ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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『What if…?』面白すぎんか。


Ramping Up Ⅹ

――――Passive Inertial Canceller。略称"PIC"。ISを『史上最強の兵器』たらしめていた大きなピースの1つ。

 

 正式名称は、なんだっけ、舌を噛みそうな名前だったのは覚えてるんだけど。どういうものかってのは単純。機体にかかっている全ての慣性を相殺して、スラスターによる推進力をより純粋に伝えるためのもの。ISがあの巨体でとんでもない敏捷性を誇っているのは、"PIC(コレ)"があってこそ。けどね、一口に"PIC"って言っても、使い方がイロイロあるのよ。

 

 例えば、一夏の乗ってた"白式"は生粋の機動力特化。だからスラスターの出力のロスをほんの少しでも減らすために、物凄い高性能な自動計算ソフトが搭載されてたのよ。確か、平均90%前後。ほぼ空気抵抗だけで『限りなく理論値に近かった』んですって。……ピンときてないみたいだけど、当時でこの数値は凄いことだったのよ?

 

 他の機体でも大体同じ。スラスター制動に関わる"PIC"の運用は計算ソフトに頼った自動運転(オートマ)が一般的だった。そりゃそーよね。いくらインターフェースで手動運転(マニュアル)にした方がより理論値に近づけられるったって、そんな緻密な計算を戦闘と並行してやれるヤツなんて、今も昔も()()()くらいのものじゃない? あ、千冬さんとかは例外ね。あの人らは皆、全部感覚でやってるから。

 

 とにかく、"PIC"の運用なんてのは機械に任せるのが当たり前、って話よ。機体の質量と高度による位置エネルギーなんかはある程度の法則性があるとして、面倒なのは気象条件よ。風量、風向、温湿度。大気中の粉塵量や、混じってる色んな気体(ガス)の濃度。ISのセンサーには各種計器も入ってるから、測定はできるわよ? でもね、そこから全部計算して、360度全方向にどういう風に割り振ればキレイに釣り合うか、なんてとこまでフツーはやらない、っていうかできないのよ。人間離れもいいとこ。

 

 で、それは武器に運用してたって同じ。むしろこっちにこそ自動運転(オートマ)が本領を発揮する。

 

 例えば、"甲龍(シェンロン)"の頃からずっとアタシの機体に使われてる"衝撃砲"。あれ、ものすご~くカンタンに説明すると、本来は機体に加わる慣性の相殺、つまりベクトルの『発散』をしている"PIC"を真逆に稼働させてるの。周辺の空間に渦巻き状に『凝縮』のベクトルを加えて、ギチギチになるまで圧縮した空気の塊に、指向性を与えて解放してるのよ。

 

 こんな風に、武器に応用する場合だと、イチイチ複雑な計算をする必要がないのよ。何せ武器の重量も、発生する反動も、何から何まで予め全部解ってるから。で、"Schwarzer Regen(レーゲン)"のレールカノンにも単独で"PIC"が搭載されてたのよ。あれだけの大口径だもの。反動を殺さなかったら、どれだけのGがかかるか。あの頃から()()を当たり前に我慢できちゃってたんだから、ラウラってやっぱりフツーじゃないのよね。あぁ、勿論いい意味で、よ?

 

 で、ここからがちょっと専門的になるんだけど。アンタ、物理は得意? 同じ空間領域に複数のベクトルが発生した場合、要するに力場の相互干渉について……あー、チンプンカンプンって顔ね。まぁ要するに、『高機動状態(メチャクチャ速い時)のISで"PIC"搭載の武器を使った場合の機体のバランス』の話。今回は、"Schwarzer Regen(レーゲン)"がレールカノンを使った場合ね。

 

 これもさ、やっぱり自分で計算して制御するようなものじゃないのよ。想像してみなさいな。衝撃のレベルで言うなら、全速力の新幹線同士が激突してるようなもんよ? 下手すりゃ命だって危ういものを、()()()()()()な脳内計算に任せられる? アタシなら、とてもじゃないけど無理。で、"Schwarzer Regen(レーゲン)"のレールカノンも例に漏れず、"PIC"ごと自動運転(オートマ)だったワケ。

 

 それで、ここからが本題なんだけど。

 

 "Schwarzer Regen(レーゲン)"の主武装(メイン)はさ、"AIC"なのよ。で、ラウラ本人からも聞いたんだけど、"AIC"って物凄くSE使うんだって。()()()()、優先順位があったのよ。何の、って? エネルギー配分のよ。"Schwarzer Regen(レーゲン)"のシステムは常に"AIC"の制御・稼働にリソースの殆どを確保してたの。いつでも全開で使えるようにね。レールカノンの射撃機構の制御は全然複雑じゃあないし、他は近接武装しか積んでないし。

