ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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 そろそろ奨学金貧乏から脱却できそうです。
 リサイクルショップに持って行った時に予想以上の値段で売れた時の妙な嬉しさと、後にその店を覗きに行って売ったものにいくらの値段がついているのか見に行く楽しみって、ありますよね。


Hit And Run Ⅵ

「───昼は言いすぎた。ごめんなさい」

 

 謝罪において重要なことは『直ぐに』『正直に』の2点である。下手に先延ばしにしたり誤魔化したりすると、それだけ引っ込みがつかなくなり、結果的に深い深い墓穴となって身動きすらとれなくなるのだ。過去の経験に基づいているのだから間違いない。

 深々と下げたままの頭の向こうで、多分大なり小なり驚いているのだろう、2人が言葉を発さないままにこっちを見ているのが判った。

 

「……顔を上げて下さいな、凰さん」

 

 アタシにはとても長く感じられたけれど、実際にしてみれば1分にも満たなかったと思う。あぁ、とても嫌な時間だ。味わう度に(なんで私はこうかなぁ)なんて省みる癖に、暫くするとしれっと忘れて同じようなことを繰り返してしまう。いい加減に学びなさいよ、と自分で自分に腹が立つ。

 セシリア・オルコットがかけてくれた言葉に、ゆっくりと姿勢を戻す。ここがテラス席で良かった。それほど多くはないとはいえ、この時間帯だって食堂の利用者はそれなりにいる。彼女らの空気を壊したくはない。それでも、周囲に疎らに見受けられる娘たちは「何事か?」とばかりにチラチラと視線をこちらにやっていたが。

 

「隣、いい?」

「あ、あぁ」

 

 未だ惚けている篠ノ之箒の隣の椅子を引き、腰掛ける。ふぅ、と息を正して、改めて。

 

「気を付けてるんだけど、つい短気になりがちで、自分でもダメだなと思ってるの。でも、偶にこう、どうしても制御できない時があって。それに、ほら……特に一夏(アイツ)がさ、()()()でしょう?」

「あぁ……やっぱり、あの鈍さは昔からなんですのね」

 

 やれやれ、とばかりにため息を吐く姿さえ()()()()()()()のだから素直に凄いと思うし、改めて育ちの良さが判る。彼女の『実家』は、色々な意味で有名だし、何ならアタシも少し()()()()()()()()くらいだから、当たり前っちゃ当たり前なのだけれど。

 

 その顔には『辟易』と書いてあった。やはりというか彼女たちも一夏に少なからず好意を抱いており、そして私と()()()()()()に合ってきたのだろうと簡単に推測できる。……学園に来て僅か1か月だというのに、だ。流石、と言うべきか。

 

「少なくともアタシが知ってる限りはね。篠ノ之さん、だっけ? そういうところ、アイツ変わってないんでしょ?」

「あ、あぁ」

「やっぱりね~……そりゃ悪気がないのは知ってるけどさ?」

 

 かつてのあの野郎の所業を思い出しながら、あはは、と苦笑する。合わせて、オルコットも苦笑で返してくれた。昔からそうだったが、アイツの被害にあった女子の数はそれこそ凄まじいもので、無意識の内に惚れられ、そして無意識の内に袖にするその手腕は、最早悪質なトラップのそれである。何よりも“本人にその気がない”のが本当に性質(たち)が悪い。でも。だけれど。

 

 

 

「―――ま、今となっちゃ、()()はどうでもいいんだけど」

 

 

 

 そこで初めて、2人の反応が異なった。オルコットは「まぁ」とばかりに手を口に当てて控えめに驚いてみせ、そして篠ノ之さんは。

 

「――――」

 

 絶句。表情がそう物語っていた。信じられない、何故そのように考えられるのか、と。余程、一夏の悪癖に苦労させられたんだろうな、と思う。解る。実際、アタシもこうなれるまでは相当にやきもきさせられた。でも、まぁ、何というか。

 

「別にいいのよ。アイツがアタシをどう思っていようが、アタシのアイツへの想いが変わるわけじゃないもの」

 

 ニカッと犬歯をむき出しにして笑う。一夏が『いちばん好きだな』と、そう言ってくれた笑顔。

 

「それに、アンタたちの様子を見た感じ、まだまだ()()()みたいだし?」

 

