ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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なんか妙に捗って、ここ最近では異例な更新速度の気がします。
断捨離がグングン進んで部屋が随分と広くなりました。この調子で色々整えたいところです。


Hit And Run Ⅳ

─────言ってしまえば、どこにでもあるようなお話である。

 

 歴史を紐解けばわかる。ヒトって生き物は、誰よりも特別になりたい癖に、誰かと同じでなければ不安で仕方がない生き物だ。それも子ども、思春期真っ只中の小中学生なんてのはその辺が特に顕著で、自分たちと違う誰かは攻撃したり排斥したくて堪らないのだ。ある日突然転校してきた美少女(何よ、文句ある?)の外国人なんてのは、正にそういうのの『恰好の的』な訳で。

 

 上履や筆箱を隠される、教科書やノートを破られるなんてのは日常茶飯事。陰湿さで言うなら男子よりも断然女子の方が上で、そんな女子たちに気に入られたい・目をつけられたくない男子たちが更にそれを冗長させる。お母さんからの遺伝で自慢の綺麗な栗色の髪は何度思い切り引っ張られたか数え切れないし、何かと難癖を付けては裁縫セットの裁ち鋏なんかで切られかけたまである。あれは()()()()()()()でもあったのだろう。間違いない。

 

 今でこそ『相手をするに値しない』とはっきり言い切れるものの、当時の私にはそんな免疫があるはずもなく、学校に行くのが苦痛以外の何物でもなかった。それでも、布団から出る時も、寝巻きから着替える時も、朝ごはんを食べている時も、頑張って頑張って自分を奮い立たせて、玄関から両親に笑顔で『いってきます』と言うことだけは、毎日欠かさずに続けた。続けることができた。

 

 当然、学校の先生にも相談した。その結果は、語るまでもない。学校側は『事なかれ主義』一辺倒。却ってヤツらからの被害はエスカレートし、アタシが心をすり減らしていくだけ。きっと卒業式まで、この生き地獄は続くのだろうと、そう思っていた6年生の春のことだった。

 

「おい、織斑が帰ってくるらしいぞ」

 

 漏れ聞こえる噂によれば、その“織斑一夏”なる同級生は、かの織斑千冬の実弟であり、諸事情により小5の春からの1年間、彼女に付き合ってドイツでの生活を余儀なくされていたと言う。

 

 それが、帰ってくる。国の威信をかけた決勝戦を辞退した“裏切り者”の弟。正直に言おう。当時のアタシは『これで少しは自分へ向いている矛先が彼の方へ行くかもしれない』なんて後ろ向きな期待すら抱いていた。久し振りの帰国で、事情が事情なだけにただでさえ苦労するであろう彼を労うばかりか慮ろうとすら、欠片も思っていなかったのである。今となっては当時の自分をぶん殴ってやりたいくらいだ。

 

 そして、そんなネガティブ極まりない当時のアタシの小学校生活は。

 

「お前ら、くだらない真似してるんじゃねぇよ」

 

 そんな義憤に満ちた力強い啖呵によって粉々に打ち砕かれたのだ───

 

 

 

 

「成程ね。君がドイツから戻ってきてからの」

「はい。アイツの実家、中華料理屋だったんですけど、これがまた美味くて。何度もお世話になったっけなぁ……おじさん、元気にしてるかな」

「あれだけ料理上手な一夏くんがそこまで言うんだから、相当に美味かったんだろうねぇ。そうそう、こないだの差し入れ、ありがとうな。美味かったよ。あれ、うま煮、って言うんだっけ?」

「なら良かったです。カデンソンさん、前々から食べたがってましたからね」

「日本食のレストランこそたくさんあるんだけど、家庭料理を出してくれるようなところはなかなかなくてねぇ~……いや、探せばちゃんとあるんだろうけどさ。オイラの歓迎会の時に連れてってもらった、えぇと、いざかや? って言うのかい? あそこは良かったなぁ。メニューを見てるだけでワクワクしたもんだよ」

 

 放課後の整備管理棟、その管理人室にて、向かい合う影が2つ。ことある毎にここに来るのがすっかり習慣じみてきている一夏少年は、今日もまた()()()()を受けるべく、いつの間にやら用意されていた自分専用の勉強机(取り敢えず作業台の上の資料の束やら見たことも無い工具やらを両端に寄せて作られた即席のスペース)にて未だ謎だらけの教科書と悪戦苦闘していた。今は小休止として雑談に花を咲かせつつ、『頼まれてたものが見つかったから丁度いい』とカデンソンがコンソールを操作しだしたので、それがモニターに表示されるのを待っているところだった。

