ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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久々の10000文字超えじゃ~。
本章もいよいよ大詰めです。次回か次々回で畳む予定。


Lights Camera Action XV

 レゾナンス東館3階 カジュアルウェアショップ“METHOD SNEAK”内。

 

「――――あれ?」

 

 凰鈴音(アタシ)はふと我に返り、自らの現状を顧みた。

 

 記憶を遡ること約1時間前。映画を観に行くという一夏と別れたアタシたちは、それぞれ『父親への贈り物を選びたい』というセシリアとクロエさんの買い物に付き合う為、そういった男性向け(メンズ)ファッションが集中しているこのフロアを訪れた。何店か梯子しながらの入念な吟味の末に2人が納得のいく一品を購入した後、甘いものが食べたくなったと言う金銀コンビは「未だパフェを食べたことがない」というクロエさんを連れてフルーツパーラーへ。セシリアは突然箒が「その、実は最近、下着のサイズが、合わなくなってきて、だな」などと腹立たしいことをのたまいやがったのを聞いた瞬間に「まぁッ!! それはいけませんわッ!! 早速見繕いに行きましょうッ!!」なんて言い出したので、即座に脱兎のごとくその場を脱出。甘いものをつつく気分でもなかったので、集合時間まで久し振りに1人で適当にぶらつこう、と本屋やCDショップを主に見て回っていた、はずなのだけれど。

 

 今、何故かこうして1人、男性向け(メンズ)ファッション店内であれやこれやを物色していて。いつの間にか左手にはベージュのチェスターコート、右手にはライトグレーのカットソーなんぞを持っていて。

 

(絶対こういうの似合うわよね。中に暖色系のカーディガンなんかを持ってきて、下半身をフォーマルでピシッと締めれば。そうそう、こんな感じのカットソーと、足元は黒い革靴で……あ、いい、すごくいい)

 

 気付けばごく自然にそんなことを、ついさっきまで考えていた。誰で想像していたかは、最早言うまでもなく。そんな折に傍らの姿見が視界に入って、そこに映った自分の()()()()()()()()を見た瞬間に、ふと我に返って――――ハイ、ここで回想終了。

 

「何やってんだアタシはァッ!? ――――あ、すみません、なんでもないです、ごめんなさい」

 

 小恥ずかしさを自覚して思わず雄叫びを上げ、店員や周囲の客に驚かれて即座に深々と謝罪。うん、マジで何やってんだアタシってば。

 

(……でもなぁ、しょうがないじゃんね。いつどこで何してたって、真っ先に出てくるのは絶対一夏(アイツ)なんだから)

 

 こちとら伊達に『頂点(てっぺん)獲る』宣言している訳ではないのだ。何のために()()()()()()()()()()から漏れ出てきそうな猛勉強・猛特訓の末に狭き門を潜り、少ない椅子を勝ち取ったというのか。確かに"黒豹"の正体を知って、『ひょっとしなくても見当違いの独り相撲してた?』とちょっと出鼻を挫かれた感がしているのは否めない。けれど、まぁ、なんだ。『ISに乗る』と決めた時点で、目標は1等賞以外にありえないのだ。凰鈴音(アタシ)はそういう生き物なのだ。

 

 閑話休題(それはともかくとして)

 

(だって一夏(アイツ)、昔から服を選ぶ基準が『洗いやすさ』『動きやすさ』だからいっつもシャツにジーンズとかチノパンばっかりで、一向にしゃれっ気っていうか、冒険をしないんだもの。未だにアタシたちがプレゼントしてやったのくらいしか持ってないんじゃないかしら)

 

 さっきまで皆と一緒に一夏の水着と、浜辺での日除けにアロハシャツなんかを見繕ってた訳だけども、本人に選ばせるとまぁこれが無難なものしか選ばないこと。別にそれが悪いとは言わないし、()()が良いから十分様にはなっているのだけれど、こう、何と言うか。料理人の娘としても『もっと良くなる』と判っているものをそのままにしておけないというか。「明日○○時、××に来て下さい。最高の△△を御馳走しますよ」な究極の献立(メニュー)的テンションというか。

 

