ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
私自身も、戯れに鈴の訓練に付き合った時に初めて知ったのだが、
これはあくまで体感からの私見になるのだが、舞踊において重要なのはリズム感とバランス感覚だと思っている。いかに音に合わせ、体勢を崩さず、それでいて『魅せる』ことができるか。モデル業の仕事が増えてからは私も美しく『見せる』技法はいくつか学んだが、『魅せる』方法はやはり人それぞれ違うのだな、と身をもって思い知ったよ。私たちの中で特にそれが上手かったのはやはり、肉体を操る
そして、篠ノ之箒。彼女が頭一つ抜けて上手かったと、そう記憶している。それが何故かと訊かれれば、そうさな―――
―――要するに、『磨いて光らないものなどない』し、『弘法筆を選ばず』なんてのは真っ赤なウソだ、ということさ。
箒さんは最初からずっと、あまり自分自身のことを話したがらなかった。
それ故に彼女の過去について
「毎年、私が巫女の衣装を着て、祭りの舞台で舞を奉納していたんだ。本当なら長女である姉さんの役目なんだが、ホラ、な……? 私が生まれてからは『箒ちゃんの方が似合うに決まっている』とまで言い出して、頑なに拒否し続けていたらしくて。まぁ、小さい頃の私もそう言ってもらえるのが満更でもなくて、気付いた頃には毎年恒例になってしまっていたんだが」
篠ノ之神社の信仰は神道よりも土地神伝承寄りで、毎年お盆と元旦にお祭りが開催されているという。そこでの目玉の一つが、『剣の巫女』による神楽舞。現世に帰った霊魂と、それを送る神様とに捧げられるもので、元来古武術であった『篠ノ之流』が剣術へと変遷した理由でもあるのだとか。
確かにその時、『いつか見せて下さいまし』と話してはいたけれど。
「――――」
戦場に身を置いていながら、不覚ながらほんの僅か、見惚れた。その、あまりに突き詰められた、極めて合理的な一挙手一投足に。遠く離れた位置から、その全体を視野に収めていられたからこそ理解でき、そしてそれが真正面の
だらりと垂れ下がった両腕。その右腕が下段の構えより半月を描くような軌道で、首元目がけて向けたままの剣先を急激に跳ね上げながら放たれた片手突き。相当に間合いが離れていたにも関わらず、踏み込む位置と加減、突き出す腕の高さと角度、そしてそれらを実行する速さとタイミング、何もかもが戦慄してしまうほどに『完璧』だった。恐らく
声を発する余裕もなくなるほど面食らったのだろう、がらりと表情を変えた
箒さんには悪癖がある。尤も『悪癖』の一言で済ませられるようなものではないのだが、殆どの場合においてはそれがマイナスに働いていたように思う。彼女は度を超えた『完璧主義者』なのだ。目標は常に満点で一番。なのに、例えるなら、試験で解けない問題があったとして、それを後回しにすることがどうしても出来ず、解けるまで延々とその問題に没頭してしまうような
ほんの少しでも躓いたり違和感を覚えてしまうと、満足いくまで、納得できるまで、とことん追求しようとする。
けれど、今はどうだろうか。
アラム・ハチャトリアン作曲のバレエ『ガイーヌ』の最終幕に、誰もが一度は聴いたことがあるだろう『剣の舞』という楽曲がある。これにおける『剣』とは『
けれど、そんな私の荒々しいイメージに対して、
「なんて、静か」
軽やかなれど、決して軽くはなく。緩やかなれど、決して緩くはなく。踏み込む一歩一歩に足裏から根を生やしているような力強さがあり、振るう一撃一撃に骨とはまた別の芯が通っているような強靭さがある。派手さはなく、華もなく、けれどこの心を高鳴らせ、惹きつけてやまない何か。幾代もの子々孫々を経て
(本来であれば両手には
右手に
「一撃の右と、速度の左。正に“
いつかの箒さん曰く、二刀流とは元来極めて防御に特化した流派なのだそうだ。嘗ての日本の剣道界では、団体戦において二刀流の選手を防御一辺倒の
そして、それを踏まえた上で見る
勿論、利き腕はあるのだろう。主に左を受けや流しに、右を攻めに使っているのは、幼少期からの習慣でもあるのだろう。けれど、その差は微々たるもので、左右の一撃の鋭さには殆ど遜色がない。あぁ、確かに
彼女はいつも言っていた。自分には突出した
そして、その器が今日、"紅椿"という最高の
"紅椿"が急激な輝きを放ち始め、箒さんの動きのキレが格段に上昇した。あの機敏さは、超音速下仕様のハイパーセンサーを使用している時の動きだ。ただでさえ"紅椿"は"展開装甲"の可変出力によって燃費が悪い機体。あぁも苛烈に攻め立ててはあっという間にエネルギーが尽きる、ハズ、なのに。
「お、おいおいッ、ジョーダンじゃねぇぞッ!?」
相対する
―――One-off Ability《
そのように表示されている"紅椿"のSEが、先程から全く減っていない。正確には、減ったそばから回復しているので、一向に尽きる気配がない。高出力の機体に無尽蔵のエネルギー。シンプルイズベスト。なんて『ぼくのかんがえたさいきょうのあいえす』だろうか、なんて幼稚な感想を、つい抱いてしまう。
しかし、けれど、本当にこの脅威的な攻めを可能にしているのは。
「貴女に足りていなかった最後のピースは、身を任せてしまえるほどに強烈で、混じりっけのない純粋な
怒りの感情が齎すものは、どちらかといえばデメリットの方が遥かに多い。視野を狭め、
元より彼女はその愚直なまでの基礎鍛錬の繰り返しで、同世代間とはいえ
(いけない)
気を昂らせるな。努めて冷静に。でなければ『狙撃手』ではない。息を殺し、目を見開き、常に考え先を読め。
けれど。あぁ、けれど。今、この
そんな、小躍りしてしまいそうな胸の中の小鳥を必死に抑え込みながらも。
「それに引き換え、
いよいよ見ていられなくなってきたもう一人のお茶会仲間に対して、溜め息と共に引き金を絞った。
どうも、作者のGeorge Gregoryです。
冒頭にもちょろっと書きましたが、何故か他所の現場のしわ寄せとか同僚の家族に自宅待機要請が出たとかで今月の休日が殆どなくなりましたので、次の更新多分月末なんじゃねーかな……ちょろちょろ書き進めてはいるので、速めにできれば放り込みます。申し訳ない。
あ、そうそう。今回の更新でとうとう100万文字超えたみたいです。単行本10冊分かァ、そろそろご新規さんに気軽に『読んでよ』とは言いづらい長さになってきたなぁ。……まだ原作だと3巻くらいのエピソードなのになァ。
ではまた、近い内にお会い出来ることを願って。
いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。