ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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先日の尿管結石でぶっ倒れた際、ずっと積みゲーになっていたスーパーマリオオデッセイを100%クリアしました。
ずっと初見で愉しみたい、と情報を断っていたので、ワクワクが止まりませんでした。本作のクッパ城、凄かったですね……サントラ購入が決定した瞬間でした。収集アイテムの上限数には流石に笑いましたが。999個ってなんだよ(白目)



Straight Jet Ⅲ

―――『四面楚歌』ってのはこういうことを言うんだろうなぁ、なんて、どこか間の抜けたことを考えていた。

 

 それは、どこか骸骨を思わせるようなデザインをした、大きな顎とぎょろりとした目を持ったロボットだった。左腕の肘から先は光線銃と化しており、両脚はなく、顔の割に小さなボディの背にジェットパックが接続されており、それで宙に浮いているようだ。そんなロボットが1、2、3……数えるのも馬鹿馬鹿しくなるようなとんでもない数で、俺を包囲していた。正直、これだけでもかなり強烈な光景なのだが。

 

『Mr.ズーコン 早クコイツ 穴明キチーズニシタイ』

『Mr.ズーコン 食事 要ラナイ Mr.ズーコン 恐怖食ベテ生キル』

『コイツ 間抜ケ 隙ダラケ Mr.ズーコン 本気ナラ モウ10回死ンデル』

 

 どういうAIを搭載しているのか知らないが、口を開けばこんな物騒な言葉しか吐かないのだ。それが上下左右前後、全方向から絶え間なく聞こえ続ける。これで心を穏やかに保てるほどの場数を自分が踏んでいる筈もなく。

 

「カデンソンさんッ!! ()()なんなんですかぁッ!?」

「ん? 自分で言っているじゃないか。"Mr. Zurkon(ミスターズーコン)"って」

「そういうことじゃなくてぇッ!!」

 

 虚空へ向かって叫ぶと、どこからともなく反響音と共にカデンソンさんの声が聞こえてきた。からかうような口調を諫めるように声を張り上げると、笑いを堪えているようだった。

 

 遅まきながら状況を説明しよう。場所は近接戦闘用のVRルーム。さっきまでのゴーグルに加えて、今の自分はプロテクターのようなものを両肘と両膝に、ごてごてした手袋と靴を両手足に着用している。すると、先ほどまでは自由にアリーナ内を見渡せるだけだったのが、いつの間にか今の自分はVR映像のISに搭乗しており、試しに手足を動かしてみれば、その通りにISが動くようになっていた。そして、カデンソンさんが、驚きながら感覚を確かめている自分を他所に何やらコンソールを操作し始めたと思えば、いつの間にやらこの包囲網である。説明を求めることに何の躊躇いがあろうか。

 

「さて。機体は君の専用機に合わせて打鉄(うちがね)のスタンダード装備にしておいた。まずは近接用ブレード“葵”から展開してみようか。右手に刀を持つイメージをしてご覧」

「え、あ、はい」

 

 と、突然と真面目な声のトーンの変化に思わず従ってしまう。現れたブレードを握りしめると、掌に疑似的な重さを感じるようになった。ここまで技術が進歩しているのか、と素直に感心する。

 そして。

 

「さて、一夏君」

「はい?」

「オルコットさんはかなり強い。でも、今回に限って言えば、実はそんなに強くない」

「……はい?」

 

 え。何を言っているんだこの人は。あんぐりと呆けたように口を開け、虚空、多分カデンソンさんがいるんだろうなぁ、って方を見る。

 

「順を追って説明しよう。

 まず、蒼い雫(Blue Tears)の武装。BTエネルギーライフルの"Star Light Mk-III"に、BT兵器はレーザービット4基とミサイルビット2基の計6基。一応、近接戦闘用のブレードも搭載してるみたいだけど、まぁゴリッゴリの遠距離戦闘を想定した機体だ」

「そうですね」

「距離や角度を問わず、常に相手の側面や背後からの奇襲が狙えるのがBT兵器みたいな"子機"の強みだ。彼女の主武装であるライフルは決して取り回しがいいとは言えないし、連射力にも乏しいという欠点がある。彼女はそういった部分を補うような運用をしているね。実際、過去の戦績を見ても、その殆どがBT兵器により相手を攪乱して浮足立ったどころをズドン、だし。

 つまり、相手はライフルの射程を活かすためにも、なるだけ距離を取って戦いたいわけだ。……でも、今回のステージは?」

 

