ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
→近所の本屋を数軒回るが見つからない。
→仕事の休憩時間に現場付近の本屋を覗いてみるが売ってない。
→15軒も回って見つからないから密林でポチる。
→”そういや今日の現場(地方)って本屋入ってたなぁ……”
→なんであるんじゃボケぇえええええええええええええええええええええええええええッ!!(魂の雄叫び)
―――“司令官殿”ですか。そうですね。あの時は、生きた心地がしなかった、というのが正直な感想です。
当時、我々“黒兎隊”は上層部からの指令で、突如頻発し始めたアルプス山脈の局地的地震の調査隊の護衛任務として、現地を訪れました。到着して直ぐに立ち昇る黒煙を発見した我々は、混乱する調査隊の面々を数名の隊員と共に待機させ、即座に火元へと急行しました。
連日の天候からして乾燥による自然発火はまず有り得ません。生木ですので燃え広がる心配はしていませんでした。となれば、人災である可能性が極めて高く、事故による火災を考慮すると、一刻の猶予もないと判断したのです。
そんな我々を出迎えたのは、まるで存在すら知らされていなかった非公式な地下研究施設の、見るも無残に破壊され尽くした痕跡。完全に無力化されていた3体の改造ラファール。そして、1人残らず気絶させられていた研究員たちでした。
完全に沈黙していた施設内のシステム。その中で唯一、破損の少なかった監視カメラの録画データだけは、どうにか読み取れる程度に抽出することが出来ました。他の機材は悉く、ご丁寧に内部の回路に至るまで焼き尽くされているというに。
状況からして、意図的に残されているのは明らかでしたので、それは爆薬解体のように、慎重に解析したものです。尤も、蓋を開けた途端にこちらの機材を乗っ取られるか、破壊されるのではという我々の懸念は、取り越し苦労だった訳ですが。
えぇ、この時ですよ。“司令官殿”の凄まじさを思い知ったのは。
想像してみて下さい。当時の最先端の技術を尽くした迎撃兵器に加え、ISを3体も擁しての籠城戦に出てくる相手に、単独で挑む。言わずとも判るでしょう、勝率は限りなくゼロに近い。決してゼロではないですが、それは“諦めたらそこで試合終了”みたいなものです。
そうですね。精々、“6310万分の1”。無いよりマシ。挑む時点で発生する、本当の意味での“最低限”。それでも、あの方なら不敵に笑って、こう言うのでしょうね。『悪くはないんじゃないか?』と。
何せ当時、“司令官殿”は―――
「お姉様、これは」
映像を目の当たりにした隊員たちが、全員漏れなく、言葉を失っていた。信じられない、有り得ない、そんな単語ばかりが、彼女たちの脳内を埋め尽くしていることだろう。かく言う私自身も、余りに鮮烈なこの“大立ち回り”に、完全に目を奪われてしまっていた。
噂には聞いていた。この数ヶ月、世界各地の非合法なIS研究施設をあっという間に壊滅状態へ追い込んだり、余りに危険度の高い災害現場に現れては見るも鮮やかな手腕にて人命救助を行い、名前も告げずに去ってゆく真っ黒なISの存在。
悪意ある者に不吉を、不遇なる者に幸運を届けに来る姿から、いつしか呼ばれるようになった、その名前。
「これが、
堂々と正面からの来訪。まるで羽虫を避けるかのように、足運びと身体の捻りによる必要最低限の動作だけで飛来する銃弾を回避。それと同時に両腕に2丁拳銃のような武装を展開し、針穴を通すかのような正確無比のコントロールで確実に対象を迎撃。そもそも武装の展開速度からして凄まじい。正に“
追いすがろうとも、しなやかな身のこなしでひらりひらりと躱される。下手にちょっかいを出そうものなら、隠していた爪で手痛い反撃を食らう。あぁ、成程。“だから”か。
「だが、これは、猫などという生易しいものでは」
突入してから僅か30分にも満たない、蹂躙という表現すら生温いと思えてしまうほどの、たった一人の進撃。最早“侵略”、いや、“侵食”と言い換えるべき、だろうか。真綿へ水が染み込んでいくように、その歩みを止められない。
