ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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【offstage】
óff・stáge
形容詞・副詞
1、【演劇】 舞台の陰の[で].
2、私生活の[では]; 内密の[に], 非公式の[に].

※【2019.4.10】サブタイトルを修正しました。



Break The Days Ⅶ

 無人機襲撃当日の夕刻。篠ノ之箒の無事を確認した直後、糸が切れたように意識を失った織斑一夏が運ばれ、今も眠っている保健室にて。

 

「うぁ痛ァッ!!」

 

 ガツンッ!!と脳天から実にいい音がした。ちかちかと星が瞬いている目の前には、口元を引き締めギロリと睨みを効かせた栗色のツインテール。一夏と彼女の見舞いに訪れた私に、凰鈴音は徐にベッドから身を起こし、剣呑な表情で握り拳を振り下ろしたのだ。

 

「アタシに殴られた理由、解るわよね、篠ノ之さん」

「っ、っ、はいぃ……」

 

 釣鐘のように頭蓋骨の中で痛みがぐわんぐわんと反響する。ただの拳骨ではなさそうだ。流石に千冬さんほどではないが、それでも十分な威力だと思う。

 

「さんざっぱら言われただろうけど、アタシからもこれだけは言わせなさい。ISは、誰がなんと言おうが“兵器として使える”の。試合でだって相当危険なのに、ガチの鉄火場に丸腰で乱入とか、自殺願望でもないとありえないの。解ってるわよね? “黒猫(アイツ)”が来てなきゃ、アンタ今頃とっくに死んでるって」

 

 それは、再三に渡って千冬さんからも言い渡されていたし、あの迫り来る紅炎の壁には他の何にも勝る“説得力”があった。思い出すだけで身体が固まり、骨の髄からすくみ上がってしまう。

 

「その辺にしてあげて下さいな、凰さん。篠ノ之さん、織斑先生にもたっぷり搾られていますので」

 

 震えそうな私の肩に手をやりながらそう言ってくれたのは、私が付き添いを頼んでいたオルコットだった。どうしても1人で行く勇気が湧かず、情けないながらも「ついてきては、くれないだろうか」という問いに、彼女は「えぇ、喜んで」と微笑みながら二つ返事で引き受けてくれた。

 

「たっぷり、ってどのくらいよ?」

「そうですわね。述べ4時間ほどかと」

「4時か、って、あれから殆どずっとじゃなぁ痛たた……」

「大丈夫ですの?」

「平気よ、これくらい。はぁ、解ったわよ。まだ(はらわた)煮えくり返ってるけど、このくらいにしといたげる」

 

 流石に予想外だったのか、大声を上げようとして傷に響き、凰は痛みに悶えながら蹲った。ふぅ、と両肩を落とし、再度ベッドに横たわる。

 

「そこの英国淑女に感謝しなさい。ほら、解ったらもう行った行った。アタシは寝たいの。疲れてんだから」

 

 シッシッとばかりに手を払いながら、こちらに背を向けて布団に潜り込むのを見て、私は仕方なく重たい足取りで保健室を後にした。「失礼致しました。目が覚めたら一夏さんにも『お大事に』とお伝え下さい」「あ~はいはいわかりました~」なんてやりとりが背後から聞こえ、深々と礼儀正しくお辞儀をしたオルコットが音もなく静かに扉を閉める。

 

「優しい人でしたわね、凰さんは」

「……あぁ」

 

 傍目にはとてもそうは見えないが、彼女はあれでよく周囲を、そして相手を観察しているし、勘もかなり鋭い。ちょっとした言動から“嘘”を嗅ぎ分けるのも上手いのだろう。

 そして、仮に自分が逆の立場だったなら、一夏を死が伴いかねないほどの危険に晒した人物を前にしたなら、どれほどに怒り狂うことだろうかと思うと、たったあれだけの叱咤で溜飲を下げずに()()()()()のだから、その度量を素直に凄いと思う。

 そうだ。私はただ彼女と一夏の邪魔をし、我が身を危険に晒しただけの阿呆でしかない。そこに何の意図があったかなんて関係ない。結果として、あの時の私はそうだったのだ。

 

「篠ノ之さん? 大丈夫ですの?」

「……済まない。暫く、1人にしてくれ」

 

 萎れたように足元へと支線を落とし、とぼとぼと自室へ歩き出す。夕焼けの茜色がリノリウムの床に伸ばす影法師が、私を真似て嗤っているように見えた。

 

「篠ノ之さん」

 

 不意に呼び止められ、そっと振り向く。先ほどと変わらない嫋やかな微笑みでオルコットが立っていて。

 

「謹慎が明けたら、またご一緒に()()しましょう?」

 

 その一言が、涙が出そうになるほど嬉しかったのは何でだろうか。淡く漏れ出てしまいそうな涙腺に必死に栓をして。

 

「……そ、その」

「?」

 

 コトン、と首を傾げる彼女に、私は言わなくてはならないことがある。喉まで出かかっては引っこもうとするそれをどうにかこうにか押し出して。

 

「付き合ってくれて、あり、がとう」

「……はいッ!!」

 

 花が咲いたようだと思った。あぁ、笑顔の比喩表現に“満開”という単語が用いられるのも納得してしまうくらいの。

 視線を戻し、再び自室への帰り道を歩き出す。さっきよりもほんのちょっぴりだけ、足取りが軽くなったような気がした。




どうも、作者のGeorge Gregoryです。

実はこんなことがありました、的な本編の幕間みたいなもの、と思っていただければ。
今回の“Break The Days”のⅠもこれに近い気がしますね。今後はこのように“Offstage”と統一して、ナンバリングして分割するまでもないような短いのや、本編の構成には合わなさそうでカットした部分なんかを放り込んでいこうかなと思います。……よし、これでアホみたいな番外編エピソード書いても問題ないな(ぁ

それでは、また近いうちにお会い出来ることを願って。

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