 結局『騙されたと思って』と皆の後押しもあり、かなりのゴリ押しではあったのものの、比較的派手めな一着を買わせることには成功した。本人も満更でもない表情をしていたことだし、全く興味がない訳でもなかったのだろうと思う。

 

「何ならアタシが何着か買ってあげてもいいんだけどなァ……ま、受け取らないわよねェ」

 

 基本的にエンゲル係数が平均より高いってくらいで、少なからず憧れはあるけれど、お高いブランドのコスメやらバッグやらにそこまで興味がある訳でも無く、あくまでごく一般的な金銭感覚の持ち主である、と自分では思っている。今となっては代表候補生としてそれなりの収入も貯蓄もあるので、服の数着くらいどうという事もないのだけれど、一夏(アイツ)がそういう『施し』のような真似を素直に受け入れるタイプではないことは、重々承知している。

 

「長く大事にしてくれるのは、それはそれで嬉しいけどさ」

 

 今日だってそうだ。あの腕時計は中学に上がって最初の年、アタシと弾と数馬の3人で少ないお小遣いを持ち寄って贈った誕生日プレゼント―――

 

「―――そっか。誕生日だ」

 

 そこでふと思い出した。夏が過ぎれば直ぐに誕生日(9月27日)が来るじゃないか。()()()()()()なら無下に断ったりもできないハズ。ここは一つ、頭のてっぺんから爪先まで1式、秋のトータルコーディネートをしてやるのも一興では。

 

「で、で、その一夏と一緒に、出掛けちゃったりとかして」

 

 うん、咄嗟の思いつきにしては本当にいいアイデアではないだろうか。そう考え出すと服選びにも一層熱が入るというもので。

 

「そうと決まれば今の内に目星を……ん?」

 

 売場を見渡しながら目を光らせていると、何やら店の表の方から姦しい声が鼓膜へ届く。軽く背伸びをするようにして耳を傾けてみると。

 

「――――ですから、説明してくださいって言ってるんですッ!! どうして()()()()()()()()にいたんですかッ!?」

「あ~はいはい。解った解った。後で説明するから、ちょっと静かにしなって」

 

 会話の内容から察するに、痴情のもつれか何かだろうか。漏れ聞こえているのだけで判断すると、どうにも男の方が二股かけてるっぽいが。と、いうか、そもそもだ。

 

「この声、どこかで聞いた事あるような……?」

 

 どうにもおかしい。妙に耳に馴染んでいる感覚があって、喉元あたりまで出かかっているのに、それが誰のものなのか、最後の一押しがどうしても出来ない。まるで()()()()()()()()()()()()()()ような気さえする。顔を見れば解るのかもしれないが、今の自分は店の割と奥まった場所にいる為、精々が陳列された商品やラックの隙間から辛うじて覗き見ることが出来る程度。個人の特定が出来そうな視覚的情報は得られそうになかった。

 

「―――ま、いっか」

 

 男女の仲なんて、なるようにしかならないのだ。本当に二股をかけているのなら正直どうかと思うが、まだ喧嘩(かいわ)が成立しているだけ、あの2人は良い方だろう。

 

「本当に()()()()()()()()と、物音一つ鳴らないかんね~……」

 

 そう。丁度、ありし日の自分の父と母のように。

 

「……あ~、ダメだ。久し振りに重めのスイッチ入りそう」

 

 一度このスイッチが入ると、一気に精神(こころ)が滅入ってしまう。こうならないように、日頃から勉強だの鍛錬だので忙しくして頭の外へ追いやっているというのに、ほんの些細な油断でこうやっていとも容易く、何の前触れもなく襲いかかって来るのだから、実に性質(たち)が悪い。

 

「いよし。……あ。もしもし、シャルロット? そうそう。やっぱりアタシも甘いもの食べたくなっちゃってさ。アンタたち、今どこにいるの? アタシも合流していい?」

 

 こうなったらアレだ。脳内麻薬(エンドルフィン)の過剰分泌による多幸感で無理やりにでも塗り潰してしまうとしよう。そう決めるや否や、アタシはそんな電話をかけながら若干の早足気味でその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 東館4階 フロンティアシネマ 9番シアター内。

