ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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今日USBをノーパソに繋いだら今まで書いた原稿やまとめが何故か吹き飛んでおり、どこ探してもないしで血の気が引きました。
外付けHDDに割と最近までのがちゃんと残ってて九死に一生でした……でも思いついた傍からメモ帳にアウトプット→存在を忘れる前にテキスト化して残してた小ネタとかよさげな台詞集とかは完全に消えてて複雑な気分で書いております。



Dress For Success Ⅶ

 心は熱く、頭は冷静に。言葉にするのは簡単だけれど、いざ実行に移すとなるとなかなかそうはいかない。『頭より先に体が動く(アタシみたいな)』タイプは特にそうだ。

 

 元々、はっきり喜怒哀楽の感情を発露させないと気が済まない性質(たち)。思ったことや感じたことを言わずに飲み込んでしまうと、もやもやとした消化不良感が残って、気持ち悪くて仕方がなくなってしまう。

 

 それに、何よりも、それの積み重ねが、父さんと母さんを。

 

 だから、そうすることで良いことなんてきっと一つもなくて、それを当たり前のように受け入れてしまっている連中が何よりも嫌いだったし、そんなアタシに「面白いヤツだな。気に入った」と目をかけてくれた(ヤン)管理官のことは、実の姉のように信頼している。

 

 そして、学園に来て間もない頃、まだ"黒豹"の正体だと知る前のカデンソンさんに対しても、同じような気持ちでいたことは、否定できない。

 

 自分で言うのもアレだけども、初対面の時、生意気とも挑発的とも捉えられかねないアタシの態度を見て、本国の大多数の連中みたいに嫌悪感を示すでもなく、管理官のように興味を示すでもなく、ただただ『あぁ、キミはそういうヤツなのね。了解』って風に、()()()()()をすんなりと受け入れられたのは、正直ちょっと、いや、かなり嬉しかったのだ。

 

 それに、自分の得意なこと・好きなことの最前線で仕事していて、それも()()()()()()()にあって忙しいハズなのに、アタシたち一人一人にちゃんと時間を割いてくれて、面倒見も良くて、教えるのも上手くて、そのことで全然威張ったり鼻にかけたりもしない。何よりも、言動に嘘や裏表を感じさせない。これが、本当に心地好かった。こう、小さい頃に漠然と思い描いていた『理想の大人』そのもの、って感じがして。

 

 だから、うん、こっちが勝手に自分の理想を重ねて見ていたってだけで、それを『裏切られた』だの『嘘をつかれた』だのと感じるのは()()()()だ、ってのは重々承知しているのだけれど、そう簡単に割り切れるのならこんなに思い悩んでいないワケで。

 

 ……そういえばカデンソンさん、アタシの『"黒豹(アンタ)"ぶっ倒す』宣言、どんな気持ちで聞いてたんだろう。今にして思えば、大分露骨に狼狽えていたような気がする。やっぱり、びっくりしてたんだろうな、きっと。そう考えると、かなりお間抜けな自分に恥ずかしくもなりつつ、ほんのちょっぴりだけ、胸がすっとする。

 

 強いのは知っている。敵わないのも解っている。何せアタシはISに乗り始めてまだ2年目。何もかもが急造の詰め込み。"甲龍"のメンテナンスも、解らなくなったり間違えたっぽかったら、その都度マニュアル読むくらいの『習うより慣れよ(いつもの)』方式。楊管理官も『とにかく回数こなして自分で感覚掴め』っていうタイプの人だから、凄くお世話にはなっているものの、教わったものっていうと候補生になるにあたっての精神論、みたいなものばかり。

 

 だから、ISの技術についての先生ってことならカデンソンさんが初めてだし、それなりの理論に基づいてちゃんと順序立てて何かを教わったっていうのも、父さんの料理以来のことだった。

 

「酢豚の肉は余熱で火入れすんだ。この油の温度で、この秒数。音の変化と感覚を忘れるな」

「野菜の下拵えは絶対に怠るな。そのひと手間で見栄えも食感も段違いに変わるし、結果として時短にも繋がる」

 

 普段は『不機嫌なのか?』って思うくらいむすっとした顔で黙りこくってるクセに、料理のことになると饒舌に語り出す父さんの教えは、感覚派のアタシにもびっくりするくらい解り易くて、大抵のレシピは2~3回も作ればそれなりのクオリティを出せるようになったし、母さんからも何度も『美味しい』って言ってもらえた。どうしてこの手順なのか。どうしてこの食材で、この調味料で、この調理法を使うのか。一つ一つにちゃんと意味があることが面白くて、あっという間に夢中になった。

