ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
これくらいの執筆ペースを保てればいいんですけどねぇ……それでも全盛期に比べれば大分落ちましたが。
あの頃はなんであんなに捗ったかなぁ。
「山間部にて局地的な震災?」
午前中の調練を終え、これより昼休憩に移ろうかという頃合いに、その伝達は届いた。
本日未明よりオーストリアとの国境に聳え立つアルプス山脈のツーシュクピッツェ山にて、登山用ケーブルカーの運営会社や登山客の宿泊用ロッジより断続的に地震が起こっている報告があった。どうにも頻発するもので、宿泊客が不安がったり、ダイヤを乱されてたまったものではない、と。
で、調べてみたものの、そもそも火山ですらないツーシュクピッツェ山にマントルの異常などあるはずもなく、その時間帯のプレートに地殻変動は確認されなかったという。
そこで急きょ、調査団が派遣されることとなり、その護衛任務の為、至急現場へ急行せよ、とのこと。
幾ら全員が“
「何故、このタイミングなのだ……」
軍人として、正しくあらんと生きてきた。規律に従い、ただひたすら国益のために、と。そこに、私情を差し挟む余地などない。決して、あってはならない。だのに、何故にこうも強烈な苦悩に苛まれているのかと問われれば、それは。
「クラリッサさん、いますか?」
「っ、一夏君ですか?」
随分と長考してしまっていたらしく、その声で我に返る。控え目なノックの後、小さく開けられた扉からこちらを覗き込んでいるのは、つい先月よりドイツ軍に臨時の教官として赴任している第1回モンド・グロッソの
「そろそろお昼なので呼びに来たんですけど、お邪魔でしたか?」
「あぁ、いや、大丈夫ですよ。少し、報告書に目を通していただけです」
第2回モンド・グロッソにて、私がほんの僅かに目を離してしまったばかりに、危険な目に合わせてしまった少年。織斑教官は祖国から謂れのない誹りを受け、一夏少年は恐怖体験をさせられたばかりか、決して短くない期間を慣れない異国の地で過ごさねばならなくなってしまった。それが、自らが招いた不始末だと思う度に、今でも身を捻じ切られそうな思いに駆られる。
だからこそ、初対面の時、日本の書物で学んだ土下座と切腹にて誠意を示そうとしたが。
『あれほど言い聞かせたにも関わらず、考えなしに行動したこの愚弟が悪い。君が気にする必要は皆無だ』
『あの、本当に、すみませんでした。上の人から、怒られたりしませんでしたか……?』
決して少なくない悪意に晒されているだろうに、笑って許した上に、こちらの身を案じてくれるこの姉弟の度量の広さに、殊更に感服させられた。嗚呼。これぞ正に、私が夢見ていた
感動で心が震えた。涙が止まらなかった。そして、この姉弟の力になろうと、密かに心に誓った。いわゆる“
あれから1ヶ月ほどになるが、当初は困惑の色が強かった隊舎の雰囲気も、今ではすっかりと元に戻り、むしろ以前よりも隊員同士の仲は深まったようにさえ思える。それは間違いなく、一夏少年の影響と貢献が大きいだろう。
最も驚いたし、驚かれていたのは、一夏少年が我々の訓練に参加したい、と言い出したことだった。
当然、織斑教官を含め、皆が反対した。軍の実践的な訓練に耐えられるはずがないと心配する者、子ども如きが
『強くなりたいんです。いつまでも守られる側でいたくないから』
ただこれだけであったなら、歳相応の幼い願望だけであったなら、それでも自分たちは彼を止めただろう。決定打となったのは、その“眼”だった。
定まっていた。明らかに“何か”を、いや、“誰か”を見据えていた。海図を書く術も、
こうなったら止まらない。止められない。ましてや自制心すらまともに形成されていないであろう年頃の純粋な願望は、ある意味で“呪い”にも等しい。それしか見えなくなる。それ以外がどうでもよくなる。それが呆気なく断たれたととしても、延々と心の中で燻り続ける。
どうして解るかって?
