ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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 30を手前にして、わかったことが1つある。俺は金に余裕がなくて時間を持て余すと物凄く執筆スピードが速くなる。他にやることがないから(白目)



Push Bash Rush Ⅰ

《とある記者の取材資料より抜粋》

 

───とまぁ、俺が憶えてる“無人機事件”の時の話はこんなところですかね。

 

 結局、代表選は中止になって、鈴との決着は次回に持ち越しになりましたけど、あれ、粋がってはいるけど実質俺の“負け”ですからねぇ。思えばこの頃、負け続きだったんだよなぁ……そうですよ? 結構気にしてたんです。言ったじゃないですか。俺、基本的に負けず嫌いだって。

 

 ……保健室では何も無かったのかって? いえ、特には。俺、夕方に目が覚めるまでずっと爆睡してましたし。起きた時に鈴が俺の顔を間近で覗き込んでたのと目が合って、びっくりしちゃって動いた瞬間にビキッて感じの全身の痛みで悶絶してるのを、後ろから見てた千冬姉に呆れ顔で心配されたくらいで。

 

 え? 『その時の凰さんは顔を赤らめたりしてなかったか?』って? ……言われてみればそんな気もするなぁ。千冬姉、あの時『もう少しで面白いものが見られそうだったんだかな』とか言ってましたけど、何か関係あったんですかね?……『朴念仁』? いきなりなんですか失礼な―――

 

(以下、暫く聞くに耐えない無自覚惚気話の為、省略)

 

……で、どこまで話しましたっけ? あぁ、そうだ。“無人機事件”が終わったとこまでか。

 

 確か、あの後直ぐくらいだったと思うんですよね、あの()()()()()()()()()。やっぱりこれがいちばん、今の俺たちを語るにあたって欠かせないエピソードになると思います。何せ、この時ですからね。

 

 

 

 ()()()()()()の全員が、あの学園に揃ったのは────

 

 

 

 

 

 

 

――――で、どうよ、学園生活は。少しは慣れてきたかよ?

 

 6月の第1日曜日。俺は久し振りに学園を離れ、友人の家にお邪魔していた。

 六畳程度の和室の床から仄かに昇る藺草の優しい香りと、徐々に聞こえ始めたヒグラシの鳴き声が心地好い初夏の昼下がり。生温くなってきた麦茶で乾いた喉を潤しながら、テレビ画面から目を逸らさずに、隣に座る中学からの親友、五反田弾は、そう尋ねてきた。

 

「慣れるもんか。全然気が休まらないんだぞ。四六時中、一挙一動、全部見られてるんだから」

「あぁ~……傍からだと“女の園に男1人”って羨ましく聞こえるけど、やっぱ実際はそんなもんか」

 

 画面の中では俺と弾がそれぞれ操作するオリジナルカスタムのISがしのぎを削りあっている。“IS/VS”というこのゲームは第2回モンド・グロッソ当時のデータを基盤に、実在するISをパッケージまで含めて自由に改造して1on1で戦わせることが出来る対戦ゲームである。そのCGの再現度の高さから累計数百万本を売り上げ、しかし発売当初「我が国の機体はこの程度ではない」「あの国の機体がこんな調整なのはおかしい」なんてクレームじみた論争が世界中で湧き上がった結果、ゲーム中に登場する21ヶ国の機体が()()()()()()()調()()()()()()()()()()が発売されたという逸話があったりする。

 

「そもそもトイレ1つとっても大変なんだぞ? 俺だけわざわざ教室から遠い教員用に行かなきゃならないし」

「それは、うん、由々しき事態、ってオイマジかよやっぱり全然当たんねぇッ!!」

 

 弾の操る重武装型機の弾幕を、俺の“近接武装のみ(ブレードオンリー)”の機体が悉くすり抜けていく。セシリアのBIT包囲網やVRルームの“ズーコン祭り”に日々揉まれている今の俺にとって、一方向からしか飛んでこない上にゲームのシステムとして軌道が決まっている射撃になんて当たる気がさらさらしない。

 

「はい、トドメ、っと」

「あぁ~……手塩にかけて再現した“DÖVEN WOLF(ドーベンウルフ)”が、また負けた……」

「名前負けも甚だしいぞ、これ。本家本元に謝れ。今すぐ謝れ」

「うるせぇッ!! 手前(テメェ)の金で買ったゲームで好きな機体作って何が悪ぃんだよッ!! 大体なんだよあの“ヌルヌル回避”はッ!! 水ん中に無駄打ちしてるみたいで段々虚しくなってくんだよッ!!」

