ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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久し振りのハイペース更新に作者自身がイチバン驚いている。


Like The Wind Ⅲ

「そういうワケだから、今からアンタたちに超特急で超音速飛行についての知識を叩き込むわよ」

「あまり時間もありませんので、一言一句聞き逃さない積りで。よろしいですわね?」

「「は、はい」」

 

 いつものように腕組みをした鈴と、ピンと人差し指を立てたセシリアの前、揃って自然と正座をしながら私と一夏は耳を傾けていた。

 

「まず、先程の会話にも出てきた超高感度ハイパーセンサーについて。簡単に注意点を説明しますと、まず、使った際に時間の流れを遅く感じるようになります。決して慌てないよう、落ち着いて使用して下さい」

「センサーの感度が高い分、入ってくる情報量が桁違いに増えてる影響ね。これに関しては個人差があるけど、強烈に感じるのは本当に最初だけだから、直ぐに慣れるわ。というか慣れなさい」

「慣れなさいってお前、もうちょっとこうコツみたいなものは」

「慣れろ」

「はい」

 

 正規の手順を踏んだ代表候補生。このような非常事態への心構えもしっかりとしてきただろうに、本人の実力の埒外で作戦から外され、その上殆ど素人に毛が生えたような程度の私たちに任せなければならないこと、歯痒く思っているだろうに、そんな素振りを一切見せない。私が逆の立場だったとしたらどうだろう。こうも冷静でいられるだろうか。正直、まるでそんな自信がない。

 

「他に注意するべきはスラスター残量だ。一夏(アイン)瞬時加速(イグニッションブースト)を多用する癖があるから特に気をつけろ。遅く感じている分だけ、スラスターのエネルギーの減りも速い、ということだからな」

「倍以上は速く減る、くらいに思っていた方がいいよ。今回の作戦上、"零落白夜"が使えないことにはお話にならないから、余程のことがない限り、攻撃以外に一切エネルギーは使わないくらいの積りでいて。いい?」

「お、おぅ。わかった」

 

 鈴とセシリアだけでなく、ラウラとデュノアもまた、少しでも私たちが解り易いよう、なるだけ嚙み砕いた表現で教えてくれる。恥ずかしい話、まだまだ理論を学ぶよりも実践で覚えた方が速いと感じている私には、とてもありがたかった。

 

「後は、通常時よりも相対的な速度が上がっていますから、射撃武器のダメージがそれだけ大きくなります。当たり所が悪いとそれだけで"強制解除"の可能性も無きにしも非ず、なので下手に防ぐくらいなら回避して下さい」

「本当なら応急で突撃用のシールドとか持たせたいとこだけど、あの"雪片弐型(ゆきひら)"を片手で振り回すのは難しいだろうしね……そもそも今持ってるだけで容量パンパンなんだっけ?」

「あぁ。改めて調べてもらったんだけど、やっぱ"零落白夜"の影響がデカいらしくて」

 

 "紅椿(あかつばき)"は既に姉さんに渡している。今、簪と一緒に調整中だ。「いよぅしバイトクン、手伝いたまへ」なんて軽いノリの姉さんにいきなり肩を組まれ連れていかれたものだからどういうことかと聞いてみれば、ここ数ヶ月程、姉さんとカデンソンさんが密かに経営している会社でアルバイトをしていたんだとか。非常に興味を惹かれる話ではあったが、流石に今それを聞くのは憚られたので、この事態が落ち着いたら真っ先に訊くことにしようと心のメモに書き記しておく。

 

 というか、誰よりも話を聞きたいのは山田先生だろう。千冬さんがいなくなったことでこの場における指揮権が移動。各種準備のあれやこれやに追われる中で自由奔放やりたい放題な人間台風の到来で既に涙目。山田ダムは決壊寸前。本当にウチの姉がすみませんとしか言い様がなく。

 

「"白式"のエネルギーは満タンにしてあるだろうな?」

「おぅ。チャージのし忘れもない。体調も万全だ」

「今の内に何かお腹に入れておいた方がいいね。これ、常温のゼリー飲料。普段から多めに持ち歩いてるから、何本か分けたげるよ」

「助かる。箒、お前もどれか貰っとけよ」

「あ、あぁ」

 

 その千冬さんはといえば、既にカデンソンさんと"おしゃべり宇宙船(アフィリオン)"でニューヨークへと出発された。

 

『高度計、ブースター、ワープドライブ、全部問題な~し♪』

「おい待て。今、ワープとか聞こえたような気が」

「おや何のことだか。ラジオでもつけましょうか。ここをこう―――あれ、このツマミは飛び出しちゃダメなんじゃなかった?」

『ワタシは気にしないヨ?』

「おいッ!?」

 

 なんて呑気な会話の直後、まるで流星のような凄まじい速さで、光の尾を引きながら東の空へ飛んでいくのを全員で、唖然とした顔で見送った。発進の寸前、ほんの微かにドップラーな感じで随分と甲高い悲鳴、のようなものと思われる声が聞こえた気がしたが、うん、気のせいだろう。多分。きっと。

 