 

「いいか。料理は魔法なんかじゃねぇ。料理は化学よ。美味いメシは、美味くなる手順を踏んでいるからこそ、美味いんだ」

 

 だからこそ、省いていいものはどんどん省け。逆に、怠ってはならないものは決して怠るな。それが、父さんの口癖だった。

 

 そして、何故だか、そんな父さんの面影や名残、みたいなものを、カデンソンさんの教えにも感じたことが、何度かあった。

 

 格闘訓練は身体能力の見極め。銃火器に関する講義は"甲龍(近・中距離型)"に有効とされている武器の知識。サバイバル技術は非常時における心構えと余裕の持ち方。忍者の歩法や呼吸の訓練はより速く鋭く静かな接敵の手段。ダンスは基礎体力や体幹を鍛えると同時に、音楽やリズムを通じて『相手に合わせる』ということを。そして、編み物と折り紙は指先という肉体の末端を自在に操る訓練であると同時に、自分にはない感性(センス)を知ったり『構造を考える』ということを。

 

 決して、本人が『これが目的』と言ったワケじゃあない。どれも続けていく内にアタシが気が付いたり、気になるようになったことでしかない。けれど、また別の日。一夏たちに教えている時、あの人はこうも言っていた。

 

「楽しくなけりゃ、何事も続かない。そして楽しむには、正しい知識と達成感が必要だ」

 

 そうして目まぐるしい日々を送っていく内に集まっていた歯車が()()()()()()に噛み合い、形となって表れた瞬間の悦びを言い表せるだけの言葉を、アタシは未だに持ち合わせていない。

 

 だからきっと、凰鈴音(アタシ)()()をくれた、この拳が。

 

『オイオイおチビちゃん、まだ解らないのかい?』

 

 まったく通じないというこの現実を()()()()()()んだろうなって、ようやく自覚した。

 

『何度やっても同じことよ。格闘戦は肉体で行う物理実験。数字は決して嘘を吐かず、感情で数式は覆らない』

「が、ぐ」

 

 この原子炉(リアクター)とかいうデカブツに、もう何度、一方的に叩きのめされただろう。30から先はもう数えるのを止めてしまったから、もう正確な数は判らない。

 

 ただ四肢を振るうだけで、大型トラックに轢き潰されるような重圧(プレッシャー)。見るからに分厚い装甲に相応しい堅さと、それで構成された巨体を十全に動かすパワー。腹立たしいくらいの、アタシの理想の体現。知っている。今更突き付けられなくたって、嫌になるほど知っているんだ。『デカくて堅くて重いヤツ』は、強いんだってことくらい。

 

『いつか伸びる』と信じて、どんなに小さな可能性にも縋った。食事・鍛錬・習慣・睡眠時間。1度だけ、お年玉貯金を崩して評判のいいサプリメントも試したことがあるけれど、何の効果もなかった。なのに、どれだけ渇望してもアタシの身長は伸びないのに、何もしていない周りの連中はタケノコかってくらいどんどん大きくなっていく。アタシが普通の倍以上の労力を費やしてもひょっとすると出来ないようなことを、そういう連中が『身長がある』という理由だけで軽々とこなしてしまう。

 

 ()()()()を延々と見せつけられれば、例え幼い子どもでも自分のハンデを痛感するのに、大した時間はかからなかった。けれど、その度に『それがどうした』と奮起した。なにくそ、嘗めるな、山椒は小粒でもぴりりと辛いのだ、と。幸い、それが出来るだけの素養と根性がアタシにはあったし、巡り合わせの良さもあったと思う。いや、現状を考えればむしろ、悪かったってことになるのだろうか。

 

 きっと、遅かれ早かれ()()()()()が来た。それがたまたま今日だった。()()()()()()の話。

 

 いつからか、心のどこかで覚悟はしていた。こんな()()()()()()がいつまでももつハズが、あるいは何も起こさないハズがない、と。だって、ねぇ。こんな癇癪玉みたいなヤツ、受け入れてくれる方が()()()()()()

 

「……フ、フフ」

『ム? とうとう気でも触れたか?』

 

 ()()()()()()のは、アタシもか。だって、こうまで痛めつけられないと、自分の弱さも受け入れられないんだから。

 

「そう、ね。アンタの言う通り」

 

