ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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 今更ですが、道産子のどうでしょう藩士です。DVDは全巻あります。リアルタイムのシェフ大泉の夏野菜スペシャルから入りました。気分が落ちた時の安定剤ですね。アイツら見てると悩みとか馬鹿々々しくなりますから。



Push Bash Rush Ⅱ

 そんな、五反田食堂にて“私設・楽器を弾けるようになりたい同好会”とカデンソン(ラチェット)が邂逅を果たしていた頃。

 

「はぁ~ぁ……」

 

 それは、実に盛大な嘆息だった。未だ華の10代真っ盛りであるハズの彼女が、うっかり場末の居酒屋で飲んだくれている三十路手前の独身OLのように見えてしまうまで、一気に老け込ませるほどの。

 IS学園、学生食堂そのど真ん中。空になった冷やし中華のトレイを前に、ぐで~っとテーブルに両腕を投げ出し顔を突っ伏して、頬にその跡が残ってしまうのではないか、というくらいの見事な垂れ具合。中国の代表候補生、凰鈴音その人である。

 

「なぁんであそこであと一息行けなかったかなぁ~……」

 

 脳裏を過っているのは"無人機事件"の直後、織斑一夏共々保健室へ運び込まれていた時のこと。一足先に目が覚めた彼女は、隣のベッドで規則正しく胸を上下させながら安らかに熟睡している一夏少年の顔を見て安心し、そのまま覗き込んでいる内に、ありきたりであるが、“これ今ならキスしてもバレないんじゃね?”という邪念が沸き上がってきたのである。

 

(やっばい久し振りに見たけどやっぱカッコいい最高エモいあぁちょっと乾いてひび割れ気味の唇とか逆にいいむしろありよりのありうわぁ近すぎてほんのり産毛まで見えてるホントに男かってくらい整ってるわよねコイツいけいっちゃえいきなさい動け動け動け動け目標をセンターに入れてスイッチ目標をセンターに入れてスイッチ真っ直ぐ言ってぶっ飛ばす右ストレートでぶっ飛ばす)

 

 鼻先僅か数センチ。瞳孔は全開、呼吸は荒く乱れ、触れる寸前で宙をさまよう両手はアルコール中毒かとばかりにプルプルと小刻みに震え、傍目は完全に不審者のそれである。通報されても文句は言えない。

 そのまま戦線は均衡状態へ突入。一進一退のせめぎあい。最前線の様相たるや凄惨極まりない。やがて、とうとう(はら)を決め、“いざ行かん”と口火を切ったその時。

 

「―――鈴、どうした?」

「んにゃぁああああああああッ!?」

「うぉッ!? いきなりなん(ピキッ)あ痛゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいッ!!」

「……お前ら、大丈夫か?」

 

 何ともベタなオチである。自分は目が覚めた一夏とバッチリ目が合い、奇声を発して悶絶。一夏はそれに驚き咄嗟に動こうとした瞬間に全身が痛みで悲鳴を上げて悶絶。いつの間にか密かに背後から観察していた千冬さんに呆れられながら心配されるという締まらない結末に終わったのである。

 

「アタシの意気地なしぃ~……」

 

 以来、事ある毎にあの時の悔悟が反芻されて()()()である。雑念を振り切らんと今日の午前中もトレーニングルームを借りて鍛錬に費やしたが、打ち込んでいる間はいいものの、いざ終わって腹を満たした途端に()()だ。暫く治りそうもない。と、そんなマイナスな感情を己の中で引きずり回していると。

 

「鈴さん? 大丈夫、ですの?」

「んぁ?」

 

 のそっと首をもたげた先にいたのは、どうやらこれから優雅にランチタイムらしいセシリア・オルコットだった。トレイの上には葉野菜や豆の盛られた緑色の主張激しいサラダに“THE βカロチン”なオレンジ色の野菜ジュース、それにほのかに出汁の香る鶏肉ときのこのスープ。多分、鶏肉はささみだろう。皮や脂身が見受けられない。

 

「アンタ、そんなんでお腹膨れるの?」

「体型維持も、(わたくし)の仕事の内ですので。それに、カロリーと栄養バランスにはしっかり気を付けてますわ」

 

 許可する前に向かいの席に座り、いただきます、と両手を合わせてお行儀よく食べ始める英国淑女。「いただきます」「ごちそうさま」の挨拶は日本独自の文化なのを鑑みて、()()も一夏の影響なんだろうな、なんて刺々しく考えてしまう。アイツいつも欠かさずやってるし。

 

「鈴さんこそ、いつも麺類ばかりお召しになってますけど、炭水化物や塩分が多すぎでは? ラーメンの時なんてスープまで飲み干してますわよね?」

「いいのよアタシは。その分動いてるから。むしろ成長期なんだからガンガン栄養摂らないと」

 