 

 最後の一撃が決まり、画面に“2P() WIN”の文字が表示される。これで何度目になるだろうか。「もう1回やらせろ」と余りに懇願してくるので付き合ってはいるものの、流石にそろそろ飽きてきた。最初の1戦で、俺が今までに仕込まれまくった立体軌道を再現してみせたらコイツの攻撃が面白いくらいに回避出来て、そこからノーダメ縛りなんて思いついてホントに何戦か達成してしまったのがいけなかったのかもしれない。

 

「ブレオンなんてピーキー機体なのがまた余計に腹立つなぁ……ッ!!」

「仕方ないだろ。俺の相棒がそうなんだから」

 

 言って、左手に宿る“白式”を見やる。より精密な動きをするにはどうしたらいいか、という質問にカデンソンさんに『頭の中で日常の動作を白式(コイツ)でこなしているのを普段からイメージしてみるといい』と教えてもらって以来、常日頃から何をするにも『“白式”だったらリーチはこれくらいあるよな』だとか『力加減はこれくらいだろうか』だとかを意識するようにしている。子どもが走っている車の中なんかで、流れている景色を眺めながら「あのビルとビルの間をジャンプしたらこんな感じだな」なんて想像したりして遊ぶのと似たようなものだ。子ども騙しのようで、これが案外侮れない。

 

「“暮らしの中に修行あり”ってな」

「お前、それが言いたいだけだろ……」

 

 幼少期に放送していた特撮番組に出てきた、主人公たちを鍛える師匠(マスター)の真似をする。同世代だから知っていたのだろう、弾はげんなりと肩を落として「あぁ、もうやめやめ。降参ですよ~……」とコントローラーを床に放った。

 

「で、アイツはまだなのか?」

「さっき、『そろそろ着く』ってメッセが来たぞ?」

「ってことは、5分もありゃ来るか。麦茶入れ直して貰ってくっかなぁ」

 

 そう言って弾が立ち上がろうとした時だった。

 

「お兄ッ!! さっきからお昼できたからさっさと来なって言ってるじゃ────」

 

 スパァンッ!!と小気味好い音を立てながら勢いよく部屋の障子を開け放って現れたのは、弾と同じ真っ赤な髪を後ろでクリップで留め、タンクトップにショートパンツというなんとも機能性重視のラフな格好をした彼の妹、五反田蘭だった。歳は1つ下の中学3年生。私立の有名女子校に通う優等生である。

 

「───い、一夏さんッ!? えっ、なんでッ!? IS学園って全寮制じゃッ!?」

 

 バッ!!と急に障子の陰へと身を隠し、こちらを覗き込むように顔半分だけを出してそう尋ねてきた。まぁ、薄着なのが恥ずかしいんだろうな。年頃だし。ドイツにいた頃によ~く学んだし、学園の寮でもそうだったが、女の子ってのは自宅みたいな“自分の領域(テリトリー)”だとどうにも無防備になりがちだ。最近なんて暑さも手伝ってるから、ちょっと休日に廊下を歩くだけで胸元が見えること見えること。しかも男が俺以外いないから油断してるのか、殆どノーブラなのである。不意に目が合った時の気まずさったらない。

 

「お兄ッ!? なんで教えてくれなかったのッ!? 」

「なんでも何もコイツ、アポ無しでついさっきいきなり来たんだぞ?」

「家がどうなってるか気になってたからさ、外出許可貰って、軽く掃除とかしてきたんだ。で、帰りにメシでも食ってこうかなって。厳さんと蓮さんには挨拶したんだけど、聞いてなかった?」

 

 “厳さん”と“蓮さん”というのは、それぞれ弾の実家が営む『五反田食堂』の“店長”と“看板娘”であり、弾にとっての祖父と母にあたる。

 五反田厳。いつも長袖の調理服の袖をまくり上げており、肌は熱気に焼けて年中浅黒い。齢80を過ぎて尚、筋骨隆々。中華鍋を1度に2つ振ることの出来る剛腕から繰り出される拳骨の威力は、千冬姉に勝るとも劣らない。どちらも食らったことのある俺が言うんだから間違いない。

 五反田蓮。年齢不詳の、所謂“美魔女”。常連曰く『28の頃から見た目が全く変わっていない』という。愛嬌は人を若く見せる、を地で行くいつもにこにこ笑顔な美人である。

 何の連絡も無しにいきなり訪ねたのに「あら、久し振りね。元気にしてた?」「昼でも食ってけ」と2人とも快く迎え入れてくれた。通い詰めていたあの頃と変わらないその言葉が、とても嬉しかった。