最初は、弾を抜いた銃を抱えて敷地内を5周が限界だった。トレーニング量も同世代の平均を逸脱することはなく、ものを食べる気力すらなくなり、食べても吐いて戻していた。その度に厨房からミキサーを借りてきては、流動食にして無理やり流し込んでいた。
隊の中では“いつになったら折れるか”で賭けを行っていた者までいた。判明した後で即座に止めさせたが、その
日を追うに連れて、日中全てを費やしていたものが、夕暮れ前までになった。回を重ねるに連れて、100回で力尽きていたものが、110回になった。端から見たなら、それは実に些細で、余りに遅い、しかし確かな“1歩”だった。
息を切らし、汗と泥に塗れ、手足に幾つもの
そして、そんな彼だからこそ、心の芯まで凍り付いてしまった“あの娘”に、ほんの微かではあれど“熱”を点してくれたのだと、私は信じているし、何よりも感謝している。
「あ、ゴメンなさい。ひょっとして、俺、お邪魔でしたか?」
「いいえ、大丈夫ですよ。丁度、読み終えたところでしたから」
「なら、良かったです。皆さん、もう食堂で待ってますよ。今日のは自信作ですから、冷める前に是非」
『えぇ知っています知っているからこそ行きたいし同時に行きたくもないのです』という本音は口が裂けても言わない。
一夏少年の齎したものは、何も隊員たちに初心へ原点回帰させるような精神的鼓舞だけではなかった。訓練後、折角の料理を毎度毎度ミキサーにかけてしまうのも、と思ったのか、ある日突然、彼が厨房の一角を借りて、自分の食事を作るようになったのだ。昨今、日本食を出す食事処は珍しくもなくなったが、日本の家庭料理となると話は別で、隊員たちも興味津々になっていた。
『ねぇ。それ、なんていう料理なの? 優しくていい香りね』
『あ、えっと、卵粥です。ここの厨房にはお出汁がなかったので、スーパーで鰹節を買ってきて、自分で作りました。それと、卵とお米で煮込んだものです』
『あら、
『いいですよ。どうぞ』
確か、こんな会話だったと記憶している。そして、申し出た彼女がスプーンで一口、その黄金色の粥を、口に含んだその直後のことだった。
『―――――』
『え、えぇッ!?』
突然、何の前触れもなく、声すら上げずに、彼女が泣きだしたのだ。一夏少年も、周囲から様子を見ていた隊員たちも、これには驚き、慌てふためいた。そんなに口に合わなかったのか、それとも盛大に不味かったのかと推測が飛び交う中、彼女がポツリとこぼした言葉は。
『
不思議なもので、初めて口にしたはずの料理が、何故か食べた者に懐古の感情を齎す場合が、ままある。それは得てして、贅を尽くした高級食材や、道を究めんとする料理人が拵える“旨い”ではなく、素材を風味を活かしたシンプルな調理法で、覚えてしまえば誰でも作れてしまうような、家庭的な“美味しい”でなくてはならない。
思えば、この騒動を皮切りに、一夏少年との距離を測りかねていた隊員たちは、急速に仲を深めていったように思う。
以来、一夏少年が余裕のある時で構わないので手料理を振舞って貰えないだろうか、という話が持ち上がり、どうせ振舞うのならと彼もドイツ料理の勉強まで始めだすという嬉しい誤算まで発生することと相成った。そして今日は何を隠そう、自分が教えたハルフォーフ家の
長年口にしていない我が家の味をどこまで再現してくれるのか。早朝からそればかりが頭を過ってしまい、気づけば何度も教官に叱咤を受ける始末。嗚呼、これを楽しみに午前を乗り切ったというに。これは訓練に身を入れられていなかった自分への罰なのだろうか。項垂れてしまいそうなのを必死に奮い立たせ、断腸の思いで上層部からの伝達を一夏少年に伝えると。
「そう、ですか。そういうことなら、仕方ないですね」
えぇやっぱりそういう顔をすると思いましたよあぁしょぼんとした表情なんて止めて下さい罪悪感で首を吊りたくなります。日頃は必死に内へ留めているようだが、織斑教官はずっとこの“苦行”に耐え抜いてきたのだと思うと、その苦しみは想像を絶する。
今すぐに胸を掻き毟りたい。頭を壁へ何度も打ち付けたい。そんな自傷衝動を抑え込むのに全精力を注ぎこんで、表情をなるだけ平静に保とうとする。そんな自分の苦労を察してか、彼は弾かれるように面を上げると。
「なら、また夕食に作ります。全然難しくなかったし、材料もまだまだ余っていますから」
確かに、
「俺、この料理、本当に気に入ったんです。作り方が簡単で、栄養満点なのもそうなんですけど、何よりも、名前が」
「名前、ですか?」
「はい。といっても、今日作ってる時に、“あの娘”に手伝ってもらいながら教えてもらったんですけど」
そう言って、それはそれは晴れやかな笑顔で。
「
「――えぇ、そうですよ。実家ではよく、深底の鍋で作っては、パーティの度に大勢で取り合ったものです」
成程、“そこ”があなたの琴線に触れましたか。なんと微笑ましく、そして誇らしいことか。
「だから、無事に帰ってきて下さい。美味しいの作って、待ってますから」
「えぇ、必ず」
