ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
……Me First and The Gimme Gimmesとか解る人は、ここにはいるのかな?
「―――疾ッ!!」
初手は横一文字。
ガギィンッ!!
しかしそれは鈍い音を立てて分厚い刃に阻まれた。"
「へぇッ!! なかなか気合の入ったいい一撃、ねッ!!」
右手の"双天牙月"を地面に突き立て、壁のようにして"雪片弐型"を防ぐや否や、鈴は左手に
ズドォンッ!!
「このォッ!!」
叩きつけられた勢いで弾け舞う砂塵の向こう、キッとこちらを睨みつけてくる鈴。同時、その両肩に搭載された巨大且つ無骨な
ヒュオッ!!
目を凝らし、暫し瞬きを忘れる。スラスターの方向を真下へ急転換、バック宙をするように斜め後方へ跳び上がるようにして上昇。
先ほどまで俺がいたところを
「初撃から"龍咆"を躱すなんてやるじゃないッ!! でもッ!!」
どうにか想定通りの回避が出来てホッとするのも束の間、立て続けに放たれるのが見えた瞬間、スラスターを再度全開、全力で後方へ蛇行しながら距離を取る。ヒュンヒュンと間近を弾丸が通る度、ビリビリと肌を撫ぜる振動がその強烈さを物語っていた。
「様子見のジャブを躱した程度で、そう簡単に逃げられると思わないことねッ!!」
そう高らかに叫んで鈴は二振りの"双天牙月"を
「そらそらそらそらッ!!」
「ぬッ、くッ、おぉッ」
(慣れてやるさ、これにだって)
「せぇッ!!」
大振りの一撃を躱した隙を使って大きく距離を取り、乾いてきた唇を舐めながら、肺の中の空気を入れ替えた。
「―――良いですか一夏さん。こう考えて下さい。『自分が躱す』のではなく、『相手に外させる』のだ、と」
それは、クラス代表戦の日程が決まって初めてアリーナを借りての本格的な練習が出来た日のこと。スーツに着替えてアリーナに集まると、セシリアは真っ先にこのように切り出した。
「貴方の"白式"が近接特化型である以上、いかに相手の攻撃を貰わずに自分の攻撃を叩き込めるかが肝心となります。ましてや
「おぅ」
昔から何度も見てはいたが、改めて自分が同系統の機体に乗って、どれだけ自分の姉上が
「僅か1週間の鍛錬で私のBITをあそこまで躱して見せた貴方です。“外させ方”を覚えれば、きっと今よりも遥かに動きやすくなるはずですわ」
「“外させ方”、か」
いまいちピンと来ない。具体的にどうすればいいのだろうか。
「そう、ですわね。例えば……」
と、セシリアがふいに黙り込んで観客席の方を見た。誰か気になる人物でもいたのだろうか、と視線を向けるが、誰もいない。
「セシリア、どうし―――」
そう尋ねながら視線を戻そうとして。
「―――こういうこと、ですわね」
目の前、鼻の頭を掠めんばかりの至近距離に"
「お、おぉ……」
思わず腰が引けてしまい、数歩後ずさる。セシリアはニッコリと微笑みながらゆっくりと銃口を下ろして、続けた。
「今のように、視線だけでもかなり相手の行動を誘導できますの。狙う側が、つい
「なる、ほど」
何となく解った。体育の授業でも、ドッジボールの際に『○○を狙え』等と言いながらも実際は全く違う人を狙ったり、サッカーのシュートだって視線やキックのタイミング、足を入れる角度や当てる位置でフェイントを入れたりする。要するにあれと同じようなことを、ISでやろうと、そう言うのだ。
「良いのか? それ、どちらかっていうとセシリアにとっては教えたくない情報なんじゃ……?」
「えぇ、まぁ。ですが、そう簡単にものに出来ることではありませんし、それならそれで、私が更に腕を磨けばいいことですので」
しれっと言って見せたのが、余計に貫録を感じさせた。彼女はきっと、今までもずっと
「ですので、安心して追いかけてきて下さいな? 後輩は遠慮せず、先輩に甘えれば良いのです」
フフッ、と得意げに微笑む姿に、よく俺は代表決定戦の時、あそこまで食らいつけたもんだな、と思う。あの時は確かに、手を伸ばせば届くように見えた喉元が、今や遥か彼方に思えてならない。あぁ、これが俺と彼女の
「―――おぅ。胸を借りるつもりで、よろしく頼むッ!!」
「いい返事ですわ。手加減は、一切しませんわよ?」
こうして、セシリア軍曹の
(へぇ、上手く凌ぐじゃない。始めて直ぐに数発は食らうものだと思ってたけど)
アリーナの広さを目一杯使っての目まぐるしい攻防に、観客の熱は更に盛り上がっていた。"龍咆"による弾幕で相手の足を止め、"双天牙月"による一撃で仕留める。それがアタシの基本スタイルだ。尤も、"龍咆"の弾丸をまともに見切れずに被弾、あっという間にSEを削られて終わる、なんてことも珍しくない。実際、同郷の候補生にさえそんな程度のが何人もいた。それだけに、ISに乗って間もない一夏がこれだけ上手く避け、受け止め、やり過ごせていることが、素直に驚きだった。
なかなか"双天牙月"の間合いに出来ない。距離を詰められたと思えば、一夏は更にアタシの懐に飛び込んできて鍔迫り合いに持ち込んでくる。まともに振らせないためだ。"双天牙月"は単体でもそれなりに重量があるが、十全にそれを活かすためにはどうしたって遠心力が要るし、機動力特化なだけあってスラスターの馬力で言えば"白式"に軍配が上がる。それは瞬間的なものであり、まともに押し合えば"甲龍"でも受け止めることは十分に可能だろう。だが、ほんの一瞬でも無防備を見せようものなら、即座に"
一夏の狙いが
パァンッ!!