 

「聞い、て、ないですよぉ……」

 

 へなへなと力が抜けたようにその場に座り込む蘭。顔を覆うように手も当てている。相当に油断していたらしい。まぁ、他人に見られたい格好ではないよなぁ。

 

「もぉッ!! お兄のせいだからねッ!!」

「何でだよッ!! 俺は何も悪くねぇだろッ!!」

「フフ、アハハッ」

「一夏テメェッ!! 笑ってんじゃねぇッ!!」

「……えっと、何これ。いつものヤツ?」

「よっ、数馬。そう、いつものヤツ」

「そか。なら先に降りて食べてようぜ。午後から出かけるんだろ?」

「おう」

 

 いつも通りの売り言葉に買い言葉。喧嘩するほど何とやら、とばかりの五反田兄妹の激しいやりとりをBGMに、もう1人の親友、御手洗数馬がいつの間にやら到着していたようだ。短く答えるとそれで納得したようで、さっさと階段を降りていき、その後を着いていく(弾の部屋は2階にある)。

 

「テメェらコラァッ!! 置いてくんじゃねぇッ!!」

「お兄ッ!! 話は終わってないんだからねッ!!」

「だからそれは一夏に言えってッ!!」

 

 背後からそんな応酬が聞こえた気がするが、まぁ、()()()()()()()()()()()と、放っておくことにした。数分後、五反田食堂名物『業火野菜炒め定食』のシャキシャキな食感に舌鼓を打っていた俺たちの元に、小綺麗な格好に着替えて落ち着いた雰囲気の蘭と、頬に()()()()()()()を拵えてブスッとふてくされたような表情の弾がやってきたのを見て、俺たちが笑いを堪えるのに必死だったのは言うまでもなく。

 

「───で、誰なんだこの人?」

ろうも(どうも)はひめまひて(はじめまして)、フフッ、いひはふんほへんほふへいひひほ(一夏くんの専属整備士の)はひふはーはへんほんほほういは(アリスター・カデンソンと申しま)ブフッ」

「せめてその口の中のもの飲み込んでから笑うか名乗るかしてくれませんかねぇ……?」

 

 俺たちの数倍どころじゃない、とんでもない量の料理を目の前にズラッと並べ、それはそれはいい食べっぷりで頬をリスのごとくパンパンに膨らませていたこの人も、例外ではなかった。

 




サブタイトルの元ネタ
『ラチェット&クランク3(PS2)』のスキルポイント
“プッシュプッシュプッシュ(Spread Your Germs)”
 惑星マイロンの指令センターで、ガスプッシャーというガラメカを使って30体の敵をガス感染させると獲得できる。所謂最終ステージなので、敵の数も強さも桁違い。防御ガラメカが大活躍するステージですね。

補足説明

・“暮らしの中に修行あり”
 スーパー戦隊シリーズ第31作目『獣拳戦隊ゲキレンジャー』に登場する、主人公たちの師匠、マスター・シャーフーのモットーにしてキャッチフレーズ。台詞に偽りなく、本編内でも主人公たちに雑巾がけや育児といった日常生活の中に修行を見出させるシーンが多々見られる。ちなみに声の担当は今は亡き永井一郎氏。

・“ドーベンウルフ(DÖVEN WOLF)”
『機動戦士ガンダムシリーズ』の『ZZ』から登場する、作者一押しの機体。解りやすく説明すると、量産期でありながらニュータイプ等の超人的な連中にしか使えなかった兵器を一般人用に改良したものを始めとして、多彩な内蔵武器による高火力を誇る機体。ちなみに作者初の一目惚れは陸戦型ジム。あのオレンジとカーキの配色にグリーンのバイザーが、もうドストライクでした。ロングレンジライフルのゴツさも最高。


 どうも。作者のGeorge Gregoryです。

 ここ数日、コストコの冷凍餃子で生きてます。安くて旨くて量が多い。一人暮らしの強い味方。

 旨い野菜炒めを出す店ってホント貴重なんですよね。油と火力をケチらず一気に炒めないとシャキシャキにはならんのだよなぁ。家庭のコンロではちょっと及ばない領域。バター醤油もいいし、シンプルな塩胡椒もいい。ちなみに俺は揚げ物も添えてある千切りキャベツも醤油で食べる人です。結構美味しいんですよ、トンカツとか。理解者はあんまりいないけど。

 それでは、また近い内にお会いできることを願って。

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