ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
――――あれはアタシの今までの人生の中でもTOP3に入るくらいの不覚だったわ。正直思い出したくないけれど、自戒の為にも定期的に思い出しておかなきゃあいけないと思ってるから、ちょいちょいこうやって公の場で話すようにしているの。だから、変に脚色したり、悪意のある編集はしないで頂戴。いい? 絶対によ?
当時はまだまだ10代半ばの若造だったワケだけど、それでも若造なりに心に決めていたことがいくつかあったの。断固たる決意というか、自分への誓いみたいなものっていうの? イチバンは当然『一等賞』だったんだけど、他にも『筋の通らない真似はしない』とか、イロイロと、ね。
で、まぁ、その中に、さ。あったのよ。『嬉し泣き以外で
あの時は、完全に酔ってたのよね。ずっと暗い霧の中を歩いていたのが、急に視界が開けたような解放感があって、どこまでも行けるような気がしててさ。実際、もっとこうしてみたら、もっとこういう風に出来るんじゃ、って思ったことが、試してみたら本当に思い通りに出来ちゃったりしたものだから、楽しくて楽しくて仕方がなくて。
それに、『どうせこれは
そりゃあ、
だから、うん、
ちょっぴり、ほんのちょっぴりだけ、嬉しかったりもしたんだよね。それに、この時の話をするとさ――――
――――あの千冬さんが羨ましそうな、悔しそうな、そんな複雑な顔してこっちを見るのよ。それが唯一、良かったっちゃあ良かった点、かな。
身体が羽のように軽い。薄皮1枚を残して、肉も骨も全部溶けて、自分自身が水の塊になってしまったかのような澱みのなさ。同じような感じに覚えがある。あの
恐れず、逆らわず、身を任せる。木の葉が風に舞ったり川面を流れるように。しかし、落ちてはならない。倒れ伏してはならない。その父の教えを、先程までの私は『矛盾』としか捉えられなかった。
けれど、今は。
初めて
狙うは鳩尾。描くは投槍。身体を捻ることなく、左足を起点に右半身全体を使って"
『
脳裏に蘇る姉さんの言葉の意味を理解する。今になってようやく把握できたことなのだが、"紅椿"のクセ、即ちこの"展開装甲"の可変機構であるが、途轍もなく細分化されているのだ。腕部だけで3つ。脚部だけで4つ。それも、例えば片方を防御に回しつつもう片方を機動や攻撃に、だとか、腕部装甲の3つの内の前方2つを攻撃にしつつ最後方のみを機動に、だとか、そういった部分的な使い分けや切り替えが可能。その為、十全にこの性能を発揮するには"打鉄"などの第2世代機なんて目じゃあないほどの想像力と集中力が必要で、先程までの自分にはそれらが明らかに不足していたのだろう。何より、正直に言ってしまえば、私はずっと"
けれど、今は"
弾かれた反動を利用し勢いよく反転。円を描く軌道で、刃を揃えて下から掬い上げるような2連撃で畳みかける。機動形態に切り替えた両腕・両脚の"展開装甲"で、幼少の頃より幾千幾万と繰り返してきた『神楽舞』の動きを加速させる感覚にも慣れてきた。簪と2人、皆には内緒で放課後ひっそりと実戦で使えるように訓練してきた甲斐もあったというものである。
鞭の先端をそうするような鋭い突きを繰り返して壁際へと追い詰めていく。狙いは頭や両手足など、肉体の末端。これをされると躱す為には引っ込めるか逸らす以外になく、自然と相手は左右か背後へ行かざるを得なくなる。脚部装甲を攻撃形態に切り替え、発生させたエネルギーブレードによって踏み込みの際にも攻め立てるのを忘れない。
頭の中で
嗚呼しかし。それでもやはり。この男、王者なだけある。そのように思わされるだけの試合巧者振りを、今再び、まざまざと見せつけられる。
避けるのを追っている内に、じわりじわりと進行方向が横へ横へと変えられていることには気づいていた。せめて壁を背にはすまい、とそうするのは自然なことであるし、私だって逆の立場ならそうしただろうからだ。けれど、
再び、
弾き飛ばす為に振るった刀身が触れた途端、その
「な、にを―――」
やっているんだ、鈴。そう続ける前に意識を刈り取られたのだけは覚えていた。
