ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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なんやかんやスルーしてたアニメ『ハイキュー‼』4期全部見終えて音駒戦以降が読みたくて実家の親父に配送頼んだ。



Dress For Success Ⅷ

 BIT(子機)を操作している時、どういう感覚がしているのか、とよく問われるのだけれど、その度にこう答えている。『詰将棋(Chess Problem)に似ている』

 

 手持ちの駒と、相手の駒。自陣と敵陣。(フィールド)の性質と情報。一手一手で確実に退路を断ち、包囲を狭め、追いつめて封じ込める。そうしていくことで相手は自ずと余裕を失くし、そうして生まれる迷いが、ほんの僅かな遅れやズレ、隙となって徐々に蝕まれていく。それは例え、どのような相手であろうとも、だ。だからこそ、私は常に"獅子は兎を捕らえるにも全力を尽くす(Whatever you do, do with all you might)"の精神で、誰に対してであろうとも常に全力であたっている。

 

 けれど、何事にも例外はあるのだなと、幻覚(ここ)で皆を見ている内に思うようになってきた。

 

 例えば今、疑似的なコンビを組んでいるシャルロット・デュノアと"RRCⅡ"。勿論、狙撃と遊撃という役割の違いもあるのだろうけれど、彼女の持ち味は自他共に認める多彩な手札と、その切替の速さだ。そして、その強みを活かす為に、彼女は意図的に自身のテンションを常に8割程度で抑えているように窺えた。それについて本人に尋ねると、このような回答が返って来た。

 

「テスターの仕事って、文字通りの試験運用だから、何が起こるか解らないんだよね。だから、想定外の事態が起きてもちゃんと対処できるように、精神(メンタル)をニュートラルに保っているよう、普段から心がけてるんだ。……まぁ、昼間は思いっきり取り乱してカッコ悪いとこ見せちゃったけどさ」

 

 確かに昼間、"黒豹(カデンソンさん)"との試合での彼女は妙に精彩を欠いているように見えた。珍しいことだ、と返すと「あぁ、うん、まぁ」とお茶を濁すようなぼやけた反応。これまた、基本的にはきはきとした受け答えをする彼女にしては珍しいことだ、と続けると「……ワザとじゃないんだよね?」と疑念の眼差しを向けられ、本気で解らず小首を傾げてしまったのは記憶に新しい。

 

 そして、同じように例外(それ)だと強く感じさせたのは、通算71回目のリトライでとうとうリアクターとやらに一矢報いたのをキッカケに、目覚ましい変化を見せ始めた凰鈴音と"甲龍"である。

 

 その在り様はさながら、飢えた獣。より速く、より鋭く爪牙を研ぎ澄ましていく。その為になら、文字通りに骨肉すら一切の迷いなく削ぎ落とす。そんな不安定極まりない危うさがあった。

 

 自傷ダメージがあっても全く歯牙にもかけず、耐えきれなかった装甲が砕けようと、肉体が傷つこうと、更なる破壊力の追及の手を緩めない。とうとう折れた腕で殴ろうとしたのは流石に看過できなかったので、少々気は引けたものの、このアリーナのシステムを逆手にとって()()退()()させた。案の定、彼女は待機スペースに戻って直ぐ、「いいところだったのに」と烈火の如き怒りを顕わにして掴みかかって来た。致し方ない、これくらいは甘んじて受け入れよう、吐き出しきって彼女が落ち着いてからこちらの言い分を、言って解らない娘ではないことだし。そう思い、目を閉じて胸倉を掴まれる衝撃が来るのを待っていた、の、だが。

 

(…………?)

 

 いつまで経っても、衝撃(それ)が来ない。不思議に思い、ゆっくりと瞼を開いてみて。

 

「―――」

 

 あまりに予想外の光景に、言葉を失った。

 

「ッ……ッ……」

「ほ、うき?」

 

 篠ノ之箒が、その両目から大粒の涙を流しながら、凰鈴音の胸倉を掴み上げ、睨みつけていた。

 

 

 

 

 小さい頃の篠ノ之箒(わたし)は兎に角、小心者の臆病者だった。

 

 虫が怖い。犬が怖い。鳥が怖い。影が怖い。身の回りには小さな心を脅かすものが沢山あって、そういったものに遭遇する度に私はいつも竦んだ身を小さく縮こまらせてやりすごしていた。まるで亀がそうするように。そんな弱い自分が何よりも大嫌いで、けれどどうしたら強くなれるのかも解らなくて、ますます小さく丸くなっていく悪循環。

