ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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もうそろそろ32にもなるっつーのに実家帰るとアホほど食い物持たせてくる母ちゃんありがてぇんだけどせめてリュックの容量考えてくんねぇかな。



Ramping Up Ⅳ

――――父さん、劉楽音(リュウガクイン)は、お世辞にも体格に恵まれてるような人じゃなくてね。

 

 身長は平均以下。胴長で、手足も長い方じゃなかった。アタシは幸い、そこら辺は母さんの因子が強かったみたいで、顔も小さいし、手足も長くて、ボディバランス? もキレイに育ったけど、身長だけは父さんの遺伝なんでしょうね。

 

 父さんと母さんは、不思議な夫婦だったわ。こう言っちゃあアレだけど、なんでこんな、チビで、無愛想で、()()()()()()な父さんに、こんなにキレイでカッコイイ母さんが一緒になったんだろう、って。娘のアタシでもそう思ったんだから、きっと他人様(よそさま)から見たら、もっと凸凹(でこぼこ)に見えてたでしょうね。

 

 それでも、大きくなるに連れて、父さんが誰よりも料理に真剣で、実は結構凄いとこまで行った料理人だったって知った。()()()()()()()とかも承知の上で、自分が不釣り合いだと誰よりも思っていて、それでも……それでも母さんのことを諦めきれなくてさ、父さん、こう言ったんだって。

 

「俺が国でイチバンだと認められたら、一緒になってくれ」

 

 それで、国内の若手料理人の大会? みたいなヤツで、本当に優勝したんだって、母さんが凄い嬉しそうに教えてくれたの。で、さ。解っちゃったのよね。『あぁ、不器用なだけなんだな』って。

 

 ちなみに、まぁ、大体予想はついてると思うけど、その時父さんが作ったの、酢豚、なんだって。フフッ。ここ、笑っていいとこよ?

 

 本当にたまに、出先で怪我とかしちゃって、父さんにおぶってもらったこともあったんだけどさ。背中、すっごく逞しいのよ。ガッシリしてて、固くて、小さいのに、大きいの。アタシが知ってる誰よりも小さいのに、大きいのよ。変よね。でも、そう感じたの。その時初めて『あぁ、アタシ、この人の娘なんだな』って思ったの。

 

 だから、ね。両親のことは勿論好きだし、この2人はずっと一緒にいるのが当たり前なんだろうなって、そう思ってたのよ。そもそもさ、親の離婚なんて、子どもが想像なんかしてるワケ、ないじゃない? 特にウチなんて、『理由』が『理由』でしょ。 ましてや、父さんが()()()()()()()()()()()()なんて、さ。

 

 文字通り、衝撃だったわよ。天地がひっくり返った。足元が崩れていく。雷に撃たれた。他にも沢山言い方があるけど、()()()()()が全部まとめて一斉に降りかかってきた、って感じ? 大抵のことはアタシが泣けば許してくれたり考え直してくれた父さんがさ、喉がはち切れるくらいわんわん泣いても撤回しないのを見て、幼心に理解(わか)っちゃったのよね。『あぁ、もう無理なんだ』って。

 

 そこからはもう、簡単に()()()()()()()()()()()。これだけお願いしてるのにどうして? アタシたちのこと嫌いになっちゃったの? そんなこと言う父さんのことなんか嫌い、もう知らない、って大声で喚いてさ。最後の賭け、だったのよ。これくらい言えば流石に、って。どうなったかは、言うまでもないでしょ。その結果として、アタシと母さんは中国に帰ることになったんだから。

 

 それで、変に劣等感(コンプレックス)がひん曲がっちゃったっていうか、強迫観念、みたいなものが、当時はあったのよ。父さんみたいにはならない、父さんみたいな自分が嫌い、いらない、みたいな。だから、小さい自分が本当に嫌で、少しでも自分を大きく見せる為に、必要以上に威嚇して回ったり。滑稽でしょ? そういうのってさ、正に()()()()()()()のすること、じゃない。

 

 そういうの全部、師父(センセイ)にはバレてたんだろうな。後から聞いた話だけど、師父(センセイ)も父親と、イロイロあったみたいだから。

 

 ……そう、ね。師父(センセイ)には感謝してる。それは間違いないの。だって、そうでしょ? 自分の星でもないのに、アタシたちなんかよりもずっと前から真剣に準備して、最後にはあんなボロボロになるまで戦ってくれたんだもの。感謝してないワケない。

 

 でも、それでも、正直言うとね。

 

 アタシ、師父(センセイ)のこと、やっぱり大っ嫌いだなぁ――――

 

 

 

 

――――どうしてだ。どうして、これほど至近距離(ちかく)にいるのに当たらないんだ。

 

 間違いなく間合いの内側にいる。センサーや刀身で測るまでもない。この距離にいる相手を何人も、何人も、打ち負かしてきたのだから。

 

