ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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久しぶりに学生時代のTRPGシナリオを引っ張り出してきてリメイクしています。
セッションなんていつぶりかしら。楽しみ。


Evasive Emotions Ⅰ

『タダのスーツ、ですか』

『そ。ちょっと高性能なだけの、ただの宇宙服(スーツ)。それも、まだまだ未完成の、ね』

『今でも相当に高性能だと思いますが』

『いやいや。何よりも最大の欠陥が残ってるじゃない』

『最大の欠陥?』

『女の人しか乗れないこと』

『それは、やはり、篠ノ之博士としても想定外の事態、ということなのでしょうか』

『当然。だって、宇宙服なんだよ? なのに()()()使()()()()()()()()()って時点で欠陥品でしょ』

『原因は未だ不明なのでしょうか?』

『会見でも言ったけど、目下究明中、としか。でも、いずれ必ず解き明かすよ』

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から、ですか?』

『その通り。それに、このままじゃあ、いつまで経ったってドクターの望む未来は訪れそうにないしね』

『篠ノ之博士の望む未来、とは?』

『教科書の最初にも書いてあるだろう? ISは、"Infinite Stratos"は、彼女があの無限の成層圏(そら)の彼方を夢見て作り上げた『翼』だ。なのに、誰もかれも上を見るどころか、互いのマウントの取り合いにしか使ってないじゃない。

 そりゃあね、ISを着れば強くなれるよ。宇宙空間から未知の惑星に至るまで、あらゆる悪辣な環境下での活動を想定した防御システムに生命維持機能。大がかりな重機を必要とするような作業だって、強力なパワーアシストや多種多様なパッケージがそれを可能にする。微粒子状に分解・収納してしまえば持ち運びだって簡単だ。高々数十グラムの荷物を宇宙まで持っていくのに今、どれだけのお金がかかっているかなんて、わざわざ言うまでもないだろう?』

『そう、ですね。言われてみると確かに、第一世代とされている"白騎士"は、現行の機体のような特色らしい特色がなく、今挙げられた点だけを考えてシンプルに組み上げられたように思えます』

『パワードスーツとして優れているのは確かだし、意図していた用途とはまったく別の形で()()()()()()なんてことは、この界隈じゃあ珍しくもないよ。けれど、流石にこの現状は、どうかと思うね』

『カデンソンさんは、女尊男卑の風潮について、良く思われてはいないと』

『そりゃあ良くは思ってないさ。オイラ自身も肩身の狭い思いをしてきた側だし。ただまぁ、それを抜きにしたって、おかしな話だとは思うよ。だってさ、ISに乗れるからって、別にそれが特権階級の証って訳でもないんだし』

『随分と切り込みますね』

『だってそうじゃないか。普通の人より『取れる免許』が1つ多いってだけ。車や船、飛行機なんかと理屈は同じさ。試験を通って、適性を調べて、公的な許可を貰って初めて乗ることを許される。それは確かな才能、あるいはそれに比類する努力の証明だ。それを自慢する分には大いに結構だと思うよ。だけど、そこに胡坐(あぐら)をかいて威張り散らしているのを見たら、普通はどう思う?』

『正直、いい気分はしませんね』

『だろう? なのに、()()()()()()()()()()()()()()()。これがおかしくなくてなんだってのさ。

 そもそも、ISの何もかもが女性だけの手で作られてる訳じゃない。膨大な数の電子部品、コードやネジの1本にしたって、何百、何千、何万人にも及ぶ技術者たちの血と汗と涙の結晶だ。開発や修理にしたって同じ。それこそデュノア社なんて、社長から幹部役員、開発局の主要メンバーに至るまで、未だに殆どが男性だよ。長年に渡って堅実に積み重ねてきた知識や経験は、そう簡単に覆るものじゃあない。

 なのに、そんな偉大な先輩たちの価値を、ただ『男だから』という理由だけで頑なに認めないばかりか、不当な降格処分・左遷・解雇なんて話が後を絶たない。オイラからすれば信じられないよ』