 

 そんな弱虫(じぶん)を忘れていられる、というのが私が剣道に入れこんだ一因であるのは間違いない。

 

 毎朝5時起きで身を清めて、ランニング5キロからの素振り500回。放課後は真っ先に家に帰り、道場で大人に混じって稽古。掌に肉刺(マメ)ができる度、足裏の皮膚が固くなる度、自分が強くなれている証であるような気がしたし、実際に以前ほど何かに怯えたり竦み上がったりしてしまう頻度は少なくなっていた。

 

 私は天才なんかじゃない。断じて器用でもない。初めての試合では何も出来ないまま、いっそ清々しいほど一方的に負かされた。それでも翌朝、染みついた習慣が勝手にいつも通りの時間に意識を起こし、肉体を動かしていた。

 

 いくら走っても、いくら剣を振っても、まだまだ足りないという気がしてならなかった。どれだけ身体が疲れていても眠れない夜が何度もあった。そんな年の誕生日のことだった。父が二振りの素振り用木刀を贈ってくれたのは。

 

 赤い樫と白い桐。樫の木は雨風や寒さに耐えながら緻密で力強い堅さを持ち、桐の木は『どこにでも生えてキリがない』とされるほど逞しく、美しい木目には一切の狂いがない。木刀として優れているのは勿論、「このようにあれ」と父に言われているような気がした。

 

 要するに何が言いたいのかといえば、私は未だに自分のことを基本的に弱者だと、皆よりもずっと劣っていると思っていて、何故か目の前のこの、最優(エース)を名に持つこの男に()()()()()()()と言うか、波長というか、そういったものを感じ取っている、ということである。

 

 満を持しての登場の仕方や、実況の紹介に対する観客の盛り上がりから察するに、この男が4人の中で最強ないしリーダー格なのだろうことは間違いない。でありながらこの男、他の3人と比較すると、少々見劣りしてしまう。決して弱くない。むしろ王者(チャンピオン)だけあって、一撃一撃は重く鋭い。良く言えば『玄人向け』。悪く言えば『華がない』。それは、『興行の主役(チャンピオン)』としては致命的だ。観客はどうしたって()()()()()()を求める。派手な衣装や舞台演出、豪快な技の応酬、そういった見応えのない試合には、なかなか観客は沸き立たない。

 

 でありながら、この男が他の3人を差し置いてチャンピオンたる立場にあるのは何故か。『ここぞという瞬間(とき)』を逃さないからだと、見ていて思った。

 

 サッカーの試合で相手守備のほんの僅かな隙をつきゴールを掻っ攫うストライカーのように。バレーの試合で強烈なスパイクを華麗に拾い上げるリベロのように。一石二鳥。漁夫の利。そういった()()()()()()()()()、肝心(かなめ)の劇的な一瞬を、この男は決して逃さないのだ。そして、それらを可能にするには、実行に移せるだけの性能(スペック)を持った肉体(フィジカル)は勿論、殆ど直感の領域に達しているような鋭敏な嗅覚(センス)が必要不可欠。各界トップレベルの選手の中にはそのどちらか、あるいはその両方を天性の才能として持ち合わせている者が、ままいる。常人(わたしたち)が重い荷物を担いで一つ一つ上る階段を、エスカレーターで一段飛ばしでもしているかのように駆け上がっていく者が、稀によくいる。

 

 けれど、この男(エース)は違う。この男は、どちらかと言えば――――

 

「お嬢ちゃん。アンタ、()()()()?」

「ッ」

 

 にたり、と。完全に何かの確信を得た表情で、彼は笑った。

 

「ニオイがする。汗と泥に塗れる以外知らない、刈り取られたばかりの雑草みてぇな青臭ェ匂いだ。羨ましそうに()()()()()()()を見上げているキツネのニオイだ」

「……れ」

「相手は誰だ? この場にいるのか? 理由は何だ? 環境(うまれ)か? 体格(みため)か? それとも恋愛(オトコ)か?」

「だま、れ」

「おぉ怖。おっかなくて仕方ねぇ。仕方ねぇんで、よ」

 

