ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
どれくらいの時間が経ったのだろう。今も尚、無邪気に踊り続けている白い少女以外に視覚的な変化を見て取れるものが全くないので、既にその見当はすっかりつかなくなっている。聴いていてここまで飽きないというか、耳に心地好い歌声なんて初めてだったってのもあるとは思う。
相変わらずどんなことを歌っているのかはさっぱり解らない。けれど、こう、初めて聴いた洋楽なんとなく内容が直感的に理解できて心にクるものがあった時のような、初めて口にしたハズの料理の味を何故か懐かしいと感じてしまった時のような、あんな奇妙な安心感がある。
改めて白い少女を観察する。病的なまでに白い肌は石膏だかで出来ているかのような無機質さがあって、まるで血の気が通っているように見えない。こっそり病室から脱け出してきた長期の入院患者だ、と言われればすんなり信じてしまえそうなくらいだ。
けれど、その踊りにも、歌声にも、まるで弱々しさのようなものは欠片もない。
派手さも激しさも全然ない。むしろ淡々と、粛々と、一切ブレだとか揺らぎだとかをすることもない。幼い見た目にはまるでそぐわない、一流のバレエダンサーのような存在感を放っていて、それが俺の目を惹きつけてやまないんだろうと思う。不思議だ。誰かの踊りに、こんなにまじまじと見ていたくなる程の興味を抱いたことなんて、今まで一度もなかったっていうのに。
そんなことを考えていたからだろうか。
《…………》
「ッ、んなェッ!?」
いつの間にか、本当にいつの間にか、白い少女が極めて至近距離で俺の顔を覗き込むようにしていて、大きく仰け反ってしまいながら大声を上げて驚いてしまった。そんな俺の奇行を見た少女は、何でこんな大袈裟な反応をされたのだろう、とばかりに小首を傾げてキョトンとした表情をしており、それがじわじわと俺の羞恥を加速させる。うん、完璧に油断していたとはいえ、ちょっとオーバー気味だったなってのは自分でも思ったんだ。
だからまぁ、いっそ「変なの」みたいにさらっと流しながら笑い飛ばしてくれたらありがたかったのだけれど。
「お、おぉう?」
ひんやりと冷たい少女の両手がいきなり俺の頬に触れたものだから、またも素っ頓狂な声を上げてしまった。それも、両方の頬を両手で挟み込むようにして、またも見た目にそぐわない結構な力でがっちりと俺の顔を固定して、真っ直ぐに見つめてきたのである。
水晶のように澄んだ綺麗な瞳にそんなことをされると、まるで俺の目を通して頭の中や心の奥まで、何もかもを見通されてしまっているような気までしてくる。
けれど、そもそも物理的な逃げ場がほぼないとはいえ、こんな状況になってまで未だにこの少女から一切視線を逸らす気が全く起きないってのはどうしたことだろうか。普段の俺であったなら、まぁ、直ぐにでも照れ臭くなって堪らず明後日の方向に視線をやってしまいそうなものなのだけれど、なんて風に今の自分をどこか切り離したものというか、俯瞰的な視点で妙に冷静に分析している自分の存在に戸惑っていると。
《―――》
「え」
《―――、―――、―――。――――、―――、――、―――。―――、――――――、―――、――》
それは彼女が初めて、明確に俺に向けて発した言葉だった。相変わらず発音も全く聞き取れなければ意味もさっぱり解らない謎言語のまま。けれど、先程までの歌声のように、どことなく頭の中にじんわりと意図というか、籠められた感情が沸き上がってくるような不思議な感覚が.......というか、あれ? この娘、若干不機嫌でいらっしゃる? 微かに眉が顰められてるような、唇をほんのちょっぴり尖らせているような、そんな風に見えるんですが? さっきまでは随分と楽しそうに歌ってたのに何故? また俺何かやっちゃいました?
