ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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反応が楽しみダナァ(愉悦)


Like The Wind Ⅴ

 しばらくの間は、今日のことを夢に見るだろうな。そんな、どこか現実味がないような、他人事のような、そんな冷たい感覚で、つい3時間前のことを思い返していた。多分、あまりに突然で、強烈で、想定外すぎたから、まだ上手く飲み込めていないんだと思う。尤も、飲み込んでいいものなのか、飲み込むべきものなのかの判断も、まだ出来ていないのだけれど。

 

 目の前で、見るも痛々しい姿の一夏が眠っている。

 

 全身の至る所をISの防御機能を貫通した熱波に焼かれ、衝撃に痛めつけられ、包帯を巻かれていない箇所を探す方が難しいくらいだ。呼吸器や点滴、各種計測機器にも繋がれている。手当をしてくれた引率の養護教諭曰く、命に関わるような()は越えたが経過次第では予断を許さない、とのことだった。「ダイジョーブ、深ぁ~く眠ってるだけ。その内ひょっこり起きてくるヨ」と姉さんも言っていたが、それを聞いたところで平静になれるハズもなく。

 

 具現維持限界(リミットダウン)による強制解除から海へと落ちてしまった一夏を抱き上げ、密漁船の連中を船ごと叩き切ってやろうかというどす黒い感情が沸き起こりもしたが、腕の中で確実に弱っていく一夏のバイタルデータがそうさせてはくれなかった。

 

 今、追い打ちをされたら不味い。庇いながら逃げられるだろうか。そう思いながら見上げた先、"銀の福音(シルバリオ ゴスペル)"は何故か、私たちを見下ろした後、興味を失くしたように身を翻して、どこかへと飛び去って行った。既に脅威ではなくなったと判断したのか、私が()()()()()()()()()()()()()()のを見抜かれたのかは判らないが、正直命拾いしたと思った。

 

 強制解除こそされていたが、生命維持機能はまだ稼働していて、一夏の身体に障らない程度の速さで大急ぎで出発した砂浜に戻ると、養護教諭を傍に待機させた山田先生が出迎えてくれた。一夏は直ぐに花月荘の離れ、皆が宿泊している一般客室から最も遠い部屋に運ばれ、面会謝絶状態の下で応急的な治療が行われた。それがついさっきようやく終わり、一先ず経過観察で状態が安定したことが確認され、入室を許されたので、こうして枕元の傍に座り、姉さんの言う通り、穏やかに眠っているようにしか見えないその顔を見下ろしている。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()、と。いつだって、どこだって、どんなヤツが相手だって、窮地にあると見れば咄嗟に助けに入ってしまうんだ。けれど、だからこそ、私は。

 

「お邪魔するわよ~」

 

 改めてそんなことを噛みしめていると、すぱぁん、と軽快な音と共に入り口の障子が勢いよく開かれ、鈴が入って来た。のしのしと無遠慮な足取りで私の横までやってきてしゃがみ込むと、軽く指でその頬をつつきながら、唇を尖らせて言う。

 

「ったく。あんな連中、放っとけばいいのに。バカじゃないの」

「そうだな。本当に、バカタレだ」

「でも、きっと、そうじゃなきゃアタシたちはコイツのこと、好きになってないのよね」

「あぁ」

 

 自分と同じような感想に、薄く笑いを浮かべてしまう。

 

 密漁船の一行はあの後直ぐに身柄を拘束され、地元警察で事情聴取の真っ最中だという。以前からここら一帯で細々と同じような真似を繰り返していたらしく、これを機にとことん余罪を()()()()()()()()()、と警察側はとても意気込んでいるそうだ。思い切りやってしまえと思う。

 

 "白式"については、隣の部屋で姉さんがメンテナンスをしてくれている。ほぼ限界寸前までエネルギーを消耗したことで、学園側が今回持ってきていた機器では十全な修理が施せないレベルまで損傷していたそうだ。「ま、わたしちゃんならヨユーヨユー♪」とのことだったので、そちらの心配はあまりしていない。

 

「……思ったより凹んでないみたいで安心したわ。てっきりもっとこう、失意のどん底かなって」

「私も、自分で驚いている」

 

 入学したての頃の私ならきっと、もっと泣いて、喚いて、取り乱していたことだろう。何故だろうか、と考えて。

 

