ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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本話よりISキャラクターと絡み始めます。
原作と比べると性格改変と思われるようなキャラクターがいるかもしれませんので、注意を。

尚、本作のラチェットとクランクは『1』~『Into the NEXUS』時空の彼らです。原作を知らない人は、まぁジョジョの1~6部時空みたいなものだと思ってくれればOKです。

では、本編へどうぞ。


Any Ten

 私には最近、ハマっているものがある。

 世間から行方を眩ませてこっち、“吾輩は猫である(名前はまだない)”に引き籠って日々研究に勤しんではいるものの、流石に日々の潤いというものが少ない。マイ・ラヴリィ・シスター箒ちゃんや、私の唯一の親友である織斑千冬(ちーちゃん)、その弟である一夏(いっくん)の定期盗s(ゲフンゲフン)観察は欠かさず継続しているし、それに飽きたということもない。が、私が数少ない観察対象としているこの3人、基本的に生活リズムが規則正しく、生活パターンに大きな変化が殆どない。要するに、見応えがないのだ。

 研究の方も現時点で実行できそうなものは大方試してみたし、新規の案を実行に移すにしても諸々の下準備から始めなくてはならない。商売事で言う"閑散期"というヤツだ。

 そんな訳で、全く変化のない生活というものは実に退屈で、そしてそれは万人に対して等しく、そして遺憾なく、その牙を剥くのである。早い話、そろそろこの逃亡生活に誰か新しい風を吹き込んでくれないかなぁ、なんてことをボケーっと考えていた、とある日のことだった。

 

――その“ラジオ”を見つけたのは。

 

 最初はたまたま、私が張り巡らせていた情報網の1つに引っかかったので、取りあえずチェックだけはしておこうという、興味半分な理由だった。実際に聴いてみても最初はノイズが酷くて雑音にしか聞こえず、どこぞの素人がアマチュア無線でも試しに始めたのだろうと気にもしていなかった。

 だが、ノイズが晴れていくに連れて、私の好奇心は徐々に刺激されていった。それは、知らない“言語”だった。それも、少なくとも地球上で使用されている大半の言語は網羅している自分が、とっかかりすら掴めないほど難解な。未だ世間に認知されていない少数民族のもの、という可能性は捨てきれないが、そんな彼らが“電波に音を乗せる”なんて真似が出来るとも思えない。

 と、なれば。これはどこぞの誰かが不特定多数へ向けて“解いてみろ”と気まぐれに垂れ流している趣味の果てか。あるいは、それとも。

 

「ひょっとすると、ひょっとするかも……?」

 

 そもそも私がISなんてものを世に解き放った理由。その存在意義。もしかするとこれは、外宇宙より何かしらの電波を受信しているのでは。そんな期待を一度でも抱いてしまったからか、普段ならば“どうでもいい”と切って捨てるようなそれを、何故か私はそうする事が出来ず、今でもこうして定期的に、ヘッドフォンに耳を当てながら解読に勤しんでいる。別に、違うなら違うでいいのだ。少なくとも、からからに乾きかけていた私にとっては、これは確かな“水分”だったのだから。

 そんな私の事情は置いておいて。

 

「ぬぅ……」

 

 暫く聴き続けてようやく耳が慣れ始めたからこそ判ったことだが、明らかに何度も同じ響きの単語が聞こえるし、それを声色の違う2人(?)が交互に使っている節がある。恐らくこの単語がお互いの“呼称”なのだろう。つまり、これは“会話”ということになる。

 そして、それぞれの会話の内容に合わせているのだろう、バックで流れている”音楽”が変化している。時には軽快に。時には悲愴に。時には剣呑に。時には安穏に。となれば、これはただの“会話”ではなく。

 

「やっぱりこれ、何かの“番組”だよねぇ?」

 