 言われて気づく。そう言えば、先ほどから立たされている"この場所"こそ、正にそうではないか。

 

「そう、"アリーナ"だ。半径100mという横の制限ばかりか、ご丁寧に"天井"まで用意されてる。どうしたって取れる距離に限界があるんだ。近づいて殴れ、の理由は何も君の射撃の腕前だけじゃない。前提条件だけならこっちが有利だってのに、わざわざ相手の土俵で戦う必要もないだろう? ましてや、"子機を使う相手"なら尚更、だ」

「それは、どうしてですか?」

「簡単さ。確かに、オールレンジで全方向からの攻撃が可能なのは脅威ではある。でも、威力は主武装のライフルほどじゃない。何もノーダメ縛りしてる訳じゃなし。どれだけ攻撃を食らおうが、最終的に相手のSEを削り切れば勝ちなんだ。なら、どっちを優先的に対処すべきかは、言うまでもないだろう?」

「じゃあ、この包囲網は」

()()()()()()。周りの壁にちゅうも~く」

 

 言われてグルリと視線を回すと、アリーナの壁面4方向、90度毎に大きな砲台が設置されていた。

 

「"Fusion Cannon Turret(フュージョン キャノン タレット)"。まぁ、要するにエネルギーキャノンだね。今から一夏君には、コイツに狙われつつズーコンたちの攻撃を凌ぎ切る、そういう練習をしてもらう。言わば、ISでやるドッジボールだね。外野の数は凄く多いけど」

 

 そう聞こえたと同時、ギュンッと勢いよくズーコンの1体が自分の顔に接近してきた。キュインキュイン、なんて音を鳴らしながら、こちらの目を覗き込むようにカメラアイのピントを調節しているのが見てとれた。思わずビビって腰を引いてしまう。

 

「まずは地上で目標1分。それが出来たら少しずつ目標時間を延ばす。3分凌げるようになったら、今度は同じことを空中でやってもらう。最終的に空中で5分凌げるようになるのが目標だね。ベストは回避。それが無理ならブレードで防御するか、せめて体軸をずらしてクリーンヒットだけは貰わないようにすること。この見定めの早さを鍛える訓練だ。常に意識しての判断を心掛けるように」

「なる、ほど。解りました」

 

 理由は解った。映像とは思えないほどのVRのクオリティに少々背筋が震えちゃったりしているのだけれど、短期間でここまで対戦相手の分析ばかりか訓練プログラムまで用意してくれたのだ。応えなければ男ではない。ない、が。

 

『オマエ 貧弱 モヤシノヨウ 戦場デハ オマエノヨウナヤツカラ 死ヌ』

『早ク撃タセロ Mr.ズーコン トースト作ルノ 得意』

『Mr.ズーコンカラ 恐怖ノ宅配ダ オ代ハ 逃ゲ惑ウオマエノ 恐怖ノ叫ビ』

「……カデンソンさん。コイツら、静かに出来ないんですか?」

「ん? 無理」

「なんでですかぁッ!?」

「なんでって言われてもなぁ。ぶっちゃけ"こういうもの"だから、としか。まぁ、難易度"EXターミネーター"に設定してるから、しゃべりの方もレベルアップしてるのかも」

「EXターミネーターってなんですかッ!! それ絶対ベリーハードより上ですよねぇッ!?」

 

 正直、早くも心が折れそうである。よくもまぁここまで語彙力に富んだ罵声が出てくるものだ。本当に、どんなAIを搭載すればここまで口汚くなるのだろう。勿論、これが遥か彼方の銀河で開発された()()()ロボットをカデンソンことラチェットがそのまんま再現しただけの代物であることは、知る由もない。

 

「まぁまぁ。あれだよ。最初から最高難易度で慣れてしまえば、それ以下なんて大したことなくなるじゃない。高山トレーニングみたいなものさ。ただでさえ短期間で大金星を狙うんだから、これくらいはね」

「う、うぅ」

 

 それを言われると弱い。やる以上は"勝ちたい"し、その為になるなら何だって、とも思っている。

 

「解ったッ、解りましたよッ!! やってやろうじゃないですかッ!!」

「よぅし、その意気だ。なに、君なら大丈夫さ。外から見ただけで直ぐに"三角形"に気が付いた、君ならね」

「あ、そうだ。それなんですけど。やっぱり、間違いないんですか? 殆ど直感で"そうかもしれない"って思っただけなんですけど」

「あぁ。入手できた彼女の過去の戦闘データを照らし合わせて、その全てに該当していたからね。

 

