ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】   作:George Gregory

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リッツのチーズサンドってこんなに旨かったっけ(真顔)


Storm The Front Ⅰ

――――あぁ、あの時か。あの時なら、『阿鼻叫喚とはこのことか』と混沌の極みに陥っている我がクラスの様相を目の当たりにして、心の中で天を仰いでいたよ。

 

 事の発端は、その前の週だったか。新たに学園に転入することになった3人の資料を、学園のお偉方から渡された時だった。

 

『この3人には、全員1組に所属してもらいます』

 

 担任の自分に一切の相談もなしにか、と真っ先に思ったよ。隣で山田くんも唖然とした表情で硬直していた。『一纏めにしてしまった方が把握も管理もしやすい』程度の浅はかな思惑しかないと察するのは簡単だった。それも、その責任も全て私に押し付ける積もり満々なのも、な。以前からバカだバカだと思っていたが、アイツらは揃いも揃って、バカを通り越して愚か者だと、それ以上下がるまいと思っていた評価が下限値をぶち抜いた瞬間だったよ。

 

 本当に、あのサルどもは私を(てい)のいいトラブルバスターか何かとしか思っていなかったんだろうさ。あの頃の私は、それで一層アルコールの摂取量が増えてしまって、あの歳をして次の健康診断を真剣に心配していたように思うよ。部屋を空き缶だらけにする度に、掃除に来た一夏に叱られたっけな。

 

 ……今だから言うが、いくら“戦乙女”と持て囃されようが、私も所詮アイツらの倍も生きていない小娘でしかなかったんだ。まぁ、今も立派に大人をやれているかと言われれば、うんとは言えないがね。

 

 思えば、アイツらくらいだったよ。私を“戦乙女”ではなく、ただの1人の“教師”として見てくれていたのは。周囲からは『ISなら何でもできるしわかるのだろう』とばかりに次々と押し付けられ、かといって自分を尊敬の目で見てくれる人の前で、おいそれと弱音を吐くなんて真似もできなかった。山田くんには比較的こぼしていた方ではあるが、それでも多少は遠慮していたしな。なんせ、彼女とは候補生時代からの付き合いでね。長くなると信頼している分、“見せられない一面”もそれなりにできてくるのさ。

 

 だがまぁ、あの頃のアイツを怪しむな、という方が無理だった。そりゃあそうだろう。理由を知っている今だからこそ『仕方がなかった』と思えるが、一切の事情を話さないばかりか、ワザとそのように仕向けていた部分もあったんだぞ? それが一夏たちを守る為だったとはいえ……いや、結果論だな。あの頃の私では間違いなく信じなかったし、他の誰にしたって結果は同じだったろう。情けない話だが、()()()()()()()には、その程度の知能しかなかったのさ。それを()()()()()()()()()からこそ、私は束の失望も、暴挙も、結局最後まで本気で諫める気にはなれなかった。正直に言えば、今でも『失望している部分』はある。だがな、これでも、以前よりかはずっと、マシに思えているんだよ。

 

 フム。お前、なかなか酒に強いようだな。よし、今夜はとことん付き合え。取材の資料ならレコーダーの電源を入れておけ。話せる限り話してやる。

 一夏たちとも飲みはするが、いかんせんアイツらの飲みは健全でな。偶には潰れるまで思い切り飲みたいんだ。なぁに心配するな、金なら出す。良かったな? 私と一晩中サシ飲みなんて、いくら金を積んでも出来ないヤツが大勢いるような贅沢だぞ?

 

 店主、芋は何がある? ……黒霧島の20度? また随分と珍しいものを、というかどうやって仕入れた? あれは宮崎でしか……まぁいい、それをお湯割りで2つ。ツマミは適当に任せる。

 

 さて、どの辺から話してやろうか。取りあえずは、そうさな――――

 

 

 

 

 IS学園、職員室にて。

 

「……織斑先生。大丈夫、ですか?」

「……えぇ。これは流石に少々、腹に据えかねますがね」

 

 今の我々はさぞ“近寄り難いオーラ”を帯びていることだろう。常日頃から温和で通っている山田先生でさえ、その顔に翳りを落として憔悴している。とはいえ、ここで何をどう吐き出したところで現状が変わる訳もなし。改めて来週から新たに教え子になるという3人の資料に目を通した。

 

 1枚目。フランスで新たに発見された“2人目の男性操縦者”Charles Dunois(シャルル デュノア)。彼は何の偶然かあの“デュノア社”の御曹司。これだけで既に『何かある』と言っているも同然であるが、それにしては添付されているこの『専用機の管理を学園の整備管理課に一任する』という()()()()()()()誓約書と、 “フランス政府検閲済み”とされている()()()()()()プロファイリング資料が気にかかる。何にせよ、コイツは()調()()だろう。

