ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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新作発売の波に乗って色んな人が『JUDGE EYES』始めてくれてるの嬉しい。
全人類キムタクで遊ぼうぜ。


……では本編どうぞ。


Like The Wind Ⅳ

「―――時間だ。行こう、箒」

「あぁ」

 

 現時刻は午後4時。まだ太陽は西へと傾き始めたばかりで、未だ燦燦と容赦なく7月の陽光が降り注いでいる中、俺と箒は砂浜で、少しばかり距離を取って並んで立ち、時間が来たことを確認して互いを見合って、頷いた。

 

「来い、"白式"」

「行くぞ、"紅椿"」

 

 起動コードを告げ、身体が光に包まれると同時、PICによる浮遊感と、パワーアシストによる力の充足感とで、全身の感覚が変化する。RPGのレベルアップとか、きっとこんな感じなんだろうな、と毎回思う。

 

「大丈夫か、箒」

「あぁ、大丈夫だ。基本的な感覚は"打鉄"の時と似た感じになるように調整してくれたらしい」

 

 マジか。流石は束さんというか、なんというか。

 

『お、織斑くん、篠ノ之さん、聞こえますか?』

「はい、ちゃんと聞こえてます」

「私も同じく」

 

 開放回線(オープンチャンネル)から山田先生の声が聞こえたので、2人揃って返事をする。まだ少しどもったりはしているけれど、声の震えは大分収まっているし、普段の授業でも割とこんな感じだったりするので、さっきまでに比べればかなり落ち着けたみたいだ。

 

『今回の作戦はあくまで一撃必殺(One Approach One Down)です。あくまで短期決戦を心がけて下さい。特に篠ノ之さんは、現機体での実戦経験が皆無です。突然、何かしらのトラブルが発生しないとも限りませ』

『にゃにお~うッ!? この大天才束様がそんな初歩的なミスするわきゃねーだろがこのスイカップめェッ!!』

『ひゃあッ!? し、篠ノ之博士、そんな、胸を揉まないでッ』

「……束さん」

「…………」

 

 毅然と指示を出そうとしていた山田先生の声が、一気に色っぽく()()()()。何が起こっているか想像するのが容易過ぎて、俺は額に手をやりながら溜め息を吐き、箒は気まずそうに顔を顰めながら俯いた。

 

『と、とにかく、気を付けて、どうか無事に、帰ってきて下()()()ッ!?』

『ほいでは諸君、グッドラックライラックッ!!』

「……ウッス。行こうぜ、箒」

「あ、あぁ、しっかり捕まっていろよ」

 

 それだけ聞き届けると開放回線(オープンチャンネル)を切って、俯いている箒の肩を軽く叩き、背に乗るようにして捕まる。すると。

 

(う、おッ!?)

 

 あまりに咄嗟のこと過ぎて、声すら出なかった。"紅椿"は凄まじい速度で一瞬にして上空300mまで飛翔してみせたのだ。この速度は瞬時加速(イグニッションブースト)相当、あるいはそれ以上だ。"白式(オレ)"という荷物を抱えた上でこの速さか、と俺が驚いている内に、ものの数秒で高度500mまで到達、衛星と情報のリンクを開始していた。

 

「……よし、情報照合完了。"福音"の現在位置を確認。一夏、行くぞ」

「お、おう」

 

 箒がそう言うや否や、"紅椿"は"展開装甲"の名に相応しく、まるで着物の袖や裾をはためかせるように装甲を展開、見るからに高密度のエネルギー噴射を始めた。言われてみれば確かに、その変形の様子が"雪片弐型"の刀身が"零落白夜"を発動する時のに似ている気がする。

 

 それにしても速い。俺がようやく慣れてきた"白式"のスラスター全開の時よりもずっと速い。空も、海も、大して変わり映えのしないハズの景色を、物凄い勢いで()()()()にしているのが目に見えて解る。これで最大出力じゃないとか、なんかもう凄すぎて却って何も湧いて来ないな、などと軽く呆けている内に。