「な、にを―――」
してくれてんのよ、と。こみ上げる怒りに任せて、アタシは大声を張り上げようとしていた。
何せ、まさかの仲間に背後から
「―――ガッ!?」
その寸前で、思いもよらない方向からの衝撃に阻止された。
「ッ、ッ」
声にもなっていない絞り出したような音を喉元から漏らしながら、両腕でアタシの胸倉を軽々と掴み上げている箒の顔は、下から見上げている為に逆光のようになっていてよく見えなくて。
「なによッ、離しなさ……い?」
だから、頬に水滴が落ちてくるまで、それが箒が大声を上げて泣き出してしまいそうなのを必死に押し殺している音なのだと、気付けなかった。
いつも姿勢の良い彼女の背中が、どんどん小さく丸まっていく。それにつれて、持ち上げられて浮いていたアタシの両脚はもうしっかりと地についているし、胸倉を掴む両手を振り払うことも簡単に出来たけれど、今のアタシは
「ほ、うき?」
「う、う」
言葉にすらなっていなかった嗚咽が、呼吸が落ち着いて来るにつれ少しずつ言葉になりつつある。元々口下手なきらいはあるけれど、内側では本当に物事をよく見ているし色々と考えていることはここ数ヶ月の付き合いで十分に知っていたから、一先ず黙って続きを待ってみて。
「
「――――」
「
頭をぶん殴られたような気分だった。返す言葉もない。ぐうの音も出ない。それはきっと、心の奥底では自分でも解っていたことであるが故に。
「そん、なの、つよく、ない」
「……ごめん」
「おまえ、は、そんなにッ、よわくッ、ないッ」
「わかった。わかったから」
危険なことをしている自覚はあった。けれど、代え難い快感に抗えなかった。この身を燃やすほど、削るほど、擲つほど、感覚が研ぎ澄まされ、技が冴えわたっていく実感があった。
挙句が、このザマだ。
(
今までずっと、思うままにやってきた。押しつけがましい『普通』なんかは
あぁ、アタシってば本当に、狭くて、浅くて。
「……ちっちゃいなぁ」
生き様も、器も、物事を見るスケールも、何もかも。自覚したからといって、そんな直ぐに直せるものではないと、解ってはいるけれど。
「ごめん、箒。ちょっと自分見失ってた」
アタシなんかよりずっと大きいハズなのに、子犬のように身体を縮こまらせ震えながら、アタシのお腹に縋りつくようにして泣いている箒の頭を撫で、抱き締めながら背中を叩いて落ち着かせる。
「セシリアも、止めてくれてアリガト」
「解っていただけたのなら、何よりですわ」
険しかった表情が和らぎ、飽和していた緊張が解けていくのが解る。いつの間にか、少し離れた位置から事の成り行きを見守っていたシャルロットは大袈裟なくらいにほっと胸を撫で下ろし、ラウラは「やれやれだ」と言わんばかりの溜め息を一つ。
「良かった~……一時はどうなることかと」
「その先は修羅を通り越して餓鬼道だ。推奨はできんな」
「うん、解ってる。ちょっとした気の迷い。
「いいだろう」
そう言うと、ラウラは肩をすくめて苦笑を浮かべ、そして。
「では、幸印パーラーのジャンボフルーツパフェで手を打ってやる」
「え」
「あ。じゃあ僕は言峰堂のプレミアムロールケーキでヨロシク~」
「な」
「では
「ちょ」
「……田所庵のみたらし蕎麦団子」
「箒ィッ!? アンタまでェッ!?」
とんとん拍子で勝手に決められていく、けれど断りようのない散財の予定に、アタシは二度と皆の前でポカはやらかすまいと心に決めるのだった。
どうも、作者のGeorge Gregoryです。
短めですが、そろそろ期間空きすぎるのと、明日からの連勤終わると3回目のワクチンなので、放り込んでおきたいな~となったのでそうしました。ファファルナコンボなのでちょ~っと副反応ガチャ当選率高めなんですよね。しっかり準備しねーと。
ちなみに本エピソードは次回で畳む予定です。そろそろ主人公に主人公してもらわないと、影が、ね。薄く、ね。なっちゃうからね。
ではまた、近い内にお会い出来ることを願って。
いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。