とある未完の侵入禁止   作:ダブルマジック

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8月19日(前編)

 冷蔵庫の中の生モノの消化よし。洗濯物の取り込みよし。隅々の掃除も行き届いた。

 今日1日かけてせっせとやることをやった鳴海は、夜も更けてきた頃に考え得る家事の全てを完了させて気持ち晴れやか。気持ちとは裏腹に外はもう完全に日が沈んではいるが。

 

「さてと、あとはこれをどうするかだけど……」

 

 比較的のんびりと作業をしていたこともあって疲労など皆無ではあるが、やはりなんとなく伸びをしながらに最後に残していた案件について思考しダイニングテーブルに置いていた物を見る。

 それはつい先日買ったばかりの絹旗へのサプライズプレゼント。

 気まぐれな絹旗はいつ帰ってくるかもわからないし、自分からメールか何かを送ったこともない身としては、いきなりそんなことをして勘ぐられるのもあれだと思ってしまい、結局待ちに徹して渡せずじまいになってしまっていた。

 別に今後直接渡せないわけでもないのだが、もしかしたらこのあと出かけて済ませる案件で帰ってこれない可能性もなきにしもあらずな感じなので、その間に絹旗が帰ってきた時にこれがなんなのか理解できるようにするか。それを迷っているのだ。

 要は置き手紙を置くかどうかで悩んでいるのだが、それをするのは何か帰ってこれない可能性を助長してるようで気が引ける……みたいなことを考えたが、よくよく考えれば今日やってたことも同じようなことだったことに気づいて1人笑うと、だったらとことんやってしまえと紙とペンを取り絹旗への置き手紙を書き始めた。

 本当はこのサプライズプレゼントは8月25日に渡せれば良かったのだが、事態はそれまで待ってはくれない切羽詰まった感じで進んでいる。

 置き手紙を書き終えた鳴海は、それをプレゼントの上に置いてから、すぐ側に置いていた2枚のくしゃくしゃのA4用紙を取ってまとめて折りポケットへと仕舞うと、そこから完全に意識を切り替えて真剣な顔つきでアパートを出るのだった。

 アパートを出て鳴海が向かう先は、数日で集めた情報で確認までちゃんと取ってあった一方通行の住む学生寮。

 何故そこに向かうのか。そんなのは決まっている。おそらく今夜も行われているだろう『絶対能力進化』計画。その非道な実験を今夜、別の形で終わらせるためである。

 かつて樹形図の設計者が予測演算した一方通行の絶対能力化の条件は、現段階での超電磁砲のスペックを元に算出された結果から、妹達を代用して行われている。

 対して鳴海を当て馬にした予測演算は、鳴海が超能力者に至っている場合という特殊条件下での結果。

 元々その条件が成立していれば、超電磁砲を当て馬にした予測演算も必要なかったくらいには現実的な結果が割り出されていただけに、当時の自分を囲っていた研究所もなかなかに頭を悩ませていたのを覚えているが、あまりにどうでもいいことだったので無関心だったことも思い出す。

 時刻は夜の9時を回り、一方通行の学生寮の前に陣取ってから15分ほどが経過。実験が今夜も行われているのは確実だが、鳴海にはそれがいつどこで行われているのか知る術がないのでこうして待ちぼうけをするしかないのは仕方がない。

 

「今夜は月が綺麗だな……」

 

 人を待つというのは慣れている鳴海ではあるが、それがこれから『生死を賭けた戦い』をするかもしれない相手ともなると心穏やかではいられない。

 それでも早る気持ちで臨めば一瞬で肉塊へと変えられてしまう可能性があるので、満月とまではいかないが8割は満ちた月を見上げて自分を無理矢理落ち着かせる。

 ちょっとした現実逃避みたいなことをした直後、外灯の下に白髪の少年が大量のコーヒー缶を入れた袋を持って姿を現し、そちらに視線を明確に向ければ向こうも面倒臭そうに鳴海を見て立ち止まり、何を言うでもなく鳴海の様子をうかがってきた。

 

「一方通行で、間違いないな」

 

「あァ? そーゆーてめェは最強って名に釣られた糞ったれか」

 

「最強ね。それに拘ってるのはお前の方だろ、一方通行。今日は何体目まで進んだ?」

 

「お前……どうやらあの実験を知ってるみてェだな。つーことはただの糞野郎ってわけじゃねェか。何が目的だ?」

 

