ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
武市先生カルデア来てくれェ……
『動揺病』またの名を『加速度病』というものがある。
三半規管に刺激を受けることで起こる身体の諸症状のことを指し、主に嘔吐感・手足の冷感・倦怠感などが挙げられる。発症のしやすさ、症状の重さには極めて個人差があり、同じ状況下に置かれたとしてもケロッとしている者もいれば、酷く憔悴してしまう者もいるという。
私の場合、今まで
「ミス・オリムラ、少しはラクになったッスか? 乗り物酔い」
「……あぁ、大分マシになってきた」
織斑千冬、一生ものの不覚である。まさか自分がこんな醜態を晒す日が来ようとは。昔から剣道の試合や遠征、国際大会出場やらでバス・電車・船・飛行機と公共機関の搭乗経験は一通りあるのだけれど、実のところ乗っている間ずっと起きていることが殆どなく、誰かと話に興じる気もなければ特にすることもないからと到着するまで熟睡してばかりだったから、今まで乗り物に酔ったという経験が皆無だったのだ 。
「でしたら、今回も到着するまで眠っていて下さっても良かったンスよ?」
「私は、お前たちの、監視役、だぞ。眠っている、間に、どことも、知らん、場所へ、拉致監禁、されました、なんてことが、ありえんとも、限らん、だろう、が」
「マジメッスねぇ……」
症状が起こりやすい要因として、乱暴な運転や悪辣な天候・運転状況によって身体に加わる加速度の強さや変化が大きかったりだとか、他にも身体に合わない衣服を長時間身に着けていたり、読書や携帯ゲーム機などによる眼球の動きを細かくする行為などが挙げられるけれど、今回はそのいずれでもない。というのも明らかに自覚があるのだ。視覚情報と三半規管の感覚の不一致によるもの。俗に言う『映像酔い』というヤツだ。
何せこのアフィリオンとかいう宇宙船、本当に日本からこのニューヨークまで僅か30分前後で到着してみせるほどの超高速を誇るというのに、いかんせん
クランクというらしい自立稼働AI搭載のヒト型インターフェース(と自称した)はこのように私と流暢に会話をしながらも、ついさっきまでずっとコンソールを使って眼下、すっかりと光を奪われたニューヨークのエネルギー供給ラインを、ネットワーク上に散らばる膨大な情報から選りすぐって分析をしていた。本人(?)曰く「どんなに強固なセキュリティだろうが必ず『穴』はあるし、一度でもオンラインに繋がったことがあれば
そして、あろうことか、"
『クランク、見つけた。やっぱり"ジーグルート"だったよ。やっこさん、わんこそばみたいにずるずるずるずる
「その、ジーグルートとは、何だ? 新型のISの名前か?」
『まぁ、
「フム。しかし、そういう
『だね。さっさと引き剥がしちまえば後はどうにでもなると思う。……けど、ちょっと気になることがあってさ』
「ヌ? 何スカ?」
その質問に、"
『ないんだよ、
――――その言葉に、隣の彼も私と同じように、それはもう大きく目を見開いていたよ。尤もこの時、私と彼との間に
「それ、は、つまり」
『えぇ、織斑先生。あのヤロウ、無人機ってことです。つまり、今回のこの大規模停電は、明らかな
それを聞いた瞬間、脳裏を過ったのは学園のクラス代表戦に乱入してきた暫定呼称"
けれど同時に、無人機の存在は今はまだ、なるだけ世間には伏せておきたい。前回は学園内での事件だったからこそ内密に回収・解析まで行うことが出来たが、これほど公の場で暴れ回られた後では、完全な隠蔽は難しいだろう。アメリカ政府はただでさえ"福音"の件で
後々のことを考えれば無力化の後に回収、解析が最上。だが、それが難しいとなれば、
「つまり、ワレワレの予測は」
『あぁクランク。
「デハ、予定通りに?」
『あぁ。一応、他にもいないかどうか確認してから―――』
悶々と考え込んでいた為に、2人のやりとりを話半分に聞き流してしまっていた。割と意味深な発言していたようにも思うが、正直それどころではなかったのだ。ここで何か下手を打てば、その影響はカデンソン自身だけでなく、学園全体にも及びかねない。そのようなことを真剣に考えていたというのに。
『―――戻ったぞ、
「……は?」
通信越しの聞き覚えのある声の、あまりに衝撃が過ぎる発言に、強制的に思考を停止させられた。
何の自慢にもならないが俺、イーリス・コーリングは自他共に認める女っぽさ
外食といえばまずハンバーガーにポテトとコーラのセット。決まって1度に2個以上は食べるし、チーズを追加してピクルスは抜いてもらう。それかステーキ。それも分厚いのを、血の滴るような真っ赤な芯が残ったレアな焼き加減で、調味料やソースは一切使わず塩とおろしニンニク、
