ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
───ですね。知らず知らずの内に、調子に乗っちゃってたんだと思います。
あれだけ憧れてたISに乗れたばかりか、ビギナーズラックで候補生相手にもう少しで大金星、ってとこまで行けて、自分ではそんな気がしてなくても、ちょっと浮き足立っちゃってたというか。だから、なんでしょうね。早い内に
あの頃は、楽しくて仕方がなかったんです。やればやるほど、自分が成長できてるのが解って、目新しいものばかりに溢れていて、毎日が凄く充実してた。戻れるんならもう1回戻りたいなぁ、って思うくらいには。
思えば、あの頃から師匠は俺たちにトライアンドエラーを徹底させてたんだなぁ、と。考えて、試して、ダメならそれが何故かを考えて。『学生生活ってのはその為にあるんだろ?』って、いつだか言ってくれて、目から鱗だったんですよね。いつの間にやら失敗しない、負けないことばっかり考えてたっけなぁ。
代表戦までの数週間は、ひたすらシミュレーション三昧でしたね。そう言えば、セシリアが
箒も、同じくらい世話になってたんですけど、あの頃は何か色々悩んでもいたみたいで、鍛錬の最中もどこか惚けたような隙を見せる時がちらほらあったんです。珍しいんですよ、これ。俺が知ってる限りだけど、アイツが剣握ってる時はいつだって真剣そのものだったから。結局、暫くしたら吹っ切れたように元に戻ってましたけどね。当時は俺に余裕がなかったからかなぁ、一言くらい相談してくれても良かったのに、なんて今でもちょっぴり引っかかってたりします。解決したなら、良かったとは思うんですけどね。今聞いたって、教えちゃくれないでしょうし。
で、まぁ、そんな調子でしばらくした頃に、対戦カードが発表されたんです。廊下の掲示板にズラーッと名前が並んでて、端から順番に自分の名前を探していって。
で、見つけた途端に思わず笑っちゃったんですよね。なんせ初戦の相手が───
「───話が早くていいじゃない」
生徒玄関前の掲示板を見上げて、凰鈴音はニヤリと唇の端を吊り上げた。トーナメント方式で実施される第1回戦の相手、そこにははっきりと『織斑一夏』の4文字があったのだ。
遅かれ早かれアイツも知るだろう。きっと、アタシと同じように笑ってしまっているんじゃあなかろうか。
「へぇ。もう発表されたんだ、対戦表」
「っ? いきなり後ろに立たないでよカデンソンさん、びっくりするじゃない」
「ごめんごめん。昼の買い出しついでにたまたま見かけたもんで、つい、ね」
聞こえた声に振り向けば、片手にいくつかのサンドイッチと缶のエナジードリンクの入った袋を提げたカデンソンさんが立っていた。覗き込んで見ると、カツサンドにタマゴとツナのミックス、そしてチーズとスパゲティナポリタンのサンドというラインナップ。うん、今日も今日とて
「毎日同じので飽きないの?」
「気に入ったらそれ一筋でね。管理人室の
「そういえば……」
確かに、たまに出てくる煎餅やおかきなんかも全く同じだった気がする。まぁその辺は別にいい。解らなくもない。
学園初日、あの握手から数日が過ぎ、この人に指示を仰ぐようになって思ったのは、やはり“天才”と称されるような人物はどこか変わり者でもあるのかもしれない、というものだった。
「それに、一通り食べた上でこれに落ち着いてるからね。伊達に2年もここに勤めてないさ」
「ふぅん。ま、いいけど……それで? 今日は一体、
「そうだねぇ。折り紙ってしたこと、ある?」
「はい? え? 嘘でしょ? 今日は折り紙ぃッ!?」
これだ。全く脈絡のない質問にぽかんとさせられる。
まず課されたのは近接格闘の訓練。果たして技術畑の人間にどこまで出来るものかと思ったが、この人、思っていた以上に
その翌日、行われたのはあらゆる銃火器パッケージに関する特別講義だった。開発中のものまで含めた最新の情報だらけの時間。間違いなく彼にしか出来ないその講義内容は、あまりに贅沢に過ぎるとさえ思ったほどだった。これが世界の最前線を行く本物の天才なのか、と。
が、問題はここからだった。
「じゃ、今日はこういう勉強をしてみようか」
にこやかな笑顔と共に渡された資料の表紙にはこう書いてあった。『ケツアゴバカでもよぉ~くわかるッ!! 楽しく学べるサバイバル入門』。その文字を視認した瞬間、暫くの間、アタシの時間は止まった。頭の中は疑問符だらけ。ISでの強さを求めに来たはずなのに、何故に生存の為の技術なんて教えこもうとしてるんだこの人は。