「で、今から"福音(アイツ)"ぶん殴りに行こうと思うんだけど、アンタはどうする?」

 

 それを聞いた瞬間、カチリと『最後のピースが嵌った音』がした。あぁ、そうか。

 

「私は、怒っているんだな」

 

 自覚した途端、全身を煮え滾った血が駆け巡る。火が入った。一夏をこんな目に合わせた()()()()()()()()()を、()()()()で済ませてなるものか。それに、何よりも、誰よりも。

 

「私は、私自身を、イチバン許せない」

 

 あっという間の出来事だった。庇おうと咄嗟に間に飛び込もうとした時までは、身体が勝手に動いていた。けれど、"福音"があの光弾の一斉射撃を行おうとしているのが見えた瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が起きて、身体(カラダ)精神(ココロ)も完全に恐怖で硬直してしまった。あろうことか、あの状況で見た一夏の背中に安心までしてしまった。

 

 網膜に、鼓膜に、脳裏に、焼き付いて離れない。視界を眩く塗り潰し、海面を嵐のように揺らがせる光の豪雨の中を、ボロボロになりながらも空へ昇ってゆく一筋の彗星。ただの無駄・無茶・無謀だと、普通ならそう言うのだろう。私たちと同じように『バカなことをした』と誹るのだろう。けれど、あぁ、けれど。

 

「行く」

「そう来なくちゃ」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()を強く抱き締める。先の戦闘による疲労や倦怠感はとっくにない。恐怖は、未だあるにはあるが、それを遥かに凌駕する別の感情がこの身体を衝き動かそうとエンジンを鳴らす。この震えは、肚の底で沸き立ち、皮を突き破らんと今も尚、膨れ上がり続けている憤怒が故に。

 

「……本気で、言ってるの?」

 

 聞こえた声に振り向くと、見舞いに来てくれたのだろう、信じられないものを見るような顔の簪がこちらを見ていて。

 

「待機命令が出てるんだよ? 勝手な真似をしてまた()()あったら、委員会だって黙ってない。そもそも機動特化の"白式"や"紅椿"でようやく追いつけた"福音"にどうやって」

「別に全員が追い付ける必要はないでしょ。箒が足止め、他が攻撃。これで十分。"甲龍"にも攻撃特化パッケージ積んだしね」

「で、でも、どこにいるのかも解ってないのに」

 

 既に覚悟(はら)が決まっているのだろう、淡々と返す鈴に、しどろもどろになりながら食い下がる簪。それをどうにも()()()()()と、私は思った。確かに私が知る『更識簪』という人物は、少々鬱屈した面こそあるものの、いつだって何事に対しても真摯で真面目であったことから、私たちがこれからやろうとしていることに異議を唱えるのは何らおかしいことではないのだけれど。

 

 そんな、些細な違和感を抱いていると。

 

「"福音"の居場所が割れたぞ。作戦地点より30km南方の沖合上空だ。ステルスモードに入っていたが、光学迷彩までは持っていないようだな。衛星による目視で確認できた」

「流石。伊達に特殊部隊やってないわね」

一夏(アイン)の為だ、と言うと皆、進んで協力してくれた。既にドイツ軍でも"福音"に関する事情は承知済みだったのでな、実に円滑に済んだよ」

 

 小型のブック端末を片手に入って来たラウラがそのように告げ、鈴がニヤリと笑みを深めた。それに対する「それ公私混同なんじゃ」という簪の呟きは、あまりに小さく弱々しかった。

 

「2人との戦闘での消耗が激しかったのだろう。ここ2時間程、微動だにしていない。攻めるなら今だ」

「だね。それに、僕たちだって、先生にここを任されたんだもの」

「鈴さん、(わたくし)たちもパッケージのインストール、完了しましたわ」

「デュノア。それに、セシリアも」

「僕だって、友だちを()()()にされて黙っていられるほど薄情じゃないよ」

「右に同じく、ですわ。それに、先生は『足止めだけでも構わない』とも仰られていました。勝てずとも時間稼ぎくらいなら、(わたくし)たちだけでも十分に可能です」

 

 続いて現れた2人もまた、既に意気軒高。専用機持ち全員がこの場に揃い、その視線は自ずと簪の方へと注がれる。

 

