣がソードスキルの構えを取る。

 途端、目を見開く。

 

 

 ────ボスの顎が開き、毒弾の発射準備を完了させていたのだ。

 

 

(っ……くっそ……!)

 

 

 ここまで読まれていたのか────!?

 

 

 何処まで高性能なのだと、悔しげに顔を歪め、ボスを睨み付ける。もう既にソードスキルの構えを取ってしまっている。ここから空中を移動する為のソードスキルの構えへと移行するのはアキトでも不可能だった。そして、今変えようとすれば、発動しようとしていたスキルがキャンセルされ、余計に硬直時間を増やすだけだった。

 これは、甘んじて受けるしか────

 

 

 「っ────!」

 

 

 射撃技《ツイン・ソニック》

 

 瞬間、アキトの身体の左右から、金色の矢が走る。驚きで目を見開くも束の間、その矢は綺麗に、ボスの両目に一本ずつ突き刺さり、ボスは呻き声を上げ始めた。一瞬で視界を奪われ、毒弾発射のモーションが途切れた。

 

 

 「今よ!」

 

 

 その声と同時に、アキトの剣が紅く煌めく────

 これは、シノンが作ってくれたチャンス。これを逃す手なんて、ありはしない!

 

 

 「いっけ────!」

 

 

 片手剣OSS三連撃《コード・レジスタ》

 

 紅、青、緑、三色に流れるソードスキルが、落下と同時に頭部、首、胸へと刻まれる。見えない恐怖に襲われ、身体を揺さぶる女王虫は、とても憐れに思えた。

 だが、自身で産んだ子どもを盾に使うようなモンスターに、慈悲をくれてやる道理は無い。

 

 

 二刀流OSS二十五連撃

 《ブレイヴ・ソードアート》

 

 

 七色に煌めくソードスキル。正しく、それはソードアート。

 この世界の名を冠するに相応しい、勇者の剣技だった。刻まれ行く数だけ、想いは募る。その一撃一撃が、魂の込められた攻撃だった。

 

 

 

 

 「はああああああああぁぁぁぁぁああ!」

 

 

 

 

 ────そして。

 

 

 やがてその動きを止めたボスは、その身を四散させていった。

 同時に、騒がしかった周りが、嘘のような静寂を取り戻したのだった。

 

 

 誰もが、その動きを止める。呆然としながら、舞い上がる光の破片を見上げていた。

 だが、誰もが目の前の事実を受け入れ、そしてその頬が自然と緩み始めた。

 

 

 「終わっ……」

 

 「たぁ〜……!」

 

 

 シノン、アキトが溜め息を吐く。

 アキトはその場に勢い良く座り込み、シノンは両手を膝に付いた。達成感よりも疲労感が勝り、それぞれクタクタになっていた。

 

 終わった、これで漸く、《ホロウ・エリア》を踏破したんだ────

 

 それは、まだ通過点に過ぎない。まだここからやらなきゃいけない事がある。

 だけど、今だけはこの喜びに浸らせて欲しかった。

 

 

 「やったね、アキト、シノン!」

 

 「ええ……お疲れ、フィリア」

 

 「フィリア、お疲れ様。最後、時間稼いでくれてありがとね」

 

 「そんな、私は何もしてないよ」

 

 

 シノンが危険域に達した際、立て直すまでたった一人でボスと対峙してくれていたフィリア。あの時、シノンと幾つかのやり取りがあったが、彼女を見ていなかった訳じゃなかった。

 今までよりも、動きに磨きがかかっているように。そう、まるで、生きようとしているみたいだった。

 何でもないと首を振る彼女に、アキトは小さく笑った。

 

 

 「いや、本当に助かったって。実際動きも違って見えた」

 

 「そうね……ありがと、フィリア。おかげで助かったわ」

 

 

 アキトとシノンがそう感謝を述べると、フィリアは顔を俯かせる。その表情は、暗くも見えて、けどその中に確かな気持ちが込められているように見えた。

 辺りはボスがいなくなった事でとても静かで、音一つ無いように見えて、それでも蛍のような幻想的な光が待っていた。そんな光が照らす彼女の顔は、儚げにも見えた。

 

