ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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 LINKIN PARKはやっぱりテンション上がりますな。ZEBRAHEADも最高。元マイケミボーカルのジェラルドが今アメコミ作家としてデビューしてるって知ってました?(しかもスパイダーマンで現在放映中の『スパイダーバース』にも彼の創ったキャラが出てる)

 ……Me First and The Gimme Gimmesとか解る人は、ここにはいるのかな?


Break The Days Ⅲ

「―――疾ッ!!」

 

 初手は横一文字。瞬時加速(Ignition Boost)で彼我の距離を即座に詰め、腰の鞘から引き抜くように、相手の胴を真っ二つに割くように、寸前で踏みしめた足を軸として爪先から剣の切先まで()()を連結、肉体を独楽(こま)と化して回す。振り抜いた"雪片弐型"は残像で扇を象りながら"甲龍(シェンロン)"の右胴へと吸い込まれていき。

 

 ガギィンッ!!

 

 しかしそれは鈍い音を立てて分厚い刃に阻まれた。"甲龍(シェンロン)"の青龍刀―――いや、改めて、果たしてこれを青龍刀と呼んで良いものだろうか。"双天牙月"というらしいそれは、刃渡りが既に成人男性の身長と遜色がない。青龍刀と言えば三国志演義にて高名な関羽の愛刀であり、その名の通り刃の部分に青龍の装飾が施された、薙刀に類似した武器として知られている。が、この"双天牙月"、その巨大な刃に反して、柄が随分と短い。勿論、一般的な刀に比べれば遥かに長い。しかしこれでは青龍刀と呼ぶには余りにアンバランスでは、むしろ大刀と呼ぶべきものなのでは、などと今でも思うのだが。

 

「へぇッ!! なかなか気合の入ったいい一撃、ねッ!!」

 

 右手の"双天牙月"を地面に突き立て、壁のようにして"雪片弐型"を防ぐや否や、鈴は左手に()()()()()()"双天牙月"を召喚、大上段からまるで大根でも切るかのように無造作に振り下ろしてくる。即座に地を蹴りスラスターを全開、間合いの外へ避けようと試みる。

 

 ズドォンッ!!

「このォッ!!」

 

 叩きつけられた勢いで弾け舞う砂塵の向こう、キッとこちらを睨みつけてくる鈴。同時、その両肩に搭載された巨大且つ無骨な棘付き装甲(スパイクアーマー)が展開、内部機構が光りタービンが高速回転するような駆動音が鳴ったかと思った瞬間。

 

 ヒュオッ!!

 

 目を凝らし、暫し瞬きを忘れる。スラスターの方向を真下へ急転換、バック宙をするように斜め後方へ跳び上がるようにして上昇。三次元躍動旋回(Cross Grid Turn)。この数週間、セシリアに教練を受けたISの技術の1つだ。

 先ほどまで俺がいたところを()()()()()()が通り過ぎ、数瞬遅れてやってきた余波が大気を揺さぶる。視界の端で着弾した地面からもうもうと土煙が立ち昇っているのが見えた。予備知識として知ってはいたが、流石の威力だ、と改めて冷や汗が流れる。

 

「初撃から"龍咆"を躱すなんてやるじゃないッ!! でもッ!!」

 

 どうにか想定通りの回避が出来てホッとするのも束の間、立て続けに放たれるのが見えた瞬間、スラスターを再度全開、全力で後方へ蛇行しながら距離を取る。ヒュンヒュンと間近を弾丸が通る度、ビリビリと肌を撫ぜる振動がその強烈さを物語っていた。

 

「様子見のジャブを躱した程度で、そう簡単に逃げられると思わないことねッ!!」

 

 そう高らかに叫んで鈴は二振りの"双天牙月"を()()、双刃刀や両剣とも言うべき形態へと変化させ、まるでバトンのように軽々と振り回しながら距離を詰めて来た。刃を持った人間サイズの鉄塊が、ブンブンと空気を裂く音を鳴らしながらの高速回転。威力は、想像したくもない。

 

「そらそらそらそらッ!!」

「ぬッ、くッ、おぉッ」

 

