ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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ヒスイ地方超楽しい。


Dress For Success Ⅲ

「狙われる心当たりは?」と訊かれれば「ありすぎてどれだか解らない」と答える。IS学園とはそういう場所だ。例えそれが人でも、物でも、知識でも、技術でも、()()()()()()()()()払ってでも欲しがる輩はごまんといる。『IS学園』という名が持つ価値はそれだけ高いのだ。まぁ、だからといって学園祭の入場券がインターネットで高額転売されているのを初めて見つけた時は思わず呆れたものだが(勿論特定した上で失効処分とした)。

 

 故に、常日頃から厳重に警戒網を張り巡らせており、何度漏洩を押し留めたかなんて、もう数えちゃあいない。生徒・教師・職員・業者・それらの関係者。あの手この手でどこからともなく入り込み、漁り回り、持ち出そうとする。()()()()()()()でないのは、まぁ自慢話になってしまうのだけれど、自分が生徒会長に就任してからはただの一度もそれを許したことがないからだ。

 

 だからこそ今回も、必ず食い止める。食い止めなければならない。自分が“更識楯無”であり続ける為に。

 

(足のサイズと歩幅からして10代前半。防犯カメラに全然映っていないのに足取りには全く躊躇の気配なし。お目当てがちゃんと決まってて、場所の見当もついてるわね。ここまで微かにしか痕跡を残していないことからしても相当な手練れなのは間違いない。気を引き締めないと)

 

 水の操作を得手とする専用機(レイディ)のハイパーセンサーを使って、微細な水分の変化や、傍目には解らないような微かな凹み等を頼りに侵入者の足取りを追って辿り着いたのは研究棟の地下区画。ここは色々な()()()()()()()()で世界各国から集められた、あるいは回収された代物を秘密裏に管理したり解析したりしている場所である。

 

 そう、例えば。

 

「……無人機(これ)じゃないの?」

 

 先だってのクラス代表戦に乱入してきた"Golem(ゴゥレム)"、その残骸。タイミング的にもこれなのではないか、と踏んでいたのだけれど、見たところ全くの手つかず。どうやら違ったらしい。

 

 では一体何が目的なのか。最近回収された中で怪しげなものとなると、『掌サイズの空飛ぶ車』か、『異様なほど高い放射線量を発している六角形の石鹸』か、はたまた『破損したコンセント頭の二足歩行型ロボット』か。……まさか先日中東のスラムで回収された『虹色の電撃アフロ』ではないだろうし。いやホント、何がどうしてこんなもの作ったのやら。こんな先進技術の無駄使い見たことない。

 

 保管庫を片っ端から確認して回るが、なくなっているものどころか、全く手を付けたような痕跡すら見受けられない。どれか1つでも十分な危険性とそれに見合うだけの価値があるハズだというのに、一切目もくれないとは。では、一体何が目的で。

 

「―――まさか」

 

 そこで、ここよりも更に奥深い区画にて保管されている()()()()()に思い当たり、胸のざわめきを覚える。どこから存在が漏れたというのか。この学園内どころか、各国政府ですら知っているのはごく一部。加えて、この先の区画には生徒会長(じぶん)クラスの権限がなければ踏み入ることすら出来ない。考えすぎだ。杞憂に終わる。そのハズなのに、何度も修羅場を潜り抜けて来た直感は喧しいくらいに警鐘を鳴らしてやまない。

 

「けれど、()()()()()()()()()()()()()

 

 カメラやセンサー等の機器は、嘘はつかないが、方法さえ解っていれば簡単に誤魔化せてしまう。直接肉眼で確かめるのが最も確実だ。

 

 踏み入るのは特殊合金製の格子と強化ガラスとで何層もの封印がなされた区画。その最奥にて座すのは"打鉄"とよく似た武者鎧を模した石像。それが“凍結状態のIS”であることも、凍結した原因も、学園(ここ)にあることすらも、悉くが秘匿された、この世に生きる者であればその名を知らないハズはない伝説の第1世代機。

 

 その名を―――

 

「ナルホド、やはりここだったか」

 

