ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
舞台は再びIS学園。
───~~~~♪
「あら? 鈴さん、携帯が鳴ってますわよ?」
「ん? 誰だろ?」
ダンスの音源を探してもらう約束を取り付けたアタシは、そのままセシリアと一緒にトレーニングルームで汗を流していた。
学園のトレーニングルームは運動用のマシンは当然のこと、ウェイトトレーニングの負荷も自在に調整出来るよう、そこらのジムなんて目じゃないような充実さを誇っており、在校生にはこれが卒業するまで無償で解放されているというのだから、使わない手はない。
アタシは“例の新技”をより
で、今は始めてからそろそろ2時間くらいが経ったかという頃合い。水分補給に自分の荷物からスポーツドリンクを取り出していたセシリアに呼ばれ、自分の携帯を確かめてみると。
「弾? 珍しいわね」
「その名前は、もしかしてボーイフレンド、ですの?」
「“男の友だち”って意味なら、ね。解ってて言ってるでしょ、アンタ」
「ふふっ、すみません。つい」
ここ数日で解ったことだが彼女、セシリア・オルコット、案外茶目っ気が強い。普段からという訳では無いが、ある程度親しくなった相手には
「うわっ、懐かしっ!! ここよく行ったっけな」
「? ここは、どこですの?」
「アタシが日本で通ってた中学の近所にあるゲームセンター。アンタみたいなお嬢様にゃ無縁の場所でしょうねぇ」
『一夏から聞いたぞ。日本に帰ってきたんならいっぺん顔出しに来いよ』
そんな文章と一緒に、目に宜しくないカラフルな光で彩られた無骨な筐体の前で、缶ジュースを片手に揃ってピースサインをしている懐かしい顔触れ+αの写真が添付されていた。
「弾も数馬も変わってないなぁ。あら珍しい。蘭もいるじゃない」
「一夏さん、今日はカデンソンさんとご実家の方に帰られてるんですわよね?」
「そうよ。ついでに弾の家でごはん食べてくって言ってたけど、まぁ、この3人が集まったら、それじゃ済まないわよねぇ」
一夏、弾、数馬、そしてアタシ。勿論他にも交友関係はあったが、それでもアタシの中学時代の思い出の殆どが、この4人のメンバーで構成されていると言っていいし、それは一夏もそうであるハズだ。事ある毎に、いや、何もなくたってアタシたちは自然と顔を突き合わせては下らないことに一緒に一喜一憂していたような仲なのだから。
「この赤髪の方のご実家、ですか?」
「そ。定食屋って言って解る?」
「まぁっ!! それはもしや、噂に聞く日本食のレストランではッ!?」
「レストランなんて高尚なもんじゃないけど、まぁ、そうね。お金出してごはん食べるお店」
うぅむ、思い出したら『あの野菜炒め』が食べたくなってきてしまった。
「あぁ~、やっぱアタシも行けば良かったかなぁ~」
「あら。今からでも、遅くはないのでは?」
「今からじゃ許可が降りても夜になっちゃうじゃない。それに」
本当は最初、アタシも一夏に誘われていたのだ。「今度の日曜、外出許可貰って、家を掃除してくるついでにカデンソンさんと弾のとこにメシ食いに行く予定なんだけど、お前もどうだ?」ってな感じで。カデンソンさんがいるのはちょっぴり引っかかったけど、嬉しかったし、割と乗り気でもあった。でも、結局アタシは断って、いつも通りのトレーニングに費やすことにした。理由は、至極単純で。
「
アタシと一夏が全力でかかっても完全には勝てなかったあの無人機を、
“黒猫”の行方は依然として不明。どのような経路で侵入、脱出したのかも一切解っていない。目的は恐らく“あの無人機の回収あるいは破壊”だったのだろうとは思う。だがあの無人機、“零落白夜”がいい感じに決まった
一体あの無人機は何故、真っ先に一夏を狙ったのか。こちらの会話に耳を傾けるように沈黙していた理由は。そもそも、どこの誰の仕業なのか。そして。
(それをいつ、どこから、どうやって嗅ぎ付けてきたのよ、アイツ)
そんな、何の前触れもなく起きたはずのあの襲撃現場に、何故“黒猫”は居合わせることが出来たのか。その辺りを考え出すと止まらなくなってしまうが、そこはそれ。今はそれよりも。
「こう、さ。燃えちゃうじゃない?」
高く険しい山を見たら、登りたくなるのが登山家だ。素晴らしい食材を見たら、腕を振るいたくなるのが料理人だ。そして、アタシも
「なんかさ、いい感じに、身体に熱が入ってるのよ」
なら、鉄は熱いうちに打つしかないじゃないか。
「羨ましい限りですわ。
「まさかアンタまで“
「結構なんてものではありませんわ。今や世界中に同志がいますのよ? 何でしたら凰さんも今晩から"黒猫"ラウンジに───」
「アーハイハイ、ワカッタワカッタ」
棒読みになりつつも、さっさと話を切り上げる。この手の話になるとセシリアは長いのだ。隙あらば動画や写真なんかで布教してくるし、自分が常連と化している
