ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
アメコミの翻訳版では飽き足らず原本を読むためだけに英語を死ぬほど勉強したくらいで、我がスマホアプリにはものっそい量のMARVEL・DCコミックスが入っていて、暇さえあれば読み直しています。推し? アイアンマンです。ハルクバスターの無骨さ、最高。『ヴェノム』原作に忠実で最高に面白かったので、是非とも劇場で(ダイレクト)
思い出の一作は『天使にラブソングを』です。小学校の演劇で主題歌をソロで歌わされたんですよねぇ……(昔はアルト・今はバリトンボイス)
ちなみに今回の作業用BGMは『SHERLOCK』でした。重度のシャーロキアンです。どのエピソードも大好きなんですが、"赤毛連合"や"唇のねじれた男"が何気に推し。日本でシーズン4はまだ見れないんですかねBBCさん?(真顔)
今でもはっきりと覚えている。何度でも思い出せる。丁度、4年前の初夏のことだ。
「セシリアッ!! 聞いておくれッ!! 本物のヒーローに出会ったんだッ!!」
仕事先から帰るや否や、いつも大人しく頼りなさげな父が、そんなことをまるで少年のように瞳をキラキラと輝かせながら叫んで、私を抱き上げたのは。突然の事態に面食らっていた私は咄嗟に反応することが出来ず、されるがままにクルクルと振り回され、目を回し始めてようやく我に返って「お、下ろして、下ろしてくださいな」なんてどもりながら返して、ようやく解放される。そして、仕事の後はいつも早々に書斎か浴室へと向かってしまう母が、フラフラになっている私を感慨深そうにギュッと抱きしめて、小さく「ただいま」と呟くのだ。
普段の姿からはあまりにかけ離れている両親が語りだしたアクション映画のような体験談と、翌朝の英国全メディアの話題を席巻した事件、その顛末。たった一夜にして
魅せられた。ISの可能性、その素晴らしさ。何より、
公に画像や動画は出回らない。正確に言えば、出回りはするがあっという間に揉み消される。誰にかって? 言うまでもない。
それ故に、ごくごく稀に手に入るそれは
決して誰に認められることもなく―――否、そんなのはきっと、些事ですらないのだろう。そんなことを気にするようなら、とっくにどこかの誰かがその尻尾を掴んでいることだろう。
最初に誰がそう呼んだか、その名は"黒猫"。無辜の民に幸運を、不逞の輩に不運を届けるその姿は、世界中の人々を熱狂させている。
曰く、"某国が秘密裏に結成したスパイ組織の
そもそも、両親の命を救ってもらったという大恩がある。この溢れんばかりの情動を抜きにしても、せめて2人の娘として、1人の貴族として、謝礼の1つでもしなくては気が済まないというものだ。幸いにして英国は他国に比べて"彼女"に寛容で、今でも時折誌面を賑わせている記事はいつだって好意的なものばかりだ。面白く思っていない者も当然、一定数いるようだが、それはそれ、致し方ない部分もある。それでも"国民を救ってくれた""魔法のような術を使う""黄金銃を携えた黒服の英雄"に、
これだけ垂れ流せば最早語るまでもないと思うが、私、セシリア・オルコットは世間を賑わす謎のIS"黒猫"の大ファンであり、私がIS学園への進学の話を受諾したのは、その主目的たる世界初の男性IS操縦者・織斑一夏のプロファイリング資料に『"黒猫"の愛好家である可能性有』という表記があったからに他ならない。はっきり言ってしまえば、同好の士に飢えていたのだ。社交界で交わす話題にしては余りにフランクであるし、学舎では"
彼に会ったら、尋ねてみたいことがあった。この1週間で、尋ねてみたいことはどんどん増えていった。尊敬できる、頼りがいや将来性のある殿方には何人も出会ってきたが、これほどまでに私が興味を惹かれるような人は初めてだった。どうして、貴方は、そんなにも、と。
試合の最後、刹那の交差を思い返す。
勝敗を決する笛の音が鳴り響くと同時、彼は糸が切れたようにアリーナへと落下。嫌な落ち方に数瞬、観客が騒然とするものの、舞い上がった砂塵が晴れ、仰向けで大の字に四肢を投げ出し、正に精根尽き果てたという具合で大きく規則正しく胸が上下している様を見下ろして、ほっと胸を撫でおろした。そして、未だに燻っている熱に顔を火照らせながら、疲労困憊でどこか虚ろな、しかしその奥に確かな熱を秘めた瞳で真っ直ぐにこちらを見上げている彼は、言葉にせずとも雄弁に物語っていた。「次は負けない」と。
そして、気付けば私は代表の辞退を宣言していた。
彼のIS操縦者としてのデータを得るには、今後最も触れる機会の多いであろうクラス代表に就任させるのは最適であるし、彼の武装に射撃武器があったのは実に僥倖だ。指南役という立ち位置を確保できる。彼自身、先週の食堂の時点で乗り気であったし、これだけ好条件が整っているのであれば本国も口喧しく言っては来ないだろう。
