ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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原作ゲームの総ざらい編やアナザー1話含めてですが、今回でとうとう更新100回目になりました。
二次創作を始めてそれなりになりますが、ここまでの長期連載は初めてです。……実は別の投稿サイトで5年近く止まっているのがあって(三国志に現代人を放り込んだら、ってのを書いてました)、このSSはそのリハビリで始めた積りのものだったんですが、思いの外反響を頂けたのが嬉しくて張りきっちゃって今に至ります。
今後とも不定期マイペース更新ですが、宜しくお付き合い下さいませ。



Lights Camera Action Ⅱ

「うーむ」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒは思案に耽っていた。

 

「通行量調査……ポケットティッシュ配り……ダメだ、拘束時間が長すぎる」

 

 自室のベッドの上でうつ伏せになって枕の上に顎を乗せ、唸りながら睨みつけるのは妙に薄くてカラフルな冊子。ぶつぶつと何やら呟きながら、ラウラはそこに赤い水性ペンでキュキュッと×(バツ)印をつけていく。既にその半分以上が真っ赤に染まっているこの冊子の正体は何を隠そう―――

 

「―――アルバイトの求人情報誌?」

「む、デュノア遊撃兵」

「もう。その呼び方、仰々しすぎるってば。せめて『デュノア』にしてくれないかな」

「む、了承した。では改めてデュノア、シャワーは済んだのか?」

「うん。先に使わせてくれてありがとう」

 

 そう言いつつ、仄かに湯気を立ち上らせる髪をバスタオルで拭いながら、大きめのサイズのシャツをワンピースの様に着ている姿で浴室から出てきたのは、先日の部屋替えでルームメイトになったシャルロット・デュノアである。一夏の個人部屋がようやく手配出来たのと同時期にこの()()()()が起きた事で、1年生女子の一部の間でちょっとした引越騒動が発生、彼女たちもその一部に含まれていた、という訳である。

 

「いやぁ、やっぱり何の気兼ねも無くシャワーを浴びれるの気持ちいいね~。それで? ラウラ、それ読んでるってことは、アルバイトしたいの?」

「うむ。なんでも今度の臨海学校で向かう浜辺には、嘗て一夏(アイン)から聞いた『海の家』なる食事処があるのだとか。その店では焼きそばやかき氷など、実に多彩な日本の食事が楽しめるのだとか」

「そうだね。定番どころは一通り食べられるんじゃあないかな」

 

 自分の知る限りでは『食事処』なんて大したものじゃなかったと思うのだけれど、目の前で瞳を爛々ときらめかせながら実に楽しそうに語る少女の前で()()を言うは野暮だろう、とシャルロットは口に出さず内に秘めておくことにした。尤も、彼女の情報源も少女漫画などの創作物であり、実際に確かめた訳ではないので、推測の域を出ていないのだけれども。

 

「でも、観光客向けの価格だとは思うけど、それにしたって今から働いてでもお金を貯めなきゃいけないような高級店じゃないよ? むしろラウラなんて、僕たちの中では一番お金持ってるんじゃない?」

 

 そう。ついつい忘れがちだが、このどう見たって年端もいかぬ幼女、バリバリ現役の軍人、しかも国の花形IS部隊の隊長なのである。ともすれば、既にそこらの一般人の平均的な生涯年収くらい稼いでそうなものだが。シャルロットがそんな風に素朴な疑問をぶつけてみると、ラウラは暫くもにょもにょと口元を動かしながら何やら言葉を練っているようで。

 

「その、だな、笑わないか?」

「勿論」

一夏(アイン)にな、食事を奢りたいんだ」

「……どういうこと?」

 

 ん? と再び小首を傾げながら、シャルロットは自然とベッドの端に腰掛け、続きを促した。

 

「昔、まだ一夏(アイン)と出会って間もない頃なんだが――――」

 

 

 

 

