第7学区には5つのお嬢様学校が土地を分け合って共同運営する男子禁制の特別な土地『学舎の園』が存在する。
およそ必要なものはこの学舎の園で揃えられるとまで言われるほど充実した施設が数々入っていて、セキュリティーも万全。
この土地に男が入ろうものなら即座に御用となるし、警備員さえも男が立ち入れないため、有事の際も女だけが出動となり対処に当たる。
その学舎の園の共同運営をしている学校の1つが、2人の超能力者を有する超エリート中学校『常盤台中学』。
この学校に所属する超能力者の1人、
基本的に自分のやりたいことを我慢しない超絶お嬢様気質の食蜂だが、それに文句の1つも言わずに慕う派閥のメンバーは今日も女王、女王と退屈させないように適度な会話を交えてきていたが、当の本人は話半分で出てきたシュークリームをナイフとフォークを使って食べて、その味に幸せそうに頬を緩ませていた。
そんな今日も通常運転の食蜂だったが、うふふ、おほほと上品に話す派閥メンバーの遥か後方。
なんてことはない道を歩く1人の男を視界に捉えて、1度はただの風景として流したものの、なんだか変な引っ掛かりを感じてもう1度その人物を凝視すると、50メートルほどの距離にいた向こうも何かを感じ取ったのか立ち止まってハッキリと食蜂と視線を合わせてきたかと思えば、ん?
と首をちょっと傾げて食蜂が誰かわからない様子だったが、食蜂の方は記憶の奥にいた人物と特徴が一致することから、端整な顔をちょっとひきつらせてしまう。
「どうかなさいましたか、女王?」
その様を見て直ぐ様派閥のメンバーが心配そうに声をかけてきたが、進路変更をして近付いてきた男にもう無視はできないかと諦めてバッグの中に入れていたリモコンの1つを取り出してピッ。
派閥のメンバー達に対してボタンを1つ押すと、途端に静かになった派閥のメンバー。
「20分くらいここに近寄らないように暇を潰してきて」
何かに操られたような派閥のメンバーは、面倒臭そうにそう指示した食蜂の言う通りに方々へと散っていってしまい、1人になった食蜂はついにテラスに入ってきた男を見て頬杖をつく。
「ここまで接近力を発揮してわからないなんて、ちょっと傷付くわぁ」
「んー……どうにも俺の知ってる人と特徴が一致しなくて困惑してる……主にこれが」
と、目の前にまで来た男に対して口を開いた食蜂に、どうやら自分が誰かはわかったらしい相手も言葉を返すが、そこに胸を表すジェスチャーを交えられてムスッとしてしまう。
「女は成長力が止まらない生き物なのよ。そっちは全然変化力がなくてすぐにわかっちゃったわぁ。鳴海さぁん」
「それはどうも。何年ぶりになるのかね、操祈」
「さぁ? たぶん4年とかそのくらいじゃなぁい?」
ようやく知り合いとして会話が成り立ったところで昔を懐かしむこともなく向かいの席を勧めた食蜂に、鳴海最都は笑いながら座ってまじまじと見てくるため、非常にやりにくいながらも会話を続ける。
「今もどこかの研究所にいるのかしらぁ?」
「いや、前いた研究所はぶっ飛んだから、今は細々と食い繋いでるよ。操祈こそ常盤台中学にいたのか」
「これでも超能力者の第5位になってるわけだけどぉ、鳴海さん頭がよろしくないから知らなくても仕方ないかぁ」
「うぇっ!? 操祈が超能力者!? あの操祈が!?」
「……その反応力はバカにしてるのかしらぁ?」
「んー、確かに『
自分の身体的な成長の変化に面白そうにする鳴海も、超能力者になったことを告げればどこへやら。
本当に驚いた様子で見る鳴海にクスリと笑ってしまった食蜂。
久しぶりに会ってもこういった正直なところは変わってないのだと思うと少し安心もしていた。
「しかしまぁ、ずいぶんと綺麗になっちゃって。何がどうしたらそんなに色々大きくなっちゃうのか」
「あんまり胸囲力ばかり見て言わないでほしいわぁ。それに女が綺麗になる理由なんて説明力も不要……」