 一瞬。図星を突かれてつい、頭に血が上ってしまったほんの一瞬で、彼が目の前に何か丸いものを放り投げ、かしゃりと赤いバイザーを下ろして。

 

()()()()()()()()()()

「ぬァッ!?」

 

 炸裂した閃光に視界を塗り潰され硬直してしまった私は、強い衝撃を受けて吹き飛ばされる。多分、思い切り前蹴りでも食らわされたのだろうと推測をしながら、どうにか体勢を立て直し着陸しようとして。

 

「「箒(さん)ッ!?」」

「な」

 

 直ぐ傍に葉巻軍曹(シェルショック)がいること、その葉巻軍曹(シェルショック)がばら撒こうとしているミサイルを狙って今まさに"B.Tears(セシリア)"と"RRCⅡ(シャルロット)"がそれぞれ弾丸を撃った直後であることを、徐々に戻って来た視界で順番に理解し、背筋を奔る悪寒に従って即座に全装甲を防御形態にして、なるだけ小さく身体を縮こまらせる。

 

『ウォオオオオオオオオオオッ!?!? ゲレツサクレツチョーキョーレツゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!』

「ぐ、あッ!?」

 

 独特が過ぎる雄叫びを上げながら大爆発を起こす葉巻軍曹(シェルショック)の衝撃に、アリーナの地表を何度も跳ねるほど勢いよく転がされ、壁面に叩きつけられてようやく止まった。

 

「箒ッ、大丈夫ッ!? セシリアッ!!」

「了解ですわッ」

「おぉっと、危ねぇ危ねぇ」

 

 私を庇うようにシャルロットが直ぐ傍に着地し、セシリアが牽制として放った数発の狙撃を、赤スーツ(エース)はからかうような軽い口調と共に全く危なげなく回避してみせる。

 

「ゴメン、僕ら完全に見えてなかった。クソッ、卑怯だぞッ!!」

「オイオイ、人聞きの悪い言葉を使うんじゃあないぜ。こういうのはな、『機を見るに敏』っつーんだよ」

()()()()尿()()だァ? オイエース、お前とうとう泌尿器科の世話に―――』

「―――んなワケねぇだろ黙ってろShock Head(モジャモジャ頭)ッ!! 何ソッコーで吹っ飛ばされて頭だけになってんだ、このスットコドッコイッ!!」

「……何故だ」

「あン? 何が?」

「……箒?」

「何故、そこまでの研鑽を積んでおきながら」

 

 そこから先は、言葉にならなかった。見ていれば解る。解らいでか。この男は()()()だ。あるいは、()()()、かもしれない。間違いないのは、この男の根底にあるものがコツコツと直向きに積み上げることでしか手に入れられないもので、彼の攻撃や防御や回避、それらの判断の速さや全く崩れない姿勢がそれを如実に物語っている、ということだ。

 

「真の強さに『派手さ』や『華』なんてものは必要ない。いついかなる時も限りなく万全に近い状態を保てる者。そういった者こそが最も隙がなく厄介で、賞賛に値する」

 

 嘗ての父の言葉が蘇る。父は正しくこの言葉を体現したような剣士であったし、この言葉には簪も同意していた。「結局、満遍なく全部のステータスが高いヤツがシンプルに強いんだよね」と。そして、そうなる為には、並大抵ではない長さの月日を費やす必要がある。決して一朝一夕で至れる境地ではないのだ。

 

「―――あぁ、なんだ。()()()()()()()

 

 彼は私の困惑だのなんだのを一瞥しただけで理解したような声を出し、そして。

 

「ならよォ、これも知ってんだろ、お嬢ちゃん」

 

 心底呆れているような、同情しているような、何故か見ていて酷く心を掻き乱されるシニカルな笑みを浮かべて、このように続けた。

 

「努力は必ず報われるものじゃあない、ってよ?」

 

 




 どうも、作者のGeorge Gregoryです。

 遅ればせながらキラメイジャー完走の後にゼンカイジャー追いかけてて思っていた以上に主人公が懐デカいし機転効くし敵サイドがこんなカオスじゃなけりゃ激重展開だったなコレってなってる。……噂の柏餅回は思い切り正面衝突しましたけど。

 どーでもいーけど『ゼンカイジャー』と『ゼンカイザー』がたまにごっちゃになる。

 ではまた、近い内にお会い出来ることを願って。

 いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。
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