滾々と沸き上がる、多分お小言? 文句?の類をどうにか理解しようと全神経を聴覚と脳ミソに集中させているのだけれど、それでも妙に輪郭を帯びないというか、ぼやけた意味しか伝わって来なくて、段々申し訳なくなってくる。どうしたものだろうか、などと考えていたその時。
《――》
あ。今のは解った。はっきりと解った。何せ普段からさんざっぱら言われまくっててすっかり
そうかそうか。へぇ。おいちょっといいかお嬢さん。
《――。――――》
初対面の相手にいきなり『バカ』『ヘタクソ』ってなんだってんだよコノヤロー。
無人機が何故、全世界で実用化されていないのか。その理由はいくつかあるが、最たるものは『未だ実用に足る段階に至ってない』という点である。
実のところ、『実用に足るレベルのソフト』は作ろうと思えば作れなくもないのだが、スパコン数十台並みの超大型になってしまい、とてもではないが積載重量の限界を簡単に超過してしまうし、何よりも
それに、
「でもまぁ、悪党にはそんなの関係ないもんねぇ」
その為、まず疑ったのは遠隔操作だった。故障や死傷を恐れず果敢に、あるいは淡々と攻めて来る兵士というものは確かに脅威である。であるが、あれには距離と精度のバランスという大きな壁があり、何よりもその旨味を最大限に活かすには『数』が必要だ。確認できる"ジーグルート"が1体である以上、その線は限りなく薄いと言っていい。
では、目的は何なのか。この状況を鑑み、よぅく咀嚼した上でこのように考えると、しっくりくる。
「『いやがらせェッ!?!?』」
『そうッス。先程近くまで行かせた"
「あの巨大な爪と牙は、電子レベルの微細な振動を超高速で行ってる。発電施設の分厚い鉄鋼板なんかも簡単に切り裂けるだろうけど、アレはそれだけじゃあないね。アレで触れたエネルギーは粒子状に拡散しちまうんだよ。で、それを喉奥にあるコンバーターで取り込んで、自分のエネルギーに変えてるってワケ。
さて、ここで2人に問題です」
ピンッと人差し指を立て、目の前の
「ただでさえ無人機の稼働には極めて大量のエネルギーが必要。それがあれだけの巨体なんだから、アイツの消費するエネルギーはもっともっと多いハズだ。自分だけじゃ賄えないものは、どうすればいいでしょうか?」
『ッ、そうか、そういうことか』
「あ~……ナルホドな。それで
そう。AIにはただ《周囲のエネルギー反応を手当たり次第に襲撃・吸収せよ》とでも命令しておけばいい。後はソイツを放り込んでしまえばあっという間に、ただただ都市中のエネルギーを効率よく吸い上げ続ける暴飲暴食モンスターの出来上がりって寸法だ。
「このご時世、どれだけ優れたセキュリティシステムを使っていようが、電気を使っている以上は
「ってことは、この騒動に乗じて悪事を働いてるヤツが黒幕ってワケだな? どうする? また俺が片っ端から銀行だのを飛んで回って来るかい?」
『ッ』
ガツン、と苛立たしげに鋼鉄の拳をぶつけ合っている剣呑な声の
「いや、それには及ばないよ」
「あ? そりゃあ、これだけバカデカい規模の計画だってんなら、随分前から周到に用意してたんだろうけどよ。それにしたってまだ停電から1時間も経ってねぇんだぜ? いくらなんでも今から虱潰しに探し回りゃあよ」
「そういうことじゃなくてさ。いや、そういうヤツもいるだろうけど」
『……カデンソン?』
