ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
「――――とまぁそういう訳で、自分が開発に携わっていたのはver.3までで、以降はヒカルノ、篝火所長主導の下でバージョンアップされ続けている、と」
「ではやはり、貴方が"Spyro"を一から開発して倉持技研に持ち込んだ、という噂は本当だったのですね。完全に手放してしまうことに、躊躇いはなかったんですか?」
「全然。『誰が作ったか』なんて、お客さんには関係ないでしょ? それにあれくらいの代物なら、いずれ誰かが作っただろうし」
「……それを5年も前に作っていたからこそ、凄いことだと思うんですが」
IS専門雑誌“インフィニット・ストライプス”の編集者である私、黛渚子はすっかりと圧倒されていた。
今や全世界が注目している時の人、アリスター・カデンソン氏への単独取材のアポが取れた、と聞いた時は我が耳を疑い、引きちぎれるのではってくらいに頬を思い切り抓って、あまりの痛みに泣きながらも両の握り拳を天高く掲げて雄叫びを上げてしまった。編集室のド真ん中でのことだったので、直後に周囲の同僚たちから非難轟々の集中砲火を食らってしまったが、その理由を告げると一転して
アリスター・カデンソン。自身の駆る機体銘にして、もう一つの通り名を"黒豹"。彼が表舞台に初めて現れたのは5年前。倉持技研本社ビルのエントランスにある日突然やってきた彼は、受付嬢に向かって「売り込みに来た」と言い放ち、対応に渋る彼女らの前で社外秘情報である筈の"打鉄"の装甲構造や精製手順、各種
「そこに偶然、本社に進捗報告やらで来ていた篝火所長、当時は開発局長だったかな、彼女が通りがかったんだ。……あの時は内心『凄い恰好したヤツが来たなァ』とビックリしたっけ」
篝火ヒカルノ。倉持技研第2研究所所長。我が国でISに携わる者で、彼女の名を知らぬ者はいない。色々な意味で。
最前線にいる優秀な研究者、というのも勿論だが、何せ彼女は普段着からして
「『どこでそれを知った?』と聞かれたんで、『見たら解るだろ?』って答えたら、そりゃあもう大笑いで。で、『
成程。篝火女史が24歳という若輩でありながら現在の地位まで加速度的に出世した裏側にも、彼の存在があったという訳だ。
「兎に角知識に貪欲でね、研究所にいた頃はよく絡まれたよ。『今度は何を作ってるんだ?』とか言って、宅配ピザなんか引っ提げて来てさ、横でモリモリ食べながら延々とこっち見てるの。"Spyro"も『好きに弄っていい』って渡してやったらもう大喜び。『もっといいものにしてやろう』ってあれこれ魔改造しだして。こないだ公開されたver.6の性能見て笑っちゃったもんなァ」
「あれは、確かに凄かったですね。より機動が滑らかになっただけでなく、最高速度もどんどん更新されていってますし」
「日本人は『改良』っていうことに特化してるのかもしれないね。自分たちにより適した形態にするのが巧い、っていうか。食文化にしたって、ラーメンとかカレーとか、発祥国のとはまるで別物なんでしょ? ……ま、それだけ気に入られてたからこそ、彼女が所長になった途端に開発局長に持ち上げられたんだろうし。『学園に行きたい』って言った時も相当ごねられたっけなァ」
だから"
「で、では、次に御家族について質問させていただきます。その、ご両親とは会ったこともない、と以前の記者会見で仰ってましたが」
「事実だよ。記憶がないくらい小さい頃に2人とも亡くなってるから。それについて思うところが無い訳じゃあないけど、逆に言えば思い出も全くない訳で、言うほど辛くはないかな」
「そ、そう、ですか……その、娘さんについては」
「
「…………」
思わず、言葉を失った。『本気の目』だったからだ。疑念を差し挟むような余地など芥子粒ほどもない、純粋な怒りの感情だけで満たされた双眸は、その矛先でない筈の自分でさえ背筋を芯から震え上がらせるほどの凄味があった。
「おっと。失礼。想像しただけでつい殺気が」
「あ、はい、大丈夫、です……あぁ、ホントに"黒豹"なんだ、この人」
優れた技術者であることは百も承知であったが、正直、今の今まで『世界各国の政府やら軍相手にたった1人で真正面から喧嘩を売った"義賊"』と同一人物であるようには見えていなかった。けれど、今になってようやくその実感がある。そして、そうなると1つ、浮上する疑問がある。
「あの、それならどうして、我々の取材を了承して下さったんでしょうか?」
"黒豹"に関しても、"アリスター・カデンソン"に関しても、マスコミは今まで好き放題な報道ばかりをしてきた。
何せ、"黒豹"に関してはつい先日まで情報源が全くと言っていいほどなかったのだ。あったとしても、それは現場に居合わせたり救われた当事者たちが撮影した写真や動画くらいのもので、地上波に流そうとしても政府側から差し止められたし、ネット上での