 明らかに、“提供”を目的とした“意図”がある。“娯楽”を前提とした“脚本”がある。恐らく、ドラマか何かに近いのではないだろうか。そしてこれが、少なくともこの1週間の間、1日たりとも途絶えたことがない。

 これを素人だけで賄っているならば、それはそれで素直に大したものだと思う。私が最低限、認めるに値する努力と才能だろう。が、その可能性はほぼないと言っていい。シナリオとは無関係な平坦な口調で、全く同じ文章を読み上げている部分が、必ず定期的に聞き取れるのだ。番組の随所に組み込まれるそのようなものといえば。

 

「全然聞いたことないんだけど、こんな名前の企業とか……」

 

 他ならぬ、宣伝広告。要するに、この番組に出資している企業が存在していることになる。が、どれもこれも聞き覚えがない。というか、ぶっちゃけ名前そのものが聞き取れない。これでは何の意味も為していないのだ。だのに、この番組は存続している。こうして今も放送を続けている。それが意味するのは、つまり。

 

「…………」

 

 いいやダメだ。期待するな。自分の都合の良い妄想だ。

 やはりそうだ。確信できる。自分が夢見た世界があるのだ。

 頭の中で延々と、そんな2人の自分がせめぎ合っている。しかし、だって、考えてしまうじゃあないか。この番組の市場は“地球ではない”かもしれない、なんて結論が、その可能性が、ほんのちょっぴりでも脳裏を過ってしまったからには。

 

「――っと、そろそろちーちゃんの決勝の時間か」

 

 そんな葛藤に呆然と固まったままで小一時間が経過した頃、ふいに視界に入った時計に沈み込んでいた意識が戻る。流石に親友の晴れ舞台は見逃せない。即座にモニタ表示を切り替え、凡夫たちでごった返す試合会場が映し出される。当然、サブの画面で応援席にいるであろう小さな応援団長も忘れずに。

 

「さぁて、録画の準備準備~♪」

 

 

―――そして、私は目の当たりにすることになる。余りにも鮮烈に吹き込まれる、その()()()()を。

 

 

 

「――時間軸を遡ってる?」

「えぇ、間違いないッス」

 

 図らずして予定よりも遥かに早く、しかしあまりに予想外の形で目的地へと辿り着いた自分たちは、何よりもまず現状の把握に努めた。未だ影も形も見えなかった筈の距離を瞬時に詰めた、あの"時間の裂け目"の波。本来この場所、この座標にあるはずのない惑星地球が目の前にある理由。

 

「データベースによれば、惑星地球を含むこのセクターは、長い年月と共に恒星である太陽の変動に従って徐々に座標を変化させていたようッスね」

「公転周期の話じゃあなくてかい?」

「そうッスね。まぁ、星の移動なんて珍しいことでもないッスよ」

 

 なんということはない。嘗ての座標に惑星がある。それ即ち、その座標にあった頃まで時間を遡ってしまった、というだけの話。時間遡行を経験したのは、何も今回が初めてではない。むしろクロック絡みのトラブルなのだ、これくらいは予想の範疇である。

――ここまでは、の話だが。

 

「そりゃあまぁ、そうだけどさ。で、この座標に地球があったのはどれくらい前の話なのさ?」

「あぁ、その、えぇっと」

 

 尋ねた途端、言いよどむクランク。基本的に受け答えは小気味よく、間髪入れずに即答の相棒が、この反応ということは。

 

「あぁ、うん、その反応でなんとなく解った。少なくとも惑星“ザニファー”や惑星“モルクロン”の時より遥かに長ぁ~く遡ってるわけね」

「その、すみませんッス」

「なんでクランクが謝るのさ。仕方ないよ、非常事態なんだから。今回は予めシグマンドにも伝えてきているんだし、解決策がきっとあるさ。……さて、取り敢えずどうしようか」

 

 うんざりしながら操縦桿に寄り掛かる自分を見て申し訳なさそうに項垂れるクランクに、気分を切り替えようと尋ねる。何はともあれ、この惑星で起きていた時間異常の原因を調べに来たのだ。いつまでもここで呆けているわけにもいかない。

