ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
その話が始まるまで、その自覚がなかった。恐らく、この場にいる全員に少なからずそういう面があっただろうと思う。
「飛んでくる前に、全部撃ち落とす、ですか」
「やってみる価値はあるよ。考えてみれば、ワザワザ待ってる必要なんてないんだもん。アイツの直ぐ傍で爆発させられれば出鼻も挫けるし、誘爆も狙えるかもしれないし。どう?」
自分がどうにかしなければならない。漠然とだとしても、自然とそう考えていた自分に、全く気が付けなかった。仕方のないこと、だと思いたい。何せアタシたちは全員、ずっと信頼できる味方なんてただの1人もいない競争社会の住人。我が強くてナンボ。追いつけ追い越せ、時には蹴落とせ。そういう世界で生きて来た。
「そう、ですわね。あれだけ巨大な砲塔ですし、ちゃんと狙いさえ定めさせてもらえれば」
「上手くいけばヤツを完封できるな。では、私が
中国に帰ってからのアタシは正直、かなり荒れていた。学園に来てからのアタシしか知らない皆が当時の私を見れば、目を疑うだろうレベルで、だ。不幸自慢になってしまうので普段は滅多に言わないが、両親の離婚、一夏との別れ、と気が滅入ることが立て続けに起きて、普段からして相当に
「願ってもない。近頃はずっと
「凰、お前はどうだ」
それも、学園に来てからは大分改善されたと思っていた。晴れて一夏と再会できたことは勿論、こうして皆と出会い、認め合って、後まぁこっちは認めたくはないのだけれど、あの憎らしくて堪らない
「―――愚問ね。誰にモノ言ってんの?」
けれど、あぁ、本当に
けれど、だからこそ、知らしめたい。思い知らせてやりたくて堪らない。
「作戦、もっと詰めましょう。目にもの見せてやる」
アタシの実力は、まだまだこんなものじゃあない。
アタシたちの実力は、まだまだこんなものじゃあない。
性能面において"福音"と我々とでは大きな差があることは既に明白。であれば
では、どうするか。"福音"になくて、我々にあるものは何か。答えは単純。『数』である。
ISそのものの絶対数が少ない為に、IS戦は戦場においてすら『一対多』という状況になることがまず滅多にない。国によっては多くのコアを抱えていたりもするが、迂闊にそれら全てを1つの戦場に投入するような真似をすれば防御が手薄になり、他国に対して酷く無防備になってしまうからだ。
そもそもIS戦に限らず、戦闘という状況下において多人数相手に単独で挑むような真似は可能な限り避けるべきだ。その為に先んじて情報を集め、策略を練り、不利な可能性の芽を摘んでいくのだ。しかも"福音"は広域殲滅型。
戦場における『数』は最も解り易い力の指標だ。それこそ、時に『暴力』と揶揄される程に。そう説明すると「身に染みて知ってるわよ」と凰は唇を尖らせ拗ねるように言った。恐らく、あのエースとかいう赤タイツの男との戦闘が原因だろう。
「アンタ、さっきから不意打ちだの
「お、いいぜ? それなら俺1人で相手してやるよ」
凰がそのように煽った直後、
話を戻すが、こちらは自分を含めて5機。それも各国の技術の粋を尽くした専用機である。これを利用しない手はない。そして、それぞれの機体の持ち味を考えれば、配役はすんなりと決まった。互いに何が出来て何が出来ないか、何が得意で何が不得意か、何が好きで何が嫌いかも、今までの学園生活が知らず知らずの内に教えてくれていた。故にこそ、一度その流れが生まれてしまえば、驚くほど話がスムーズに進んだ。
そして自覚した。我々は、我々自身が思っている以上に
(先日の教官と生徒会長が無闇に手を組まなかったのも、そにに尽きるのだろうな)
思い返すのは結成当初の"
―――成程、その為の全寮制の学園か。
そのような視点で見ると、何とも上手く出来たシステムである。尤も、創立に携わった者の中にどれほどそのような意図を持っていた者がいたかは、推測の域を出ないが。
ともあれ、我々は今この時までの日々で、互いの
主軸に据えるのはセシリア・オルコットと"Blue Tears"。彼女の狙撃でまず
真っ先に妨害してくるであろう
そして、狙撃手の守り手にして全体を俯瞰的視点で見渡しながら戦況を把握する観測手兼司令塔を自分、ラウラ・ボーデヴィッヒと"Schwarzer Ragen"が。
各々の役割を明確にしてからは、ひたすらにトライ&エラーの繰り返し。
続いて立ち塞がった問題はやはり、
他の3体とは違い、話さないのか話せないのかは定かではないが、一切言葉を発さず、表情も変えず、淡々と、粛々と殺しに来る恐怖は、戦場を知らない皆には相当に効いたようだ。血気盛んな凰でさえ、最初はまともに応戦できなかった程である。
で、誰が対応するのか、と考えた場合。
(やはり、私が妥当か)
元々その積りではいた。近接殺しの"