 

 「……もしかしたら、気持ちの問題かな」

 

 

 ポツリと、フィリアがそう呟く。

 

 

 「私、ずっと自分が偽物かもしれないって思ってたし……アキトと一緒にいても、この人は私とは違うんだなって……そういう暗い気持ちを持ってた」

 

 「……フィリア」

 

 「でも、今は違う」

 

 

 フィリアは顔を上げると、真面目な表情でアキトを見つめた。かつて自身の存在の在り方に揺らがせていたその意志が、瞳のように固まって見えた。

 思わずたじろぐアキトに構わず、フィリアは決心したように告げた。

 

 

 「アキト達にお詫びとお礼をする為にも、兎に角中央コンソールまで行かないとね」

 

 「そんな……もうずっと頼らせて貰ってるのに」

 

 「足りないよ、全然っ。私の気持ちを表すには、全然足りない」

 

 「……はは、無理しなくて良いからね」

 

 

 彼女のそのグイグイ来る様子に戸惑いつつも、アキトは小さく笑みを零した。出会った当初と比べると、彼女の表情は大分明るくなっているし、笑顔も増えたように見える。

 悩みを抱えていた時の彼女の表情は、今と比べれば、やはり暗かったように思える。こうして今、元気な姿を見る事が出来てアキトはとても嬉しかった。

 これが、今目の前にいる彼女が、きっと本当のフィリアの姿なのだろう。

 

 

 「……ゴホン」

 

 

 ────と、フィリアと笑い合っていると、隣りから咳が聞こえる。チラリと見れば、何処と無く不機嫌なシノンがジト目でこちらを見据えていた。

 ムスッとしていて、瞳を細めている。無視するな、とその目が告げていた。

 アキトは冷や汗を掻き、フィリアは我に返って顔を赤くした。

 

 

 「っ……あ、アキトとシノンは、一度戻るんでしょ?」

 

 「え、ああ、うん。思ったよりも時間掛かったね。休む暇も無いけど、明日管理区の地下に行こう」

 

 「分かった。待ってるね」

 

 「……うん」

 

 

 アキト達はその重い身体を起こして立ち上がる。見上げた空は闇夜に包まれた森と違って星々の煌めきで照らされていた。

 思わず口元が綻びを生み、瞳を輝かせた。まるで、この先の未来を示す道標のように見えたその星空は、何処か懐かしさを帯びていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●○●○

 

 

 76層《アークソフィア》

 

 なんとなく久しぶりに感じた馴染みのある街は、日が沈み夜を迎えたばかりで、先程の《ホロウ・エリア》と違って、星も見えなかった。

 だが夜にも関わらず人で賑わっていた転移門広場は、《ホロウ・エリア》での静寂と違って温かさを持っていた。

 《ホロウ・エリア》最後のボスを倒したアキトとシノンは、フィリアと別れ、76層へと戻って来ていた。顔を見合わせ、アキトが彼女に笑いかける。

 

 

 「じゃあ、宿屋に帰ろっか」

 

 「……ええ」

 

 

 何処か気不味さを感じつつ、転移門前の階段をおりて、その先の道を同じ速度で歩く。チラリとシノンを見れば、物憂げな表情で俯き、何かを思案しているような表情だった。

 そして、意を決したように顔を上げると、キッとアキトを見上げた。

 

 

 「っ……な、何……?」

 

 「……明日、その……最後の戦いでしょ?一人で行くの?」

 

 「え……」

 

 

 予想外の質問に面食らう。アキトは目を丸くしてシノンを見やった。

 《ホロウ・エリア》の踏破によって入る事が許される管理区の地下領域。そこにある中央コンソールこそ、アキト達の最終目的なのだ。

 PoHが企てたアップデートを阻止し、フィリアのオレンジを解除する。それが、残り僅かな時間で彼らがやらなければならない事だった。

 シノンの質問の意図はつまり、その攻略にこちらの人員を連れて行かないのかという事に他ならない。アキトは暫し、返答に困った。

 これが正真正銘最後の戦いで、今まで以上に厳しいものになるかもしれないという予想があったからだ。地下はダンジョンになっていた、とフィリアは言った。つまりそれは、戦いは避けられないという事で、何よりボスがいるかもしれないという事実に繋がるからだ。

