ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
一応、経緯を説明しますと。
本話を8割方書き上げた時点でノーパソが逝く
→修理に出したらHDDがアウトな上に1ヶ月掛かると言われる
→戻ってくるまでの間にゼノブレイド2にハマる
→スマホでちまちま書いていたらスマホが逝く
→機種変更すると同時にFGOを始める
→FGOがひと段落し執筆を再開しようとする
→北海道胆振東部地震
→震災被害の修理対応にてんてこ舞い
→今、数週間ぶりの缶ビール片手に書いてる
取り合えず、俺ちゃんは生きてます。
―――そうですね。正直、第一印象は"胡散臭い人"でした。
当時、まだ代表候補生だった頃の私は、ちょっとした事情もあって、軽い人間不信みたいな風になっちゃってまして。そんな頃に『あなたの専用機を担当します』なんて言う"若い男の人"と会ったら、誰だって訝しむと思いませんか? ……まぁ、実際の仕事ぶりを見て、それは懸念に終わった訳ですが。
私も、物凄くお世話になりました。最初はちょっと意固地になって距離をとってしまっていたんですけど、手伝ってもらうようになってからの進捗が、それまでとは段違いで……それなりにはあったはずの自信がぽっきりへし折られちゃいましたけどね。"いずれ追い付けばいいんだ"って簡単なことに気付くまで、結構かかったっけな。
そんな風に、色々と凝り固まってたものを片っ端から解されちゃってたので、最初は強かった"彼"への嫌悪感は、実際に会う頃にはそんなでもなくなっていて。むしろ、ちょっと同情してしまっていたと言いますか。"彼"に関する報道とか、学園での境遇とかを見ていると、どうしても。私にも、似たような経験が、ありましたから。
だから、ですかね。同族意識みたいなものが、いつの間にかあって。その上、結構真面目で努力家なんだなって知ってからは、陰ながら応援なんかもしちゃってた訳です。負けるな、頑張れ、なんて、心の中で、ね。
そんなでしたから、あの代表決定戦は、それはハラハラしながら見ていました。どう考えても出来レース染みた対戦カードなのに、周囲は囃し立てるばかりで、まるで止めようだとか、おかしいなんて声も上がらずに、終始お祭り騒ぎのままで。まぁ、かく言う私も、結局はその中の1人だったんですけどね。
だからこそ、驚かされました。"先生"の腕にも、それに応えてみせた"彼"にも。
聞こえた気がしたんです。"
あの日。入学式から丁度1週間経った月曜日の放課後。私はアリーナの東側の客席にいて――――
最初は、興味半分の積りだった。
入学式当日の放課後、整備管理棟の一室を間借りして作業の続きを、と思っていた時に整備課の先輩方が話していたその試合のことを聞いて、
織斑一夏。9月27日生まれ。天秤座のA型。趣味は家事全般とカメラ、そして筋トレ。得意科目は理系、だったかな。これくらいなら黙っていても耳に入ってくる程度には、彼のことは学園中に知れ渡っている。飢えた肉食獣の檻に放り込まれた生肉みたいなものだ。皆が皆ではないだろうけれど、その殆どは間違いなく食いついているだろうし、その気がなくとも四六時中誰かが話題に挙げるので、否が応でも耳に入る。事実、私の所属する1年4組のクラスメイトたちも、休み時間になる度に「見に行こう」だの「話してみたい」だのと繰り返していた。
当初、私は彼という存在を疎んでいた。ある日突然、一方的に私の専用機の開発中断を言い渡され、何故かと問い詰めれば「彼の専用機を開発することになった」と言われた時の憤慨は未だに忘れられず、そして、それ以上に忘れられないのが―――
「かんちゃん、大丈夫? 寒いの?」
「ううん、大丈夫。ちょっと、思い出し震い、みたいな」
「なぁにそれぇ、ヘンなかんちゃん」
いけないいけない。
無理もないと思う。矛先は私に向いていないのに、心臓を鷲掴みにされたようで、まるで生きた心地がしなかったのだ。そのまま黙って管理人室へ向かって暫く出てこなかったあの十数分の間に何があったのかまでは知らないけれど、聞いた話では倉持技研の幹部役員の一部が解雇され、カデンソンさんは以前にも増して私の専用機開発に積極的に協力してくれるようになった。元々、カデンソンさんは倉持技研にいたと言うし、何か便宜を図ってくれたのかもしれない。