「なるほど恋か! 近所のお姉さん達が『女は恋をすると綺麗になる』って言ってたんだよな。そうかそうか。操祈も男を好きになるお年頃になったか」
ひとしきり驚いてから一旦落ち着いた鳴海は、やはり突っ込むべきところ。食蜂の身体的な成長度について感想を述べて、昨年の今頃までは年相応の慎ましい身体をしていた食蜂は、それを知る由もない鳴海に理由などないと言おうとしたのだが、勝手に結論に辿り着いて納得してしまって思わずこめかみに血管が浮き出る。
しかし同時にあながち間違ってもいないかもしれないその推論にどう返していいかと考えてしまって、それが良くなかったのか肯定と取られたようでニヤニヤされてしまい、ついついそれに反応して顔を赤らめる。
「ち、違うわよ! これは元々あった女子力が爆発力したあれであって……そういうのじゃないわよぉ!」
「あははっ、そんなムキにならなくてもいいだろ。人を好きになることに悪いことなんてないんだからさ」
そこでさらに強く反論してしまって、興奮気味な食蜂に鳴海もどうどうと宥めるように言うと、落ち着いた食蜂はシュンと小さくなってしまった。
こういう時に有無を言わせずに精神系最強の能力を使い、先ほどの派閥のメンバーのように操って黙らせて、都合の悪いこのやり取りを記憶から削除するのが食蜂という少女の性格なのだが、何にでも特例というのはあるもので、鳴海に対してだけ食蜂は自分の能力の一切を使わないのだ。
そしてその逆もまたしかり。
「…………鳴海さんは意地悪よぉ」
「操祈と話す時は思ったことを口にするようにしてるからね。それが嫌ならやめるけど?」
「それはそれで困るわぁ。だってそうじゃないと鳴海さんに全く理解力が及ばなくなっちゃうしぃ」
唯我独尊な食蜂とこうまで対等に接することができる鳴海最都という少年は、実は食蜂の能力の一切を寄せ付けない『侵入禁止』という大能力者の能力を持っていて、おそらくは常日頃からその力で色々なものを自分から遠ざけてしまっているはずなのだが、食蜂が鳴海に対して能力を使わないように、鳴海も食蜂の前では能力を使っていない。
それを証明するには鳴海の身体に直接触れてみる必要はあるが、そんなことをしなければならない程度の関係ならば、食蜂はとうの昔に鳴海を自らの支配下にでも置いているわけで、鳴海も食蜂が能力を使わないとわかっているからこそ、思ったことをズバズバと口にしているのだ。
そんな奇妙な関係にある2人の出会いは、鳴海にとってはどうだったかなど直接聞いてみないことにはわからないが、食蜂にとってはこの上なく最悪の出会いだったことは今でも変わらない。
食蜂の能力開発を行っている研究所『
しかし精神系能力者で超能力者に至る可能性のあった食蜂の登場で研究目的がだいぶ方向転換し、今の食蜂にとって重要な『とあるモノ』が誕生したが、それは鳴海との出会いよりだいぶ後の話。
食蜂が鳴海と会ったのは、本当に初期の研究機関に移動してきた頃。
まだ能力も発現してそう経っていない段階で、当時全く別の研究機関にいた少年だったが、必要あってということで渋々で会ったわけだ。
才人工房とは別の研究所にやってきた食蜂が通された部屋には、とてもではないがコミュニケーションが取れるような状態にない無表情の鳴海少年が何をするでもなくガラス張りの窓から外の景色を見ていて、一目で自分とは合わないだろうなと思った食蜂だが、研究員から言い渡されたのはあまりに残酷な指示。
『能力を好きに使って構わないから、1週間彼とこの部屋で過ごしてもらう』とのことで説明のあとに部屋の施錠をされてしまい、中からではどうすることもできなくなって、途方に暮れた食蜂はとりあえず今できる自分の能力の限界で同居人となる鳴海少年に簡易の暗示をさせて1週間過ごそうと部屋にあったテレビのリモコンを手に取ってピッ。
ボタンの1つを押し鳴海少年を操ろうとしたが、鳴海少年は微動だにせずに外を見続ける。
