ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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 ホゲータ、キミに決めた。


Dress For Success Ⅴ

 その話が始まるまで、その自覚がなかった。恐らく、この場にいる全員に少なからずそういう面があっただろうと思う。

 

「飛んでくる前に、全部撃ち落とす、ですか」

「やってみる価値はあるよ。考えてみれば、ワザワザ待ってる必要なんてないんだもん。アイツの直ぐ傍で爆発させられれば出鼻も挫けるし、誘爆も狙えるかもしれないし。どう?」

 

 自分がどうにかしなければならない。漠然とだとしても、自然とそう考えていた自分に、全く気が付けなかった。仕方のないこと、だと思いたい。何せアタシたちは全員、ずっと信頼できる味方なんてただの1人もいない競争社会の住人。我が強くてナンボ。追いつけ追い越せ、時には蹴落とせ。そういう世界で生きて来た。

 

「そう、ですわね。あれだけ巨大な砲塔ですし、ちゃんと狙いさえ定めさせてもらえれば」

「上手くいけばヤツを完封できるな。では、私が()()()になろう。篠ノ之と凰は攪乱役を。負担の大きい役所だが、いけるか?」

 

 中国に帰ってからのアタシは正直、かなり荒れていた。学園に来てからのアタシしか知らない皆が当時の私を見れば、目を疑うだろうレベルで、だ。不幸自慢になってしまうので普段は滅多に言わないが、両親の離婚、一夏との別れ、と気が滅入ることが立て続けに起きて、普段からして相当に()()()()()()であったのは自分でも否めない。

 

「願ってもない。近頃はずっと()()()()()()をしていた。任せてくれ。今度こそ、守り切ってみせる」

「凰、お前はどうだ」

 

 それも、学園に来てからは大分改善されたと思っていた。晴れて一夏と再会できたことは勿論、こうして皆と出会い、認め合って、後まぁこっちは認めたくはないのだけれど、あの憎らしくて堪らない()()()()()()()()にぽっきりと鼻っ柱を折られて、少しは丸くなったものと思っていたのだけれど。

 

「―――愚問ね。誰にモノ言ってんの?」

 

 けれど、あぁ、本当に()()()()だったらしい。腹立たしいけれど、確かにこのまま"福音"に挑んだとしても、返り討ちにあっていた確率の方がずっと高かっただろう。

 

 けれど、だからこそ、知らしめたい。思い知らせてやりたくて堪らない。

 

「作戦、もっと詰めましょう。目にもの見せてやる」

 

 アタシの実力は、まだまだこんなものじゃあない。

 

 アタシたちの実力は、まだまだこんなものじゃあない。

 

 

 

 

 性能面において"福音"と我々とでは大きな差があることは既に明白。であれば()()()()戦うだけ無駄、というのは最初から解っていたことだ。故にこそ最適解として"白式"の"零落白夜"による短期決戦という選択をしたワケだが、一夏(アイン)は未だに目を覚ましていないし、起きるのを待っていられるほど悠長にもしていられない。

 

 では、どうするか。"福音"になくて、我々にあるものは何か。答えは単純。『数』である。

 

 ISそのものの絶対数が少ない為に、IS戦は戦場においてすら『一対多』という状況になることがまず滅多にない。国によっては多くのコアを抱えていたりもするが、迂闊にそれら全てを1つの戦場に投入するような真似をすれば防御が手薄になり、他国に対して酷く無防備になってしまうからだ。

 

 そもそもIS戦に限らず、戦闘という状況下において多人数相手に単独で挑むような真似は可能な限り避けるべきだ。その為に先んじて情報を集め、策略を練り、不利な可能性の芽を摘んでいくのだ。しかも"福音"は広域殲滅型。一対多(そのような)想定での運用など考えられているハズもない。

 

 戦場における『数』は最も解り易い力の指標だ。それこそ、時に『暴力』と揶揄される程に。そう説明すると「身に染みて知ってるわよ」と凰は唇を尖らせ拗ねるように言った。恐らく、あのエースとかいう赤タイツの男との戦闘が原因だろう。

 

「アンタ、さっきから不意打ちだの()()()()()()()()だのばっかりじゃないのよッ!!」

「お、いいぜ? それなら俺1人で相手してやるよ」

 

