ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
……まぁ、私のPCでずっと誰の眼にも触れぬまま、というのも勿体ないかなぁ、という方が強いですが。
大変短いですが、宜しければどうぞ。
The Beginning Of The End : Another
あの日、あの時、あの空を、誰もが忘れる事はないだろう。
地平線より迫り来る弾頭の群れ。人々が絶望に逃げ惑う中、颯爽と現れた純白の騎士が蒼穹を自在に翔け、その悉くを叩き落とす。世界は否が応でも認めざるを得ず、”無限の成層圏”の名を冠する我らが子たちは新たな世界の代名詞となる。……そうなる、はずだった。
『――束』
通信機越しでも判るほどの当惑。竹を割ったように真っ直ぐな彼女にしては、とても珍しい。普段ならば、ここぞとばかりに揶揄したことだろう。だのに、そのような事を考える余裕が、この時の私には全くと言っていいほど存在していなかった。
途中までは、計画は順調に進んでいた。
日本国周辺の軍事施設を掌握し、日本へ向けてのミサイル一斉同時発射。私と
それが空想の段階で止まっていたならば、こうはならなかったのだろう。だが、なまじそれが実現させられてしまうものだったが故に、私たちは踏み切ってしまった。”ISを俗世に認めさせる為の
いくらISが優れた代物とはいえ、エネルギーを必要とする機械である以上、限度というものはある。ましてや白騎士は銃火器を搭載しておらず、武装は日本刀型の近接武器”雪片”ただ一つ。何をするにしても刀の間合いまで近づく必要があった。それでも、白騎士と
――気づけば、発射したミサイルの数が想定の数倍に膨れ上がっていた。
手元の機器で操作履歴は確認できた。間違いない。自分は誤った操作をしていなかった。
少なからず罪を犯している自覚はあった。世間一般で“悪事”とされるような企みであるとは判っていた。最低限、本当にほんのちょっぴりではあるけれど、罪悪感というものを感じていないという訳ではなかった。……まぁ、その大半の理由はこの退屈な世界でほんの一握りの、愛する妹と親友、そしてその弟君に少なからず迷惑をかけてしまうだろうなぁ、という感情からなのだが。
だが、それにしたって、無差別大量虐殺なんて大罪を犯す積りは毛頭なかった。
この世に生きる九割九分九厘の人間がどこでどうなろうが自分の知った事ではないし、私たちが犯人であるという真実を今際の際まで隠し通せる自信もあった。
だが、親友はそうはいかない。そもそも“絶対にそうはならない”という約束の上で協力を承諾してもらったのだ。例え、たった一人でも傷つけてしまおうものなら、ただでさえ人一倍責任感の強い彼女は一体どうなってしまうのか。考えたくもないというのに、勝手に想像してくれるのだから、出来の良い頭というものも一長一短である。
気づいて止めようとした時には、こちらの指示を全く受け付けなくなっていた。明らかに人為的な形跡があった。どこからか計画を嗅ぎつけられていたのか。それとも予め仕組まれていたものをたまたま引き当ててしまったのか。まぁ、今となっては、それも“些細な話”なのだけれど。
ちーちゃんは、必死に食らいついていた。眼前を埋め尽くす爆撃を片端から一つ残らず切り捨てる。私の想定を遥かに超えた、正に一騎当千。獅子奮迅の大奮闘というやつだ。初めて乗ったとは思えないほどに白騎士を乗りこなしていた。これなら、ひょっとするかもしれないと、珍しくもこの私が無根拠に期待したくなる程に。
だが、やがて、無情にも。