そんなこともあって、最初こそ織斑君を快く思っていなかったのだけれど、カデンソンさんが専用機のトラブルを解決してしまってからはむしろ"動物園のパンダ"みたいな扱いを受けている彼が気の毒で仕方がなくて、それなのに足繁く整備管理棟にやってきては、カデンソンさんと勝つために真面目にあれこれ頑張っているのを知ってしまったりなんかしたら、応援したくなったって仕方がないと思うのだ。うん。
「それに、例えそうだとしても、ちょっと体調崩したくらいで、"これ"を見逃したくない。本音だって、そうでしょう?」
「……うん。そだね」
見上げる先、アリーナの上。縦横無尽に平行な二筋の雲を引く、真っ白な翼。もっと速いのを知っている。もっと上手いのも知っている。でも、何故か、それらには感じられなかった胸の高鳴りを覚えていて。
黒煙を割いて現れた、新雪のように透き通った真っ白な鎧。数瞬、戸惑うかのように佇んでいたオルコットさんへ飛翔―――いや、あれは"急降下"かな。見上げていた時、翼を畳んだ隼のような印象を覚えた。剣道でいう突きの構えで、防御なんて一切考えていない神風特攻。流石に代表候補生だけあって、オルコットさんが我に返るのは早かった。
ミサイルへの対処の際、妙に上へ上へと逃げていくなと思っていたが、成程、これも"指示"だったのか、と納得した。普通なら考えない。考え付いたとしても、実行に移す者はそうそう居はしない。
結果から言えば、その一撃は決まらなかった。正確に言えば、決まる必要がなかったのだ。オルコットさんは間に合わないと判断するや否や、被害を最小限に留めるよう体軸を回転、攻撃を受け流す体勢へと移っていた。しかし、それでも尚、彼の
雪片弐型。その真髄の銘は『零落白夜』。文字通りに、エネルギーを
端から、外す可能性も頭の片隅に置いていたのだろう。普通ならそのまま墜落コースだったろうに、織斑君は即座に機体を反転しバーニアを全開、勢いを殺し続け、それでも完全とはいかずにアリーナの地面を放り投げられたように転がり、壁へ激突することで最悪の展開を免れた。
『くっそ、クリーンヒットとはいかなかったかぁ』
『正直、肝を冷やしましたわ。後、ほんの少しでも回避が遅れていたなら、今ので勝負は決していたでしょう』
元より短期決戦の腹積もりだったのだろう。ISにおいて格下が
『ま、当たらなかったものは仕方ない。プランB、だッ!!』
『フフッ。それが空元気でないことを願います、わッ!!』
直後、再び急上昇する織斑君の出鼻を挫かんと、BITのレーザーが雨霰と降り注ぐ。多少の被弾をしつつも、それらを掻い潜るように宙を舞う姿は、拙さを残しながらも燕のような流麗さの片鱗があるように思えた。
そう。決して上手くはない。でも、上手くなる未来が視える。付け加えるなら、どうすればそうなるのかも、何となくだが解る。何が無駄で、何が必要で、その為に何をどうすればいいのかが、解る。
この学園に来てから未だひと月と経っていないが、それでもカデンソンさんの腕の凄さは知っていた。私が構築途中だったマルチロックオン・システムのデバック部分にパッと流し見しただけで気付いていたし、整備1つとっても速度が段違いなのだ。無論、その精度は言うまでもない。
だが、ここまでか、と。ISに携わってほんの数ヶ月の素人に、代表候補生相手にここまで善戦させるのか、と。見ている側にも"伸びしろ"が解る。動かしている本人は言わずもがな、だろう。ここまで出来るのか、と。もっと出来るかもしれない、と。そう思わせてくれるような、搭乗者に歩み寄った完璧なチューニング。果たして、同じことを出来る技術者が、この世界に何人いるだろうか。
技術者を志すものとして、恐らく自分と同じように、思うところがあるのだろう。いつもなら眠そうに瞼を細めている本音が、普段からは想像もつかない程に真剣な表情で食い入るようにアリーナを見ている。虚さんが見たら、きっと驚くに違いない。「こんな本音は見たことがない」って。