 

「―――見えたぞッ!!」

「ッ」

 

 その鋭い声で我に返る。本来ならまだずっと先、精々が小さな粒くらいにしか見えないハズの機影を、ハイパーセンサーによって強化された視覚がまるで至近距離まで近づいたかのように明確に捉えていた。

 

 "銀"を名に冠するに相応しく、全身が鏡面のように艶やかな銀色の装甲をしており、頭部から生えるように伸びる1対の巨大な翼が特徴的なデザインをしている。事前に見せてもらった資料によれば、(アレ)は大型スラスターと広域射撃を兼ねる特殊武装なんだそうだ。

 

「加速するぞッ。接敵は10秒後だッ、集中しろッ!!」

「おうッ!!」

 

 "紅椿"が更にスラスターと展開装甲の出力を上げる度に、"福音"との距離がぐんぐんと縮まっていく。背中が近づくにつれ、"雪片弐型(ゆきひら)"を握る手を強めながら、呼吸のタイミングを合わせていく。そして。

 

(7、8、9――――今ッ!!)

 

 めいっぱいに吸い込んで呼吸を止め、"紅椿"の背中を蹴るようにして瞬時加速(イグニッションブースト)。間合いを一気に詰めながら、いつものようにイチバン速度も精度も自信のある居合い抜きの構えを取る。視界の端、背中の方で真っ二つに割れた刀身が放つ"零落白夜"の白光を感じながら、胴一文字を放とうとした瞬間。

 

「ッ」

 

 グルン、と。恐ろしいことに、"福音"は最高速度を保ったままでこちらを振り向いた。口元以外全部を覆っている()()()()とした頭部装甲の顔が真っ直ぐに、確かに"白式()"を捉えていて、その口元はまるで力無く開いていることから操縦者(パイロット)の意識がないことは明らかなのに、『何か』が、いや、『誰か』が、襲い掛かろうとしている俺を、明確な敵意を籠めて睨みつけているように見えた。そういう風に見えてしまった。

 

(どうするッ!? 一度退いて仕切り直しを――――いや、このまま押し切るッ!!)

 

 高感度ハイパーセンサーによって思考回路が加速していなければ、この一瞬だけでも致命傷だったろう。歯を食いしばって怯みそうになった心を奮い立て、勢いのままに叩き込もうとして―――

 

 

 

《―――敵機確認 迎撃形態へ移行 "銀の鐘(Silver Bell)"発動》

 

 

 

 結果として、"零落白夜"は空を切った。その翼を僅かに傾け、数ミリの精度で俺の白刃を躱してみせた"福音"は、そんな平淡な機械音声と共に更なる加速を始める。あぁ、これか。この翼がハワイ沖から数時間に渡っての超音速飛行を可能にしていたのか。

 

「箒ッ、押してくれッ!!」

「解ったッ!!」

 

 この機を逃したら二度と届かない気がして、少し焦り気味に箒に指示を飛ばす。俺の両脚を肩に乗せるようにした"紅椿"の加速を受けながら追撃を試みるが、ひらりひらりと、川面に突っ込まれる網をすり抜けていく魚のように、子どもが振り回す棒きれと戯れる木の葉のように、()()()()()が届かない。あぁ、これは昼間の"黒豹(せんせい)"と"甲龍(リン)"のアレと同じだと、完全に見切られているんだと解ってしまった。

 

「ち、く、しょ」

 

 不味い。()()()()()()()()()()()()()()、といつもと違って発動させっぱなしの"零落白夜"によってSE残量が見る見る内に減っていく。高感度ハイパーセンサーの代償として、減りの速さがいつもよりもずっと早く、それが更に焦燥感を煽ってくる。その為につい大振り気味になってしまった一太刀、その隙を、見逃してくれるハズがなかった。

 

 眼前、まるで見せびらかすように、銀色の両翼が大きく広げられた。実際に大型の鳥類がそうしているかのようなシルエットから、高密度まで圧縮された『羽』の形をした光弾が幾重にも放たれる。食らう訳にはいかないと"雪片弐型"で薙ぎ払った瞬間、強烈に爆ぜて視界を紅焔が覆った。そこでようやく、『広域射撃』の意味するところを理解した。

 

(これがッ、"福音(コイツ)"の主武装(メイン)ッ!!)

