ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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キリのいいところまで書けたので投下。
続きは近い内に。


Range Of Samurai Ⅰ

 新しい朝には輝く緑と希望がある、と夏休みの風物詩で歌われている。前に読んだ漫画に書いてあったので試してみたが、洗いたてのパンツを履いた正月の朝日は、確かに爽やかな気分を味わえた。が、それも心持次第なんだなぁ、と嫌な形で実感させられたIS学園の2日目の朝。

 

 欠伸を噛み殺しながら布団を出て、カーテンを開け放つ。盛大に伸びをしながら、昇ったばかりの朝日を浴びる。ビタミンDの生成は勿論、体内時間を調節するのに最も適した行為だと、家庭科の先生に教わってから続けるようにしている。目覚めが非常にスッキリするのだ。

 

 さて、つい先日までならば、早朝のランニングを兼ねた新聞配達のアルバイトがあった訳だが、ここではその必要もなくなったし、未だに地理を把握出来ていないところで調べもせず下手に出かけるのは宜しくない。それは受験会場の一件で痛い目を見たので、よ~く知っている。

 

 なので、今朝のランニングは中止。放課後にこの辺をぶらついて、コースを決めてからにしようと決める。それよりも、まずは。

 

「箒、朝メシの時間って―――アレ?」

 

 振り返った先、まだ眠っているのだろうと思っていた同居人は、とうに寝床を抜け出した後のようだった。丁寧に折りたたまれた寝間着と、プロ顔負けなレベルで綺麗に整えられたベッドは、一流ホテルのそれと全く遜色がない。実に、几帳面な彼女らしい。

 部活の朝練にでも行ったのだろうか。それとも単に、俺と同じように日課の鍛錬があるのかもしれない。何にせよ、俺でも同じようにしただろうし、偶々トイレだとかに行っているだけかもしれない。書置きを残しておくとしよう。

 

「『職員室と食堂に寄ってから、そのまま教室に行きます』と。これでいいだろう」

 

 そうして、校舎へと向かう。早朝の職員室は流石に普段ほどの人影は見当たらない。が、お目当ての人物はいてくれた。本当に、仕事熱心な人だと思う。こういうところを見れば、”山ちゃん”だの”山ピー”だの、呼ぶ人も減るんじゃあないかな。……いや、むしろ、増えるかもしれないな。

 

「――おはようございます、山田先生」

「あら、織斑君。おはようございます。早いですね」

 

 声をかけると、山田先生は机から視線を持ち上げ、微笑みながら返してくれた。

 

「どうかしましたか?」

「ちょっと、質問したいことがありまして」

「質問、ですか? 授業でどこか、解らなかったところでもありましたか?」

 

 近づく俺の方へと椅子を回して身体を向け、両手でマグカップを持って、未だ湯気を立ち昇らせる何かを啜る。仄かに鼻腔を擽る香りからすると、ココアのようだ。

 

IS学園(ここ)って、実技の授業以外でもISの練習、出来るんですよね」

「えぇ、出来ますよ? ……あぁ、成程。訓練機の貸出、ですね?」

「はい。なんせ、まだ試験の時しか、乗ったことがないですから」

 

 たった7日間で、代表候補生相手に届き得る“何か”を掴む為にも、少しでも早く、長く、実際のISに触れたい。それは当然の結論だった。放課後、カデンソンさんの講義を受けて、ISへの興味が俄然深まったのも、理由の1つでもある。

 

「ただでさえ、皆より遅れてますから。少しでも早く、追いつきたいんです」

「それは、素晴らしい心がけです。でも……ん~、ちょっぴり難しいかもですね」

「と、言うと?」

「訓練機の貸出は予約の申請が必要なんですけど、今すぐに予約をしても、順番が来るのは、そうですねぇ……半年くらい先になっちゃうと思います」

「あぁ、やっぱりですか」

 

 皆、考えることは同じだろう。なんせ今現在、世界で唯一ISを学べる機関だ。在校生の数はざっくばらんにしか覚えていないが、それでもそこらの私立校・公立校など優に上回っていたように記憶している。学園の保有するISの機体数は世界最多ではあるが、学園の在校生全員に行き渡らせるには、圧倒的に不足しているのは予想に難くない。となれば必然、競争率は高くなるに決まっている。流石にそこに横入り出来るほど、俺の肝は図太くない。

 

「こういう決まりごとに一度でも“特例”を許してしまうと不満を煽りかねませんし、ただでさえ織斑君は“男性”ということで色々とありますから」

「ってことは、ぶっつけ本番で頑張るしかない、か」

「……あれ? 織斑君、ひょっとしてまだ聞いてないんですか?」

「はい?」

 

 聞いてない? 何を?