 答えに戸惑うアキトを見て察したのか、シノンは小さく息を吐いた。

 

 

 「……別に私じゃなくても良いから、少しでも良い効率を上げる選択肢をとった方が良いと思うわ」

 

 「……うん。そう、だね」

 

 

 シノンのその言葉は、アキトの胸に響いた。今日、誰かに頼る事の意味を、彼女自身に教えて貰った気がしていたから。

 

 

 「……ありがとねシノン。今日は助かったよ」

 

 「何よ急に」

 

 「いや、ちゃんとお礼言ってなかったなって」

 

 「……言ったでしょ、お互い様だって」

 

 

 アキトのいきなりの感謝の言葉に戸惑うシノン。目を逸らしながら、そんなのは当たり前だと吐き捨てた。その態度はまさにシノンらしい。

 しかし、アキトは儚げな表情を浮かべながら、首を横に振った。

 そんな彼の態度に、シノンは思わずアキトへと視線だけでなく顔を向ける。彼は遠くを見据え、自嘲気味に、寂しそうに、ポツリと言葉を紡ぎだ出した。

 

 

 「……今日のシノンの行動は、俺を助けてくれた事実以上の意味を持ってる。さっきも言ったけど……俺さ、“仲間”は自分が守らなきゃって、そう思ってたんだ。自分の大切なものは、自分で守るって……今までも、ずっとそうだったから……」

 

 「アキト……」

 

 

 シノンのボス戦での立ち振る舞い、アキトに対する言動、それによって気付かされた事は数多い。彼女が体現していたのは、正しくアキト自身の姿。

 形振り構わず誰かの為に前に出るその姿は、自身のそれと酷似していた。あの時、自分の前に立って守ろうとしてくれたシノンに対して抱いたのは恐怖。失うかもしれないという感情。

 そして、アキトが彼らに抱いている感情は、彼らもまたアキトに対して持っているものだと教えられて。故に、今日アキトがシノンに対して抱いていた感情は、彼らも同様だという事。

 失いたくない、守りたい、そう思っているのは、自分だけじゃなくて。

 

 

 「……けど、シノンの言う通り、それはある意味でみんなを馬鹿にしてたんだな。みんな、俺よりも強いんだって、知ってたはずなのに、守るべき対象として見てた。上から、だよね」

 

 

 彼らの強さ、それは技術的な意味よりも心を指している。

 初めて彼らに出会ってからずっと、キリトの死に折れる事無くゲームクリアを目指そうとするその姿勢に、キリト同様の意志を感じた。それに嫉妬していたのは記憶に新しい。

 それを分かっていたはずなのに、いつの間にか忘れていた。

 彼らは、アキトが守らずとも自分で考え行動し、何より強い意志と同様に、戦闘においても強者揃い。頼られるだけでなく、たよれる存在だったのだと、今日のシノンを見て思い知らされた。

 

 

 「今日、シノンを見て痛感したよ。あの正確な射撃、凄かった」

 

 「あ、あれは……夢中だったから」

 

 

 しどろもどろに答えるシノン。あの時のシノンの動きを、アキトは今も明確に思い出せる。

 同じ場所に留まらず、常に移動しながらの射撃。狙いを定めるのは至難の業のはずなのに、放った矢は全て命中していた。

 そして最後、アキトがボスを倒そうと飛び上がった際に放った二本の矢。アキトに攻撃しようとしていたボスの眼に命中させ、その視界を奪った事で勝利へと導いた。あれは正しく、今回我々が勝利した理由となっていた。

 デスゲームへの途中参加にも関わらず、彼女は逃げずに戦う事を決意した。その時点で既に強さを見せていた彼女が、今こうして自身の隣りで、同等の強さを手に立っていたという事実。

