ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
夕刻。五反田食堂。
「本当に、A判定だったんだ」
「コイツ、いつの間に……」
「ウチの学校は希望すれば身体検査の時に一緒に無料で見てもらえるの。どう? これで文句ないでしょう?」
ふふん、と誇らしげに胸を張っている蘭。目の前には1枚の書類が置かれている。それは、ISの簡易適性試験の結果を示すものだった。
『―――私ッ、来年ッ、IS学園を受験しますッ!!』
『『『……はぁッ!?』』』
その、往来のど真ん中での突然の宣言に、最も驚いていたのは彼女の兄である弾だった。
『お前、IS学園って、そもそも適性がないと実技試験自体受けらんないんだぞ!?』
『適性ならあるわよッ!! 学校で簡易試験受けたものッ!!』
と、そう宣うので確かめさせろ、と一行は五反田食堂へ戻り、蘭は即座に部屋へ直行。この書類を片手に今さっき戻ってきた、というところである。
「お母さん、お爺ちゃん、いいよね?」
「あら、いいじゃない。一夏くん、その時はお願いね?」
「お前が自分で決めたんなら、好きにすりゃいい」
「ちょ、母さんに爺ちゃんまで」
彼の期待とは裏腹に、保護者2人は肯定的な反応だった。蘭の通う私立『聖マリアンヌ女学院』は所謂“お嬢様学校”だ。大学までのエスカレーター式で評判も良く、IS学園とは違った意味で“入れた時点で勝ち組”と世間では目されているほどのネームバリューがある。
「私の成績なら、筆記だって余裕です。お兄とは
「あぁ、もう、なんでこんな時に親父はいねぇんだ……」
がっくりと項垂れる弾を見て、勝ちを確信したように蘭はフンスと一層胸を張った。
「ですので、その時は、是非一夏さんにご指導を、ですね」
「俺? まぁ、今の俺じゃ教えられることなんてあんまりないだろうけど、その時になったらな」
「ほ、ホントですかッ!? 約束しましたよッ!?」
「お、おぅ」
そう言って蘭はグイッと上半身を乗り出して食いつくように距離を詰めてきた。ちょっぴりビックリしてしまって思わず腰が引ける。
「な、なぁカデンソンさん、アンタはどう思うんだ!?」
「弾、何もそんなに必死にならなくても。まだ入れると決まった訳じゃないんだし」
「いや、でも、だけどなぁ」
「何よお兄。アタシがIS学園に行くのがそんなに嫌なの? 可愛い妹と離れたくないのかな~?」
「そんなんじゃねぇッ!! お前、俺が心配してるのはなぁッ!!」
「心配してるのは、何よ?」
「ぬ、その、あぁ~……」
「言えないんなら、お兄は黙ってて」
彼の脳裏に過っていたのは過去、彼女がその性格故に受けた“いじめ”のことだった。普段人前では繕っているものの、基本的にこの妹は曲がったことが嫌いで、思ったことは直ぐ口に出てしまうし、何なら手だって割と出してしまうタイプなのだ。“あの一件”がなければ、両親(特に親父)が心配してわざわざ評判のいい私立のお嬢様学校になんて通わせるようなこともなかっただろう。コイツだって今でこそすっかり回復したが、当時は自分の殻に閉じこもってしまっていたのを忘れたわけではあるまいに。
だが、事情を知る一夏はまだしも、未だ知らずにいる数馬や、今日1日で随分と親しくなったとはいえ初対面のカデンソンの前でおいそれと話題に出せるほど、弾も愚かではなかった。決して、一夏と初対面の時につい話題に出してしまって、後で思い切りぶん殴られたのがトラウマになっている、だとかではない。断じて。
言ってやりたいが言えない。そのもどかしさが、フルフルと震えながら宙を泳ぐ両手の動きに表れていた。反対されたのが余程気に食わなかったのだろう、蘭はすっかりと不貞腐れて顔を背け、一夏に『約束、絶対守って下さいよ』なんて念押しまで始めている。数馬は、そんな弾の心中を流石に察しきれはしないものの、彼の人柄はよく知っているので、ちゃんとした理由もなく言っている訳ではないんだろうなぁ、と心配そうに視線を向けていた。片や一夏は弾の様子を不思議そうに見てはいるものの、学園に身内が増えること自体は喜ばしく感じているようで、『安請け合いしちゃったかな』などと考えつつ割と歓迎ムードに傾いていた。すっかり弾を除いてその場にいる全員が賛成しているものだと、そう思っていた。
「ン~……個人的には、賛成しかねるかなぁ」
唯一、回答を示していなかったカデンソンが、そう言ったのだと認識するまでは。
「―――え?」
「カデンソンさんッ」
この場で唯一、学園の関係者でもある彼からの否定の言葉がショックだったのだろう、蘭は信じられないものを見る様な視線を向け、対して弾は予想外の援護射撃に『救われた』とばかりに声を張り上げ。
スコォンッ!!