 

「折角、消滅する前の時間軸に来られたんだ。地球へ降りるのは確定として、確か外宇宙に排他的な惑星だったんだろう?」

「そう、ッスね。そもそもこの頃の地球人(Earthling)はワレワレのような存在を認知すらしていなかったらしいッス」

「そりゃあまたどうしてさ?」

「この近隣に有機生命体が生息しているのがこの地球だけだから、だと思われるッス。彼らが探し回れたのは、同じく太陽を恒星としたこの惑星系が限界で、更に外宇宙へと向かえる段階には、未だ至れていなかったようッスね」

「しかもこんな宇宙の端っこにいたんじゃあね。オイラたちだって今回の一件がなけりゃ、ここまで来ることなんてなかっただろうし」

 

 何せここに来るまでに重力ワープドライブを15回は使用しているのだ。“ゾニー”たちによってアップグレードされ、そこらの下手な高速艇なんかより数倍は優れている今のアフィリオンでこれほど時間がかかるのならば、そりゃあ余程の物好きでない限り、こんなど田舎まで足を運んだりはしないだろう。

 

「と、なると、新しくなったばかりのコイツの出番かな?」

 

 そう言いながらベルトのバックルを軽く撫でる。ここには長年世話になり続けてきた、とある"Garactic Mech(ガラメカ)"が内蔵されている。

 

「先日のバージョンアップで随分と高性能になったらしいッスね、"ホログラマー"」

「あぁ。"メルモシリーズ"の分子再構成技術を応用できるようになったんだってさ」

「ということは、見た目だけではなくて、実際に変装することも?」

「そゆこと。とはいっても、流石に"ティログラマー"や"ホロパイレーツァー"の時みたいに、自分よりも小さいものに成りすます場合は、ちょ~っと窮屈なんだけどねぇ」

「ホォ、それはまた画期的な。今回の調査には非常に役立ちそうッスね」

「だろ? ところで、地球人(Earthling)ってどんな姿をしてるのさ?」

「フム。外見に関しては、データベースにも殆ど残ってないッスね。アフィリオン、地上の様子をカメラに映せるッスか?」

『お任せあれッ!! ちょ~っと待っててね~……ふむふむ、ちょ~ど今、惑星規模で開催されているイベントの真っ最中みたい。会場のカメラにアクセスしてみるね』

 

 クランクの問いにアフィリオンが軽快な返答をして暫くの後、正面のモニタにそのイベントの会場の映像が映し出される。

 

「うわっ、スッゲー人の数ッ!! へぇ~、地球人ってこんな感じなんだ」

「皺の少ない滑らかな肌をしているッスね。体毛も殆ど見受けられないッス」

「人によって髪も肌も色がバラバラだね。身長は、オイラよりちょっぴり小さいくらいかな」

「それにしても、これは屋外闘技場ッスかね? "ドレッドゾーン"や"デストラクタパローザ"を思い出すッス」

「やぁ、懐かしいね。どこに行っても、考えるのは同じってことか」

 

 映し出された人々が広い会場の真ん中、しのぎを削り合っている2つのパワードスーツに熱狂の声を上げている。自分たちには割と見慣れた光景だ。無論、アリーナの上から見る側として、だが。

 と、そんなことを話していた時だった。

 

『――ねぇ、2人とも。ちょっとこれ、見てくれない?』

 

 そう言って、アフィリオンが映像を切り替えた。映し出されたのは会場の観客席、その裏の通路だろうか。皆が試合に熱中している為だろう随分と人気のない廊下を、忙しなく移動する複数の怪しい人影。その小脇には、明らかに意識を失っている幼い少年を抱えていて。

 

「アフィリオン」

「すぐ、向かえるッスか」

『合点承知ッ!! ステルスモードで全速降下ッ!! しっかり掴まっててねッ!!』

 

