ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
――――父さん、
身長は平均以下。胴長で、手足も長い方じゃなかった。アタシは幸い、そこら辺は母さんの因子が強かったみたいで、顔も小さいし、手足も長くて、ボディバランス? もキレイに育ったけど、身長だけは父さんの遺伝なんでしょうね。
父さんと母さんは、不思議な夫婦だったわ。こう言っちゃあアレだけど、なんでこんな、チビで、無愛想で、
それでも、大きくなるに連れて、父さんが誰よりも料理に真剣で、実は結構凄いとこまで行った料理人だったって知った。
「俺が国でイチバンだと認められたら、一緒になってくれ」
それで、国内の若手料理人の大会? みたいなヤツで、本当に優勝したんだって、母さんが凄い嬉しそうに教えてくれたの。で、さ。解っちゃったのよね。『あぁ、不器用なだけなんだな』って。
ちなみに、まぁ、大体予想はついてると思うけど、その時父さんが作ったの、酢豚、なんだって。フフッ。ここ、笑っていいとこよ?
本当にたまに、出先で怪我とかしちゃって、父さんにおぶってもらったこともあったんだけどさ。背中、すっごく逞しいのよ。ガッシリしてて、固くて、小さいのに、大きいの。アタシが知ってる誰よりも小さいのに、大きいのよ。変よね。でも、そう感じたの。その時初めて『あぁ、アタシ、この人の娘なんだな』って思ったの。
だから、ね。両親のことは勿論好きだし、この2人はずっと一緒にいるのが当たり前なんだろうなって、そう思ってたのよ。そもそもさ、親の離婚なんて、子どもが想像なんかしてるワケ、ないじゃない? 特にウチなんて、『理由』が『理由』でしょ。 ましてや、父さんが
文字通り、衝撃だったわよ。天地がひっくり返った。足元が崩れていく。雷に撃たれた。他にも沢山言い方があるけど、
そこからはもう、簡単に
それで、変に
そういうの全部、
……そう、ね。
でも、それでも、正直言うとね。
アタシ、
――――どうしてだ。どうして、これほど
間違いなく間合いの内側にいる。センサーや刀身で測るまでもない。この距離にいる相手を何人も、何人も、打ち負かしてきたのだから。
繰り出す一撃が、何故か空を切る。いや、理由は解る。手応えがないということは、当たっていないということだ。ただ、自分の攻撃が届いていない、というだけの話だ。何度も、何度も、自分が負かしてきた相手に言ってきたことだ。
あぁ、そうだ。
「ッ、あああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」
恥も外聞も、何もない。絞り出して、捻り出して、削り落として、擦り減らして、それでも尚、届かない。認めたくないだとか、信じたくないだとか、そんな意地を張れる余地もない。
それでも。だとしても。
もう何度目かも忘れた『丁寧な転ばし』から立ち上がり、槍投げの要領で連結させた"
地を蹴りながら、カウントダウンスタート。スラスターと、引いた右腕の"
「それ、誰が教えたと思ってるんだい?」
――――あぁ、クソ。もう、そんな苦悶の声すらも出ない。
すかされた一撃の勢いのまま、また
そして、次の瞬間。
「ジャスト、5分だ」
「…………ッ、~~~~~ッ!?」
視界の端、経過時間の表示が『5:00』を記していた。それを見て一瞬、ほんの一瞬だけれど、考えてしまった。
(手も足も、出なかった……ッ)
自覚した途端、一気に視界が滲み、鼻の奥がツンと刺すように疼き、くしゃりと顔が歪んでいくのが解るのに、四肢にまるで力が入らないので、そんな情けないにも程がある顔を隠せない。
負けた。負けられないのに、負けてる暇なんかないのに、負けちゃった。
『お前たちに、愛想が尽きたんだよ』
『出て行った人のことなんて、忘れましょう』
あぁ、なんで。なんでよりにもよって今、スイッチが。
『なんで私でなく、あんなポッと出の素人が』
『私よりずっと、何も知らないクセに』
ダメだ。ダメだ。ダメだダメだダメだ。アタシには、アタシにはもう。
『アタシがこの星の一等賞になったら』
アタシには、もうこれしか――――
「ハイ、そこまでね」
「――――わぶ」
唐突に覆われる視界。顔全体に感じる柔らかな肌触りのコットン生地の感覚。口を塞ぎかけたそのタオルに奇妙な声を漏らしてしまい、そこでようやく感覚の戻ってきた両腕で、せめて呼吸を遮らない程度に避ける。
「何があったかは訊かないよ。けどね、慌てるのはイイけど、焦らない方がいい」