 ドイツの秋は極めて短い。夏が終わったと思いきや、既に冬が準備万端で待ち受けており、『秋らしい秋日』というものは数えるほどしかなく、あっという間に過ぎ去っていくもの、というのが当たり前の認識である。この時期に公園なんかに足を延ばせば、冬支度にどんぐりや落葉をせっせと集めては駆け回るリスの姿がよく見受けられたりする。所謂、風物詩、というヤツだ。

 

「なぁラウラ。一緒に街に出かけないか?」

 

 そんな秋口に差し掛かったある日のこと。あまりに唐突な提案に、私はぽかんと口を開けたまま暫し硬直してしまい。

 

「クラリッサさんから聞いたんだけど、もうすぐ“St.Martin(ザンクト マルティン)”っていうお祭りがあるんだろ?」

 

 それを聞いてようやく納得し、再起動を果たした。“St.Martin(ザンクト マルティン)”とは収穫祭の一種で、キリスト教の司教『聖マルティヌス』の命日とされている11月11日に、子どもたちが手作りのランタンを携えて歌を歌いながら市内を行進、家々を回ってお菓子を貰うという、ハロウィンに似た民俗行事である。この時期になるとリンゴ・ブドウ・イチジク・ザクロといった秋ならではの果物がスーパーや市場にずらりと並べられ、パン屋ではWeckmann(ベックマン)という人の形をした甘いミルクパンが売られ始めるのだ。

 

「俺、ドイツ(こっち)に来てから()()()()()初めてだからさ。色々と見て回りたいんだ」

 

 なら、別に私じゃなくても。軍務ばかりに気を取られ、遊びらしい遊びの経験など、心当たりすらない自分が案内をしたところで。そう告げると、一夏(アイン)は毛布に包まっている私にグイッと顔を近づけてきて。

 

「ロクに出かけたことがないんなら尚更だ。冒険しに行こうぜ」

 

 冒、険? オウム返しに小さく呟く私に、彼は大きく頷いて、高揚感を抑え切れない、という風な表情で滔々と語り出す。

 

「知らない街、知らない人、知らない食べ物、知らない行事。これだけ揃っててワクワクするなって方が無理だろッ」

 

 理解できない感覚だった。我々軍人にとって『未知』とは出来る限り削除せねばならない、最も忌避するべきものだ。『最悪中の最悪』まで起こりうる全てを想定し、幾重にも対抗策を張り巡らせ、その上で最も確実性の高い選択肢を選ぶことこそが我々の仕事だからだ。

 

「1週間後の日曜日、朝ごはん食べたら玄関集合な。はい、ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんの~ますッ」

 

 突然手を引っ張り出されたかと思うと徐に小指を絡めての『指を切る』『針1000本飲ませる』宣言に戦慄に震え固まる私の返事も聞かず、一夏(アイン)は部屋を飛び出していった。()()()()()()をくらった私がようやく我に返った頃にはすっかりと日が暮れており、やっぱり辞退しようと思いながらも『指切り』『針1000本』の衝撃は凄まじく、『強く辞退しておけばよかった』ともやもや葛藤を抱えたまま迎えた当日の朝。

 

「……よし」

 

 私服など1着たりとも持っていなかったので他に選択肢がなく、本当に久し振りに軍の制服を引っ張り出した。部屋に姿見がないので、洗面所の鏡から少々遠ざかって確認してみたのだけれど、嘗ては比喩でもなんでもなく24時間365日着ていたはずなのに、まるで()()()()に袖を通したように驚くほど自分の身体に馴染まず、『着られている』感覚が強くて、余りに滑稽に思えてしまった。

 

 それでも、必死に心を奮い立たせて、エネルギーゼリーとサプリメントを嚥下し、『あの日』以来初めて、部屋のドアノブに自らの意思で手を掛けた。酷く冷たく重く感じるそれを全霊をもってして回し、手入れの怠った蝶番が鳴らす耳障りな軋音に、心臓を緩やかに握り潰されているような息苦しさを覚える。50mもないにも関わらず、食堂の方から聞こえる部下たちの賑わいが遥か彼方に思える。動悸は激しく、呼吸は乱れ、四肢に力が入らず壁にもたれる。それでも、這うように、縋るように、牛歩なれど確実に前進していく。まるで全身に重石を課せられたようだ。長らくまともに運動をしてないせいで身体が鈍ったのもあるのだろうが、決してそれだけではないという確信がある。