 

『こうなったら、スクランチッ!! バナナフォーメーションだッ!!』

『ウキャキャキャ、キャーッキャーッ!!(それってただ「()()()になれ」って言ってるだけじゃないかッ!!)』

『エェ? それの何が不満だっていうんだい? エクアドル産の最高級品だよ?』

 

「見て解ると思うけど、実はここで使ってるバナナ、フィリピン産のフッツーのバナナなんだよねェ。ちゃんと本物のエクアドル産最高級品を用意していたんだけど、撮影の直前にスクランチがお昼と間違えて全部食べちゃってさ、最寄りのスーパーまでボクが亜音速でひとっ走りして買って来たのさ」

「……ソウナンデスカ」

 

 いや、ぶっちゃけ全く違いが解らないのだけれども。バナナって産地でそんなに違いが出るものなのだろうか。

 

 今、俺の隣の席で、コペルニカス・レスリー・スティーブンソンが、今まさに観ている映画の主演俳優が、パンフレットにも載っておらず、まだテレビでも雑誌でも喋っていない撮影中の裏話を話して聞かせてくれている。それだけを聞けば普通は羨ましがられるようなシチュエーションなんだろうけれど、正直現実味がなさ過ぎて、話にも映画にも全然集中できていない。完全に『右から左』状態だった。

 

「んぁ、むぐむぐ。んん~、ニホンはやっぱりイイねェ。映画館のホットスナックでさえこのクオリティだ。これで1つ1つがもっとボリューミィならカンペキなんだけどなァ」

(一口がデッケぇ。クジラみたいだ)

 

 おもむろにポップコーンを片手でごっそり鷲掴んで一気に口へと放り込む。たったそれだけで、Lサイズの容器から目算3分の1くらいの量がなくなっている。ホットドックなんて、まるで握り寿司でも食べる様に1個まるごと頬張ってみせた。そんな勢いでトレイ4枚分、平均的な成人男性の5食分くらいはあったハズの食事が、映画の上映が始まって体感30分くらいで、殆ど平らげられている。カデンソンさんも大概速くて大食いだが、これは間違いなくそれ以上だ。やっぱり身体が大きい分、必要なエネルギーも桁違いなんだろう。何せ隣にいるってだけで圧迫感が凄い。座席に尻を無理やり捻じ込んでる、って感じで明らかにサイズが合ってない。パースの狂った『騙し絵』のようである。

 

 と、そんな風に呆気に取られていると。

 

「――――ントに後でちゃんと説明してくれるんでしょうねェッ!?」

「解った、解ったから、もう映画館なんだから、いい加減静かにしなさいって。()()()()()()でしょ、キミがあの娘に嫌がられてんのは」

 

 予約で満席であるハズなのに、俺たち2人以外に1人も観客のいないこのシアターに、ようやく新たに誰かが入ってきたらしい。声色からして男女1組。というか、随分と聞き覚えのある声な気がするのだけれど。

 

 通路から座席を見回し、こちらを見つけてそのキャスケット帽とサングラスを外しながら近寄って来る、その姿は。

 

「よっ。久し振r……一夏くん?」

「カデンソン、さん?」

「ヤァッ!! 久し振りだねェラチェットッ!! キミの分のオヤツも買っておいたよ~♪ さァ、遠慮せずに食べたまへ」

「マズハ動画ノ配信停止トアカウント凍結申請ソノ後二ハッキングシサーバー内ノデータ消去ソンデモッテ関係者全員ヲ闇討チシテ記憶ソノモノヲ抹消サセ―――」

 

 やっぱり予想通りの人物で、俺たちはお互いを見合い、思わず間の抜けた調子の声を漏らした。そんな俺たちにスティーブンソンさんは何故か自慢げにまだ残っていたトレイに山盛りのホットスナックを差し出し、お目付役でついて来たんだろう更識生徒会長は焦点のまるで合っていない濁り切った目で、何やら物騒極まりない呪詛のような文言を延々と垂れ流していて。

 

「―――ナンダコレハ」

 

 おかしいなァ。俺、ただゆっくり映画を観たかっただけなんだけど。

 