何より私自身、見てみたくなった。"どこまで行けるのか"を。
Bピットへ戻り、"
解る/判る。これは喚起/歓喜だ。嗚呼。嗚呼。ついに。ようやく。
「―――見つけた」
この国では、こういう時に"渡りに船"というのだったか。欲しくてほしくて堪らなかったジグソーパズルの最後のピースは、極東の島国にあったのだ。両親に伝えなくてはなるまい。在学中、あるいは卒業後に予定していた殿方との見合い写真は全て処分して下さい、と。今後、社交界にて私が
「お母様。お母様もきっと、同じように」
成程。これは確かに"病"だ。なんて苦しくも心地よい病だろう。雷に打たれ、大河に放り込まれた流木のようだ。抗えない。抗おうとも思わない。力無くへたり込み、シャワーを頭からかぶってしまう。それなりに熱いはずなのに、まったくそれを感じられない。それ以上の"違う熱"で私自身が内側から茹ってしまっているからなのだろうと自覚して、殊更に顔が真っ赤に熟れる。
「あぁ、どうしましょう。どうしたらいいのかしら」
問えど答えが返るはずもなく、結局、私が自分で立ち上がってシャワー室を後にできたのは、それから30分も後のことだった。
「幻想的だよなぁこれ。局所豪雨で発生した鉄砲水が、あっという間に氷漬けだ。土砂降りとはいえ、真昼のサハラ砂漠のど真ん中ですよ? 気温だって20℃前後はあったはずなのに―――」
「エルブルス山の時は真逆ですわね。氷河が一瞬にして溶けて、即席の水上着陸帯を創ってしまうなんて。スケールが違いますわ。そもそもどうやってたった一人で旅客機を正確に誘導して―――」
「チリの時なんて、港に押し寄せた津波が一瞬にして氷像になってる。どう考えたって普通じゃない。何をどうしたらこんな大規模で海面を凍り付かせるなんて真似を―――」
話は弾んだ。それはそれは弾んだ。一度口火を切ってしまえば、出てくること出てくること。アクセルべた踏みのバルブ全開。きっと彼も相当に溜め込んでいたのだろう。先刻までの煩悶をおくびにも出さぬように―――いや、隠しきれている自信は正直ないのだけれど、目の前で嬉しそうにしゃべり続けている彼から未だに「挙動不審だ」みたいな指摘を受けていないのだから、大丈夫なのだと思いたい。
食堂で
「そう、だったのか。Night Riviera号に、セシリアさんのご両親が」
「えぇ。今や英国で"黒猫"の名を知らない者はいませんわ。刺激されてか、父は週末になると必ず銃の手入れをしてから早撃ちやクレー射撃に出かけるようになりましたし、母は庭の一角を使ってカーネーションを育てるようになりましたの。今度、母のブランドから売り出す新作のコロンも、カーネーションの香りですのよ」
何より、あれだけ忙しくしていたはずの両親が、よく帰ってくるようになった。以前は行儀がなっていない、と許されていなかった食事中のおしゃべりも許されるようになった。一度、寂しくて眠れないからと、枕を抱えてお母様たちの書斎へ行った時、以前なら窘められて女中のチェルシーを呼ばれていたのに、初めてハチミツを溶かしたホットミルクを用意してくれて、私が眠くなるまで手を繋いだまま童話や思い出話を聞かせてくれた。それがとても嬉しくて、つい何度も何度も遊びに行ってしまって、呆れ交じりの母に"いい加減にしなさいな"なんて苦笑しながら額をコツンと小突かれた時にはもう、1人の夜でも寂しさを感じることなんてなくなっていた。
「私には、私たちには、返しきれない恩があります。いつか、お会いすることができたなら、一言だけでもいい、心からの感謝を、伝えたいのです。あなたに救われた人間が、ここにも1人、いるのだと」
「そう、だったのか」
滔々と語る私を真っ直ぐに見据える彼の表情は、先ほどまでの高揚感を忘れたように穏やかな微笑みを浮かべていて、それで、
「一夏さん」
「ん?」
「
「……参ったな。解っちゃうか」
「表情に出すぎ、ですわ。素直なのは、たいへんな美徳ですけれど」
僅かな逡巡の後、割とあっさりと、彼は認めた。ただの愛好家というだけでは、こうはなるまい。であるならば、このような表情はできない。
強くなろうとするはずだ。あの勤勉さも、懸命さも、すべてはそこに直結しているのだろう。何せ彼は、かの"戦乙女"の実弟だ。
「これからは"見せる顔の選び方"も、覚えていかなければいけませんわね」
「ははっ。課題は山積み、か」
辟易しているようで、その実、その双眸の奥には確かな光が宿っている。眼差しは遥か彼方の頂へ。あぁ、それは実に、とてもとても好ましい。
「じゃ、ご教授願えますか、
「――ふふっ。えぇ、喜んで」
あぁ、その挑発的な笑顔を待っていた。彼は"亀"だ。それも
心が躍る。こんなにもワクワクするのはいつ以来だろう。あぁ、そうだ。これは、そう。
(クリスマスプレゼントの封を少しずつ開ける時のような。チェルシーと一緒に種から手塩をかけて育てた薔薇が初めて綺麗に咲いてくれた時のような。あぁ、あぁ、こんな素敵なことが、世界にはあったのですね、お母様)