『もっと男性の価値を認めるべきだ、と?』

『いいや。男だから、じゃない。そもそも、男とか女とか、オイラにとっちゃ()()()()()()んだ。男だから、女だから、価値がある、って順番が間違ってるんだよ。価値があるのはいつだって、確かな意志や情熱を持っているヤツさ。そこに性別は関係ないよ』

『意志や情熱、ですか』

『知識や技術なんて、その気になれば後から幾らでも身に付けられる。大事なのは、それで何を目指して、何を成すか、さ。そういう、真っ直ぐに見据えているものがあるヤツには、自然と力を貸してやりたくなる。だからオイラはドクター、篠ノ之束博士に助力すると決めたんだ』

『意外と熱血漢なんですね』

『どうかな。学校の教師(せんせい)だって、真面目で熱心な生徒の方が、つい優遇したくなるものらしいじゃない? 誰にだってあるでしょ、それくらいの()()()()なんて、さ』

『教職に就かれるお積りはないのでしょうか。学園の、特に整備科の生徒たちからの要望の声は多いと聞いていますが』

『それどこから、って、あぁ、新聞部(筆者の身内が在籍)か。おのれ。

 うーん、柄じゃないと思ってるんだけどな。それに、職員の皆の話を聞いてると、教師って本当に大変な仕事だなって思うし、今のままでも教えられることは沢山あるし。

 でもまぁ、実は前向きに検討はしてたりするよ。学園長ともちょいちょいそういう話をしてるんだ』

『では近々、貴方が教壇に立つ姿も有り得る、と?』

『かもしれないね。IS学園は高等学校だ。義務教育じゃない。つまり、この学園の生徒たちは自ら選んで、決して多くない椅子を全世界のライバルたちから勝ち取ってきた子たちばかりってことだ。

 なら、オイラたち大人の仕事は、自分たちの持つ知識や技術、未知の経験に触れる機会を、少しでも多く作ってやること、じゃないか』

『教えるのではなく、機会を作るのが仕事、ですか』

『そりゃそうでしょ。どれだけ用意してやったって、それを学ぶか学ばないかを選ぶのは生徒たち自身なんだから。オイラはいつも言ってるよ? 「訊きたいことがあるのなら、いつでも管理人室へおいで」って』

『自主性、つまり意志や情熱を示せ、と』

『そ。そういう意味じゃ、今年は()()()()だね。育てがいのある、将来が楽しみなヤツが大勢いる。休み時間の度に質問に来る熱心な子ばかりで、学園に来てからイチバン忙しくしてるよ。ワクワクしちゃうね』

 

「―――か? ―――ちか? ―――えてるの?」

 

『では、もう少し踏み込んだ質問を。織斑一夏少年について、お聞かせ願えますか?』

『彼かい? 彼とは仲良くさせてもらってるよ。何せ今のところ、この世にたった2人の同類(おなかま)な訳だしね。それに―――』

 

「―――ちか、返事しなさいってば、一夏~? ったくもう」

(いて)ッ」

 

 その辺りまで読んだ瞬間、織斑一夏が額に軽い衝撃を覚えて我に返り顔を上げると、前の席の背もたれ越しにこちらを覗き込んでいる凰鈴音が、ちょっぴり不満げに頬を膨らませながら今まさにデコピンをしましたって感じの右手をこちらに向けているのが見えた。

 

「バスが出発してから結構経つのに静かだなと思ってたら、アンタまたそれ読んでるワケ? よく飽きないわね、っていうか、よく車酔いしないわね」

「おぅ。乗り物酔いには滅法強いんだよ俺。それに、これは何度読んだって飽きることはないって」

 

 そう言いながら彼が掲げるのは、つい先週発刊されたばかりの『インフィニット・ストライプス』最新号。その表紙にはアリスター・カデンソンの写真がでかでかと使われており、その真下には煽るような大文字で『世界初・独占インタビュー』と書かれていた。