 彼女は、BT兵器を運用する際、必ず――――

 

 

 

 

 

 セシリア・オルコットは驚愕していた。

 

 織斑一夏は近接ブレードを突き刺すように構えたまま、地を這うかの如く低く鋭くこちらへ向かって真っ直ぐに突撃を開始した。進行方向を抉るようにライフルを撃つ。撒きあがる砂塵を置き去りに純白の機体が突き抜けてくる。外したようだが、微かにバランスを崩している。狙い通りだ。

 

 続けざまにレーザービット2基を配置。機動力を削ぐため、スラスターを狙い撃つ。しかし、ヒット直前に白式が機体を90度回転、微かにSEを掠める程度に留まってしまう。そのまま、スラスターの片翼がアリーナの地面に直線を描いた直後、グンッと頭を持ち上げ、突進方向をこちらへと変更した。勢いのまま一気に接近する腹積もりのようだ。

 

 最早、様子見に回す余裕はない、と残り2基のレーザービットも展開。ライフルを含め疑似的な3点撃ちをする。すると、近接ブレードを正面に横に構え、独楽のようにグルリと回転。レーザーは弾かれてしまったが、ライフルの一撃はヒット。但し、クリーンヒットにはならなかったようだ。

 

 彼我の距離が急速に縮められていく。回転を終えた瞬間を狙い、レーザービット4基から同時に射撃。突撃の勢いを逸らすよう、スラスターの噴出口や機体の側面を狙う。先ほどと同様に、上手いこと体軸を回転させることでスラスターへの射撃は躱されてしまったが、残りのレーザーは胴体部にクリーンヒット。僅かに速度が落ちた瞬間を狙い、一気に距離を放そうと斜め後方へ移動しながら矢継ぎ早にライフルとレーザービットで追い打ちをかけながら、思う。

 

(遠距離戦闘型相手に近距離武装でどういう積りかと思いましたが、成程、回避力に特化させてきましたか。素人が下手に射撃武器を覚えてくるよりは、良い選択ですわね)

 

 撃ち合いになったなら、それこそワンサイドゲームにしてしまっていただろう。それだけの自信と自負がある。見たところ、近接戦闘に特化した機体であるようだ。であれば、重点が置かれているのはまず間違いなく機動力だろう。未だ拙さの垣間見える技術ではあるが、悪くない。むしろ2回目でこれなら上々の出来。自分の時でもこうはいかなかった。素直に羨ましく思う。

 

 先ほどから、本来であれば"死角"になる位置からの射撃にもしっかりと対応してみせている。恐らく、"そういう"訓練を重点的に重ねてきたのだろうと容易に推測でき、そしてそれを本番に確りと反映させられている腕と度胸もある。敵ながら天晴。いよいよもって、楽しくなってきてしまったではないか。

 

五重奏(Quintet)にもついてくるとは御見事ですわッ!! かくなる上は、私の全霊をもって持て成させて頂きますッ!!」

「ウォオッ!!」

 

 最後、ミサイルビット2基を左右に布陣。レーザーへの対応に追われ徐々に高度を落としていく白式へ向かい、ミサイル2発を同時に発射する。雲を引きながら飛んでいく二筋の流星は、ロックオン対象をしつこく追い掛け回すホーミング式。レーザーとライフルの雨霰を最低限のダメージで凌ぎつつ接近を図っていた白式は急激に方向を変え、真上へと上昇していく。その後をミサイルが追いかけ、吸い込まれていくのを視認したと同時、炸裂した爆風が相手を包み込む。決まっただろうか、しかしそれにしては妙に手応えがないが。そう思った次の瞬間には、ブレードを振りぬいた体勢で黒煙を貫いてくる一陣の白光。どうやらギリギリまで引き付けて同時にブレードで撃墜したらしい。そう理解した途端、ゾワリ、と震えが走った。恐怖ではない。そんなものでは決してない。これは、間違いなく。

 

「よくぞ、よくぞこの短期間でここまで仕上げて来て下さいましたッ!!」

 

 歓喜だ。BT兵器全稼働状態の蒼い雫(Blue Tears)にここまで食らいついてくれる同世代の乗り手など今まで一人もいなかった。誰もが本領を発揮する前に撃墜されていった。それが、どうだ。ISに乗って2度目の素人が、全力を尽くして、ここまで食らいつこうと必死にもがいている。嗚呼、この感情に何と名を付けたなら良いのだろう。流石。流石は。

 

()()一夏ッ!! 踊りましょうッ!! 私と蒼い雫(Blue Tears)の奏でる円舞曲(Waltz)でッ!!」

 

 

 

 

()()ってことは、やっぱり君も()()なのかッ、()()()()()()なのかオルコットさんッ!!)