織斑先生の訝しげな声に、思わず抑え込んでいた苛立ちが声に出てしまっていたんだな、と悟る。多少は
「今回の黒幕の目的は、多分もう達せられてるんだよ。オイラ達がここに来た時点、いや、もっと言えば、この騒動が始まった時点で、かな」
「んん? どういうことだ?」
「準備しながら説明するよ。一先ず全員、さっき説明した通りの配置についてくれるかい?」
『……なぁ、本当にやるのか?』
『覚悟を決めるッスよ、ミス・オリムラ。今いる全員の力を結集しなければ、成功確率が下がってしまうッス』
「いい加減観念して下さいよ。ついて来るって言ったのは織斑先生じゃないですか」
『あぁ、解った、解ったから。……気休め程度でいい、せめて酔い止めを買いに行かせてくれ』
"
というのもこれだけの巨体、やはり稼働を維持するだけでエネルギー消費が尋常ではなく、外部の供給源がなければ
故に、今回の主な目的は3つ。純粋な機体の“稼働試験”と、製作者達の顧客へ向けた“
「確認したわ。作戦開始」
『了解』
“"黒豹"を誘き寄せる為の
同様の理由で強化されていて数キロ先も余裕で視認できてしまう彼女の眼が、"ジーグルート"の背後から徐に接近していく"黒豹"、その手に微かに山吹色の光を放つ球状の何かが握られているのを捉えていた。普通に考えれば『あの程度のサイズで一体何ができるというのか』と一笑に付すところであるが、扱うのがあの"黒豹"である以上、十分以上の効果を発揮するだろう代物であるのは間違いない。決して立場上は好ましくないものであろうそれの正体をこれから見せつけられるのを、どこか胸を弾ませて待ち望んでいる自分が確かにいることがどうにも可笑しくて、彼女は真っ赤な口紅の引かれた唇を微笑みの形にした。
"ジーグルート"が変電所の電力を根こそぎ吸い上げ切り、ゆっくりと顔を持ち上げる。すると"黒豹"はその背中へ向かって、まるで野球の投手がそうするように大きく振りかぶり、その小さな光球を勢いよく投げつけた。辺り一帯が暗闇に覆われた中で、ほうき星のような輝きを放ちながら近づいていく光球に"ジーグルート"が全く反応する気配を見せないのを見る限り、あれは爆弾の類ではないのだろうか、と彼女は訝しんだ。"
「ッ」
光球が炸裂した瞬間、手元の端末に表示されている"ジーグルート"の残存エネルギー、その数値が"零落白夜"の一撃を食らったかの如く、著しく減少したのだ。まさか。一体どうやって。息を吞み、我が目を疑いながらも、技術者としても優秀な彼女の頭脳はフル回転でその
残存エネルギーが極僅かとなり、動きが極めて鈍くなってしまった"ジーグルート"の前に、緩やかに"黒豹"が下りていく。その手には先ほどまでの光球ではなく別の、全世界の最先端の情報を網羅しているハズの彼女でも全く見覚えのない武器が握られていた。鋭利な鎌のような形状をした3つの爪が緩やかに回転しながら、その先端同士の間の空間で見るも眩い白光を放つ球体を発生させている。その白光が
"黒豹"があざ笑うように逃げ始め、その手に携えた
外壁を駆け上がるように上昇していく"
“OWTC”の頂点にたどり着いた瞬間、"
「待ちくたびれたぜェッ!!
ビルを挟んで反対側から飛び出した"
「もひとつオマケだァッ!!」
180度左右に開かれ一回転した鋼脚が両肘を正確に捉え、小枝のようにポッキリと捥ぎ取られ、そして。
「ッシ!!