 正直、最も懸念していたのは()()だった。あの調子ならばそう簡単に相手はできまい、と思ってはいつつも、何が起こるか分からないのが人生というもので、良好だと思っていた両親の中がいつの間にやら冷めきっていたり、その影響でいきなり日本を離れて母国へ帰らなければならなくなったりするのだ。人心の移り気を秋の空になぞらえて歌った歌人は、誰だったっけか。

 

 故にこそ、アタシは()()()()()()()()()()()()()してきたし、これからもそうする。アイツがどう捉えていようと、アイツの中で()()()()が生きている限り。

 

「だから、改めて正々堂々、()()()()ってことで」

 

 そう言ってスッと立ち上がり、席を離れようとした時だった。

 

「あれ、鈴じゃないか」

 

 振り向いた先で、付箋だらけの教科書を抱えた想い人が立っていた。

 

 

 

 

(―――どうして彼女は、そのように朗らかに笑えるのだろう)

 

 篠ノ之箒の頭の中は、混乱の極みに陥っていた。

 

 彼女の言う通り、織斑一夏の恋愛感情への鈍感さは幼少期から筋金入りだった。『付き合って』と言われれば『どこへ?』と真顔で返し、デートの積りで誘い出しても『大人数の方が楽しいだろ?』と好意の積りで友人を巻き込む。直接『好きです』と告げた者は今のところいないらしいが、それでも下手すると『で、誰のことだ?』なんて言いかねないと思わせるだけの実績がある。『暖簾に腕押し』『糠に釘』『豆腐にかすがい』『沼に杭』『石に灸』のロイヤルストレートフラッシュを平然と決める男。それが織斑一夏という男だった。

 

 何度もそんな目にあった女子を知っていたからこそ、自分の想いを告げて“なかったことにされる”のが堪らなく怖かった。なればこそ、否定や無視のしようがないほど直接、真っ直ぐに伝えられれば良いのだが、そういう勇気も湧かず『明日こそは』『明日こそは』と繰り返す内に起きた“白騎士事件”によって、私たちは引き離されてしまった。後悔先に立たず。幸運の女神には前髪しかない。なればこそ、降って湧いたようなこの偶然に感謝し、今度こそこの3年の内に、と決意を新たにした。

 

 ISに関しては、どうあがいても国家代表候補生であるオルコットには勝てない。勉学に関しても、お世辞にも好成績を修めているとは言えない。そんな私には、一夏と共に研鑽した“剣”と、幼馴染として共に過ごした“思い出”しかない。なのに、そんな“思い出”すら、アドバンテージではなかった。幼馴染は、私1人だけではなかった。

 

 足元がガラガラと崩れ落ちていくような不安に駆られた。既に私は張子の虎も同然だというのに、ここに来て新興勢力の参戦などの寝耳に水以外の何物でもない。しかも、見るからに並々ならぬ仲。単なる惚れた腫れたならまだしも、見ただけで解った。解ってしまった。彼女には“思い出”がある。他人からすれば何ということないかもしれない、しかし当人にとっては心身を賭けるに値するような、それだけの十分な“思い出”があるのだ、と。

 

 彼女は中国の代表候補生だ。ISに関しては言うまでもないだろう。先ほど見せられた映像が公式のものであるならば、相当に腕が立つのも間違いはない。不意に、思ってしまったのだ。彼女は、私の“上位互換”と言えるのではないか、と。

 

 そして、更なる()()()()が来た。

 

「ちょうどいいわ。一夏、あの時の約束、覚えてる?」

「約束? それって、1年前の別れ際の時のヤツか?」

「そう。どんなだったか、一字一句ちゃんと覚えてるかしら?」

「え。一字一句までは、流石に」

 

 えぇと、なんて首を傾げる一夏を他所に、はぁ、と一つ嘆息した彼女はビシッと真っ直ぐに人差し指を一夏へと突き付けて。

 

「『この星の()()()になって、毎日アタシの酢豚、食べてもらうんだからねッ!!』」

 

 それは、余りに堂々とした()()()()で、私もオルコットも、思わず言葉を失っていた。食堂内からこちらを窺っていた何人かの女生徒たちも同様に、口をぽかんと開けたままで呆けていた。

 

「あぁっ、そうだそうだ。確かそんなだった」

「もう。ちゃんと覚えてなさいよね」

「で、なんだ? 一等賞、なれたのか?」

「ううん。全然。でも、()()()()()()()は見つけられたかな」

「そうか。楽しみにしてる」

「えぇっ、楽しみにしてなさいっ」

 