 

 爆炎を突き抜けた先で、既に第2射が放たれている。しかも第1射と遜色がないどころか、更に増している気さえする。この弾幕密度で、この連射速度。成程、正しく『広域殲滅目的の軍用機』である。

 

「箒ッ!! ()ッ!!」

「了解だッ!!」

 

 纏まっていたら一気にやられる。そう判断して二面作戦に出る。襲い来る銀色の嵐をどうにかこうにか搔い潜りながら左右からの挟撃。けれど、それもやはりかすりもしない。この超音速下で、まるで燕のように生々しく動きやがる。本当に暴走してんのかコイツ。

 

「一夏ッ!! 私が惹きつけて動きを止めるッ!!」

「解ったッ!!」

 

 箒が2振りの近接ブレードで突撃と斬撃を織り交ぜながら果敢に攻め立てる。しかもそれに呼応するように腕部装甲が展開、そこから発生させたエネルギーブレードの射出までしながらの自在な方向転換と急加速での猛攻に、さしもの"福音"も防御姿勢を取らざるを得なくなり始めたようだ。"紅椿(こっち)"は"紅椿(こっち)"で大概だと思うけれど、これでようやく機会(チャンス)が生まれそうだ。そう思った直後。

 

《―――La♪》

 

 歌うように軽やかな甲高い機械音声と共に、"福音"がその翼を全開にする。数にして36の砲門を全方位に向けたその姿は、その白銀の輝きも相まって真昼の月のようだと、ほんの一瞬見惚れてしまった。

 

「させんッ!!」

 

 爆ぜる雨の中を、紅が舞う。まるでそんなじゃない正反対の状況なのに、何故か俺には季節を惚けて狂い咲いた桜吹雪の中、怒りを鎮める為に紅装束の巫女が舞っているようだと、そう思えた。

 

 そう、何故か俺には"福音(アイツ)"が酷く怒っているような、癇癪を起こしている幼い子どものような風に見えた気がして――――

 

 

 

 

――――今この時になってようやく、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「なッ、一夏ッ!?」

(あ、れ)

 

 俺は、何をやっているんだ? なんで俺は、ようやく"福音(ヤツ)"が隙を見せた絶好の機会に、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 いや、理由は解ってるんだ。()()()()()。丁寧に磨き上げられた白銀の装甲に反射する大海原の青に、ポツンと落とされた墨のような小さな小さな影。それを認識した瞬間、身体が勝手に動いていた。俺にも箒にも当たらず、海面で波飛沫を散らして終わりだろうと思っていた光弾が()()()()()()()()()と理解した瞬間、俺は一筋の矢のように、光の羽へと向かっていた。

 

 落ちていく最中、強化された視界が捉えた情報を、加速した思考回路が咀嚼する。小型の漁船。間抜けな顔でこちらを見上げる髭面の男数人。教員部隊によって封鎖された海域。結論。密漁船。

 

 何をやってんだバカ野郎。放っておけばいい。けれど。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『助けを求めてる人がいて、助けられる力があったら―――』

 

 

 

 

 

「ッ、届けぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!!」

 

 

 

 

 

 吠えた。多分、今までの人生でこんなに出したことないってくらいの大声で吠えた。

 

 海面まで残り僅か。このままでは漁船にも激突する。微かに軌道を曲げ、海面すれすれで()()()()ように光弾の側面へ。

 