 

 

 

 同刻。東館2階 再び“Tear's Tiara”内。

 

「―――ナンダコレハ」

 

 こんな経験は初めてだった。こんな短時間に同じ店に舞い戻ったことも、こんな長時間試着室を占拠して途轍もない数の下着を代わる代わる着せられたことも。先刻までの一夏もこんな気分だったのだろうか。だとしたら悪いことをしたと今は本気で思う。ちらちらとこちらに向けられていた、助けを求める様な視線を無視してしまった罰があたったのだろう。

 

 ついさっきのこと。私、篠ノ之箒は、セシリアとクロエさんの買い物を終えて各々自由にしようとなった時、思い切ってセシリアに長年の悩みを打ち明けた。

 

『年々大きくなるせいでサイズが直ぐに合わなくなる為、普段はスポーツ用品店で売られているようなスポーツインナーを主に着用しているのだが、1着くらいは自分に合ったサイズのちゃんとした下着を購入したい』

 

 相談するや否や、彼女は瞳を爛々と輝かせ、私の両手を取って言った。

 

『他ならぬ(わたくし)にご相談して下さったこと、光栄に思いますわッ!! お任せ下さいなッ!!』

 

 彼女は“Tear's Tiara”専属モデルとしての経験も豊富だ。自分の交友関係において、相談するならば彼女をおいて他にない、と思っていた。また、彼女のお陰で水着の出費もかなり控えめで済んだことだし、このような機会はそうそうあるまい、とも。

 

『そうですわッ!! 折角ですから鈴さんも……あら? 鈴さん?』

 

 今にして思えば、あの時既に鈴はその獣じみた第6感でもって()()()()()()を予見していたのだろう。あるいは『ただただ純粋に嫌だった』のかもしれない。彼女はどうにも体型への劣等感(コンプレックス)があるようだし、練習後のシャワールームでは何度も殺意の籠められた視線を胸元へ向けられた事がある。

 

 そして、今。なんとも純真無垢な笑顔でセシリアが薦めてくる下着を試着しては、妙に布地が少なかったり、お尻の部分がハートの形に切り抜かれていたりするデザインに顔が沸騰したような暑さを覚え、最も大きなサイズでさえ納まり切らず谷間が窮屈になったり、締め付けられて下品な形になってしまっている自分の胸に、更なる羞恥心を覚えてしまう。

 

「むぅ、これでもまだサイズが小さいのですね。前々から思ってはいましたけれど、こうして見ると本当にグラマーですわね、箒さん」

「な、なぁセシリア、もうこの辺で」

「何を仰いますかッ!! ちゃんとサイズの合った下着は言わば、矯正ギプスッ!! 綺麗な胸元は、寸分違わずぴったりと支えるカップがあってこそ、ですわッ!!」

「わ、解った、解ったから、大声を、出さないでくれェ……」

「あら失礼、つい熱が。ともあれ、これは杜撰にしてはいけないことですわ。時間も手間もしっかりかけねば、後悔するのは未来の自分、ですのよ」

「未来の、自分」

 

 口元に手を当てて謝った後、ピンと人差し指を立てて真剣な表情で言うセシリアの雰囲気に呑まれて、思わずオウム返しをしてしまう。

 

「そうですわ。理想を言うなら、成長段階に合わせて使うブラジャーの種類も変えていくべきなのです。箒さんは幸いにして、今のところ形も綺麗に成長なされていますが、これを疎かにすることで形が崩れたり、成長を阻害したり、左右のサイズが違ってしまう、なんてことも珍しくないのですわ」

「そ、そうなのか」

「そうなのです。箒さんが御存知ないだけで、お母様も相当にお気を遣われていたハズですわ。……()()()()というだけで()()は、流石にないでしょうし」

 

 じぃ、と谷間を見下ろしてくる視線を遮るように両腕で胸元を隠すと、可愛らしいものを見る様な慈愛の目でくすりと笑われてしまった。

 

