ラチェット&クランク:インフィニット・ストラトス 【Ratchet & Clank:Infinity Sphere】 作:George Gregory
『1年1組に転入生が3人も来た』
その噂は瞬く間に学園中に広まり、当然ながらアタシのいる1年2組にも直ぐ様舞い込んできた。
1人目は、フランスで新たに見つかったという『2人目の男性操縦者』。まるで絵本の中の王子様を彷彿とさせる金髪の美男子だという情報に、まだ見てもいないにも関わらず、我がクラスの女子連中は既に浮き足立っていた。
そして2人目はなんと、あのカデンソンさんの娘さんだという。今すぐに、という訳では無いにせよ、これは是非ともご挨拶せねばなるまいと、この時は精々その程度にしか思っていなかった。3人目であるドイツからの転入生が、いきなり
そして、都合よく1時限目が1組との合同実技なのを思い出したアタシはちょいと早めにアリーナで待ち受けて、『一体どういうことなのよッ!?』と思い切り怒鳴りつけてやる積りでいた。そう。そうしようと思っていた。
「……一夏、大丈夫?」
「大、丈夫に、見えるん、なら、眼科に、行った、方が、いい」
「そうよね。ゴメン」
髪はぼさぼさ。汗はだらだら。息は乱れに乱れ、ひぃふぅと肩を上下させながら両手を膝についての疲労困憊。その見るからにボロボロの風体に、さっきまでの怒りよりも憐れみの方が勝ってしまった。
聞けば、今朝の
「ご、ゴメンね、織斑くん。僕のせいで」
「いやいや、デュノアさん、見た感じ、随分と、華奢だし、流石に、初日で、
「あぁもう、アンタは黙って
「えっ? ……あっ、あ、ありがと、う?」
「疑問形にしない」
ふぅ、とため息1つ。謙遜は美徳だが、何事も過ぎれば毒だ。これだから『紳士』って人種はどうにも苦手である。
一夏は俯いたまま、返答として持ち上げた右手でサムズアップしながら微笑んでいた。それを見てデュノアは複雑そうながらも笑顔を返している。
「ほら、そろそろ整列。予鈴が鳴ったら問答無用で出席簿が飛んでくるわよ?」
「うぉ、やべ」
「出席簿が、飛んでくる?」
言われて思い出したのか、顔を跳ね上がらせて仁王立ちしている千冬さんの元へ駆けていく一夏と、まだあの凄まじい破壊力を目の当たりにしていないのだろうデュノアが不思議そうに首を傾げつつその後をついていくのを見送って、アタシは再度ため息を吐きながら自分のクラスの列へと戻る。なんかもう、アタシの一生分の幸せとか、もうとっくの昔に吐き切ってしまったんじゃないかってくらい、ここに来てからため息ばっかり吐いてる気がするのが複雑でならない。そして。
(……あの銀髪眼帯の娘か。一夏とどういう関係なのか、後でしっかり聞かせてもらわないと)
そんな一夏へ、キラキラした視線と満面の笑顔でブンブン手を振りながら「アイン~ッ!!」なんて叫んでいる、ひょっとすると自分よりも小柄かもしれない少女を横目に見ながら、アタシは『面白くない』と唇を尖らせるのだった。
「まさか、あんな大胆な娘だったなんて……」
IS学園1年1組副担任教師、山田摩耶は、第1アリーナAピット内にて、授業で使う訓練機の最終動作チェックを行いながら、今朝の職員室での転入生たちとのやりとりを思い出していた。
『今日からお世話になります。シャルル・デュノアです。よろしくお願いします』
『本日付でこの学園に転入生致します、ドイツ軍“黒兎隊”所属、ラウラ・ボーデヴィッヒです。ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い致します』
『クロエ・カデンソンです。父のアリスター共々、よろしくお願い致します』