 ようやく現れた一方通行は、意味深なことを言う鳴海がただのゴロツキではないとすぐに見抜いてくるが、その目に警戒の色はあまりない。

 それはこの世のほぼ全てのモノが一方通行にとって脅威にならない故の自然体。今の段階で鳴海は一方通行の敵にすらなっていないことを意味する。

 だからといってここで目くじらを立てるほど鳴海もバカではないし、元々そういう扱いを受けることは前提にあったので、どんな用件かと待つ一方通行に移動することを告げると、一方通行も興味くらいはあるのか黙って後ろをついてきた。

 一方通行を連れてやって来たのは、先日に一方通行が実験で使っていた橋架下の鉄道整備場。

 夜も更けて人の気配も全然ないので、ここでなら多少派手に何かあっても大丈夫だろうと移動してきた鳴海だが、黙ってついてきた一方通行が後ろからイラついたプレッシャーを浴びせてきたので、もう少し奥の方まで行こうとしたのをやめて立ち止まった一方通行へと向き直り正面から相対する。

 

「こンな場所に来て目的を話すってことはだ。どうやら話だけじゃ終わらねェみてェだなァ」

 

「それを決めるのはお前だ、一方通行」

 

「あァ?」

 

 わざわざひとけのない場所にまで移動したことで一方通行もなんとなくこのあとの展開を予想して不気味に笑ってみせたが、鳴海の言葉に少し疑問を混ぜた声を発してくる。

 そんな一方通行にポケットへと仕舞っていたA4用紙を取り出して簡単な紙飛行機を作り一方通行へと飛ばすと、それをキャッチした一方通行は紙飛行機を崩してそこに何か書かれていることに気づき外灯の当たる位置まで少し移動してその文面を読み始める。

 

「(あれを読んで一方通行が乗ってくれば、もう引き下がれない。だけどそれがどうした。それで今夜、あの実験は終わりを迎える。ならそれで十分だ)」

 

 静かに渡した紙に目を通す一方通行を見ながら、鳴海はこれから始まってしまうだろう最強との戦いに身体が震えるが、それを圧し殺して黙らせてただ待つ。

 自分の存在を丸ごと食っていった完全なる上位互換が、その目を自分へと向けて敵意を見せるその瞬間を。

 

 

 

 

 どういうつもりだこいつ。

 わざわざ人のいない場所に移動してまで自ら目的を話さないということにイラつくところはあったが、紙飛行機にして渡された紙には何やらつらつらと書かれた文面が見えたため、そこに向こうの目的があると判断した一方通行は、てめェで読めと思いつつも強者の余裕を見せるように自らそれを読むために明かりのある場所に移動し書かれていることを読む。

 そこにはかいつまんで解読するに、目の前のガキが過去に自分が知らぬまま押し潰した『侵入禁止』であることと、いま行なっている『絶対能力進化』計画のもう1つのシナリオが書かれている。

 しかしそれには前提条件として目の前の相手が超能力者であることがあり、そのためには1度、自分があれを瀕死の状態にまで追い詰めなければ到達し得ないことまで書かれている。

 これが向こうの作ったデタラメな話なら無視しても構わないが、どうやらそうではなく樹形図の設計者による予測演算の結果だと示す証拠も存在することから事実なのだと理解できる。

 さらにその前提条件さえクリアしてしまえば、今の折り返しまで来た実験の残りを消化することなく、今夜この場で自分が絶対能力者へと進化できる可能性がある。

 

「お前、頭イカれてンじゃねェか?」

 

 ひと通り書いてることに目を通して一方通行が最初に思ったのはそれだった。

 確かに渡された紙の内容なら乗らない手はないくらいの好条件ではある。

 しかし仮に相手が超能力者になったとしても、そのあとに待つのは自分を高みへと押し上げる踏み台となる結末だけ。

 書かれていることをそのまま実行するなら、一方通行は超能力者となったあれをただ殺害すれば進化は完了するわけだ。

 

「最強の名が欲しくて突っかかってくるバカはいるが、俺を『無敵』にするために死にに来るバカは、あの人形どもを除きゃ後にも先にもお前だけだろォなァ」

 

 それだけの価値がアレにあるのかは半信半疑ではあるが、こっちはおそらく大した労力もなくアレを殺害できるのは間違いないので、たとえ徒労に終わっても痛手は少ない。

 だったら乗らない手はないかと渡された紙をビリビリに破いて一応の証拠隠滅として風に流してしまい、自分より下位の存在と遊ぶために相対する。

 