意気揚々と、“黒猫”の前へ躍り出る改造ラファール。随分と荒い画質ではあるが、それでも彼女が完全に驕り高ぶっているのが解った。歯牙にもかからないと、本気で思っているのだろう。ISにさえ乗っていれば、などという愚鈍な考えが、余りに浸透してしまっている。悪い風潮だ。
案の定、彼女は文字通りに”痛い目”に合うこととなった。銃弾は悉く躱され、近接攻撃に切り替えるものの、まるで闘牛でも見ている気分だった。いなし、弾き、流し、払う。1つ1つの所作に、全くの無駄がない。だが、流派を持つような“洗練された”それとは違う。ただただ、実戦の中で繰り返す内に無駄を“削ぎ落して”いく内に辿り着いたかのような、そんな感覚を覚える。
思わず、見惚れた。卓越した技術、研ぎ澄まされた感覚、積み重ねられた経験、その1つでも欠けていたなら成立しないスタイル。所作から滲み出る余裕に、全く本気を出していないのだろうと推察できる。ISを纏った彼女は、鬼気迫る表情で逼迫しているというのに。
2体目のISが姿を現す。とっくに片付いていると思っていたのだろう、悠々と歩いて来た彼女は、有効打の1つも与えられていない状況を確認した途端にアサルトカノンを右手に展開、撃ち続けながら距離を詰める、が。
「お姉様」
「なんだ」
結末は呆気なく、そして予想に難くなかった。じゃれついてきた小動物をあやすように、調子に乗った子どもを窘めるように、それは余りに圧倒的な差だった。
気を失った2人を放置し、黒猫は更に下層へ。背後からの狙撃すら容易く察知し、逆に狙撃でライフルを破壊。瞬時に距離を詰め、両腕に巨大な鉄拳を展開。強烈な右アッパーと左ストレートにより、3体目のラファールが木っ端の如く宙を舞う。そして。
「勝てる、でしょうか」
「……難しい、だろうな」
紫電一閃。弾丸を上回るが如き神速の一撃。その前の狙撃に関してもそうだ。あれほど見事に銃口を捉え、たった一発で攻撃手段を奪って見せた腕前。
どれほどの鉄火場を潜り抜けてきたのだろう。どれほどの修羅場を乗り越えてきたのだろう。一体、どれほどの。
「だが」
「だが?」
「不可能ではない」
歴史上、一騎当千の猛者が天下を獲った
「我々は、“
一足飛びで駆け抜ける我々が、諦めずに走り続けたなら。
「
「――ハイッ!!」
消沈していた隊員たちの瞳に、炎が灯る。不謹慎なのだろうが、久し振りの感覚だ。身体を芯から震え上がらせる冷たい熱。
あぁ、私だって恐ろしいともさ。実際に相対したなら、十把一絡げに倒されてしまった彼女たちと同じような末路を辿ることだろう。だが、それは“私一人であったなら”の話だ。
「他に手掛かりがないか、徹底的に調べ上げろ。資料の1枚たりとも見逃すな。持ち帰られるものは全てだ」
「「「「「
弾かれるように散開する隊員たちを見送り、再度、辺りを見回す。壊せるものは全て、そんな具合だ。割れるものは割れている。砕けるものは砕けている。折れるものは折れている。裂けるものは裂けている。そんな惨状の中、ただ1ヶ所だけ、異なる“壊れ方”をしている場所。
壁に盛大に刻まれた傷跡。お世辞にも上手いとは言えない“筆跡”。それは、明らかな文字。
「
あのISの正体は解らない。だが、背後にいる人物の正体は、何処となく解るような、そんな気にさせる。ここで行われていた研究がどういったものかは未だ解らないが、“彼女”の逆鱗に触れてしまったのは、間違いないのだろう。
「どうなって、いくのだろうな」
この国は。この世界は。この星は。そして、未来は。
録画データの中、“我来たれり”と真っ直ぐに“
同刻。
「成程。
「はい。本来であれば、あのようなカプセルに頼らずとも問題はない筈なのですが」
「だからこその“欠陥品”、ッスか。酷いもんッスね」
助け出した試験体の少女曰く、彼女に施されたのは俗に言う“生体兵器”を創り出す為のものらしい。本来であれば筋力や心肺機能、神経系の伝達速度など、戦闘に関するあらゆる身体能力を生まれながらにして強化された人造人間。それがどこでどう狂ったのか、高い身体能力の反面、細胞の衰弱する速度が常人の数倍は早く、培養液に浸かっていなければ再生速度が間に合わず、末端から徐々に身体が壊死してしまうという。