 

 頭の中で声がした。何故、こんなにも苦しい思いをしているのか。既にこの身は無価値に等しい()()()()()()の敗残兵。不発弾は信管を外して爆破処理されるのが世の常。それが許されないのなら、せめて倉庫で密やかに。そう決めたはずではないか。歯車は歪んで狂い、錆びついて今にも壊れそうだと悲鳴を上げているではないか。

 

 なのに。どうして。私は。

 

「―――――あ」

 

 そこで、見た。足掻く様に強引に顔をもたげた先に、見えた。

 

「~♪」

 

 いつもと違う、明らかに()()()()だと解る動きやすさを意識したコーディネート。あれは、靴を新調したばかりなのだろう、足元を見下ろしては嬉しそうに微笑んでいる。それを見ただけで解った。解ってしまった。()()()()()と。()()()()()()()()()()()と。

 

 その瞬間だった。()()()()が、なくなった。息苦しさも、脱力感も、頭の中の声も、何もかもが、嘘の様に消えてなくなった。

 

「――――隊長?」

「え、嘘」

 

 周囲のざわめきなどまるで耳に入らなかった。蝶が芳香(かおり)に導かれるように、ととと、と軽やかに足が動く。そして。

 

「ッ、ラウラッ!!」

 

 彼らの祖国では『満面の笑み』を『花が咲いたよう』と比喩するというが、あぁ、()()()()()()()。なんと屈託のない笑顔だろう。悪気も、作為も、虚飾も、同情も欠片も無い、ただただ真っ直ぐな笑顔。

 

「おはようッ!! よく眠れたかッ!?」

「あ、う、うん」

 

 嘘をつけ。昨晩はひたすらに目を瞑って横にはなっていたけれどまるで眠れなくて、カーテンの外が白んできたのを恨めしげに見上げたじゃあないか。

 

 私を見つけた途端、彼は声を張り上げて詰め寄ってきた。勢いに気圧されて咄嗟に口から出任せを言ってしまう私の両手を掴むと、彼は直ぐに踵を返して――――

 

「それじゃあ、行こうぜッ!!」

 

 

 

――――そこから先は、断片的にしか覚えていない。空気が澄んでいて気持ちのよい晴れ日だっただとか、2人揃って落葉を踏むサクサクとした音が小気味良かっただとか、市場に並んでいたHokkaido Kurbis(赤皮栗カボチャ)の名前に随分と興奮していただとか、一緒に飲んだホットカカオに随分とたくさん砂糖を入れていただとか、そんな他愛のない記憶ばっかりだ。

 

 あんなのは初めてだった。予定なんて何もない、ただ感情の赴くままの彼に手を引かれていただけなのに、今までのどんな時間よりも楽しかった。楽しかったのだ。彼が次々に見つける楽しさに溺れそうで、ついていくのに必死だった。勿体ないことをしたと、今でも思う。

 

 夕暮れになる頃にはもうへとへとになっていて、何とも情けない話だが、帰り道は彼に負ぶられていた。頻りに『色々と連れ回しちゃってゴメンな』なんて言う彼の背中は、出会ったばかりの頃よりも確実に逞しく引き締まってきていて、自分とさして身長の変わらない私を背負っているにも関わらず、なんとも頼もしい力強さを覚えた。

 

 その時だった。“黒兎隊”副隊長であるクラリッサと初めて顔を合わせた時に言っていた事が、脳裏を過ったのは。

 

「私は家族を、祖国を守る為に、軍人になりました」 

 

 当時の私はそれを『何を当たり前のことを』とロクに捉えもしなかった。『最初から生体兵器として生み出された』私と『自ら志願して軍に入った』彼女とでは前提条件からして違うのだから、ある意味当然なのだが。だが、ようやくこの時、クラリッサの言った『守る』の意味を理解できた気がした。

 

(あぁ、私は()()を守る為に生まれたんだ)