「ちょっと箒、ちゃんと聞いてる?」

「大丈夫だ、問題ない。なんとなくだが、感覚は掴めてきた」

「ならいいけど。しっかりしなさいよ? アンタがちゃんと飛べないと、それだけ一夏が危なくなるんだからね?」

「……あぁ、解っている」

 

 今の私には浮かれている余裕なんてない。「"紅椿(あかつばき)"ならダイジョーブ。そんじょそこらのマメデッポーじゃキズ1つつかないヨ☆」と姉さんは言う。あの人がそう言うのなら、本当にそうなのだろう。"紅椿(わたし)"は大丈夫なのだろう。

 

 タッグマッチトーナメントの日の出来事は、未だに夢に見る。はっきりと全貌を覚えているワケではないが、それでも強烈に思い出せるものが確かにある。腕から血を流し蹲る一夏と、その一夏に向かって大太刀を大きく振りかぶった黒い"暮桜"の姿。あれを夢に見たり思い出す度に、今でもすぅっと血の気が引いていく。

 

 私がしくじれば、また、あのような思いを。そんなのは御免だ。絶対に、絶対に御免だ。

 

 姉さんが『仕事』と口にした以上、機体は必ず十全な状態で返ってくる。であるならば、何かが起こってしまうとすれば、何かを起こしてしまうとすれば、その原因は。

 

 あぁ、なんて。

 

「重いな」

「ん? 何? まだ何か質問?」

「いや。責任重大だな、と改めて自分に言い聞かせたんだ」

「ん、ん~、ちゃんと受け止めてるのはいいけど、あまり重く受け止めすぎて圧し潰されちゃってもアレだし、もう少しくらい気楽に考えても……って、そんな器用な真似が出来るタイプじゃないか、篠ノ之箒(アンタ)は」

 

 ふぅ、と嘆息を1つして、仕方がないなという表情で私に視線の高さを合わせるように屈む鈴。そして。

 

「それならいっそ、思いっきり重く受け止めちゃいなさい。その方が無理やりにでも決まるでしょ、覚悟。一夏のこと、()()()()()()

「この程度のことしかしてさしあげられない、この身の不肖がもどかしくて堪りませんわ。必ず目的を達して、生きて帰ってきて下さいませ、箒さん」

「お前に尽くせる最善を尽くせ。その上でダメであったというのなら、誰もお前を責めはしない。いや、責めさせはしない」

「その励まし方はちょっとズレてないかな……でも、自分のベストを、ってことには僕も賛成。難しく考えなくていいんだよ篠ノ之さん。真剣に受け止めることと、重く受け止めることは違うからね」

「なんだよ皆。俺には何もなしか?」

「アンタはいつもとやること大して変わんないでしょうが。むしろ先走らないよう気をつけなさい」

「ひっでぇ」

 

 そして、いつもの笑いが起こった。いつもの、アリーナでの戦闘訓練を終えた後の反省会の時のような、屈託のない笑いが。それでようやく、ほんの少しだけ息苦しさが緩んだような気がして、私も少しだけ、声を漏らして笑った。

 

 

 

 

 何度見ても思う。次元が違う、と。

 

「い~い? 1回しかやんないから、両の目かっぴらいてよ~く見てるよ~に」

 

 私を強引に拉致った(といっても部屋から出てもいなければ皆から大して離れてもいないのだけれど)篠ノ之博士はまず、指をパチリと鳴らした。すると彼女の周囲に光の粒子がどこからともなく舞い上がり、見た目もサイズもISの腕部装甲のようなものが左右2対の計4機発生し、箒から預かった"紅椿(あかつばき)"の待機形態である真紅の組み紐を、まるで大事な宝物のように包み込んだ。このアームはISではなく、作業を効率化させる為に作った、博士の隠れ家(アジト)のアーカイブに直接アクセス出来る端末なんだと、以前聞いた事がある。

 

 すると空中に沢山の半透明なウインドウが出現し、先程まで立体投影装置でもそうしていたように、"紅椿(あかつばき)"のスペックデータがびっしりと表示された。

 

 そしてそこから、博士が宣言した通り、僅か5分足らずの出来事だった。

 

 背部・脚部・腕部の"展開装甲"の全てを推進力特化に調整、その他は支援攻撃形態へと移行。計算上到達可能な最高速度は本来のスペックの2.25倍。ただの調整のみでこれだけの変化は流石の第4世代機だけれど、私が驚いているのはそこだけではなく。

 

 ISの調整作業というのは、要するに出力数値の再設定による最適化である。具体的に例えるなら、自動車でいうハンドルや各種ペダルの感度、座席の反発力や寸法、シートベルトの締め加減に至るまで、とことん『操縦者(パイロット)が心地好いと感じる数値』に近づけていく作業、と言っていい。調()べて()える、と文字にもあるように、本来であれば何度も何度も試乗を重ね、少しずつ擦り合わせていくものだ。

 

