ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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推しのVの配信進捗に併せて星の海で冒険してて更新遅くなりましたゴメンナサイ。


Ramping Up Ⅲ

 記憶の中の姉さんは、いつだって笑っていた。

 

 小さい頃からずっとそうだ。大笑い、照れ笑い、泣き笑い、ほくそ笑み。ありとあらゆる喜怒哀楽の感情を笑いながら露わにする。それを快く思わない人も確かにいるのだろう。けれど、幼い私はそんなあの人を、いつだって素直で、真っ直ぐで、裏表のない人だと思っていて、何かにつけて引っ込み思案であったというのもあって、そんな姉さんにあろうことか憧れまで抱いていたこともあったりするのだ。

 

「ホーキちゃん、イッショにオヤツ食べよ~♪」

「ダイジョーブダイジョーブ、このウサギさん印のキズ薬があればあっという間に……あれ、これ飲むんだっけ? 塗るんだっけ? どっちだったカナ? カナ?」

「スゴイッ!! テスト満点オメデトーッ!! タバネさんもハナタカネーサンダッ!! カレシの腹を裂かせましょ~ッ!! え、ダメ?」

 

 当時から他人に対して()()()()であったかまでは知らないが、少なくとも私にとって姉さんは、良き姉、であったように思う。少々鬱陶しいというのはありつつも、甲斐甲斐しく面倒を見てくれ、学業や剣道で優秀な成績を修めれば目一杯に褒めてくれた。それが嬉しくて一層勉学や鍛錬に情熱を注げた、というのは、少なからずあった。父も母も、私が好い成績をとるのが当たり前になってくると小さい頃ほど褒めてはくれなくなったが、姉さんだけはずっと変わらなかった。

 

 それから順当に思春期を拗らせ、変わらぬ愛情に鬱陶しさの方が勝るようになって、『姉が好きか?』と訊かれればつい、()()()()()()に否定していた。けれど、それが本当に、心の底からの言葉なのかと重ねて訊かれれば決してそんなことはなかったし、多分そんな私の心情も見抜かれていたんだろう、姉さんが涙目になりながら「ホントにホント?」なんて訊いて来た時には良心の呵責に耐えかねて思わず発言を撤回してしまい、「素直じゃないんだから~♪」と調子を良くした姉さんに抱きつかれるのを必死に剥がそうとする、なんてのが()()()()()()だった。

 

 あぁ。だから、きっと、篠ノ之箒(わたし)篠ノ之束(ねえさん)のことを、嫌いと言うよりは、むしろ――――

 

「よぅし、これでどぉだァッ!! 好きな色は緑ッ!! 好きな数字は375億とんで6.4ナドナドッ!!」

「誰の何のデータを入れているんですか」

 

 ――――いや、ない。絶対にそんなハズはないと強く思い直しながら、シスターボード?とかいう部分に入力を行っている、空中に浮いた謎の画面をなんとも軽やかな手つきで操作している姉のはしゃぎ様を、ジト目で見る。いや、ホント誰のデータなんだ、それ。

 

 そんな風に私が呆れ果てている間にも、淡々と、着々と、準備が進んでいく。姉の指先が鼻歌混じりに踊る度にこの、"紅椿(あかつばき)"といったか、真紅のISの金属然としたなんとも冷たい肌触りが段々と()()()()()()

 

 この時点で明らかに、普段学園のを借用している"打鉄(うちがね)"と全く違う感覚があった。成程、これが『専用機』というものか、と。そりゃあ誰もが欲しがるワケだ。

 

 それ故に、訊かずにはいられない。

 

「姉さん」

「ワッツマタ~マイシスタ~?」

「何故、私なんですか」

 

 これがどれほど自分に()()()()なものかくらいは、もう解る。

 

 そりゃあ、欲しいか欲しくないかで言えば、欲しい。けれど、これは、()()()()()貰っていいものじゃない。これは()()だ。いくらなんでも()()が過ぎる。正直、嬉しさなんかよりも、そんな忌避感の方が遥かに大きかった。

 

 そんな、私の質問に対して。

 

「そんなの、箒ちゃんのこと大大大好きだからに決まってんじゃ~ん♪」

 

 よりにもよって、皆の前で、この人はこう答えた。

 