本音に限ったことではない。アリーナにいる全員が、純白と深青の協奏曲に見惚れていた。その様子は様々だが、大体は声を張り上げて健闘を称えるか、完全に口を閉じて戦況を見守るか、のどちらかだった。徐々に観客の数も増えている気がする。既に客席は溢れ返っており、立ち見のスペースすら埋め尽くされているに等しい。ほぼ学園の全生徒が駆けつけているのではなかろうか。
呑み込まれそうに鮮やかな青玉が千々に彩り、その中を曇りなき真白の筆が思う儘に奔る。それは、1つの作品のようにすら思えた。2人の合作。絵画であり楽曲。粗削りながら繊細。相反する青と白が織り成す、もう1つの"
―――そして、同時に鳴り響いた斬撃音と銃声が、終わりを告げた。
何度、このような
初めは、ただただ楽しかった。素敵なドレスに初めて袖を通した時の高揚感。徐々に身体に馴染むに連れて、どんどん世界が広がっていくような、あの不思議な感覚。それはきっと、いや、間違いなく、彼も同じである筈だ。
幼い頃に何度か、両親が2人で踊る姿を見たことがある。それには、社交界で披露するようなドレスも、広くて立派なホールも、豪華な楽団なんてものも要らなかった。寝室のベッドの横で、なんてことのない普段着で、ただのレコードの音源で、満ち足りていた。決して凛々しい顔つきを崩さないお母様がこの時だけは相好を崩して穏やかに微笑み、お父様は普段からは想像もつかないほどキリッと表情を引き締めてリードするのだ。決まったリズムも、足運びもない。ただただ好きなように、めちゃくちゃにしているだけなのに、こんなにも見ていて幸せになれるものがあるのか、と幼心に憧れた。
どうしたら自分もそんなに幸せそうに踊れるのかと、尋ねた。お母様と踊っても、お父様と踊っても、勿論楽しくて嬉しいのだけれど、あの時の2人の時のような幸せを感じられているかと言えば、そうではなかったから。何かが違うのだ。明確に何がかは解らないのだけれど、ボタンを掛け違えているだけのような、ミルクと砂糖を入れ間違えてしまったかのような、そんな些細な、けれど明確に違うと解る不思議な気持ち。すると、2人とも決まってこう言うのだ。
『お父さんだからよ』
『お母さんだからだよ』
あぁそうか、と理論だとかそういうのは全部スキップして、何となく解った。私は"お父様にとってのお母様"ではないし"お母様にとってのお父様"でもない。私が心から幸せに踊りたいならば、"私にとっての誰か"を見つけなければならないのだ、と。
社交界で色々な人と踊った。何人もの殿方にお誘いを受けた。中にはお父様よりも年配の方もいらっしゃったし、逆に、まだ言葉遣いもたどたどしい少年もいた。教えられたことも、教えたことも、沢山あったけれど、"私にとっての誰か"は結局見つからなくて、私のドレスに"
踊るのが楽しくなくなった訳ではない。でも、それでも、その先に待っているものを知っているからこそ、焦がれる想いは日に日に募って、降り積もって。そんな時だったのだ。"IS学園"の、そこへ通うことになった"世界初の男性操縦者"の話が、私の元へと届いたのは。
英国でダメなら、いっそ国を出てみるのも有りか。最初はその程度の、軽い気持ちでいた。そうしている内に、貴方に関する資料を読んで、その中にあった"とある一文"を見て、ひょっとして、と思ったのだ。貴方なら解るかもしれない、解ってくれるかもしれない、なんて淡い期待を抱いてしまったのだ。そうなってしまったら、もうこの心を止められなかった。
お母様は快く送り出してくれた。お父様はちょっぴり寂しそうではあったけれど、私が決めたことならと最後には認めてくれた。チェルシーには日本の文化に関する色々なことを詰め込まれた。特に大変だったのは、箸の使い方。豆を箸で1つ1つ掴んで移すあの訓練はとても難しくて、いつも終わった後は指がプルプルするのだ。
そして迎えた
そして、今。
(あぁッ、楽しいッ!! とてもとても楽しいですわッ!!)