おかしいな。そう思った食蜂は意味は特にないがリモコンの電池が入ってることを確認してからもう1度押してみるも鳴海少年に反応はなく、ムキになって連打の嵐を叩き込んでみせて肩で息をするくらいに疲れてしまうが、やはり鳴海少年に変化はなく、さすがに近くで騒ぐ食蜂が気になったのか視線を合わせた鳴海少年は、何かをやろうとして空回っていた食蜂を見て無表情のまま口を開く。
「君は一体なんなんだ?」
「それはこっちの台詞よぉ!!」
ピキッ。と、つい出会った頃のことを思い出してしまった食蜂は、あの時の屈辱も同時に思い出して目の前の鳴海に無性に腹が立つ。少なくとも食蜂にとって初めての挫折はあの時がそうだったから。
そんな食蜂の内心に気付いてない様子の鳴海は、完全に手の止まって放置されていた食蜂の食べかけシュークリームに視線を向けてそれを皿ごと自分の方へと引き寄せると、ためらうことなく手に取って口へと放り込んでしまった。
「ちょ、ちょっとぉ! それは私のでしょお! 食べるならそっちにあるのを食べなさいよぉ!」
「えー、だってこっちは友達のでしょ? それを勝手に食べるのはマナー違反というかなんというか」
「じゃあ私のを勝手力を発揮して食べるのはマナー違反じゃないのかしらぁ?」
「操祈はなんだかんだ優しいから許してくれるかなって。それにシュークリームが早く食べてって俺に訴えてきたから……」
勝手気ままな鳴海にとうとう食蜂も声を荒立ててしまうが、正直者の鳴海から『優しい』とか言われるとなんだか調子を狂わされてしまい、それが嬉しくないわけでもないため握っていた拳をプルプルさせて解くと、自分を落ち着かせるように長い息を吐いてシュークリームは諦めることにした。
「そういう強引力は相変わらずなのねぇ……」
「そういう操祈は俺以外に信頼できる人はできたのかな?」
「必要ないわよそんなのぉ。鳴海さん以外の人なんて私の能力でどうにでもなるしぃ。まぁ例外力も同門にあったりするけどぉ……」
「そっか。でもまぁ安心しろよ。これから先も操祈にそういう人がいなくても、俺がいるからな」
「…………そうね」
本当に変わらない鳴海に嬉しさ半分、呆れ半分で会話を続けた食蜂と、優しい目でそう言った鳴海は、それで互いに笑い合う。
別に鳴海のことが好きなわけではない食蜂。だが、数年前に交わした『約束』を今でも守るのは、食蜂もまだ人を信じる心を持っていたいからなのだ。
今や能力を使えば相手の思考など全部わかってしまうし、それなしに人を信用することが出来なくなってる食蜂だが、本当はこんな能力を使わずに人と仲良く……なんてことを考える日もなくはない。鳴海と過ごしたあの悪夢のような、夢のような1週間のように。
自分の能力が通用しないとわかった食蜂がへなへなと座り込んでしまったのを見て、ノーリアクションだった鳴海少年は何を言うでもなくまた外へと顔を向けてしまうのだが、研究員から話くらいは聞いていたのか再び食蜂を見てまさかのコミュニケーションを取ろうとしてきた。
「君、料理って出来る?」
「は、はぁ? 何よいきなりぃ。出来なきゃどうなのよぉ」
「…………1週間、扉は開かない。ここには食べ物が用意されてない」
すでに確認は済んでいるのか、鳴海少年の言葉にキョトンとした食蜂は、自分で確認するように部屋にある冷蔵庫を開けてみるが、冷凍食品も作り置きされた物すらなく、中には素材そのままの食材の数々と米やら調味料やらのみ。
「あ、あなたは何か作れたりしないの?」
という食蜂の問いに鳴海少年は首を横に振ったため、料理の出来ない食蜂も顔を青ざめる。
唐突な共同生活に能力の通じない相手と厄介事が一気に来てうちひしがれる食蜂を他所に、仕方ないといった感じでキッチンへとやって来た鳴海少年は、とりあえず何か作ってみようと思ったのか冷蔵庫から適当な食材を取り出して目茶苦茶ぎこちない手つきで料理を開始。