 

「待ちに待った"黒豹"初の公式インタビュー記事だぜ? 熱が冷めるワケねぇだろ。ファンクラブ(非公式)のラウンジも未だにお祭り騒ぎだしさ」

「知ってるわよ。セシリアが頼んでもないのに事ある毎に見せたり聞かせてくるんだもの」

 

 げんなり、と書いてあるような顔で鈴はふぅと大袈裟に溜め息を吐き、自分の座席の背もたれにあごを乗せて傍ら、窓の外の方へと視線をやった。つい先刻、長いトンネルに入ったばかりなので、等間隔ですれ違う照明と、非常口への案内標識くらいしか見えるものはない。

 

 さて。今更ながら状況を説明させてもらうと、今日はIS学園1年生の校外実習(臨海学校)初日で、彼らは今、今日からお世話になる旅館『花月荘』へ向かうバスの中にいる。早朝からバスに揺られ続け、途中休憩を含めて間もなく2時間という頃合い。車内ではあちこちで姦しい声が飛び交っており、既に堪えきれず持参したお菓子の封を開けてモリモリ食べ始めてしまっている子もちらほら見受けられた。ちなみに座席は予め決められた場所が()()()に記載されており、一夏の隣は誰なのかというと。

 

「ZZZ……」

「この子はこの子で、よくこの騒々しい中で寝ていられるわねェ」

「ラウラ、楽しみすぎてあまり寝られなかったみたいなんだ。昨夜も遅くまで誰かと電話してたみたいだし」

 

 一夏にもたれかかったまま静かに寝息を立てているラウラを見ながら、通路を挟んで向かいの座席に座っているシャルロットが仕方なさそうに微笑んでそう言った。ルームメイトになってからまだ1ヶ月も経っていないのに、相性が良いのか、最近は何をするにも一緒にいるような気がする。昔の彼女を知ってる一夏からすると、ちょっと感慨深いものがあって、思わず慈愛の笑みを浮かべてしまった。

 

「にしても、1週間経ってまだ鎮まらないのは流石というか、何というか」

 

 当然であり、無理もない、と鈴は思った。稀代の風雲児、アリスター・カデンソン。短けれど決して浅からぬ付き合いを経てきた自分たちとは違って、世間一般の皆は、あの人を認識したのは『あの記者会見』が初めてだ、という人が殆どであるハズだ。必然、その声は決して好意的なものばかりではなく、今回のインタビュー内容を悪質な形で切り抜いたネット記事もまた、SNS等を通じて凄まじい勢いで全世界へ拡散され、数多くの著名人までもが、その過激ともとれる内容に様々な反応を示していた。記者会見でも相当な爆弾発言のオンパレードであったというのに、今回は更にその上をいく内容。賛否両論、甲論乙駁で、メディアは連日()()()()()()である。某テレビ局なぞ、わざわざ緊急特番をやり、"黒豹"そして"アリスター・カデンソンという男"の危険性、などと銘打って()()()()()()にこき下ろしていたのを見てしまい、極めて不快に思ったものである。

 

(まぁ、『何を考えているか判らない』って部分(とこ)にだけは、同意するけどね)

 

 鈴は、自分は一夏やセシリア、後はシャルロットあたりもそうか、皆のように手放しにあの人を信じることは出来ず、かといって、そんなマスコミ()()()()()()()に騙されるほど知らないわけでもない、と思っていた。その知識や実力は紛れもない『本物』で、自分は既にその恩恵を少なからず受けている身でもある、とも。故にこそ、確信をもっていることが1つあった。

 

(ワザと、よね。この言葉選び)

 

 ISは『未完成』であり『欠陥品』。『好き嫌い』。何よりも『女尊男卑の明確な否定』。どれも今の風潮に頭のてっぺんまでどっぷりと浸かり()()()()()()()()連中なら、まず看過できない物言いであろう。実際、この雑誌の刊行直後、学園には山のように女権団体からの苦情の電話が来たそうだし、中には直接出向いてきて正門前で抗議行動をし、守衛に叩き出されたバカまでいたんだとか。

