ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
手持ちの駒と、相手の駒。自陣と敵陣。
けれど、何事にも例外はあるのだなと、
例えば今、疑似的なコンビを組んでいるシャルロット・デュノアと"RRCⅡ"。勿論、狙撃と遊撃という役割の違いもあるのだろうけれど、彼女の持ち味は自他共に認める多彩な手札と、その切替の速さだ。そして、その強みを活かす為に、彼女は意図的に自身のテンションを常に8割程度で抑えているように窺えた。それについて本人に尋ねると、このような回答が返って来た。
「テスターの仕事って、文字通りの試験運用だから、何が起こるか解らないんだよね。だから、想定外の事態が起きてもちゃんと対処できるように、
確かに昼間、"
そして、同じように
その在り様はさながら、飢えた獣。より速く、より鋭く爪牙を研ぎ澄ましていく。その為になら、文字通りに骨肉すら一切の迷いなく削ぎ落とす。そんな不安定極まりない危うさがあった。
自傷ダメージがあっても全く歯牙にもかけず、耐えきれなかった装甲が砕けようと、肉体が傷つこうと、更なる破壊力の追及の手を緩めない。とうとう折れた腕で殴ろうとしたのは流石に看過できなかったので、少々気は引けたものの、このアリーナのシステムを逆手にとって
(…………?)
いつまで経っても、
「―――」
あまりに予想外の光景に、言葉を失った。
「ッ……ッ……」
「ほ、うき?」
篠ノ之箒が、その両目から大粒の涙を流しながら、凰鈴音の胸倉を掴み上げ、睨みつけていた。
小さい頃の
虫が怖い。犬が怖い。鳥が怖い。影が怖い。身の回りには小さな心を脅かすものが沢山あって、そういったものに遭遇する度に私はいつも竦んだ身を小さく縮こまらせてやりすごしていた。まるで亀がそうするように。そんな弱い自分が何よりも大嫌いで、けれどどうしたら強くなれるのかも解らなくて、ますます小さく丸くなっていく悪循環。
そんな
毎朝5時起きで身を清めて、ランニング5キロからの素振り500回。放課後は真っ先に家に帰り、道場で大人に混じって稽古。掌に
私は天才なんかじゃない。断じて器用でもない。初めての試合では何も出来ないまま、いっそ清々しいほど一方的に負かされた。それでも翌朝、染みついた習慣が勝手にいつも通りの時間に意識を起こし、肉体を動かしていた。
いくら走っても、いくら剣を振っても、まだまだ足りないという気がしてならなかった。どれだけ身体が疲れていても眠れない夜が何度もあった。そんな年の誕生日のことだった。父が二振りの素振り用木刀を贈ってくれたのは。
赤い樫と白い桐。樫の木は雨風や寒さに耐えながら緻密で力強い堅さを持ち、桐の木は『どこにでも生えてキリがない』とされるほど逞しく、美しい木目には一切の狂いがない。木刀として優れているのは勿論、「このようにあれ」と父に言われているような気がした。
要するに何が言いたいのかといえば、私は未だに自分のことを基本的に弱者だと、皆よりもずっと劣っていると思っていて、何故か目の前のこの、
満を持しての登場の仕方や、実況の紹介に対する観客の盛り上がりから察するに、この男が4人の中で最強ないしリーダー格なのだろうことは間違いない。でありながらこの男、他の3人と比較すると、少々見劣りしてしまう。決して弱くない。むしろ
でありながら、この男が他の3人を差し置いてチャンピオンたる立場にあるのは何故か。『ここぞという
サッカーの試合で相手守備のほんの僅かな隙をつきゴールを掻っ攫うストライカーのように。バレーの試合で強烈なスパイクを華麗に拾い上げるリベロのように。一石二鳥。漁夫の利。そういった
けれど、
「お嬢ちゃん。アンタ、
「ッ」
にたり、と。完全に何かの確信を得た表情で、彼は笑った。
「ニオイがする。汗と泥に塗れる以外知らない、刈り取られたばかりの雑草みてぇな青臭ェ匂いだ。羨ましそうに
「……れ」
「相手は誰だ? この場にいるのか? 理由は何だ?
「だま、れ」
「おぉ怖。おっかなくて仕方ねぇ。仕方ねぇんで、よ」
一瞬。図星を突かれてつい、頭に血が上ってしまったほんの一瞬で、彼が目の前に何か丸いものを放り投げ、かしゃりと赤いバイザーを下ろして。
「
「ぬァッ!?」
炸裂した閃光に視界を塗り潰され硬直してしまった私は、強い衝撃を受けて吹き飛ばされる。多分、思い切り前蹴りでも食らわされたのだろうと推測をしながら、どうにか体勢を立て直し着陸しようとして。
「「箒(さん)ッ!?」」
「な」
直ぐ傍に
『ウォオオオオオオオオオオッ!?!? ゲレツサクレツチョーキョーレツゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!』
「ぐ、あッ!?」
独特が過ぎる雄叫びを上げながら大爆発を起こす
「箒ッ、大丈夫ッ!? セシリアッ!!」
「了解ですわッ」
「おぉっと、危ねぇ危ねぇ」
私を庇うようにシャルロットが直ぐ傍に着地し、セシリアが牽制として放った数発の狙撃を、
「ゴメン、僕ら完全に見えてなかった。クソッ、卑怯だぞッ!!」
「オイオイ、人聞きの悪い言葉を使うんじゃあないぜ。こういうのはな、『機を見るに敏』っつーんだよ」
『
「―――んなワケねぇだろ黙ってろ
「……何故だ」
「あン? 何が?」
「……箒?」
「何故、そこまでの研鑽を積んでおきながら」
そこから先は、言葉にならなかった。見ていれば解る。解らいでか。この男は
「真の強さに『派手さ』や『華』なんてものは必要ない。いついかなる時も限りなく万全に近い状態を保てる者。そういった者こそが最も隙がなく厄介で、賞賛に値する」
嘗ての父の言葉が蘇る。父は正しくこの言葉を体現したような剣士であったし、この言葉には簪も同意していた。「結局、満遍なく全部のステータスが高いヤツがシンプルに強いんだよね」と。そして、そうなる為には、並大抵ではない長さの月日を費やす必要がある。決して一朝一夕で至れる境地ではないのだ。
「―――あぁ、なんだ。
彼は私の困惑だのなんだのを一瞥しただけで理解したような声を出し、そして。
「ならよォ、これも知ってんだろ、お嬢ちゃん」
心底呆れているような、同情しているような、何故か見ていて酷く心を掻き乱されるシニカルな笑みを浮かべて、このように続けた。
「努力は必ず報われるものじゃあない、ってよ?」
どうも、作者のGeorge Gregoryです。
遅ればせながらキラメイジャー完走の後にゼンカイジャー追いかけてて思っていた以上に主人公が懐デカいし機転効くし敵サイドがこんなカオスじゃなけりゃ激重展開だったなコレってなってる。……噂の柏餅回は思い切り正面衝突しましたけど。
どーでもいーけど『ゼンカイジャー』と『ゼンカイザー』がたまにごっちゃになる。
ではまた、近い内にお会い出来ることを願って。
いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。