テンポを上げる。少しずつだけれど、ちゃんとついてきてくれる。
足運びを変える。たどたどしいけれど、確実に合わせてきてくれる。
解る。彼はいつか、
あぁ、もっともっと踊っていたい、とはしゃいでいる私がいる。
いいえ、もうすぐおしまいにしなきゃ、と囁く私もいる。
とても口惜しいけれど、とても勿体ないけれど、永遠でないからこそ、終わりがあるからこそ、価値があるのだから。
「さぁッ、そろそろ
ミサイルを両断してこちらへと真っ直ぐに迫りくる此度のパートナー。既に残存SEも僅か。"零落白夜"は強力無比な反面、消費するSEも凄まじいと聞く。彼はその辺りも心得ているのだろう、発動は接敵の刹那、交差の瞬間に留められていた。"ちらつかせる"利点もしっかりと知っているようだ。聞いてみたいことが、また1つ増えた。
既に残弾の切れたミサイルBITを直接突撃させる。これには流石に面食らったのか、彼は微かに双眸を見開きはしたが、直ぐに表情を引き締め、叩き切ってきた。それでいい。ほんの一瞬、視界を奪えれば十分。
彼が黒煙を突き抜けてきたと同時、彼の死角から4基のレーザーBITが僅かにタイミングをずらしながら立て続けに火を噴く。機体を微かに蛇行させながら、多少の被弾を覚悟で変わらず突っ込んでくる。それでいい。ほんの少しだけでも苛ついてくれたなら儲けものだ。
彼我の距離が狭まる。瞬きの猶予はない。いつもそうしているように、引き金に指を添え、片目でスコープを覗き込み、もう片方を見開いたままで、呼吸を忘れる。溶け込むように。沈み込むように。
8
7
タイミングを計る。心で刻む。同時にBITで不規則に相手を揺らす。
6
5
目が合う。相手、未だ意気軒高。敗北など微塵も疑っていない。
4
3
互いに、絞り切った一撃。当てた方が勝ち、外した方が負ける。極めてシンプル。だからこそ―――
2
1
―――
ライフルを
即座に"
彼の横を擦れ違うように駆け抜け、勢いのままに撫で斬りを狙おうとして。
「「―――なっ」」
こちらへと向けられた
雪片弐型に隠れるよう握られた左手には、同じように真っ白な
同じように彼も私が近接戦闘で決めに来るとは思っていなかったのだろう、微かな驚きの表情を浮かべていて。
しかし既に動き出している身体は、もう止められなくて。
「――――ぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああッ!!」
「――――ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
キィンと鋭く、刃が嘶き。
タァンと高く、弾が轟き。
私たちの円舞曲は、終わった。
お久し振りです。作者のGeorge Gregoryです。
いやぁ、雲海を飛び回ったり、世界樹昇ったり、人理修復したり、虚数空間潜ったり、後は仕事・仕事・仕事三昧な3ヶ月でした。―――あ、ちょくちょくポケモンの卵も孵化させてたっけな。
北海道胆振東部地震の当日、私は自宅で疲れ切ったまま爆睡しており、揺れは半覚醒状態で感じてはいたのですが睡眠欲を優先してしまい、普通に早朝になってから起床。停電だの携帯の電波状況だのを見て初めて「あぁ、こりゃやべぇ」と認識。直ぐ様、飲み水の確保と食料の備蓄の確認。そのまま出社して宿直待機、依頼があれば即対応、みたいな1週間でした。幸いにして翌日には自宅に電気が復旧し、物理的な被害もなく五体満足。懸念といえば、震災被害が凄まじ過ぎて仕事がポンポン増えていく、というところでしょうか……こういう時の修理業は、繁忙期以上の仕事量です。真面目にタイムふろしきとか欲しくなる。
まぁ、唯一の救いは、冬場ではなかったことくらい、でしょうか。冗談抜きに、暖房のない冬の北海道は死ねますから。皆様、北海道は真面目に観光業で成り立っていると言っても過言ではありません。震源周囲の被災地は未だ復旧の目途が立っていませんが、札幌や函館など、主要な観光地は既にその姿を取り戻しつつあり、中には完全復旧している地域も少なくありません。むしろ震災を懸念してか、普段なら予約の取れない人気の宿なんかも飛び込みで予約出来たりします。遊びに、来て下さい。北の大地は、決して損はさせません。……まぁ、私如きの駄文で宣伝したところで、然程影響力はないかもしれませんが。
さて、そろそろ長かったクラス代表戦も終わりが見えてきました。毎度毎度、戦闘描写に悩まされますが、楽しめて頂けますでしょうか。ほら、私の文章は、ちょっと、独特でしょう? 難解だったりしないかなぁ、と(笑)
本章はちらほら建てていたフラグを回収しつつ、ちょいと新しく種を撒いて終幕、の予定です。多分、後2話くらいかな。長い目でお付き合いくださいませ。……次章に備えて2人もウォーミングアップを始めております故に。
それでは、また近い内にお会いできることを願って。
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