「生かされていた理由は、この瞳への適合率の高さだと思います」
「“
淡々と語りながらも、その黄金の瞳はどこか、不安に揺れているようだった。言うなれば、自分の弱点を曝け出しているに等しい行為だ。最終的には合意の上だったとはいえ、強引にあの“
「実際に試したことはありませんが、数値上では私のIS適正はAだそうです。この身体の問題が解決できていたなら、恐らく直ぐにでも実践データの収集に駆り出されていたと思います。
「“数えるほどしか”ってことは、君の他にも?」
「はい、少なくとも1人。今、どこで何をしているかまでは、解りませんが」
抽出したデータを見る限り、この研究は国内でも秘密裏に行われていたものらしい。ドクターがガサ入れさせるような案件なのだから、最初からそうだろうと思ってはいた。そうなると俄然、その“もう1人”の行方も気になるところだが。
「――――」
「……ん? どうかした?」
「あぁ、いえ、その」
抽出した研究データの資料を眺めながらそんなことを考えこんでいると、彼女が興味深そうにこちらを見ているのに気が付く。尋ねるとしばらくの間、言葉を咀嚼するように視線を彷徨わせた後、こう続けた。
「本当に、男性なんですね。それも、地球の方ではない、と」
「ん、まぁね。そもそもコレはISじゃないし」
言いながら右手にのみスーツを展開して見せると、まじまじとこちらを観察し始めたようだ。他に誰もいないということもあり、今の自分は
彼女たちからすれば、漫画やゲームの中から飛び出してきたような存在だろうし、彼女はそもそも外界というものを全く知らずに生きてきたのだ。
「――で、そろそろツッコミを入れるべきかな、クランク」
「ッスかね。ドクター、何をやっているッスか?」
「何って、見てわかんない? ンフフ~♪」
眺めていた資料の束を閉じ、呆れ混じりに溜息を吐く。相棒も同感のようで、眉根を顰めるようにカメラアイのシャッターを八の字に傾けている。
自分たちの視線の先、椅子に座る少女の後ろで、Dr.シノノノはにこやかな笑顔を浮かべながら、その銀髪を器用に結い上げていた。研究施設から連れ出した時は、仮眠用に使っていたらしきソファから拝借した毛布1枚を羽織っているだけだったのだが、今はどこから引っ張り出してきたのか、アイロンもないはずなのに皺1つないセーラー調の白シャツに、深い青のスカートへと着せ替えられている。
ポニーテールや三つ編みなど、色々な髪形を試しては解き、最終的にはもみあげの上あたりで黒い蝶のようなデザインをしたリボンで結わえるのに行き着いたようだ。
「気に入って買ったはいいけど自分で着るにはな~って思ってたのが沢山あるんだ~♪ 丁度いい機会だな~って思って♪」
「あ、あの、さっきの毛布でも、私は十分」
「ダメだよ~そんなの。折角女の子に生まれたんだから、可愛く着飾らなきゃ。というか、服はちゃんと着なさい」
「そこに関してはワタシも同感ッス。服は大事ッスよ。見た目に気を遣うのは、人として最低限のマナーッス」
こう見えて、洒落っ気は人一倍強い相棒である。切っ掛けはドラマ出演だったかな。オイルマッサージや半身浴なんて女子力の高いことまで覚えたのも同時期だったように記憶している。
「それにしても、相変わらず無茶苦茶だよねぇ、らーくんの秘密道具ってばさ。傷ついた傍から身体を治してくれるデバイスとか、頭おかしいよ?」
「誉め言葉だと思って良いのかな、ソレ。さて、念のためもう1回説明しておくけど、いいかな?」
「はい」
返事をしつつ、自分のへそ辺りに手を添える彼女。そこには丁度、先刻取り付けたばかりの“
「ざっと見繕った感じ、普通に生活しているだけなら、大体72時間くらいはソイツのエネルギーはもつ。逆に言えば、最長でも72時間以内には、オイラかクランクがエネルギーを補給する必要がある。この点から君に守って欲しいことは2つだ。