 そんなのを、自分たちが見過ごせるはずもなかった。

 

 

 

――どうして、こんなことになっちゃったんだろう。

 

 織斑一夏少年の思考回路は混乱の坩堝にあった。

“こういうこと”に関する予備知識が全くなかった、という訳ではない。むしろ日頃から“決して怠ってはならない”と、尊敬する姉に強く言い聞かされていた。それでもきっと、心のどこかで自分とは無関係なものだと、まるでドラマや映画のような、現実味のない創作物のようなものだと、そのように認識していたのだろう。最後の最後まで姉が反対していたのは、こういう事態を想定していたからなのだと、今更になって理解した。

 

 尊敬する姉が出場する世界大会の応援に駆け付けたい。幼い子どもがそのように考えるのは仕方がないことだろう。ご多分に漏れず、一夏少年は最後の最後まで渋面を崩さなかった姉の反対を押し切って、この欧州の地を訪れていた。

 

『いいか一夏。私から頼んで、お前の傍に最低でも一人はついていてもらえることになった。絶対に、一人で行動するんじゃあないぞ』

 

“大袈裟だよ”と、その時は姉の言葉を一笑に付した。“そんなに自分が信用できないのか”とも。だからこそ、こちらに来てから四六時中自分の警備をしてくれていた人たちに、ほんの少しでも休んでもらおう、などと思いついてしまった。

 

『トイレに行ってくるので待っていて下さい』

 

 いくら自分が子どもで相手が大人とはいえ、女性にトイレまで同行してもらうのは気恥ずかしい、というのもあった。そう、自分の警備を担当していたのは全員、女性だったのだ。恐らく全員がIS搭乗者ないし、その関係者だったのろう。それくらいは幼い自分でも理解できた。だからこそ余計に“大袈裟だ”という感情は増して、このような愚考に走ってしまった。

 当然、強く反対されていた。“何かがあってからでは遅いから離れるな”と。どうして自分は、もっと真剣に受け止めなかったのだろう。

 

――気づいた時にはもう、自分は“ここ”にいた。

 

 日に焼けて色褪せた木箱の山。薄暗い室内はさして広くはなく、その反面で随分と天井が高い様子から、ここは何かしらの倉庫の一室らしいと窺える。遠くから波の音が聞こえ、古びた木々と黴に混じって微かに鼻腔を擽る潮の香りからして、海に程近い立地なのかもしれない。間違いなく、自分が先ほどまでいたはずの試合会場などではない。

 こうしてはいられない。姉が順当に勝ち上がり、決勝を目前に控えたこのタイミングでの犯行。犯人の顔も人数も未だ窺い知れないが、その目的は考えるまでもなかった。

 

「くっ!! ふんっ!!」

 

 今の自分は椅子に座らされ、両の手足を鎖と南京錠で束縛されているようだ。身じろぎをする度にじゃらじゃらと耳障りな金属音が聞こえる。当然、思い切り引っ張ってもびくともしない。身体を捻れば抜け出せるかも、とあれこれと体勢を変えて色々と試してみるけれど、効果はない。むしろ却って絡まってしまったような気がする。

 

「あら、ようやくお目覚め?」

「誰だっ!!」

 

 そんな調子で小一時間、もがき続けていた物音を聞きつけたのか、軋みを上げて正面の鉄扉が開いた。入ってきたのは、やはり見知らぬ成人女性。その顔は、実に嫌らしく歪んだ笑顔をしていた。

 

「あの戦乙女(ブリュンヒルデ)の実弟だというから、どれほどのものかと思えば。ある意味、“年相応”なのかしらね。ドイツ軍はちゃんと仕事をしていたのに、まさかあなた自身がのこのこ一人になってくれるとは、流石に想像していなかったわ」

「うるさいっ!! 早く解放しろよっ!!」

「言われなくてもしてあげるわよ、後1時間も経てば……まぁ、あなたが余計なことをしなければ、だけど?」

 