「つってもよォ、大抵の奴は1分も持たずに地面に転がンだよなァ。挑ンできた以上はレベルアップする前に死ぬンじゃねェぞ」

 

「その心配はない。何故なら……」

 

 相対して口を開きはした一方通行だったが、それがイコール相手との対話を望んでいたわけではなく、ただ一方的に語った独り言のようなもの。

 だから相手が何を言おうと一方通行には興味はなく、言い終えるよりも早く足元に転がる砂利をベクトル操作して蹴飛ばし散弾のごとく相手へとぶつける。

 とりあえず無謀な挑戦者の8割はこれで片付くが、一方通行も様子見の一撃といったレベルで放ったため、これで終わるなら拍子抜けもいいところ。

 それならば1万回のシナリオでいくぶん持つようになった人形の方が頑丈なくらい。

 しかし現実には砂利の散弾を浴びた相手は全く避ける動作をすることなくそれを真正面から受けて無傷。

 

「おっ? 今のは俺の反射に近ェな。まァ超能力者になれる可能性があンなら、その程度は出来ねェとなァ」

 

 その現象を見て砂利が相手に当たってないとすぐにわかった一方通行は、自分が普段全身に施しているベクトル操作。触れるものをそのまま同じ方向へ跳ね返す『反射』と類似した能力であると理解し少し面白くなった状況に笑う。

 それでも一方通行にとっては脅威すら感じない有象無象の中の1人と変わらない。無能力者や低能力者ならいざ知らず、大能力者ならこの程度は防げる奴もいるのだから、その辺は想定内。

 ――ダッ!

 だが自分を知る相手が自ら突っ込んでくる相手はさすがに想定外で、攻撃の後に前へと駆けた相手は、能力による遠隔攻撃を仕掛けてくる様子もなくまっすぐに突っ込んでくる。

 

「(こいつは俺の能力がどんなもンか理解してる。ここで仕掛けてきても反射でどうにでもなる……いや)」

 

 ただのバカなら思考することもなく突っ込んできたのを反射で迎撃するところだったが、先制攻撃に怯む様子すら見せずに反撃に転じてきた相手の未知の部分に違和感を感じた一方通行は、足元の砂利を相手にぶつけながら蹴り足の力のベクトルを操作して大きくバックステップ。

 砂利を物ともせずに突っ込んで拳を振るってきた相手を観察しながら悠々と着地を決める。

 

「(殴りに来やがったか。それにぶつけた砂利の跳ね返り方が柔い人間にぶつかった感じじゃねェな。俺の反射みてェに全身を硬質の何かで覆ってやがンのか?)」

 

 侵入禁止という能力名から、何らかのバリア系の能力であることは予想して然るべきではあるが、そのバリアの上から殴ったところで自分の反射に対応できるとも思えない。

 それでも向こうは迷うことなくそれを実行しようとした。ならば確かめるしかない。向こうの自信に繋がっている、能力の正体を。

 砂利は通用しないことはわかった。それなら次はと一方通行が用意するのは、足元に敷かれている鉄道のレール。

 それに足の爪先をトンと当ててベクトル操作で無理矢理地面から引き剥がしてしまうと、立ち上がったレールを今度は手の指で小突いて相手へと勢いよく飛ばす。

 なかなかの凶器となったレールだが、それも向こうにとっては脅威とはならなかったのか、避ける様子もなくまた正面から受け止めて相手の足元に力なく落ちた。しかもかなりの勢いで飛ばしたはずだが、向こうは1歩たりとも後退していない。

 

「(今ので1トンくれェの衝撃はあったはずだが微動だにしねェか。単なるバリアってわけでもねェのは確かだが、ぶつかったエネルギーはどこで相殺してやがる)」

 

 そのことから展開されてるバリアが衝突のエネルギーをも殺していると考えられるのだが、ぶつかったレールをよく見れば相手にぶつかる軌道にあった部分から外れた箇所がひしゃげていて、それだけの衝撃が相殺されずにぶつかっていることは間違いない。

 つまり向こうは地面に根でも張って巨木のごとくレールを受けたのと同義であり、それだけの性能のバリアを展開しているということ。

 

「第1位ともあろう男がずいぶん臆病な戦い方をするんだな」

 

 自殺志願者と割り切るには不気味な相手に慎重になっていた一方通行に対して、接近すらさせない第1位の戦いに呆れるように挑発してくる。

 安い挑発ではあるが、言われてみれば確かに今のところ端から見れば相手を警戒して近づけないようにしてるように見えているのは間違いない。

 