 

「っと、あったあった。これだね。中国代表候補生、凰鈴音の公式の戦闘記録映像」

 

 キュウン、という稼働音と共に映し出されたのはどこかのIS競技用アリーナ、その中心にて試合をする2体のISの姿───否、試合と呼ぶにはあまりにも一方的なそれは『蹂躙』と称する戦闘だった。

 

「機体名“甲龍(シェンロン)”。硬度可変型ヘヴィー・イグニス装甲の近~中距離両用型。武装は見ての通り、連結可能な2振りの青龍刀型近接武装と、両肩と腕に搭載されてる()()()だね。」

「なんか、さっきから見えない何かに相手が吹っ飛ばされてるように見えますけど」

 

 アリーナ内を所狭しと駆け回る、紅を帯びた黒と鮮やかな桃色で飾られた機体。その姿は、木々の間を駆け抜ける虎や豹のような大型の猛獣の“しなやかさ”を彷彿とさせた。そして、己が爪牙のように自在に操る二刀の嵐から逃れんと相手が距離を取った途端、その機体が()()()に折れ曲がるようにして吹き飛んでいく。腹部周辺に強烈な衝撃が加わった何よりの証拠であるが、しかし鈴の機体から弾丸や光線の類が発射されたようには見えなかった。

 

「“衝撃砲”。空気を圧縮して撃ち出してるのさ。エネルギー弾よりも燃費が良いし、実弾みたいな弾切れの心配もなし。実に()()()()()武装だね」

 

 言わば、()()()()()()という訳だ。射程はそこまで長くなさそうだが、近接攻撃を主体としているであろうこの機体、そして彼女にはそれで十分に事足りているのであろう。

 

「見えないだけでもなかなかに厄介だが、どうやらこの“衝撃砲”、360度どこへでも自在に撃てるらしい。つまり」

「死角がない、ってことですよね」

「そ。つまり、代表決定戦(ぜんかい)みたいな山張っての一点買いは出来ないってことだ」

 

 “白式”に触れて間もないあの頃に比べて、自分が着実に進歩している実感はある。だが、それはあくまで卵の殻が取れた程度のもので、まだまだ自分は雛鳥でしかないのだ。いくら“白式”がモンスターマシン(たのもしいあいぼう)であるとはいえ、補助輪が外せた程度の実力で競輪選手相手のガチンコレースに胸を張って挑めるほど、無謀ではない。

 

「とはいえ、『Everything is possible, even the impossible.(やってやれないことはない)』さ。さぁ、一緒に考えようじゃないか」

「はい」

 

 さて、どうすれば、俺は鈴に勝てるだろうか。

 

 

 

 

 同刻。1年2組の教室。

 

「――――――」

 

 1組のクラス代表決定戦の映像は思っていた以上に簡単に手に入った。というのも、クラスメイトに聞いてみると二つ返事で見せてくれたのだ。素直に驚いた。教室に戻った際、たまたま席の近い生徒に聞いてみただけだったのが、あっという間にクラス中に伝播して、1台のタブレットの前に教室に残っていたクラスメイトの全員が一斉に集まり出したのである。そして、映像が始まった途端に、その理由は簡単に察することができた。

 

 IS学園は治外法権である。基本的に研究成果は全世界と共有されているし、各国側からも申請すれば学内の情報も大抵のものは手に入る。それは逆に言えば、危急の事態が起こらない限りは、在学中の生徒・職員以外に子細な情報源がない、ということでもある。私がつい今朝まで『1組のクラス代表決定戦があった』などという事実を知らずにいたように。

 

 どうして、私はこの場にいられなかったのだ。真っ先に脳裏をよぎったのは、そんな悔恨だった。恐らく、いや、間違いなく、黄色い声を上げて2人の健闘を称えあっている彼女たちは、この映像が持つ価値を理解していない。

 

 男性操縦者の戦闘映像がたいへん貴重なのは当然として、一夏の乗るこの機体、その単一仕様能力(One-off Ability)。間違うはずもない。あれはモンド・グロッソでも猛威を振るった千冬さんの機体“暮桜”の“零落白夜”だ。いくら2人が血縁関係にあるとはいえ、異なる機体で同じ単一仕様能力(One-off Ability)の発現。これはとんでもなく稀有にして驚異的な事例だ。条件さえ満たせば、狙った能力の発現を促すことが可能になるかもしれない、ということである。これが一月以内にも満たないつい最近の出来事であるならば、成程、研究チームが解明に没頭でもしていて私たち末端の候補生にまで情報を共有させなかったのも頷けなくはない(最低限事実だけでも教えろとは思うが)。

 そして、何よりも驚くべきは。

 

(これが、ISに乗ってたった1週間の動きですって?)