「女性同士、そう恥ずかしがらずとも。それに、一夏さんの前ではもっと大胆な水着をお選びになっていたのではなくて?」

「あ、あれは、その、少し舞い上がっていたというか、混乱していたというか、だな」

「フフッ。ごめんなさい、少し意地悪な質問でしたわね。……さて。お店の在庫で入らないのであれば、取り寄せましょう。店長さん。確か最近、別レーベルでグラマーな方向けのオンラインストアを始めましたわよね?」

「はい、お嬢様。こちら、そのショップカードになります」

「話が早くて助かりますわ。えぇと、このQRコードを読み取って……ほら、こんなに沢山取り扱ってますのよ? ここになくたって、諦める必要はありませんわ」

 

 小気味よく店長と話を進め、受け取ったカードを携帯で読み取ったものをこちらへ見せてくる。すると、素人目でも気になるデザインのものが、今までであればまずサイズ等の問題からそもそも選択肢に入れられなかったようなものが、いくつかあった。

 

「意中の殿方に見せる為、というのも勿論ですけれど、何よりも自分が着ていて気分が高揚したり、普段は出来ないことも出来るような気がしてくる。下着はそんな、女の戦闘服でもあるのですッ!! ……これ、母の受け売り、なんですけれど、ね」

「戦、闘服」

 

 そう言われるだけで、ちょっぴり見え方が変わって来るから不思議なものである。

 

「今日のところは一先ず、ちゃんと正確なサイズを測りましょう。店長さん、メジャーを」

「どうぞ」

 

 店長がどこからともなく取り出したそれを受け取ると、何やら袖まくりを始めるセシリア。どうやら自分で測る気満々らしい。徐に両膝をついて私の胴に腕を回してきた瞬間、触れた肌の感触にビクッと大袈裟に反応して、更に微笑ましく笑われてしまった。

 

 そして、ふと思ったことが、口をついて出た。

 

「なぁ、セシリア」

「はい、なんでしょう? ……細い腰と綺麗なくびれ。やはり秘訣は和食でしょうか」

「どうして、お前はそこまでしてくれるんだ?」

「? お友だちが頼りにして下さったのですもの。全力で応えたいと思うのは当然のこと、ですわ」

「それ、は、有難いのだが、我々は、その―――」

 

―――恋敵(ライバル)でもある訳じゃあないか、と。

 

 今でもはっきりと覚えている。入学して間もない頃。クラス代表決定戦の祝賀会、その会場で彼女に向けられた静かな『挑発』。意図を確かめたことはないが、少なくとも自分はあの笑みを見て思わず息を呑み、言葉を失った。

 

 彼女を頼っておいてなんだが、正直、私なら間違いなくこうまで親切にはなれない。敵に塩を送りたくないと思ってしまうし、心の中の悪魔が幾度となく『嘘の情報を教えてしまえ』と唆してくるに違いない。それくらい、自分の器はまだまだ矮小だという誤った方向への自信がある。むしろ()()()()しか自信を持って言えない。

 

「そう、ですね。強いて言うなら――――」

 

 言葉にせずとも伝わったようで、手際良く計測しながら、ん~、と軽く唇を尖らせながら考える彼女の回答を、まるで刑の執行を目前にした罪人のような気分で、待つ。腕を回されているのは胸や腰であるハズなのに、その白く綺麗な両手がこの首を絞めるように添えられているような錯覚がふと自分を襲った。

 

 けれど、そんな息苦しさは。

 

 

 

「――――(わたくし)の恋が報われることは、絶対に有り得ないと解っていますから」

 

 

 

「……は?」

「いいえ、何でも。失言です。忘れて下さいな」

 

 そんな『思わず』といった具合の吐露と、何もかもを諦めたような力のない苦笑いに、いとも容易く霧散してしまった。

 

「さぁッ、これで計測は終了ですわ。……改めて数字を見ると凄いですわね。アンダーがこれだけ細くてこのカップ。殆ど奇跡の造形と言っても過言ではないのでは」

「……セシリア?」

「店長さん、こちらの数字でカタログを見せて下さいますこと?」

「はい、こちらに」

 