1つ。少しでも違和感があったら、直ぐにオイラたちのどっちかに知らせること。2つ。なるだけオイラかクランクのそばを離れないこと」
「有り得ないとは思うッスけど、万が一にも誤作動なんかが起きてしまったら、アナタの命に関わるッス。決して無理に我慢なんかしないで、遠慮なく言って欲しいッス」
「ハイハ~イッ!! 先生、質問いいですか~ッ!?」
「……はい、そこの生徒T。ご用件は?」
神妙な顔で相槌を打つ少女と対照的に、右手を高く掲げながら声を張り上げるDr.シノノノ。なんで本人よりも先に質問が出るのかと聞きたいが、施設内で“
「確か、“
「ふむ」
成程、確かに尤もな疑問である。見れば、当の本人も答えを問うような視線をこちらへと向けていた。
「実践した方が早いな。ちょっと、お腹見せてくれる?」
「解りました。……んッ」
そう答えて、シャツの下から順にボタンを外し、下腹部を露出させてくれる。丁度、へその真上、仄かに青い光を放つ掌大のガジェットへそっと右手を伸ばす。自分の毛皮が擦れてくすぐったいのか、ピクリと身体を震わせた。そして。
「うぇッ!? らーくんッ、何やってんのッ!?」
「えっ、今、の、まさか」
流石に自他共に認める”博士”なだけはある。今の光景だけで、自分が何をしたのか解ったようで、真っ先に切羽詰まった声を上げた。それである程度“どういうことか”を察したのだろう、彼女も僅かに表情を固くして、尋ねてくる。
何が起こったのか。それを端的に説明するなら、青い光が自分の体から右手を伝って彼女の体へと移っていったのである。
そして、何をしたのか。それを端的に説明するなら。
「うん、分けてあげたんだよ。オイラの“
「ワタシの時は、こういうケーブルを挿し込むことになるッス。痛くは、ないッスよね?」
「あ、はい、痛くないです。むしろ、凄く暖かくて、心地いいくらいなんですけど」
「大丈夫なのッ!? っていうか、そんなホイホイあげちゃっていいものなのッ!?」
「別にいいさ。生命エネルギーって言えば仰々しく聞こえるかもしれないけど、オイラたちからすればスタミナみたいなものだから。一晩寝れば回復するしね」
「ワタシも特に問題ないッス。機能維持に必要な“
そもそも、クランクの場合は自分の体内で精製できるようになっていることだし。この惑星でいう、自巻式腕時計みたいなものだ。根本からシステムを落とされない限り、不具合が起きることは早々ないし、万が一があったとしても自分が直せるのだから問題はない。
が、まぁ、向こうからすれば、自分たちが命を削っているように見えたのだろう。そりゃあ慌てふためきもするか。
「それだけ心配してくれるんならさ、ドクター」
「早く彼女の身体を、根本的に治してあげて欲しいッス」
「うっ、生物は出来んガールだったんだけどなぁ……」
「あんまり、の間違いだろ? ISを作る上で多少はかじったんじゃないの?」
「それはまぁ、そうだけどさぁ」
「それで各国の最高学府を黙らせてるんスから、充分だと思うッスけどねぇ……ホント、理想が高いんスねぇ」
勿論、“
「SEや絶対防御のシステム理論をみた限りじゃあ、“出来んガール”には見えないんだけどなぁ」
「う~、解ったよぉ、頑張るよぉ……私だってちょっとは引け目感じてるし」
がっくりと肩を落としながら唇を尖らせ、最後は小声でボソッとそんなことを呟くDr.シノノノの姿を、話に聞いていた人物像が重ならないのだろう、彼女は不思議そうな目で見ていた。
「さて、じゃあ最後にもう1つ、決めないとな」
「……?」
「不思議そうな顔してるけど、君の事だからね?」
「私の、ですか?」
やはり、未だ自分への関心が薄いのだなぁ、と痛感する。先刻は命に係わる話題だったから食いつきも悪くはなかったが、生きていくにはもっとシンプルに必要なものがあるだろうに。
「名前だよ、君の名前。いつまで経っても“キミ”じゃあ味気ないだろう?」
「私の、名前」
「ハイハ~イッ!! 私1コ考えてあるのがあるんだけど、“
「ホォ。元ネタは古代ギリシャの恋愛物語ッスか? 中々ロマンチストッスねぇ」