 凰鈴音(アタシ)は小さい。凰鈴音(アタシ)は脆い。凰鈴音(アタシ)は薄っぺらい。凰鈴音(アタシ)は、弱い。

 

()()()ッ、()()()()ァッ!!」

 

 口いっぱいに鉄の味。全身に内側から燃えているような熱。疲労困憊の満身創痍。これが幻覚(ゆめ)とか、この期に及んでまだちょっと信じられてない。だってそれくらいリアルだし。

 

 さぁ、どうする凰鈴音(アタシ)。今の手持ちの武器は全部試した。刀折れ矢尽き、それでも尚、この肉体(からだ)は這い上がることを止める気がさらさらな―――

 

 

 

「―――()()()?」

 

 

 

『オ?』

 

 瞬間、輪郭はおぼろげながらも自分を衝き動かす閃きに従う。疲れも痛みも凄いけれど、そのお陰か、普段無意識レベルで籠めているようなほんの僅かな力みまでが完全に抜けて、まるで全身が透き通っているような感覚がある。

 

 滑るように上体を屈め、敵の寸前に突き刺した脚を軸に全身を回転。自分の身体が半分程度水の入ったペットボトルになったようなイメージをして、その水を一か所に集め、そしてその水に全身を。

 

()()()

『オォ』

 

 戯れに食らって思い切り吹き飛ばされたこともある、楊管理官の見様見真似『鉄山靠(たいあたり)』。手応えは悪くないけれど、まだズレがある。100%じゃない。

 

 ()()()()()()

 

『残念、まだ足りない』

 

 ()()()()()()()()()()()()()。それは何故だと考える。寸前で必ず地を蹴っているからだと思い至る。

 

 どれほど強力な技でも、打ってくる場所も、タイミングも、何もかもが解っていれば、いくらでも対処の仕様がある。事実、"黒豹(あの人)"には悉く見極められ、コイツには全てがっしり受け止められている。

 

 けれど、だからといって。

 

蹴り足(コレ)は省いていいものじゃあない)

 

 強い技は、強くなる手順を踏んでいるからこそ、強い。ただでさえ質量(体格)で劣る弾丸(アタシ)が、発射(蹴り)の勢いすらなくしたら豆鉄砲同然。

 

 なら、どうするか。

 

 頭をフル回転させながら、捕まる前に脱出。仕切り直す。

 

 肉体の隅々まで、指先、爪先、毛先の1本に至るまで、意識の糸を張り巡らせろ。寸分の狂いも許すな。呆れるほど、気が遠くなるほど繰り返してきたことを、今ここでもう一度、120点満点で。

 

 滑るだけじゃまだ遅い。落ちろ。落とせ。

 

『チッ』

 

 よし。より早く、鋭く、そして静かな踏み込み。虚を突けた。今度はまだ待ち構えられていない。まだ門が閉じられていない。()()()

 

 しっかりと軸足を突き立てる。踏みしめた地面から澱みなく、滞りなく伝えた水を、1点に集中させる。()()()

 

「凰候補生。完全な脱力(リラックス)から、打撃(インパクト)の瞬間だけでいい。『力を籠める』のではなく、『固める』んだ」

「いいかい凰さん。アメフトのタックルは基本的に『下から面で』だ。正面なら両手で。側面なら肩・肘・拳の3点で」

 

 打撃の瞬間に、肩・肘・拳の3点で平面を作り、固める。()()()。そして。

 

「恐れている、と言われてしまえばそれまでだがな」

 

 最後の仕上げ。スラスターと同時に"龍咆"と"崩拳"、全4門最大出力での"反動加速(リコイルブースト)"。自分にはなかった感性(センス)

 

 そうして撃鉄(震脚)を落とした刹那。

 

『――――ガ、ハァッ!?』

 

 頭の中でガチリと、力強く噛み合った音。背骨を通して全身に迸る電撃。

 

 重苦しく響く地鳴りと共に、『原子炉』の名を冠する鋼鉄の巨体が初めて、苦悶の表情を浮かべながら宙を舞ったのを、遠ざかっていく意識の中で見上げていた。

 

 こんな時に不謹慎だと思いつつも、楽しくて、愉しくて、仕方がなかった。




 どうも、作者のGeorge Gregoryです。

 これ書いてるとしょっちゅう、『俺ってば何の題材の作品書いてたっけ?』ってなります。後、『あれ、主人公誰だっけ?』とも。

 ここ最近、かなりのハイペースで更新できてるので、この勢いのまま行きたいところ。

 ではまた、近い内にお会い出来ることを願って。

 いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。
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