 

「ホント、何考えてんだろ―――」

「―――見てッ!! 海ッ!!」

 

 そう呟きながら窓の外をぽけっと眺めていると急に視界が晴れ、同時に車内の随所からそんなテンション高めの声が上がる。夏真っ盛り。予想最高気温は27度と例年よりもやや高めで、午後にはもっと暑くなるという。雲1つなく快晴の透き通るような青空に燦燦と輝く太陽の下、海面は潮風に吹かれて穏やかに揺らいでいて、跳ね返る陽光はまるで鮮やかな虹色の鱗のようだった。こんなに綺麗な景色を見たのはいつぶりだろう、なんてありふれた感想を抱きながら、その波間を辿るように視線を動かして。

 

 

 

「―――は?」

 

 

 

 その視線の先に捉えたものを認識した瞬間、鈴は言葉を失った。

 

「鈴? どうし……え? は、え、えぇッ!?」

「ッ、むぅ、ふぁ、あ……あふ。アイン、どうしたのだ?」

 

 呆けた鈴の様子に気付いて一夏もその視線の先を辿り、同じものを見つけて暫し呆けてから、徐に窓を開け放って身を乗り出した。支えを失ってガクンと体勢を崩したラウラがアクビを1つして、寝ぼけ眼を擦りながら、その脇から覗き込むように外へと視線をやり、そんな鈴と一夏の様子に気付いた周囲の生徒たちが同じようにしていくに連れて、彼女たちが上げる声が歓喜から困惑のそれへと変化していく。

 

 無理もない。何故なら、その先で。

 

 

 

 

「―――――YeeeeeeeeeeeeeeeeHaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaw!!!!!!!!」

 

「……あの人、ホントに何考えてんのよ」

 

 渦中の人物、アリスター・カデンソンが、何やら宙に浮いているっぽい()()()に乗って、波間で戯れているではないか。

 

 

 

 




サブタイトルの元ネタ
“クランク&ラチェット(PSP)”のスキルポイント
“イキノビンマニューバー(Evasive Maneuvers)”
『きみつサイエンスラボ/ベナントニオ』の水上ビークルパートにて、ハイドロフォイルという回避アクションを使って魚雷を8回回避すると獲得できる。直訳すると『回避機動』となるのでそのまんまの意味。
 ちなみに最後のラチェットの叫び声も同作品のスキルポイント『ローリンエッジン(Yeeee Haaaaaw!)』にかけていたりする。決して泥門高校のQBとかではない。

 どうも、THERMOSのスープジャーを購入し、職場でも昼メシ時に温かい味噌汁が飲めるようになってご満悦な作者のGeorge Gregoryです。油揚げと野菜の味噌汁で白米延々食える。歳なんですかね、昔から好きだったんですけど、最近は特に納豆と梅干が美味く感じられるようになりました。

 たまにデパ地下をふらつくと『至高の1杯』と銘打たれた超高級の白米とおかずのセット(茶碗1杯分で¥5,000~10,000前後する)にグラッとくるようになってしまっていけない。炊飯器も、今の部屋に引っ越すにあたって結構イイもの買ったハズなのに、調理家電売場で諭吉10人近くするようなヤツが欲しくなってしまったりします。あ〇るかよ。

 執筆のオトモに30本入りの徳用チョコバー(う〇い棒みたいなヤツ)買ったんですけど、これいけませんね。食べ応えが軽すぎてサクサク食べちゃって気付いたらなくなってた……普段滅多に食べないんですが、その分たまに甘いものが欲しくなった時の反動がデカくていけない。せっかく体脂肪削ぎ落せてきてるのになァ。


 では、また近い内にお会い出来ることを願って。

 いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。
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