「で、アンタは? 来ないの?」

「わ、私は、専用機がまだ、ないし」

「……あぁ、そうだったっけ。まぁいいわ。来ないのならせめて、邪魔はしないで。皆、行きましょ。作戦立てなきゃ」

 

 あぁ、これは、さぞかし居心地が悪かろう。申し訳ないと思いつつも、私は既に鈴の側だ。後日、何かしら別の形で埋め合わせをすると共に、改めて謝罪せねばなるまい。そう思いながら、立ち尽くしてしまっている簪に僅かばかり後ろ髪を引かれつつも一夏の眠る部屋を後にし、作戦会議の為に場所を移そうとして。

 

 

 

 

―――――いいえ。皆様をこのまま行かせる訳には参りません。

 

 

 

 

 その、あまりに()()()()()()()に全員が振り向いた先にいつの間にか立っていたのは、他の皆と同じように自室待機を命じられていたハズのクロエ・カデンソンであった。

 

「……どういう意味かしら?」

「そのままの意味です。皆様をみすみす死なせる訳にはいきませんので」

「質問の答えになってない、っていうか、随分と嘗められたもんね。そりゃあアタシら、今までアンタに()()()()見せられたかって言えば全然そんなことなかったけどさ、それでも戦うべき時に戦えない臆病者ではいたくないのよ」

「えぇ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「は? それってどういう」

 

 意味よ、と鈴が私たちを代表して疑問をぶつけようとした、その時。

 

(なんだ、この()()()()()()は――――)

 

 その、この場でするハズのない香りにほんの僅か、意識を割いた瞬間に。

 

 

 

 

「――――は?」

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

『サァテッ、お次の挑戦者はァッ!? ……あれ、えっと、知らないなぁ。多分取るに足らない()()()()()()でしょうが、誰が出て来ようと決して飽きることはないでしょう。何せッ!! 長年この番組の司会を務めている我々でも見たことのない奇跡がッ、今ここに実現するのですからッ!!』

『ダラス、あたしってば待ちきれないワァ~♪ 早く始めちゃいましょうよ♪』

『僕も待ちきれないよファニータ』

 

 妙に滑舌が良い男女の声が、明らかに音響機器を通した大音量で響き渡っている周辺を見回す。半球状をした壁が360度全周を囲っており、くり抜かれた天井の向こうには千々にまたたく星々。これは夜空か。()()()()()()()

 

「ちょっと、何よここッ!! アタシらいつの間にこんな場所にッ!?」

「見るからに闘技場、だよね。うわ、え、観客ッ!? しかも物凄い人数いるよッ!?」

「学園のアリーナではないな。構造が違う。いや、そもそもこのような施設があるなど、世界各国どの記録にも見覚えがない。これほど大規模且つ最新鋭な施設を、一体どうやって秘密裏に」

「あの空が偽物でないのなら、地下という可能性はあり得ませんし……それにしても、何といいますか、雰囲気からして治安が宜しくないですわね」

「皆ッ!!」

 

 直ぐ傍に4人がいるのを確認して駆け寄り、私1人じゃなくて本当に良かったと一先ず胸を撫で下ろす。この明らかな異常事態に正直、心細くて堪らなかった。自然と背中を任せるように寄り添いながら、改めて周囲を観察している私たち5人。すると。

 

『それでは入場して頂きましょうッ!! 我らが"Dread Zone(ドレッドゾーン)"の誇る最高に残酷でッ、凶悪でッ、超刺激的な4つの死兆星ッ!!』

 

 そんなやかましいナレーションと共に、アリーナの四方にあるゲートが開き、それぞれの奥から恐ろしい気配が近づいてくるのを、肌で感じ取った。自然と全員が固唾を飲み、その影が躍り出てくるのを待ち受ける。そして。

 

『盛大な拍手でお迎えしましょうッ、"Terminate 4(ターミネイト フォー)"ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』

 

 鼓膜が割れんばかりの喝采と共に、そいつ等はやってきた。

 




 どうも、作者のGeorge Gregoryです。

 今回の補足説明は敢えて省きます。後々纏めてやりますのでご心配なく。

 言いたいこととか疑問とか山盛りだとは思いますが、そーゆーのは是非、コメントへ。貰えた分だけテンション上がって執筆が捗るかもです。

 では。
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