ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
生粋の道産子ですんでサッポロ推しですが、最近はアサヒにも目覚めつつあります。
……あぁ、ゆっくり晩酌してぇなぁ。
(彼が、世界初の男性操縦者)
IS学園初日、その2時限目。法律上は高等学校にあたるこの学び舎はIS関連は勿論、日本の普通科高校に相当するカリキュラムを並行して進める為、授業の進行速度が他に比べて早く、その内容もかなり濃くなっていると聞いていた。
それに違わず、入学式直後の1時限目より早速、IS基礎理論の座学が始められた。未だ基礎の基礎、数学でいう加減乗除にあたる部分であるからこそ難なくついていくことが出来ているが、その進行速度は少なく見積もっても通常の倍と言って良いだろう。
悠長に構えてはいられない。そもそも、この学園の入学倍率は開校以来、300%以下になったことがないという。例えそうは見えなくとも、ここにいるのはそれだけの狭き門を潜り抜けてきた精鋭揃いなのだ。――この教室の中央最前列に座る、彼を除いて。
織斑一夏。第1回モンドグロッソ優勝者、織斑千冬の実弟である彼は、しかしつい先日まで全くISに関連のない一般人だったという。それ故に、このカリキュラムについていけるのだろうか、と懸念していたが。
(ある程度のプロファイリング資料は頂いていましたけれど、本当に真面目な方ですのね)
黒板から決して逸れない真剣な眼差し。カリカリとペン先がノートの上を滑る音は止まらず、新しい単語が出てくる度に教科書の後方に掲載されている用語集をチェックしているようだった。
先ほどの休み時間、失礼だとは思いつつも挨拶の際にそっと彼のノートを覗き見させてもらったが、それだけでもぎっしりと書き込まれているのが解った。少なくとも“努力家”という表記に間違いはなかったようだ。もっとも、私が彼に個人的な興味を持ったのは、その後にあった“とある一文”なのだが。
(――あら? あの方は確か)
そんなことを考えながら観察していると、教室の窓側から妙な視線を感じて、瞳だけを向けてみる。窓際最前列の席より、“恨みがましい”と物語る視線の主は、教科書を盾にし、最低限の角度だけ首をこちらに向け、こちらを睨みつけていた。
(篠ノ之箒さん。苗字からして、かの篠ノ之博士の妹さん)
資料通りならば、彼女の血縁者でこそあるものの、ISに関して造詣は深くない。剣道有段者にして、実家は剣術道場を営む神社。織斑姉弟と幼少期に付き合いがあり、そして。
(ここまで露骨ですと、観察の必要もありませんわね)
織斑一夏へ恋心を抱いている。大方、先刻の休み時間に彼に話しかけたのが理由だろう。恐らく、自分が最初に、等と考えていたのではなかろうか。なんとも解り易い。
(微笑ましいですわね)
可能であれば彼女とも接点を、とのお達しもある。これはいい”口実”になりそうだ。そも、恋心は果たされてこそ、だ。私には自由な恋愛が許されていないからこそ、せめて関わる人々には報われて欲しいと、そう願う。
「ッ」
(あら、つれませんのね)
微笑んでみせると、弾かれるように顔を前に戻す。まるで、悪戯のバレた子どものような反応。ますます以て、微笑ましい。
(叶うなら、あなたとも仲良くなりたいものですわね)
さて、そろそろ自分も授業に戻らなくては。ただでさえカリキュラムの消化スピードが早いのだ。“他に気を取られていて成績不振”など、笑い話にもならない。一先ず、止めていたペン先を再び躍らせながら、彼女へそっと視線を向けて。
(ご愁傷様、ですわ。ちょっぴり遅かったですわね)
いつの間にか、彼女の目の前に立つ世界最強の女教師。振りかぶる出席簿。そして。
「篠ノ之、2時限目で早速余所見とは、随分と余裕だな」
「えっ、あっ、千冬さ」
ガツン、と重機で破砕されたような、人の頭蓋が立ててはいけない音がして、篠ノ之さんがとてつもない勢いで机に突っ伏す。気のせいか、彼女の頭部から白い煙が立ち昇っているような。思わず、何人かが自分の頭に手を当て、顔を歪ませているのも、無理はない。
(やるならバレないように。基本中の基本でしてよ?)