 牽制(ジャブ)の次は当然、本命(ストレート)の連打。どうにかそれらを凌いで一旦距離を離そうとすれば、やはり物凄い勢いで牽制(ジャブ)が飛んでくる。"衝撃砲"が空気を圧縮している以上、その歪みや流れを感知できないかとハイパーセンサーに探らせてはいるが、まぁ土壇場の思いつきで間に合うはずもない。センサーが捉えた頃には既に目の前。セシリアのBITとは訳が違う。それでも、俺が勝つためには。

 

(慣れてやるさ、これにだって)

「せぇッ!!」

 

 大振りの一撃を躱した隙を使って大きく距離を取り、乾いてきた唇を舐めながら、肺の中の空気を入れ替えた。

 

 

 

 

「―――良いですか一夏さん。こう考えて下さい。『自分が躱す』のではなく、『相手に外させる』のだ、と」

 

 それは、クラス代表戦の日程が決まって初めてアリーナを借りての本格的な練習が出来た日のこと。スーツに着替えてアリーナに集まると、セシリアは真っ先にこのように切り出した。

 

「貴方の"白式"が近接特化型である以上、いかに相手の攻撃を貰わずに自分の攻撃を叩き込めるかが肝心となります。ましてや単一仕様能力(One-off Ability)()()"零落白夜"。一撃でもクリーンヒットさせられれば、それ既に終止符、と言ってもいいでしょう」

「おぅ」

 

 昔から何度も見てはいたが、改めて自分が同系統の機体に乗って、どれだけ自分の姉上が()()()()()()()()をしていたのかがよく解った。相手を()()()()()()()()()()()()()()()()()、という正に示現流な神風特攻。そりゃあ代表決定戦で俺も似たようなことはしたけれど、「あれは何の前情報もない初心者がいきなりやったからこそ通用したんだ」とはカデンソンさんから言われていたし、俺自身もそう思う。というか、あんな心臓が縮れそうな真似、進んでそう何度もしたくない。ゼロ戦乗りじゃあるまいし。

 

「僅か1週間の鍛錬で私のBITをあそこまで躱して見せた貴方です。“外させ方”を覚えれば、きっと今よりも遥かに動きやすくなるはずですわ」

「“外させ方”、か」

 

 いまいちピンと来ない。具体的にどうすればいいのだろうか。

 

「そう、ですわね。例えば……」

 

 と、セシリアがふいに黙り込んで観客席の方を見た。誰か気になる人物でもいたのだろうか、と視線を向けるが、誰もいない。

 

「セシリア、どうし―――」

 

 そう尋ねながら視線を戻そうとして。

 

 

 

「―――こういうこと、ですわね」

 

 目の前、鼻の頭を掠めんばかりの至近距離に"蒼い雫(Blue Tears)"のライフル、"Star Light Mk.Ⅲ"の銃口があった。

 

 

 

「お、おぉ……」

 

 思わず腰が引けてしまい、数歩後ずさる。セシリアはニッコリと微笑みながらゆっくりと銃口を下ろして、続けた。

 

「今のように、視線だけでもかなり相手の行動を誘導できますの。狙う側が、つい()()()()()()()()()()行動って、結構あるんですのよ?」

「なる、ほど」

 

 何となく解った。体育の授業でも、ドッジボールの際に『○○を狙え』等と言いながらも実際は全く違う人を狙ったり、サッカーのシュートだって視線やキックのタイミング、足を入れる角度や当てる位置でフェイントを入れたりする。要するにあれと同じようなことを、ISでやろうと、そう言うのだ。

 

「良いのか? それ、どちらかっていうとセシリアにとっては教えたくない情報なんじゃ……?」

「えぇ、まぁ。ですが、そう簡単にものに出来ることではありませんし、それならそれで、私が更に腕を磨けばいいことですので」

 

 しれっと言って見せたのが、余計に貫録を感じさせた。彼女はきっと、今までもずっと()()()()()んだと推察するに十分な凄味が、その言葉には籠められていた。

 