 

 ()()()()()、だと思うんだけど――――

 

 

 

 

「――――アレ撃つ時、止まるのよ、ラウラ。って言ってもほんの一瞬なんだけど」

 

 膝を抱えたまま話す(リン)の様子を見て、どうやら少しずついつもの調子が戻ってきたみたいだな、と一夏は思った。

 

「多分、いつでも"AIC"を使えるようにしてるせいで、他の自動運転(オートマ)制御が少し()()()()になってるんだと思う。そういう風に組み直すか手動運転(マニュアル)でなら、一切停止したり脚の銃架(アンカー)を使わずにレールカノンを連射することも出来るハズ」

 

 "黒豹(せんせい)"に負けてから暫く体育座りのまま静かだったのだけれど、気付けばいつの間にか、ちゃんと皆の仕合を見ていた。配られてた飲み物を持って行って隣に座ると、黙って受け取って飲みながら、ラウラについて思うところがあったようで、ぽつぽつと話し始めた。

 

「普段の模擬戦闘でアタシがどうにかラウラに食いついていけたのは、その一瞬を狙って攻撃してたから。"衝撃砲"は空気の塊だから、"AIC"でも()()()()()ってのもあると思う。殆ど勘で当ててるから、命中率は低いけど。後、ね。これ、多分なんだけど」

「多分、なんだ?」

「ラウラ、空中戦を避けてるのよ。それも無自覚で」

「え?」

 

 なんでだ、と言外に目で訴えかけると、鈴はどこか躊躇いがちに続ける。

 

「この仕合見てて確信した。思い返してみなさい。普段の模擬戦でも、タッグマッチトーナメントの時も、ラウラが自分から空中戦を仕掛けてきた覚えがないのよ。今だって、あの()()()()()の攻撃、少なくとも飛び上がれば多少回避が楽になるのに、一切そんな素振りすら見せない。頑なに地上で相手し続けてる」

「言わ、れてみれば」

「そりゃあ軍人なんだから地上戦の方が()()()()ってのもあるだろうし、警戒しなきゃいけない角度が半分減るって利点もある。"黒豹(あのひと)"のことだもの、空中でだって同じように1人で包囲網敷くくらい、なんてことないだろうし。

 けど、レールカノンは最初(ハナ)から当てられないからと切り捨てているにしたって、もう少し距離をとっていい。少なくともあんなに接近を許してたら、いつまでも背後にあの()()()()()を放られ続けるだけ」

 

 確かに、と思う。あの小型ロボットたちは地面に落ちてから認識した相手へ向かって真っ直ぐに歩いていく。一定の距離になると背中についたブースターで突撃してくるみたいなので、それなりに高度を保てれば対応に使える猶予も多少は稼げるハズだ。

 

「で、あの子の過去のこと、思い出した。あの子、多分まだ怖いのよ」

「怖い? 何が?」

「"PIC"で空中に浮いてる時の感覚ってさ、何かにぶら下がってる時みたいな感覚とも、水面で漂っている時みたいな感覚とも、違うじゃない」

「おぅ」

 

 嘗ての宇宙飛行士は深いプールの底で、とことんまで計算し尽くされた専用のスーツを着て無重力環境の訓練をしていたそうだが、"PIC"が世に出回ってからはそれも()()()と変わったという。"PIC"を利用した疑似的な無重力環境は、実際に宇宙を体験した皆が絶賛するほどであったそうだ。当然ながら自分たちは地上でしか使ったことがないので、景観を頼りに天地の正しい方向を認識できるけれど、これが果たして、果ての見えない宇宙空間であったならどうだろう。想像すると少し、怖くなってしまう。

 

「アタシさ、アンタから話を聞いた後、ちょっと試してみたことあるんだよね」

「何をだ?」

「片目をつぶったままで普通の生活が出来るかどうか」

 

 そこでようやく、鈴の言う『ラウラが何を恐れているか』を理解して、言葉を失った。何せ自分も、ドイツにいた頃に試してみたことがあるのだ。

 

「びっくりするくらい距離感狂うのよね。正しく手を伸ばしたつもりでも届かなかったりズレてる。目をつぶってる側は当然見えないからよくぶつけるし、そっちを見る為にはイチイチ顔を向けなきゃならないし、それでも見えない角度がある。半分見えないってだけで、あんなに不便なものとは思わなかった。アレで更に浮遊感とか、不安定さとか、()()()()()まであったらさ、気持ち悪くて堪らないと思う」