 間違いなく持ち出されていないことを視認した瞬間、全く気配を悟らせることなく耳朶を擽った、聞くからに『愉快だ』という感情の解る声。あぁ、やっぱり。そう思いながら振り返る。()()()()()()()。どの道ここには来ざるを得なかったし、結果として私たちはここで対峙することになっただろうけれど、それでも忌々しく思うのを止められない。

 

 振り返った先、自分と同じく夜の影に溶け込む黒装束の矮躯が1つ。細くしなやかな四肢はしかし決して貧相ではなく、むしろ密度は高くしっかりと引き締まっているのが容易に判る。狙ってくるなら投げか締めか。いや、先入観は捨てろ。何せ、この少女の顔には()()()()()()()()()

 

「貰い受けるぞ、"暮桜(くれざくら)"」

「キミ、織斑家の親戚か何かかしら?」

 

 さて、どうしたものか。無事には、済まないわよねぇ。

 

 

 

 

 "山嵐"の総弾薬数はそれほど多くない。一斉掃射であれば後3回。なるだけ節約したいところではあるが、半端な弾数では簡単に撃ち落とされてしまって()()()()()()()()()()()()()()()。なので4基24門を片手のみに割り振って制御を行い、自動制御(オートマ)手動制御(マニュアル)を切り替えながら一定の距離を保ちつつ、あの"銀の秤(Silver Scale)"というらしいチャクラムの特性について観察を続けて、解ったことが幾つかある。

 

 まず、直接振り回しての斬撃以外に、ある程度の遠隔操作が可能であるようだ。"B.Tears(ティアーズ)"のビットほどの精度や射程ではないものの、意のままに飛ばしたり、引き戻したり、薙ぎ払ったり、留まらせたりすることが可能。1・2発程度のミサイルは飛ばすまでもなく、直接切り落としていた。向こうとしても"銀の鐘(Silver Bell)"の爆撃の連発は避けたいのだろう。

 

 で、目下最大の注目点である、ワープゲートのようなあの現象だが。

 

「うん、やっぱりだ」

 

 今向かわせた10基ほどのミサイルに対して使用したのを見て確信した。あのゲートは超高速で収納と展開を行っているだけで、システムとしては拡張領域(バススロット)のそれと殆ど違いがない。

 

 根拠として挙げられるのは、収納(すいこみ)展開(とりだし)は同時に行えていないという点。あれは本当に『ワープ』しているのではなく、あくまで『入口』と『出口』なのだ。よくその手の作品にあるような『通過している最中にゲートを閉じて空間ごと切断』なんて真似は、恐らく出来ない。

 

 そして、もう1つ。ゲートを開いているところに"春雷(荷電粒子砲)"の攻撃を当てようとすると回避行動をとったのだ。つまりビーム系の攻撃に対しては同様の効果は期待できず、あれはあくまで実弾にのみ有効なのだと推測できる。

 

「なら、こうするッ!!」

 

 改めて"山嵐"を一斉掃射。ただし手動制御(マニュアル)で左右2つに分散させてから自動制御(オートマ)に切り替え挟撃の軌道をとらせる。思い描いたのと寸分違わぬ軌道で迫っていく"山嵐"のミサイルは、しかし。

 

「だよね、私でもそうするッ!!」

 

 "福音"が左右両方に『入口』として展開した"銀の秤(Silver Scale)"に吸い込まれていく。()()()()()

 

「今なら、当たるッ!!」

 

 予め狙いを定めていた"春雷"から二筋の光線が放たれる。そう、"銀の秤(Silver Scale)"をゲートとして使っている間、"福音"の動きが著しく制限されていたのだ。恐らく制御にリソースの大半を使っているからだろう。であれば、両方ともフルで使わせてしまえば、まずまともに身動きがとれなくなるハズだ。その推測は、どうやら見事に的中したようだ。

 

 そう、ここまでは。

 

Start Confirmation(起動確認) "Silver Grail(銀の杯)" Occupancy Rate(稼働率):96.8% -No Abnormality(異常なし)-》

「え」

 

 ミサイルを最後まで吸い込んでいては間に合わないとの判断だったのだろう、"福音"は"銀の秤(Silver Scale)"のゲートを閉じ、周囲を薙ぎ払うようにして残りのミサイルを凌いだかと思うと、"春雷"の軌道からほんの微かに機体を傾け躱した。そこまではいい。そこまではまだ想定内だった。そこまでであれば、これを繰り返せば時間を稼げる。そう、思っていた。