 

 喜色満面、といった具合で更に攻撃の手を強めてくる彼女の声を聞いて、一夏は改めて、()()()()()()()()()に間違いがなかったのだと、まるで鏡写しのように口角を歓喜で持ち上げた。これは、何が何でも、試合後に時間を作って確かめねばなるまい。その為にも、まずは全力で。

 

(落ち着け。落ち着け。訓練を思い出せ。段々"白式"が俺に馴染んできてる。反応速度が追い付いてきてる。リズムも掴めてきた。それが証拠に回避率も少しずつ上がってる)

 

 視界端の《FITTING》ゲージを見やると、間もなく50%へ到達しようとしていた。ここまでは概ね()()()()()。少々貰ってしまったダメージが大きくはあるが、まだ予測の範囲内。それよりも重要なのは。

 

(まだ気づかれてないか? こっちが彼女の"癖"に気づいているのは)

 

 それは気づいてしまえば実に単純で、ひょっとすると彼女自身でさえも自覚していないのでは、というものであり、そして同時に彼女が自身にそれだけ"染み込ませてきた"という努力の証でもあった。

 早い話、オルコットさんはビットを2基1対として『自身を頂点とした"三角形"になるように配置する傾向がある』のだ。それも、常に相手の死角にビットを潜り込ませるような配置。つまり、今までどうにかこうにかレーザー攻撃を凌げているのは最初から『死角から来る』と解っていたから、に過ぎないのである。故に心掛けていたのは、たったの3つだけ。『ライフルの攻撃に注意しクリーンヒットは貰わない』『レーザービットによる死角からの攻撃は白式の警告に従って対応』『ミサイルが来るならばギリギリまで引き付けて迎撃』。相手の機体が本領を発揮できないアリーナ(閉鎖空間)であり、その為だけの訓練を積んできたからこその"辛うじての善戦"。単騎1点張りの危うすぎる賭けでもあったのだ。

 

『最初から全方位からの弾幕攻撃で訓練しておけば、ある程度来る方向の絞られた4基の攻撃なんて、なんてことはないだろう?』

 

 言わんとしていることは解るし、実際にこうして凌げているのだから感謝してはいるが、まぁ、釈然とはしない。出来ない。してなるものか。

 閑話休題(それはともかく)。VRルームでの訓練の時と、こうして実際に相対しての体感時間や情報量の違いに圧倒され、序盤はつい数発貰ってしまったが、白式の適応化(FITTING)が進むに連れて徐々に白式と自分自身の反応速度に齟齬が無くなっていくのがはっきりと感じられていた。白式(コイツ)が本当の意味で()()()()()()()()()()()のだということが。

 

(―――ヤバいなぁ、コレ)

 

 楽しい。楽しいことこの上ない。思いのままに身体が動く。思いのままに空を舞える。そして、何より。

 

「行くぞッ、セシリアさんッ!!」

 

 剣道を辞めてからすっかりと遠ざかっていたけれど、この真剣勝負の肌がひりつくような緊張感が、俺は嫌いじゃないんだってことを、今になって思い出していた。

 

 

 

 

「―――愚弟が。調子に乗り始めたな」

 

 Aピット内。吐き捨てるように千冬は呟いた。

 随所に未だ粗があるが、ここまでの展開は割と悪くはなかった。自分の手札と、相手の手札。戦場(フィールド)の特性。それらを活かす戦術。実力も経験も圧倒的に劣っているのだから、使えるものは全て使い、僅かな隙も見逃さない。それくらいでなくては、アイツに勝機など有り得ない。

 恐らく、手応えを感じ始めたのだろう。表情を見れば、そして、開いたり閉じたりし始めた左手を見れば、それは明らかだ。こういうところはいつまで経っても詰めが甘い。眉間に皺を寄せ、溜息混じりに肩を竦めていると。

 

『うぉ、リズムが変わったッ!?』

『生憎、一筋縄では行きませんわよッ!!』

『くっ、それならこっちにも慣れてみせるさッ!!』

 

