とある未完の侵入禁止   作:ダブルマジック

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8月20日

 橋架下の鉄道整備場。治安維持を目的とした大人で構成される集団『警備員(アンチスキル)』の1人として要請を受けてここにやって来た黄泉川愛穂(よみかわあいほ)は、その現場検証をしながら頭をかく。

 

「昨夜ここで一体、何があったじゃんよ……」

 

 直接見てみても不可解な現場。

 敷かれたレールの一部が強引に外されてひん曲がった状態で転がり、ボッコリとへこみのある貨物用コンテナも2つ、近くで無造作に転がっている。

 学園都市は能力者のいる特殊な環境。だからこういった騒動らしき現場や事件は小さなものも数えれば毎日どこかしらで起きているのが現実。その都度で出動がかかるのもまた警備員の運命。

 そうやってほぼ毎日、学園都市で起きる騒動を見てきている黄泉川でさえ、今回の現場は不自然であると断じれた。

 自然発生の現象でないことは間違いないが、破壊されたコンテナやレールも1人の八つ当たりでそうなった痕跡ではない。ならば2人以上の喧嘩の末の有り様ということが言える。

 ところがこの現場には当事者であろう者の姿がないのは当然としても、これだけの被害を出しながら周りに血痕すら落ちていない。

 この規模の破壊を行なう能力者と喧嘩などすれば片方だけでも流血の1つはして当然。

 

「現場の血だけを綺麗に消していったってことか? 身元がバレたらヤバい奴がドンパチやってたとかだったら面倒臭いじゃんよ」

 

 科学的な分析をする警備員の近くでしゃがんで地面の砂利を拾い上げてみる黄泉川だが、不気味なほどに敷き詰められた砂利に不審なところはなくて、本当に流血沙汰はなかったのかと考えてしまう。

 しかし長い経験から胸につっかえる違和感は納得を許さないため、何かあると直感する黄泉川は、クレーンによって吊り上げられたコンテナを何気なく見ながら、その下敷きになってた場所に目を向け近付く。

 するとそこの砂利にだけどうすることもできなかったからか、一切見つからなかった血痕が砂利にあり、すぐに鑑識班がそれを採取。

 学園都市の学生ならばその全員が能力者として『書庫(バンク)』に登録されているため、血液から書庫と照合することは割と簡単なことで、基本的に一般開示はしてない書庫だが警備員や風紀委員ならば必要に応じて最低限のアクセス権限は与えられている。

 不可解なことはあるがこれで進展するかと照合の方を待っていた黄泉川だったが、鑑識から出てきた言葉はちょっとした衝撃を含んでいた。

 採取された血液に適合する人物は存在しない、と。

 それなら書庫には登録されてない自分達のような大人連中ではないかとそちらの方も照合に入ってもらったのだが、やはり結果は一致する人物がいない。

 つまりこの場にいた何者かは学園都市には存在しない誰か。侵入者、或いは何かの不都合で登録をスルーしてしまったイレギュラー。

 

「……少なくとも、ここで起きたことを隠蔽する存在がいるってことじゃん。外部の人間だけでそんなことを一晩で出来るとは思えないわけだけど、組織的な統制の取れた動きだったのは間違いないじゃん」

 

 叩いても埃すら出てこない現場の異様さを黄泉川はヒシヒシと感じるのに、唯一出てきた情報も進展には繋がらなくて気持ち悪ささえ覚える。

 現場の誰もがそう思っているだろう中、唐突に現場リーダーの元に連絡が入り、2、3言葉を交わしてからリーダーからの文句を最後に向こうが一方的に連絡を絶ってしまったようだった。

 ガリガリと頭をかきながらため息をついた現場リーダーは、仕方ないといった雰囲気で現場の全員に聞こえる声量で唐突な撤収を告げ、後片付けをしたら持ち場に戻るように指示。

 当然納得のいかない黄泉川他は現場リーダーに詰め寄るが、話を聞けば撤収命令は統括理事会からのもので、こちらの言い分がどうであろうと上の判断は絶対である。

 統括理事会からの介入でますます疑惑は増すものの、上がいいと言ったものを忙しい身である自分達が納得のいく収め方をしていてはあっという間に首が回らなくなる。

 

「(統括理事会が介入してくる時は、決まって学園都市の暗い部分に触れるじゃんよ。それを解決するのが私らの仕事なのに、それもままならないとか情けないじゃん……)」

 

 自分の無力さなど今まで何度も味わってきた黄泉川だが、何かあるとわかってて何も出来ない悔しさは相当なもの。

 だからせめて目に見える範囲の治安を守りたい。自分の力が許す範囲で救える者に手を差し伸べたい。

 そんなことを思いながら、不可思議なことの多い現場をあとにする黄泉川だった。

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