 そのまま、堂々と肩で風を切りながら歩いていく背中は、とても小柄には見えないほど力強く見えて、その背中を呆然と見送ることしか、今の自分にはできなかった。

 

「一夏、さん? 今の、約束は」

「あぁ。1年前、鈴の両親が離婚して日本から中国に帰ることになった時にさ、約束したんだ。アイツの家が中華料理屋だったのは話したろ? 酢豚が得意料理で、これが結構旨いんだ」

「いえ、あの約束は決してそういうことでは……あぁ、やっぱり、通じてないんですのね」

 

 諦めたようにかぶりを振るオルコット。そう、ちゃんと通じていないのを、凰鈴音は解っている。アイツにとって、一夏が“約束を覚えていること”が重要なのだ。一夏は義理人情に厚い男だ。解釈を間違えることはあれど、交わした約束は必ず守る。そして、一夏が約束を覚えていて、その真の意味にいつか気付いたなら、それはその時こそ()()()()()()()()()()()()ということで。

 

(そこまで()()()()()()()()()のか、アイツは)

 

 対して、自分はどうだ。少し思い通りにならなくなった瞬間には手が木刀や竹刀に伸び、口を開けば一夏を責めてばかり。私なんかより、アイツの方が真っ直ぐに一夏と向き合っているじゃないか。

 

「どんだけ上手くなったんだろうなぁ。また食わせてくれるってことだよな。楽しみだなぁ」

「あぁもう、この人は……わかりました。もう宜しいです。それで、カデンソン先生の授業はどうでしたの?」

「おぅ、ばっちり。今ならもっとキレイに飛ぶ時のイメージが出来そうだ」

「それは何よりですわ。では、今月のVRルームの使用日程ですけれど―――」

 

 そうしていつものように月間のトレーニングスケジュールを決める話し合いが始まったが、私はしばらくまともにものが考えられずに何度も2人を心配させてしまい、その日の近接戦闘の訓練もまともに進められず早めに切り上げ、結局部屋に戻ってからも、床に就くまでもずっとグルグルと思考を沈ませていくのだった。

 

 

 

 

『フム。思ってた以上にハイペースッスね』

「あぁ。ホント勉強熱心だよ、一夏くんは」

『いいことッスよ。解らないことは素直に訊く。簡単なようで、実践できる人はなかなかいないッスからね』

 

 整備管理棟、その管理人室。カデンソン(ラチェット)は先ほどまでの一夏との勉強会の片づけに勤しみつつ、通信越しに相棒と互いの進捗状況を報告し合っていた。

 

「このペースなら、早い内に()()()()まで進められるかもしれない。クラス代表戦は、それを見定めるいい機会だよ。そっちは?」

『提出書類は滞りなく。業者の手配も進んでるッスよ。他に、手配しておきたいものがあれは頼んでおくッスけど、ないッスか?』

「今のところは大丈夫かな。気を付けて来るように伝えて―――ん?」

 

 と、そこでコンコン、とドアが叩かれたのに気が付き、人差し指を立てて“静かに”と促す。相棒は口を閉じ、どうぞどうぞ、とばかりに両の掌を見せて通話を切った。

 

「あれ、いないのかな。“在室”になってるのに。すみませ~んッ!!」

「はいはいどうぞ~っ」

 

 キィ、と音を立てて開け放った先にいたのは()()()()()()()だった。

 

「いらっしゃい、凰鈴音さん。ごめんね、ちょっと片付けてたもんで」

「いえいえ、こちらこそ約束もなしに急にお邪魔しまして……へぇ、こういう風になってるんですね」

 

 研究室というものが珍しいのか、彼女はキョロキョロと室内を見回したり、取っ散らかっているそこらの資料の束を適当に取っては眺めたりしていた。

 

「いいんですか? こんな無造作に研究資料を放置してて」

「別にいいよ。見られて困るものはその辺にはないしね」

 

 事実、本当に見られて困るようなのは逐次、紙媒体にして“吾輩は猫である”へ持っていた後、自分か相棒(クランク)しか開けられない(ロック)付きの金庫に保管している。この室内には記録媒体含め『見られても構わない情報』しかない。

 

「はい、お茶。昆布茶だけど、良かったかな」

「ありがとうございます。いただきます」

 