 無論、この栄養とは身長や“その他諸々”を大きくするためのものである、しかしながら、成年しても結局、彼女の外見に大きな変化は訪れなかったというのを、今の彼女が知る由もない。

 

「しかし、我々候補生にはグラビアのお仕事だってあるでしょう。いざという時にお腹がポッコリ、なんて事態になったら目も当てられませんわよ?」

「うっ、うるさいわね……」

 

 フォークを指し棒のように立て、じとっと半目で責めるように見てくるセシリアに、最近少し食べ過ぎだったかも、とちょっぴり後ろめたさが沸いてきて誤魔化すように顔を背けた。

 

「それはそうと、鈴さん、聞きました?」

「ん? 何が?」

「候補生、また増えるそうですわね」

「……あぁ、その件か」

 

 それなら、アタシも本国から報告を受けている。ヨーロッパの方で色々と動きが活発になっており、既にフランスとドイツの2ヶ国から候補生が来日したらしい、と。

 

「アタシとしちゃ大歓迎よ。いつかは倒す相手だもの」

 

 ニィ、と歯を剥き出しにした好戦的な笑みを浮かべる。強ければ強いほど良い。彼女たちと戦い、そして勝った時、アタシはもっと強くなれているだろうから。

 

「はぁ。貴女という人物が、この数日間でよく解った気がします」

 

 溜息混じりの苦笑。しかし、嫌な感じはしない。ここ数日ですっかり見慣れた表情だ。

 実は最近、アタシはこのオルコット、いや、今はセシリアと呼ぶようになった彼女と訓練を共にし、アリーナでも何度も連携訓練や練習試合をしていたりする。"無人機事件"の後、セシリアはあの時に何もできなかったのが相当悔しかったらしく、アリーナで合同トレーニングをしないかとアタシを誘ってきたのだ。単純に彼女とも戦ってみたかったアタシは一も二もなく引き受けた。

 

 BIT兵器の包囲網とライフルによる狙撃。アリーナのような閉鎖空間だったからまだしも、これは距離を取られば取られるほど厄介だと、そう思った。一夏と戦った時にも感じたことだが、いい加減自分の死角からの攻撃を勘頼りで避けたり捌くのも限界が近い気がしていて、次の段階にステップアップするには、丁度いい機会でもあると感じた。それからは、暇さえ合えばもう試合三昧である。自分の星の数以外は、もう数えるのを止めたくらいにはしたはずだ。

 

「毎度あぁもBITを叩き落されると、直すのにも苦労するんですのよ?」

「だからって手加減してちゃ訓練にならないでしょ? 特にアンタは近接戦闘になるとてんでダメな訳だし。そもそも一夏のヤツが皆の前で1つの攻略例として「セシリア(アンタ)は接近戦に持ち込めばイケる」って見せちゃったんだから、今後アンタの相手は皆真っ先にBITを処理してくるわよ? 当たり前じゃない。接近戦を鍛えるなり、そもそも近づかせないなり、早いとこ対抗策を考えなきゃ、アンタの黒星が増えてく一方よ?」

「むぅ」

 

 頬を膨らませ不満げなセシリアを見て、少しはさっきの仕返しができたらしいと溜飲が下がる。今はまだ近接戦闘に持ち込めているだけ、アタシの方が断然有利だ。だが、今後彼女が“狭い空間での戦い方”を会得したなら、その限りではない。そうなる前に勝ち星を稼いで、アタシの方が先に遠距離相手の攻め方や包囲網への対処法を見つけ出し、慣れてやろうと企んでいる。彼女もその辺の改善が特にお望みだろうし。

 

「何はともあれ、賑やかになりそうね」

「そう、ですわね」

「……それはそうとさ、アタシもアンタにちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「あら。(わたくし)に出来ることでしたら喜んで」

「むしろアンタ以上の適任がいるかなっていうか。アタシがさ、カデンソンさんに組んでもらってやってるメニュー、あるでしょ?」

「あぁ。“空手(KARATE)”だとか“忍者(NINJA)”だとか書いてあるっていう、あの?」

「そ。その中の“ダンス”がさ、ずっと同じ曲でばっかりやってるからいい加減ちょっと飽きて来ちゃって。気分転換にいい曲知らないかなって。ほら、セシリアほどのお嬢様なら、競技会とか出ててもおかしくないし?」

「競技会と舞踏会は別物でしてよ? (わたくし)から提供するとなると、どうしてもクラシックばかりになりますけれど、よろしいのですか?」

「いいのよ、特にジャンルにこだわりはないから何でも。アップテンポだと尚良し」

「心得ました。適当に見繕っておきますわね。ちなみに、今まではどのような曲で?」

「聞いてみる? 丁度プレーヤー持ってるわよ? はい、イヤホン片方着けて」

 