 凰がそのように煽った直後、赤タイツ(エース・ハードライト)は大量の分身を発生させ、その陰に隠れながら光線銃・爆弾・追尾球と()()()()()()で我々全員を翻弄し、完封してみせたのである。その時の凰の表情といったら凄まじく、憤怒やら羞恥やら悔悟やらがごちゃ混ぜで煮え滾っていたのだろう、正しく般若の如し。なまじ自分が招いた事態であった為に何も言えなかったのだろう、待機スペースに強制送還されてからも沈黙を保ったままずっとそのような状態だった為、鎮まるまで誰一人として声をかけられなかったくらいである。

 

 話を戻すが、こちらは自分を含めて5機。それも各国の技術の粋を尽くした専用機である。これを利用しない手はない。そして、それぞれの機体の持ち味を考えれば、配役はすんなりと決まった。互いに何が出来て何が出来ないか、何が得意で何が不得意か、何が好きで何が嫌いかも、今までの学園生活が知らず知らずの内に教えてくれていた。故にこそ、一度その流れが生まれてしまえば、驚くほど話がスムーズに進んだ。

 

 そして自覚した。我々は、我々自身が思っている以上に特色(イロ)が濃く、()()()()、もっと悪く言えば()()()()()()であるということに。成程、これではすんなりと纏まるハズがない、と合点がいった。

 

(先日の教官と生徒会長が無闇に手を組まなかったのも、そにに尽きるのだろうな)

 

 思い返すのは結成当初の"黒兎隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)"。一癖も二癖もある各部隊からの精鋭(はみだしもの)ばかりが一堂に会したのだ。それはもう、揉めに揉めたものである。当時の私はシンプルに力にものを言わせて強引に主導権(たづな)を握ったワケだが、今回もそのようにして上手くいくとは到底考えられないし、そのような気もさらさらない。

 

―――成程、その為の全寮制の学園か。

 

 そのような視点で見ると、何とも上手く出来たシステムである。尤も、創立に携わった者の中にどれほどそのような意図を持っていた者がいたかは、推測の域を出ないが。

 

 ともあれ、我々は今この時までの日々で、互いの特色(イロ)というものを深く理解したが、『色』はただ混ぜるだけでは濁っていくばかりである。互いを引き立て合い、際立たせるには緻密な計算、あるいは大胆な感性(センス)が必要だ。そして、()()()()()()()()()()()()()は今、この場に揃っているという確信があった。

 

 主軸に据えるのはセシリア・オルコットと"Blue Tears"。彼女の狙撃でまず葉巻軍曹(シェルショック)の広範囲爆撃を封じる。その際にどうしても生まれる撃ち漏らしは全射程(オールレンジ)に即応でき、機動力・敏捷性に長けたシャルロット・デュノアと"Rafale Revive CustomⅡ"が遊撃に回り対応する。

 

 真っ先に妨害してくるであろう巨大カマキリ(エビサレイター)には、我々の中で最速を誇り近接戦闘に特化した篠ノ之箒と"紅椿"を、その補佐に近・中距離を自在に切り替えられ耐久力も高い凰鈴音と"甲龍"を。

 

 そして、狙撃手の守り手にして全体を俯瞰的視点で見渡しながら戦況を把握する観測手兼司令塔を自分、ラウラ・ボーデヴィッヒと"Schwarzer Ragen"が。

 

 各々の役割を明確にしてからは、ひたすらにトライ&エラーの繰り返し。

 

 葉巻軍曹(シェルショック)の完封には、それほど()()を必要としなかった。最初から解っていたことでもあるのだが、派手好きな気質なのか、それとも余程のバカなのか。確かに搭載している武装は悉くが高火力且つ広範囲で、脅威であることは間違いないのだが、いざ観察してみると一つ一つの動作が無駄に大きく、溜めも長ければ狙いも随分と甘いことが判った。漏れ聞こえてくる連中の会話から察するに、ヤツのAIチップは型落ちのコーヒーメーカーのものを流用しているらしい。納得すると同時に『あれだけの大型ロボットを動かせる程の性能(スペック)を持つ型落ちのコーヒーメーカーとは?』という新たな疑問が浮上。暫く我々の間で議論が発生した。()()()()()のことである。

 

 続いて立ち塞がった問題はやはり、巨大カマキリ(エビサレイター)である。近接攻撃を封じるのみであれば、自分の"停止結界(AIC)"がある。ところがこの虫、どこにどのように格納しているんだか全く想像ができないが、背部からは大量の誘導ミサイルをばら撒き、胸部からは極太レーザーを放つ、全射程(オールレンジ)対応が可能な極めて厄介な存在であることが発覚。驚きに目を見開く我々の隙を突かれてめでたく全員死亡(ゲームオーバー)。『ある程度の想定外は常に想定しておくべし』と全員が強く胸に刻んだ瞬間であった。