「“科学者”なんて大なり小なりロマン抱いてないとやってらんないよッ!! エラい人にはそれが解らんのですよッ!!」
「フム。一理あるッスね。私が思うに――」
「はぁ、やれやれ。で、何か希望はあるかい? こんな名前がいい、だとかさ」
「……あの、それでしたら、1つ。希望というか、お願いが」
「お、何かあるの?」
「その、ですね」
当の本人を置いてけぼりにしてあれやこれやと盛り上がる相棒とドクターに、今日何度目かも解らない溜息を吐きつつ彼女自身に尋ねると、俯きながら上目がちにおずおずとそう尋ね返してきた。両肘を膝について軽く前のめりになり、顔を近づける。そして。
「その、あなたと同じ、
「―――へ?」
余りに予想外の言葉に、間抜け面を晒して硬直してしまう。が、ふいに視線を感じたのでそちらへ視線を向けてみれば、ドクターがいつの間にやら口元に両手を当て、こちらをニヤニヤとした嫌な笑顔で覗き込んでいるのが見えて、正気に戻った。
「その、やっぱり、ダメ、でしょうか」
「あぁ、いや、そういう訳じゃあないんだけど……参ったな、どう説明したものか」
これほど可愛らしい態度で、しかも内容がコレだ。つまりは“そういうこと”なのだろう。余りに希薄に感じられていた彼女に、一気に人間味が増したようにも思えて、嬉しくもあるし、同時に微笑ましくもある。ある、のだが。
「その、さ。“ない”んだ」
「えっ?」
「……らーくん?」
「…………」
暫し考え込んで、正直に話すことを決める。予想外の返答だったのだろう、少女は呆気にとられたように小さく驚きの声をこぼし、ドクターは漂う雰囲気から“何か”を汲み取ったのだろう、先ほどまでの笑みを引っ込めて躊躇いの表情を浮かべ、この場で唯一事情を知る相棒は、複雑そうな顔でだんまりを決め込んでいた。
「ラチェット。オイラは、ただのラチェット、なんだ」
「――あっ、ご、御免なさい、私、知らなかったとはいえ、酷いことを」
あぁ、やはりこの娘は聡い。これだけで察してくれたようだ。ドクターにも伝わったのだろう、未だここ数ヶ月の付き合いだが、見たこともないような沈痛な面持ちになっている。
「いいんだ。オイラん中じゃあもうケリがついてる話だから。それに、今はコイツがいるしね」
「ラチェット……」
傍らでこちらを見上げているクランクの頭にポンポンと手を置き、屈託なく笑って見せる。全く、なんでお前が泣きそうな顔をしているんだか。
当然だが、まぁ、ほんのちょっぴりは“嘘”である。今でも完全に割り切れた訳じゃあない。ただ、ずっと引きずり続けている内に、少しずつ、少しずつ擦り減って、以前よりは軽く感じてられるというだけ。だが、それで彼女たちが笑顔を曇らせるのは、違うだろう。
「うん、そうだな。丁度いいや。オイラも
「……既に一度、誘拐騒動の時に少年に名乗ってしまっているじゃないッスか」
「あのケツアゴバカのお下がりなんて、いつまでも使ってられっか。というか、明らかに偽名だって解るだろ、あんな適当な名前」
「解らないッスよ? 彼くらいの年頃は、まだ常識が定着し切っていないッスからねぇ。案外、今でも信じ切っているかもッス」
「うへぇ……流石に
ちょいと強引な話題転換だったと思うが、気持ちを汲んでくれたのだろう、クランクは苦笑しながらも流れに乗ってくれた。こういう時、長年の付き合いを実感すると同時に、あの時に出会ったのがクランクで本当に良かったと、そう思う。
今でもはっきりと覚えている。空を裂いて飛来する一筋の閃光。追いかけた先、燃え盛る墜落現場にポツンと落ちていた彼を拾い上げたのが、全ての始まりだった。幾つもの冒険をしてきた。1つ残らず、大冒険だった。それを今、笑い話として思い返せるのは、何よりも、誰よりも、クランクのお陰なのだ。
喧嘩なんて、何度したかもう覚えていない。両手足の指なんかじゃあ数えきれないだろう。だのに、2年間離れ離れになったあの時は、文字通りに半身をもぎ取られたかのような苦痛の毎日だった。“独り”だと感じたあの瞬間に、もう”独り”ではなくなったんだと、思い知らされたのだ。