 

 ありえない。アタシ自身が普通から余りにもかけ離れたスピード出世をしているからこそ、そう断言できる。きっと彼女たちは“これだけの偉業を成し遂げた一夏”にしか目が行っておらず、真に称える(おそる)べきは誰なのか、全く見えていないのだろう。()()()()()()()()()()()()()()なら、こんなミーハーな騒ぎ方はまずしない。()()()()()()()()()()()か、あるいは既に本国へと報告しているはずだ。『彼の担当メカニックをスカウトするべきである』と。

 

(成程、ね。一夏以外に()()()()()必要なんてあるのかと思ってたけど)

 

 優秀な技術者は幾らいても損をすることはない。本国には受刑者が“技術・文化の発展に貢献するような発明”を成した場合、減刑処置が施される、なんて法律まで存在する。そのように、利があるならば貪欲に何もかもを呑み込み身につけてきたのが“中華”という国なのだ。

 

 渡日するにあたって下されていたのは2つ。1つは無論、男性操縦者である織斑一夏の勧誘。現在、事実上の所属国家がない彼を我が国へと引き込むこと。願ってもない、むしろ率先して引き受けるような内容である。そして、もう1つ。

 

(アリスター・カデンソン。一夏の“白式”を担当するメカニックであり、元倉持技研第2研究所の()()()()

 

 このご時世に男一人で表舞台に顔を出してから、僅か2年という短期間の内に腕一本脛一本でその椅子を勝ち取り、そして今、この学園においても不動の地位を築いているその強かさは、私からすれば素直に好ましい。ちょっと校内を歩いて回るだけで、まぁ~色々と出てくること出てくること。

 

整備管理棟(しごとば)に籠りっ切りだし行く用事もないので顔も見なけりゃ声も知らない』

『いつも決まって同じサンドイッチとエナジードリンクを買っていくお得意さん』

『人間関係を拗らせて倉持技研を追い出された鼻つまみ者』

『ジャンク品で航空艇すら作ってみせたド変態(しかも留め具にガムテープを使用)』

 

 玉石混交にしたって眉唾ものなものがちらほら聞こえるくらいには、その腕が優れているのは共通認識であるらしい。

 

(どの道いつかはそうするのだし、実際に会ってみないことには、何とも言えないか)

「……あれ、どうしたの、凰さん?」

「ん? ううん、何でもない。ねぇ、この映像ってアタシにも貰える?」

「えぇ、勿論。もっと遠くからの映像が欲しいんなら、学園のアーカイブに当日のアリーナのカメラのがあったはずよ」

「ありがと、早速申請してみる」

 

 そう言って快く教えてくれたのは、私が来るまでの2組のクラス代表だった生徒である。本年度は一夏の入学に合わせて各国からの代表候補生や実力者が集中しており、そんな中で単なる成績順で選ばれていただけの彼女は、学食スイーツ半年フリーパス権による期待の重圧も手伝ってアタシの申し出を即座に了承してくれた。話を持ち掛けた時、微かに青ざめていた顔がパッと和らいだのが初対面でも解ったのだから、アタシみたいに図太くなれるタイプではないのだろう。そういう鈍さや大胆さが、一定以上のレベルに行くためには必須項目であると、アタシは思っている。

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 クラスメイトたちに別れを告げ、足が向かう先は整備管理棟――――の前に、まずは。

 

「謝らないとね、昼のこと」

 

 放課後、彼女たちがよく集まっている場所は既に調査済みである。『有理贏 無理輸(理あるものが正しい)』のであり、今回は明らかに、理は私にない。例え些事であろうと、胸中に確かな()()()()としてあるのなら、それはいつしか悪性の腫瘍となってアタシの身体を内から蝕むかもしれない。

 

「こんなことで、躓いていられないんだから」

 

 あの時、あの夕焼けの中で交わした“約束”を果たすためにも、尽くせる人事は尽くしておかねばならないのだ。

 

「アリスター・カデンソン。貴方の力、アタシがもらうわよ」

 




 どうも。作者のGeorge Gregoryです。

 この週末、珍しく随分と文章が沸いて来ましたので、短めですが調子のよい内に放り込んでおこうかと。次回、予定通りであればいよいよ“約束”に関する部分になりますが、お察しの通り、セシリアと同様に鈴も原作とは少々異なっております。どのように変化しているかは、更新をお待ちいただければと。

 それでは、また近い内にお会いできることを願って。

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