ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
全人類キムタクで遊ぼうぜ。
……では本編どうぞ。
「―――時間だ。行こう、箒」
「あぁ」
現時刻は午後4時。まだ太陽は西へと傾き始めたばかりで、未だ燦燦と容赦なく7月の陽光が降り注いでいる中、俺と箒は砂浜で、少しばかり距離を取って並んで立ち、時間が来たことを確認して互いを見合って、頷いた。
「来い、"白式"」
「行くぞ、"紅椿"」
起動コードを告げ、身体が光に包まれると同時、PICによる浮遊感と、パワーアシストによる力の充足感とで、全身の感覚が変化する。RPGのレベルアップとか、きっとこんな感じなんだろうな、と毎回思う。
「大丈夫か、箒」
「あぁ、大丈夫だ。基本的な感覚は"打鉄"の時と似た感じになるように調整してくれたらしい」
マジか。流石は束さんというか、なんというか。
『お、織斑くん、篠ノ之さん、聞こえますか?』
「はい、ちゃんと聞こえてます」
「私も同じく」
『今回の作戦はあくまで
『にゃにお~うッ!? この大天才束様がそんな初歩的なミスするわきゃねーだろがこのスイカップめェッ!!』
『ひゃあッ!? し、篠ノ之博士、そんな、胸を揉まないでッ』
「……束さん」
「…………」
毅然と指示を出そうとしていた山田先生の声が、一気に色っぽく
『と、とにかく、気を付けて、どうか無事に、帰ってきて下
『ほいでは諸君、グッドラックライラックッ!!』
「……ウッス。行こうぜ、箒」
「あ、あぁ、しっかり捕まっていろよ」
それだけ聞き届けると
(う、おッ!?)
あまりに咄嗟のこと過ぎて、声すら出なかった。"紅椿"は凄まじい速度で一瞬にして上空300mまで飛翔してみせたのだ。この速度は
「……よし、情報照合完了。"福音"の現在位置を確認。一夏、行くぞ」
「お、おう」
箒がそう言うや否や、"紅椿"は"展開装甲"の名に相応しく、まるで着物の袖や裾をはためかせるように装甲を展開、見るからに高密度のエネルギー噴射を始めた。言われてみれば確かに、その変形の様子が"雪片弐型"の刀身が"零落白夜"を発動する時のに似ている気がする。
それにしても速い。俺がようやく慣れてきた"白式"のスラスター全開の時よりもずっと速い。空も、海も、大して変わり映えのしないハズの景色を、物凄い勢いで
「―――見えたぞッ!!」
「ッ」
その鋭い声で我に返る。本来ならまだずっと先、精々が小さな粒くらいにしか見えないハズの機影を、ハイパーセンサーによって強化された視覚がまるで至近距離まで近づいたかのように明確に捉えていた。
"銀"を名に冠するに相応しく、全身が鏡面のように艶やかな銀色の装甲をしており、頭部から生えるように伸びる1対の巨大な翼が特徴的なデザインをしている。事前に見せてもらった資料によれば、
「加速するぞッ。接敵は10秒後だッ、集中しろッ!!」
「おうッ!!」
"紅椿"が更にスラスターと展開装甲の出力を上げる度に、"福音"との距離がぐんぐんと縮まっていく。背中が近づくにつれ、"
(7、8、9――――今ッ!!)
めいっぱいに吸い込んで呼吸を止め、"紅椿"の背中を蹴るようにして
「ッ」
グルン、と。恐ろしいことに、"福音"は最高速度を保ったままでこちらを振り向いた。口元以外全部を覆っている
(どうするッ!? 一度退いて仕切り直しを――――いや、このまま押し切るッ!!)
高感度ハイパーセンサーによって思考回路が加速していなければ、この一瞬だけでも致命傷だったろう。歯を食いしばって怯みそうになった心を奮い立て、勢いのままに叩き込もうとして―――
《―――敵機確認 迎撃形態へ移行 "
結果として、"零落白夜"は空を切った。その翼を僅かに傾け、数ミリの精度で俺の白刃を躱してみせた"福音"は、そんな平淡な機械音声と共に更なる加速を始める。あぁ、これか。この翼がハワイ沖から数時間に渡っての超音速飛行を可能にしていたのか。
「箒ッ、押してくれッ!!」
「解ったッ!!」
この機を逃したら二度と届かない気がして、少し焦り気味に箒に指示を飛ばす。俺の両脚を肩に乗せるようにした"紅椿"の加速を受けながら追撃を試みるが、ひらりひらりと、川面に突っ込まれる網をすり抜けていく魚のように、子どもが振り回す棒きれと戯れる木の葉のように、
「ち、く、しょ」
不味い。
眼前、まるで見せびらかすように、銀色の両翼が大きく広げられた。実際に大型の鳥類がそうしているかのようなシルエットから、高密度まで圧縮された『羽』の形をした光弾が幾重にも放たれる。食らう訳にはいかないと"雪片弐型"で薙ぎ払った瞬間、強烈に爆ぜて視界を紅焔が覆った。そこでようやく、『広域射撃』の意味するところを理解した。
(これがッ、"
爆炎を突き抜けた先で、既に第2射が放たれている。しかも第1射と遜色がないどころか、更に増している気さえする。この弾幕密度で、この連射速度。成程、正しく『広域殲滅目的の軍用機』である。
「箒ッ!!