 だのに、それをこの人は、まるで机の上に散らばった大量の書類を一気に搔っ攫い、軽くトントンと叩いて揃えていくように、ぱっと見は適当、ともすれば乱暴にしか見えないのに、いざ終わってみればちゃんとキレイに仕上がっているのだから、不思議でならない。あれだ、ルービックキューブ。あれのバラバラの6面を途轍もない速さで戻していく様子は、傍目には全く何をやっているのか解らなかったりする。彼女が『天才/天災』と呼ばれる所以の1つが、()()()()()()()なんだろうな、と改めて思う。

 

()()()()()()()()()()?」

 

 そう。私はこれらの数値を博士が何をどのように意図して設定していたのかが、読み取れていた、と思う。感覚的なものなのでどのように言い表せばいいのか、イマイチぼんやりとしているのだけれど、強いて言うのであれば、これらの数値が入力されていく様は見ていてとても()()()()()()ものだった。こう、数学の問題を解く為に次々と並べられていく数式というか、凹凸だらけの泥団子がキレイな球に磨き上げられていく様子というか、そんな感覚に近かった。

 

「私はね、いっつも色で決めてるんだ~」

「色、ですか」

「そ。その人にイチバン似合うような色とバランスを直接見て決めてるの。例えば、今日の箒ちゃんはちょ~っちナーバスだから、(タマ)アゲな赤をメインにして、黄色を差して集中力増強と、リフレッシュ効果の白も使ってみました~♪」

 

 言葉だけでは全くの意味不明。けれど、目の前に数値を並べられてだと、言わんとしていることがなんとなく伝わってくる。きっと、箒の精神状態がもっと良かったなら、あるいはその日の食事内容や身体の調子がほんのちょっぴりでも違っていたなら、きっとこれとはまた違う数値になっていたのだろう。それが細部のみであるのか、はたまた根本的にガラッと変わってしまうのかは、いざその時になってみないと博士自身にも『見えない』、ということらしい。もし叶うのなら、それを見てみたいと強く思う自分がいる。

 

「焦らなくてもその内できるよーになるよ。だって、今の見て思うところがあったんデショ? なら、後はジャンジャンバリバリ回数こなせばいーだけさね」

「……博士。どうして私なんかに、ワザワザここまで」

「面白いから」

 

 それは実に単純で、同時にとても()()()理由だと思った。

 

「まだまだ100点じゃあないけれど、60~80点くらいカナ、合格点をあげてもいいくらいの回答が毎度ちゃんと返ってくるんだもん。最初にあっくんが『学園に行く』って言い出した時は正直『ムダなんじゃね?』って思ってたんだけど、や、ホントに世の中まだまだ捨てたもんじゃなかったんダネー、ハンセーハンセー。テヘペロリ」

 

 何故だろうか。博士はとてもにこやかな笑顔で言っているのに、一瞬、ゾクッと背筋が震え上がった。今の言葉にはこう、「実はさっきまで一歩でも道を逸れていたら()()()()()()()()だった地雷原を通り過ぎていたんだよ」と後から教えられたような、そんな()()()()()があった。

 

 解ってはいた。解ってはいたけれど、改めて痛感する。篠ノ之博士(このひと)は本物の“劇薬”だ。扱いには細心の注意が必要で、起こす化学変化は常に強烈で、周囲への影響だって甚大だ。

 

 だからこそ、これ以上は止めておけと警鐘を鳴らす自分と、試さずにはいられないと声高に叫ぶ自分とが、いつも心の中にいる。

 

 そして困ったことに、後者の方が声がずっと大きい。理性は明らかに前者だと解っているのに後者の声がいつだって私の心を強く揺さぶり、がっしりと掴んで離さないのだ。

 

 この衝動が酷く歪んだ感情から来ているものだという自覚はある。けれど彼女と関わるようになったこの数ヶ月で、知識も技術も、確かに向上しているという実感があるのだ。今までは全く見えないし解らなかった、自分の『伸びしろ』を感じるのだ。

 

 それに、何よりも、どんな形であれ、どんな意図があるにせよ、こんな自分なんかの力を認め、必要としてくれるばかりか、恐れ多くも『期待』までしてくれているという。この心地好さの、なんと甘露なことか。なんとも離れ難くて、抗い難くて、酷い勘違いをしてしまいそうになる度に、何度も何度も自分を戒めてきた。『まだまだだ』『調子に乗るな』と。

 

「ほんじゃまそろそろ時間だし、各員位置につけェイッ!! ヤロー共ォッ、これより作戦名『銀星号(Silver Blaze)』、始めッゾォッ!!」

「え、ちょ、何で博士が仕切って―――織斑先生ェッ!! やっぱり私には無理ですよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 

 

――――けれどこの日、この夜、私は思い知ることになる。博士が言っていた通り、『時間は待ってはくれないのだ』と。

 

 

 




 どうも、本格的に食事を高たんぱく低糖質に統一し始めた作者のGeorge Gregoryです。鶏むね肉とキノコは強い味方。

 次回からいよいよ本番。さ~て、どうなることやら……特に書くことも思い浮かばないので、今回の後書きはこの辺にて。この波が続いている内にさっさと次の更新の纏め作業に入ります(`・ω・´)ゞ

 では、また近い内にお会い出来ることを願って。

 いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。
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