それは、湖面の薄氷が、嫌な軋みを上げて罅を作っていくように。汗一つ掻いたところを見た事がないちーちゃんが、眉間に皺を寄せ、歯を食いしばり、冷や汗を流しながら必死に足掻いていたあの表情を、私は未だに忘れられずにいる。そして、とうとう一筋の鉄塊が白騎士の脇をすり抜けたのを皮切りに、十重二十重の弾道が一斉に市街地へと伸びていくのを、すぅっと血の気の引いた顔で見送った、その時だった。
――世界を、幾千もの真紅の柱が飲み込んだ。
『何が、起きたんだ……?』
そう呟いて呆然と宙を漂っていたちーちゃんの疑問は、この光景を目の当たりにした全世界の人間も同じように思い浮かべていた事だろう。
それは、“豪雨”という隠喩すら霞んで思えてしまえるような“流星群”だった。瞬時にして蒼穹を飽和させた真紅の流星は、まるで磁石の異極が引き寄せあうかのように街々へ飛来せんとしていたミサイルへと吸い込まれ、跡形もなく消し去ったのだ。ただの一、二発ではない。ともすれば優に万は超えていたであろう途方もない鉄火の雨霰を、文字通りに“蒸発”させてしまったのである。そして。
『あいつは一体、何者なんだ……?』
当時、私たち以外は誰一人として認識すらしていなかったであろう、そんな驚異的な真似をいとも容易くやってのけた人物に、私の目は釘付けになっていた。ちーちゃんの遥か頭上、転送されてくるハイパーセンサーの映像を通じて初めてその姿を確認出来た。鎧のようにどこか武骨な真黒の装甲は、どこか日曜朝の特撮ヒーローを彷彿とさせる。胸部の中心にはコアらしき多角形の光点。背には高速戦闘機のような一対の主翼とバーニアスラスタを備えたジェットパックが見え、両足裏面のバーニアとの併用によってを姿勢制御を行っているようだった。ISには重機としての側面を考慮して四肢を大きく設計しパワーアシストを搭載させたが、この黒い機体は搭乗者(というよりもサイズからして“装着者”の方がしっくり来るだろうか)の動きを阻害するようなものをなるだけ削ぎ落とし、あらゆる環境化での活動を前提とした汎用性を意図して制作されたような、そんな印象を受けた。
そして、何よりも目を惹かれる、その手に携えた銃火器。
分類としては“ランチャー”が最も近いだろうか。取り回すにしては余りに大きいバレル状の銃身。内部構造を隠す気がないのか、それとも収まりきらないのか、陽光を鈍く反射するパイプやフレームは見るからに重苦しく、最早それ自体が鈍器として成立するのでは、とすら思えた。そして、呆れ返るほどの大口径をした銃口の奥は、まるで紅玉のように煌々と輝きを放っていた。
それはつい先刻、視界を塗り潰した紅蓮と一致していて。間違いない。あれを引き起こしたのは、あの銃火器だった。
『束、黙ってばかりいないで答えろ。あいつは一体――』
「知らない」
即答する。当たり前だ。“あんなもの”を作った覚えはない。視認した瞬間、即座に理解した。あれは違った。私が”識る”ものと、根本的に何かが異なっていた。
「ッ」
『何ッ!?』
辺りを見回すように首を巡らせた後で、“黒いの”が真っ直ぐにこっちを見た。気のせいだとか、偶然だとか、そういうものじゃない。バイザー越しで表情は見えないけれど、間違いなく私たちの視線に気づいて、こっちを観察していた。
ちーちゃんは直ぐに雪片を正眼に構え臨戦態勢に移っていたけれど、流石にあんな化け物染みた威力を目の当たりにしたからだろう、剣先が微かに震えていた。そして。
「――あっ」
相手するに値しないと思われたのか。それとも、単に興味が失せたのか。“黒いの”は暫くこっちを見ていたかと思うと、ふっと視線を外して彼方へと飛んで行った。それも、白騎士を遥かに上回るスピードで。
「知らない。あんなの、知らない」
『……束?』
背筋が震えた。脳幹が痺れた。身体が熱くて、心臓が煩かった。今にして思えば、あれはきっと胸の中で“子どもの頃の私”がはしゃぎ回っていたんだろう。知らず知らずの内に、私は随分と逆上せあがっていたんだ。忘れていた。思い出したんだ。