 首を傾げながら尋ねる自分を見て山田先生は、彼女らしからぬちょっぴり悪戯っぽい微笑みを浮かべ、続けた。

 

「織斑君が学園に来たのは、男性であるあなたがどうしてIS適性があったのかを調べるためだっていうのは、解ってますよね?」

「えぇ。そりゃあ、まぁ―――え?」

 

 ちょっと待て。それは、まさか。

 

「はい。多分、織斑君が想像している通りだと思います」

「……()()ですか?」

「今週末、らしいですよ?」

「うへぇ」

 

 ってことは、()()()()()()()、千冬姉は。だからあんな無茶なセッティングにしたのか。少しでも長く、少しでも早くするために。

 

「専用機まで融通されるとか、俺、ますます後ろめたいんですけど……」

「あ、あはは……」

 

 大層ご立派な“大義名分”になるんだろうけどさ、ただでさえ“狭き門”を顔パスみたいなズルしてここにいるってのに、それを俺がどう感じるかとか、考えないのかね。……考えてないんだろうね。それだけ必死ってことなんだろうね。そりゃあ山田先生でも苦笑いするよ。というか、オイ大企業、報連相くらいしっかりしてくれませんかね、マジで。全世界で500もない貴重な代物なんだぞ。

 

 ――ん。よし。割り切って切り替えよう。そっちがその気だってんなら、俺がどうこう考えたって無駄だし。いっそ開き直って受け入れた方がまだ精神的に健全だ。

 

「一度、カデンソンさんにご相談されてみてはどうでしょう? 織斑君の機体も担当されるそうですから、私よりも詳しくご存知でしょうし、何かいい知恵を貸してくれるかもしれませんよ?」

「そうしてみます。昨日も、お世話になったばっかりなんですけど」

「やっぱり、同性の方が相談しやすいですか?」

「あ、あ~、えっと……はい、スミマセン」

「ふふっ、好いんですよ。こういうのは、適材適所です」

 

 態々「解らなかったらいつでも~」って言ってくれたのに、別の人のところで教わったって訊いたら、多少は嫌な気分になったりするものだと思うのだけれど、山田先生はそんな素振り一つ見せない。何だこの人。菩薩か何かか。心の中で拝んでおこう。

 ……一瞬“ご参パイ”とか考えた自分を殴りたくなった。許せ。俺だって健全な若人なんだ。

 

「技術や理論に関する知識なら、整備課の皆さんがずぅっとお詳しいですから。逆に、ISの操縦なんかに関することなら、私たちにお任せください。勿論、5教科に関する質問でも大歓迎ですよ」

「はい。有難う御座います」

 

 そうと決まれば、まずは腹ごしらえだ。早いところ食事を済ませないと、あの姉上のことである。例え1分たりとも遅刻したなら、どのような厳罰が下されることか。想像したくもない。

 

 深く礼をして、職員室を後にする。「ふふっ、若いっていいですね~」なんて呟きが出がけに聞こえて、アナタだって十分に若いでしょうが、とツッコみたくなった俺は、間違っていないと信じたい。

 

 

 

 

 偽薬(プラシーボ)効果、というものがある。実際にそのような薬効がなくとも、「この薬はとてもよく効く」と信じている人が飲用すると症状が改善することがあるという、言わば暗示のような治療効果のことを指すのだが、似たような現象が今日の自分には起こっていた。

 

 授業が、()()()()()、解るようになった。ただの呪文にしか見えなかった教科書や黒板の文字が言わんとしていることが、()()()()()()()読み取れるようになったのだ。

 その程度か、と侮るなかれ。これは勉強する上でとても大きな一歩である。これは膨大な数のジグソーパズルから、4つの角のピースを探し出したに等しい。()()()()()を見出せたのだ。

 

 こうなってしまえば、後は単純。ピースの形状をヒントに、隣に当てはまるピースを探し出せば良い。要するに、今の自分が解らない部分を把握し、解らない理由を把握し、解らない原因を把握する。学問に王道なし、と謳われるように、“強”かに“勉”めてこその“勉強”である。そして、それを継続するために必要なのは、そこに如何にして“楽”を見出せるか、という点に帰結する。

 俺は今日、その“楽”を見出すことができた。そして、それは間違いなく。

 

「成程、実技訓練、ね。勤勉なのはいいことだぜ、一夏君。嫌々って感じじゃあないのも、実にGoodだ」

 

 この人の個人授業のお陰、である。昨日からは想像だに出来ないほど清々しい気分で放課後を迎えられた俺は、山田先生に薦められた通り、真っ直ぐに整備管理棟のカデンソンさんを訪ねた。

 