 人間関係が苦手で、相手の感情の機微に疎い自分でも、彼女が『咄嗟に空元気で誤魔化そうとしている』のは解った。けれど、それが何故かまでを察せれるほどの経験は未だなくて、そんな今の自分の胸中を占めていたのは、彼女がそんな顔を見せたことへの困惑と、彼女にそんな顔をさせてしまったことへの後悔と、そして。

 

「何だというんだ、これは」

 

 この、喉奥に引っ掛かった魚の小骨のように些細な、けれど確かな()()()は。

 

 

 

 

 東館4階 フロンティアシネマ 9番シアター内。

 

「ハァ~……」

「マァマァ、そう不機嫌にならずにサァ」

「誰のせいだと思ってるのさ」

 

 カデンソン(ラチェット)は盛大な溜め息を吐いた。理由は単純明快。今、隣に座っているこの()()()()()、である。

 

 Copernicus Leslie Stevenson(コペルニカス・レスリー・スティーブンソン)。ムキムキマッチョが過ぎる肉体美と、キレイに割れたケツアゴが特徴的な、今をときめく(?)アクション俳優にしてマルチタレント。しかしてその正体は。

 

「説明してくれるんだろうね、()()()()()?」

 

 Captain Qwark(キャプテンクォーク)。本名、Copernicus Leslie Qwark(コペルニカス・レスリー・クォーク)。最早『腐れ縁』と称することに何ら支障もない程の付き合いとなった、嘗てSolana Galaxy(ズガガ銀河)のお茶の間で知らない者はいなかったほどの知名度を誇ったスーパーヒーローにして、元詐欺師だったり、野生児だったり、果ては銀河大統領だったりもした、見た目に違わずステータスをPWRとSTRに全振りしたんじゃないかってくらいの脳筋(バカ)である。

 

 彼との付き合いを一から紐解いていくと途轍もない長さになるし、自分の黒歴史を掘り返すことにもなるので割愛するが、早い話、彼もまた自分たちと同じ目的の為にこの地球(わくせい)を訪れた宇宙人、その擬態した姿なのである。尤も、自分たちが呼んだ訳では無く、気が付いたら勝手に来た、と言った方が正しいのだが。

 

「何の為にわざわざ映画館のシアターを丸々1つ、貸し切りにさせたと思ってんのさ」

「誰にも邪魔されないように情報交換をする為だねェ」

「そうだろう。だったらなんで彼がいるのさ?」

 

 最前列の席に座る自分たちのかなり後方、シアターの真ん中を左右に横切る通路を挟んで中段少し上あたりの席から、落ち着かない様子でチラチラとこちらを窺っている織斑一夏少年をチラッと見やりながら問う。その隣で相変わらず不機嫌そうにチュロスをモリモリ頬張っている更識楯無生徒会長のことは、見ない振りをしつつ。

 

「ちゃんと全席買い占めたって言ってたじゃないか」

「チッチッチ。それは正確じゃないなァラチェット。ボクは正しくは『満席にしたよ』と言ったのさ」

「オイ」

 

 なんだ。つまり最初から知ってたってことか。これ見よがしに立てた人差し指を左右に揺らしながらドヤ顔でそうのたまう大バカ野郎に、更に頭痛が酷くなった様な気がした。

 

「ボクだって迷ったさ。でもね、上映最終日の予約を1週間も前からして、今日という日を待ち望んでいたファンボーイがいると判っちゃあ、生粋のエンターテイナーたるボクとしては盛大にもてなさなくてはいけないじゃないか」

「つまり、大した理由はないってことね……」

 

 要するにコイツが会いたかったってだけの話である。嗚呼、誰か頭痛薬を持ってきておくれ。出来れば胃薬も一緒に。

 

「大体さァ、これ、ゴーストガンマンロボ軍団って、これVコミック1巻の海賊設定を変えただけじゃん」

「設定じゃない。これはジュンゼンたるジジツに基づいたノンフィクション映画であってだね」

「ハイハイ、ノンフィクションノンフィクション……もういいや。彼1人なら()()()()()()は要らないし」

 

 まぁ、この程度の勝手はいつものことだ。深く考えないことにする。そもそもこのシアターを貸し切りにしようとした目的そのものは達成されている訳だ。手短に用件を済ませるとしよう。そう頭を切り替えて、カデンソン(ラチェット)は早速本題を切り出した。