 

 2枚目。ドイツからは、今は名高き特殊部隊“黒兎隊”の名物少佐、Laura Bodewig(ラウラ ボーデヴィッヒ)。遅かれ早かれ()()()()とは思っていた。何せ姉弟揃ってコイツの人柄はよく知っているので、彼女自身には何の心配もしていない。むしろ()()()()()心配ではあるのだが、その辺は当人たちの問題なので放っておくのが精神衛生的にも賢明だろう。というか放っておく。

 

「織斑先生。この娘は、一体」

「……」

 

 そして、3枚目。Chloe Kadenson(クロエ カデンソン)。なんせ職員室は彼女の話題で持ち切りだった。

 IS学園整備管理課主任、Alister Kadenson(アリスター カデンソン)の“娘”。今までそのプライベートの一切が謎に包まれていた彼に関する、大スクープである。噂は一瞬にして職員全員に伝播。特に日頃刺激的なゴシップに飢えている『妙齢のご婦人方』には()()()()()()で、新聞部の黛辺りも聞きつけたなら喜び勇んで飛びついてくることだろう。再三にわたる厳重注意でどうにか()()を職員内に留められたのが信じられないと思ってしまうほど鮮烈なニュースだった。

 が、山田先生が気にしているのは、どうやらそこではなく。

 

「“生体同期型のIS”なんて、私、初めて聞きました」

 

 資料によれば、生来の虚弱体質をISの生命維持機能でもって補っているらしい。全盲のため常に瞼を閉じており、ハイパーセンサーによって視界を補っているので日常生活に支障はない、ともあるが、正直《眉唾もの》だった。

 

「個体名"黒鍵"。開発企業は……“Great Clock Company(グレートクロック社)”? 山田くん、知っているか?」

「いえ、私も全く。最近アメリカ国内で有名になりつつある新進の企業のようで、主に医療器具の開発を手掛けているとか。かなり優秀な技術者がいるみたいですね。えっと、主な商品は……"Crotchitizer(マタグライザー)"? 何でしょう、これ?」

 

 ふむ、俗にいう“ポータブルトイレ”というヤツか。中にはポケットに入れて持ち運べるものまであるようだ。他にも“Nano-Tech(ナノテック)”とかいう栄養ドリンクが人気商品らしい。飲んだ直後は体力が倍増したように元気が湧いてくるとか……これ、合法なのだろうな? ちなみに“プラチナ”だとか“スーパー”なんて単語が頭につく上位互換があるとか、どうとか。

 

「医学的視点からのIS開発、とのことで世界的にも注目を浴びているようです。開発元の代表からも“最新の研究資料が集まる学園なら()()()があった時にも直ぐに対処出来るだろうから”と」

「所在地はカリフォルニア州バーバンク。カデンソンと同郷の企業、か。偶然とは思えんな」

 

 いよいよもって、アイツには本腰を入れて色々と話してもらわねばなるまい。何せ家族を預かるのだ。何かがあってからでは遅い。身体的な不利を抱えているのなら、尚のことだ。

 

「でも、私、ちょっぴり楽しみです。どんな娘なんでしょうか、カデンソンさんの娘さんなんて」

「整備課志望、というのも実に()()()な。微笑ましさすら覚えるよ」

 

 そうは言いつつも、気になるのはやはり彼女の外見。カデンソンとの年齢差を踏まえると、随分と若い頃に()()()()()ことになるし、似ても似つかない顔をしている。『母親似だ』と言われればそれまでであるし、“血の繋がりはない”という方がむしろ納得できる。それよりも気になるのは。

 

「随分と、ボーデヴィッヒに似ている」

「そうですよね。世界には自分にそっくりな人が3人はいるって言いますけど、まさかこんな偶然があるなんて」

 

 人の好い山田くんは素直に信じているようだが、私はそうとは思えない。“ラウラの出自”を知っているからだ。なればこそ、この2人が“赤の他人”だとは、とてもじゃないが信じられない。

 

(出会った時、ラウラ(アイツ)が一体どのような反応をするか)

 

 今や私にとっても()()()()()であるあの娘が、万が一でも『一夏と出会う前』に戻ってしまうようなことがあったなら。そう考えると、気がかりでならない。だが、()()()()()()()()()()()

 

「一夏……」

 