「痛ってぇッ!!」
「テメェ、どういう積りだ……?」
次の瞬間、厨房からすっ飛んできた
「蘭の決意に、ケチつけんのか?」
生半可な理由なら容赦しねぇ。言外の脅迫はその場にいた全員に伝わり、誰もが黙り込んで固唾を呑む。ここまで鶏冠に来ているのはその昔、時間も忘れて遊び惚けてしまい、勝手に夕食も外で済ませて夜遅くに帰宅した時以来なような、なんて弾少年が痛みを堪えながら走馬灯染みた反芻を味わっているのを他所に、
「カデンソン、さん?」
「いや、ね。“決意”ってくらい断固たるものなら、別に止めやしないんだけどさ」
『そんな人じゃない』とこの場にいる誰よりも知っていた一夏は恐る恐るながら先を促し、それに応えるように
「……ふむ、そうだね。蘭ちゃん、1つ質問させてもらっていいかな?」
「何、ですか?」
ピッと立てた人差し指に怪訝そうな視線を向ける蘭。そんな彼女に真っ向から向き合った
「なぁ、蘭ちゃん。君は、ISで何がしたいんだい?」
「―――あっ」
その、どこかで聞いたような質問内容に、一夏は瞬間、目を見開いて、彼が言わんとすることを理解できた。
「何、って」
「謂わば、学園はIS専門の職業訓練校みたいなところだ。基本的には、将来“そういう仕事”に就きたい人が来るところ、っていうのは、解るよね?」
「それは、まぁ」
「勿論、『カッコイイから』だとか、『乗ってみたいから』だとか、ISに興味を持つ入口はその程度でもいいさ。実際、『学園を出てIS関連の職に就けば勝ち組だから』なんて漠然とした理由で入学してる娘もいるくらいだしね」
両手を腰にやり、思い出すように視線を斜め上に向けて、
「君は成績も良いようだし、中等部で生徒会長もやってるんだってね。なら、内申点も問題はないだろう。でもね、敢えて強い言い方をさせてもらうけれど、
「ッ」
「何せ、世界中から選りすぐられたエリートたちが、あそこには集まってる。君には、彼女たちに負けない何かが、劣らない何かがあると、胸を張って言えるかい?」
「そ、れは」
そこで初めて、蘭の強気な視線が
「誤解しないで欲しいんだけどね、君を否定したい訳じゃあないんだ。ただ、君は“IS”というものを軽視しているように見えたから」
「軽視、ですか?」
「うん。まぁ、今の社会じゃ、無理もないことなんだけど、さ」
ふぅ、と肩を落としての嘆息。そこには、自嘲のような、自責のような、そんなマイナスの感情が仄かに混じっているように思えた。
「店長さん。そのお歳なら、貴方は
「あ? 何のことだ?」
言われた意味が解らずに厳老人は眉を顰め。
「ちょっと考えてみようか、蘭ちゃん。今、この世界で、
「―――ッ」
直後、それが理解に変わった瞬間、彼は大きく息を呑んだ。
「非常、事態?」
「例えば、消防隊や自衛隊でも救助できないような危険な場所に、人が閉じ込められたとしたら?」
「……あっ」
「例えば、国籍不明のISが都市部に現れて、民間人を巻き込んで見境なく暴れ出したら?」
「…………」
「例えば、
「……………………」
「考えすぎ、だと思うかい? でも、ISには少なからず
それには、ひょっとすると今この世で誰よりもISに触れているかもしれないこの人だからこその
「意地の悪いことを言ってゴメンね。でも、考えて欲しいんだ。考えないままで、いて欲しくないんだ」
その力ない微笑みを、この場にいる誰が否定できただろう。
「別に入学そのものに反対している訳じゃないんだよ? よく考えて、考えて、
そう言って懐からスッと取り出したのは、無地のチタン製の名刺入れだった。そこから抜き取り、差し出された1枚を、腫れ物に触るようにゆっくりと伸ばした指先で受け取る。たった1枚の紙切れなのに、とても重く、分厚く感じられて。
「勿論、それでも「そんなの知るか、少しでも傍に行きたいんだッ!!」って言われちゃったら、それまでなんだけどね?」
「~~~~ッ!!」
そのままの至近距離で、先ほどまでの重苦しい空気が嘘のようにニッコリと破顔しながらの言葉に、悶絶させられる。
「……ん? 『傍』って、誰のだ?」
「「唐変木はお口にチャックッ!!」」
「唐変木ゥ!?」
思わず口から漏れた一夏の言葉に、弾と
「空気を悪くしてすみません。今日は、これでお暇します。弾くん、数馬くん、1日ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。楽しかったっす」
「色々と、ごちそうになりました」
「俺も今日はもう帰ろうかな。また来るよ。次は鈴も連れて」
「おぅ。……あ、そうだ。
「はいはい、わかったわかった」
深々と頭を下げ、今日1日を共にした2人と順番に丁寧に握手していく
そうして店の前、揃って遠ざかっていく2人の背中を視えなくなるまで見送ってから。
「……いい人だな。初対面のガキ相手に、マジになって説教してくれるなんてさ」
「……うん」
「
「うっさい。お兄の癖に」
「ほら。メシ食おう」
「うん」
「俺も、晩メシご馳走になって行こうかな~」
「お前は帰れよ。空気読め、バ数馬」
「なんでだよ。こちとら客だぞ~?」
「何してんですか、もう」
そんな会話があったとか。なかったとか。
「いけないねぇ。歳をとるとつい説教臭くなっちゃって」
「……カデンソンさん」
「ん? 何だい?」
「知ってるんですか?