『おっかのした~ッ!!』
『ぬぁあああああああああ!?!?』
サッカーのオーバーヘッドキックの要領で蹴り飛ばされた先、虚空から溶け出すように現れた“
『こ、れは、私、乗ってる、必要、あったかァッ!?』
『誰かに操縦桿握っててもらってる方がチョーシいーんだもーんッ!! ほらほら、ガンバッテーッ!!』
『ぐぬ、うぅ、無事帰ったら、許さんからな、カデン、ソォンッ!!』
"ジーグルート"の重量を抱えておいて少々ふらつく程度で済ませている辺り、
『ハァイッ!! お届けにあがりました~ッ!!』
“
「お待ち、してたッス」
手を緩めない。一切の余地を残さない。強化された視界故に支障がなかったからこそ、彼女は気付くのが遅れた。今夜は快晴であるにも関わらず、“
"ジーグルート"が緩やかに顔を擡げる。即ち、頭上にエネルギー反応を捉えている証左。高い熱量を含み、且つ分厚い影を落とすような、空に浮かぶもの。該当する対象は、然程多くはない。
地鳴りのような重低音。今この時も膨れ上がりながら内部で火花を弾けさせている黒雲は、池の畔に立つ小さなロボットが持つクレーンアームのような三つ指の機械から生み出されており。
「"
雷轟一閃。慟哭を上げるが如く天を仰いで牙の折れた
補足説明
・『リーチボム(Leech Bomb)』/出典『FUTURE』
作中にも書いた通り、相手のエネルギーを奪う、つまり攻撃した敵のナノテック(体力)を奪って攻撃と同時に回復まで出来てしまうという爆弾型ガラメカ。攻撃力・回復量共に上位互換の『メガリーチボム(Mega Leech Bomd)』も存在する。
『FUTURE』にはこれを始めとした、銃火器に対する弾薬を購入するのではなく、爆弾やドローンそのものを購入する消費型ガラメカという、普通に遊ぶだけなら使わなくても何ら問題はないのだが、使ってみるとこれが結構便利だったり面白いガラメカが存在する。あのグルーブトロンもここに含まれており、使い切ってしまう度にクイックチェンジメニューから消えてしまうという難点こそあるものの、なんと2周目以降は大金を払えばグルーブトロンのみ無限使用可能になってしまうというモノホンの公式チートが解禁されるのである……いやだってこうでもしないと一部のスキルポイントが(ry
・『プラズマコイル(Plasma Coil)』/初出『2』
読んで字の如くプラズマ球を放るガラメカ。強化していくと着弾した相手から近くの敵に向かって電撃が放たれたり、そもそも着弾しなくても近くの敵に向かって電撃を放ったりする。見た目もシンプルでとてもいい。
・『サンダースマック(Thundersmack)』/初出『A4O』
近くにいる敵に自動的に雷を落として攻撃する雷雲を発生させるガラメカ。チャージ、というかどんどん雲にエネルギーを溜め込むことが出来るのだが、正直使い勝手はそれほど良くはない(作者個人の感想です)。というのもラチェクラって基本的に場所を転々としながら戦うアクションなので、トラップ系はアリーナステージとか防衛ミッション中なら多少は日の目を見るんだけど、『A4O』には悲しいかな、ないんだよね、アリーナ……ボス戦はランチャー系使ってた方が断然速いし。あ、でも『Qフォース』では割と世話になったよ?(謎フォロー)
どうも、作者のGeorge Gregoryです。
はい。白状しますと、執筆が捗らなかったってのも勿論なんですが、遅れて面白さに気付いたシャニマスにどっぷり浸かってました。全人類小宮果穂をすこれ。でもウチにはなーちゃんとまみみんとひななんがアホほど来るの。ナゼ? P-SSR凸ったのなんて初めてダヨ?
ちなみに『Welcome To Die(シヌニヨウコソ)』は文法的には間違いなのですが、対戦格闘ゲーム『MARVEL vs CAPCOM3』におけるデッドプールのマグニートー対戦時専用ボイスから拝借しております。こんなのね、通じればイインダヨ。勝利時のボイスもかなり好き。ってか作者はこのゲームでデップー知ってドツボにハマり単体ゲームも買いました。日本ROM作ってくれないかしら。加瀬康之さんと子安武人さんの両方ボイス収録してくれたら諭吉5人までなら払う(真顔)
次回で本章は畳みます。今回いつにもましてかなり勢いで書いてますのでとりとめのないとこあったらゴメンナサイね。でもこれ手直ししてたら永遠に終わらないの目に見えてるし、俺自身早くここ終わらせて次行きたいンス。解ってくだちい。……え? 『彼女』って誰だって? ワカラナイナーダレナンダローナー(ヘッタクソな口笛)
ではまた、近い内にお会い出来ることを願って。
いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。