ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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前々から勧められてた『プリンセスプリンシパル』をようやく見て「19世紀英国+スチームパンク+スパイとかそんなん好きになるに決まってんべや」と悶えながら完走したらまさかの『続きは映画館で』をやられて悶々としたまま書いてます。



Ramping Up Ⅸ

 同刻。ドイツ東部、ザクセン州ドレスデン。"黒兎隊(Schwarze Hase)"宿舎、談話室にて。

 

「―――まーたナチス残党が悪役だったな」

「何回目かなぁ、このパターン」

「とっくに数えちゃいねーよ……にしても、すっかり()()()()になっちまったな、この映画鑑賞会も」

「初めは私たち2人だけだったのにね。ちょいちょい参加者が増えるようになったのは、一夏が参加してくれるようになってからじゃない?」

「その流れで隊長も頻繁にくるようになったってのもあるだろ」

「だね。最初は市販のお菓子なんかを持ち寄るくらいだったのに、いつの間にかデリバリー頼んだり、手料理作って持ってくるようになったり」

「あれも最初は一夏だったろ。焼きおにぎり」

「そうそう。あれ美味しかったよね~。皆で取り合いになってさ」

「ありゃあマジで美味かったからな、仕方ない。俺も3個食ったし」

「僕は2個。フフッ。元気にしてるかな2人とも。今は確か、臨海学校っていうのの真っ最中だっけ」

「デカい温泉のある旅館で2泊3日だとよ。羨ましいね」

「ねぇ。次は久し振りにヒーローものとか見ちゃう? あの2人のこと考えてたら見たくなってきちゃった」

「あぁ、いいんじゃねぇか? ここんとこずっとミステリだのホラーだのばっかりだったし」

「一夏がいた頃は、彼のリクエストで毎週必ず見てたもんね」

「お陰で影響受けた隊長もすっかりハマってやがったな」

「何見る? 最近は配信サービスが充実してて選り取り見取りだよね」

「あ~、冬に新作の公開が決まったし、復習も兼ねて()()()にするか?」

「いいね。ん~と、初期の3部作と、監督代わってからのと~」

「……本当に変わったよな隊長は。なんつーか、いざって時の頼もしさは一層研ぎ澄まされてんのに、それだけでもなくて」

「暖かくなった?」

「それだ。で、近くなった。距離が。心の」

「解るよ。まるで感情なんてないみたいに淡々としてるから『冷水』なんて呼ばれてたのに、よく笑うようになった。すごくいいことだよ」

「だな。あぁ、初期の『2』からにしようぜ。折角だ、映画館で俳優見比べられるようになっとこう」

「イイね。あ、イヨ~? 今からコレ見るんだけど、どう?」

「ついでだ、マチルダも呼んで来いよ。冷蔵庫にザッハトルテがあるから、ジャム持ってこいって伝えとけ。アイツのお袋さんのジャムは絶品だ」

「賛成。ほら、早く早く~」

 

 

 

 

 "黒い雨(Schwarzer Regen)"。

 

 対ビーム仕様ルナーズメタル・ヘキサ合板装甲 全距離対応強襲型。右肩部の主武装たる88口径レールカノンが明らかに重量過多のようであるが、PIC制御により鈍重さを感じさせない機動力を持つ。

 

 またこのレールカノン、一見すると古典的兵器のようであるが、推進用の液体火薬をシリンダー内で臨界寸前まで加熱させ、発射時にはバレル内のレールガン機構で追加速させることで、ISでなければ実現不可能な驚異的弾頭速度を誇り、リボルバー機構によってその連射さえも可能にする。その大反動は脚部のアイゼンが銃架として機能することで解決している。

 

 武装は他に、両腕部にプラズマ手刀をそれぞれと、4本のワイヤーブレードを搭載。砲撃の間隙を潜り抜けた先にはそれらが待ち受けている。ワイヤーブレードによる拘束や、軍人として鍛え上げられたナイフの技術が決して逃がさないという、第3世代機、いやさ現行の全機種をして屈指の完成度を誇る機体と言っていいだろう。

 

 そして、この機体を語る上で欠かせないのが『停止結界』こと"Active Inertial Canceller"。空間干渉型の第3世代兵器。性能は広い射程での、停止限定のベクトル操作。圏内に踏み入ったものはあらゆる慣性を殺され、身じろぎ1つとれなくなる。

 

 そんな"黒い雨(Schwarzer Regen)"を駆る操縦者(パイロット)について改めて。

 

 Laura Bodewig(ラウラ・ボーデヴィッヒ)。ドイツ軍特殊部隊"黒兎隊(Schwarze Hase)"所属。階級は少佐。時と場合により、大隊指揮官相当の権限を持つことすら許されている。

 