 

「それじゃ、聞かせてもらえるかな――――」

 

 

 

 

 同刻。中央館地下1階 “スターピークスコーヒー”店内。

 

「いらっしゃいませ。1名様ですか?」

「あぁ、頼むぜ。出来ればパソコンを充電させられるとこがいいんだが」

「畏まりました」

 

 島倉は尋ねて来た店員にそう返し、案内された充電用コンセントのついた1人用のカウンター席に腰を下ろすと、引っ張ってきたキャリーケースを邪魔にならない様に席の下の空間に入れ、()()()()()()()()()()()()()()でコンセントと繋いだ小さなノートパソコンを1台取り出した。画面に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を表示すると、ひゅぽ、等という気の抜けた音と共にメッセージが表示され始める。

 

『ちゃんと見えてるッスかね?』

『あぁ。問題ないぜ旦那』

 

 会話の相手は言わずもがな、さっきのキャリーケースの中にいるクランクである。先程のコードはこのノートパソコンの電源ではなく、内蔵した特製の受信機に繋がっている。この受信機は唯一、クランクが発する電波のみを受信するように設定されている。何を隠そうこのパソコン自体、クランク自身が一から組み立てて、予め島倉に送り付けていたものだった。

 

『店のフリーWi-fiにも繋がってねぇ。盗み聞きされる心配はねぇぜ』

『OK。上手くいってくれて良かったッス』

 

 こうまで回りくどい真似をした理由はそれ(盗聴)だった。

 島倉は密輸入業者、即ち公の場で大手を振って名乗れる身ではなく、その商売と腕前からして()()()()()()の錚々たる面々を彼は顧客に抱えており、そして彼自身がその情報を売ることはない。尤も、“自分に害がない限りは”という枕詞はつくのだが。

 

 故に、島倉の挙動に対してどんな組織がどんなアンテナを張り巡らせているか判ったものではなく、そして、これから相手取ろうとしているのが()()()の連中であるのなら、どこにどれほどの『耳』があるのかますます判ったものではないから、というのもあって、第3者の目に触れるような可能性は、出来うる限り摘み取っておきたかった。

 

 何せ、彼に依頼したブツ、というのは。

 

『では早速、教えて下さるッスかね―――』

 

 

 

 

「『――――噂の“Reepor Weaving Industry(リイポラ機業)”なる企業について、詳しく』」

「『オッケ~(あいよォ)。で、何から聞きたいんだい()?』」

 

 

 




 どうも、FGOクリスマスガチャはとっくに宝具MAXのマルタ姐さんとベヨニキしか来なかった作者のGeorge Gregoryです。いいもん。全体Artsランサーなら謎のスタアさんがいるもん。(何故かリンボは速攻来たし渡部さん家の綱さんは一気に宝具MAXなった)

 下着云々に関しては、娘がいる飲み仲間から酒の席で聞いた話を主軸にネットで詳細を調べて書いております。間違った知識があったらすみません。……え? そこじゃない? 何が?

 箒の胸って『年齢不相応に大きくて本人もコンプレックス』って表現しか出てこないんですけど、正確な数字って出てるんですかね? お姉ちゃんがほぼ1mだからそりゃスゲェんだろうけど。……後、アニメのシャルのは数字に対してちょっとでか過ぎる気がしなくもない(←大小問わず均整のとれた美乳好き)

 2部(臨海学校~学園祭)で掘り下げようと思ってるフラグをここぞとばかりにブっ込みまくりました。「あぁ、この辺のフラグ回収する積りなんだな」くらいのノリで捉えて下さればいいと思います。俺ね、こういう人間の『面倒くさい部分』書かせることにかけてはそれなりの自信あるんですよ。何故なら俺自身がドチャクソ面倒くさい人間だからなァッ!!(ドーン)

 前書きにも書きましたが、年内に更新はちょっと難しそうなので、この場を借りて年の瀬の御挨拶をば。皆さま、良いお年を。2021年も細々と更新していきますので、何とぞよしなに(平身低頭)。

 では、また近い内にお会いできることを願って。

 いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの原動力です。
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