何を作る気かはさっぱりわからない食蜂もとりあえず邪魔になりそうな位置からダイニングテーブルの方に移動してテレビを適当に観つつその様子をチラチラと見るのだった。
そうして出来た料理は水分多すぎのご飯に野菜のゴロゴロとしたよくわからないスープのようなもの。
ハッキリ言って食欲は全く湧かないのだが、興味本意というのは誰にでもあるわけで若干の空腹も手助けしてその料理に同時に口をつける。
「…………ぐっはぁ!!」
「……………………」
そして案の定2人してダイニングテーブルに沈み沈黙。その日はもう食欲すら湧かずにさっさと寝てしまった。
翌日の朝。気怠そうに起きた食蜂がリビングの方に顔を出すと、寝室を使わずに寝ていたはずの鳴海少年が懲りずにキッチンで料理をしている姿を捉えて仰天。
そんな無謀は発揮しなくていいのにと思いながらキッチンへと入ると、真剣な顔つきでブツブツ言いながら料理する鳴海少年の側には、タブレット型の端末。
どうやらどこかの料理サイトのレシピを見ながら作ってはいるようだが、相変わらず手つきはぎこちないし見てて不安しかない。
それでも全く作ろうともしない自分より頑張ってる鳴海少年を邪魔できないと子供ながらに思った食蜂がダイニングテーブルで待っていれば、自分の分まで用意して持ってきた鳴海少年は、昨日のリベンジとばかりに作ったちゃんと分量を計ったご飯とブイヤベースを無言で食べるように促すので、恐る恐るそれを口にした食蜂。
「…………た、食べられる、わね」
「…………ふぅ」
そして意外や意外。たったの一晩で食べられる物を作ってしまった鳴海少年に、食蜂は本当に素直に驚くが、当の鳴海少年も自信はなかったのか食蜂の感想に安堵の息を漏らしてから、目が合った食蜂に初めて笑顔を見せて、自分も料理に手をつけていった。
それから隙あらば時々能力を使って操ろうと試みる食蜂と、意外とやらせたら出来るようになる鳴海少年との奇妙な共同生活は続いていき、完全に根負けした食蜂が一切の能力使用を諦めた5日目。
これまで食蜂を警戒する様子だった鳴海少年も、食蜂という少女が理解できてきたからかそれなりに会話が成り立つようになっていたが、ここまででまだ名前すら言い合ってない2人の距離は実質縮まってはいない。
早く1週間が過ぎてほしいと思ってたのは当時の食蜂も今の食蜂も変わらない意見だ。
鳴海少年も本心はそうだったはずなのだが、これまでで堕落した生活をする食蜂の面倒をちゃんと見てくれることにはどこか疑問があった。
だから食蜂は6日目にふとそのことを尋ねてしまうと、だいぶ表情を変えるようになった鳴海少年は、少し照れ臭そうにしながらもこう答えた。
「放っておけなかっただけ。女の子は大事にしろって言われてもいたし」
顔を背けながらに言う鳴海少年のそれには食蜂も面食らったように固まるが、それで鳴海少年を少し理解できた。この人は本当は優しい人間なのだと。
その事実に思わず笑みがこぼれた食蜂に、今度は鳴海少年が面食らったように固まるが、そういえば自分がここで笑うのは初めてだなと思い出してすぐに仏頂面には戻ったのだが、心を許したと思ったのか鳴海少年はこれまで詰めることのなかった物理的な距離を縮めて食蜂の耳元に顔を近づける。
「君の能力がどんなのかわかんないけど、それを俺が防ぐことで、君の能力を防ぐ道具を作ろうとしてるって言って、信じてくれる?」
鳴海少年の急な接近にちょっと慌てた食蜂だったが、そう言われた瞬間に離れた鳴海少年を無言で見ると、設置されてるカメラを警戒してるのかただ頷くだけの鳴海少年。
だとすれば食蜂はここまで研究員のいいように能力を使わされていたということ。そうする理由は思い付く限りでは、いずれ訪れるであろう自分の能力の向上への対策。能力開発で研究員が操られていては仕方ない話だから。
そうならばもう、食蜂は鳴海少年に対して能力を使うべきではない。必要以上にデータを渡すのは避けるべき。しかし何故このタイミングで鳴海少年はそれを教えるのか。