 振るった白刃は呆気なく光弾を掻き消し、擦れ違い様に見下ろした船上では腰を抜かした密漁者たちが情けなく歪んだ顔で俺を見上げていた。彼らが無事なのを確認して、そこでようやく『ふざけんじゃねぇ』という怒りが勝ってきて、こんな状況じゃなけりゃあ船ごとひっくり返してやろうか、なんて乱暴な考えが頭をよぎった。目先の問題が1つ解決して、ほんの微か、気が緩んでしまった。

 

 

 

 

 だから、どうしようもなく、()()()

 

 

 

 

「一夏ァああああああああああああああああああああああッ!!!!」

 

 尋常じゃない悲痛な声に視線を空へと戻して、そこで始めて、密漁者たちが情けない顔で見上げていたのが()()()()()()()ということに、遅れて気が付いた。

 

 あの弾幕密度で、あの連射速度。そうだ。それだけあれば、()()()()()()()()、簡単に出来るに決まってるじゃあないか。

 

 沈み始めた夕日の茜色を塗り潰す光、光、光。視界が酷くちかちかする。()()()()()()()()()()()()と悟る。

 

 だってのに、どうして追いかけて来ちゃったんだよ、箒。なんで俺を庇うように間に入って来ちゃってるんだよ。そんなとこにいたらお前も一緒に。

 

 いや。俺のせいだな。お前はそういうヤツだって、優しいヤツだって、俺はよく知ってたのに。

 

 現状を正確に理解した瞬間、自分でも驚くほど、心は凪いでいた。

 

(ゴメン、"白式")

 

 真っ先に出たのは何故か、遺していく千冬姉でも、巻き込んでしまった箒でも、学園の皆でもなくて、こんな俺に最期まで付き合わせてしまう相棒への謝罪だった。

 

(でも、()()

《――――――――》

 

 都合のいい妄想な気がしてならないのだけれど、それでも俺の耳、いや、心には、かな、「仕方ないな」と、そんな『誰か』の気持ちが流れ込んできたような、そんな気がした。

 

 

 "雪片弐型(ゆきひら)"を握り直す。空中を蹴るようにして反転、急上昇。真っ向から突撃。でなきゃあの船も、箒も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 防ぐ。掻き消す。叩き切る。少しでも早く。1つでも多く。

 

 

 振るう。振るう。ただひたすらに振るう。『エネルギー無効化攻撃(そういうもの)』だから手応えがないのがせめてもの幸運か。けれどそれもいつまで持つか。

 

 

 相殺しきれなかった衝撃が次々に襲い来る。骨が軋む。肉が焼ける。後ろから声が聞こえる気がするけれど、鳴り止まない爆音からの麻痺でまともに働いていない鼓膜じゃあ、もう何も聞こえていない。

 

 

 もう、自分が上を向いているのか、下を向いているのかも判らなくなってきた。それでも強く光っている方へ剣を振るうことだけは止めない。

 

 

 目なんてとっくに役に立っていないけれど、より眩しい方がどっちかくらいは判断できたので、それに従っていた。

 

 

 

 にぎっていたものがきえたかんかくがした めのまえぜんぶがまっしろだ

 

 

 

 あつい いたい くるしい

 

 

 

 なんで おれ こんな

 

 

 

 あぁ でも 

 

 

 

 おちていく おちていく ゆっくりとおちていく

 

 

 

 おちて おちて ざぶんっておとがして つめたくなった 

 

 

 

 

「――ッ!! ――ッ!!」

 

 

 

 

 とまった びりびりする つよくだきしめられているかんじがする

 

 

 

 

「――ッ!! ――ッ!! ―――――――――ッ!!」

 

 

 

 

 あぁ おれ しっぱいしちゃったけど それでも

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――一夏ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 こいつのことは こいつのことだけは ちゃんとまもれたってことかな せんせぇ

 

 

 

 

 

 




 どうも、作者のGeorge Gregoryです。

 早く続き書きます。

 では。
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