それぞれ、軽く会釈するように微笑みながら、キリッと表情を引き締めて敬礼と共に、そこまでしなくてもと思うほど深々とお辞儀しながら、という個性豊かな、しかし3人ともとても礼儀正しい挨拶をしてくれて、最初に思っていたほど大変にはならなさそうだと感じた。だが、その3人の顔をぐるりと見回した後で、織斑先生は徐にボーデヴィッヒさんの正面に立ち、目線を合わせるように少し屈んだかと思うと、このように言ったのだ。
『いいか、ラウラ。解っているだろうが、ここは『IS学園』であり、私はここの教師だ。お前もTPOに則って、生徒として
『はっ。了解しました』
それを見て、そういえば、と思い出す。織斑先生は昔、と言っても5年ほど前だけど、
ピッと伸ばした背筋を微動だにさせないまま『気をつけ』の姿勢に移るボーデヴィッヒさんとのそんなやりとりを見て、その時は『注意する必要なんてないんじゃないかな』なんて思っていた。朝のSHRで、彼女がそれまでの規律正しい軍人ぶりが嘘のような満面の笑に変わって突撃、織斑くんに、その、き、キスをするまでは。
「多分、先輩が注意したかったのって、あのキスのこと、だよね」
であれば、全く効果がなかった訳だけれども。きっと、アレがあの娘の『素』なのだろう。注意する、ということは、織斑先生は元々少なからず『ああいう娘』だと知っていたということだし、SHRの時も『あぁ、やっぱりこうなったか』みたいな諦観の表情をしていたから。
「確か、織斑くんも先輩と一緒にドイツに行ってたんだっけ。その時に仲良くなったのかな」
思い当たるとしたら、それしかない。何があったかまでは知る由もないが、あれはただの仲良しと言うような領域はとっくにすっ飛ばしているように見えた。ともすれば。
「ひょっとして、ガールフレンド、だったり?」
少なくとも彼女が織斑くんに向けている好意は、並大抵のそれではない。恋愛ごとに決して聡い方ではない私にだって、それくらいは解る。そもそも、口同士のキスなんて、挨拶でするものではない。
立場上、彼に自由な恋愛はまず許されないだろう。下手な芸能人以上に、世間は過敏に反応するに違いない。でも、彼自身はどこにでもいるような、ごくごく普通の少年だ。少し『自分に向けられている好意』に疎くはあれど、基本的な感覚は同世代の平均的なそれから決して逸脱してはいない。照れなのか、本当に違うのか、SHRの時の彼は否定していたけれど、もし本当に“そういう相手”がいるのなら。
「何か、力になれると良いけれど」
女の子ばかりのこの学園ではなかなか直面することのなかった問題だし、私自身も“そういう経験”には乏しい。けれど、彼の今までの頑張りを知っている。向かい風ばかりの現状に挫けることなく、直向きに努力し続けるあの姿勢を好ましく思わない教師なんて、いやしない。
《山田先生。準備はいいですか?》
「あっ。はい、大丈夫です」
《では、アリーナへ》
そんな風に考えたところでアリーナ内の織斑先生から通信が入り、ふるふるとかぶりを振って気持ちを切り替える。今からは『IS学園の教師』としての振る舞いが求められるのだから、情けないところは見せられない。ただでさえ普段『山ピー』なんて愛称なんだか蔑称なんだかよく判らない
「よろしくね、ラファール」
オリジナルのカスタムを施した訓練機を起動。爪先からフッと木の葉が舞うように宙へ。
そして、私は久し振りに羽を広げ、教え子たちの待つ空へと
どうも、作者のGeorge Gregoryです。
実は今回、出張先のホテルでスマホを使ってポチポチ書いてたんですが、いざ投稿となった時に操作を誤って冒頭部分を消してしまい、即座に書き直していたりします。えぇ、その瞬間、出ましたよね。『2』のラストのクォークみたいな雄叫びが。
ノォォ━━(゚д゚;)━━ッ!!!!
それでは、また近いうちにお逢い出来ることを願って。
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