だから、彼女が自分たちを見て“家族”だと言ってくれたのが、堪らなく嬉しかった。そして、そんな彼女が、自分と同じ
ほんの少しだけ、沈み込んでいた空気が緩和する。ドクターは涙を流しながら笑うなんて器用な真似をしながらハンカチをぐっしょりと濡らしているし、少女もそれにつられているのか、両の瞳を潤ませていた。
「さぁて、どうしたもんかな~」
そう口では言いつつも、名乗りたい名前が、あるにはある。正確には、使わせて欲しい名前。本人にお伺いを立てることはもう二度と出来ないけれど、なんとなく、笑って許してくれるんじゃあないかと、そう思えてならない“あの人”の名前。
懐から取り出したるは、最早
「よしッ、今からオイラの名前は―――」
仕方のないヤツだな、と。懐かしい声が、聞こえた気がした。
――――メッセージは1件です。再生します。
『ラチェット~、クランク~、ボクだよクォークだよ~。こっちは今、新作ホロフィルムの撮影がクランクアップしたばかりさぁ。覚えてるかい、“ホットなボクのブラスター”。あれの続編だよ~。その名も“クールなボクのブラスター”。熱血体当たり系豪快アクションの前作とは裏腹に、今度はスタイリッシュなキメキメのスーパークール路線って訳さぁ。勿論、今回もノースタントだよ。心配せずとも君たちの分の試写会チケットは確保おくからね、安心してくれたまえ。
それはそうと、キミたちって今どこにいるのかなぁ? “タルウィン”からものすんごく電話がかかってくるんだよね~「全然連絡がないんだけど」って。なんでもシグマンドから依頼されて調査に出てるって聞いたけど、次のファンクラブの集会までには帰ってこられるのかなぁ? 最近の出席率はよろしくないみたいだけどぉ? まぁ、ボクとキミたちの仲だ。欠席した回の会報は郵送しておくし、オヤツも取っておいてあげるから、来られる時に顔を出しておくれよ~。“スクランチ”やボクのワイフも久し振りに会いたがってるからね~。じゃ、返事待ってるよん』
サブタイトルの元ネタ
“ラチェット&クランク THE GAME(PS4)”のトロフィー
“ズーコン一家のきずな(Zurkon Family Values)”
惑星カルトゥにて登場するステージボス、Mrs.ズーコンを倒すと獲得できる。
ラチェクラワールドにも普通にロボットの夫婦が登場するわけですが、SF作品においてアイツらがどうやって子どもを作ってんのかは永遠の謎ですよねぇ……
尚、ラチェクラワールドにおいてロボットのカップルが同時に同じシステムのダウンロードとアップデートを行うのは甘酸っぱいorエロいことになる模様。詳細を知りたい方は『4』の惑星トーバルを遊んでみるべし。
補足説明
・“6310万分の1”
『3』の最終決戦前にてラチェットがアルから教えられる、ラスボスに勝てる可能性を数値化したもの。パーセンテージに直せば、実に0.00000002%。
それでも、彼は間髪入れずに言うのです。『ねぇ。それって、悪くないんじゃない?』
・“Ohne Fleiß kein Preis(勤勉なしに賞はない)”
ドイツ語の諺。解り易く日本語訳すると『努力なしに成功はない』。まぁ、わざわざここで言わずとも、意味は通じますね。
・“生物は出来んガール”
『あぁ~、生物は出来んボーイじゃった……』という『3』のとあるキャラの発言を引用。
・“ダフニスとクロエ(Daphnis et Chloé)”
2世紀末~3世紀初頭の古代ギリシャにて生まれた文学作品。作者は“ロンゴス”という名前以外は全くの不明。後にフランスの作曲家、ジョゼフ=モーリス・ラヴェル(1892-1932)がバレエ音楽としても描いている。
なまら簡単にシナリオを説明すると、
1、ド田舎で男と女が恋に落ちるが海賊が女を攫って男絶望
2、妖精『お前そんなことしてる暇あんならせめて祈れや』
3、神『おっしゃ助けたる』男『やったぜ』
尚、本当に実際の束がこれを元ネタにクロエを命名したかは知りません。作者のただの妄想なり。
・“ホットなボクのブラスター”(初出『FUTURE2』)
