戦国恋姫で宅急便してます   作:姿くらまし

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黒猫は虎に連行される

 

 

 

 

 

 

 

 

黒猫大和が甲斐に向けて意気揚々と姿くらましを無駄に使いながら移動していた頃、先程まで大和のいた川に向けて馬を走らせる少女がいた。

 

「もう少しで着きやがりますな・・・・・・・」

 

虎を連想させるような金髪の髪をなびかせながら、馬を巧みに操りながら目的地まで馬を進める。

 

彼女の名前は武田夕霧信繁、甲斐の虎と呼ばれる武田晴信の妹である。

 

彼女の目的は先日の大雨による被害を確かめに来たのだ。本来は彼女の仕事ではないが交通の要所であることと彼女が馬の扱いに長けている事が理由である。

 

もし橋に被害があれば、物流が滞り大きな混乱もきたすかもしれないと夕霧は心配はしていたのだがどうやらそれは杞憂かもしれない。先程から荷車を引いた商人や馬とすれ違っているのだ。少なくとも大きな被害は無いのではないかと考えていた。

 

しかしそんな彼女の予想は大きく外れることになる。

 

実際に彼女の見た光景は不思議を通り越して異常であった、橋は原型をとどめないくらいに倒壊しており、おまけに川は大荒れときた。これでは馬どころか人も渡れない。

 

しかし自分の傍には荷車の近くで休憩を取る商人たちがいたのだ。これは一体どう言うことなのか、夕霧は近くにいた商人から話を聞いた。

 

 

曰く見たことのない素材の濃い緑の服と帽子を被った奇妙な青年に対岸まで送って貰ったらしいのだ。この洪水した川をどうやって渡ったのか聞いた時、夕霧はこの日一番の衝撃を受ける。

 

商人の話では自身が目を瞑っている間に、自分と荷車、そして不思議な青年が対岸に渡っていたというのだ。商人が青年に聞いたところ、これは自身の御家流らしく、《姿くらまし》と言うらしい。

 

「それで・・・・・・・その青年の名前は何て言うんでやがりますか」

 

「へぇ、確か黒猫大和宅急便って言ってやした」

 

黒猫・・・・・・・やはり聞いたことのない姓だ。これほどの力を持つ人物が今まで野に埋もれていたのが信じられなかった。青年は旅をしていると言っていたがそれならば野放しには出来ない。

 

 

この商人の話が本当ならば青年は瞬間移動が出来るのだ。彼は諜報能力において頂点に立てるかもしれない、彼の能力を正確に把握はしていないが戦闘においても相当な実力かもしれない。

 

 

もし青年が他国に仕えた時の事を考えると嫌な想像が膨らむ。まず情報の伝達速度は最速になる、これは戦の行軍の速度にも直結する重要なことだ。更に彼にかかればどんな厳重に守っている城にも潜入が可能、更には一人で城を落とすことも可能である。

 

夕霧は今ここで青年の事を知れたことを幸運に思い、自身の姉に報告するべく直ぐに城に戻るのだった。

 

 

視点変更 黒猫大和

 

 

やあ皆元気にしてたか?俺はどうかって?体調は良いけど、気分は微妙だよ。

 

俺は甲斐の城下町に着くと取り合えず数日分の宿をとって、《黒猫大和宅急便》をどんな風にやってくか考えていた。最初は何処かの商人と専属契約を結ぶ事を考えていたんだけど、他の商人が黙ってない気がしてやめた。

 

 

分け隔てなく契約を結ぶとキリがないし、俺の休日も無くなるし。5日働いて2日休む。異世界にトリップしてまでブラック企業みたいな仕事はしたくない。

 

そうなると一番無難なのは俺が命名したタクシー方式が一番かもしれないと思った。つまり何処かの商人や旅人の通る道の途中に俺がいて、所定の場所に届けるという方式だ。

 

これなら一ヶ所に留まる必要もないし、時間を気にせずに仕事が出来るつまり俺のペースで仕事が出来るのだ。俺が待つ場所は定期的に変えるから順番待ちの列も出来ることはないしな。

 

料金は色々迷ったけど俺の待つ場所の隣接する国までなら7文(700円くらい)、それ以外の遠い国は一律20文にした。タクシーの初乗り料金より安いの素晴らしいと思う。

 

金はあればあるだけいいかもしれないけど、俺はクロネコ○マトのバイトとはいえ社員の一員だ。あくまで市民目線も忘れずにやらなければならないのだ。

 

そんな信念を持ち取り合えずやってみることにした。いきなりどんな場所にも送りますって言っても胡散臭くて誰も信じてくれないかな?と思っていたんだけど、結構利用する人がいた。

 

何でも俺が先日、洪水した川で送り届けた商人たちが俺の噂をしていたらしく。俺の制服が噂と同じ事から声をかけたらしい。思わぬ所で商人のオッサンに礼をいうことになってしまった。

 

料金に関しても俺が料金を言ったときは驚かられた。目的地までの食費や宿泊費から考えても信じられないほど安いらしい。商人曰くもっと高くしても文句は言われないらしいが、俺一人が生きるくらいなら別に値上げはしなくてもいいと断った。