そこに、まさかの本人から全世界同時カミングアウト。必然、各国大手のマスコミからこぞってIS学園に取材の依頼が殺到。中には金と権力に物を言わせて「いいから場を設けろ」なんて上から目線だったり、御法度中の御法度、『娘の下へ直接押しかける』なんて真似に出たヤツまでいたらしい。
しかし、その誰一人として、クロエ・カデンソン本人の声ばかりか、その影すら拝むことは出来なかったという。
クロエ・カデンソンは滅多に学園を出ることはないが、それでも月に1度、生体同期型だという専用機のメンテナンスの為に、開発元である"Great Clock Company"日本支社の方へ顔を出さねばならないのだそうだ。どこから嗅ぎつけたのか、その瞬間を狙った下手人が後を絶たなかった、らしい。
けれど、その下手人たちは皆、口を揃えてこう言うのだそうだ。『確かに彼女の後をつけていた筈なのに、それがいつの間にか全くの別人にすり替わっていたり、見知らぬ路地の行き止まりにいたりした』『まるで狐か狸に化かされた気分だった』と。
そして、無礼な対応に出た連中の所属する出版社は軒並み、
そんな事件があったから、でもあるのだろう。彼への取材を許された企業は本当にごく僅かだった。その中に自分たちの雑誌を入れてもらえたのはとても嬉しいことだけれど、それが同時に大きな疑問でもあり、理由があるなら知りたいと強く思った。
「ん~……さっきも話した通り、妹さんとの付き合いがある、ってのも勿論あるんだけど」
「それでも、貴方は断ったって良かった。なのに、何故ですか?」
出過ぎた真似だ、と機嫌を損ねるかもしれない。けれど、このもやもやを抱えたままで帰る気は毛頭なかった。
唾を呑み、沙汰を待つ。自然とペンとメモを握る手は強まり、くしゃりと紙の皺が寄る音がした。そして。
――――
「……はい?」
「
その、実に嬉しそうな、悪戯が成功した子どものように幼い雰囲気を纏った笑顔を見て、思わず間の抜けた声をこぼしてしまった。
同刻。レゾナンス2階"Tear's Tiara"店内 水着売場。
「ちょっと待て。ボーデヴィッヒ。今、何と言った?」
篠ノ之箒は混乱の渦中にあった。
店長が提示してくれた社割価格の予想外の安さに目を見開き、真剣に陳列された商品の中から『
「気付いたのだ。篠ノ之新兵は我々にとって『叔母』にあたるのだと」
「……説明して欲しいのだが。その、カデンソンさん」
なんとも屈託のない笑顔でそんなことをのたまうラウラに頭痛がしてきた気がして、額に手をやりながら横で
「クロエ、で構いませんよ。私も箒さんと呼ばせて頂きますので」
「いや、あなたがさん付けなのに私が付けないのも何か座りが悪い。せめて、クロエさんで。それで、何故私が、あなた方の叔母にあたるんだろうか」
「いつか、箒さんにはちゃんとお話ししなければならないと思っていました。まさか今日、ここで、というのは流石に予想外でしたが。あまり大きな声では話せないので、お耳を拝借しても?」
「……解った」
歩み寄り、彼女の口元に片耳を寄せる。そして。
「―――な、に?」
「詳細は後日、改めて場を設けてお話しします。今は一先ず、ご理解だけしていただけると」
しぃ、と口元に人差し指を立てる彼女の発言には、正に脳天を鉄槌でぶん殴られたような衝撃があった。あの
「つまり、姉様の母様なのだから、私にとっても母さm「違います」むぅ、このように何故か頑なに姉様が認めてくれないんだが、つまりその妹君である篠ノ之新兵は我々にとって叔母にあたる訳で」
「ナル、ホド」
解りたくはないが、まぁ、言いたいことは解った。
「故に、だな。これからはお前のことを『叔母様』と呼んでm」
「却下だッ!! 断固拒否するッ!!」
「なになに? 面白い話してるみたいだけど」
思わず上げた大声を聞きつけて、デュノアが瞳を爛々と輝かせながら悪戯っぽい笑みで話しかけてきた。
「うむ。篠ノ之新兵を『叔母様』と呼んでもいいかと許可をだな」
「……『
尋ねたデュノアにクロエさんが再度「耳を貸して欲しい」と手招きし。
「――――え?」
だよな。やはりそういう反応になるよな。信じられないよな。そう思っていると。
「えっと、つまり、その、カデンソンさんは、篠ノ之博士と、夫婦、ということに?」
「え、あ、あぁッ!?」
そうか、そういうことにもなってしまうのか、 と釣られて再び大声を上げてしまう。驚愕に目を見開き、揃って返事を求めるように顔を見るけれども、クロエさんは『想定内』と言わんばかりに泰然としていて。
「いいえ。お父様とお母様は籍を入れてはおりませんし、一線を越えてもいない、と思います。少なくとも、私は
「え、あ、そ、そう、か」
「そう、なんだ……ほっ」
予想以上に生々しい回答に言葉を失っている私の隣で、デュノアは安堵したように胸を撫でおろしており。
「あぁでも、お母様の方は『いつでもバッチコイッ!!』みたいなことを仰ってたような」
「なッ!?」
「えぇッ!?」
