ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

128 / 160
創作・妄想・趣味全開です。ご容赦くだちい。



Ramping Up Ⅴ

 貴族の家に生まれたことを誇りに思っているし、悔いたことはない。けれどたまに、ごくごくたまに、『面倒臭い』と思ってしまうことは、ある。

 

 小さい頃から毎日のように勉強と習い事の繰り返し。大変なことも勿論、沢山あったけれど、それを苦に感じたことは、あまりなかった。それなりに性に合っていたし、それらを楽しめる、面白がれるだけの素養や感性を持って生まれたのは、素直に喜ばしいことだ。言語、歴史、礼儀作法は勿論、ピアノやバイオリンも各界の一流と名高い講師陣が招かれての熱心な御指導のおかげで、どこで演奏しても()()()()()()()()()の腕前、くらいの自負はある。

 

 そして、その過程で自然と、一流と称されるような芸術にも数多く触れてきたし、その中には強く影響を受けたものも、強く熱を上げたものも、少なくない。習い事の1つでもあったバレエは、特に。通っていた学校でも、社交の場でも、自分から振る話題と言えば大抵は紅茶と音楽、そしてバレエのいずれかだった。どうせ話をするのなら、好きなものを存分に語らいたい、というのが人情というものである。

 

 けれど、ここからだ。ここからが気を付けなくちゃあならない、自分が唯一、とても『面倒臭い』と思っている点。

 

 貴族社会というものには必ずヒエラルキー、つまり階級という概念がついて回る。英国であれば女王を頂点として上から順に公爵(Duke)侯爵(Marquess)伯爵(Earl)子爵(Viscount)男爵(Baron)、その下に更に准男爵(Baronet)騎士(Knight)と続く。ちなみにオルコット家は伯爵家。父の実家は男爵家だったため、婿入りという形になった。まぁつまり何が言いたいかといえば、『目上の者の機嫌を損ねてはならない』という点である。

 

 学校であれば“先輩”や“教師”、社交の場であれば“主催者”等。それくらいシンプルであれば、まだいい。それが更に“爵位”やTPOでころころと入れ替わる上に、『暗黙の了解』までもが求められるのが厄介なところだ。極端な例になるが、知っているだけでも『管弦楽コンクールの特別審査員として招かれた貴族が実は酷いワーグナー嫌いで当日になって出演者の演奏曲に“Ride of the Valkyries(ワルキューレの騎行)”を見つけた瞬間に辞退した』だとか、『純英国産の文学しか認めない愛好家の前でドストエフスキーを大絶賛してしまい仲良く飲んでいたハズのワインをボトルごと頭からひっかけられた』等々。不条理だと思うだろう。けれど、それが未だまかり通ってしまっているのも確かなのだ。

 

 故にこそ、へりくだる側は相手の嗜好を徹底的に調べ上げ、けれどそれを()()()()()()()()あくまで自然体に振る舞うのだ。勿論、自分も()()()()()仕込まれた。でありながら()()()()()()()()()()のは、やはり父の影響、なのだと思う。けれど、昔はまだ、反発の姿勢を示せるほどの勇気はなかった。そう、怖かったのだ。我を示すことで厭われること、疎まれることを、恐れていたのだ。

 

 だからこそあの日、あの時、篠ノ之束博士との出会いは大きなキッカケだった。知らず知らずの内に自分自身を雁字搦めにしていた()()()()()()()()()を思い切り吹っ切るための、大きな転換期だったのだと、未だに自分は強く思うのだ――――

 

 

 

 

 先の凰鈴音(ファンリンイン)との戦闘が見応えがあっただけに、次に名乗り出たのがセシリア・オルコットであると解った瞬間、それを見ていた皆の胸をよぎったのは、歯に衣着せぬ言い方をするのであれば『果たしてまともな展開になるのか』というなんとも失礼な、しかし無理もない疑問であった。

 

