ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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君が望むなら それは強く応えてくれるのだ
今は全てを恐れるな
痛みを知るただ一人であれ


Dress For Success Ⅻ

 何事も同じで、失敗を繰り返さない為には、間違った選択や課程を正す必要がある。どうにも凰鈴音(アタシ)は血の気が多くて喧嘩っ早い気質だ。それは直ぐにテンションを最高潮に持っていけるという利点でもあるけれど、世の中が基本的に『短気は損気』という風に出来ているのも知っている。何より、我に返った時の『()()()()()()()』という後悔だとか罪悪感だとかが尋常じゃあないのだ。

 

 じゃあどうするか。考え方を変えるのだ、と箒は言った。

 

『溜め込む?』

『そうだ。(はら)の底の方で沸々と煮え滾らせながらも、その力が溢れ出たり零れ落ちたりしないよう、徹底的に封じ込めるイメージを、私はする。そしてそれを、ここぞというタイミングで一気に――――』

 

 目の前に、頭上の"紅椿"に気を取られて懐ががら空きの"福音"。"龍咆"と"崩拳"を共に圧縮率(チャージ)最大(マックス)。今にも破裂しそうなほど膨れ上がった風船に、丁寧に開ける一刺しの針孔。射出された"甲龍(ほうだん)"に、今更気付いてももう遅い。

 

 

『――――解き放つ』

「――――(ボン)ッ、(テェン)ッ、(シィン)ッ!!」

 

 

 "瞬時加速(スラスター)"+"反動加速(しょうげきほう)"+"二連掌底(こがたしょうげきほう)"。今の凰鈴音(アタシ)が可能な限り威力を落とさず、反動も減らしつつ、且つ位置も角度も選ばずに地上でなくても撃てる技。皆で意見を出し合っては途方もないくらいの試行錯誤(トライアンドエラー)を繰り返して辿り着いた、専用機持(アタシた)ちだけで"福音"に叩き込みうる最大火力の一撃。実際に試したのはこれが初めてだけれど、あの原子炉(リアクター)が悶絶していたのだから、申し分はないハズ。

 

 それでも、準備(チャージ)に時間がかかってしまうのは不可避であった為、"福音"の機動力を奪った上で、隙を作るための陽動(オトリ)役がどうしても必要だった。

 

《じゃ、じゃあ、ここまでの全部が》

《えぇ。全て、"福音"にこの一撃を叩き込む為、ですわ》

 

 "開放回線(オープンチャンネル)"の向こうで息を吞んでいる更識妹にセシリアが淡々と答えているのを聞きながら、渾身の"崩天星"をまともに食らって吹き飛んでいく"福音"からは決して目を逸らさない。体勢を崩しているアタシを庇うように視界に入ってくる箒の背中は、この数時間(数週間)で随分と見違えるほど頼もしくなった。間合いの取り方、緩急のつけ方に関してならこちらが教わる立場に回るほどに巧くなった。いや、より正確に言えば、彼女が『ISの動かし方』をとんでもない速さで理解し、彼女が想像する通りの動作を、篠ノ之博士特製の"紅椿(せんようき)"がやはりとんでもない速さで習熟していっている結果だろう。高すぎる理想(そら)を前に首を垂れながらも決して諦めずに跳び続けた蛙が、『翼』と『飛び方』の両方を同時に得たのだ。

 

()()()()()()()()()()()

 

 急速に燃え上がらんとする熱に、しかし今は制止(ブレーキ)をかける。

 

「シャル、ラウラは?」

《大丈夫。呼吸(いき)も落ち着いて来たし、バイタルデータにも異常なし》

「復帰には?」

《2分くれ、だってさ》

「了解。セシリア?」

《既に》

「流石」

 

 "RRCⅡ(シャルロット)"が"Garden Curtain(防御特化パッケージ)"を、"B.Tears(セシリア)"が"Strike Gunner(高機動型パッケージ)"をそれぞれ展開し、未だ即座に動けないであろう"S.Ragen(ラウラ)"をカバーリング出来るよう、更識妹も含めて一塊になっているのが"開放回線(オープンチャンネル)"で共有される。それに安堵の笑みを浮かべた時だった。

 

()()()、鈴」

「えぇ、見えてるわよ」

 

 吹き飛んでいった"福音"の動きがピタリと止まり、勢いよく真っ直ぐにこちらへと向けられる無機質な頭部装甲(フルフェイス)は、心なしかいい加減に()()()()()()()ように見えなくもなかった。やれやれ、今から()()()()()相手に()()()()()の持久戦か。

 

「2分、いけるな?」

「上等ォ」

 