傍らにしゃがみこまれたのが、影の動きと物音で解った。そこでようやく、自分が仰向けにぶっ倒れているらしいことに気が付く。
酷く優しい声だった。先刻まで自分を腹が立つほど豊かな語彙力で煽ってきていたそれとはまるで違う。理解する。あれもこれも全部、自分の頭に血を上らせる為だったのだ。何から何まで、掌の上だったのだ。
「大丈夫。そこで本気で悔しがれるキミなら、もっともっと強くなるさ」
「うる、さい」
ぽんぽん、と撫ぜるように頭を叩く手の感触。解っていた。この人は
あぁ、でも。例え、これが
覆っていた影が消え、ざりざりと砂を踏みしめる音が遠ざかっていく。タオルの隙間から見える、黒い甲冑に包まれた背中が、遠ざかっていく。
どんどんと小さくなっていく、その大きな背中に向かって。
「だい、っきらいだ」
お腹の底で沸々と、ぐらぐらと煮えたぎる
ほんの少し、時間は戻って。
「卵って、ニワトリの卵、ですか? まぁ、それくらいの経験は、ありますけど」
クランクさんの突然の質問に少し面食らいつつも、
「では、卵をつぶしたことは?」
「へ? つぶす?」
それは、流石にない。調理に使う以上、卵の殻が混じるような面倒は避けたい。となれば自然と罅を最小限に入れ、そこに指を差し込み割り開く、というのが自然な卵の割り方だろう。
「卵の殻というのは、意外と丈夫なんスよ。比較的、殻の薄い鶏卵でも、手で握りつぶすには相当な握力が必要になるッス」
へぇ、それは知らなかった。今度、自宅で試してみようか。そんなことを考えて。
「養鶏の卵でさえそうなんスから当然、野鳥ともなれば殻は更に厚く頑丈になるッス。そうなれば自ずと『自分で殻を割れないヒナ』というのも、決して少なくない数、出てくるッスよ」
「……それ、は」
「かといって、
そのため、カルシウムの吸収が終わる前に殻を割ってしまえば、出血多量で命の危険に晒してしまうのだ、と続けるクランクさんの言葉に思わず、息を飲む。それは、つまり。
「本当なら、もっとゆっくり待つ積りだったッス。けれど、そろそろ悠長に待っているワケにもいかなくなってきて―――――ア」
「え、あ」
ほんの微か、意識をクランクさんの方に割いた間に、勝負がついていた。もうもうと昇る砂煙の中、四肢を投げ出して呆然としている鈴は、遠くから見ても判るくらいに顔を歪ませて、悔し泣きをしていて。
「やぁ、クランク」
「お疲れ様ッス。通知表は予定通りに?」
「あぁ。今のオイラが何を言っても、嫌味にしか聞こえないだろうしね」
「了解ッス」
そんな鈴の頭を慰めるように、励ますように軽く叩いてから、こっちに歩み寄ってきたカデンソンさんの言葉を受けて、クランクさんが手元のタブレットを操作し始めた。どうやら皆にも発行していた通知表が、俺たち専用機持ちにもあるらしい。たまたま画面が見える角度だったので、どんなものかと覗き込んでみると。
【そこで思考を止めるな。近接技に改良の余地有】
「―――は?」
あのとんでもパンチが、まだ成長途中? 更に上の段階が存在するって? 嘘、を、この人たちがつく筈がない。ということは、本当に? まともに食らったことのある身としては、あれ以上の威力など、想像するだけで鳥肌ものなのだけれど。この人たちには一体、何がどこまで見えているんだ?
「さぁ、次は誰だい?」
そんな俺の大混乱を
「では、
ただ1人。セシリア・オルコットだけが、不敵な笑みを浮かべて名乗りを上げた。
どうも、仕事上がりによく行く吉〇家の店員にとうとう「いつもの席空けますね」と言われた作者のGeorge Gregoryです。大体いつも焼魚牛小鉢定食+ネギ玉単品で大盛おかわり3杯するからもう覚えられたよね……いや、まぁ、リアルで会ったことある人にはまず忘れられたことないんだけども。
今回もリアルに振り回されつつ、大分急ぎ目で書き上げたんですが、これ、夏の間に臨海学校終わらせられるかな、と思い始めました……せめて今年中に……せっかく折り畳みのポータブルキーボードも買ったし、これでいつでもどこでも書けるようになったし。
久し振りに重めの心情描写でかなり文が乱れてると思います。伝わりづらかったらすみあせん。なんか後書きも全然捗らないのでこの辺にて。次の更新も頑張って早めに投稿します。
では、また近い内にお会い出来ることを願って。
いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。