ちょっぴりズレた指摘を心中で入れながら、セシリアは再度、授業へと集中し始めた。
「―――であるからして、現時点におけるISの運用には国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は刑法により罰せられる場合があります。例えば、ISを用いた強盗行為や、領空侵犯などですね」
すらすらと教科書を朗読していく山田先生。時折、付け足される補足説明のお陰で、文体のみだとぼんやりとしていたイメージが具体的に輪郭を帯びてかなり解り易くなる。それに。
「織斑君、大丈夫ですか? ついていけていますか?」
「はい、今のところは。続けて下さい」
こうやって定期的に俺に確認してくれ、質問をすれば簡潔かつ明解に答えてくれるのだ。俺以外にもメモを取る音が聞こえたりするのだから、彼女たちにとっても有益な情報だったりするんだろう。その分、板書が少し大変になったりもするが、いい授業だと思う。
法律関連になってくると、そこまで専門用語だらけという訳でもないので、どうにか食いついていける。自動車の免許講習なんかもこんな感じなのかもしれない。ISには路上標識や”かもしれない運転”なんてないけれど。
元々、勉強自体は嫌いじゃない。個人的にだが、勉強嫌いの人の共通点は“解らないことを解らないままにしておくから”だと思っている。怠けて調べたり教わったりしない、理解力の個人差、など理由こそ多岐に渡るが、解らないことを延々と続けたって楽しいはずがないのだ。それを放置したままにしておくか否かが、少なくとも優等生になれる条件の1つであると考える。
大丈夫だ、と言う度に山田先生は安心したように微笑んで『解らないことは遠慮なく聞いてくださいね』と返してくれる。先生の方からこういうことを言ってくれるのが非常に嬉しいし有難い。お言葉に甘えさせてもらうとしよう。
そんな調子でどうにか2時限目の授業も乗り切り、3時限目。満を持して教壇に立ったのは織斑先生。教室の後ろで山田先生もノートを用意している辺り、余程大事な授業内容と窺える。果たして、どんなものか。少なからずの期待を胸に待ち受けていると。
「この時間は諸君が実習で使用する各機体の特性について講義する。が、その前に、再来週に行われるクラス対抗戦の為にも、本クラスの代表者を決定しておこうと思う」
代表者。要するにクラス委員みたいなものだろうか。ここは普通の学校とは違う。“代表”の意味も、その重要さも、色々と異なってきそうだが。
「代表者とは文字通りの意味だ。生徒会の開く会議や委員会への出席もしてもらうことになる。尚、クラス対抗戦は各クラスの実力を測る意味合いもある。現時点で大きな差はないだろうが、競い合うことで向上心を掻き立てるのが主な目的だ。自薦他薦は問わない。候補者はいるか」
ぐるりと室内を見回す千冬姉に、にわかにざわつくクラスメイトたち。お互いの顔を見やり、そのまま視線をすぅっとこちらへ――――え、こちらへ?
「はいッ!! 織斑君を推薦しますッ!!」
最初にそう言いだしたのは誰だったか。ビシッと綺麗に伸ばされた右腕と共に上がったその声を皮切りに、それは見事な”飛び火”が始まった。
「私も賛成ですッ!!」
「同じくッ!!」
「私も推薦しますッ!!」
冗談じゃない。そう、声を張り上げたかった。自己紹介の時にも言ったじゃあないか。てんで素人なんだ、と。断言しても良い。彼女たちは何も考えていない。ただ“男の操縦者”という物珍しさがセールスポイントになるだろうと、精々がその程度だろう。それが証拠に、彼女たちの瞳には十字手裏剣のような形をした”星”が爛々と煌めいているのだから。
多数決は非常に合理的であり、しかし同時に非常に冷酷な手法でもある。たった一度、ほんの一瞬であろうと、その“流れ”が出来てしまったなら、もう個人の抗う意志などは全くの無意味。数の暴力が生み出す奔流に呑み込まれる他に選択肢はない。そして、何よりも質が悪いのが、殆どの場合において、その流れを産み出す側には全くと言っていいほど“悪意がない”という点にある。ほんの些細な誰かの
あぁ、これはもうダメだ。ただでさえ彼女たちよりも遥か後方から全速力で追いかけているというに、何故に手枷足枷までも付けなければならないのか。修行僧じゃああるまいし。被虐の気なんぞ、これっぽっちもないんだぞ。そんな愚痴を脳内で必死に咀嚼、頭を抱え灰色の溜息を俯きながら吐き出した、その時だった。
「――私、立候補致しますわ」
鈴の音のように透き通った声が、飽和する喧騒を貫き駆け抜ける。ピタリと静まり返った室内をゆっくりと振り返った先には、控え目且つ優雅に掲げられた右手。見間違うはずもなかった。
「ふむ、オルコットか。他に立候補者はいるか?」
何ということのないように淡々と話を進め、改めて教室を見回す千冬姉。反応は様々だった。盛り上がりに水を差されたように感じて、面白くなさそうに“空気が読めない”などと呟いている者。俺では代表として大なり小なり不安があったのだろう、本来であれば第一候補に挙がるべき代表候補生が自ら名乗り出てくれたことに胸を撫でおろす者。等々。そして。
「いないようだな。では、名前の挙がった2名から選出することとする」
「選出基準はどうなりますの?」