 

 寮に帰ると、皆が血相を変えて出迎えてくれた。『具合が悪いんですかッ!?』『一夏テメェ、隊長に無理させたんじゃねーだろォな!?』と、騒ぎを聞き付けてきた教官が雷を落とすまで、それはもう皆して喧々囂々だった。一夏(アイン)も随分と目を白黒させていた。

 

 その翌日からだ。私が自力で、少しずつ部屋を出られるようになったのは。

 

 

 

「――――その日はな、『千冬姉から()()()()()もらってきたから俺が出す。女の子に払わせる気は無い』と、買い物も食べ物も全部、一夏(アイン)が出してくれたんだ。この、アイツとした文通の手紙を入れているクッキーの空き缶も、その時のものでな。だから、今度は私が、ずっと頑張っているアイツを労ってやりたいと、そう思うんだ」

 

 どうにも昔話をするとついつい熱が入ってしまう。わざわざ荷物から缶箱まで取り出して、見せびらかす様にまでしてしまった。さっきからまるで反応のないデュノアの様子を見る為、缶箱を両手で抱えたままそぉっと覗き見る様に視線を持ち上げると。

 

「あぁ~、もぉ~、この娘はぁ~…………」

 

 彼女は何をしているのだろう。両手で顔を覆ったまま真上を仰ぎ、プルプルと小刻みに身体を震わせて、悶絶、している? さながら、先日悪戯っぽい表情の一夏(アイン)と凰上等兵に、口に含むと弾けるキャンディの入った綿菓子を一気に食べさせられた時と似たような反応なのだけれども。

 

 そのまま暫く震えていたかと思うと。

 

「――――ぬわッ!? デュ、デュノアッ!? なんだッ!? どうしたんだッ!?」

 

 ガバッと。それはもう、ガバッと、としか言えない感じで、いきなり強く抱擁された。それも胸元に思い切り頭を抱え込まれる形なので、顔が完全に彼女の谷間に埋め込まれてしまっている。

 

「可愛いなぁホントにもぉ~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!」

「んぷ、や、やめろ、苦し」

 

 シャワーを浴びたばかりで潤った肌と、その湿気を程良く吸ったシャツとがぴっちりと隙間なく密着して息苦しい事この上ない。必死の抵抗も空しく、暫くの間存分に頭を撫でくり回され、それでも止めないばかりか頬ずりまでし始めたので、その辺でもうすっかりと足掻くのを諦めた。

 

「―――ん? あれ? それでなんでアルバイトなの? さっきの答えになってなくない? そんなお金に困ってる訳じゃないんでしょ?」

「あ、あぁ。確かに貯蓄は()()()()にあるのだが、その……」

 

 何分かも解らない時間が経って、彼女がようやく満足して拘束が緩んだのを見計らって即座に脱出、解放感にひぃふぅと息を整えながら、ふっと視線を逸らす。そして。

 

「言わば、ただの自己満足なんだ」

「自己満足?」

「私は、“軍人(これ)”以外の生き方を知らないし、本来であればこうして、学生として一夏(アイン)と同じ学び舎に通えるような現在(いま)など、有り得なかった。だから、その」

 

 ベットの上で体育座りで縮こまり、缶箱の影に顔を隠してうずくまる。そして。

 

「どうせなら、『1人の学生として稼いだお金で』、と、そう思ったんだ」

 

 上手く言葉が纏まらないが、上手く伝わっているだろうか。軍人という職業を卑下する積りはない。むしろ誇りにさえ思っている。けれど、何と言うか、()()()()()()のだ。()()()()()気がするのだ。何故このように思い立ったのかも解らないが、私の心が「そうしろ」と突き動かしているのだ。

 

「……そっか。うん、いいね、それ」

 

 どうやら妙な解釈をされたりはしなかったようだが、それ故かデュノアは随分と微笑ましそうに頬を緩めながらこちらを見てきて、それが妙に照れ臭く感じて余計に身体を小さく縮こまらせてしまう。

 