《夢に見たわロマンチック ロボットの時代よガラクチック》

《バカな人類は生ゴミ ピカピカな(そう)ロボが好き》

《セリフ「人類大っ嫌~い 絶滅させちゃえ~イェ~イ」》

《立ち上がろうよロボットたち 皆の願い生ゴミ処理》

《この銀河全てを焼いて ロボの国に変えちゃいたいッ!!》

 

「……何ですの、このプロパガンダじみた中毒性のありそうなポップスは」

「アタシも歌詞にはドン引きなんだけど、妙に耳に残るのよねコレ。アーティスト名の欄に“Courtney Gears(コートニー ギアーズ)”って書いてあるんだけど、知ってる?」

「いえ、全く。カデンソンさんが用意されたのですか?」

「そ。持ってる中から適当にチョイスしたって言ってたけど、調べてみても全然出てこないのよ。地下アイドルか何かなのかな」

「なんか、意外ですわね。こういう曲を聴くイメージはなかったのですが……しかし、歌詞はともかく、メロディは本当に耳に残りますわね」

「でしょ? なんか気付いたら口ずさんでたりするのよねぇ……」

 

 何ということのない日常会話。1つのプレーヤーの2つのイヤホンを分け合い、聞いている曲に関して思い思いに語る、皆が午睡に耽るような静かな初夏の昼下がりの一幕。この時、アタシたちは想像すらしていなかった。この穏やかな日々が“嵐の前の静けさ”であり、その新たな来訪者たちがやがてとんでもない騒ぎを巻き起こす“新たな風”になるなどとは。

 




補足説明

・“コートニー ギアーズ(Courtney Gears)”及び“コートニーの祈り(曲名)”(初出『3』)
「イェーイ! ロボットのみんなぁ!? コートニー・ギアーズよぉん!! 私のお願ぁい、聞いてくれるぅ?」
 コートニー・ギアーズとは『3』の登場人物の1人であり、女性型ロボットでありながらズガガ銀河のアイドルとして活動している芸能人でもある。声の担当は池田千草さん。
 彼女でメカ娘に目覚めたプレイヤーも結構いるのでは、ってくらい妙に艶めかしくエロいボディラインをしており、その魅力はラチェットもファンにさせるほど。名前の元ネタは言及されてはいないがほぼ間違いなく“ブリトニー スピアーズ”。本人と絡むのは『3』のみですが、その後のシリーズ作品にも作中のテレビ番組などでちょくちょく出演していたりする。
 “コートニーの祈り”は『3』を遊んだ人の脳裏には綺麗に焼き付いているであろう間違いなしの洗脳曲にして神BGM。PVを惑星間移動の為のナビデータで、BGM Ver.をオバーニムーンのボス戦でそれぞれ視聴することが出来る。まぁ~いいBGMなんです。ボス戦ではエンドレスリピートだしそもそも結構な難易度に設定されているので、人によってはトラウマになってるかも。ご存じない人はYOU TUBEなどで聴けるので検索してみるといいですよ~……
 余談ですが、この楽曲や『3』全般で言う『生ゴミ』の部分は原版の英語だと直訳の"Garbage"ではなく"Squishy"という単語が使用されており、これを直訳すると"Squid(イカ)"から転じて“イカのようにグニャグニャした”だとか“イカ臭い”という意味合いになります。しかしこれでは日本語に直した際に余りに長く台詞に合わないため、類語として翻訳班が選んだのが『生ゴミ』であると考えられる訳ですね。ホント、ラチェクラの翻訳班は素晴らしい仕事をします……
   *   *
 *   +   ポーイポイ
  E) ∧_∧ (ヨ ナマゴミ人類
+ u (0日0) u  ドモメ
  Y   Y  *

 どうも。作者のGeorge Gregoryです。

 ようやく、このSSを始めてからいちばん書きたかった部分に差し掛かってきました。面白く出来るといいなぁ、と毎日必死にネタを絞り出しながら執筆しております。登場人物が増えてくると創るのも大変ですが、同じくらい楽しいんですよね。書くスピードも大分戻ってきましたし、この調子で頑張りたいところです。

 今回は、特に次回の五反田食堂のシーンがちょっぴり長くなりそうなので、キリの良いこの辺で。短くとも期間を開けず、コンスタントに投稿するのが今年の目標ですね。目指せ、夏が終わるまでに原作2巻終了。

 そろそろ茶碗蒸しを温かいのから冷たいのにコンバートし始めてもいい頃かなぁ、と思い始めました。大好物なんです、えぇ。中身は銀杏派だけど栗も捨て難い。いいんですよ、冷たい茶碗蒸し。暑い時に食うとスゥっと口の中の熱を持って行ってくれる……おススメざんす。

 それでは、また近い内にお会いできることを願って。

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