「ッ!! またッ!!」
これだ。"吹雪"と言ったか、あの真っ白な拳銃が火を噴くのだ。それも、綺麗に"龍咆"を目掛けて撃って来るので、躱すか防ぐかを強いられるし、撃ててもどうしたって狙いが
それでも時折、格好のタイミングが生まれる瞬間がある。集中力の
「覇ァッ!!」
「ラァッ!!」
それも少なからず想定内なのだろう。刃の側面に攻撃を合わされ、強引に
よくもまぁ緊張の糸が持つものだと感心する。こちらはまだまだ余裕があるが、一夏はさぞ必死なことだろう。休憩どころか水分補給すらもなしのゴールの見えない長距離走、それも全力疾走し続けているようなものだ。いつプッツリと切れてもおかしくないだろうに。
だが、それも。
「ここまでよ、一夏」
"龍咆"を、"白式"の周囲を撃ち抜くように射出、明確な『道』を作る。これ見よがしに連結した"双天牙月"を旋回、突きの構えで後ろ手に溜める。スラスター出力増加。狙いを定め、そして。
「終わらせてあげるッ!!」
自身を、一振りの槍と化した。
(―――来たッ!!)
データを見た限り、鈴の射撃の腕前がそこまでではないのは解っていた。だからこそ、セシリアに基礎を叩き込まれた視線や挙動のフェイントによる“外させ方”と、箒との実践訓練でとことんまで鍛えた近接武器の“外し方”。それを“かんちゃん”さんの薙刀のVRデータでひたすら試して、試して、試しまくった。長物相手に剣で
実際には5分も経っていないだろうが、既に数時間は経過したような倦怠感が蛇のように四肢をじわりじわりと締め付けている。叶うなら今すぐにでもスーツを脱ぎ捨てて熱いシャワーを浴び、日光で干したふかふかの布団にダイブして爆睡したい。そんな甘い誘惑の声を断ち切り、既に疲労困憊の心と身体に「あともう少しだけ」「あともう少しだけ」と激励の鞭を打つ。
(SE残量は十分。一撃で決めるにはクリーンヒット以外にない。大丈夫。大丈夫。何度も試した)
読み通りだった。鈴なら真っ向正面から決めに来てくれると信じていた。後は、俺が。
(鈴の一撃より先に懐に飛び込んで、思い切り振り抜くだけだッ!!)
翼を広げ、点火。イメージするのは弾丸。速く鋭く刺し穿つ、研ぎ澄まされた錐のような鏃。
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおらぁああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
裂帛の気合と共に接敵。音すら置き去りにするような錯覚。烏羽と薄ら紅の鎧を定めて落とした撃鉄は――――
「――――やっぱり、そう来るわよね、一夏」
「な、にィ!?」
いつの間にか自身の腹部へ深々と打ち込まれた
「吹き飛びなさいッ!! "崩拳"ッ!!」
"
どうも。作者のGeorge Gregoryです。
なんでこんな早く書けたの(真顔) いや、その分出来が不安でもあるんだけど……戦闘描写は久しぶりなので評価が怖いッスねぇ。忌憚なき感想求む。
『Ao』というバンドをご存じでしょうか。北海道を拠点に活動する私の推しバンドなんですが、いい曲書くんです。ご存じない人は『スペースオペラ』『テレプシコーラ』『青と群青の間』『ライムライト』で検索してみるとちょっぴり幸せになれるかもです。尚、ボーカルの安田貴広さんは同郷ということもあってなのか藍井エイルさんのアルバムに楽曲作家として参加もしてたり。ホントいい曲書くんです(2回目)。知名度全然追い付いてない(個人的な意見です)ので皆さん是非聴いてくだしあ。
それでは、また近い内にお会いできることを願って。
Twitterとリンクさせて更新報告/予告した方がいいですか?
-
YES
-
NO