 "遺伝子強化試験体(Advanced)"という人工兵士量産計画によって生み出された試験管ベイビーであり、強化人間にして生体兵器。徹底的に計算しつくされた彼女の肉体は極めて高い身体機能を持っており、特に反射神経と体術、ナイフの扱いに秀でていて、同軍内部でも彼女に匹敵するような使い手はいないとされているほどである。

 

 故にこそ、彼女の"越界の瞳(Wodan Auge)"への適合失敗はあまりにも想定外で、それ故に彼女は織斑一夏と出会うまでの間、重く苦しい泥沼の底へと精神を陥らせてしまうのだが、既に本人はそれを『過去である』と振り切れているというのもあり、今は置いておく。

 

 以上のような点から、ラウラ・ボーデヴィッヒと"黒い雨(Schwarzer Regen)"の基本戦術は『砲撃を主としてそれに堪らず近づいて来た()()()()()を近接攻撃で刈り取る』というもので、そこに更に"AIC"という大変に()()()()()兵器が加わることにより対人戦闘、特に1対1の状況下においては無類の強さを誇る。故に彼女は日頃の模擬戦闘において"AIC"の使用は最低限に留め、純粋な機体性能と操縦技術のみで臨んでいるのだが、それでも勝率は堂々の1位。ちなみに2位は僅差で凰鈴音(ファンリンイン)である。

 

 そんな、非常に強力な"AIC"であるが、決して万能というワケでもない。

 

 まず、発動するにあたって対象を視界に捉えはっきりと認識する必要がある。領域に侵入してきたものを片っ端から自動的に止めてしまうほどの利便性ではないので、視覚外や認識外からの不意打ちは勿論、"甲龍(シェンロン)"の"龍咆(衝撃砲)"のような不可視の攻撃にはあまり意味をなさない。

 

 加えて、『Inertial Canceller』という名の通り、動きを封じられるのは慣性が働いているものに限られる。近接武器や実弾であれば可能だが、光線兵器には全く効果がないというのはタッグマッチトーナメントにおいてシャルロット・デュノアが実践してみせた通り。

 

 そして3つ目。対象の大きさや数に比例して、消耗するエネルギーと操縦者(パイロット)への負荷が増大する。マシンガンやガトリングガンの弾幕程度なら、今の彼女なら『範疇』であるが、大口径の砲弾級にもなると少々危うくなってくるし、射程内で視界に収められる限界というのもあって、完全に動きを封じられるのはIS1体が精々であり、その効果時間ももって2~3秒といった具合。尤も、それでも尚"AIC"が強力であることに変わりはなく、そこまでの接近を許した上でこの『奥の手』を切らされた経験は、未だ彼女には殆どなかった。

 

 故に、1年生の代表候補生の中で、"黒豹"に一矢報いれるとしたらラウラ・ボーデヴィッヒと"黒い雨(Schwarzer Regen)"であろう、というのが教師陣も含めた臨海学校参加者ほぼ全員に共通の見解だった。

 

「こ、れは、なんとも厄介な」

 

 これで通算6度目になる背後からの爆発に思わずそう短く吐き捨て、ぐらついてしまった"黒い雨(Schwarzer Regen)"の両脚を踏ん張らせながら、ラウラはその爆発源である、先程からずっと足元をちょろちょろとうろつかれている小さな影たちを見下ろした。

 

 丸い頭にとってつけたようにアンバランスなカメラアイと、適当に折り曲げた針金のような頭頂部のアンテナ。二頭身にも満たないような小さいボディからほんのちょっぴりしか伸びていない脚で、よくもまぁここまですばしつこく走り回れるものである。その小型ロボットたちは"黒豹"の腕から、まるで丸めたちり紙のように次々に放られ、地面に落ちたと同時に起動。こちらを認識し、真っ直ぐに突撃してきて、そして。

 

「ぐぬッ」

 

 トラバサミのようなギザギザの歯をめいっぱいに開いて噛みついて、ドカン。プラズマ手刀等で迎撃、叩き落しても同様。威力はそこそこ程度であるものの、音と爆炎が派手で酷く集中力を削がれる。そして何せ、この数だ。見渡す限りに満遍なくばら撒かれているので、1つや2つ止めたところでさして意味をなしていない。

 

「せぇッ!!」

 

 ワイヤーブレードで一帯を薙ぎ払う。突撃の為のブースターを搭載しているとはいえ、基本的に二足歩行で近づいてくる為、一掃すること自体は難しくない。が、薙ぎ払っている間は。

 

「ホラ、また防御がお留守だ」

「チィッ」

 

 その分、"黒豹"に対して無防備になってしまう。

 

 "Dual Vipers(二挺拳銃)"の連射が襲い来る。煩わしさを覚えながらレールカノンで応戦するが悠々と躱される。視界に収め"AIC"に閉じ込めるが、すると今度は。

 

「ガッ!?」

 