「んじゃ、2ページを開いてね~」
「ちょっ!?」
問答無用。顔にはそう書いてあった。仕方なく、大人しく席に着いて資料を開いた。先日までのトレーニングで実力があることも、講義内容が綿密に練られていることも判っていたからだ。実際、この講義には退屈なんてする間もなく、終えた後、今ならいきなり乗ってた旅客機が墜落して無人島に漂着したとしても1ヶ月は余裕で生き残れるような自信さえ生まれていたのだから、その内容は本物である。
その後、どこから仕入れてきたのかも信憑性があるのかも解らないような忍者が使ったとされる歩法や息の殺し方を実践を交えて教えてきたかと思えば、いきなり被服室の一角を借り切ってレースの編み物なんてのを延々とさせられ、先日なんていきなりムーディーな歌謡曲をバックに社交ダンス教室の始まりである。そして今度は折り紙ときた。(大丈夫なのだろうか……)と思うアタシを誰が責められようか。
「まぁまぁ、騙されたと思って付き合ってみなさいな。効果なら保証するよ。なんせ、
「ホントでしょうねぇ……?」
じとっとした目付きで見上げると、爽やかな笑顔を返してくる。そこに悪戯っぽさや負い目の類は一切含まれていなかった。つまりは、
「はぁ……解ったわよ。折り紙ね、折り紙」
「大丈夫大丈夫。終わる頃にはティラノサウルスやプテラノドンだって思いのままだから」
「何の励ましにもなってないわよ……」
これみよがしにため息を1つして、それでも今は他に縋るものもなし、もう暫くは付き合ってみようとアタシは決意を新たにするのだった。
「う~ん……」
同刻。1-1の教室にて、織斑一夏は悩んでいた。今後のクラス代表戦までの練習メニューの考案に行き詰まっていたからだ。
この1週間、セシリアや箒と共に思いつく限りのことは一通り試してみた。
アリーナを借りられた日は主に"白式"の戦法の要となるヒット&アウェイの成功率を上げるための、
VRルームでは鈴の戦闘映像から解析できたデータを反映させた仮想敵と何度もシミュレーションしてみたが、正直なところ、勝率は良くない。思っていた以上に近距離武装と中距離射撃を使い分けてくる相手というのは難敵だった。何せ“間合い”が取りづらいのだ。
(ただでさえ青龍刀ってことで俺より間合いが長いし、だからといって距離を詰めようにも"衝撃砲"がある)
剣道三倍段、という言葉がある。ただでさえ長物の相手を太刀でするには数倍の実力が必要とされているのだ。箒曰く、日本武道では『剣道二段=
元より突く・斬る・薙ぐを自在に切り替える長物の相手に慣れていないというのに、"
「練習しようにも、1回戦まで後1週間じゃなぁ……」
とてもじゃないが、慣れるための時間が足りなさすぎる。そもそも、今の再現としては不完全な仮想敵に慣れたところで、間違いなくそれ以上である鈴相手に通じるかどうか。
「せめてもっと動きの近い練習相手がいればなぁ」
とはいえ、無いものねだりでしかないのだが。セシリアの"
「おりむ~。なにやらむつかしい顔してるねぇ~」
「ん? のほほんさん?」
ふと顔を上げると、そこにはほんわかと緩んだ垂れ目なクラスメイトの顔が。
「なにか悩みごとかな~?」
「ん、まぁ、色々とな。のほほんさんは? 俺に何か用?」
「うん。はいこれ~」
と、徐に彼女が袖の中から差し出したのは、小さな
「これ、VRルームで使ってるヤツじゃ……?」
VRルームでは予め仮想敵のデータ設定や、VRルームを使った時の自分の動き、また、記録として残っているISのデータを解析したものを入力しておいて、後から何度でも
「そ。この中にはね~、かんちゃんのデータが入ってるの~」
「かん、ちゃん?」
って、誰だ? と首を傾げる自分に、ほにゃっと表情を更に緩ませて、のほほんさんは続けた。
「あたしの友だちだよ~。かんちゃんのはね~、
「―――え?」
それは、もしかしなくとも。
「多分、おりむ~が今いっちばん欲しいものなんじゃないかな~?」
ニヒ、と目を細めてそう言う彼女の顔は、珍しくちょっぴり悪戯っぽい笑みになっていて、ポンと自分の手に
「んぐ」
「ほら。甘いもの食べて、頭すっきりさせよ~」
口の中に何か放り込まれた。ほんのり広がる果実の香りと、舌で簡単に潰せる柔らかな食感。
「これ、ゼリー?」
「"ブレインゼリー"ってゆ~んだって。ブドウ味~」