 セシリア・オルコット。イギリス国家代表候補生。彼女の表舞台での試合経験は未だ乏しく、何よりも学園生たちにとっては4月のクラス代表決定戦が記憶に新しい為である。

 

 決して彼女が弱いワケではない、というのは誰もが承知の上である。実技・座学共に成績優秀。人柄もよく、助言を求めれば二つ返事で、しかも懇切丁寧な回答が返ってくる。何より、1年生の専用機持ちの中では、アリーナの使用時間がダントツの1位。それでなくともVRルームでのシミュレーションを常に欠かさない、生粋の努力家。そんな彼女のひたむきさを知っていて尚、彼女を()()()()()ような身の程知らずな輩は、少なくとも1年生(このば)にはいなかった。

 

 けれど、それとこれとは話が違う。

 

 1年生の専用機持ち同士の交流試合は別段秘匿されているワケでもなく、使用中のアリーナに赴けば誰でも見学することができる。メンバーはいつも同じ。織斑一夏、セシリア・オルコット、凰鈴音、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒの5人に、篠ノ之箒が加わっている。タッグマッチトーナメント以降はランダムに組み合わせを変えての2on2も行っているようだが、基本的には1on1。そして、そこでのセシリア・オルコットの戦績は下から数える方が早く、ハッキリと言ってしまえば、唯一量産型の"打鉄"で参加している篠ノ之箒を除けば最下位であった。

 

 要因はいくつもある。先の織斑一夏戦でもそうであったように、遠距離射撃特化型には不向きな閉鎖空間(アリーナ)。加えて対戦相手は近距離戦闘特化ないし近距離戦闘兼用型が殆どであり、彼女自身も射撃が主であって対人格闘の心得に乏しかった、という点もある。尤も最近は、篠ノ之箒・凰鈴音両名との交流により、入学当初に比べて随分と上達しているのだが。

 

 けれど、だからこそ、その凰鈴音が()()()()()()()()()"黒豹"相手に、果たして彼女でまともな試合になるのだろうか。皆がそう考えてしまうのは致し方のないことだった。

 

 そう。()()()、だ。

 

「オイラ、ワルツなんて上等なダンス踊れないけど?」

「構いませんわ。(わたくし)の方が胸を借りるのですもの」

「―――あれ?」

 

 真っ先に気付いたのは、一夏であった。

 

 "黒豹"の真正面に立ち、開始の合図を今か今かと待つセシリア・オルコット。その彼女の展開している"Blue Tears"の代名詞でもあるBIT。それを見た瞬間に、何とも形容しがたい、しかし確かな違和感を覚えたのだ。見ただけでそれを自覚したのだから()()()()()()がいつもと違うハズだ、とつぶさにBITを観察して、たった今、それにようやく気が付いたのだ。

 

「何? 一夏、どうしたの?」

「いや。あれ、"Blue Tears"のBITがさ」

 

 隣のシャルロットの問いかけに一夏が答えようとした、次の瞬間。

 

「始めッ!!」

 

 千冬の鋭い掛け声と共に"黒豹"が地を蹴り颯爽と距離を詰めようとして。

 

「ッ」

 

 即座に、大きく身を仰け反らせて()()を回避し、そのまま大きく跳び退って、互いの距離を仕切りなおした彼は。

 

「―――へぇ。()()()()()考えたね、オルコットさん」

 

 明らかに、声を弾ませていた。

 

「お褒めに預かり光栄ですわ。でも、流石ですわね。初見でも対応はしてくると思っていましたけれど、こうもキレイに躱されるとは」

「一夏、あれって」

「あぁ、やっぱり間違いない」

 

 "黒豹"を退かせた。その事実が見る者全員を黙らせ、彼女の評価を一気に覆した。そして、皆の視線はその一瞬の攻防で"黒豹"を退かせた、未だ全員の視界に鮮烈な『光の尾』を焼き付けた『深蒼の流星』へと注がれていた。

 