油断すればにやけてしまいそうな顔を隠すように軍帽を目深に被り、部屋を出る。足取りが軽い。屋外でもないのに、追い風を背中に感じる。『もう何も怖くない』は極めて濃厚なフラグなので決して考えない。決して、考えない。
隊舎で皆が待っていた。今ではすっかり週に1度の愉しみとなった、数少ない我々全員にとって共通の娯楽を潰されたのだ、不機嫌を隠そうともしない者もちらほらと見受けられる。が、彼が夕食にも焼き立てを拵えてくれる旨を伝えると一転、その瞳に強い炎を宿らせた。
「諸君、出動だ。今日も誰1人欠けることなく、生きて帰るぞ」
「「「「「
さぁ、今日も今日とて、積み重ねるとしよう。
「―――それ、本当なのかい?」
『本当、だよ。信じられないかもしれないけど、私はISに関しては、冗談は言うけど嘘は吐かないから』
緩やかに地下へと下るエレベーターの中で、思わず耳を疑った。今、Dr.シノノノが語ったことが本当に真実なのだとしたら、間違いなくこの案件、裏で暗躍している存在がいることになる。そして、まさか、とは思うが。そう思いたいが。
「クランク」
「ラチェットも“そう”思うッスか。エェ、ワタシもッス」
『え、え、信じて、くれるの?』
「勿論。ぶっちゃけ、“そういうの”はオイラたちも経験済みでね。特に、クランクは」
「そうッスね。似たような経験をしたことがあるッス。もっとも、ドクターの“それ”とは真逆の立場になるッスけどね」
仮に自分たちの予想が当たっていたならば、ISの存在は殊更に複雑になる。場合によっては厄介極まりない“敵”にもなるし、逆にこの上なく頼もしい“味方”にもなり得る訳だ。
判断するためには、まだまだ情報が足りない。調べなくては。知らなくては。下手に身動きの取れない今のスタンスでは、下手をすれば数年規模での調査が必要になるだろうが。
「これは、骨が折れそうだなぁ。今までの中でも特大の貧乏くじじゃね?」
「大丈夫ッスよ。ワレワレが揃えば、不可能はないッス」
「ハハッ。そうだな、いつものように笑い飛ばしてやるか」
「エェ。いつものことッス」
相手が自分より大きいのも、多いのも、賢いのも、強いのも、別段珍しいことじゃあない。いつだって挑む側。立ち向かう側。追いかける側。打ち破る側。それが、自分たちの日常だ。これまでも。そして、これからも。
『……なんか、いいなぁ』
「ん? 何か言ったかい、ドクター」
『別にッ、なんでもないよッ!! 間もなく~、終点~、終点~、お忘れ物のないようご注意下さ~いッ!!』
さて。これから何をするにしても、まずは。
「久し振りの清掃業といきますか」
「隅から隅まで、見逃さないッス」
『立体吸着ウェットシート~ッ!!』
開いた扉の先に広がる、この“汚部屋”の“御片付け”と行こうか。
サブタイトルの元ネタ
“ラチェット&クランク FUTURE2(PS3)”のスキルポイント
“パーティクラッシャー(Party Crasher)”
効果範囲内にいる相手を強制的に躍らせ無防備にさせる、“グルーブトロン”というミラーボールのようなガラメカがあるのだが、その効果で踊っている敵を50体倒せば取得できる。
『FUTURE』より登場するこのグルーブトロンだが、まぁバランスブレイカーな代物で、これを使うだけで攻略難易度がグッと下がってしまうほど。しかも『FUTURE』に限ってはシナリオ2周目以降に条件を満たすと弾数を気にせず無限に使用できてしまうという……これなんてチート?
補足説明
・Haferflocken(ハフェルフロッケン)
簡単に言えばドイツ版オートミール(麦粥)。正確には『Haferschleimsuppe(小麦のスライムスープ)』といい、文字通りかなりドロドロした食感で、向こうでも消化器が弱った時によく食べられている。
・Auflauf(アウフラウフ)
作中でも説明したが、ドイツの家庭料理で、グラタンに非常に近い料理。使う具材やソースの味付けなど、各家庭にそれぞれ違う形で伝わっているそうで、食べ応え抜群。
決して難しくないので、良ければお試しあれ。
……あれ、今回あんまり説明らしい説明してないなぁ?(棒) 大学時代に少しドイツ語をかじっていただけなので間違っているかもしれません参考にはしないで下さい(白目)
そこまではっきり拘りがある訳ではありませんが、基本的に1話で5,000~10,000文字くらいを心がけています。それくらいが多分、文章量的に読みやすいと思うので。感想・評価・意見は勿論のこと、些細な一言でもメッセージを送って下さると、モチベーションはグンと上がります。我ながら結構単純です。
というか、前回から一気にUAも登録数も伸びていてかなりビビっております。なんだよやっぱり隠れラチェクラー結構いるんじゃあないかッ!!(歓)
では、近い内にまたお会いできることを願って。
Twitterとリンクさせて更新報告/予告した方がいいですか?
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