 

 "福音"の脇を通り過ぎていくハズの"春雷"の砲撃が、ぐるりとその向きを変えた。そればかりか、まるでそこに()()()()()でもあるかのように、土星の輪のように"福音"の周囲をぐるぐると回転しており、しかも回転が続くにつれて砲撃の威力が弱まっていき、やがて溶けるように消えてしまったのが見て取れた。

 

 瞬間的に理解した。()()()()()、と。

 

(ビーム兵器の威力を受け流しエネルギーを吸収する特殊な障壁(シールドエネルギー)ッ!? 単一仕様能力(ワンオフアビリティ)まで解禁されてるなんてッ!?)

 

 超音速を維持し続ける高機動スラスター兼広範囲爆撃兵装"銀の鐘(Silver Bell)"だけでも厄介だというのに、実弾は"銀の秤(Silver Scale)"で、ビーム兵器は今の"銀の杯(Silver Grail)"で。補給も休息も必要なく戦い続けられる超高効率戦闘技術の塊。敵の武力すら利用して永遠に飛翔し続ける『死の翼』。

 

(近づけない。逃げられない。倒せない。有効打もない。こんなのどうしろって)

 

 そう考えた、考えてしまった隙を、見逃されるハズもなかった。

 

「あ」

 

 展開される"銀の鐘(Silver Bell)"。真っ直ぐにこちらを向いた36の砲門から放たれる凶星。スラスターの点火はしていないし、地に足もついていない、宙ぶらりんの()()()。咄嗟に"山嵐"を手動制御(マニュアル)で稼働させるが、今からミサイルが放たれる前に向こうの砲撃が届いてしまうのは目に見えていた。

 

 否が応にでも解ってしまった。()()()()()()。そして()()()()()()

 

 だからだろうか、月光を背に、余りに神秘的な輝きに満ちたその姿を見て、どうでもいいことが脳裏を過った。

 

 

 あぁ、これが味方であったなら、確かに福音以外の何物でもな――――

 

 

 

 

 

 

『――――諦めるのはアナタの自由ですが、その前にほんの少し、右に避けて下さいます?』

 

 

 

 

 

 

「え」

 

 突如、開放回線(オープンチャンネル)から入った音声に咄嗟に振り向いてしまった自分のすぐそばを、瞬速の彗星が駆け抜ける。あまりに眩く、あまりに大きなその彗星は、真っ直ぐに自分へと迫っていた"銀の鐘(Silver Bell)"の36枚の羽全てを呑みこみ、射撃体勢のままだった"福音"も大きく跳び退らせた。

 

「な、にが」

 

 起きたの。そう続けようとしたが、そうすることはなかった。そうする前に、()()()()が後ろからやってきた。

 

「簪ッ、無事かッ!? 無事だなッ!?」

 

 血相を変えて飛んでくる篠ノ之箒が。 

 

「アンタ、意外と根性あるんじゃない。見直したわ」

 

 ニヤリと笑みを浮かべた凰鈴音が。

 

「良かった~……間に合ったんだね、僕たち」

 

 ほっと胸を撫で下ろしているシャルロット・デュノアが。

 

「ウム。完璧な狙撃だ。流石セシリア」

 

 満足そうに頷いているラウラ・ボーデヴィッヒが。

 

「当然ですわ。(わたくし)、Catch-As-Catch-Canの国、英国(ブリテン)淑女(レディ)でしてよ?」

 

 自慢げに"Star Light Mk-Ⅲ(ライフル)"のスコープから顔を持ち上げたセシリア・オルコットが。

 

 待ちわびていた顔ぶれが、そこにいた。

 

 




 どうも、作者のGeorge Gregoryです。

 ギリギリ1月中にもう一度更新できました。初期からこの設定は練ってたんですが、改めて執筆で肉付けすると強すぎるなこの"福音"……勝てるのかって? 勝たせますよ。その為の"ドレッドゾーン"だったのですもの(๑¯ω¯๑)

 ではまた、近い内にお会い出来ることを願って。

 いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。
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