「了解だッ!!」
纏まっていたら一気にやられる。そう判断して二面作戦に出る。襲い来る銀色の嵐をどうにかこうにか搔い潜りながら左右からの挟撃。けれど、それもやはりかすりもしない。この超音速下で、まるで燕のように生々しく動きやがる。本当に暴走してんのかコイツ。
「一夏ッ!! 私が惹きつけて動きを止めるッ!!」
「解ったッ!!」
箒が2振りの近接ブレードで突撃と斬撃を織り交ぜながら果敢に攻め立てる。しかもそれに呼応するように腕部装甲が展開、そこから発生させたエネルギーブレードの射出までしながらの自在な方向転換と急加速での猛攻に、さしもの"福音"も防御姿勢を取らざるを得なくなり始めたようだ。"
《―――La♪》
歌うように軽やかな甲高い機械音声と共に、"福音"がその翼を全開にする。数にして36の砲門を全方位に向けたその姿は、その白銀の輝きも相まって真昼の月のようだと、ほんの一瞬見惚れてしまった。
「させんッ!!」
爆ぜる雨の中を、紅が舞う。まるでそんなじゃない正反対の状況なのに、何故か俺には季節を惚けて狂い咲いた桜吹雪の中、怒りを鎮める為に紅装束の巫女が舞っているようだと、そう思えた。
そう、何故か俺には"
――――今この時になってようやく、
「なッ、一夏ッ!?」
(あ、れ)
俺は、何をやっているんだ? なんで俺は、ようやく"
いや、理由は解ってるんだ。
落ちていく最中、強化された視界が捉えた情報を、加速した思考回路が咀嚼する。小型の漁船。間抜けな顔でこちらを見上げる髭面の男数人。教員部隊によって封鎖された海域。結論。密漁船。
何をやってんだバカ野郎。放っておけばいい。けれど。
『助けを求めてる人がいて、助けられる力があったら―――』
「ッ、届けぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!!」
吠えた。多分、今までの人生でこんなに出したことないってくらいの大声で吠えた。
海面まで残り僅か。このままでは漁船にも激突する。微かに軌道を曲げ、海面すれすれで
振るった白刃は呆気なく光弾を掻き消し、擦れ違い様に見下ろした船上では腰を抜かした密漁者たちが情けなく歪んだ顔で俺を見上げていた。彼らが無事なのを確認して、そこでようやく『ふざけんじゃねぇ』という怒りが勝ってきて、こんな状況じゃなけりゃあ船ごとひっくり返してやろうか、なんて乱暴な考えが頭をよぎった。目先の問題が1つ解決して、ほんの微か、気が緩んでしまった。
だから、どうしようもなく、
「一夏ァああああああああああああああああああああああッ!!!!」
尋常じゃない悲痛な声に視線を空へと戻して、そこで始めて、密漁者たちが情けない顔で見上げていたのが
あの弾幕密度で、あの連射速度。そうだ。それだけあれば、
沈み始めた夕日の茜色を塗り潰す光、光、光。視界が酷くちかちかする。
だってのに、どうして追いかけて来ちゃったんだよ、箒。なんで俺を庇うように間に入って来ちゃってるんだよ。そんなとこにいたらお前も一緒に。
いや。俺のせいだな。お前はそういうヤツだって、優しいヤツだって、俺はよく知ってたのに。
現状を正確に理解した瞬間、自分でも驚くほど、心は凪いでいた。
(ゴメン、"白式")
真っ先に出たのは何故か、遺していく千冬姉でも、巻き込んでしまった箒でも、学園の皆でもなくて、こんな俺に最期まで付き合わせてしまう相棒への謝罪だった。
(でも、
《――――――――》
都合のいい妄想な気がしてならないのだけれど、それでも俺の耳、いや、心には、かな、「仕方ないな」と、そんな『誰か』の気持ちが流れ込んできたような、そんな気がした。
"
防ぐ。掻き消す。叩き切る。少しでも早く。1つでも多く。
振るう。振るう。ただひたすらに振るう。『
相殺しきれなかった衝撃が次々に襲い来る。骨が軋む。肉が焼ける。後ろから声が聞こえる気がするけれど、鳴り止まない爆音からの麻痺でまともに働いていない鼓膜じゃあ、もう何も聞こえていない。
もう、自分が上を向いているのか、下を向いているのかも判らなくなってきた。それでも強く光っている方へ剣を振るうことだけは止めない。
目なんてとっくに役に立っていないけれど、より眩しい方がどっちかくらいは判断できたので、それに従っていた。
にぎっていたものがきえたかんかくがした めのまえぜんぶがまっしろだ
あつい いたい くるしい
なんで おれ こんな
あぁ でも
おちていく おちていく ゆっくりとおちていく
おちて おちて ざぶんっておとがして つめたくなった
「――ッ!! ――ッ!!」
とまった びりびりする つよくだきしめられているかんじがする
「――ッ!! ――ッ!! ―――――――――ッ!!」
あぁ おれ しっぱいしちゃったけど それでも
「――――――――――――一夏ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
こいつのことは こいつのことだけは ちゃんとまもれたってことかな せんせぇ
どうも、作者のGeorge Gregoryです。
早く続き書きます。
では。