 

 だからなるべく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、もっと言うなら。

 

「アンタの隣や膝にあの子が()()()()()のは、そこがあの子がイチバン安心できる場所だからじゃないのか、って」

 

 言われて、自分もふと思い当たる。ラウラが自分に体重を預けるのはいつも()()()()、つまりあの子の『死角』だ。

 

「"黒豹(あのひと)"、多分そこまで気付いてて、ワザワザ『地上から跳んで襲い掛かってくる武器』を選んだんじゃない? ホント、()()()()してる。あぁも的確に()()()()()()()()をされると、イヤでも自分の課題が見えてくるもの。まぁ、ラウラはラウラで、全然違うけど面白い回答をしてるけどね」

 

 ざまぁみろ、なんて小さく呟きながら皮肉げな笑みを浮かべる鈴の言う通り、今、目の前で繰り広げられている()()()()()は随分と"黒豹(せんせい)"の想定を外れているようだ。それが証拠に"黒豹(せんせい)"はさっきからずっと『愉快だ』と言わんばかりに仮面越しでもハッキリ聞こえるくらいの大笑いをしているし、段々とその動きも()()()()()()()()。段々()調()()になっていっているというか、()()()をしている余裕もなくなってきたってことなんだろう。それを素直に羨ましいと思う自分と、少し妬ましいと思う自分とが、心の中でせめぎ合っていた。

 

「ハハハッ、そろそろ"Glove of Doom(アクマングラブ)"じゃ追いつけなくなってきたかッ。それじゃあ違う手札を切らせてもらおうかなァッ」

「上、等だッ!! 来いッ!!」

 

 今度は横に広く弧を描くようにしながらワイヤーブレードで小型ロボットを薙ぎ払うラウラ。砕けそうなくらいに歯を食いしばっているその表情は意気軒高なようで、今になって改めて見ると、どこか『油断すると溢れ返ってしまいそうなものを堪えている』ようだとも思えた。

 

「『引っ張られてる』ってことは、『繋がってる』って証拠だもの。『浮いてる』よりずっと安心できるってことなんでしょ。前々からそんな気はしてたけど、ラウラって結構脳筋なとこ、あるわよね」

「あぁ、まぁ、うん」

 

 ラウラが、というか"黒兎隊"全員が割と()()()()()()あると思う、というのは伏せておく。『レベルを上げて物理で殴る』というか『真っすぐ行ってぶっとばす』というか。まぁ、今のところ唯一の教官が"戦乙女(うちのあね)"だしな、なんて考えたところで背中に刺し貫かんばかりの鋭い殺気を感じて誤魔化すように大きく咳払いをし、鈴に怪訝そうな目で見上げられた。

 

 気を取り直して。果たしてこの仕合の結果はどうなるだろうか。仕合時間はそろそろ3分といった頃合い。この勢いのまま尻上がりに調子が出ているラウラが押し切るか。それとも先生がまた強くて面白い武器を見せてくれるのか。誰もがその趨勢を見届けたい、見逃すまいと夢中になっていた、その時だった。

 

 

「――――中止ッ!! 仕合中止ッ!! 全員その場を動かないようにッ!!」

 

 

 千冬姉のいつも以上に張り詰めた声が、空を衝かんばかりにビリビリと大気を震わせたのは。

 

 




 補足説明

・“アクマングラブ(Glove of Doom)”(初出:『1』)
 地面に向けて投げると、着弾した場所でアクマン(Gadgetron)という二足歩行の小型ロボットへと変形、近くの相手に向かって突撃していくグローブ型ガラメカ。アップグレードする毎にドンドコスペックが上がっていき、両肩にブラスターが搭載されたり、ブースターでエネルギーが切れるまで飛行することが出来たりするようになる。以前作中に出した『ガジェボット』とはまたちょっと違うので注意。

 どうも、日に日に仕事明けの爆睡が長くなってる気がする作者のGeorge Gregoryです。実家にいた頃、休日の両親が昼まで寝てた理由がよく解るようになってしまったなぁ……

 はい。というワケでラウラの場合は『最適解を無意識の内に除外していた』というものでした。実は過去の戦闘シーン、といっても数回しかありませんが、そこでもラウラは一切自ら飛んでおりません。伏線を挟む為にももう少し描いておいても良かったかな、と思いはしたんですが、なかなか挟むタイミングが見つからず。無念。もっとフラグ管理が上手くなりたい。

 さて、ようやくこのシーンであります。年内に終わるといいなぁ……年度内になっちゃうかなぁ……

 では、また近い内にお会い出来ることを願って。

 いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。
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