そこからは、珍しく浮かれてしまっていたからか、はっきりとは覚えていない。
代表候補生の権限で多少はアリーナ使用の予約を優先的にできることだとか、射撃訓練はどの程度の頻度でどれくらい行うべきかだとか、色々なことを話した気がする。その辺りになってようやく私が食堂に顔を出したことに気付いたクラスメイトたちが次々と話しかけてきたような記憶もぼんやりとある。その中にはやはり、面白くなさそうにこちらを見ている篠ノ之さんの視線もあって、それに私は敢えて挑発的に微笑むことで返すことにした。言わずともはっきりと伝わったはずだ。「もたもたしていていいのか?」と。だって、そうした途端に、彼女は呆気にとられたように、口をパクパクとさせていたから。
―――さて、今夜は久し振りにゆっくりと眠れなさそうだから、寝る前にミルクを温めようと思う。ハチミツをたっぷりと入れた、幸せな味のするミルクを。
「……ふぅ、一段落」
キィ、と油の切れた嫌な軋みを立てる背もたれに背中を預け、眉間を押さえながら天井を仰ぐ。これで事前に入力したVR訓練時の調整値と、今日の戦闘時のデータとの誤差は解消できるはずだ。実際に彼に乗ってもらわないことには確実とは言えないわけだが。
「しかしまぁ、思っていた以上に
『ッスね。ワタシも早くお話ししてみたいッス』
「なに、もうすぐさ。そっちもそろそろ片付くんだろう?」
『エェ、予定通りに。スケジュールは早め早めが基本ッスから』
「まったくだ。どこぞの大企業様にも見習わせたいね」
昼に予め購買で買ってきていたサンドイッチの包装を開ける。具材やソースの湿気を吸ってパンがへたってしまっているが、これはこれで悪くない。
「そろそろ学園を空ける時の口実作りも限界だしなぁ。結構やるよ、"現代の
『無事、合格済みッス。勿論、ちゃんと実力でッスよ?』
「そりゃ良かった。合格祝いは何が良いかな?」
『贈り物よりも、顔を見せに来てあげた方が、良いんじゃないッスか?』
「おっと。そりゃそうだ。申請しとくよ。通るかどうかは別として」
味に不満はないけれども、流石にずっと同じ場所での食事には違う意味で飽きが来る。かといって、学園で手に入るものでは作れる献立も限られてくるし、何よりそろそろエナジードリンク生活にはおさらばしたいと思っていた。整備課の学生たちも順当に育ってきたし、そろそろ実戦経験を積んでもらう段階に行ってもいい頃だろう。
「
『ッスね。でも、
「OK。確認できただけでも十分な収穫。なら、もっとうま味のある
カシュ、と音を立ててプルタブを開ける。酸味が舌を、炭酸が喉を刺激し、意識の覚醒を促そうとする。まぁ、一時期頼りすぎてたせいかな、最近どんどん効き目が薄くなっている気がするけれど。
「オイラがいると知れば、
『それ、は、笑えないッスね』
「あぁ。まったく、笑えない」
指についたソースを舐め取り、出たゴミを丸めてくず入れへ放り投げる。時計へと視線をやれば、時刻は22時を回ろうとしていた。今から部屋に戻ってどうこうするような気力は、とうに失せている。今夜もここで、過ごすことになりそうだ。
「さて、もうひと頑張りしますかね。引き続き、そっちはよろしく、相棒」
『エェ。ワタシこそ、頼りにしてるッスよ、相棒』
カツン、と画面越しに拳を合わせて通信を切る。どうやら今夜も、
どうも。作者のGeorge Gregoryです。
とうとう北海道は雪が降りやがりました。この時期は仕事もどんどん忙しくなるし、厄介な案件も増えるので、正直憂鬱です。ただでさえ寒いのは苦手なんですけどねぇ……え、道産子なのに、って?『慣れてる』ってのと『平気かどうか』は別問題でしょう?
どうにか月一更新は今後も守っていきたいところです。トレーニングなんかの例に漏れず、やはり文章力も継続しないと落ちてしまうもので、今回の執筆にほぼ丸一日かかってしまいました。昔なら同じ量でも数時間で終わったものですが……いけませんね、リハビリで始めたはずのSSなのに。
さて、今回の更新でラチェットが過去3件の事件で使用しているのは、実は全て同じガラメカです。名前を出してないので説明こそ控えていますが、まぁ、『氷を水に』『水を氷に』と書けば、原作ゲームの既プレイヤーならピンと来るのでは。
これにてようやく"クラス代表戦編"は終了。次回より"クラス対抗戦編"へと話は進みます。ようやく1巻折り返し地点。まさか1年以上かかるとは思ってなかった……なんとなくお察しと思いますが、勿論それなりに、というか次回より本格的に原作から乖離した展開になります。皆様、是非とも生暖かい目で気長にお付き合い下さいませ。
それでは、また近い内にお会いできることを願って。
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