「そろそろアリーナ借りられる時間だし、引き上げましょう。ほら、連携訓練、したいんでしょ? また後ろから撃たないでよね」
「む。今日こそは誤射をなくして見せます」
「そ。期待しとく」
さて、ISスーツに着替える前に汗を流すとしよう。早めに行かないと、そろそろ休日練習を終えた部活連中で一斉に混みあう時間帯であることだし、ね。
「あらぁッ、一夏くんじゃないッ!! 元気だったのぉ!?」
「おぅ、一夏じゃねぇか!! 今日はどうした!? またぞろ大勢連れ歩いてからに!!」
「ど、どうも。久し振りです」
「コロッケ食べてきなさいコロッケ。メンチもいいわよ。今日はおまけしたげる。ね?」
「今日はいいイワシが入ってんぞ!! つみれにすりゃ安い小ぶりのでも関係ねぇ!! 持ってくか!?」
「あ、はい、頂きます。あと、おじさん。俺、今日は買い物に来たわけじゃないから」
駅前のアーケード商店街に足を踏み入れた途端、皆が皆こんな感じだった。やれ『これ食え』『これやる』『これが美味い』だのと次々に勧めるし持たせるし食べさせてくる。無理もない。ここは一夏が小さい頃からずっと利用している店ばかりで、殆どの人が顔馴染み。特に年齢が高めの人たちは自分の子どもや孫のように接してくれる人ばかり。それが証拠に、一夏自身はここに来てから照れ臭いのだろう、居心地が悪そうに肩をすくめ猫背気味に縮こまったような姿勢で控えめな応対を繰り返していた。
「いや~、やっぱりゲーセンは実力の近いヤツと一緒に来るのがいちばん楽しいわ。鈴のヤツがいねぇのがホント悔やまれるなぁ」
「"Box Breaker"の新ステージ、ホント爽快だったなッ!! やっぱ"Insomnia"の2人は
「……ほら、な?
「ゲームやってる時の数馬は、ホント活き活きしてるよな」
「そうかッ!? そうだなッ!! 最近じゃハイスコア出してランキングに載るのが生きがいと言ってもいいッ!! しかもカデンソンさんの奢りだったから一層楽しかったッ!!」
本当に久し振りのゲームセンターでは、時間を忘れて随分と熱中してしまった。自分でも相当娯楽に飢えていたんだなぁと実感する。受験時期も含めると、最後に遊んだ記憶は1年近く前だったからなぁ。少なくとも夏には夏期講習なんかで娯楽施設から自主的に距離を置いていたし。
『男に二言はない』『今日はオイラが君たちのお財布だ』そんなことをカデンソンさんが言っちゃったものだから、日頃少ないお小遣いをやりくりして資金を絞り出しながら遊んでいる男子高校生2人が
で、『小腹が空いた』と弾が言い出したので、馴染みの店の多いこの商店街に移動することと相成り、こうして羞恥心の包囲網を敷かれている訳である。幼少期からの知り合いがいるところに、最近できたばかりの知り合いを連れて来た時の、この気恥ずかしさは何なのだろうか。むずむずして仕方がない。
「相変わらずあの肉屋のコロッケは美味ぇな。あ、数馬。その使いさしのソース取って。使い切っちまうから」
「ほい。メンチも美味いなぁ~……偶に母さんが『今日は手抜きだ~』って買って帰ってくるんだけど、地味に嬉しかったりするんだよな」
「ちょっとお兄、あんまり食べ過ぎないでよ? 晩ご飯入らなくなっても知らないからね?」
「お袋かお前は。いいんだよ、あんだけ身体動かしたら
「私はいいのよ、ちゃんと色々考えてるんだから」
「ホントかぁ~?」
「あ~、懐かしい。このサクサクの衣とホクホクの芋の味。シンプルにしてベストマッチ」
ベンチに並んで腰かけ、紙袋越しに手掴みでコロッケやメンチカツにかぶりつく男子高校生's。それを見てほんのり唇を尖らせながら、パン屋で貰ったパン耳ラスクをポリポリしている蘭と、その隣で同じくポリポリしている
(あぁ。やっぱりいいなぁ、この感じ)
唇についた油やソースを舐め取りながら、姦しくしている友人たちを見て、一夏はしみじみ思った。年度末にホテルで
「ふぅん。やっぱり昔から凄かったんだ、一夏くんは」
「そりゃあもう。何通のラブレターを
「泣くな弾、俺もつられて悲しくなるから……」
くぅ~ッ、と苦虫を噛み潰したような皺くちゃの表情で涙を流す弾と、その肩を俯きながらポンポンと叩く数馬。
「そんなこと、ない、と思うんだけどなぁ」
「あっ、その、えっと……」
否定の言葉を求めて蘭へと視線をやるが、苦笑いで言葉を濁すだけ。そんな反応されるとどんどん自信がなくなってくるんだけども。
「自分で言うのもアレですけどね? 俺だって結構イケてる方だと思うんですよ。でも
「おい弾ッ!? それは初耳だぞッ!?」
「お兄ッ!?」
「アッハッハッハッハッ!!」
俺と蘭が揃って奇声を上げているのを他所に、『うんうん』と力強く頷く数馬とがっちり肩を組む弾。そんな俺たちを見て抱腹しているカデンソンさんは、目尻に涙まで浮かべていた。