「三下が吠えるじゃねェか。そンなに早く死にてェなら、お望み通りミンチにしてやるよ」

 

 たとえ自分の意図したこととは違う見解だとしても、学園都市最強がナメられたとあっては無視はできない。

 考えるのはやめない。だが今度は相手が無駄口を叩く余裕すらないままに攻めて殺す。

 そんな意識の切り替えが相手にも伝わったのか、自分と同じで構えることのなかった向こうが直立の立ち方から重心を少し落とした身構えに変わり、それを見た一方通行は足元のベクトル操作をして弾丸のごとく相手へと突っ込んでいく。

 文字通り、相手を人としての原型を留めないミンチにするために。

 

 

 

 

 牙を見せた絶対強者。

 不気味な挑戦者である自分を様子見していた一方通行ではあったが、鳴海としては相手に接近しないと戦いにすらならないため、そうして遠間から分析されるのは正直かなり厄介でしかない。

 だから安っぽいとは思いつつも挑発を試みたら、強者のプライドか面白いくらいに乗ってきて遥か高みから見下ろすような笑顔で脚力のベクトル操作をして弾丸のごとく突っ込んでくる。

 鳴海の能力である侵入禁止は、対象に近づくあらゆるものを遠ざけようとする絶対不可侵のバリアだ。

 バリアの厚さがわずか2センチ程度なこともあり、ぶつかった物のほとんどは壁にでもぶつかったように勢いが死に、対象内の物体はかなり高い優先度を持って周りからの影響を受けない。

 だから先ほどのような砂利の散弾だろうと鉄道のレールだろうと鳴海には障害にすらならない。

 そのことを一方通行は知らないから一応の警戒として接近させなかったわけだが、この一方通行もまた鳴海と似て非なる能力を常に周りに展開し続けている。

 触れるもの全てを全く同じ方向へとベクトル操作して跳ね返す反射。

 これがある限り一方通行には傷1つ付くことはないが、鳴海にとってはこの反射こそが一方通行攻略の鍵なのだ。

 鳴海の能力がただ単に壁のようなバリアを張るものだったなら、一方通行の反射、或いは別のベクトル操作によって突破される可能性があり、とてもではないがダメージを負わせるような攻撃は不可能だった。

 およそ戦いの構えなどしない一方通行の無防備な接近に対して、鳴海はただその拳を握って全力でそれを振るう。

 対象から遠ざかる力。言うなれば引力に対する斥力。これを身に纏った状態の鳴海と、向かってくるものを同じ方向へ反射する一方通行。双方の激突が生み出す結果は単純明快。

 斥力の真逆の力が引力ならば、それを反射することで一方通行は鳴海の拳を自らに引き寄せてしまうということ。

 

「(一方通行は常に反射を展開してあらゆるものから身を守ってる。それはつまり戦い方が能力に依存してるってことだ。なら一撃でもまともに入れば、演算に乱れを生じさせることも可能!)」

 

 情報というアドバンテージによってその攻略法に辿り着いた鳴海の拳。

 当たればまず間違いなく不意を突かれた一方通行は動きが鈍り、そこに畳み掛けることで普段使い慣れてしまってるに反射を誘発させて更なるラッシュを叩き込んで一気にノックアウト。

 絶対能力者進化計画は一方通行が学園都市最強という前提で行なわれている実験。

 鳴海はその当て馬にされてはいたが、これで本当に死ぬつもりで来ていたら笑えない。

 だからこその奇襲。一方通行が勝って当たり前の前提を覆し勝利すれば、学園都市最強の看板は落ち実験は終わる。鳴海が死ぬ必要も、超能力者になる必要もないというわけだ。

 反射以外の防御をしない一方通行はやはりそれ抜きに考えれば隙だらけ。これなら拳を叩き込めると確信して目の前まで来た一方通行の顔面めがけて振りかぶった拳を振るう。

 ――バキィィイ!!