 既に視界の外に放られていた小型ロボットがあちらこちらから襲い掛かってくる。先程からずっとこの繰り返しだ。一向に攻勢に移れないまま、じりじりとSEが削られていく一方。堪ったものではない。

 

『貴殿であれば、私と"黒い雨(Schwarzer Regen)"をどのように攻略しますか』

 

 仕合を始める前、このように問うたのは先刻挙げた"AIC"の性能や難点を考慮した上で、それでも尚、それなりに善戦することは出来るだろうと踏んでいたからだ。"黒豹"の戦闘を見た回数は片手で数えられる程度でしかないが、それでも今までに見てきた武装には十分に対応ができるという確信があったからだ。

 

 それを、まさか、こんな形で疑似的な多対一の状況を生み出すとは。恐れ入った。これはまだまだ、私の想像力というものが足りなかったらしい。

 

 さて、改めて冷静に戦況を整理しよう。

 

 周囲には自立稼働する爆弾の包囲網。抜け出そうとすれば、その外から確実にこちらの体力を削りつつ逃がしてくれない"黒豹"。レールカノンやワイヤーブレードではその速度を捉え切れず、プラズマ手刀の距離には踏み込んで来ない。またその反動がある為に射撃体勢にある間、自分は微動だにすることが出来ない。"AIC"で捉えることが出来ても、その維持はもって3秒前後。それでなくとも周囲の爆弾がそれを許さない。爆弾を封じればその隙を"黒豹"が見逃さない。

 

「このままではジリ貧、だな」

 

 そう、()()()()()()

 

「いいだろう。()()()()()()()

 

 レールカノンで再度"黒豹"へ狙いを定める。但し、今度はアイゼンで固定せずに。当然、当たるなどとは思っていない。そのような意図がそもそもない。

 

 ()()が鳴ると同時、強烈な反動で"黒い雨(Schwarzer Regen)"が背後へと吹き飛ぶ。いや、ワザと吹き飛ばされる。そうすることで強引だが、搭載されているスラスターよりも遥かに速く包囲網を脱しながら、広げたワイヤーブレードで爆弾を一掃する。それらの爆風に乗って更なる加速をした"黒い雨(Schwarzer Regen)"の巨体は、このままであれば刑務所の塀のように四方を取り囲む岩盤に叩きつけられかねない勢いがあった。

 

 なので、()()()()

 

「お?」

 

 ワイヤーブレードを頭上に射出。その穂先をしっかりと視界の中心に定め、"AIC"を発動。瞬間、完全に慣性を殺され空間に縫い留められた穂先を支点とした巨大な()()()が成立。大きな弧を描くように"黒い雨(Schwarzer Regen)"の機体が引っ張られ、途轍もない遠心力が襲い掛かってくるが、歯を食いしばって耐える。

 

「おぉ?」

 

 そうして180度、機体に加わるベクトルの方向が完全にひっくり返った瞬間に解除。勢いのまま体勢を整えながら、両腕のプラズマ手刀を展開。眼下、驚きのあまりか間抜けな声を漏らしてこちらを見上げている"黒豹(ヤツ)"を視界の真ん中に定め、()()()()()()急降下。

 

本気(マジ)ィ?」

本気(マジ)だッ!! 食らえェッ!!」

「うぉ――――」

 

 榴弾を何発も叩き込んだような轟音と共に炸裂。吹き飛ばされた"黒豹"が岩盤に叩きつけられる。そこで初めて、周囲の皆からわっと歓声が沸いた。

 

「――――あぁ、良かった。今のはいい『遊び心』だった」

「お褒めに預かり光栄だ。しかし、今ので決まったとは思っていなかったが、そうもケロッと起き上がられると流石に複雑だな」

「いやぁ、誇っていいよ。こうもまともに一撃を食らったのはいつ振りかもわかんないもの」

 

 衝撃で砕けた()()()を蹴飛ばしながら、なんてことのないような口ぶりで、しかし確かな賞賛を言いながら立ち上がる"黒豹"に、遠心力に攪拌されて若干ふらつく頭を振りながら皮肉で返す。いやしかし、装甲に傷1つ見えないか。本当に効いているのかどうか、判断が難しい。流石に効いている、と思いたいところであるが。

 

「まぁいい。良い機会なんでな、暫く付き合ってもらうぞ"黒豹"」

 

 さて。果たしてここからどのように攻めたものか。

 




 どうも、ディズニー+で昔VHSが擦り切れるまで見たお気に入りを見つけてはしゃいでヘビロテしている作者のGeorge Gregoryです。『ティモンとプンバァ』シリーズと『三人の騎士』は特に未だに諳んじられるレベル。

 AICとワイヤーブレードとか『やれ』と言っているようにしか見えなかった、と供述しており(ry

 多分あと1~2話他の視点を挟んで、でようやく次に進めます。目標、臨海学校編は今年中。……守れるといいなぁ。

 では、また近い内にお会い出来ることを願って。

 いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。

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