開封した袋を見せてきて、そのまま
「応援してるよ~。頑張ってね~」
「お、おぅ。ありがとう」
フリフリ、と余らせた袖を揺らし、クルリと踵を返して教室を出ていく背中を呆然と見送りながら、口の中に広がっていくブドウの香りを味わいつつ、改めて思う。
「―――“かんちゃん”さん、ありがとう」
その表情に、先ほどまでの悩みの影は、もうなかった。
「これ、凄い。こんなにキレイに整えられたシステム、初めて見た」
整備管理棟のガレージルーム、その一画。アイバイザーに表示されていく文字列を見て、
「"
先日のカデンソンさんからの依頼は『君の戦闘データをVRルームで記録させて欲しい』というものだった。それも『
「はぁ、見てるだけでため息が出そう。……本音、ちゃんと渡してくれたかな」
「私なんかのデータが、役に立つかは判らないけれど」
それでも、先日のクラス代表決定戦と、陰ながらひたむきで真っ直ぐな努力を見て、世界を相手に必死にもがき続けている彼の助けになれるのなら、と心からそう思うのだ。
まだ、直接顔を合わせられる勇気は沸かないけれど。
「頑張って、応援してる」
小さく呟いて気合を入れ直し、システム構築作業へと彼女は戻っていった。
ぐぬぬ、何よあの穏やかな笑顔……あんなにヒロインしてる簪ちゃんなんて見たことないわよぉ……
―――またストーキングですか、バ会長。
盗聴じゃありませんッ!! これは愛ですッ!! 愛故にm
―――ハイハイどうでもいいですから仕事に戻って下さい。
おごっ、ちょ、首根っこ持たないで、苦ちぃ……
―――ならその脱走癖を何とかしてください。いなくなるにしても仕事を終えてからにしてください。
ぐぅ、虚ちゃん、
―――えぇ。
何教わってるのよッ!? ぐぅ、恨むわよ
そして、思惑はそれぞれに、クラス代表戦の幕が上がる――――――
サブタイトルの元ネタ
『ラチェット&クランク3(PS2)』のスキルポイント
"ブレーク・ザ・ダン(Break The Dan)"
惑星コーロスのクォークアジトQQQ内にある雪だるまのダンを壊すと獲得できる。
ダン、はこの雪だるまの顔に似顔絵が描かれている開発スタッフの名前、だったハズ。
補足説明
・"ブレインゼリー(Brain Jelly)"(初出『THE GAME』)
所謂、収集アイテム。集めるとキーアイテムやお金が貰える。名前の通り、本当に脳みそそのまんまの形をした赤紫なゼリー状の何か。ステージ内に出てくる"テレパトプス"という敵を倒しても入手できる、ことを考えると、これ、本当に脳みそなのかもしれない。
・"ヒドラスピッター(Spitting Hydra)"(初出『3』)
ボタン押しっぱなしで複数の敵をロックオンし、強力な電撃を射出して倒す『3』の中でもかなり強力なガラメカ。一度ロックオンしてしまえば画面外に行こうが背後にいようが、ロックオンが外れない限りどこにいても当たるという中々頭おかしい攻撃範囲の広さを誇る。
・"プレデターロケット(Predator Launcher)"(初出『FUTURE』)
上記のヒドラスピッターのミサイル版なガラメカ。ミサイルだけあって射程はこちらの方が圧倒的に長い。ちなみにどちらも最大ロックオン数は7体。
どうも。作者のGeorge Gregoryです。
また雪が降りやがりました。もう要らねぇ(真顔)
SONYのラチェクラ公式ポータルサイトがメンテナンス中だとかで見られなくなっています。これ、何かのフラグなんでしょうか。期待してしまいます。続き、来るか? 劇場版のラストや『THE GAME』本編内には山ほど『2』『3』シナリオのフラグがちりばめられていますが……
ポケモン新作、ワクワクしてしまいますな。ソード・シールドと謳うからには伝説のポケモンは鋼タイプだと思っていいんですねッ!?(←無類の鋼タイプスキー)最初の御三家はいつも炎。初代はヒトカゲを選んでそりゃあもう苦労しまして、マチスに挑む時点で既にリザードンだったのは良き思い出。
いよいよクラス代表戦、そして完全オリジナル展開への第1歩。引き続き、お付き合いくださいませ。……ちなみにカデンソン(ラチェット)が鈴にやらせているトレーニング内容、原作プレイ済の皆様の中にはニヤリと出来た人もいるはず。
それでは、また近い内にお会いできることを願って。
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