「君の資料、読ませてもらったよ。察するに、君は体育会系だろう。ビデオゲームの説明書とか、全然読まないタイプ」

「あ~、はい、そう、です」

「なぁに、責めてるんじゃあないさ。気持ちは解るしね」

「え、ひょっとして、カデンソンさんも、ですか?」

「そうは見えないかい?」

 

 はい、と首肯する。理知的な人だと思ってたんだけど、昔はもっとやんちゃだったりしたのかな。物腰が落ち着いているから、とてもそうは見えないのだけれど。

 整備管理棟の1階、訓練機の格納庫。ISがずらりと並ぶ壮観な光景に呆気に取られながら、「ついといでよ」とどこかへ先導し始めたカデンソンさんの後を追う。

 

「授業でも習っただろうけれど、ウチで扱ってる訓練機は“打鉄”と“ラファール”の2種類。今現在、市場に出回っている各種パッケージも取り揃えているし、中にはこれから出回るかもしれない試作品なんかもあったりする。豊富な装備を自在に組み合わせて、あらゆるニーズに応えられる汎用性は、第2世代の強みと言って良いだろう」

「パッケージも自由に借りられるんですか?」

「勿論。戦闘スタイルは、それこそ人の数だけあるからね。

 さて。山田先生の言う通り、訓練機は半年先までキャンセル待ち。で、君の専用機は今週末に到着予定。倉持には何度も催促してるんだけどね、電話越しに聞いてる感じだと、下手すると月曜ギリギリかもしれないね」

「マジですか」

「残念ですが、マジです。……そんなに難しい要求した覚えはないんだけどなぁ」

「ん? 今、何か言いました?」

「んにゃ、何でも。納期守ってくんないのは困るよね~、ってさ」

 

 けらけらと可笑しそうに笑いながら案内されたのは、分厚い壁に囲まれた立方体状の閉鎖空間。小規模なコンサートホールくらいはありそうな広さで、声を張り上げたら反響音が返ってきそうなまである。

 

「んじゃま、やれることからやってみようか」

 

 呆けたように見回していると手渡されたのは、スキューバダイビングで使われたりするゴツめの水中ゴーグルのような機械だった。

 

「つけてご覧。ブレたりしないように、バンドはきっちり締めてな」

 

 そう言うので、そのゴーグル擬きをつけてみると。

 

「――お?」

「その反応だと、ちゃんと“視えてる”みたいだな」

 

 何もなかったはずの空間、200mほど向こうに、等間隔で横一列に並んだ人型の”的”が見えた。ぼんやりと奥の壁が見透かせる半透明。

 

「これ、VR、ですか?」

「そ。ここはVR技術を応用したトレーニングルーム。弾丸(たま)だって無料(タダ)じゃないからねぇ。実際にドンパチやるより経済的だろう?」

 

 そう言いながらカデンソンさんが手元のコンソールを操作すると、俺の手元に大きめの拳銃が現れた。……“Constructo Pistol(コンストラクトピストル)”? って視界の右端に表示されたけど、この銃の名前かな。

 

「フランスの某社と共同開発中の試作品さ。ISで撃った際の弾道計算や反動によるブレも含めてデータ入力してある。装填数は6発。狙って撃ってみな」

「は、はい」

 

 言われるがままに銃口を向け、連続して引鉄を引く。感覚としては、リアル志向のガンシューティングゲームに近い。6度、妙に本格的な銃声の後、視界を拡大してみるが。

 

「全部ハズレ、だな」

「ですよね~……」

 

 標的は完全無傷。どうやら全弾、明後日の方向へ飛んで行ったらしい。おかしいなぁ、割ときっちり狙った積りなんだけど。的中、とまではいかなくとも、掠るくらいはいくだろうと思っていたのに。

 

「銃を撃ったことは?」

「ない、ですね」

「だろうね。日本人なら、普通はそうだ」

 

 ドイツ軍に世話になっていた頃、弾丸を抜いた機関銃を抱えてのランニングは経験があるけれど、終ぞ射撃訓練に参加させてもらうことは叶わなかった。向こうで専ら一緒にいた”アイツ”が普通に携帯していたのを見て幼心に憧れつつも、流石に“危険だ”という言い分も理解できたので、泣く泣く我慢したのは未だ記憶に新しい。

 

「撃ってみて解ったと思うけど、無風の室内で、相手も自分も止まったまま撃っても、それくらいの()()は常に起こり得るのが射撃武器だ。ISのハイパーセンサーとエイム補助機能があるとはいえ、実際のIS戦じゃ相手が縦横無尽に動くし、棒立ちのままゆっくり狙う暇なんて与えちゃくれない。加えて、大気中の湿度や、ほんの些細な横風でも弾道は簡単に曲がる。実弾なら尚更。銃ってのは、ただ真っ直ぐ狙えば当たるものじゃあない。しかもそこに武器それぞれの()()ってものまで出て来たりするからね。