 

 他の3体とは違い、話さないのか話せないのかは定かではないが、一切言葉を発さず、表情も変えず、淡々と、粛々と殺しに来る恐怖は、戦場を知らない皆には相当に効いたようだ。血気盛んな凰でさえ、最初はまともに応戦できなかった程である。

 

 で、誰が対応するのか、と考えた場合。

 

(やはり、私が妥当か)

 

 元々その積りではいた。近接殺しの"停止結界(AIC)"が最も有効なのは明白。単に一対一で倒すだけならいくらでもやりようはあるが、何せ互いに入り乱れての混戦状態。確実性だけでなく即効性も同時に求められ、そしてその両方を私の"停止結界(AIC)"は満たしている。難点を挙げるとすれば。

 

「ラウラ。アイツのこと、どれくらい止めていられそう?」

「うむ、そうだな……」

 

 凰の質問に、暫し思索に耽る。あれほどの巨体を誇る相手とはそもそも交戦経験がない為に何もかもが推測の域を出ないが、今までの経験や感覚からざっと弾き出して、恐らく最長で2秒。それも、集中を乱されず万全の状態で臨めた場合。となれば、実戦では。

 

「1秒もてば良い方、だろうな」

「む~……普通の試合ならそれでも十分なんだろうけど」

 

 その1秒を、他の連中が悠長に許してくれるハズもない。

 

「イチバン機動力のある箒が筋肉モリモリマッチョマンの変態(エース・ハードライト)、パワー型のアタシがポッチャリデカブツ(リアクター)の相手。その間にセシリアとシャルロットがさっさとオゲレツオッサン(シェルショック)仕留めて集中砲火、ってのがベストかしらね」

「僕たちは狙う位置とタイミング、ほぼほぼ掴めてきたし、うん、上手くいけば」

「えぇ。ですが、常に最悪のパターンは想定しておくべきですわ」

 

 オルコットの言う通りである。と、なると。

 

「私1人でヤツを止められるのが理想、か」

 

 果たして可能だろうか。私自身の性能と"S.Ragen(レーゲン)"の性能、度重なる敗戦の中でまざまざと見せつけられた相手(エビサレイター)の戦闘力とを比較し、熟考する。

 

 速さも力も共に向こうに軍配が上がる為、真っ向から素直に応戦するのは愚策。昼に"黒豹(カデンソン氏)"に試した"反動加速(リコイルブースト)"(仮称)であれば、速さだけなら一矢報いれるかもしれないが、"瞬時加速(イグニッションブースト)"よりも更に直線的になってしまうのが()()()()()()し、何より乱発は私自身の肉体がもたない。

 

 苦肉の策となってしまうが、可能性があるとすれば。

 

「……ねぇ、ラウラ。こういうことを興味半分で訊くのもどうかと思ってたから、今まで訊かなかったんだけどさ」

「構わん、言ってみろデュノア。今は小事にかかずらっている場合ではない」

「そう? そう言ってもらえるなら遠慮なく訊いちゃうけど……ラウラのその『目』ってさ、全然、まったく使えないの?」

 

 そう、そこに行き着くのは自明の理である。"越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)"。施術により人並外れた領域まで強化された目をもってすればあるいは、あの化けカマキリ相手に単独でも善戦できるのでは、と。

 

「"黒兎隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)"のことは、学園に来る前から知ってたんだ。模擬戦だったけど、戦ってるところも一度だけ見たことがある。一隊員に至るまで皆、『目』を使った途端、傍目から見てても明らかに動きが変わってた。あれはちょっと、そう簡単には忘れられなくて」

「それでしたら(わたくし)も。『後の先』の一つの完成形、とでも言いましょうか。視神経に至るまで施されたナノマシンが視覚の情報処理と伝達の速度を飛躍的に向上させ、超長距離狙撃や超音速下での戦闘を格段に容易にする。……その反面、かかる負担も凄まじい、と」

「その通りだ。それ故においそれと濫用はできず、使用も極めて短時間に留めなければならない。限界を超過してしまうと脳へ莫大な負担がかかり、最悪の場合、後遺症が残る」

 

 我が隊ではクラリッサが3.58秒で最長だったか。()()()()()()

 

「後遺症って、例えば?」

「失明、程度で済めばまだ良い方だ。記憶障害、失語症、半身ないし全身麻痺。一見無症状のように見えても、性格が攻撃的になったり、言動が常識外れになっていた、なんてケースも報告として残っている」