 大きな弧を描いて彼女の真横へ戻り、主に使える騎士が如く控えながら、今も虎視眈々と獲物の喉元を狙い澄ますかのように切っ先を向けている、いつもの見慣れたBITに明らかな突貫工事で組み込まれているのは"Intercepter(近接ブレード)"の刃。言わば、即席のブレードビット。それが、2基。

 

「さぁッ!! (わたくし)即興劇(エチュード)にお付き合い下さいませッ!!」

 

 

 

 

 始めは単なる思い付きからだった。

 

 クラス代表決定戦、その当日の夜。近接戦闘の重要性を身をもって痛感し、しかし自分の主武装が両手が塞がるライフルである以上、どうしたって発生する換装時間が()()()()()。一部始終を明確に思い出せる試合内容。決着のほんの少し前、トドメの一撃を叩き込まんと突撃してくる彼に、()()()()()にでもなれば、とBITを突っ込ませた、『あの瞬間』に。いや、そもそもの性能として、と、ふと思ったのだ。

 

『BITに近接攻撃が可能であったなら』

 

 そこに至った瞬間の、落雷のような衝撃といったらなかった。暗闇の荒野に訪れた夜明け。雨後の雲間より差し込む『天使の梯子(Angel Ladder)』。湯水のように溢れ出てくる軌道・図式・戦略の数々を、いい加減に眠ろうと潜り込んでいたベッドから跳ね起きて、寝間着姿のまま衝動に任せて書きなぐり、それを理路整然となるよう纏め直している内に夜が明けた。おかげで翌日の授業は眠気が酷く、それでもどうにか取り繕っていたのを3時限目には山田先生に見抜かれた。「流石に昨日の疲れが出たのでしょう」という言葉に、言いたいことはあったが、素直に甘えさせてもらうことにした。両親やチェルシーには、内緒の話である。

 

 その日の放課後、早速英国からの回答が届いていたので、逸る心を落ち着かせながらメールを開いた。けれど、そこには極めて端的に、このように記されていた。

 

『理論値上の最高率稼働データの提出 及び 偏差射撃(フレキシブル)の実現を最優先せよ』

 

 "Blue Tears"は遠距離射撃型。BITにより多角的な包囲網を単騎で成立させ、偏差射撃(フレキシブル)によって遮蔽物や障害物、シールドなどによる防御を無にすることの出来る機体だ。即ち、あらゆる戦局に対応するのでなく、得意とする戦局に()()()()()()()()()()()()()ことの出来る機体だ。だから、()()()()()()()()自分は、まだまだ"Blue Tears"のパイロットとして未熟なのだろうし、求められている結果も出さない内から『自分の不得手を補う為の追加武装』を求めているのは、()()()()()()でしかないのだろう。

 

 けれど。あぁ、けれど、()()()()()()()()()のだから。この子がもっと()()()方法を。いや、違うか。自分がこの子()踊りたいのだ。

 

 優雅なワルツだけじゃあない。華麗なバレエも、妖艶なタンゴも、情熱的なフラメンコだって。もっと、もっと、この子と踊りたい、踊ってみたい、踊っていたいのだ。

 

 だから、だからね、"黒豹"さん。

 

(わたくし)の、(わたくし)たちの()()()()に、どうかお付き合い下さいませ」

 

 

 

 

 そのまさかの初動に、誰もが虚を突かれた。

 

 突然、セシリアの方から距離を詰めたのだ。それも、主武装のライフルすら出していないときた。これは織斑・山田両教諭ばかりか、"黒豹(カデンソン)"でさえ一瞬我が目を疑い、ほんの微かではあるが、思考を止めてしまった。

 

 その隙を突くように、完全に接近戦の距離まで間合いを詰めたセシリアは、まるで指揮棒を振るように、右腕を大きく高らかに振り上げる。すると。

 

「う、お」

 