 

当然ながら商人に勧誘もされたけど丁重に断った。そんなこんなで取り合えず滑りだしはいいかなと思っていたんだけど――――――

 

 

「――――――俺氏、何故連行されてんだろ?」

 

「いいから早く歩くでやがる」

 

 

今日もいい仕事したなと宿に戻ろうとした時、今俺を連行している夕霧、武田夕霧信繁にエンカウントしたのだ。いや、待ち伏せしてたの方がいいかもしれない。

 

俺の滞在する宿の前にいたのだ。彼女曰く先日商人のオッサン達を助けた礼をしたいらしく何と当主自ら俺に会いたいらしいのだ。何とも光栄だが、多分礼を言いたいだけじゃないんだろうな~と思う。

 

まぁ、その事はあってから考えよう。それよりも俺は前を歩く彼女、夕霧に興味が湧いている。偉い人だから偉そうなのかな~と思っていた。実際彼女の~やがるの口調には驚いたが俺が敬語を使うと、夕霧でいいでやがりますよと言ってくれるし立ち振舞いは何だかお淑やかなのだ。

 

何だこのギャップ萌えはと俺は中々の好印象を持っている。それに可愛いしな、こんな簡単に好印象を持つ俺は単純なのだろうか?

 

 

 

 

と言うことで俺は刑務所・・・・いや、城に連行された。

 

やっぱでかいな城ってと緊張感のない言葉に夕霧に少々呆れられながら評定の間というところに連れてこられた。中は広く、左右に武将らしき人が座っており、心なしか俺は睨まれているような気がする。

 

おかしいな俺、お礼を言われに来たんじゃないの?

 

「なあ夕霧、俺何か睨まれてないか?」

 

「・・・・・・気のせいでやがる」

 

フイと顔をそらす夕霧、そのしぐさは可愛いけど気のせいでないのは確かだ。ヤバイな、失礼して俺斬られたりしないだろうか?その時は姿くらましで全力で逃げよう。

 

「大和、そこに座るでやがる」

 

俺は帽子をとって夕霧に指定された所に座る。一応俺の容姿を説明すると友人曰くザ宅配のお兄さんらしい、よく分からん例えだな。俺が座ったのは上段のすぐ近くだ、つまり俺は当主様のすぐ正面に座ることになる。何か緊張するな。

 

「武田家棟梁、武田光璃晴信様!御出座!」

 

夕霧も自分の席に座ると、声を張り上げ威勢よく口を開いた。そして襖から入ってきたのはある意味予想を裏切る少女だった。

 

「武田家当主、武田光璃晴信です」

 

水色の髪に綺麗な紅眼の少女、この子が武田家当主か・・・・・・待てよ、と言うことは夕霧の姉だよな?夕霧の方が姉に見えるんだけど。

 

いや、ある意味夕霧が妹の方が良かったのかもしれない。でないと姉としてのプライドが許さないだろう、ある部分での意味で。

 

俺は夕霧の方を見て、視線をやや下に向けながら。

 

「夕霧、妹でよかったな」

 

「オイ、今何処見て言ったでやがりますか!」

 

何処かとは言えない、夕霧の名誉に関わるからな。それにしても、この子が武田の当主・・・・・・・ん~何かな~。

 

「大和、どうしたでやがりますか?」

 

「え?いや、何と言うか・・・・・・」

 

言ってもいいのだろうか、何か失礼に当たりそうなことを言う気がするしな。

 

「仰りたい事があるなら構いませんよ」

 

そうなの?じゃあ、遠慮なく。

 

「えっと、何か意外だなと思ってさ」

 

「何がですか?」

 

当主様が可愛く首をかしげる。

 

「武田の当主様だからもっと怖い人かなと思っていたんだけど、凄く優しそうな人でさ。でも何か惜しいと言うか何か合ってないな~と思ってさ」

 

「それは・・・・・・御館様が当主にふさわしくないと言うことでやがりますか?」

 

夕霧が怖い声で俺に言う。当主様も少し悲しそうな顔をするし、後ろは向いてないけど家来らしき人からは殺気が漏れてるような、急いで弁解しないと俺の命はないかもしれない。

 

「あ、すまん!俺の言い方が悪かったな、俺が言いたいのはこの時代に合ってないってこと」

 

「この時代?」

 

「そう、当主様は多分優しいんだろうなってのがよく分かる。でもこの時代、戦とか絶えないだろ?だからさ・・・・・・・もし、戦とかない平和な国だったら当主様以上の人なんていないんじゃないかと思ってる」

 

「戦がない平和な国でやがりますか?」

 

「今は実感は湧かないかもしれないけど、俺は何時かそんな日が来ると信じている。その時は当主みたいな人がいいなと思ってさ」

 

実際、戦のない国を仕切るのは金と政治だと思ってる。当主様なら悪政とか汚職何てしなさそうだし。それに・・・・・・・

 

「まぁでも、俺がとやかく言う必要はないんだけどな?」

 

「どうしてでやがりますか?」

 

俺の言葉に夕霧は尋ねる。何だよ自覚してないのか。

 

「だってよ、当主様の苦手な部分を夕霧や他の皆がサポート・・・・・・じゃなくて支えてんだろ?なら言うことなしだ。俺は夕霧と会ってまだ短いけど、俺、お前のこと気に入ってるからな」

 

だろ?と夕霧に笑いかけると、夕霧は惚けた顔をして声を粗げながら。

 

「な、何を言ってるでやがりますか!」

 

「痛って!」

 

夕霧に頭を殴られた。この世界の女の子って力が強いよね。

 

「何すんだよ!」

 

「うるさいでやがる、いきなり何を!」

 

「ふふっ、ふふふふふっ!」

 

当主様が笑っている、今の何処に面白い要素があったのだろうか?