 差し出したカップを受け取ると、凰さんは先ほどまで一夏くんが使っていた椅子に腰かけた。

 

「で、ご用件は?」

「……わかってるんじゃないですか? 天下の倉持技研を、その実力だけでのし上がってきた稀代の天才さんなら」

 

 そう言う彼女の顔は半目で悪戯っぽい笑みを浮かべていて、この状況を面白がっているように見えた。物怖じしないタイプだと聞いてはいたが、成程、これは少々認識を修正した方が良さそうだ。こういうプロファイリング情報の正誤は、やはり実際に顔を突き合わせてみないと解らない。

 

「まぁ、ね。候補生が学園に来る度に()()に来るんだもの、流石に察するよ」

「ですよね~」

 

 二ヒヒ、と歯を見せて人懐っこく笑うその顔を見て、悪印象を受ける者はそういないだろう。人選としては悪くない。彼女の他に類を見ないスピード出世の裏には、こういう人受けの好さも少なからずあったのだろうと思う。

 

「なんでまぁ、単刀直入に。アリスター・カデンソンさん。中国に来る気はありませんか?」

「引き受けた時のうま味は?」

「ん~っと、確か研究施設が用意されてるそうです。資金も結構。後はまぁ、ウチの代表とか候補生の機体は好きにしていいそうですよ。詳細は、後日改めて本国からの資料を持ってきます」

「そうです、って。随分他人事みたいに言うんだね」

「まぁ、他人事じゃないけど、研究結果とか見てると、貴方なら悪いようにはしないよな~って思ってますから」

「……へぇ」

 

 ふむ。ここまでも悪くはない。今まで()()に来た中には『いいから来い』『名誉なことだろう』と上から目線の命令口調な者が決して少なくなかった。そういう連中にはさっさとお帰り願ったし、学園を通して正式に抗議文も提出させてもらっている。そうした前例がある、と知らしめるためにしたものだったし、それ以降そういった連中の数は減ったが、それでも決して0にはならなかったのだ。

 

「うん。まぁ、第1審査は合格点かな」

「ありがとうございま~すッ」

「あと、もうちょっと言葉遣い、くだけてくれていいよ」

「いいんですか?」

「元々、堅苦しいのは嫌いなんだ。キミもそうだろう?」

「それじゃ、遠慮なく。カデンソンさん、アタシもあなたには来て欲しいと思ってるの」

「どうして、って聞いていいのかな?」

 

 尋ねると、暫しの逡巡の後、彼女はキッと目線を強めて、続けた。

 

「勝ちたい人がいるから。約束のために。()()()()()()()になるために」

「へぇ。誰だろう。知ってる人かな」

「知ってると思いますよ。絶対」

 

 となると、“戦乙女(ブリュンヒルデ)”こと織斑千冬だろうか。第2回モンド・グロッソ優勝者であるアリーシャ・ジョセスターフだろうか。それとも、他に因縁のある相手でもいるのだろうか。自信満々に言い切る彼女に先を促しつつ、お茶を一口、流し込んで。

 

 

 

「―――アタシッ、どうしても勝たなきゃいけないんですッ、あの忌々しい『黒猫』にッ!!」

「―――ブフゥッ!?」

 

 

 

 握り拳と共に高らかに告げられた余りに予想外な返答に、堪え切れずに噴出してしまうのだった。




 どうも。作者のGeorge Gregoryです。

 学生時代はアメフトサークルを骨折で辞めて以降、文芸サークルに所属して部誌なんかをしたためる傍ら、とにかくTRPGに没頭していた時期がありました。おかげで我が家には10面ダイスが山ほどあり、展開に困ったらそれで決めてしまってることもままあります。おかげで本章の最後、箒が面白いことになりそうです……(ニヤリ)

 今回、ちょっと文章が安定しなかった感じがありますが、どうでしたでしょうか。『Hit And Run』は予定通りなら次回で畳み、さっさと代表戦へと進めようと思っています。中々毎回納得のいく文章を書けません。まだまだリハビリが必要、ということなんでしょうな……頑張ります。こないだの連続更新の時、もう二度と乗るまいと思っていたランキングにも、しかも上位という形で乗せて頂けたこと、読者の皆様に感謝の念が絶えません。本当に有難うございます。皆様からのコメントが、私の生きる糧です。

 それでは、また近い内にお会いできることを願って。

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