「茶化さないで下さいッ!! こんな形で貰い受けたところで、私は嬉しくもなんとも――――」

 

 故に、そんな理由(あまやかし)なのならば、と大声で突っぱねようとして。

 

 

 

――――茶化してなんかないよ。

 

 

 

 唐突なその温度差に、二の句が継げなくなった。初めて見たのだ。姉の、篠ノ之束の、真剣な表情というものを。

 

「本当なら、巻き込みたくなかった。それは流石に無理だったけどね。()()()()()()を考えなかった。ううん、可能性には気づいていたのに、止められなかった。忘れもしない、私の3度目の失敗だ」

「姉、さん?」

「そもそも私には無理なんだ。『ミンナヒトシクビョードーニ』なんて戯言(ザレゴト)、吐き気がする。ヒーキするよ。フビョードーにするよ。だって、私は箒ちゃんのお姉ちゃんだもん。―――いよし、入力終わりィッ!! ヨロシクオネガイシマァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアスッ!!!!」

 

 ピッ、とひと際明快な電子音が鳴ると同時、展開されていた空中画面が消え、全身に纏っていた真紅の鎧が光の群れとなって霧散。気付けば左の手首に金と銀の鈴が1つずつ付いた赤い組み紐が巻かれていた。多分、これが待機形態、というヤツなのだろう。

 

「だからね、今の私に出来るサイコーケッサクをあげるの。()()()はちょ~っとクセがあるけど、とっても強くて優しい子だから、何があったって箒ちゃんの味方でいてくれるよッ!! ……私のことは別にいいけど、この子のことは、信じてあげて欲しいな」

 

 いつぶりだろうか。いやさ、初めてではないだろうか。姉さんが、篠ノ之束が、こんなにも穏やかに微笑んでいるなど、ひょっとすると両親だって見たことがないかもしれない。

 

「いよぅし、『真剣な話(マジバナ)』はここまでッ!! スペック説明はっじめっるよ~♪ "紅椿"は展開装甲を全身に組み込んだ第4世代機ッ!! マズは攻撃のカナメちゃん、"雨月(あまづき)"と"空裂(からわれ)"から―――」

「束」

「―――んも~、こっからがい~とこだったのに~」

 

 あまりに自分の知るものとかけ離れた姉に愕然として立ち尽くしている内に、いつの間にやら近づいてきていた千冬さんが割って入り、姉さんは不満げに唇を尖らせながらそちらを振り向いた。

 

「どういう積りだ。篠ノ之は代表候補性ですらないばかりか、所属すら判然としていない一般生徒だ。しかもお前、今『第4世代機』とか言ったな。全世界がまだ第3世代機の実用化に躍起になっている中で()()()()()をコイツに持たせてみろ。更に厄介なことに―――」

「―――いっくんは良くて、どうして箒ちゃんはダメなのかな?」

 

 その一言に籠められた迫力は、至近距離にいる私たちだけでなく、それとなくこちらを窺っていた、少し離れている生徒たちにさえ届いてしまうほどの鋭さを帯びていて、さしもの千冬さんでさえ、咄嗟に口を噤んでしまっていた。

 

「それなら、いっくんのこと、とことん調べさせてよ。ダメでしょ? 何が何でも止めるでしょ? ちーちゃんのことはスゴくスゴく好きだけど、()()()()()()だけはショージキどーかと思うな」

「貴、様」

「ほ~ら、そろそろあの豆タンクちゃんの試合終わるよ? 見てなくてい~の? お目付け役でしょ、あっくんの」

 

 刀と刀の鍔迫り合い。突き付け合った銃と銃。勿論、とっくに撃鉄は起こされ、引き金にも指が添えられている。そんな、目には見えない火花が散る一触即発から、少しでも距離をとろうと自ずと少し後ずさりながら、視線をそっと、そういえばすっかりと忘れてしまっていた試合の方へと向けて。

 

 私は、また別の意味で、衝撃を受けることとなる。

 

 

 

 

「お元気そうで何よりッス、少年。昨日はあまりお構いできず、モーシワケなかったッスよ」

「い、いやいや、そんな、全然」

 

 ペコリ、となんとも礼儀正しいキレイな直角のお辞儀に、思わず俺も居直って深いお辞儀で返す。

 