 

「あの、何か面白いですか?」

 

「ごめんなさい、夕霧お姉ちゃんがあんなに楽しそうなの久し振りだったから!」

 

「薫!夕霧は楽しくなんて・・・・・・!」

 

へぇ、何時もの夕霧はそんなに感情を露にしないのか、意外だな。・・・・・・ん、今当主様《お姉ちゃん》と言った?そして夕霧も当主様のこと《薫》ってどゆこと?

 

「あ、あのこれは「薫、もういい」・・・・・・お姉ちゃん」

 

当主様?の声を遮って部屋に入ってきたのは、当主様?と髪の色が紅以外はそっくりな少女。しかし当主様?と比べると迫力というか人の上にたつ王の覇気を感じた。ワン○ースもこんな感じなのか。

 

当主様?が空いていた座布団に座ると。少女は先程まで当主様?の座っていた席に座った。てことはもしかして・・・・・・

 

 

「大和、姉上が本物の御館様でやがる」

 

「試して、ごめん・・・・・・・」

 

「え、あ、あの俺は黒猫大和宅急便です」

 

「知ってる」

 

テンパって自己紹介してるよ!俺何かヤバイ発言してしまったような、本物の当主を差し置いて平和な国は薫様の方がいいみたいなこといってしまった。

 

「あの、すみませんでした!」

 

人生の中で最速、最高の全力土下座。土下座に最高とかあるのか?俺の土下座にも当主様は不思議そうに首をかしげる。

 

「どうして、謝る?」

 

「いや、俺武田の事とか何にも知らないのに好き勝手言ってたし」

 

「いい、大和の言ってること間違ってない」

 

当主様は引き込まれそうな紅い眼で俺を見つめる。でも取り合えず良かった気にしてないみたいだ。

 

「大和さん、騙してごめんなさい、私は武田薫信廉です!薫って呼んでください!」

 

「いや、気にしなくてもいいからな?・・・・・・待てよ」

 

薫が当主様じゃないと言うことは薫は夕霧の妹、そして光璃は二人の姉・・・・・・・

 

俺は光璃、薫そして夕霧を順番に見て小さな溜め息をついた。遺伝子がこんな理不尽に働く事があるのか。

 

「どうしたの?」

 

「どうしたでやがりますか?」

 

「どうしたの大和さん?」

 

俺は再び視線をやや下に向けながら。

 

「夕霧、強く生きろ」

 

「お前、後で覚えてろでやがる!」

 

そんな夕霧の脅しもとい殺害予告をスルーしてどうしてこんなことをしたのか聴いた。

 

「大和がどんな人か知りたかった・・・・・・・」

 

「大和の御家流はその気になれば城も落とすことも可能でやがる」

 

「だから、その御家流を使う大和さんがどのような人物か見極めたかったんです」

 

俺の予想通りではあったが、もし俺が邪悪な考えを持ってたりしてたら俺は斬られてたりしてたのだろうか?

 

「それで、当主様から見て俺はどんな奴ですか?」

 

「ん、大和いい人、薫のことを褒めてくれた。後夕霧と仲がいい」

 

「姉上!夕霧は大和と仲よくしてません!」

 

「でも、楽しそうだった・・・・・・・」

 

「うん!私もそう感じた」

 

当主様は小さく微笑みながら俺に告げた、無口な人かと思っていたが以外にも感情は表しやすいのかもしれない。俺と夕霧が仲がいいかは別として。

 

それから俺は後ろにいる武田四天王の方達を紹介してもらった。一言で言い表すならば心以外は皆濃いメンバーであることがわかった。俺は武将に会うのは初めてだけど皆こんな濃いの?違うよね?

 

それから俺は今回の商人のオッサン達を助けた礼を言われた。別に姿くらましの実験のついでだし、結局お金を貰ったのだから仕事と変わらないのだ。

 

だから、光璃(途中から光璃でいいと言われた)に報酬をあげると言われてもこれも仕事の一環と言って断ることにした。

 

勿論、話の途中で武田家に遣えないかと誘われたんだけど、丁重に断った。光璃はそれ以上は言わなかったけど。《残念、でも諦めない》と言われてしまった。

 

その夜俺はせめて泊まっていってくれという光璃と何故か夕霧のご厚意を受けて泊まっていくことにした。

 

 

さて、明日から仕事を再開するけど、また何回も会いそうな気がするのは何故だ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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