「この学園では実力が何よりもものを言う。何せ“生徒会長=学園最強”などと宣っているからな。1週間後、月曜日の放課後。場所は第3アリーナを抑えておこう」
「成程、大変解り易いですわね。という訳で、一夏さん?」
スルリと音もなく上品に立ち上がり、ピンと伸ばした人差し指を顎に当てながら千冬姉に尋ねた後、その視線を嫋やかな微笑みと共にこちらへと向けて。
「―――私と一曲、踊ってくださいますこと?」
相変わらず“戦って勝て”という単純明快な前時代的価値観をゴリ押しする姉上だとか、代表候補生と素人という火を見るよりも明らかな対戦カードに盛り上がるクラスメイトだとか、ツッコミどころ満載の状況下にも関わらず、俺の頭はそれらを些末なものだと捉えていて。
初めてだった。女性の笑顔を見て、武者震いを覚えたのは。ひょっとすると、鳥肌も立っているかもしれない。嫋やかであるはずの彼女の笑顔が、何故か獰猛な狩人のそれに感じられて、そのサファイアのような蒼い瞳の奥に、赫耀たる光が宿っているように見えて。
「―――あぁ。受けて立つぜ、セシリアさん」
先程までの困惑や諦観を十把一絡げに放り出し、背筋をゾクリと駆け上がる昂りに従って、俺は力強く頷いた。
彼女に勝ちたい。それが叶わずとも、せめて一矢報いたい。心の底から、そう思っていた。
「“打鉄”は我が国の量産型ISであり、第2世代では最高の防御能力を誇っている。単機運用ではなく、継戦能力に重きを置いた支援機として開発され――」
本当に
改めて再開した授業を進めながら、私は今朝の職員会議直後、整備管理棟へと戻る前に、ヤツがこんなことを呟いて行ったのを思い出していた。
『まず間違いなく“一夏君を代表に”という流れになると思いますよ。どうせなら、彼がISに触れる機会を少しでも増やしてやった方が良いんじゃあないですか? なるだけ早く“自衛手段”を身に着けてくれた方が、織斑先生も安心では?』
一昨年の夏、倉持技研第2研究所所長の推薦書などというとんでもないものを引っ提げてやってきた時点で”只者ではない”と思っていた。整備士としての働きぶりだけでも大したものなのだが、時折こうやって、その域を明らかに逸脱した片鱗を垣間見せることが、ままあるのだ。
「日本の武者鎧に習った各装甲を束ねる特殊繊維の帯は、あらゆる方向から機体にかかる応力を吸収し、装甲の特性と相まって強固且つ強靭な防御力を発揮する。肩部の物理シールドとアーマースカートは自身だけでなく、味方機の強力な盾としても―――」
実際、一夏の件は私にとって最重要と言って良い懸念事項である。それと同時に、身内の件で揶揄されるのは堪らなく嫌いだ。だもんで、つい黙らせようと“抹殺の最終弾丸”を叩き込みかけたのだが。
『いいじゃあないですか。家族を心配して、何が悪いんです?』
今朝だけでなく、時折見せるあの、どこか風化したような笑顔にどうにも躊躇させられて、ますます彼という人物像が解らなくなる。この現代でどのように生きたら、あんな“擦り減り続け辛うじて残った”ような表情になるのだろうか、と。
「搭載されているOSを含めての“純国産”であり、汎用性が非常に高く、“
表示させている“打鉄”のホログラムを指し示しながら、背後を振り向きつつ視線を巡らせる。先程の篠ノ之への制裁も効いているのか、全員漏れなく真剣な表情で授業に集中していた。無論、我が愚弟も。
そういう流れへと至った一因は自分にもある。むしろ、率先して促した自覚もある。そうした方が早いと自分でも思ったし、一夏に少しでもISに関する経験値を積み上げてもらう必要があるのも事実だ。事実、なのだが。
(あまりにも分が悪すぎる。すまん、一夏)
直接言うことは、まず出来ないだろう。それに、そのような意図があることそのものを、知らせるわけにもいかない。だからこそ、心中で謝罪を重ねる。そして、恐らく自分にこの結果を促させるのが目的だったであろう、あの山吹色の髪を思い浮かべて。
(何を考えているんだ、カデンソン……)
万が一、弟に害をなしたなら。そんな想像をしてチョークを思わず握り割ってしまったと同時、整備管理棟にて盛大なくしゃみがぶちかまされたことを、彼女が知る由もなかった。
サブタイトルの元ネタ
“ラチェット&クランク THE GAME(PS4)”のトロフィー
“チャレンジャー(Challenging)”
ラチェクラシリーズには定番なのだが、ゲーム本編を1度クリアすると2周目以降にチャレンジモードというものが解放される。これは受けるダメージが増える代わりに、ノーダメージで敵を倒ていくと、出てくるお金の倍率が徐々に増えていくモードで、『THE GAME』でクリアするとこれを獲得できる。
今回は補足説明は特にありません。彼らの出番、ないですしねぇ。どうしてもIS側になると、ね。もうちょっぴりだけお待ちください。……しかしイケメンすぎないかこのセッシー……大丈夫ですかね? やりすぎてないですかね、キャラ改変?
山は越えたって感じですが、まだまだ仕事が忙しく、中々執筆出来ていません。本来なら前回の更新でこの辺まで書き上げたかったんですが……不思議と筆が乗らず短めの更新に。面目ない。そろそろ2つ目の山場なので、それまでにはテンションを戻しておきます。
では、近い内にまたお会いできることを願って。
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