「大きくなったッスねぇ。あの頃とは見違えるホド。感慨深いものがあるッスよ」

 

 しみじみ、といった風にカメラアイを、シャッターを瞼のようにして細めながら呟くその姿は、機械の身体でありながら人間のそれと全く遜色がない。あれから6年も経って尚、未だにこの技術の高さに驚きを禁じえず、また、それはそれとして単純にその紳士的な態度に恐縮させられる。

 

「アァ、2人の試合を見たままでイイッスよ。見ておきたいッスよね?」

「ハ、ハイ」

 

 ドーゾドーゾ、と言わんばかりの手振りに、素直に促されておく。そうして視線を戻した先では、もう何度目かもすっかり判らなくなった鈴の攻撃を、カデンソンさんが相変わらず余裕綽々で回避し続けていた。

 

「いかに"甲龍(シェンロン)"という機体が『燃費が良い』といえど、それはあくまで『比較的』なもの。あれだけ大型のパワータイプを動かすには、それ相応のエネルギーが必要不可欠ッス。エネルギー管理に関しては、アナタはもうとっくに()()()()だろうッスけど」

「そう、ですね。いつも皆に、口酸っぱく言われてます」

 

 自分の"白式(びゃくしき)"も、()()()()の"零落白夜"だけじゃなく、高機動型の要たるスラスターの高出力だって決してバカにならない、極めて短期決戦向き。それ故に『切り札』は乱発せず、なるだけ()()()()()()ことで相手のリズムを乱すような使い方に留めておいて、決める時は必ず決められなければならない。その為の順序(プロセス)道筋(ルート)の組み立てを常に意識して考えろ、というのが"白式"を預かってからずっと言われ続けてきた、カデンソンさんの教えだ。

 

「だから、相手をよく見ろ。どんな動きからどんな攻撃をしてくるのか、切り札を見せた時どんな反応をするのか、そんな相手を仕留めようと思ったら自分の手札で何が出来て、いつ、どれを、どのように使うのが最善なのか、その取捨選択が自然に出来るようになるまで、ひたすら繰り返して()()()()()()肉体(からだ)の芯まで染み込んだら、後は肉体の方が勝手に動いてくれる、って」

 

 その為に、見られるものは何でも見ておけ。対戦相手が山ほどいて、いつでもどこかで何らかの形で動いているISを見ることが出来て、最新の論文や研究にいくらでも触れられるこの環境を無駄にするな、と。

 

「ケッコウ。では、そんなアナタから見て、あの2人の戦いはどのように映っているッスかね?」

「えっと。さっき、ラウラも言ってましたけど、鈴が一方的に攻めているようで、その真逆です。カデンソンさんの好きなように、攻めさせられてる」

()()、もっと具体的に説明できるッスか?」

「え? えっと、そう、ですね……」

 

 唐突な質問に少し面食らいつつも、考える。何故、自分はこれを見て『攻めさせられている』と感じるのか。

 

「こ、んのッ!! クソォッ!!」

「こらこら、闇雲に攻めない。段々単調になってきたぞ?」

「うっさいッ!!」

 

 こんなにも表情を歪ませている鈴は初めて見る。こんなに攻撃が当てられないのも、だ。ラウラの言う通りなのであれば、カデンソンさんはワザと体勢を崩したように見せたり、隙を作ってみせたりしている、ってことになる。けれど、その程度のことを、あの鈴が見抜いていないハズがない、とも同時に思うのだ。ならば何故、あんなにも()()()()()()なのか、と考えて。

 

『アタシから戦らせなさい』

『こちとらもうッ、カンカンに火ぃ点いてんのよッ!!』

 

 真っ先に思い当たるのは、理由は解らないが、鈴が最初から妙に頭に血が上っているようだったってことと。

 

(―――あ)

 

 もう1つ、()()()()()()、と思うものが、見えた気がした。いや、1度や2度なら偶然の範疇だが、先程から見ていて()()()()()なのだから、多分間違いない。

 

「クランクさん」

「ハイ」

「カデンソンさんって、さっきからずっと、ギリギリで躱してませんか?」

正解(エサクタ)、ッス」

 