趣味はスポーツ観戦(主に野球と格闘技)とボルダリング。好みのファッションはミリタリー系。特に虎柄や迷彩柄、ダメージ加工が施されていたりヴィンテージもののデニムなんかに目がなく、逆に典型的なレディースファッション、特にスカートなんて生まれてこの方片手で数える程しか履いたことはないし、その時に必ずと言っていいほど馬鹿にされたので、元々趣味でもないからと
とまぁこのように、自分で言うのもアレだけれど、あまりに腕白に育ったものだから、『可愛らしい女の子』を求めていた母さんの落胆は、それはそれは凄かっただろうと思う。今更この生き方を変える気はさらさらないけれど、まぁ、悪いとは思っている。
身体の発育だけは
とまぁ、そんな半生を送って来たものだから。
「ヤァどうもハジメマシテ、虎柄が素敵なお嬢さん」
出会い頭にそんな、歯の浮くような台詞を言われた経験なんてあるハズもなく、つい自分でも聞いたことのないような上ずった声を出してしまいそうになった。
これが例えば、芸能界の第一線で活躍し続けているようなミリオンダラーだったとしても、自分は多少面食らう程度にしかならなかっただろう。あ、はぁ。きっと
『嘗てのヒトは頭が2つ、手足がそれぞれ4本ずつあり、それはちょうど我々のような2人のヒトが背中合わせにくっついたような姿をして天上で暮らしていた。2つで完成形を成していた彼らは次第に賢くなり、知恵をつけ、神々に戦いを挑もうとした。神々はその振る舞いに憤り、彼らを2つに切り離して天上より追放した。故に今、ヒトは嘗ての片割れを探し求め
学生時代、単位取得の為だけに出席が緩く試験も楽だからと選んだ倫理の教科書の記述が脳裏を過った。故に、自分の片割れに出会うと心身がピッタリと隙間なく噛み合う様な感覚があるのだ、と教師が補足していたような気がする。講義なんて大体は寝て過ごしていたので話半分でしか頭に入っていなかったのに、何故か今になってそれが急速に蘇ってきたのだ。そして理解した。あぁ、こういうことなのか、と。
確かに、常日頃から言って憚らなかった。『好みの男は自分よりも強いヤツだ』と。
正直、いくら強い相手であろうと、自分の持てる全てを用いれば『どうにでもなる』と思っていた。けれど、実際にこうして相対して、この男にはまるで勝てる
なのに、どうだ。この笑顔の優しさは。
そりゃあ、"黒豹"の
故にこそ。
「害虫退治に、ちょっと手ェ貸してくれない?」
「解った。俺は何をすればいい?」
「話が速くて助かるよ。"
「了解だ」
即答した。一切合切の躊躇なく首を縦に振り、全速力でニューヨーク中を飛び回って、今しがた戻って来たばかり。変わらずクイーンズ地区の変電所で
「―――戻ったぞ、
そのように声をかけたのだ。すると彼は唖然としたようにこちらを向いて暫し固まってしまい、通信の向こうからは妙にうるさい声が聞こえる。漏れ聞こえているのに耳を澄ますと『こんな時に何を考えている』だの『いつの間に口説いた』だのとヒステリックともとれるような声がしている。どことなく聞き覚えのある気がする声だが、一体誰だろうか。
「あぁ、ハイハイ、落ち着いて下さい先生。アメリカのトラさんが来てるの見つけたんで、協力頼んだんですよ。……で? その呼び方、何?」
「気にしないでくれ。その内に気にならなくなるだろうからな」
「……それってひょっとして、気にならなくなるまで続けるから、ってことかい?」
「解っているじゃあないか。俺たち相思相愛だな」
「ウソでしょ、なんで知らない間にこんなビックリするくらい好感度上がってるの。……それで、他にはいた?」
「いいや。少なくともこの街にはアイツ1体だけだ。それで、どうする?」
「一先ず、ヤツを施設からも街からも引き剥がす」
「どうやってだ? 確かに俺の"
「いや、それには及ばない」
彼がそう言うと、こっちの視界にも『SOUND ONLY』が表示された。どうやら回線が共有されたらしい。そして。
「いっちょ派手に、
その少年のような幼さの垣間見える悪戯心に満ちた声に、釣られて自分もニヤリと笑みを浮かべてしまった。
どうも、作者のGeorge Gregoryです。
山田先生の免許講習の下りは俺の実話です。ブレーキ踏んで画面の中の景色は止まろうとしてるのに身体に慣性を感じてない違和感から一気に具合悪くなってトイレで吐いて廊下のベンチでグロッキーになってました。
イーリに関しては完全に趣味全開の創作です。本編に殆ど情報出てこないし、『軍属』とは書いてあるけど『軍人』なのかどうかも解らなかったので。ひょっとすると俺が知らない・気付いてないだけかもしれませんが、このSSにおけるイーリス・コーリングは『こういうもの』と受け取っていただけると。
ではまた、近い内にお会い出来ることを願って。
いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。