 ()()()()()()()を気にして使用を控えていた"龍咆(衝撃砲)"も既に全開だ。遠慮の『え』の字もまるで考えていない。そんなことを気にしている場合じゃあない。

 

 繰り出す一撃が、何故か空を切る。いや、理由は解る。手応えがないということは、当たっていないということだ。ただ、自分の攻撃が届いていない、というだけの話だ。何度も、何度も、自分が負かしてきた相手に言ってきたことだ。

 

 あぁ、そうだ。()()()()()()だ。()()()()()()じゃあないか。

 

「ッ、あああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」

 

 恥も外聞も、何もない。絞り出して、捻り出して、削り落として、擦り減らして、それでも尚、届かない。認めたくないだとか、信じたくないだとか、そんな意地を張れる余地もない。

 

 ()()()()()()。この人にそのような意思がないのだとしても、その領域だ。その次元だ。昇るための指先が届きもしない。ひっくり返すための爪先が引っかかりもしない。

 

 それでも。だとしても。

 

 もう何度目かも忘れた『丁寧な転ばし』から立ち上がり、槍投げの要領で連結させた"双天牙月(青龍刀)"を"黒豹"の足元目がけて投げつける。大きく飛び退った"黒豹"を"龍咆(衝撃砲)"で追撃。壁際目がけて誘導する。よし、『準備』の為の距離が開いた。

 

 地を蹴りながら、カウントダウンスタート。スラスターと、引いた右腕の"崩拳(小型衝撃砲)"のチャージを開始。"黒豹"が着地した地点、その少しばかし手前に狙いを定め、勢いを殺さず更に右脚で蹴った点を軸として回転を始める。爪先・脛・腿・腰・肩・腕。こんな時でも自然と歯車が嚙み合っていく感覚。そして、着弾と同時に溜めていたエネルギーを開放して――――

 

 

 

「それ、誰が教えたと思ってるんだい?」

 

 

 

――――あぁ、クソ。もう、そんな苦悶の声すらも出ない。

 

 すかされた一撃の勢いのまま、また()()()と世界がひっくり返る。オートバランサー機能で保護されていて尚、三半規管はまともに機能せず、自分が逆さまなのかどうかも判らない。ただ間違いないのは、また"黒豹"に見下ろされている、ということだけ。

 

 そして、次の瞬間。

 

「ジャスト、5分だ」

「…………ッ、~~~~~ッ!?」

 

 視界の端、経過時間の表示が『5:00』を記していた。それを見て一瞬、ほんの一瞬だけれど、考えてしまった。()()()()()()()()()()、と。

 

(手も足も、出なかった……ッ)

 

 自覚した途端、一気に視界が滲み、鼻の奥がツンと刺すように疼き、くしゃりと顔が歪んでいくのが解るのに、四肢にまるで力が入らないので、そんな情けないにも程がある顔を隠せない。

 

 負けた。負けられないのに、負けてる暇なんかないのに、負けちゃった。(つまづ)いてしまった。

 

『お前たちに、愛想が尽きたんだよ』

『出て行った人のことなんて、忘れましょう』

 

 あぁ、なんで。なんでよりにもよって今、スイッチが。

 

『なんで私でなく、あんなポッと出の素人が』

『私よりずっと、何も知らないクセに』

 

 ダメだ。ダメだ。ダメだダメだダメだ。アタシには、アタシにはもう。

 

『アタシがこの星の一等賞になったら』

 

 アタシには、もうこれしか――――

 

 

 

「ハイ、そこまでね」

「――――わぶ」

 

 

 

 唐突に覆われる視界。顔全体に感じる柔らかな肌触りのコットン生地の感覚。口を塞ぎかけたそのタオルに奇妙な声を漏らしてしまい、そこでようやく感覚の戻ってきた両腕で、せめて呼吸を遮らない程度に避ける。

 

「何があったかは訊かないよ。けどね、慌てるのはイイけど、焦らない方がいい」

 

 傍らにしゃがみこまれたのが、影の動きと物音で解った。そこでようやく、自分が仰向けにぶっ倒れているらしいことに気が付く。

 

 酷く優しい声だった。先刻まで自分を腹が立つほど豊かな語彙力で煽ってきていたそれとはまるで違う。理解する。あれもこれも全部、自分の頭に血を上らせる為だったのだ。何から何まで、掌の上だったのだ。

 

「大丈夫。そこで本気で悔しがれるキミなら、もっともっと強くなるさ」

「うる、さい」

 

 ぽんぽん、と撫ぜるように頭を叩く手の感触。解っていた。この人は()()()()()だったじゃないか。学園に来て、教えを乞うて、()()()()()は知っていたハズじゃあないか。

 

 あぁ、でも。例え、これが凰鈴音(ファンリンイン)()()()()にとって、必要なことだったのだとしても。

 