キャプテン・クォークが主演を務めるホロフィルム(映画)作品及び2Dシューティングアクションゲームの名前。作中ではどういったシナリオなのか全く不明のため、ここでは後者のゲームについて触れる。
内容自体は非常にシンプルで、画面内の上下左右からやってくる侵略者エイリアン(敵)をブラスターで撃退しつつ市民エイリアンを守るというもの。任天堂の『シェリフ』に非常に近い。ただ連射していればいいという訳ではなく、ブラスターを撃ち続けると画面横のゲージが徐々に上昇、満タンになるとブラスターが熱暴走を起こし、それが冷めるまで暫くの間撃てなくなるのが特徴的。その代わり、1発だけ強力なチャージショットを打つことが出来る。
2人同時プレイが可能。その際の2Pのキャラクターは以前説明した“ラスティ・ピート”となっている。『FUTURE』のラストで少々絡んでいたシーンがあるあたり、どこかで意気投合したのかもしれない。
・“タルウィン・アポジー”(初出『FUTURE』)
ポララ銀河にてロンバックスの文明を追いかけて行方不明となっった探検家、マックス・アポジーの一人娘。“ロンバックスの謎”を追うことが父の足跡の手がかりになると信じてラチェットたちの冒険に同行する。『NEXUS』の頃にはポララ銀河の防衛軍代表にまで出世しているが、幼少期より共に暮らしてきた戦闘用ロボットの“クロック”と“ゼファー”を冒頭のシーンで亡くし、仇をとると意気込むラチェットたちに『もうあなたたちしかいないの……』と悲痛な表情でこぼすシーンには、作中で流れた月日の長さを感じさせられました。
しかし、ラチェクラワールドの女性陣は何故にこうも勝ち気でアグレッシブ揃いなのか。スタッフの趣味?
・“スクランチ”(初出『3』)
クォークが惑星フロラーナのジャングルで野生に帰っていた頃に一緒に暮らしていた一つ目のサル。喋るのはサル語でだが、普通にラチェットたちとの意思疎通が出来ており、ゲーム内で字幕をONにすると彼が何を喋っているのかも解るようになる。クランクが単独で行動するシーンで手助けしてくれたり、運転しているバギーの砲台を操作して援護してくれたりする。……ぶっちゃけ、Qフォースメンバーで最も役に立つ男なのではなかろうか。サルだけど。
ジャングル時代にクォークが彼の妹をナンパした上にキズモノにまでしてしまったらしく、惑星ゼルドリンでは彼とクォークが軽い修羅場を繰り広げるシーンがあったりする。『FUTURE2』ではクォークが『スクランチの弟になるかも』的な発言をかましており、『A4O』ではクォークの銀河大統領就任に合わせて何故か副大統領にまで大出世……ホント、大丈夫かこの銀河。
どうも、メトロイドプライム4開発中の発表に思わず画面を二度見した後で狂喜乱舞してベッドの底板がご臨終し、サムスリターンズで完全にトドメを刺された作者です。
そろそろ過去編を畳み、IS本編へと近づけていきます。多分、後数話くらいで一夏を主役にコンバートすることになるんじゃあないでしょうか。……まぁ、私がこの手の宣言をしてその通りになったことってあんまりないんですけどね(白目)
時系列としては結構飛ぶと思います。尚、既に最終話までの大まかなプロットは完成しております。果たして何話くらいになるかは、全く見当がつきません。自分では大長編になりそうだと思っても、実際に書き起こしてみたら予想の半分もいかなかった、なんてパターンもざらにありますからねぇ。
チラッと活動報告でも書きましたが、本話から昔の勘を取り戻すべく、当時の書き方に近い文法で投稿していきます。読みづらい部分や誤字報告などありましたら、遠慮なくお教えください。勿論、感想・意見・評価もウェルカムです。
では、近い内にまたお会いできることを願って。
Twitterとリンクさせて更新報告/予告した方がいいですか?
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YES
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NO