 入った。反射による影響を利用した引力の拳は鳴海に確かな感触を伝えてきた。

 鳴海自身もまた能力の加護によって生身で殴るという感覚はわからなかったが、骨に響くような衝撃と痛みは長らく感じることのなかったもの。

 

「なるほどなァ。これなら確かに俺の反射も意味がねェか」

 

 確かに鳴海の拳は当たった。当たったのは当たったのだが、それは直前で挙動を変えた一方通行の右足の裏。そこに拳が突き刺さっていたのだ。

 引力による拳は確かに強力ではあるが、それも当たる場所が足の裏では有効打にはなり得ない。当たりどころとしては最悪レベル。

 しかもこの拳によって鳴海の分析をしていた一方通行は何かに気付いた様で驚愕の表情を浮かべた鳴海をあざ笑うように拳を押し返して即座に飛び退いてポケットに手を突っ込んだ余裕の態度で見据えてくる。

 

「俺の反射は来たもンを来た方に跳ね返すもンだ。それが機能しねェで……いや、機能した上で直接触れられたってことは、お前の能力が周りのもンを遠ざける力ってことだよなァ」

 

 さすがは学園都市の第1位。分析能力もバカの鳴海など比較にならないレベルの正確さ。このわずかな時間でほぼ正解に辿り着かれてしまった。

 しかも一方通行はそれだけに終わらずゆっくりと歩きながら近くの運搬用コンテナの横まで移動すると、小石でも蹴り上げるように軽く蹴ってその大質量を持ち上げる。

 

「そンだけの力があって大能力者に留まってるってこたァ、どこかに突き抜けられねェ問題があんだよなァ。例えば耐えられる負荷の限界とかよォ」

 

 質量を感じさせないように浮き上がったコンテナが頂点から落下を始めたところでそんなことを言った一方通行は、落ちてきたコンテナに触れて先ほどのレールのように鳴海へと飛ばしてくる。

 これも鳴海には何の問題もない、わけではなく、静止状態で中身が空だとしても重量5トンを越えるコンテナ。それが弾丸のように飛んできたとなればそのエネルギーは計り知れない。

 鳴海の侵入禁止の現在の最大防御重量はおよそ10トン。そこまでなら鳴海は避けるまでもなく正面から受け切ることができるが、それを越える重量をぶつけられると対象の優先度は無視されてしまう。

 つまりどうなるかというと、能力のバリアは破られることはないが、鳴海は飛んできたコンテナの勢いを止められずに押しやられるということ。

 ――ゴバァァア!!

 瞬時に避けるにはあまりに大きなコンテナに対してどうしようもなかった鳴海は、ここで初めて両手を前にかざしてコンテナの衝撃に備え、その上でコンテナごと後方へと一気に吹き飛ぶ。

 幸い後ろには別のコンテナが鎮座していてすぐにそこにぶつかってコンテナの板挟みに遭うものの、能力のバリアは貫通することなくその中でも鳴海は無傷だ。

 コンテナに自分1人が収まる程度のへこみを作って止まりはしたが、今ので耐えられる重量の限界もある程度知られてしまったため、丸裸にされるのも時間の問題か。

 こうなるともう一方通行を殴るのも難しい。ならどうするかと暗いコンテナの隙間で思考しようとしたタイミングで、こっちの意図とせずに前のコンテナが一気に浮き上がって飛んでしまい、開けた視界には怪しい笑みを浮かべる一方通行。

 一方通行は予期せぬ奇襲で思考が追いつかない鳴海の右足をガッと掴んでしまうと、力任せに振り回して地面へと叩きつける。

 何の意味もない一撃。

 そう考えるのは浅はかで、一方通行が鳴海の足を掴んだ瞬間から、一方通行のベクトル操作によって鳴海の侵入禁止はその性質を180度変えて物体を引き寄せる性質になってしまっていた。

 そんな状態で地面に叩きつけられれば、鳴海の身体は自らの能力によって地面へと引き寄せられて生身でぶつかることになる。

 生まれて初めての全身に伝わる強烈な痛みに、鳴海の思考は完全に停止。一気に押し寄せてきた血を吐き出して呼吸もままならない。

 

「その能力を切った方が楽になれンじゃねェか? もっとも、能力なしなら俺の別の攻撃に耐えられねェだろうがなァ!」

 

 動けない鳴海に対して、何が面白いのか笑顔で煽る一方通行は、鳴海の右足を掴んだまま、さっき蹴り上げて宙にあったコンテナが落下してくるのを見て愉快な笑いを漏らす。

 

「で、この状態であれが落ちてきたら、どンなミンチに仕上がンだろォなァ」

 

 狂気の問いかけ。人を人とも思わないその一方通行に、ただ落ちてくるコンテナを見るしかできない鳴海は、そこで覚悟した。

 

「ゴメンな……最愛……操祈……」

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