 気付くのが遅かったアキトは、とても恥ずかしい気持ちになっていた。

 何でもかんでも一人でやろうとしていた、あの頃とは違う。彼らは強い意志を持って、今日この日まで生きてきたのだから。

 

 

 「シノン、いつの間に強くなってたんだなぁ。知らなかったよ」

 

 

 あはは、と力無く笑うアキト。

 実際、知ろうともしていなかったのかもしれない。彼らが強いか弱いかなど、きっと問題じゃなかったから。全てを守り、背負うのが、大切なものを手にした自身の役目だと本気で信じていた。

 けれど、そう考えているのは自分だけじゃなくて。アスナ達も、同じような思ってくれている。

 それなのに、自分だけこうして無茶ばかりしているのを、彼らはどう思っていたのかなんて分かり切っている。今日、自分がシノンに対して抱いた想いと同様に決まっていた。

 俺が、俺かやらなきゃ、とそればかりで、彼らの気持ちを考えていなかったのかもしれない。故に、彼らの強さを忘れていた。これは恥ずべき行為だ。

 それは“仲間”と呼ぶには相応しくない。自身の行いは、彼らの気持ちを蔑ろにしているのだからと、そう思う。

 この生き方をすぐには変えられないだろうが、二度と同じ間違いはしないように。

 

 

 

 

 「────」

 

 

 

 シノンはただ、アキトを見つめていた。何かを誤魔化すようにして笑う彼の言動が、シノンの頭に響いた。

 彼のいう“強さ”に、自分は当て嵌っているだろうか。今日はただ、無我夢中で、あまり覚えていない。いつもより射撃の精度が高かった気はしたが、シノン自身が実感しているのはその程度だった。

 考えていたのはただ、ボスを早く倒す事。その理由の根底は、常に目の前の少年だった。

 彼が消えてしまうかもしれない。その恐怖だけが、シノンをあの時動かしていた。

 もし、あの時自分がアキトの言うように強かったのだとしたら、それは────

 

 

 

 

 「……貴方が側にいるから」

 

 

 「え?」

 

 

 

 

 何処か儚げな表情で呟くシノンの言葉を、アキトはしっかりと耳にしていた。思わず目を丸くする最中、シノンは自身の発した言葉を段々と理解し、勢い良く目を見開いた。

 

 

 「え、あ、いや……アキトが、いつも危なっかしいから……いつの間にか、強くなってたって事!」

 

 「ご、ごめんなさい……」

 

 

 シノンの言葉に項垂れるアキト。彼女は顔を赤くしており、アキト君からは視線を逸らしていた。

 けれど、肩を落としているアキトをチラリと見て、何処か嬉しそうに笑った。

 

 

 「まったく……もうっ……ふふ」

 

 「っ……は、はは」

 

 

 そんなシノンを見上げ、目を合わせて笑う。そのアキトの笑った顔を見て、シノンは自身の胸を抑える。

 

 

 

 

 ────トクン

 

 

 

 

(ああ、そうか────)

 

 

 

 

 本当は、何処かで気付いてた。

 自身と良く似た彼が、放っておけなくて、消えて欲しくないその理由に。

 

 

 

 

 けど今はただ、この時間を大切にしよう────

 

 

 

 

 そうして、二人は宿に帰るまで、ただ会話を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「借りが出来ちゃったな」

 

 「別に良いわよ。アンタには弓を買って貰った時に貸しがあるでしょ」

 

 「けど、二回も危ないところを助けて貰ったし」

 

 「……なら、今度ユイちゃんと三人で何処かに出掛けましょうか。ほら、ポーカーの賞品は今日使っちゃったし」

 

 「……」

 

 「何よ?」

 

 「いや、帳尻の合わせ方が上手いというかなんというか……お、お後がよろしいようで……」

 

 「ふふ、何それ」

 

 

 






アスナ 「おかえりなさい、二人とも。アキト君、何か言う事は?」

アキト 「連絡忘れてすみませんでした」

シノン 「声凄い震えてるけど」


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