ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
五反田弾は開いた口が塞がらなくなっていた。
“五反田食堂”は俗にいう『大衆食堂』である。お手頃価格で十分にお腹を満たしてもらうための、言い方はアレだが“質よりも量”というタイプの店に属する。無論、祖父である五反田厳の料理の腕は言うまでもなく、食事時には常連の客たちでごった返すくらいなのだから、“質”だって決して悪いものではないと胸を張って言える訳だが。メインの客層は近隣の学生や肉体労働に従事している男性客のため、量は割と多めに設定されており、平均よりも食べる人が白米を大盛にしたり、一品料理を増やしたりするようなのがいつもの光景だ。だが。
「いや~、食べた食べた」
目の前のこの謎の外国人男性、白米を特盛(某昔話みたいな所謂“マンガ盛り”)で
「一夏くんから聞いてはいたけど、いやはや、噂以上でした。御馳走さまです、店長さん」
「ん」
厨房で洗い物に勤しみながら短く返す祖父の後ろ姿は、心なしかちょっぴり嬉しそうに見えた。そりゃあここまで自分の料理を『美味い』『美味い』と次々に平らげて貰えたなら、料理人冥利に尽きるだろう。
「一夏、この人、いつも
「ここまでは、俺も初めて見たかな。普通よりは食べる人なのは知ってたけど」
俺たちほどではないにしろ、連れて来た一夏も『はぁ~……』と感嘆の息がぽかんと開いた口から漏れているし、数馬なんてさっきからずっと空いた皿の山とこの人の顔を交互に見比べている。『この身体のどこに入ってんだろう?』ってとこか。腹部は確かに膨らんではいるが、とてもこの量の料理が入っているようには見えなかった。
「さて、と。じゃあ、改めて。IS学園で一夏くんの担当
「あ、はい。こちらこそ、よろしくです」
「よ、よろしくお願いします」
コトリ、と湯飲みを宅に置いて微笑みながらの挨拶に、一瞬反応が遅れる。蘭なんて、折角一張羅に着替えてきたのに、完全に一夏へのアピールを忘れてすっかり恐縮しちまっていた。
「カデンソンさんは、学園の整備管理課の主任もやってるんだ」
「え。じゃあ結構なお偉いさん?」
「いやいや。オイラ、しがない技術者だからね。変に畏まらないで、普通に接してくれないかな。ね?」
「はぁ」
いいのかなって気もするけれど、まぁ本人がそう言うのなら、とそう思うことにする。
「元々は倉持技研に勤めてたんだけど、その頃からまぁ~日本食が気に入っちゃってね。特に
「倉持技け、え、あの倉持技研ッ!?」
何気なしにポッと出てきた超有名企業の名前に、その場にいた一夏以外の全員が驚愕に目を見開いた。
倉持技研。文句なしの一部上場企業であり、一流大卒でも入社審査は相当に厳しく、その子会社にでも入れれば将来は安泰とすら言われている国内有数の大企業である。春先に一部の幹部役員が何やら
「学園の歓迎会の時に行った居酒屋っていうレストランも良かったなぁ。オトーシ、って言うんだっけ? 最初に小皿の料理がたくさん出てきて綺麗だったなぁ」
「カデンソンさんの部屋、いっつも海苔煎餅と昆布茶が常駐してるんだぜ。しかも自分で急須で淹れてるくらいハマってるんだよ」
記憶を辿って想いを馳せているのか、虚空を見つめて表情を蕩けさせているのを見れば、どれだけなのかは一目瞭然であった。あれだけ食ったばかりだというのに。この人、満腹中枢がイカれてるんではなかろうか。
「まぁ、いいや。えっと。俺は五反田弾です。一夏とは中学からの付き合いで、放課後なんか、よく一緒につるんではバカ騒ぎしてました」
「右に同じく、御手洗数馬です。初めまして」
「五反田蘭、です。聖マリアンヌ女学院3年です」
「初めまして。こちらこそよろしく」
何はともあれ自己紹介。数馬は急に姿勢を正して緊張気味に、蘭は未だ若干恐縮気味に。こうして穏やかに話してるだけなら“年相応”って感じなんだが、さっきまでの
「君たちとも、話をしてみたかったんだ。一夏くんから話はよく聞いていたからね」
「俺たちと、話?」
「そうさ。オイラは担当メカニック。彼がどんな人だったか、知っておいて損はないだろう?」
ニッ、と歯を見せて爽やかに、しかしどこか面白がっていそうな、意地悪そうな笑顔を見せるカデンソンさん。その隣で、「おや、それは聞いてないぞ?」とほのかに驚いている一夏。それで、俺はなんとなく
「という訳で、腹ごしらえも済んだし、そこらをぶらつきながらでも、教えてくれないかい? 君たちが一夏くんとどんな日々を送ってきたのか。勿論、代金はオイラ持ちで。どうかな?」
「合点承知ィッ!! 数馬、まずはゲーセンだなッ!!」
「おぅッ!! 厳さん、ごちそうさまでしたッ!!」
「ちょ、え、カデンソンさん?」
「という訳で一夏くん。当初の
「最初からメシじゃなくて
「いやいや。美味しいごはん
ふいに伝票を取って立ち上がり、会計を済ませながらこちらを見るカデンソンさんにつられて、数馬へと“いつもの放課後コース”を提案する。数馬はとっくに手荷物をまとめ終え、なんならお袋が片付けやすいように空いた食器をきっちりサイズや種類ごとに重ねてまとめていた。流石理系、抜け目ない。
俺も数馬も一夏から『午後から暇なら付き合ってくれ』とは言われていたが、成程、この人に近隣の案内を、くらいにしか聞いていなかったんだろう。で、本来の目的は
「なら、学園のことも教えて下さいよ。 やっぱ、アレっすか? 女の子って綺麗所しかいないんすか?」
「というか、どうやって学園に? IS学園って、そもそも男が働けるような場所だったんですか?」
「ちょ、お前ら余計なこと言うんじゃねぇぞ!?」
「ま、待って下さい、私も行きますッ!!」
「御馳走様でした、お姉さん。また来ます」
「あらあら、お兄さん外国の方なのに口が上手いのね。弾、蘭、気を付けてね~」
「晩メシまでには帰って来い」
ぞろぞろと連れ立って外に出る。天気は快晴。予報でも無問題。あぁ、楽しい1日になりそうだ。
どうも。作者のGeorge Gregoryです。
暫く短く小出しにしていくスタイルになりそうです。テンポよく、隔日更新を狙っていきたいところ。
それでは、また近い内にお会いできることを願って。
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