そして翌日。最終日に事は起きる。
昼頃、急に操られたように扉へと近付いた鳴海少年は、見るからに頑丈そうなその扉を自らの能力で破壊しようと試みる。
だが今の鳴海少年の能力で破壊できる扉ではなく、多少へこんだりする程度で終了し、諦めたようにリモコンを下ろした食蜂は「やっぱりダメねぇ」と言って鳴海少年を解放。
途端、目が覚めるように意識を取り戻した鳴海少年は、自分が何故ここに立ってるのかわからない様子で食蜂とすれ違って最後の料理を作り始めてしまった。
こうして最後に一波乱のあった共同生活は終わりを迎えて、開いた扉から研究員が迎えに来たところで、食蜂は初めて鳴海少年の名前を問い、それに鳴海少年も答えて食蜂の名前を尋ねて握手を交わした。
「じゃあね、操祈」
「ええ、鳴海さんも元気でねぇ」
その握手はとても大きな意味を持っていた。
それは食蜂にとって初めて純粋に人を信じ切った瞬間であり、初めて鳴海少年に『触れた』瞬間だったのだ。
あの日、最終日に行った鳴海の行動は、一見すると食蜂が鳴海を操って部屋を脱出しようとしたように思えるが、実際にはそうした『フリ』を互いにしていただけで、食蜂の能力は行使されてはいなかった。
鳴海の話では鳴海の能力は常に部屋内で使用されてるかを感知できるとかで、解除したところに食蜂の能力が干渉してもわかってしまうらしく、ここでのデータが食蜂の能力を防ぐ道具の開発に使われるなら、鳴海が能力の上から操られてしまえばいい。
しかし当時の食蜂には、今もだがたぶん、鳴海の能力を抜いて干渉することはできなかったため、ならばと子供ながらに企てた悪あがきがあれだったわけだ。
今にして思えば子供のいたずら程度のものだったが、あの時、あの瞬間に互いに信頼した上で行動したという事実は、今も食蜂の心に深々と根付いている。
それ以降、鳴海と会うこともなく今日まで再会が遅れていたわけだが、その作戦を決行するに当たって2人はある約束をしていた。
それが『この部屋から出る時には、それからはもう互いに能力を使ったりしない』。
その約束がある限り、食蜂は鳴海に対して能力を使うことはしない。
それがたとえ鳴海の嘘で、今も裏切られているとしても、あの時自分のためにと行動してくれた鳴海を信じられないなら、それはもうこの世界で信じられる人間が自分だけになってしまうから。
そうした色々を考えていたら、鳴海の携帯にメールが届いたのか携帯を取り出して途端に笑顔になった鳴海は数秒で返信まで済ませてルンルンしながら携帯を仕舞うので、何事かと思うが、今度は自分の番と言わんばかりにニヤニヤしながら口を開く。
「あらぁ? もしかして鳴海さん、彼女から連絡ですかぁ?」
「違うよ。んーと、妹のような、娘のような、そんな感じの。今日帰ってくるって連絡」
追い詰めるつもりでした質問だったが、鳴海にとって痛くも痒くもない質問だったらしく、完全に空振りした食蜂は笑うしかない。
そんな食蜂に何を思うこともなく機嫌の良くなった鳴海は、こうしてられないと立ち上がればキョトンとする食蜂に別れを告げる。
「んなわけで夕食とかの準備しなきゃだから行くよ」
それを止めようと一瞬考えた食蜂だったが、止めたところで何を話したいことも特にないし、そろそろ命令していた派閥のメンバーが戻ってきてしまって、また命令したりの方が面倒だと思って何も言わずにいると、最後に鳴海は笑いながら食蜂に口を開いた。
「ああそうそう。外見の女子力は上がったみたいだけど、中の女子力も磨けよ、操祈」
「よ、余計なお世話よぉ! さっさと行きなさい!」
本当に余計なことを言う鳴海に本日一番で怒った食蜂。
それを恐れるように逃げていった鳴海はあっという間に見えなくなってしまったが、鳴海といると自然体でいるからか、妙な心地よさが体を吹き抜ける感覚を感じながら、食蜂は入れ替わるように戻ってきた派閥のメンバーと一緒に、また優雅なティータイムに興じるのだった。