 すれすれ。首の皮1枚。なんなら軽く掠っているんじゃあないかってくらいの、ほぼ当たっていると言っていいような、ギリギリ中のギリギリ。もしかすると鈴は"双天牙月"にほんのちょっぴりとはいえ、手応えさえ感じているんじゃあないだろうか。『もう少しで届く』なんて風に錯覚させられているんじゃあないだろうか。

 

 そりゃあ、位置も角度もタイミングも、何もかもがコントロール下にあるのなら、()()()()()も出来るのかもしれない。けれど、まさか。そんな半信半疑の、半ば()()()()()()の回答は、あまりにもあっさりと肯定された。されてしまった。

 

凰鈴音(ファンリンイン)。彼女は、確かに強いッス。でも、彼女にはアットーテキに足りていないものがあるッスよ」

「鈴に、足りないもの?」

「経験ッスよ、経験」

 

 え。そんなバカな。だって、国の代表候補生なのに。咄嗟にそう言おうとして。

 

「考えてもみるッスよ。中学生の頃、彼女がアナタと別れてから、まだ2年しか経ってないんスよ?」

「あ」

「彼女がいつ、そう思い至ったのかは解らないッスけど、最短の最速で候補生課程を修了したとして、それが9ヶ月~1年。それから学園に来る選抜のようなものがあったとしても、そこで競い、戦うのは十中八九、他の同世代の候補生。なまじ才能やセンスがあったことで、彼女はさしたる苦労も苦悩もなく、良き好敵手(ライバル)に恵まれることもなく、()()まで来られた。来られてしまった」

 

 目から鱗が落ちた。そうだ、それは、つまり。

 

「つまり、彼女は国家代表、あるいはそれに匹敵するほどの強者と戦った経験というものが、ほぼ皆無に等しい。要するに、()()()()()()()()と戦ったことがない、悪い言い方をするなら、イノナカノカワズ(井の中の蛙)ってヤツなんスよ」

「じゃあ、カデンソンさんは」

()()()()()()ッスね。マァ、()()()()()()()()んスけど。にしても、あぁまでワザとらしくしなくても……ヤハリマダマダ、演技はヘタッスねぇ、相棒」

 

 クランクさんは、やれやれと溜め息混じりに首を左右に振るような動きをして、今も尚、軽やかに縦横無尽な斬撃の中を舞うカデンソンさんを見ながら「仕方ないなァ」という風にこぼしていて。

 

()()()()()()()

 

 思わず口をついて出たのはそんな、ある意味当たり前にも程がある疑問で。

 

「フム。そうッスねぇ。ナント説明したものか」

 

 そんな俺の疑問に、クランクさんが暫く腕を組んで考え込むような動きをしてから。

 

「少年は、卵を割ったことって、あるッスか?」

「……ハイ?」

 

 こんな、あまりに無関係が過ぎる質問をしてきたものだから、思わず()()()()()()()な声を出してしまったのは、無理もないことだと思いたい。

 

 




 どうも、好きな四聖獣奥義は朱雀衝撃破な作者のGeorge Gregoryです。実はドラクエは“スライムもりもり”シリーズしかやったことがなく、FFはオンラインじゃないヤツなら一通り、って感じな俺が何周もやり直す作品が『黄金の太陽』と『スターオーシャン』であります。特にPSPで発売された『1』『2』のフルボイスリメイクはアホ程やりこみまして、実はSwitchで更にリメイクされた『1』を、最近推しのVが始めたのを切欠にまたやり直してました。更新遅れてごめんなさいね。いや、ね。面白いんですよ。当時から好きでしたけど、この歳になってもまだ熱が衰えないんですよ。声優陣もアホ程豪華だし。

 ……IS的なネタで言えば、声優が田村ゆかりさんでクッソ主人公に甘えて来るロリ巨乳なネコ娘がいたりするんですよねぇ。

 ホントはもう少し続ける予定だったんですが、キリが良いのでここで放り込みました。今月中に更新できるか判らなかったし、来月半ばまでリアルがちょっと混みあってるので。なるだけ早く更新できるよう頑張りますので、お預け状態大変申し訳ないですが、もそっとお待ちください。

 では、また近い内にお会い出来ることを願って。

 いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。
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