 その振り上げた腕の軌道をなぞるように2基の即席ブレードビットが連なって勢いよく上昇。"黒豹"は寸でのところで再び上体を仰け反らせて回避するが。

 

「まだまだァッ!!」

 

 セシリアは更に懐深くへと踏み込みながら、振り上げた腕を返す刀のように勢いよく戻し、それに追尾するように再びブレードビットが"黒豹"へと襲い掛かる。咄嗟の回避で不安定な体勢になっているところへの追い打ちに、"黒豹"が再び大きく跳び退る。すると。

 

「はぁッ!!」

 

 セシリアが右手で真っ直ぐに"黒豹"を指さしたと同時、ブレードビットが切っ先を真っ直ぐに向けて"黒豹"へと突撃を開始。それに気づいた"黒豹"がレンチを取り出して迎撃しようとして。

 

「ッ、な―――」

 

 いつの間にか背後に回されていた2基のBITからの射撃が襲い、大きく()()()()()()()()彼の目に映ったのは。

 

「―――やっべ」

 

 思わず背筋が痺れるほど美しい姿勢で構えられた"Star Light Mk-Ⅱ"の銃口から、その名に相応しい鮮やかな流星が放たれる瞬間であった。

 

 ()()()()()()()()()

 

 見ていた誰もがそう確信するほど、何もかもがキレイに組み上げられた一射だった。それはさながら、管弦打全てを意のままに操る指揮者が最高潮(クライマックス)の瞬間に満身の力を篭めた一振りのようであった。

 

 ()()()()

 

「―――なっ」

 

 速度、角度、威力。何もかも()()()()()()()()()()()()のは、セシリアも流石に予想外であった。咄嗟に回避が出来たのは『残心にあって尚、決して緊張を途切れさせてはならない』という父の教えの賜物である。

 

「……いやぁ、()()()()()()()()()()。本当は今日、レンチと"Dual Vipers(デュアルバイパー)"以外使う気なかったんだけどな」

 

 そう言いながら緩やかに立ち上がる"黒豹"の左腕には、彼の半身を容易に覆い隠せてしまいそうな鏡面状のシールドを発生させているバンド状のガジェットがあった。"Reflector(リフレクター)"。ありとあらゆる光線の類を逸らし、いなし、跳ね返す、彼の持つガラメカの1つである。

 

『思わず出しちゃったよ』と、彼は言った。それはつまり、一瞬とはいえ、セシリア・オルコットは、あの"黒豹"を。

 

「今のは良かった。とてもとても良かった。残り4分。もっと見せてくれるかな、()()()()?」

「~~~~ッ!! えぇ、えぇッ、勿論ですわッ!!」

 

 瞳を爛々と輝かせ、改めてBITの配置を整えながら"Star Light Mk-Ⅱ(ライフル)"を構え直す彼女の姿は、落ちて燃え尽きる小惑星(Meteor)などではなく、夜空で煌々と輝く青色巨星(Blue Giant)のようであった。

 

 

 




 補足説明

・“リフレクター(Reflector)”(初出『3』)
 作中でも説明した通り、レーザーを跳ね返すガラメカ。『3』では全身を球状のバリアで囲むタイプで、本作では『A40』の方を使用しています。使いやすさでも割とこっちのが作者は好き。

 どうも、炭酸水がマイブームの作者のGeorge Gregoryです。ウィルキンソンが美味い。他に何も要らん。炭酸水だけでいい。

 はい。実はこの強化案、このSSを書くにあたって真っ先に思いついたものでした。夢の塊よね、ファ〇ネルって。最終的な着地点含めて、実は機体にイチバンロマン籠めてるのはセシリアだったりします。……え? 知ってた? ナゼダ?

 こんな感じで、皆の強化案、既にみっちり考えてます。いつどのように公開していくかは、ある程度はプロットで決めてますが、ノリと勢いで早める可能性がありますので、明言は控えておきます。楽しみにしといてください。


 では、また近い内にお会い出来ることを願って。

 いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。