 あぁ、今のやり取りで判った。はっきりと解ってしまった。

 

「なんでだよっ!! なんで正々堂々勝とうとしないんだよっ!!」

「ふぅん、そういうことは解るのね。自分の立場はなぁ~んにも解ってない癖に。そんなの、“確実に”負けてもらわないと困る人がいるからに決まってるじゃない」

 

 強く噛み締めすぎて、奥歯が嫌な音を立てる。あぁ、そうだ。何もかも、こいつの言う通りだ。舐めていた。高を括っていた。調子に乗っていた。自分の浅慮が、姉の晴れ舞台に泥を塗ったのだ。

 

「アハハハハハッ、やっぱり男って救いようのないバカねぇ!!」

 

 それでも、なんとしても、三日月のように唇の端を持ち上げ、まるでお手本のような高笑いを上げるこの女の顔を今すぐに、それはそれは盛大に殴り飛ばしてやりたい。そんな衝動のままに一層の力を四肢に籠め、その為なら引き千切れてしまっても構わない、などと青く幼い思考回路が熱暴走をし始めて。

 

 

―――遠くで、一発の乾いた銃声が轟いた。

 

 

「っ!?」

「……はぁ、折角いい気分だったのに、台無しじゃない。どこの馬の骨かしら」

 

 途端、女の高笑いは冷水をひっかぶったようにすっと消え失せ、実に気怠げに溜息を吐いて踵を返した。どうやら、誰かが来たらしい。それも、多分だけれども、自分を助けるのが目的で。

 

「まぁいいわ。晴らし足りない鬱憤はネズミ狩りで晴らすとしましょう」

「待っ―――ふぐッ!!」

 

 扉の向こうへ消えようとする背中に追い縋るように身体を前のめりにし、バランスを崩して椅子ごと倒れてしまう。鼻を強く打ったのか、痛みでじんじんと疼く。頬に水気も感じるあたり、鼻血が出てきたようだ。それでも堪えて顔を上げるが、女はとうにいなかった。

 あまりに惨めだった。不甲斐なかった。お気楽だった少し前の自分に拳骨を喰らわせてやりたくなる。

 

「畜生……畜生……ッ!!」

 

 視界が滲む。冷たい床の感触が、却ってこの“熱”を浮き彫りにしているようで、それが余計に悔しくて堪らなかった。

 

「誰か、助けてくれよぉ……」

 

 届くなんて思ってもいなかった。思わず零してしまった弱音だった。誰かに聞こえて欲しいけれど、誰にも聞こえて欲しくなかった。

 こんな状況でもまだ、意地を捨て切れない自分がいることに、無性に腹が立って、情けなくて。

 

 

 

「―――ハイ、お助けするッスよ」

「……へ?」

 

 

 

 だから、返事が来るなんて思ってもいなくて、間抜けな声を上げてしまった。

 背後から聞こえた優しい声。足音が近づくに連れて、キュインキュイン、とモーターが駆動しているような音が徐々に大きくなる。そして、その声の主が、目の前に現れた。

 頑丈そうな銀色の身体。手足は見るからに収納できそうなサイズと構造をしていて、見た目とそのサイズからして“ランドセルに手足が生えている”ようだと、ふと思った。そして、真ん丸の顔は、頭の天辺に赤く光るアンテナのような突起物があって。

 

「大丈夫ッスか、少年?」

 

 鮮やかな緑に輝く2つのアイカメラをしたロボットが、とても穏やかな声で話しかけながら、こっちを覗き込んでいた。

 

 

 

(もう嗅ぎつけられたっていうの? 遅かれ早かれバレるだろうとは思っていたけれど、それにも限度ってものがあるわよ……)

 