「それなら、僕が今週末から働く予定のバイト先、紹介してあげようか?」

「む?」

「週1からでもOKで学業優先にしてくれていいって言われてるし、働き()()()ではお給料も結構出るらしいよ? 接客業なんだけど大丈夫? それなら今から店長に訊いてみるけど」

「うむ。Oktoberfest(十月祭)では我が軍も門扉を開いて一般公開のイベントを催していてな、その出店での手伝いの経験ならある。こちらでの作法もあるだろうが、ある程度は問題なくこなせるハズだ」

「おっけ。それじゃ連絡してみるね」

 

 言うが早いか、私の返答を聞くと直ぐにカコカコとフリック音を鳴らしながらメールを送信しているらしいデュノア。すると数分もせずに返信が来て「『どんな娘か知りたい』て言うから写真撮っていい?」と訊いてきたので二つ返事で了承。直ぐにシャッター音と、再びメールの送信音がしたかと思うと。

 

「是非、だって」

「なんとも話の早い御仁だな。いや、こちらとしては助かるのだが」

「ラウラくらい可愛い娘なら引く手数多だもん。取り敢えず、僕と一緒に明後日のお昼過ぎ、お店に行こうか。履歴書は忘れず持ってきて欲しい、だって」

「心得た。用意しておこう。ところで、デュノア?」

「何~♪」

 

 余程楽しみなのか、鼻歌交じりに冷蔵庫から某乳酸菌飲料(微炭酸)を取り出し口を付けているところに、ふと浮かんだ疑問を投げかけてみて。

 

「お前は何故、アルバイトを?」

 

 その瞬間、ピタッと。ものの見事にピタッと、彼女の時間が止まった。

 

「ご尊父から生活費は十分に送られているし、ご母堂への仕送りも本人から『もうしなくていい』と断られたのだろう? であれば、代表候補生としての収入を鑑みても、お前の貯蓄も然程窮しているとは思えんのだが」

「そ、れは、その~……」

 

 素朴な疑問でしかなかったのだが、思わぬ形で形勢が逆転したらしい。油をさし忘れた機械のようにぎこちなく、首ごと視線を逸らしたデュノアは、暫く逡巡した後に、観念したように吐露し始めた。

 

「僕が今までどんな風に過ごしてきたかは、こないだ話したと思うんだけど」

「うむ。なかなかに壮絶な体験談だったと記憶している」

 

 キミほどじゃないと思うんだけどな、と呟きながらデュノアは照れ隠しをするように頬を掻き、続ける。

 

「うん、まぁそういう訳で、僕の稼ぎの殆どって生活費とか学費に使ってたんだよね。他の使い道なんて、初めてのお給料貰った時に、母さんを連れてちょっといいレストランに行ったくらいでさ」

 

 その後は()()()()()()。企業所属の候補生としての稼働試験やデータ収集をしながら、家と学校と職場とを行ったり来たりの日々。華の10代にしては、灰色気味と言わざるを得ないだろう。加えて、昨年末からつい先日にかけて公私を問わず『男であれ』とされてきた訳で。

 

「要するに、今まで全然趣味らしい趣味がなかったというか、趣味を仕事にしてたというか、他のことに興味が傾くほど余裕がなかったというか……解るかな」

「うむ、解るぞ。私も一夏(アイン)に色々と教えてもらって初めて、休日を有意義に過ごす方法を学んだからな」

「で、さ。いざ自分が自由にしていいお金と、好きに使っていい時間ができて、最初は困惑してたんだけど――――」

 

 試しに1人、思うままに外出、何も考えずに好きな事に好きなようにお金を使ってみたところ。

 

「――――成程。その結果が、その限界寸前のクローゼット、という訳か」

 

 視線を向けた先、つい先日までは制服の予備や、学園指定の運動着類、肌着数点と、後は精々が寝巻程度しかなかった筈のデュノアのクローゼットは、今や若者向け夏~秋向けコーディネートの特集記事が組めるんじゃないか、ってくらいに大量の衣服が詰め込まれていた。それだけでなく、備え付けの鏡台には様々な化粧品もズラリと並べられている。