「なぁるほどねぇ。篠ノ之さんとのやりとりを見た時からそんな気はしてたけど、これは予想以上だなぁ」
「篠ノ之、って、コイツが小学生の時の幼馴染、なんでしたっけ?」
「そうそう。綺麗な黒髪でスタイル抜群の大和撫子。最近じゃあ英国淑女に活発チャイナガールまで参戦したからね。傍から見ていて飽きないよ、ホント」
「あぁ~、目に浮かぶようだ~」
今日1日で一気に意気投合した弾とカデンソンさんは、既に連絡先の交換まで済ませたらしい。どことなくからかう時の悪戯っぽい笑顔の雰囲気も似ているし、何となくそんな気はしていたけれど、まさかここまで打ち解けるとは思っていなかった。
「…………」
と、何やら蘭からジトッと湿ったような視線を感じ取る。“かじぇぼっと”のぬいぐるみを両手で強く抱きしめ、顔を埋めて両目だけでこちらを覗いていた。思えば昔から、俺の
「篠ノ之さんとは一時期同じ部屋でもあったんだけどねぇ」
「同じ部屋ッ!?」
「へぇ。期間はどれくらいです?」
「ついこないだまでだから、大体2ヶ月くらいかな?」
「2ヶ月も同棲生活ッ!?!?」
破廉恥な、などとでも思われているのだろうか、出てくる単語に一々大仰に驚いて声を上げる蘭。いやいや、同棲じゃないからね。
「マジっすか。いや、女子しかいないんならそんなことも有り得るんでしょうけど」
「実際、周りに女の人しかいないっていうのは結構キツいよ? 何が彼女たちの癇に障るか、解ったものじゃあないからね。オイラも結構気を付けてる積りだけど、実際にはどう思われていることやら」
「あぁ~……男女って何気ないところで価値観全然違いますもんね。なんか怖いなぁ」
そんな調子であれやこれやと“
「……決めましたッ!!」
「んお? 何だよいきなり。蘭、どうした?」
前触れなく張り上げた大声に、その場にいたポカンと全員が視線を向けた先で。
「―――私ッ、来年ッ、IS学園を受験しますッ!!」
「「「……はぁッ!?」」」
彼女が更に俺たちをポカンとさせるようなことを言い出したのは。
補足説明
・"ボックスブレーカー(Box Breaker)"(初出『2』)
その名の通り、“箱を壊す”ガラメカ。ラチェットの基本攻撃であるオムレンチ(でっかいモンキーレンチ)の追加武装であり、地面に叩きつける攻撃を繰り出すと、その衝撃波で周囲の箱含めた破壊可能なオブジェクトを一斉に壊すことが出来る。
ラチェクラワールドでいう“箱”は、言わば“ゼルダの伝説”でいう草や壺であり、壊せば一定量のボルト(ラチェクラワールドのお金)が出てくる。つまり、このガラメカを使うと一斉に物凄い量の破壊音やジャラジャラとお金が集まる音がする。気分爽快。
・"インソムニア(Insomnia)"
本SSの読者であれば最早説明不要であろう。単語の意味は『不眠症』。元ネタはラチェクラ開発元の“インソムニアックゲームズ(Insomniac Games)”。“2人”ってのは誰かって? その内わかるよ、その内。
・"デザートライダー(Desert Rider)"(出典『2』)
「風が頬を撫で、太陽は肌を焼き、虫は歯に巣食う。それが、デザートライダー……」
地表の殆どが砂漠で成り立つ“再開発惑星バーロウ”の、所謂“走り屋集団”。地面から浮いて走るホバーバイクで日夜レースを行い、その合間に皆で集まってクッキーを焼いたり編み物したりしてるらしい。原作ゲームでラチェクラコンビと絡むライダーは、顔はマズいし、息は臭いし、“人に言えない趣味”まであったという。基本的にオラついた態度なのに、ラチェットがちょっと強気に言い返しただけで「ポンポン痛いよ~」と蹲る始末。お前ら、それでいいのか……いいんだろうな、スポンサーがあのサッグ商会だから(白目)
・"ガジェボット(Gadge-bot)"(初出『1』)
原作ゲーム内にてクランクがソロで行動する際に色々と手伝ってくれるお助けロボット。大きな顎があって2頭身の2足歩行型。クランクとお揃いな頭のアンテナがチャーミング。最初は『とまれ』『こい』『たたかえ』『はいれ』みたいな単純な指示しかこなせないが、シリーズ作品が進むにつれて橋を架けたり、大きなハンマーで邪魔なものを壊したりする仲間が増えたりする。クランクが主役の『C&R』ではエージェント姿のクランクに合わせてスーツ・蝶ネクタイタイプの個体が出演、彼らを操作して謎解きするパートまであったりする。
どうも。作者のGeorge Gregoryです。
やっぱり補足説明の欄を書くのは楽しいです。今後もチャンスがあればどんどんネタを盛り込んでいきたい所存。
それでは、また近い内にお会いできることを願って。
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