 確実に容量を超えるであろうこの供給過多に、我が弟がどれほど振り回されるかを思うと、正直気が重い。だが、アイツがこれから経験するであろう苦難を思えば、これはまだ序章に過ぎないのだ。せめてもの抵抗に、と砂糖を多めに溶いたコーヒーを一口飲んで、職員室の窓から空を見上げながら嘆息を1つして――――

 

 

 

 

 そして、現在。

 

「アインッ!! ずっと、ずっと会いたかったぞッ!!」

「ラウラお前、なんでこんなところにッ!?」

「一夏ァッ!! おま、お前、今、き、キッスをォッ!?」

「いや、箒、これコイツの挨拶だからッ!! 海外じゃ挨拶でキスなんて珍しくもないだろッ!?」

「むっ。別に誰にでもするわけじゃないぞ? 口と口は、お前とだけだ。お前だからするんだ」

「ラウラはちょっと黙っててくれッ!! 嗚呼ッ!! クラリッサさんまた何か変なこと教えやがったなァッ!?」

「あらあらまぁまぁッ!! 何か素敵なお話が聞けそうですわね!!」

「え、えっと……僕、どうしたらいいのかな、これ」

「そのままでよろしいかと。1時限目は実技ですので、その準備を始められては? 男性ならば、用意するのにも色々と手間がかかるでしょうし」

「う、うん。……なんか、随分と冷静だね、カデンソンさん」

「賑やかなのには慣れてますので。織斑先生、そろそろ場を仕切らねば、授業の進行に差し障ります。号令を」

「――――あぁ、そうだな」

 

 この散々たる状況下で最も自分を慮ってくれているのが、最も自分を悩ませるだろうと思っていたこの娘であることになんとも複雑な感情を覚えつつ、未だ落ち着く気配のないコイツらにどのようにして()()()()()()()()()()()、と私は考え出すのだった。

 




 サブタイトルの元ネタ
『ラチェット&クランク5(PS2/PSP)』のスキルポイント
“ストーミーファイト(Storm the Front)”
 惑星クアドローナにてボス戦前の雑魚ラッシュゾーンを1:45以内でクリアすると入手可能。雑魚の体力が結構高めなのでしっかりガラメカを強化してないと難しそうだが、雑魚一掃後にステージをもう1度最初から回れば入手できた記憶があるので、実は達成自体はそんなに難しくはない。

 補足説明

・“グレート・クロック(Great Clock)”(出典『FUTURE2』)
 以前にも少し紹介しましたが、改めて。なまら簡単にどんな施設なのか、その建造までの経緯を含めて説明をしますと。
1、嘗てラチェクラワールドで時空を司る種族“ゾニー”が、フォンゴイドという種族に時間遡行の力を与えた。
2、フォンゴイドはその力を使って都合の悪い出来事を次々に修正しまくり、タイムパラドックス(過去を変えたことによる現在への“修正”)が大量発生。それが原因で巨大な“時間の亀裂”が発生し、全宇宙を呑み込んで消し去ろうとする。
3、そこでゾニーが宇宙の真ん中に“グレート・クロック”を建造し“時間の亀裂”を食い止め、その後全宇宙の“時間異常”を観測しながらそれが“亀裂”になる前に修正、未然に食い止め続けている。

 とまぁ、かなり重要な場所なのです。当然ながら、シナリオ中にその管理権限が色んなヤツに狙われまくります。そして、本編内でその管理者として登場したのが、事実上クランクの『父』にあたる“オーバス”という人物なのですが、この辺はまたいずれ。


・“マタグライザー(Crotchitizer)”(初出『2』)
 原作プレイ済みの皆様にはお馴染み、しかし詳細までは知らないであろうこのガラメカ。一応、原作の資料や海外のファンサイトなんかを見る限りは、本当に簡易トイレらしいです。……ただ“別の使い方”が出来るってだけで。はい。具体的には『Self-pleasure』って言う(いい子は翻訳したり辞書引いたりするんじゃないぞッ!! いいなッ!?)

 どうも。作者のGeorge Gregoryです。

 一人暮らしだとカレー・シチュー・豚汁の鍋1つで済ませられる献立のヘビロテになりがちです。食うのが自分だけだと料理は特に手抜きがち。……それでも必ずあめ色玉ねぎは作りますが(時短テクニックは使う)

 修理サービス業5年目にして初めて技術職の後輩ができて、スケジュールもさながら忙しさ割り増しって感じです。流石に先日までみたいな連日更新は難しそうですが、投稿し始めの頃みたいに週1に、できたらいいなぁ(希望的観測)

 それでは、また近い内にお会いできることを願って。

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