 途端、オルコットが攻撃のリズムを変更した。今のままではジリ貧になる、いずれ一夏が完全に読み切ってくると判断したのだろう。攻撃をレーザービット主軸に切り替え、本人は大きく移動を繰り返しながら、逆にライフルによる攻撃を攪乱に使用し始めたようだ。

 案の定、少しテンパったようにレーザービットの処理に追われる我が愚弟。しかしながら、初心者にしてはよく凌いでいる。回避・防御・いなし、その判断が中々に早い。篠ノ之流の道場で剣道に励んでいた時も、アイツはそういう"見切り"に関する素養は見せていたし、ここ最近は篠ノ之との立会いで感覚も取り戻しつつあったようだ。

 

「全く、焦りを表情に出すんじゃあない。締まらんな」

「そう言わずに。しっかり対応してるじゃないですか」

「辛うじて、な。……どこまでだ?」

「はい?」

「どこまでがお前の計算通りだ、カデンソン」

 

 隣、同じく戦況を見守るこの男。僅か3年でその地位を盤石のものとした手腕と、その整備の腕前は疑うまでもない。特に整備課の生徒たちからの評価は高く、教職へ推薦しないのか、という声も多々上がっているという。実際、この男が学園に来てからの整備課の成長は目覚ましく、中には既に大企業へ推薦状を獲得できるほどの成績を残している生徒もいるのだから、不当な評価ではないのだろう。

 

 だが、どうにもいまいち信用しきれない自分がいる。

 先週の職員会議後の"匂わせる発言"もそうだが、その後の一夏のVRルーム仕様申請書の作成も随分と早い時期に手際よく行っていたようだし(彼の管轄なのである意味当然ではあるが)、担当整備士であるとはいえここまで肩入れする必要はあるのだろうか。どうにも贔屓に思えてならない。まぁ、この学園での男性は肩身が狭かろうから、人身御供(おなかま)が出来たと喜んでいる、という可能性もあるにはあるが。

 確たるものはない。しかし、直感が囁くのだ。この男は、まだ、何か大きなものを隠している、と。

 

「どこまで、と言われましても――――()()()()ですかね」

「何?」

『うぉッ!! やべッ!!』

『そこですわッ!!』

 

 ニヤリ、とどこか嫌らしい笑顔で言うカデンソンに、画面へと急いで視線を戻す。そこには、ライフルとレーザーの飽和攻撃で身動きを封じられたところにミサイルを叩きこまれようとしている瞬間が映し出されており。

 

「一夏ァッ!!」

 

 次の瞬間、炸裂した弾頭がもうもうと黒煙を昇らせ、アリーナの中空に黒雲を立ち込めさせた。篠ノ之が悲痛な声を上げているものだから、乗せられて僅かな焦燥感を覚えてしまうが、ピット内に表示されている機体データを見て「あぁ」と納得する。成程。理由はともあれ、確かに()()()確りとこなしてくれていたらしい。

 

「―――機体に救われたか、馬鹿者め」

 

 いつまでも勝利者宣言がされないことにざわめくアリーナ内で、黒雲が徐々に晴れていく。それに連れて見えてくる輪郭に、更なるざわめきが沸き立つ。

 

「さぁ、整備士にしてやれるのはここまでだ。ここからは君次第だぜ、一夏君」

 

 不敵な微笑みと共に行く末を見守る姿は、少なくとも"弟の敵"だとは思えず、今しばらくはまだ様子見に留めるか、と千冬は心中で現状維持を決めた。

 

 

 

 

 

《FITTING》100% COMPLETE 『承認』要請

 

『搭乗者の『承認』確認致しました』

 

『操縦者:織斑一夏 機体名:"白式" これより"単一仕様能力(One-off Ability)"を解禁します』

 

 視界に映る待ち望んだ文字列に、拳を強く握り、叫んだ。

 

「―――やっとかッ、長い"5分間"だったッ!!」

 

 突然、攻撃スタイルをレーザービット主軸に変えられたのには焦った。流石は代表候補生、プランBやCくらいは持っていたらしい。『間に合わないかもしれない』と冷や汗ものだったが、足掻けるだけ足掻いてみるものだ。お陰で訓練の時は結局最後まで届かなかった目標時間が、ぶっつけ本番で達成できた。そして更に幸運なのは、ひょっとするとまだ彼女が"自分の癖を気づかれていることに気づいていないかもしれない"という点。