「……まぁね。これでも
「いえ、聞きたい訳じゃなくて。俺、今まで皆に追いつくのに必死だったけど、ISのこと、まだまだ全然考えられてないんだな、って」
さっきの言葉は俺にも深く刺さった。まだ
「なぁに。時間はたっぷりあるんだ。急ぐ必要はないさ。まずはちゃんと卒業できるように、しっかり勉強に励みたまえ、高校生」
「なんですか、それ」
帰り道、既に日はとっぷりと暮れ、立ち並ぶ電柱の明かりがポツポツと道なりに続いている。ついこないだまでは毎日のように通った家路を、しかし今は逆の方へと
「と言っても、しばらく君にはそんな暇もないかもしれないけどね」
「? どういう意味ですか?」
「明日になればわかるよ。嫌でもね」
「……なんか、今日はテンション高めですね?」
「おっ? 解るかい?」
クルッと首だけをこっちに向けて、いつもの歯をむき出しにしたニヤッて感じの笑顔。でも、今日は悪戯っぽさより、純粋な嬉しさの方が多いような、そんな風に見える。
「久し振りにね、“家族”と一緒に暮らせることになったんだ」
「家族、ですか?」
「あぁ。それが今から楽しみでね」
ん? どういう意味だろうか? 日頃カデンソンさんは整備管理棟の管理人室で寝泊まりしてるけど、本来寝泊まりする為の部屋は教員寮に借りていると前に聞いたことがある。その教員寮は独身寮でもあったはずで、誰かと同居したりは出来なかったような気がするが。
学園の近くに新しく部屋でも借りて、近々そこに引っ越すのかな。そんな風に取りあえず結論付けて、珍しく鼻歌なんかを口ずさみながら先を行く
――――そして、その翌朝。俺はそれを、ちょっぴり後悔することになる。
月曜朝のSHR。教卓の前に並んでいるのは『今日からクラスの仲間になることになった』と言って、織斑先生が偏頭痛を堪えるようにこめかみに手を当てながら苦渋の表情で紹介した“3人”の転入生。
「―――シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」
「「「「「――――きゃぁあああああああああああああああああああああッ!!」」」」」
1人目は、綺麗なお辞儀と微笑みで一瞬にしてクラスメイトたちを虜にした、黄金色の綺麗な髪を首の後ろで丁寧に束ねた中性的な顔立ちの“男子生徒”で。
「―――“アイン”ッ!! 久し振りだなッ!!」
「―――むぐッ!?」
「「「「「――――えぇええええええええええええええええええええええッ!?」」」」」」
2人目は、俺が知っている頃からは想像も出来ないほど長く伸びた銀髪を棚引かせながら勢いよく駆け寄ってきて徐に俺の唇を奪い、クラスメイトたちを絶叫させた眼帯が特徴的な“俺のペンフレンド”で。
そして、3人目。
「お初にお目にかかります。整備課志望の、“クロエ・カデンソン”と申します。皆様、“お父様”共々、どうぞよろしくお願いいたします」
「―――うぇええええええええええええええええええええええええええええッ!?」
どう見ても“俺のペンフレンド”と瓜二つな顔をした“カデンソンさんの娘さん”が、今日から俺のクラスメイトになるらしい。
一体何なの、この状況。誰か説明してちょうだい。
どうも。作者のGeorge Gregoryです。
大分駆け足ですが、まぁ、許してちょーよ。さ~て、やりたい放題やらしてもらいますよぉ~~~~~~~~ッ!!ガンバルo(>`ω´<)oジョーッッ!!
それでは、また近い内にお会いできることを願って。
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