 一夏少年に対しては余裕の態度を崩さずにいたものの、彼女の心中は決して穏やかではなかった。

 彼女は嘗て、とある国の国家代表であった。自国では負けなしで、それなりに勇名もあった。国を背負って立つことを期待され、自分にはその器があるのだと心から信じ切っていた。

 

 そして臨んだ第1回のモンド・グロッソにて、その1回戦にて、彼女は呆気なく負けた。

 

 試合開始後、僅か10秒。実に見事な袈裟懸けによる一刀両断。判定の必要すらない、見事な一本負け。そして、まるで自分はただの踏み台とばかりに始まった、戦乙女(ブリュンヒルデ)の快進撃。大会後、彼女は国家代表を降ろされた。

 “決勝(そこ)にいるべきは自分だった”

 “なのにあの女(織斑千冬)が立っている”

 “そんなのは間違っているのだから、降りろ”

 つまり彼女の動機は、見事な典型的負け犬三段論法により成り立つ、ただの逆恨み。第三者から見ればあまりにお粗末な動機でも、薄っぺらいプライドしか持たぬ彼女にとっては何よりも最優先するべき事柄なのである。

 

(あんな阿婆擦れなんかより、私の方がずっと強い。たった1度の偶然で、私から全てを奪いやがって)

 

 ならばお前も、たった1度の不始末で全てを無くせ。実に単純。実に横暴。しかし本人は至って真面目にそう思っているのだから、始末に負えない。兎にも角にも、溜りに溜まったこのストレスを発散すべく、銃声の元へと歩みを進める。こうしている間にも侵入者は逃げ回っているようで、間断なく続く銃声が鼓膜に届いていた。

 

(ちょっとは控えなさいよね。周囲に人気がないとはいえ、聞きつけられない保証はないのだから。本当、男って使えないわ……)

 

 今回の騒動の為に揃えられた男衆は端金で雇われた連中なのだから、その質は推して測るべしである。そこまで言うのならば精鋭を雇えという話なのだが、女尊男卑の風潮に染まった女性にとって"優れた男性を雇う=女性は男性に劣っている"というなんとも珍妙なロジックが成り立っているのだから、実に"頭痛で頭が痛い"話である。

 

「まぁいいわ。おかげで私が嬲れる分が残っているんだし」

 

 今の自分にはIS(地上最強の兵器)がある。これがある限り、誰も自分には逆らえない。逆らうことは許されない。

 外へ面する倉庫へ。どんな無様な阿保面を晒して逃げ惑っていることだろう。そんなことを想像しながら、通路を抜けて。

 

「さぁ役立たずの馬鹿ども、侵入者はどこに―――」

 

 そして彼女は、思い知ることになる。

 

 視界に入れたその瞬間、両手に引っ提げた2丁の拳銃型銃火器にて、一斉に10人もの男衆を無力化し。

 

 “次はお前か?”と言わんばかりに首をこちらへ向ける、黒い全身装甲(フルスキン)の存在が。

 

「―――Are you ready(覚悟はいいか)?」

 

 あらゆる意味で、文字通り“桁の違う存在”だということを。

 




サブタイトルの元ネタ
『ラチェット&クランク(PS2)』のスキルポイント
"じゅうだいじけん(Any Ten)"
 惑星ユードラにて、ステージ内を飛び回っている飛行機械を10台吹き飛ばすと獲得できる。
 海外版のシンプルなタイトルに対して”10台”と”重大”のダブルミーニングをしれっと組み込むスタッフのセンス、大好きです。

・惑星ザニファー と 惑星モルクロン(初出:『ラチェット&クランク FUTURE2(PS3)』)
 どちらもシナリオ内にてラチェットが時間遡行を経験したステージ。前者は2年、後者は実に10年もの時間を遡って過去に起きた異変を調査したり、事件の解決に深く関わっている。