 黒煙を切り裂き、姿を見せる。驚くほど体に馴染んでいるのが解る。それこそ、自分の肉体と言って差し支えないほどに。

 

「まさか、"一次移行(First Shift)"ッ!? 本当に()()()()のまま、今まで戦っていたんですのッ!?」

 

 驚愕に目を見開くセシリアさん。しかし、その口は隠しようがないほどに笑顔のそれを象っていた。まだ楽しませてくれるのか、という歓喜に満ち満ちていて、釣られて自分も笑顔になる。

 深く息を吸い込んだ。準備は万端。覚悟も出来てる。

 

 

 

 

「さぁッ!! ここからは俺たちのステージだッ!!」

 

 楽しもう。円舞曲(Waltz)は一人じゃ踊れない。

 

 

 

 

 




補足説明

・"ミスター・ズーコン(Mr. Zurkon)"(初出『FUTURE』)
 使用するとラチェットの周囲に現れ、範囲内に入った敵をビームガンで自動的に攻撃するサポートガラメカ。稼働中は今回のような"物騒な発言"をひたすら喋り続けるドSロボ。続編に当たる『NEXUS』には息子のリトル・ズーコンと妻のミセス・ズーコンが登場し、全員漏れなく戦闘狂。最新作『GAME』にはステージボスとして登場したりもする。尚、典型的なカカア天下な一家である模様。理由? 火力もサイズもミセス・ズーコンが一番デカいんです(マジです)

・"フュージョンキャノンタレット(Fusion Cannon Turret)"(初出『A4O』)
タレット(Turret)は本来、建物や城郭から張り出した『小塔』という意味で、それが転じて軍事用語では『(軍艦の)旋回砲塔』『(戦車の)回転砲塔』『(戦闘機の)銃座』という意味になります。要するに砲台ですね。
初出の『A4O』では町の防衛機構として設置されており、最速で秒間10発くらい連射出来るキャノン砲と、同時に4発までミサイルをぶっ放せるランチャーが搭載されています。『Qフォース』では自陣の防衛機構としてバリエーション豊かなタレットを設置することが出来ます。タレット関連のスキルポイントも結構ありまして、これが結構難しかったり。攻略本ばかりかサイトも満足にない作品なので、国内や海外のプレーヤーたちと情報交換しながら試行錯誤していた頃が懐かしい……

・難易度"EXターミネーター"(初出『4』)
日本版『4』を遊ぶ際の最大難易度の名称。ちなみに下から『ゴロネリングマン』『ノーマルパンピー』『リアルサバイバー』『スーパーヒーロー』『EXターミネーター』となっている。高ければ高いほどミッションクリア時に貰える★の数が増え、それを対価にラチェットの見た目を変更させられる。変えられる見た目の中には『4』でクランクとイイ感じになる女型ロボットまであったりする。誰得やねん。



 どうも、IS12巻を読んで『まぁだハーレムに新キャラ増やすのォ?』と思った作者のGeorge Gregoryです。

 このSSの執筆にあたり、歴代作品を最初からやり直したりしている訳ですが、やはり名作は何度遊んでも楽しいですな。昔は気づけなかった部分だとかに気づけたり、言ってる意味が解らなかった台詞の意味が解ったり。昔に触れたものに改めて歳を重ねてから触れた時の"新鮮"とは違う不思議な感覚。素晴らしいですよね。……なので今からでもラチェクラ4の日本版HDリメイクを(ry
↑海外版は買ってる男

 アフィリオンも勿論好きですが、『2』『3』のスターファイターもまた素晴らしいデザインしてますよね。自分で装備や見た目を変更出来たのが本当に楽しかった。カラーバリエーションが凄まじい数あったんですよ。私は好きな色なんでついつい黒っぽいデザインにしがちでした(『4』のゴールデンクラス・アーマーを選んだのもこの辺が理由)。だから『FUTURE2』のアフィリオンがゾニーの力でダークブルーに変わった時のテンションったらなかった……

 皆様から様々な『俺はあのガラメカが好きなんですよ』だとか『あのシーンいいですよね』みたいな声を頂く度に、とても嬉しくなります。最早ちょっとした生き甲斐。同時に『あのガラメカの出番はまだですか?』という声も多く頂きます。いつになるか解りませんが、殆どのガラメカは登場させるつもりでいるので、お待ちくださいませ。

 それでは、また近い内にお会いできることを願って。

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