「ですので、安心して追いかけてきて下さいな? 後輩は遠慮せず、先輩に甘えれば良いのです」

 

 フフッ、と得意げに微笑む姿に、よく俺は代表決定戦の時、あそこまで食らいつけたもんだな、と思う。あの時は確かに、手を伸ばせば届くように見えた喉元が、今や遥か彼方に思えてならない。あぁ、これが俺と彼女の()()()()()で、それを一時的に埋めてくれたのが()()()()なのか、と改めて痛感する。

 

「―――おぅ。胸を借りるつもりで、よろしく頼むッ!!」

「いい返事ですわ。手加減は、一切しませんわよ?」

 

 こうして、セシリア軍曹の新兵訓練(BootCamp)が始まった。その日から暫くの間、俺が『シューティングゲームの的ってこんな気分なのかな?』なんて疑問が脳裏にこびりついて離れない日々を送ったことは、言うまでもない。

 

 

 

 

(へぇ、上手く凌ぐじゃない。始めて直ぐに数発は食らうものだと思ってたけど)

 

 アリーナの広さを目一杯使っての目まぐるしい攻防に、観客の熱は更に盛り上がっていた。"龍咆"による弾幕で相手の足を止め、"双天牙月"による一撃で仕留める。それがアタシの基本スタイルだ。尤も、"龍咆"の弾丸をまともに見切れずに被弾、あっという間にSEを削られて終わる、なんてことも珍しくない。実際、同郷の候補生にさえそんな程度のが何人もいた。それだけに、ISに乗って間もない一夏がこれだけ上手く避け、受け止め、やり過ごせていることが、素直に驚きだった。

 

 なかなか"双天牙月"の間合いに出来ない。距離を詰められたと思えば、一夏は更にアタシの懐に飛び込んできて鍔迫り合いに持ち込んでくる。まともに振らせないためだ。"双天牙月"は単体でもそれなりに重量があるが、十全にそれを活かすためにはどうしたって遠心力が要るし、機動力特化なだけあってスラスターの馬力で言えば"白式"に軍配が上がる。それは瞬間的なものであり、まともに押し合えば"甲龍"でも受け止めることは十分に可能だろう。だが、ほんの一瞬でも無防備を見せようものなら、即座に"零落白夜(一撃必殺)"が襲い掛かってくるのだ。油断は出来ない。

 

 一夏の狙いが()()()()()()なのは直ぐに解った。イギリスの候補生の機体もそうであるように、"龍咆"そのものには死角がないとはいえ、アタシが一夏の位置を正確に把握できなければ当てることは出来ない。足止めで当てずっぽうに撃つことも出来るのだが、いざアタシが勘で補って当てようとした瞬間に限って。

 

 パァンッ!!

「ッ!! またッ!!」

 

 これだ。"吹雪"と言ったか、あの真っ白な拳銃が火を噴くのだ。それも、綺麗に"龍咆"を目掛けて撃って来るので、躱すか防ぐかを強いられるし、撃ててもどうしたって狙いが()()()。付かず離れず一定の距離を保っているのは、一夏がまともに当てられる射程でもあるからなのだろう。火力としては微々たるものだが、牽制や攪乱としての役目は十分だ。若干の腹立たしさすら覚える。

 

 それでも時折、格好のタイミングが生まれる瞬間がある。集中力の()()()なのか、それとも息継ぎのタイミングなのか。ほんの一瞬、1秒にも満たないその隙間を見定めて"双天牙月"を叩き込もうと距離を詰めるのだが。

 

「覇ァッ!!」

「ラァッ!!」

 

 それも少なからず想定内なのだろう。刃の側面に攻撃を合わされ、強引に()()()されるのだ。時に"雪片弐型"の斬撃で。時に"吹雪"の近距離射撃で。そして、無理やり作らされた隙で、また距離を離される。先ほどからずっと、この一連の離れが繰り返されている。

 

 よくもまぁ緊張の糸が持つものだと感心する。こちらはまだまだ余裕があるが、一夏はさぞ必死なことだろう。休憩どころか水分補給すらもなしのゴールの見えない長距離走、それも全力疾走し続けているようなものだ。いつプッツリと切れてもおかしくないだろうに。

 だが、それも。

 

「ここまでよ、一夏」

 

 "龍咆"を、"白式"の周囲を撃ち抜くように射出、明確な『道』を作る。これ見よがしに連結した"双天牙月"を旋回、突きの構えで後ろ手に溜める。スラスター出力増加。狙いを定め、そして。

 

「終わらせてあげるッ!!」

 

 自身を、一振りの槍と化した。

 

 

 

 

(―――来たッ!!)