 対戦相手のことは、調べたかい?」

「公開されているデータくらいは。“蒼い雫(Blue Tears)”、ですよね」

「なら、話は早い。彼女は、()()()射撃武器のエキスパートだ」

 

 そう言って、カデンソンさんが手元のコンソールをこちらに向ける。表示されているのは、誰かの射撃訓練のリザルト画面のようだった。

 

「入学2日目じゃ知らなくても無理ないけど、VRルーム(ここ)は一般生徒にも解放されていて、申請すれば誰でも使えるんだ。()()、どこで聞きつけたのか、学園に来たその日に使用許可の申請手続きに来てね。目聡い上に貪欲な努力家らしい……強いよ。こと射撃に関しては、学園全体でもピカイチだろうね」

 

 命中率99.8%、という驚異的な数値だけではない。弾丸はターゲットの頭部あるいは心臓を的確に撃ち抜いており、その間隙すらも殆どないと来ている。ただ構えて、撃つ。呆れるほどに繰り返してきたのだろうと、容易に読み取れた。

 

「加えて、“蒼い雫(Blue Tears)”には試験的にとはいえ、BIT兵器も搭載されている」

「あの、フ○ンネルみたいなヤツですよね。過去の試合映像、観ましたけど」

 

 自在に飛び交う砲撃で牽制、エネルギーライフルによる正確無比な狙撃で確実に仕留めるそのスタイルは、“戦闘”というよりも“狩猟”というイメージを強く覚えた。

 

「対戦相手、全然近寄れてなかったです。四方八方から撃たれまくって、立ち往生しているところを、ズドン、と」

「公式の動画ならPRも兼ねて、よりカッコよく見える試合を選んでいるんだろうけれど、少なくともそれだけの腕前はあるって証明でもある」

 

 いずれは追いつきたいと思う。が、月曜まででは、どう足掻いたとこで()()()()にしかなりえない。同じ土俵では、勝負以前の問題だろう。

 と、なると。

 

「カデンソンさん、近接武器のVRルームもありますか?」

「あるよ。……けど、君にはもっといい手があるじゃあないか」

「? いい手、って?」

 

 そう言うと、カデンソンさんはしぃと口元に人差し指を立て”静かに”というジェスチャーをして踵を返し、VRルームの出入口へと歩いて行って。

 

「うってつけの練習相手が、ここにさ」

「――んなっ!?」

「……何やってんだ、箒?」

 

 徐に開け放った扉の先、聞き耳を立てていたのか、バランスを崩して室内に倒れ込んできたのは、今朝からどうにも擦れ違い続きであまり顔を合わせていなかった、ルームメイトの幼馴染だった。

 




サブタイトルの元ネタ
『ラチェット&クランク2(PS2)』のスキルポイント
“レンチ・サムライ(Wrench Ninja II: Massacre)”
 惑星ジョッバにて、登場する敵キャラを全員、オムレンチによる攻撃で倒すと獲得できる。地味~に打たれ強い敵がどんどん沸いてくる上に固定砲台もあるので、しっかりアーマーを強化してからでなければ中々難しいスキルポイント。レンチを使った攻撃ならOKなので、投げてもいい。

補足説明

・“コンストラクトピストル(Constructo Pistol)”(初出『FUTURE2』)
 上記作品でのラチェットの初期装備であるピストル型ガラメカ。『FUTURE2』におけるコンストラクトシリーズには“とある特徴”があるのだが、本作のちょっとしたネタバレになってしまうので、ここでは割愛させて頂く。

・VRトレーニングルーム(初出:『3』)
 読んで字の如く、VR技術によるトレーニングルーム。『3』ではガラクトロンのガラメカショップで買い物する際に、このVRルームで、練習用の小型エネミー相手に試し打ちをすることが出来た。床面がダメージを受ける通電状態になったり、急に足場がなくなったりと、アクションに不慣れなプレイヤーでもしっかり練習出来るシステムになっている。
 原作では疑似的に創り出した空間にワープパッドで移動するのだが、流石に現時点でそこまでのぶっ飛び技術を放り込むのはまずいので、こういう形に。勿論、ソフトもハードも“2人”の監修及び技術提供の下で作成されている為、実はちゃんと調べると相当な先進技術の塊であるのだが、不思議と疑問に思う人はいないご様子。まぁ、焼き方を知らなくても美味いパンが食えてりゃ文句なんて出ないよねッ!!

 後書きは次回、纏めて書きます。
 箒視点での学園生活2日目。再びディープに彼女の内面を掘り下げます。
 

 では、近い内にまたお会いできることを願って。

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