 

「『()()()()()の買い物には絶対にお金に糸目をつけないこと』ってロゼンダさんにも言われてたとはいえ、僕もまさか自分がこんなに散財するタイプだとは思ってなくて……」

 

 それだけ()()()()()()()()があった、という証左なのだろう。『何なら私がお金を出してもいい』とも言われていたそうだが、それは流石に断ったらしい。

 

「別に、後悔してる訳じゃないんだ。凄く楽しかったしスッキリしたから。でも、改めて通帳の残高の減り具合を見ちゃうと、流石に、ね?」

「成程。概ね事情は理解した」

 

 良い傾向ではないだろうか、と思う。自身のメンタルを整える為の手段はそれこそ十人十色だ。“黒兎隊”だけでも、有名店の看板メニューを食べに行く者、映画や舞台を観に行く者、娯楽施設で思う存分はしゃいでくる者、1日中部屋に引きこもって録画したドラマやアニメに費やす者、と様々であった。張り詰めっぱなしの糸は、いつかプツリと呆気なく切れてしまう。デュノアにとってはたまたま()()が『買い物』だったというだけであり、それは日々の生活や周囲への悪影響がない範疇であれば好きにすればいいことだろう。

 

「私も近々、こちらでの普段着を購入しようと思っていた。良い店があったなら、是非紹介して欲しい」

「勿論ッ。それにしても、ラウラの私服って可愛いの多いよね。意外とこういう趣味、とか?」

「あぁいや、実の所、私の部下たちが選んだり贈ってくれたものが多いのだ。特に副隊長のクラリッサには、しょっちゅうアパレル店に連れて行かれてな……」

「あぁ。一夏の話にも出てきてたよね、その副隊長さん。う~ん、いい趣味してるなァ。気が合いそう」

 

 脳内で着ている姿を想像しているのだろう、私のクローゼットを物色しながらデュノアはそんな風に言い、そして徐にこちらを振り返って。

 

「でも、何よりもまず、寝間着を買おうか、ラウラ」

「む? 何故だ?」

「何故にも何もさァ、同室になってからそろそろ1週間経つけど――――」

 

 ハァ、と盛大な溜め息が一つ。何故寝間着なのか、と首を傾げると、彼女はビシッと人差し指を私に突きつけて大きく息を吸い込み。

 

 

 

「――――キミ、どうして部屋に居る時は裸にタオルケット一枚なのさァッ!?」

 

 

 

 む。一体それの何がおかしいというのか。

 

「欧州に比べて日本の夏が蒸し暑いのは解るよッ!! 僕だってそう思うもんッ!! でも流石に裸は僕どうかと思うなァッ!?」

「日焼けに関してなら全く問題ないぞ。体内のナノマシンの働きによって私の新陳代謝は常人の数倍はあるからな、黒どころか赤くもならないんだ」

「え何それ羨まs、いやいやいやそうじゃなくてさ」

「気持ちいいんだぞ? 洗いたての毛布に直接包まると、それだけで心地よくグッスリと眠れるんだ」

「そういうことでもなくてさァ~……あれ、メール? 凰さんから?」

「む、私の携帯にも連絡が。――――おぉッ!! 一夏(アイン)からではないかッ!!」

 

 

 

――――こうして来週日曜日の臨海学校の買い出しの予定を知った2人だったが、その資金稼ぎの為にも向かったアルバイト先で『ちょっとしたトラブル』に見舞われることになるなど、まだ知る由もなかったのである。

 

 

 




 どうも、焼きそばは圧倒的塩派、なれど某○ちゃんのソース焼きそばはよく具無しで作って食べるのが好きな作者のGeorge Gregoryです。麺2人前にソース1袋が個人的黄金比。余したソースはチルド野菜と余った肉で炒め物にしてしまうこと多し。

 本エピソードは全編大体こんな感じだと思っておいて下さい。下手すっと歴代最長になるかもしれません。皆様、覚悟の準備を(ry 次はもっぴーとかんちゃん、の、予定です。

 では、また近い内にお会い出来ることを願って。

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