「――あはっ」
“わからない”というのは、こんなにも嬉しくて、楽しいものなんだと。
「う、うぅん」
ぼんやりと意識が浮上する。また機材に身体を預けて寝落ちしてしまったのだろう、気怠い身体を冬眠明けの熊のようにのっそりと頭を持ち上げる。――そういえば、最後に日光に当たったのはいつだったっけ。下手をすると彼らより引き籠もっている気がしなくもない。
「……随分、懐かしい夢だったなぁ」
いつものエプロンドレスの袖で口元を拭いながら、先ほどまで見ていた夢、というよりも記憶か、それを思い返す。
“あれ”から5年程が経っただろうか。紆余曲折あったものの、ISの存在は世俗に認知され、私は大手を振って研究に勤しむ――――などと都合の良い展開があるはずもなく。ISは“マルチフォーム・スーツ”としてではなく、“既存兵器を優に凌駕する戦闘兵器”として認識され、現在はすっかりその方向性での開発ばかりが進められている。“あんな計画”ではそうなるのも無理のない事なのだが。
「あの時の“黒豹”さんはちょ~っちやりすぎだったと思うんだよねぇ~……」
“黒豹”というのは、私が勝手につけたあの“黒いの”の名前である。ヘルムの側頭部にネコ科の耳を彷彿とさせるような突起物があったから、という安直な理由だ。最初は私の計画を台無しにしてくれた腹いせもあって“黒猫”というのが思い浮かんだのだが。
「あれはお世辞にも“猫”なんてレベルじゃないしねぇ~」
5000発以上のミサイルを同時に撃墜とか、バカげているにも程がある。今でこそ似たような真似なら出来なくもないが、ぶっちゃけ今でも“黒豹”に勝てるようなビジョンは思い描けない。開発中の第4世代でも、どこまで食らいつけるか。
「う~ん、天下の束さんをここまで悩ますとは……流石だねッ!!」
追及がウザったい皆様にコアをばら撒いた後、私は研究に没頭する為に“
「開発の苦労も知らないで好き放題言ってくれるんだから……あのゴミ屑ども」
一度は歯牙にもかけず“荒唐無稽だ”と一蹴した連中が、これまた華麗に掌で四回転半込みのコンビネーションジャンプをキメてくれたのも実に滑稽だった。中には上から目線で「寄越せ」って言ってきたのもいたっけ。
「“黒豹”さんが遊びに行っちゃうかもよ?って言ったら面白いくらい狼狽えてたけどね~」
彼(だと勝手に思っている)は世間に“Dr.篠ノ之秘蔵のIS”と認知されており、しかしあの一件以来、ここ数年の目撃情報が一切ない事から軽く都市伝説のような扱いを受けている。私は“正体を知っている”とも“いつでも呼ぶことが出来るとも、一言も口にした事はないのだけれど。だから“何者なのか”と聞かれても答えられないし、そもそも私が手掛けていない以上、あれはISですらないのだ。
そう、それはつまり、IS以上に優れたものを生み出す事は決して不可能ではなく。そして、それは同時に、私の未だ知らない技術が世界にはまだまだ沢山存在しているという事。
「あれから一度も見つかってないけど、今どこで何してるんだろうなぁ~……」
ワクワクを抑えきれず、今日も私は指先を躍らせる。あの隣に並び立てるような、そんな私の結晶を創り出すべく。
――――そして、想像だにしていなかった。“再会”が、そう遠くない未来に待ち受けていることを。
没の理由
幾らなんでも束が5年間も見つけられないとかねーべ、とかいうなんか変な方向に働いている天災への信用。
一体何のガラメカを使っているかは、ご想像にお任せします。
では、ひと足遅れの盆休み、楽しんできま(*・д•)ノ
(↑このタイミングで投稿した主な理由)
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