・ゾニー と 彼らによるアフィリオンの強化(ラチェット&クランク FUTURE(PS3)』)
 前回の後書きでも軽く触れたが、ゾニーはラチェクラの世界観において宇宙の時間の流れを司る種族。クランクの父“オーバス”と共にグレート・クロックの建造に携わり、以降も時空の裂け目の発生を防ぐ為に奔走するという、これだけを聞けば立派な守護者なのだが、この手のキャラクターに定番の“良くも悪くも純粋”設定がやはり搭載されており、それでひと悶着を起こすシーンもしばしば。
 クランクに様々な能力を与えてくれ、続編の『FUTURE2』では彼らを集めることで宇宙艇アフィリオンの武器や装甲が強化されていく仕様になっている。

・Garactic Mech(ガラメカ)
 シリーズファンにはお馴染み、彼らの世界の技術の結晶たる様々なメカたち。ガラクタの“ガラ”ではなく、“銀河系の(Garactic)”の“ガラ”なのがミソ。
 戦闘用・非戦闘用含め全シリーズを通すとその数は優に100を超えるが、中には外観や細かな部分を除けば似たような性能を持つガラメカも多数存在している。
 なるだけ多くのガラメカを出したいという作者の意図から、この作品においてはそういった点での差別化を図るため、原作の性能を少々(たまにかな~り)変更して登場させることがあると思うので、その辺りにはどうかご了承いただきたい。

・ホログラマー(初出:『ラチェット&クランク(PS2)』)
 読んで字の如く、ホログラムを作り出して見た目を変化させる変装用のガラメカ。初代ではこれを用いて小型ロボットに変装し、クランクの製造された工場へと潜入するシーンがある。後に会話で出てきたティログラマー(初出『3』)やホロパイレーツァー(初出『FUTURE』)はその派生形のガラメカで、それぞれティラノイドという種族と宇宙海賊の姿に変装し、それぞれの母星やアジトへ潜入する為に使用された。
 この作品では本編のアフターを描いていることもあり、本編よりもちょっぴり、いやかなり高性能にしてしまっているが……まぁ、仕方ないね(ぁ

・メルモシリーズ
 これまたシリーズファンにはお馴染みのガラメカ。全作品に何かしらの形で必ず登場しているこのガラメカシリーズは、攻撃を命中させた相手を無害な小動物へと変化させてしまうという、見た目はファンシーだが実際に考えてみるとかなり凶悪なガラメカである。
尚、初代のメルモビーム(ニワトリ)に始まり、メルモシープ(羊)、メルモクワッガー(アヒル)など、変化させる小動物は多岐に渡っている。
……いずれはこのネタで番外エピソードでも、とか愚考していたりする。

・ドレッドゾーン
『ラチェット&クランク4(PS2)』の舞台となったテレビ番組。全宇宙からヒーローと称されるメンバーを誘拐や拉致という形で集め、バトルフィールドとして改造した様々な惑星に連行しては無理難題なミッションを遂行させ、その様子を撮影し放送していた。この番組で命を落としているヒーローは数知れず。作中で確認できるだけでも10人以上は……
 尚、主催者のぶっ飛んだキャラクター、作者はかなり好き。

・デストラクタパローザ(初出:『ラチェット&クランク Into the NEXUS(PS3)』
 原作シリーズお馴染みの闘技場ステージ。これは上記作品のアリーナの名称にあたる。このステージをクリアすることにより、時間制限ありとはいえ、初めて自在に空を飛べるようになったのには最高に感動した。

 冒頭の束が聞いていたラジオですが、まぁ、前話を読んでいれば、なんとなく想像はつくと思います。えぇ、暇人ですから、きっと延々と聴いているんでしょう(白目)
 次話更新で導入部分は終了になると思いますので、間に1度、シリーズを知らない読者用に全シリーズの大まかな話の流れをまとめたものを投稿しようと思っとります。
「そんなん別にいいよ」だとか「知らない方が楽しめそう」と思う方は読み飛ばして下さって結構です。

 では、近い内にまたお会いできることを願って。

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