「ラウラ。アイツのこと、どれくらい止めていられそう?」
「うむ、そうだな……」
凰の質問に、暫し思索に耽る。あれほどの巨体を誇る相手とはそもそも交戦経験がない為に何もかもが推測の域を出ないが、今までの経験や感覚からざっと弾き出して、恐らく最長で2秒。それも、集中を乱されず万全の状態で臨めた場合。となれば、実戦では。
「1秒もてば良い方、だろうな」
「む~……普通の試合ならそれでも十分なんだろうけど」
その1秒を、他の連中が悠長に許してくれるハズもない。
「イチバン機動力のある箒が
「僕たちは狙う位置とタイミング、ほぼほぼ掴めてきたし、うん、上手くいけば」
「えぇ。ですが、常に最悪のパターンは想定しておくべきですわ」
オルコットの言う通りである。と、なると。
「私1人でヤツを止められるのが理想、か」
果たして可能だろうか。私自身の性能と"
速さも力も共に向こうに軍配が上がる為、真っ向から素直に応戦するのは愚策。昼に"
苦肉の策となってしまうが、可能性があるとすれば。
「……ねぇ、ラウラ。こういうことを興味半分で訊くのもどうかと思ってたから、今まで訊かなかったんだけどさ」
「構わん、言ってみろデュノア。今は小事にかかずらっている場合ではない」
「そう? そう言ってもらえるなら遠慮なく訊いちゃうけど……ラウラのその『目』ってさ、全然、まったく使えないの?」
そう、そこに行き着くのは自明の理である。"
「"
「それでしたら
「その通りだ。それ故においそれと濫用はできず、使用も極めて短時間に留めなければならない。限界を超過してしまうと脳へ莫大な負担がかかり、最悪の場合、後遺症が残る」
我が隊ではクラリッサが3.58秒で最長だったか。
「後遺症って、例えば?」
「失明、程度で済めばまだ良い方だ。記憶障害、失語症、半身ないし全身麻痺。一見無症状のように見えても、性格が攻撃的になったり、言動が常識外れになっていた、なんてケースも報告として残っている」
ぶるり、と篠ノ之と凰が自ら抱き締めた身を震わせた。表情も少し青褪めている。なんとも想像力豊かで、優しいことだ。
「それで、私の場合だが……上手く制御が利かないのだ」
「制御が、利かない?」
「"
左目の施術が終わり、一度術後の経過観察を行うタイミングで、それは起きた。突然、左の視界に閃光が迸ったのだ。天体望遠鏡で真昼の太陽を直接見てしまったかのような強烈な白光には、あっという間に『
「本来であればオンオフの切り替えが必要なハズなのに、私の瞳は何故か、
このまま右目にも施術を行えば同様の事態になりかねない。そうなれば完全な失明になってしまうし、更に別の弊害が引き起こされる可能性が極めて高い、とも。
「後は知っての通りだ。私は以前のように軍務をこなせなくなり挫折。
経過観察によれば、私の左目の視力は既に快復しているらしい。だが、不用意に左目を使ってまた
「そういった不安や恐怖を、どうしても拭い切れなくてな……ナノマシンを抑制するこの眼帯を着けたまま片目で生活している、というワケだ」
姉様からハイパーセンサーを使った見方も教えてもらったものの、いざそれを試してみるとおかしく感じられてしまって、今やすっかりこの片目の感覚が染みついてしまったのだなと実感した。
「じゃあ、ひょっとしてアンタが空中戦を避けてるのって」
「む。よく気が付いたな。そうだ。咄嗟に左目を使ってしまわないよう、不測の事態を可能な限り減らす為だ。恐れている、と言われてしまえばそれまでだがな」
未だに浮遊感や落下感が好ましくないのは勿論だが、何よりも。
「正直、あの日を想起させられてしまうからかもしれない」
施術後初めてISに搭乗しての訓練で、いとも簡単に制御不能に陥り、不格好に墜落してしまった、あの日のことを。あの日のように、小石が坂道を転がり落ちていくように簡単に、また
自暴自棄なように見える冷笑を浮かべてしまったからだろう、皆が一様に『かける言葉が見つからない』と言わんばかりの複雑な表情でこちらを見ていた。なので。
「
不敵に笑う。笑ってみせる。何せここでは
―――この場にいるのが私独りであったなら、そこまでで終わってしまっていただろう。
「ちょっといいかな、ラウラ」
「……デュノア?」
「それ、本当に『不適合』だったのかな?」
その一筋の光明に気付かないまま、この暗闇の中で一生を終えてしまっていたことだろうと、今は強く思うのだ。
どうも、作者のGeorge Gregoryです。
だぁかぁらぁいつまでこのシナリオ引っ張るんだって(特大ブーメラン)……でもなぁ、ここばっかりはそれぞれしっかりじっくり書いておきたいんですよ。何せこの『臨海学校編』が終わったらいよいよ(ry
ではまた、近い内にお会い出来ることを願って。
いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。