 

 ぶるり、と篠ノ之と凰が自ら抱き締めた身を震わせた。表情も少し青褪めている。なんとも想像力豊かで、優しいことだ。

 

「それで、私の場合だが……上手く制御が利かないのだ」

「制御が、利かない?」

「"越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)"の保持者は施術後、まず頭の中にスイッチを作ることから始める。それは例えば、テレビのリモコンであったり、自動車のペダルであったりと、各々が想像しやすいものであれば何でも構わない。それでオンオフを切り替えるワケだ。手術の直前にそれを聞かされた私は、真っ先に拳銃の引き金を思い描いた。必ずそうしようと思いながら、麻酔による微睡みに身を委ね、ゆっくりと眠りに落ちた」

 

 左目の施術が終わり、一度術後の経過観察を行うタイミングで、それは起きた。突然、左の視界に閃光が迸ったのだ。天体望遠鏡で真昼の太陽を直接見てしまったかのような強烈な白光には、あっという間に『ラウラ・ボーデヴィッヒ(わたし)』の矮躯なんて呑み込み、塗り潰してしまいそうな眩しさだけでなく、経験したことがないほど強烈な、焼けるような痛みまでもがあった。堪らず藻掻き苦しんだ私は鎮静剤を打たれて再び意識を失い、次に目覚めた時には左の視界を喪っていただけでなく、あらゆる感覚が鈍ったり狂ったりまでしていた。沈痛な面持ちの医者は私にこう言った。

 

「本来であればオンオフの切り替えが必要なハズなのに、私の瞳は何故か、()()()()()()()()()()()()なんだそうだ。それが手術台の光を強化された視力で見たことで()()()()()()()、と」

 

 このまま右目にも施術を行えば同様の事態になりかねない。そうなれば完全な失明になってしまうし、更に別の弊害が引き起こされる可能性が極めて高い、とも。

 

「後は知っての通りだ。私は以前のように軍務をこなせなくなり挫折。一夏(アイン)が来るまで1人、自室に引き篭もっていた」

 

 経過観察によれば、私の左目の視力は既に快復しているらしい。だが、不用意に左目を使ってまた()()があっては、()()()()

 

「そういった不安や恐怖を、どうしても拭い切れなくてな……ナノマシンを抑制するこの眼帯を着けたまま片目で生活している、というワケだ」

 

 姉様からハイパーセンサーを使った見方も教えてもらったものの、いざそれを試してみるとおかしく感じられてしまって、今やすっかりこの片目の感覚が染みついてしまったのだなと実感した。

 

「じゃあ、ひょっとしてアンタが空中戦を避けてるのって」

「む。よく気が付いたな。そうだ。咄嗟に左目を使ってしまわないよう、不測の事態を可能な限り減らす為だ。恐れている、と言われてしまえばそれまでだがな」

 

 未だに浮遊感や落下感が好ましくないのは勿論だが、何よりも。

 

「正直、あの日を想起させられてしまうからかもしれない」

 

 施術後初めてISに搭乗しての訓練で、いとも簡単に制御不能に陥り、不格好に墜落してしまった、あの日のことを。あの日のように、小石が坂道を転がり落ちていくように簡単に、また()()()()()()に逆戻りしてしまうのではないか、と。

 

 自暴自棄なように見える冷笑を浮かべてしまったからだろう、皆が一様に『かける言葉が見つからない』と言わんばかりの複雑な表情でこちらを見ていた。なので。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 不敵に笑う。笑ってみせる。何せここでは()()()()()()()のだ。()()()()()()()()()()()()()()()、試すなら今をおいて他にない。素人の篠ノ之が恐怖を克服しようと自らを奮い立たせているのだ。軍人である私がいつまでも怖気づいているワケにもいくまい。

 

 

 

―――この場にいるのが私独りであったなら、そこまでで終わってしまっていただろう。

 

 

 

「ちょっといいかな、ラウラ」

「……デュノア?」

「それ、本当に『不適合』だったのかな?」

 

 その一筋の光明に気付かないまま、この暗闇の中で一生を終えてしまっていたことだろうと、今は強く思うのだ。

 

 




 どうも、作者のGeorge Gregoryです。

 だぁかぁらぁいつまでこのシナリオ引っ張るんだって(特大ブーメラン)……でもなぁ、ここばっかりはそれぞれしっかりじっくり書いておきたいんですよ。何せこの『臨海学校編』が終わったらいよいよ(ry

 ではまた、近い内にお会い出来ることを願って。

 いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。
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