 覆っていた影が消え、ざりざりと砂を踏みしめる音が遠ざかっていく。タオルの隙間から見える、黒い甲冑に包まれた背中が、遠ざかっていく。

 

 どんどんと小さくなっていく、その大きな背中に向かって。

 

「だい、っきらいだ」

 

 お腹の底で沸々と、ぐらぐらと煮えたぎる()()()()()な気持ちをこめて、思いっきり吐き捨てた。

 

 

 

 

 ほんの少し、時間は戻って。

 

「卵って、ニワトリの卵、ですか? まぁ、それくらいの経験は、ありますけど」

 

 クランクさんの突然の質問に少し面食らいつつも、織斑一夏(オレ)は答えた。上手い下手は別として、流石にこのご時世、卵の1つも割ったこともない、なんて話はまず聞いたことがない。

 

「では、卵をつぶしたことは?」

「へ? つぶす?」

 

 それは、流石にない。調理に使う以上、卵の殻が混じるような面倒は避けたい。となれば自然と罅を最小限に入れ、そこに指を差し込み割り開く、というのが自然な卵の割り方だろう。

 

「卵の殻というのは、意外と丈夫なんスよ。比較的、殻の薄い鶏卵でも、手で握りつぶすには相当な握力が必要になるッス」

 

 へぇ、それは知らなかった。今度、自宅で試してみようか。そんなことを考えて。

 

「養鶏の卵でさえそうなんスから当然、野鳥ともなれば殻は更に厚く頑丈になるッス。そうなれば自ずと『自分で殻を割れないヒナ』というのも、決して少なくない数、出てくるッスよ」

「……それ、は」

「かといって、外側(こちら)から卵を割ってやるのは非常に難しいッス。卵の殻は内側に血管が通っていて、ヒナは孵化する直前、この血管から殻のカルシウム分を取り込んで、しっかり身体を強くするためッス」

 

 そのため、カルシウムの吸収が終わる前に殻を割ってしまえば、出血多量で命の危険に晒してしまうのだ、と続けるクランクさんの言葉に思わず、息を飲む。それは、つまり。

 

「本当なら、もっとゆっくり待つ積りだったッス。けれど、そろそろ悠長に待っているワケにもいかなくなってきて―――――ア」

「え、あ」

 

 ほんの微か、意識をクランクさんの方に割いた間に、勝負がついていた。もうもうと昇る砂煙の中、四肢を投げ出して呆然としている鈴は、遠くから見ても判るくらいに顔を歪ませて、悔し泣きをしていて。

 

「やぁ、クランク」

「お疲れ様ッス。通知表は予定通りに?」

「あぁ。今のオイラが何を言っても、嫌味にしか聞こえないだろうしね」

「了解ッス」

 

 そんな鈴の頭を慰めるように、励ますように軽く叩いてから、こっちに歩み寄ってきたカデンソンさんの言葉を受けて、クランクさんが手元のタブレットを操作し始めた。どうやら皆にも発行していた通知表が、俺たち専用機持ちにもあるらしい。たまたま画面が見える角度だったので、どんなものかと覗き込んでみると。

 

【そこで思考を止めるな。近接技に改良の余地有】

「―――は?」

 

 あのとんでもパンチが、まだ成長途中? 更に上の段階が存在するって? 嘘、を、この人たちがつく筈がない。ということは、本当に? まともに食らったことのある身としては、あれ以上の威力など、想像するだけで鳥肌ものなのだけれど。この人たちには一体、何がどこまで見えているんだ?

 

「さぁ、次は誰だい?」

 

 そんな俺の大混乱を他所(よそ)にカデンソンさんは声を張り上げて俺たち専用機持ち皆を見回し、けれど俺自身を含めて皆が鈴との圧倒的が過ぎる試合内容に完全に呑まれてしまって、互いを見やってどうしたものだろうか、と思っている中。

 

 

 

「では、(わたくし)が立候補しても?」

 

 ただ1人。セシリア・オルコットだけが、不敵な笑みを浮かべて名乗りを上げた。

 

 

 

 




 どうも、仕事上がりによく行く吉〇家の店員にとうとう「いつもの席空けますね」と言われた作者のGeorge Gregoryです。大体いつも焼魚牛小鉢定食+ネギ玉単品で大盛おかわり3杯するからもう覚えられたよね……いや、まぁ、リアルで会ったことある人にはまず忘れられたことないんだけども。

 今回もリアルに振り回されつつ、大分急ぎ目で書き上げたんですが、これ、夏の間に臨海学校終わらせられるかな、と思い始めました……せめて今年中に……せっかく折り畳みのポータブルキーボードも買ったし、これでいつでもどこでも書けるようになったし。

 久し振りに重めの心情描写でかなり文が乱れてると思います。伝わりづらかったらすみあせん。なんか後書きも全然捗らないのでこの辺にて。次の更新も頑張って早めに投稿します。

 では、また近い内にお会い出来ることを願って。

 いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。
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