 

 ()()を待っていた。この膠着状態に焦れた鈴が決着をつけようと一気に()()()()()()瞬間。目の乾きも、喉の渇きも忘れ、ただ只管にこの瞬間のためだけに全てを費やした。

 

 データを見た限り、鈴の射撃の腕前がそこまでではないのは解っていた。だからこそ、セシリアに基礎を叩き込まれた視線や挙動のフェイントによる“外させ方”と、箒との実践訓練でとことんまで鍛えた近接武器の“外し方”。それを“かんちゃん”さんの薙刀のVRデータでひたすら試して、試して、試しまくった。長物相手に剣で()()()タイミング。弾丸で軌道を逸らさせたり勢いを殺させるタイミング。相手が必ずしもこちらの呼吸に合わせてくれるとは限らない。なら最初から呼吸を止めてしまえばいい。剣道時代はよくやっていた手だ。尤も、剣道の試合なんて数分にも満たないので、長時間維持するには生半可な集中力では持たず、しょっちゅうカデンソンさんの備蓄(おやつ)で糖分補給させてもらったが。

 

 実際には5分も経っていないだろうが、既に数時間は経過したような倦怠感が蛇のように四肢をじわりじわりと締め付けている。叶うなら今すぐにでもスーツを脱ぎ捨てて熱いシャワーを浴び、日光で干したふかふかの布団にダイブして爆睡したい。そんな甘い誘惑の声を断ち切り、既に疲労困憊の心と身体に「あともう少しだけ」「あともう少しだけ」と激励の鞭を打つ。

 

(SE残量は十分。一撃で決めるにはクリーンヒット以外にない。大丈夫。大丈夫。何度も試した)

 

 読み通りだった。鈴なら真っ向正面から決めに来てくれると信じていた。後は、俺が。

 

(鈴の一撃より先に懐に飛び込んで、思い切り振り抜くだけだッ!!)

 

 翼を広げ、点火。イメージするのは弾丸。速く鋭く刺し穿つ、研ぎ澄まされた錐のような鏃。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおらぁああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 裂帛の気合と共に接敵。音すら置き去りにするような錯覚。烏羽と薄ら紅の鎧を定めて落とした撃鉄は――――

 

 

 

 

「――――やっぱり、そう来るわよね、一夏」

「な、にィ!?」

 

 

 

 いつの間にか自身の腹部へ深々と打ち込まれた()によって遮られ。

 

「吹き飛びなさいッ!! "崩拳"ッ!!」

 

 "甲龍(シェンロン)"の腕部に搭載された小型衝撃砲の零距離射撃によって、ズドォンと重苦しい音と共に敢え無くアリーナの壁へと叩きつけられたのだった。

 




 どうも。作者のGeorge Gregoryです。

 なんでこんな早く書けたの(真顔) いや、その分出来が不安でもあるんだけど……戦闘描写は久しぶりなので評価が怖いッスねぇ。忌憚なき感想求む。

 『Ao』というバンドをご存じでしょうか。北海道を拠点に活動する私の推しバンドなんですが、いい曲書くんです。ご存じない人は『スペースオペラ』『テレプシコーラ』『青と群青の間』『ライムライト』で検索してみるとちょっぴり幸せになれるかもです。尚、ボーカルの安田貴広さんは同郷ということもあってなのか藍井エイルさんのアルバムに楽曲作家として参加もしてたり。ホントいい曲書くんです(2回目)。知名度全然追い付いてない(個人的な意見です)ので皆さん是非聴いてくだしあ。

 それでは、また近い内にお会いできることを願って。

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