ちょ、それは、私としても穏やかではいられないのだけれども。慌てふためく私たちを見て、クロエさんは顔をほころばせながら、こう続けた。
「フフッ。お父様は人気者ですね」
「あ、え、ひょっとして、冗談なの?」
「さぁ。どうでしょう」
「えぇ~……そこははっきり教えてよクロエさ~ん」
あからさまに茶化すような雰囲気に、デュノアはちょっぴり唇を尖らせて不満げに言った。その反応を見て、何故か安堵している自分を自覚した。それを何故だろうと考えるけれど、霞の中を掻き分ける様な手応えのなさしか、感じられるものはなかった。
「ところで叔母様」
「ボーデヴィッヒ」
「むぅ、解ったから睨まないでくれ篠ノ之新兵」
「それも長ったらしくて座りが悪い。名前で構わん。親しいヤツは皆、そう呼んでいる」
「そうか。では箒よ。水着は選び終わったのか?」
「まだ、だが」
「え、そうだったの? てっきり、もう選び終わってての雑談だと思ってたんだけど」
そこでデュノアが話に加わってきた。
「ということは、デュノアはもう選び終えたのか?」
「うん。これにしようかと思って。どうかな?」
そう言って彼女が見せてきたのは、白地にシアンでヤシの木がふんだんにあしらわれたパレオ付きのビキニだった。
「うむ。爽やかな雰囲気があって、さぞ波打ち際で似合うことだろうな」
「でしょ? こういういかにも女の子っぽいの、ず~っと憧れてたんだ~……でもちょっと残念だなァ」
へにゃっと緩んだ顔で嬉しそうに微笑むデュノアは、しかし直後にちょっぴり名残惜しそうに眉尻を下げた。
「む? 何か残念なのだ?」
「だって、皆と違って、僕が
「……デュノア?」
これから一緒に海とかプールに行ける機会なんてあるのかなァ、なんて呟く彼女の横顔を見る。臨海学校に来ないかもしれない相手、で、先ほどの反応。もしや、デュノアの『水着を見せたい人』というのは。
「篠ノ之さんはもう選んだの? それとももう、一夏に訊いてみた後、とか?」
「な、何故そこで一夏が出てくるんだ?」
「え? だって、凰さんはさっき「一夏に決めてもらう」って何着か持ってってたよ?」
「何だとッ!?」
それを聞いて悠長にはしていられない。私は咄嗟に先ほどまで悩んでいた2着を手に取り、
「皆様~ッ!! 良い品は見つかりました~ッ!?」
「あ、オルコットさ、ン゛ンッ!?」
「これは、また随分と攻めたなオルコット狙撃兵」
「凄い、ですね。まるで紐……というか、試着室からそのまま出てこられたので?」
「流石、セレブ……僕たち庶民とは根本から感覚が違うのかな……」
背後でそんな
どうも、いよいよ朝の気温が10度以下になり始めて冬の気配を感じ始めた道産子作者のGeorge Gregoryです。いよいよヒートテック1枚では肌寒くなってきました。電気代の節約で備え付けのエアコンの使用は控えてますが、いつまで持つやら……節約を意識しすぎて風邪引いたら余計に金掛るんで、そこまで我慢はしない積りですが。
下手すると本章だけで10万文字(大体単行本1冊分)超えそうだなぁ、と思い始めました。本章はフラグ回収を適度にやりつつ各キャラの人間関係の進展、そして今後の下拵えを本格的に、と思っていたので、とことんやる積りでいます。その辺、何卒ご理解いただきたく。
安売りしてたお茶漬けの素のアソートを試しに買ってみたんですけど、これが妙に味気なくて、永〇園は強いなァ、と改めて痛感しました。梅とわさびの茶漬けが特に好き。いろんなふりかけや混ぜ込みご飯よりも丸〇屋のごま塩と三〇食品の『ゆかり』が強いし。皆さんのゴハンのお供はなんでしょう。俺ァ最近存在を知ったマ〇ハニチロのいわしの塩焼きの缶詰がお気に入り。でもガキの頃から最強は梅干し。不動の1位。弁当には必ず米の上に乗っけてもらってました。海苔と同様、抗菌作用もあるしね。
あ。先日の3日連続更新のお陰か、総UAが20万を超えました。お気に入り登録者数も1300件超過。本当に有難うございます。
ここ数ヶ月ほど、更新の度に何故か1・2件ずつお気に入り登録減ったりしてましたからね~……こりゃ延々届くことはないかな、とか思ってたので。更新してなくて人数減るのは解るんですけど、更新して減るっていうのは、『どこまで読んでたっけ?』ってもう内容忘れられちゃったから、とかなんですかねぇ。まぁ、とうとう100話超えちゃったしなァ。今から全話読み直すって、結構な労力が必要だとは自分でも思います。俺も似たような理由で『MAJOR』とか『はじめの一歩』とか全然読んでなくて、大学入って本当に時間出来てから、持ってるヤツの家に入り浸って一気に読み耽ったしなァ。
今後も気儘に更新していきますんで、気儘に読んでやってください。『もう付き合いきれん』と思ったら、そっと離れて下さって構いませんので。
では、また近い内にお会い出来ることを願って。
いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。