 何の根拠もないけれど、油断でもなく、慢心でもなく、大丈夫だという確信がある。だって、ねぇ。最終的には"Terminate4(アイツら)"にだって勝てたんだし。……正直()()で勝った気は更々しないのだけれど、こうしてちゃんと起きて今ここにいるのだから、勝ちは勝ちなのだ、うん。

 

 両手に"双天牙月"を展開。臨戦態勢を一切解かずに構えている"紅椿(ほうき)"の隣に並んで、ホームラン宣言よろしく片方を真っ直ぐ突き付けてやる。あぁ、今のアタシはさぞ()()()()()()()()()んだろうなぁ、なんてことを考えながら、"福音"の初動を一切見逃すまいと神経を尖らせていた。

 

 

 

 なので、今、目の前で起きた事実を理解するのが、一瞬遅れてしまった。

 

 

 

「な」

「え」

 

 "福音"は完全にこちらに集中していたようで、突如天から降り注いだ()()()に抗う間もなく呑まれ大きく体勢を崩し、被弾している段階からでは"銀の杯(Silver Grail)"を発動しても効果はないようで、藻掻くようにして範囲外から脱け出ると、『一体どこから』と言わんばかりに夜空を仰ぎ見た。それに釣られてアタシたちも揃って上へと視線を向ける。

 

 そこには、黒い夜空に切り取った銀紙でも貼り付けたかのように明るく澄み切った大きな大きな満月。それに絶妙に紛れて近づいて来る()()()()()()が――――

 

「あ」

 

 あ。

 ああ。

 ああああ。

 

 その影の正体に気付いた瞬間に、言葉をなくした。言葉になるはずもなかった。信じていた。いや、解っていたことだ。絶対に戻ってくると。それ以外ありえないと。

 

 けれど、あぁ、こうして実際に目にするまでは、どうしたって不安は拭いきれなくて。それはきっと今、隣で泣き出してしまいそうなのを必死に堪えている箒も同じで。

 

 だからこそ、凰鈴音(アタシ)が言うべき言葉は。

 

「遅いってのよ、寝坊助」

 

 あぁ、強がってみたけれど、やっぱりダメだ。ちょっぴり視界が滲んでしまっている。それでも、アタシは『そういう凰鈴音』でアイツを迎えてやりたいのだ。

 

 大きな翼を鋭く折り畳んで、白鷲は戦場に舞い降りる。その羽ばたきは冷たく刺さるような夜半の空に朝露のような爽やかさを運ぶ一陣の風のように。纏う鎧は、見知っているものから随分とその姿を変えている。理屈は解らないが、間違いない。この短期間で"二次移行(セカンドシフト)"を果たしたのだ。

 

 右手には変わらず"雪片弐型"。左手には見慣れない無骨な籠手型の武装。視界に映るその銘は"雪羅(せつら)"。

 

 

 織斑一夏が、そこにいた。

 

 




 どうも、作者のGeorge Gregoryです。

 シン・ウルトラマンで情緒をめちゃくちゃにされてしまってこんなに更新遅くなってしかも短めになってしまいました……でもこれ以上引き延ばすと冗長感が否めないし今回はこれ以上は蛇足な気がするしそろそろ次のステップ行きたかってん許してちょーよ。

 あんなのズルいよ、パンフレット買ったし飲み友(昭和特撮スキー)と3回目行く約束しちゃったよ。米津さんは以前からずっと聞いてたけどどうしてこんな決して難しくない単語でこんな感情に訴えかけてくる歌詞作れるの。

『ウルトラマン』を知らなくてもいいんで皆さん是非これは映画館で見て下さい。そしてそのまま『ウルトラマン』を見ると、数倍楽しめると思います。最近は4Kリマスターなんかもありますしね……まぁ、気になった作品からでもいいですよ。これを機に円谷特撮に触れる人が増えてくれると嬉しいなぁっていう長年のファンのぼやきです。

 個人的なおススメは『ULTRAMAN(2004)』。前知識の全く要らない映画単発作品。なんと音楽監修をB'zの松本さんが担当。ドチャクソカッコいい父ちゃんがそこにいます。

『百聞は一見に如かず』私の好きな言葉です。唯一文句をつけるとするなら、どうして最推しのバルタン星人を出してくれなかったんだっていうとこくらい、かなぁ……マックス以降全く本編に出てこないのは何故なの。Xの劇場版には一応出てくれたけどさ(´・ω・`)

 ちなみに『崩天星』に関しては『神砂嵐』で『地獄&天国』してるもんだと思っていただければいいです。

 ではまた、近い内にお会い出来ることを願って。

 いつも感想ありがとうございます。あなたのその一言が俺の何よりの動力源です。

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